ひびめも

日々のメモです

筋萎縮性側索硬化症-前頭側頭スペクトラム症 (ALS-FTSD): 改訂版診断基準

Amyotrophic lateral sclerosis-frontotemporal spectrum disorder (ALS-FTSD): Revised diagnostic criteria.
Strong, Michael J., et al.
Amyotrophic lateral sclerosis and frontotemporal degeneration 18.3-4 (2017): 153-174.

 

Revised Strong criteria は、通して読んでおきたかった。

 

背景
筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の中核的特徴は、最終的に死につながる運動機能の進行性の障害であるが、同時に1つ以上の前頭側頭機能障害を呈しうるという認識も、徐々に受け入れられてきている。この考え方は、2009年に発表されたALSの前頭側頭機能障害の国際的診断基準の開発にさかのぼる (Strong criteria)。臨床的、電気生理学的、神経心理学的、遺伝的、神経病理学的な特徴を組み入れたこの基準は、ALSが純粋な運動症候群である可能性も考慮した一方で、Neary or Hodges criteria で定義されるような前頭側頭型認知症と共存することもある (ALS-FTD) ことを認識していた。この基準はさらに、検出可能かつ/または障害をきたしうるほどの行動かつ/または認知症状はあるものの、認知症の診断基準を満たすほどではないパターン (ALS behavioural impairment [ALSbi] および ALS cognitive impairment [ALSci] と呼ばれた) の存在を認識していた。さらに、FTDとして典型的ではない認知症を発症する一部の患者集団についても言及していた (ALS-Dementia)。
Strong criteriaの導入以降、前頭側頭機能障害の幅広さとその影響の理解は大きく前進した。これと同時に、Strong criteriaは社会的認知、言語、記憶の障害や神経精神症状を適切に認識できていないことや、これらの障害が前頭側頭機能障害のスペクトラム障害の表れであることが明らかとなった。このため我々は、ALSと関連して現れうる前頭側頭機能障害の幅広さと重症度を特徴づけるにあたって最も適切な用語として、ALS-FTSD (frontotemporal spectrum disorder) という表現が適切であると考えた。さらに、Strong criteriaは英語以外の言語に適応が難しく、日常臨床現場や臨床試験で十分簡単に実用することができなかった。同様に重要なこととして、ALSの遺伝学の進歩によってALS-FTSDの病理生物学に新たな知見が提供された。以上から、2009年のStrong criteriaを再考するためのコンセンサス会議が2015年夏に開かれた。コンセンサス開発パネルアプローチが用いられ、改定国際ガイドラインの開発に関連するキートピック領域を同定した専門家グループを構成要員とした。コンセンサス会議の3日目の最後に、ラウンドテーブルディスカッションが開かれ、参加者が改定基準のキーパラメーターを入力した。コンセンサスパネルのメンバーは改定基準を立式し、会議の参加者にコメントかつ/または改定を求めた。
ここで、本文献においてrevised Strong criteriaを提示する。この中で、我々はいくつかのキーとなる課題を取り扱った。この中には、研究目的に適するような十分な幅広さを持つとともに、臨床的有用性のためのきめ細やかさをも有する必要があるという認識も含まれた。そのようなものとして、この改訂版基準では、ALS-FTSDを特徴づけるような神経心理学的および神経精神医学的障害の本質を広げること以上に、評価の複雑性または深度に関する3つのレベルを取り入れた: 日常臨床に適用可能な基準 (Level I)、臨床試験の予後層別化に適用可能な基準 (Level II)、ALSのFTSDの本質と程度をよりよく定義うるために研究目的に用いられる基準 (Level III) (図1)。この基準は、意図的に階層化されている。Level Iはベッドサイドで簡単に適用可能であり、統計学的複雑性は低く、実用のための努力はほとんど要さず、ALS集団ですでによく用いられて妥当性も検証されたツールに基づいている。実用のために神経心理学的サポートは必ずしも要さないものの、実際の解釈には神経心理学的サポートが有用である。Level IIIは最も発展的な基準であり、Level Iの中核的要素を含んでいるが、統計学的複雑性が高く、完全に遂行するにはかなりの時間と努力が必要である。幅広いALS集団で検証が行われていない研究ツールが含まれており、研究グレードと考えられるべきである。Level IIは中等度の努力で施行可能であり、臨床試験で適用可能なように作られている。Level II基準もまた、症例発表に含めるための最低限のデータセットを含んでいる。Level Iとは対照的に、Level II基準は、検査パラダイムを評価し、検査を実施し、その結果を解釈するために、神経心理士または発声-言語病理学者の関与を必要とする。

図1. 調査レベルのシェーマ: 改定基準は、臨床現場において迅速かつ簡単に適応できるツール (Level I) から、より研究に適した評価ツール (Level III) を扱えるように幅広くデザインされている。Level II および III は、正式な神経心理学および発声・言語の専門家を必要とし、高い統計学的複雑性を持ち、ALS集団でもっと検証が必要と考えられるような検査も含んでいる。Level II は、臨床試験で利用可能な中間レベルであり、最低限のデータセットとして臨床症例報告にも適切かもしれない。

コンセンサス会議の参加者は、診断アルゴリズムの中核的特徴にも同意し、特に診断軸モデルの使用を部分的に改定または拡張しつつも残すべきであるという合意が得られた。これに従い、改定基準は3つの主要な「診断軸」を継続的に用いることとした。Axis Iは運動ニューロン病バリアントを定義し、Axis IIは認知行動機能障害を定義し、Axis IIIはさらなる非運動症状を定義している。以前含まれていたAxis IV (疾患修飾薬の存在を定義する) については、ALSのFTSDを特徴づけるにあたって寄与していないため、今回の改定基準では省略された。

 

Axis I. 運動ニューロン病バリアントを定義する
ALSの表現型の多様性は幅広く、発症年齢、発症部位、上肢および下肢の関与の程度、疾患進行速度、生存期間などの観点で多様性がみられる。このような多様性の基盤が明らかになるまで、異なる臨床症候群を認識することは有用である。これには、上位運動ニューロン変性が優位なもの (e.g. 原発性側索硬化症 [primary lateral sclerosis, PLS])、下位運動ニューロン変性が優位なもの (e.g. 進行性筋萎縮症 [progressive muscular atrophy, PMA])、UMNおよびLMN変性が組み合わさった最も高頻度な表現型 (すなわちALS) といった分類方法や、主に障害される神経解剖学的領域に基づくもの (e.g. 進行性球麻痺 [proressive bulbar palsy (PBP)])、左右差の有無に基づくもの (e.g. monomelic amyotrophy や flail arm/leg amyotrphic diplegia) などがある。

AxisI-1. 診断基準: Strong criteriaの原版の発行から、ALSの診断に必要な最低限の基準に関する数多くの議論が起こった。特に、LMN機能障害の診断に活動性脱神経の存在が必要なのかという点に関する議論は目を引くものであった。Strong criteriaの原版では、ALSの診断にEl Escorial criteria (revised) を用いることを推奨した。この中で、遺伝子検査を組み入れるとともに、UMNおよびLMNの機能障害を同定するためには、臨床的および電気生理学的なマルチモダリティアプローチが推奨されるようになった。神経画像研究は、構造的病理が診断可能性として考慮される場合には貢献的であると考えられたが、そうでない場合は基本的に研究ツールとみなされた。この基準はさらに、所見を説明可能な他疾患が除外されることを必要とした。この文脈において、ALSの診断は、多髄節性のLMN変性の存在を臨床または電気生理学的基準によって確認すること、およびUMN障害を証明すること、進行があること、を組み合わせることを必要とした。なお、ALS原因遺伝子の変異が存在する場合については、単一髄節における進行性の上位または下位運動ニューロン機能障害であっても、診断に十分な根拠とみなされるようになった。
ALSの診断の遅れ、およびそうした遅れが治験参加を妨げている可能性に関しては、数多くの議論が発生した。ここから、ALSの完全な症候群を未だ呈していなくても潜在的にALSとなりうるような患者も含めて、臨床研究や治験にできるだけ多くの患者を参加させることを目的として、代わりとなる診断アルゴリズムが考案された。Awaji criteriaは、2006年のコンセンサス会議を踏まえて発表されたもので、revised El Escorial criteria に2つの根本的な変化を加えた。1つ目の変化は、LMN機能障害の存在を決定するために、筋電図と臨床データの両方を同時に用いるようにしたことである。たとえば、三角筋のLMN病理の証拠とともに、尺骨神経支配のC8筋の萎縮があれば、1つの肢/領域が障害されていることを主張してよいこととなった。2つ目の変化は、fasciculation potentialsを進行性脱神経の証拠とみなしてよいとしたことであり、fibrillation potentialsと同等の重要性を置いた。進行性脱神経の証拠にfascicultaion potentialsを用いてよいかについての議論も起こったが、unstable and complex fasciculationsの意義については十分な合意が得られた。Awaji criteria は revised El escorial criteria よりも高い感度と同程度の特異度を有していることが示され、特に球麻痺発症や四肢発症患者での診断的有益性が高かった。しかし、感度の向上が得られたのは主に、El Escorial criteria の2つのカテゴリ (probable および laboratory supported probable) を統合して単一カテゴリにしたことによるものであった。また、Awaji criteriaで診断カテゴリに 'possible' を導入したことは、ALS、特に四肢発症サブグループの早期診断を向上させせた。
より最近には、El Escorial criterial は幅広いALS表現型を取り入れるためにさらに改定された。改定されたイテレーションでは、ALSの診断には最低限、UMNおよびLMNの進行性の障害が少なくとも1つの肢または領域で存在すること (以前のpossible ALS)、または臨床症候で確認された (1領域) かつ/または EMGで確認された2つの身体領域 (球、頚髄、胸髄、腰仙髄で定義される) のLMN障害 を必要とした。EMG所見には、(慢性) 神経原性変化 および fibrillation potentials かつ/または sharp waves が必要とされた。このスキームでは、ALSの表現型は PBP、flail arm および flail leg syndrome、PMA、PLS に限定された。なお、flail arm および flail leg syndromes は、PMAと同様にUMN障害がなくても診断可能な病型である。しかし、Ludolph (2015) らによって提唱されたこのEl Escorial criteriaの修正版は、いまだ縦断的研究で妥当性が示されておらず、特に純粋なLMN症候群をALSと等価に扱うことの妥当性については議論が残っている。
ALSの診断および進行モニタリングにおけるバイオマーカーの役割は進化を続けているが、最近でも前頭側頭機能障害の存在に特異性が証明されたマーカーは現れていない。したがって、高分子量ニューロフィラメント、リン酸化タウ、TDP-43、APOE ε2、βアミロイドなどの脳脊髄液または血液中の数多くのバイオマーカーが、前頭側頭機能障害の有無にかかわらずALS患者の診断ワークアップに有用な可能性はある一方で、これらはLevel Iの診断ワークアップに組み入れることができるほどのものではない。さらに、CSFのプロテオームプロファイルは、独立して用いられてもMRIなどの多様な検査と組み合わせても、診断におけるバイオマーカーの利用の感度および特異度を高めることが考えられるが、こうした検査はLevel IIIワークアップにとどめられるべきであろう。一方、一部のバイオマーカー (e.g. pNFH、リン酸化タウ、TDP-43、APOE ε2) はLevel IIに置いても良いかもしれない。

Axis I-2. 遺伝子診断: コンセンサス基準の原版の出版から、ALSの遺伝的基盤の理解は大きく進歩した。現在、17を超えるメンデル遺伝型ALSの遺伝子変異が同定されている (表1)。こうした遺伝子に加え、疾患関連または疾患修飾遺伝子が次々に発見されてきている。こうした発見は我々のALSの理解を発展させる一方で、臨床領域をより複雑にする。ALSおよびALS-FTSD患者の遺伝的特徴付けは推奨されるが、ALS原因遺伝子の病原性変異の同定が疾患の存在を暗示するわけではないということは必ず覚えておかなければならない。さらに、「家族性」という用語は、家族歴の存在 (i.e. 生物学的親族の中で2人以上の罹病者がいる) を記述することや、疾患の遺伝的原因を同定する可能性のサロゲートとして有用であるが、家族性ALSに関連するすべての遺伝子は、見かけ上は孤発性のALS患者の一部で変異を有していることがわかっている。さらに、潜性遺伝、複合ヘテロ接合体、de novo変異、誤診、血縁サイズの小ささ、浸透率の低さ、家族情報の欠如、などの要因のため、遺伝性疾患であるにもかかわらず家族歴がない場合もある。このため、「家族性」という言葉は、「遺伝性」と相互変換可能なものではない。逆に、ALSの生涯リスクが男性で1:350、女性で1:400であることを考えると、メンデル遺伝の例と考えられるような罹患者が2人しかいない血統では、家族性クラスターが偶然であった可能性が現実的に考慮される。

ALSの疾患原因遺伝子の中で、ALSの前頭側頭機能障害に特に関連したいくつかの遺伝子には言及しておく必要がある。家族歴の有無にかかわらず、前頭側頭機能障害がみられる患者では、こうした遺伝子に対して遺伝子検査を行うことが正当化される。これらの中で典型的なものは、C9orf72のヘキサヌクレオチドリピート (GGGGCC) 伸長によって表現される遺伝子変異で、家族性FTDの原因となる (約18%を占める) 他に、家族性ALSの遺伝的修飾の中で最も一般的 (60-70%) なものである。C9orf72の伸長を有する患者における認知機能障害の存在は、伸長を有さない患者と比較して数倍の頻度である (40-50% vs 8-9%)。ALS患者が精神症状や病識の喪失を示すような稀な例では、病原性C9orf72伸長を有している可能性が高い。

 

Axis I の推奨
ALSの前頭側頭機能障害の分類は階層的であるべきであり、まずは運動ニューロン病/症候群の記述から始める。
臨床症候群を記述する用語に関してコンセンサスは未だ得られていないが、我々は、進行性筋萎縮症、上位運動ニューロン優位ALS、進行性球麻痺などの用語の使用の有用性や、臨床症候群分類の今後の発展を認識している。こうした用語は臨床現場 (Level I) や臨床試験 (Level II) で適切に用いられているし、幅広い研究努力の場 (Level III) でも用いられている。しかし、この症候群的命名法とは全く異なるのは、revised El Escorial criteria や Awaji criteria などの診断基準の使用が臨床試験 (Level II) や 研究目的 (Level III) になることである。患者をALSと診断する場合、revised El Escorial criteria または Awaji criteria のどちらかを満たすことが推奨される。
遺伝子検査は、家族歴が存在する (すなわち少なくとも1人以上の生物学的親族がALSまたはFTDと診断されている) 場合に推奨される。これは、El Escorial criteria では、ALSの原因遺伝子変異が存在する場合には、進行性の上位または下位運動ニューロン障害がするだけでALSと診断できるからである。我々は、「家族性ALS」ではなく「遺伝性ALS」という用語を用いることを推奨する。これは特に、家族歴がないものの疾患の遺伝的原因が同定された場合に当てはまる。適切な遺伝的カウンセリングが常に提供されるべきである。臨床試験のため (Level II) および 研究目的 (Level III) では、完全な遺伝子解析 (表1で示されたALSの原因遺伝子のパネルまたは全エクソーム/ゲノムシークエンス) が推奨され、その結果が患者に共有される場合にはいつでも遺伝的カウンセリングが提供されるべきである。

Axis II. 神経心理学的障害を定義する
Strong criteriaは、ALSにおけるFTDの潜在的な存在を認識し、完全なFTD診断の閾値に達していない患者のために、認知または行動の障害の有無 (それぞれALSciとALSbi) を分類する手段も提供していた。しかし、2009年にコンセンサス基準が発表されて以来、この分野の発展により、これらの定義の見直しが必要となった。第一に、ALSにおける認知機能障害の多様性を示す証拠が増えてきた。したがって、以前は遂行機能障害に重点が置かれていたが、現在では、言語機能障害も同様、あるいはそれ以上に一般的であり、遂行機能障害のない患者にも起こりうるという証拠が得られている。社会的認知の障害も強調されているが、ALSにおいて社会的認知の障害が遂行機能障害と完全に独立しているかどうかは完全には明らかでない。さらに、当初のALSciとALSbiの分類はクラスター分析によって裏付けられているが、その他の認知機能障害患者は当初の基準では分類できないことが示唆されている。また、ALS患者における認知機能障害の分類における記憶障害の役割についても (後述するような) 議論がある。第二に、行動障害型FTD (bvFTD) の診断に関するコンセンサス基準が改訂され、現在のコンセンサス基準を改訂する必要性が強調された。
従って、我々の目的は、ALSにおける認知・行動障害の分類を見直すことであり、障害の分類に到達する際に考慮する必要がある潜在的な障害のエビデンスベースを拡大し、障害プロファイルの知識の増加と異質性を考慮することである。次に、行動・精神神経症状の分類の改訂を検討し、検査パラダイムの推奨を行う。

Axis II-1. 神経心理学ドメイン
a) 遂行機能障害と社会的認知: 遂行機能障害はALSの認知機能障害プロファイルに特徴的であり、集団ベースの研究やメタ解析で確認されている。
遂行機能障害の証拠は、言語流暢性の評価によって実証されている。これは臨床現場でよく用いられる手法で、特定の文字から始まる言葉 (文字流暢性) または特定の意味カテゴリ内の言葉 (e.g. 動物流暢性) のリストを生成するものである。特に前者はALSにおける障害のマーカーとして広く認識されている。文字流暢性は、数多くの認知プロセスの相互作用を含んでおり、特に内発的開始、戦略形成、セットシフト、持続性注意、抑制などの遂行機能プロセスと、単語想起に関与する言語プロセスが想定される。ALSにおける文字流暢性の低下は遂行機能障害と関係することが示されている。文字流暢性の障害は疾患の早期から起こり、眼球運動の異常と相関することや、偽性球麻痺患者で起こりやすいことなどが報告された。また、文献は限られているが、SOD1-ALSでは言語流暢性の障害はその特徴として現れない。
ALSにおける言語流暢性障害は、前頭葉機能障害のマーカーであることも示されている。機能的および構造的神経画像からは、特に背外側前頭前皮質と下前頭回の関与が示されている。言語流暢性の成績が書字や発話といった運動の障害に影響されることから、身体機能障害をコントロールした指標であるVerbal Fluency Indexが開発された。これは、生成された単語を読むまたは模写する時間を考慮することで、それぞれの単語を考えるのにかかった平均時間を推定するものである。Verbal Fluency Indexを用いることで、運動の障害とは独立した言語流暢性障害が繰り返し証明されてきた。
ALSにおける遂行機能障害は、古くから利用可能な検査から実験的なものまで、幅広い検査で明らかにされてきた。Trail Making TestやWisconsin Card Sorting Testなどの、注意のモニタリングや切り替え、ルールの演繹、認知的柔軟性を計る標準的評価における信頼性に足る障害の証拠が示されてきている。特に後者を用いた研究のメタ解析では、ALS患者が新たなルールを学習するのにより長い時間をかけ、より多くの誤りを犯すことが明らかにされた。同様の障害は、Delis-Kaplan Executive Function System Sorting Testなど、その他のカードソーティング概念形成タスクでも示されている。さらに、reverse digit spanやN-Back taskなどのサーキングメモリにおける概念の操作に高度に依存する検査や、さらに最近では視覚的処理速度タスクと数値再生などの2つのタスクを同時に行わせる分割性注意検査など、複数の検査でも障害が明らかとなっている。
遂行機能を計る標準的な神経心理学検査の成績は、ほとんどが背外側前頭前皮質によって仲介されるが、実験的手法による障害については、眼窩前頭皮質機能に依存することも示されている。実際、ALS患者はアイオワギャンブリングタスクで異常なリスクを取ることが示されている。また、より生態学的に妥当な遂行機能評価手法を用いた検査 (Medication Scheduling Task や Holiday ApartmentTask)でも、患者が論理性、規則立て、心的ヒューリスティックなどで障害を示すことが示されている。
FTDプロファイルの特徴として一時注目を浴びていた社会的認知は、ALSの研究対象として注目されてきている。最近更新されたメタアナリシスでは、ALSの認知プロファイルに社会的認知障害が不可欠であることが新たに追加されたことが指摘されている。とはいえ、社会的認知の障害の原因については、遂行機能障害の独立性を示す研究もあれば、そうでない研究もあり、議論が続いている。ALS患者では、感情処理の変化や感情的 (特にネガティブな) 表情認知の能力の低下など、さまざまな社会的認知過程に障害がみられるが、これはALS-FTD患者ではより顕著である。ALS患者は、他者の考えや信念を推測する「心の理論」に特化したテストも苦手である。患者の3分の1が誤った発言を発見することが困難であることが示されており、このような困難は社会的状況を理解する上での具体的な問題と関連している。
社会的認知における基本的な過程は、Judgement of Preference Taskで評価される視線方向の解釈である。この課題における障害の所見は、感情的な障害または認知的な「心の理論」の障害にまで拡大された。
ALS-FTDの基準を満たす患者において、遂行機能/社会的認知の障害は事実上どこにでも見られる特徴であり、上記のような様々な困難をカバーしている。

b) 言語機能障害: ALSの言語障害の有病率と本質についての研究はここ20年間で興味を集めてきた。単語想起、文章処理、発話された言語、プラグマティズムなどにおける障害が、「純粋な」言語の障害なのか、それともその他の認知ドメイン (e.g. 遂行機能) の障害の下流にあるものなのか、という点に関する議論は依然として続いている。ALSci患者のすべてが明らかな言語の障害を呈するわけではない。さらに、ALSciにおける言語の障害は、発話運動の障害と切り離すことが難しく、さらに原発性進行性失語の semantic および non-fluenc variant と類似した病型を呈しうるALS-FTDとの区別も難しい。こうした診断的課題がある一方で、認知症のないALS患者の約35-40%が言語の障害を呈するという推定もある。こうした言語障害は、運動の障害や遂行機能障害と切り離すことができるという報告は増えてきており、ここから言語の障害がALSのプロファイルに寄与しうること、および遂行機能障害や社会的認知障害を含む混合認知プロファイルの一部になりうることが示唆されている。
ALSでは、コントロールと比較して名詞および物体知識の語想起がしばしば軽度に障害されていることが報告されている。名詞と比較して、動詞の呼称や動作動詞処理の障害は、ALSにおけるより一貫した所見である。ALSにおける動詞の障害は、しばしば背外側前頭前皮質における萎縮と関連している。このように、これらはALSにおける認知機能障害の重要なマーカーになりうる。ALSciにおけるこの物体-動作 (i.e.名詞-動詞) の解離の理論的基盤は明らかではないが、これらの所見からは、語想起障害の評価は名詞と動作動詞の想起および理解の評価を含んだ検査を行ったほうがよいことがわかる。
文章処理障害はALSの言語プロファイルの突出した特徴として浮かび上がってきた。最近の研究によれば、ALSにおける統語と文章処理の障害は、ALSでみられるような軽度の障害からALS-FTDに進行した患者でみられるような重度のものまで、スペクトラムを形成している可能性があることが示された。研究はもっとたくさん必要だが、統語処理の障害は遂行機能と発話の運動障害から切り離すことができ、統語処理障害はALSの言語プロファイルに特異的に寄与する可能性がある。
さらに、ALSでは文章処理障害のほかに文法および形態素エラーを数多く産生するという証拠が浮かびつつある。ALS患者の発話の研究から報告されている文法的エラーには、不完全な発話、限定詞の欠落、動詞句のエラーなどがある。生産性の障害もALS患者の話し言葉を特徴づけており、発話の長さの減少や総単語出力の低下などが見られるが、これらの特徴はおそらくALSにおける運動性発話障害や呼吸困難と関連していると考えられる。文法や生産性の障害にとどまらず、ALSでは、情報性の障害 (e.g. 発話される総単語数に占める内容語や情報語の割合が少ない) 、意味性・音韻性錯語、話の一貫性やまとまりの悪さ、トピック管理の障害など、話し言葉の言語的・語用論的側面が影響を受けている。まだ発展途上の研究分野ではあるが、ALSでは比喩的、非文字的言語処理を含む語用論的言語が障害されることが報告されており、その所見はしばしば前頭葉の機能障害に起因している。
この10年間の研究を総合すると、ALSciのプロファイルにおいて言語障害を考慮することの重要性が強調される。一般的な臨床環境では、分析に手間がかかるため、音声言語タスクの分析はより困難かもしれないが、臨床医や研究者は、利用可能な標準化された評価手法を数多く用いることで、ALSにおける言語障害のプロファイルについて多くを得ることができる。
また、言語障害とALS-FTDの関係も不完全に理解されている。進行性非流暢性失語 (PNFA) と意味性認知症 (SD) は、前頭側頭葉変性症の臨床的形態であり、以前の診断基準に組み込まれていた。PNFAとSDはともにALSに関連して報告されている。一方、統語理解などの特異的な言語障害は、ALS-FTDの行動基準を満たす患者によくみられると報告されている。ALS-FTDの基準には、言語障害が寄与的な役割を果た していることを認識する必要がある。

c) 記憶: ALSにおける記憶障害は広く研究されている。しかし、現在の推奨では、単発的な記憶障害はALSciの診断基準を満たさない。現在の診断基準から記憶障害が除外されているのは、ALSにおける記憶障害の特徴についてコンセンサスが得られていないことに一因がある。研究結果は多岐にわたり、符号化、即時再生または遅延再生、再認、あるいは記憶過程の複合的な障害などが指摘されている。他の研究では、再認記憶が保たれていることが示唆されている。
ALSを対象とした最新のメタアナリシスでは、遂行機能障害と同様に遅延言語性記憶の効果サイズは小さく、他のドメイン (流暢性、言語、社会的認知) ではより大きな効果サイズが示された。言語性記憶の遅延再生は視覚性記憶よりも大きな効果サイズと関連していたが、視覚性記憶の障害も検出されている。認知症のないALS患者においても、灰白質海馬容積と相関する記憶障害が認められ、認知機能が正常なALS患者においても、記憶スコアが対照群と有意に異なることがある。認知機能障害を有するALS患者では、縦断的に調査したところ、言語性遅延再生の低下がみられた。
ALSciの分類に記憶障害を単独で用いるべきでない理由をさらに理解する上で重要なことは、ALSにおける記憶障害が単独で起こることは稀であり、これは対照群でみられる割合と同程度である。ALSにおける遂行機能障害と記憶障害との関連は繰り返し主張されている。選択的注意やメンタルコントロールなどの変数は、記憶スコアのかなりのばらつきを説明する。興味深いことに、記憶障害は、遂行機能障害を呈するALS患者において最も一般的でない併存疾患である。
ALS患者において記憶障害を検出することの広範な意味に関して、ある集団ベースの研究では、FTD患者の13.8%に対し、ALS患者の1.9%においてアルツハイマー病 (AD) が検出された。279人のALS患者を対象とした研究では、ADの診断基準を満たしたのは2%未満であり、これは全米の64歳以下の成人におけるADの割合4%よりも低い。ALSの研究では、認知的診断サブグループ間の認知機能の類似性から、遂行機能障害に包含される同じ進行性の疾患でも、重症度が異なることが示唆された。この結果は、個別のサブタイプ (i.e. 健忘性サブタイプ) の存在を支持するものではなかった。また、記憶における質的な違いは、ALS患者をAD患者と区別するものである。
単発的な記憶障害はALSciの診断の対象とはならないが、それでも記憶障害は患者にとって、特に高齢者層にとって問題となる可能性がある。その性質をよりよく理解するために、ALSにおける記憶の評価では、注意、言語、遂行機能のドメインや、加齢に伴う処理速度の変化も分析すべきである。理想的には、記憶を調査する研究では、特定の記憶障害の理解を曖昧にしかねない単一の記憶複合スコアを要約するのではなく、符号化、貯蔵、再生、処理速度、再認などの複数の変数を分析すべきである。他の臨床評価と同様、ALSの記憶評価では、記憶障害を引き起こす代替疾患や、夜間低酸素血症を引き起こす呼吸筋筋力低下などの要因を考慮すべきである。
d) 行動変化と精神神経症状: アパシーはALSで最も頻繁に認められる行動症状であ り、患者の70%に認められる。特定のALSの表現型との明確な関連はなく、アパシーは広くみられ、重度のアパシーはALSの予後不良と関連している。ALS患者は、アパシーほどではないが、抑制の低下、同情の喪失/自己中心的行動、保続および常同行動、食習慣の変化など、他のタイプの行動変化を示すことがある。
ALSにおける行動の変化を評価する際には、呼吸不全、身体的障害、気分を含む病気に対する心理的反応などの潜在的な交絡を考慮することが重要である。特に患者の病識の欠如を考慮すると、家族や友人からの報告は不可欠である。行動異常が 1)新しいものであるか、2) ALSの発症時期と関連しているか (FTD患者の一部は、ALSまたは運動ニューロン疾患のいずれかと一致する臨床的または電気生理学的特徴を発現する)、3) 障害を引き起こしているか、または明らかな障害を引き起こしているかを評価するためには、ベースライン/発症前の心理学的および行動学的状態を決定する必要がある。また、これらの患者を評価する際には、pseudobulbar affectの知識も必要である。Pseudobulbar affectは、脱抑制、不適切性、抑うつと誤解されることもある。また、アパシーうつ病の区別はALSbiの診断だけでなく、うつ病の臨床的管理や家族へのサポートにも重要である。
このような行動症状はしばしば認知ドメインの障害と共存していることを認識することが重要である (ALScbi, 表2)。さらに、ALSbiとALSciは異なる重症度で共存することもある。患者によっては、行動と認知の変化が組み合わさって、ALS-FTDの基準を満たすのに十分な場合もある。
現在の研究結果とbvFTDの現行基準をそろえるために、行動変化と神経精神症状は1つのカテゴリに併合された。

 

Axis II の推奨
Strong criteriaの導入以来、ALS患者の認知、行動、言語プロファイルを記述するための複数の信頼性に足るスクリーニング評価ツールが開発された。これらのツールは妥当性が検証され、すでに臨床現場で応用されており、ALS患者がより集中的な評価を必要とするかどうかを効率的に知るための指標としてクリニックに導入され、簡便なスクリーニングまたは検査を可能とした。したがって、それぞれの患者はLevel Iの評価としてスクリーニング評価を受けることが推奨され、もし障害が認められればさらなる検査が正当化される。

スクリーニングと簡易評価: スクリーニング評価は、第一に前頭側頭機能障害のある患者を同定するため、そして第二に機能障害の種類に関してある程度の区別を提供するためにデザインされた。ALSスクリーニング検査が実施された場合、ALSciは発表されているカットオフスコアに基づいて同定される。ECASやALS-CBS (ALS Cognitive Behavioural Screen) のようなALSスクリーニング検査を用いることの利点は、ALSciの同定を様々な複雑性を持つ個々の検査に基づいて判断しなくて済むことである。どちらのツールもALSicの同定を可能にする一方で、前頭側頭機能障害の程度をさらに明らかにしたいかどうかに応じて、さらに多くの検査 (補足表2: 原文参照) を用いてより詳細に評価を行うことが可能である。このために、ECASまたはALS-CBSはすべての患者に行うことが推奨される。

The Edinburgh Cognitive and Behaviorural ALS Screen (ECAS): ECASはマルチドメインの簡易評価であり、クリニックまたは家庭で神経心理の専門家以外も行うことができるものである。ALSで典型的に障害される機能 (ALS特異的: 流暢性、遂行機能、言語機能) を評価することができ、特に最近認識された障害として言語や社会的認知も評価が可能である。加えて、ALSで典型的には障害されず他の高齢者疾患で障害されうる機能 (ALS非特異的: 記憶、視空間機能) を評価することもできる。ECASはさらに、半構造化された行動インタビューを含んでおり、患者とは別に情報提供者/介護者から情報を得て、最も最近のFTD診断基準において診断のキーとなる5つの行動ドメインを評価することができる。したがって、行動障害型FTDの診断を補助するための用途でも用いることができる。
認知検査は、発声や運動の障害を考慮してデザインされており、Verbal Fluency Indexを組み込み、さらにすべての評価が声または書字のどちらでも行えるようになっている。このスクリーニングは、広範な神経心理評価と比較して妥当性が検証されており、認知症のないALS患者における認知機能障害の検出に高い感度と特異度 (それぞれ85%) を示した。英語版では、異常カットオフは、総得点に対して105/136、ALS特異的スコアに対して77/100であった。5点のボーダーライン幅 (つまり105-110点および77-82点) は、特異度を減少させず感度を上昇させることができたため、特に教育歴の長い患者では推奨される。さらに、ECASはドイツ語、イタリア語、中国語でも検証されており、その他の一般的認知スクリーニングツール (Frontal Assessment Battery や Montreal Cognitive Assessment) と同等の妥当性を示した。ECASは多数の言語に翻訳されており、北アメリカ人口にも適用されている。

ALS Cognitive Behavioural Screening (ALS-CBS): ALS-CBSは、ALSci、ALSbi、FTDを同定するにあたり臨床現場で用いることができる迅速で実用的なツールである。これは、認知セクションと介護者への質問表から成る。その他のALS特異的評価尺度と同時に高い妥当性が報告されており、高い正確性を持つ。大規模な多施設研究において、評価者間信頼性の高さと使用しやすさが実証されている。ALS CBSは6つの言語に翻訳されており、ポルトガル語スペイン語で妥当性が示されている。ECASと同様に、無料で利用可能であり、著作権フリーである。
ALS-CBSら運動または発話の努力を最小化するべく開発されており、疾患の効果になっても検査が可能である。回答は音声または書字で提供され、発話出力デバイスや眼球運動/口を用いたコミュニケーションデバイスを用いていても回答可能である。臨床スタッフメンバーの誰であっても実施でき、実施には約5分しかかからない。認知セクションは注意、集中、ワーキングメモリ、流暢性と追跡を評価する。言語流暢性項目のみが時間を測定される。ALSにおいて特定の項目での誤りと認知機能障害の重症度の関連性を同定した研究に基づき、特的の認知項目のみが選ばれている。採点は、正答から誤答による減点を差し引いた20点満点で行われる。点数が低いほど、障害が大きいことを示す。最適なカットオフスコアは、最初の検証研究で決定された。広範な神経心理学的バッテリーに基づき認知症と診断されたALS患者を対象とした研究では、認知セクションのカットオフ値が10以下であればFTDの同定精度は100%であった。このカットオフ値以下であればFTDが強く疑われるため、診断を確定するためにさらなる評価を行う必要がある。カットオフスコア16点以下であれば、認知機能障害 (ALSciまたはALS-FTD) が疑われ、17点以上であれば認知機能障害を除外することができる。
行動領域は、15項目のリッカート尺度による質問紙で構成され、発症時からの変化を評価する。行動ドメインは、共感性、性格、判断力、言語、病識変化など、ALSやFTDで起こることが知られている様々な異常を評価するために選択された。合計得点は0点から45点で、得点が低いほど病的であることを示す。行動セクションについては、カットオフ値≦32でALS患者をFTDと正しく分類する精度が86%に達し、≦36で行動障害 (ALSbiまたはALS-FTD) が最もよく検出される。37点以上は正常行動を示唆する。

 

ドメイン特異的推奨
ALS with cognitive impairment (ALSci): ALSciの診断は遂行機能障害または言語機能障害、もしくはその両者の存在に依存する。
遂行機能障害は、以下のように定義される:
 言語 (文字) 流暢性の障害。妥当な評価のためには、運動かつ/または発話の障害をコントロールしなければならない。
OR
 2つの重複しない遂行機能尺度における障害 (社会的認知を含む)。
言語障害は以下のように定義される:
 2つの重複しない検査における障害 (語用論的機能を含むのも良い)。
研究者または臨床医がさらに複雑性の高い評価を行うにあたっては、個々の評価 (スクリーニング検査ではない) における障害は、年齢および教育のマッチした正常と比較して5パーセンタイル以下と定義する。この比較は、専門家による臨床神経心理学的評価の中で解釈するのが最善かもしれないが、その人の病前知的レベルや母国語によって、障害がよりよく説明されるべきではない。レベルⅡおよびレベルⅢの研究では、慎重にマッチさせた対照群が障害の検出に役立つ。さらに、レベルⅡおよびⅢの研究では、神経心理学者と言語聴覚士が、検査結果の実施と解釈を支援することが必須であると考えられる。個々の評価ツール (スクリーニングや簡易評価ではなく) を使用する場合、重複しない評価尺度における障害の同定は、以下の点を考慮する必要がある: 同じ検査から障害の評価尺度が得られるべきではない; そして、障害が同定される検査は、類似した形式を含むものであってはならない (何言ってんのかよくわからなかった)
上で述べた基準は潜在的にたった1つの遂行機能 (言語流暢性を除く) の選択的な障害を持つ患者を除外してしまうが、我々はあくまでALSicを過剰診断しないように考慮している。
臨床評価と調査研究では、ALSに関連する可能性のある、あるいは関連しない交絡因子を除外しなければならない。包括的な評価により、他の認知機能障害を除外するべきである。評価方法は、可能な限り、球麻痺性発声障害 (構音障害) や運動障害をコントロールし、障害が主に測定された時間に基づいて同定されないようにする。連続測定が可能な場合、ベースラインから少なくとも1.5sdの低下があれば、新しい障害を示すと考えられる。ただし、検査の別版がないような場合には繰り返す検査によって障害がマスクされてしまう可能性にも注意が必要である。このため、対照群は臨床試験や縦断的研究において極めて重要である。

ALS with behavioural impairment (ALSbi): ECASとALS-CBSはどちらも行動評価尺度を有しているが、行動学的特性の詳細は MiND-B (Motor Neuron Disease Behaviour Scale)、ALSFTD-Q (Amyotrophic Lateral Sclerosis-Frontotemporal Dementia-Questionnaire)、FBI-ALS (Frontal Behavioural Inventory – ALS Version) などのツールによって明らかにできる。それぞれにおいて、ALSbiの診断は情報提供者への質問と行動変化の臨床的観察に基づいており、疾患に関連した限界や、ALSという診断への心理的反応、病前の人格障害精神疾患の共存、pseudobulbar affectなどから説明できないものを判定している。
MiND-Bは、患者をよく知る情報提供者によって回答される簡易評価 (9項目) である。これは3つのドメインを含む: 脱抑制、常同行動、アパシー。これは、FTDに対する感度が示された Cambridge Behavioural Inventory Revised を改訂したものである。MiND-Bはデータドリブンアプローチを用いてALSで検証されている。ALSをALS plus (MiND-Bで定義されるものでALSciまたはALSbiを意味する) または FTDと区別するための2つのカットオフが存在する: 35/26は90%の感度と50%の特異度、33/36は81%の感度と75%の特異度を持つ。
ALSFTD-Qは介護者への質問票で、ALSにおける身体機能障害に由来する回答バイアスを避けつつ行動異常を測定するために開発されたものである。ALS文献のシステマティックレビューに基づいて25個の項目が選択され、アパシー、易刺激性、脱抑制、感情不安定性、食嗜好の変化をカバーしている。その他の行動変化の評価手法 (Frontal Systems Behaviour Scale および Frontal Behaviour Inventory) と比較して良い構成概念妥当性を示し、ALS-FTDをALSおよびコントロールとよく区別することができる。このスケールのカットオフは軽度の行動症状 (ALSbi) とより重度の症状の間を区別するが、特定の行動に対するものではない。
病識の喪失は患者および情報提供者の行動変化の捉え方によって確立されるものであり、臨床的意見を必要とするかもしれない。病識を操作的に定義する1つの方法は、患者の行動に対する患者の自己報告と介護者の報告の間の標準化スコアの解離を解析することである。ある研究では、ALS-FTD患者が介護者と比較して有意に低い経時的行動変化を報告したこと、および全体的な行動異常を少ししか報告しなかったことが示された。患者-介護者の解離の程度は、認知症を伴わないALS患者では記録されていない。
患者のことをよく知る情報提供者から得られた情報に基づき、ALSbiの診断は以下のように定義される:
 アパシーの存在 (他の行動変化を伴っても伴わなくてもよい)。
OR
 以下の行動症状のうち2つ以上の存在: a) 脱抑制、b) 同情および共感性の喪失、c) 保続的、常道的、または強迫的行動、d) 過食/食習慣の変化、e) 病識の喪失 (上を参照)、f) 精神症状 (e.g. 体感幻覚、幻視、非合理的信条)。これらのうちa-dは、アパシーと合わせて現在の行動障害型FTDの基準から引用したものである。 
ECAS行動スクリーンは診断基準上の症状のチェックリストを提供している。ALS-CBSやMiND-Bのようなその他のALS特異的行動スクリーンは、ALSbiを定義するための正式なカットオフスコアを提供している。

ALS with combined cognitive and behavioural impairment (ALS-cbi): この新しい分類は、ALCciとALSbiの両方の基準を満たす患者を補足するためのものである。

ALS with frontotemporal dementia (ALS-FTD): ALS-FTDの診断は、ALS患者がFTDとして合致する行動/認知的変化を呈する場合に行われる。
ALS-FTDの診断は、以下のように定義される:
 行動 かつ/または 認知の進行性の低下が観察または病歴から証明されること。
AND
 Rascovskyらによって示された行動/認知症状のうち少なくとも3つが存在する。
OR
 行動/認知症状のうち少なくとも2つが存在し、さらに病識の喪失 かつ/または 精神症状があること。
OR
 NearyらまたはGorno-Tempiniらによる意味性認知症/svPPA または nfvPPA の基準を満たす言語障害が存在すること。これは上で述べた行動/認知症状と共存することもある。

 

ALSの前頭側頭スペクトラム障害の診断に関する神経画像研究
神経画像は、臨床的および分子学的な症候群としてのALSを拡張するにあたって、独自の生体内病態考察を提供し続けている。ALS患者の臨床におけるルーチンワークアップの一部として行われるCTやMRI検査で前頭側頭葉の萎縮が指摘されることもあるが、どちらの検査も感度が低く、臨床現場では正常な加齢の関連した萎縮を考慮した主観的な評価が行われることも多い。SPECTは認知症に関連したALSの症例において前頭葉の取り込み低下を証明することができると長く認識されてきたが、認知または行動障害がそこまで目立たないALS症例においては感度が低いという問題を持つ。よりわずかな灰白質容積変化を検出することができる高解像度T1強調MRIを用いた自動評価ツール (voxel-based morphometry)、または前頭側頭白質解析 (拡散テンソル画像) は、未だ個々の症例に対して適応することはできない。しかし、これらの発展的な構造的MRIシーケンスは、機能的MRIによる結合性の測定と組み合わさって、上で述べた究極的な目標を達成するために進歩し続けている。
基底核と小脳の構造的MRI変化パターンは、孤発性ALS患者と比較して、C9orf72の病原性ヘキサヌクレオチド伸長を有するALS患者においてより明らかである。さらに、前症候期のC9orf72変異キャリアを含んだ研究において、広範囲の構造的MRI変化が報告されており、これらの症例ではごく初期から幅広い大脳病理が存在している可能性が示唆されている。
PETイメージングは、ALSの神経細胞機能障害の解剖学的および細胞学的トポグラフィーに関する多大な知識を提供し続けており、さらに疾患プロセスの必要不可欠なメディエーターとして神経細胞以外が関与する証拠を提供しはじめている。神経画像の進歩と、神経ネットワークまたはコネクトームに関する我々の理解の向上は、FTSDの本質の解明に寄与しつつあり、特にFTSDが神経ネットワーク障害の性質によって個々の臨床フェノタイプを予測できる切断症候群であるという概念を明らかにしつつある。このような神経画像技術の進歩に明確な臨床的相関を与えることが、基準改訂の原動力のかなりの部分を占めている。

 

Axis III. さらなる非運動症状
2009年のStrong基準と同様に、錐体外路症状や小脳症状、自律神経障害、感覚障害、眼球運動障害などの非運動症状の有無を明記することが推奨されている。

 

Axis III の推奨
Consensus Committee のメンバーは、この推奨に関して変更を加えなかった。すなわち、前頭側頭機能障害による神経精神医学的および神経心理学的な症状を除く、具体的な非運動症状を観察すべきであるということである。

 

Axis IV. 疾患修飾因子の存在
この推奨を振り返るにあたり、メンバーはALSの神経心理学的特徴のほとんどの修飾因子がAxis Iの分子遺伝学的研究または具体的な神経心理検査を用いた研究の中で捕捉されていることを認識した。すべての研究は、発症部位、性別、年齢という主要な変数を含んでいる。このため、コンセンサス会議のメンバーは、Axis IVがALSという前頭側頭スペクトラム疾患の診断アルゴリズムの中にもはや必要ないという見方を示した。

 

Axis IV の推奨
上で述べたように、メンバーはAxis IVがもはや必要なく、Axis I およびII の評価を通じて得られる情報で捕捉されるべきであることを推奨した。

 

神経病理学的推奨
ALS-FTSDの神経病理学的診断に関するStrong criteriaの基本的推奨は変わっていない。しかし、これが目標であることは変わらないが、複雑性レベルを考慮するのと一致して、すべての症例を提唱されたほどに徹底的に調べることはできないということが認識された。すなわち、疾患の領域的多様性や局所発症後の伝播という考え方に基づいて、脳や全脊髄を含んだ完全な神経病理学的調査は診断に不可欠であると考えるべきである。脊髄切片は、頸髄、胸髄、腰髄領域を含むべきである。C9FTD/ALSにおけるp62の特徴的関与とdipeptide repeat (DPR) 病理の存在から、小脳は解析に含まれなければならない。すべての症例で、UMNとLMNの両方の関与の程度が決定されるべきであり、前者に関してルーチンのHE染色で明らかでない場合は、ミクログリア神経炎症反応 (e.g. HLA-DR3、CD68、Iba1) やアストログリオーシス (GFAP) を示す免疫組織化学的手法、および二次性の髄鞘脱落を示す特殊染色 (e.g. Luxol-fast blue/Nissl) を用いて同定することもできる。ALSの変性運動ニューロン内の神経細胞質内および核内封入体が多様な細胞骨格蛋白やRNA結合蛋白から構成されており、しばしば単一の変性運動ニューロン内に複数蛋白が沈着するといるという認識の向上に伴い、現在はALSの存在を確かめるための幅広い抗体アレイが存在する。しかし、ALSのLMN障害の診断を行うためには、最も一般的には、ユビキチン化蛋白 (ユビキチン、p62)、TDP-43およびFUSに対する抗体を用いた免疫染色によって神経細胞やグリア内封入体を証明するので十分である。完全な剖検が可能な場合、末梢神経と筋も神経病理学的ワークアップに含めるべきである。将来的な生化学的および遺伝学的解析のために凍結組織をサンプル化することが推奨されている。
FTDの神経病理学的相関は、前頭側頭葉変性症 (FTLD) である。現在、ホールマーク病原性蛋白に基づいた3つのメジャーなFTLDタイプが存在する: FTLD-tau、FTLD-TDP、FTLD-FUS。一部の少数例は上のどの蛋白も発現しておらず、ユビキチン-プロテアソーム系 (UPS) マーカーと反応するものをFTLD-UPS、完全に免疫学的陰性のものをFTLD-NOS (not otherwise specified) というグループに分類する。前頭側頭機能障害を持つほとんどのALS症例はFTLD-TDPタイプに属し、TDP-43陽性封入体が広範な新皮質および皮質下構造に認められる (残る症例はFTLD-FUSである)。これらは主に神経細胞内に存在して神経細胞室内封入体 (neuronal cytoplasmic inclusions, NCIs)、変性神経突起 (dystrophic neurites, DNs)、神経細胞核内封入体 (neuronal intranuclear inclusions, NIIs) を形成する。FTLD-TDPの調和的分類システムは、形態学的な形態特徴とその頻度、特徴的な神経解剖学的局在、海馬硬化などのその他の特徴の有無に依存して、4つのサブタイプを認識している。この分類は、臨床的表現型と遺伝子変異の間に良い相関を持つ (たとえば、最も頻度の高いサブタイプAはbvFTDやFTD-ALSの像をとり、50%がGRN変異やc9frf72伸長を持つ)。
領域特異性のため、神経病理学的解析には代表的切片として前部帯状回、中心前回、上前頭回、上側頭回、扁桃体、嗅内皮質、海馬、基底核、小脳を含めるべきである。免疫染色は、TDP-43、FUS、p62、tau (e.g. AT8、pThr175)、α-synuclein、さらに特定の疾患サブタイプではneurofilament (neronal intermediate filament inclusion disease, NIFID)、SOD-1、様々なジペプチドリピート (dipeptide repeats, DPRs) (C9FTD/ALS) に対して行われるべきである。アミロイドβ (Aβ) 病理の評価 (e.g. アミロイドプラーク、大脳アミロイド血管症) と、アルツハイマー病タイプtau病理の有無の検索も必要不可欠である。Strong criteriaの原版で議論されたように、神経病理学的研究は、領域ごとの神経病理学的変化、すなわち表層性線形スポンジオーシスの有無、神経細胞脱落の程度、海馬硬化の有無 (CA1ニューロンの軽微な局所的脱落を含む)、存在する封入体の性質 (DNs、NCIs、NIIsなど) などを記述するべきである。グリア病理の有無は、アストロサイトなのかオリゴデンドログリアなのかも含めて記載されるべきである。関連する脳や脊髄領域の特殊染色や免疫組織化学を用いた神経病理学的ワークアップには、段階的アプローチが推奨される。ALS、FTD、重複する症候群の神経病理学的診断のための診断アルゴリズムが最近提唱された。神経病理学的解析の原則と実際や、主要な形態学的特徴についての詳細は、参照した教科書に記載されている。
Strong criteriaの原版の出版から、ALSの新皮質および皮質下病理における前頭側頭葉変性のステージングの概念は、ALS-FTDがALSicおよびbi (そしておそらくcbi) とどれほど異なるエンティティであるかを理解するにあたり、ますます価値のあるものとなってきている。このため、Level IIIの研究ではHallidayらによって示された完全なステージング解析を含むことが推奨される。

 

考察
前頭側頭機能障害の診断のためのStrong criteriaが作成された環境とは対照的に、現在では、ALS患者のかなりの割合が多面的な機能障害の証拠を有することが明確に理解されている。Strong criteriaをALS患者に前向きに適用したところ、ALS患者の50%以上に、アルツハイマー病の可能性を含む何らかの前頭側頭機能障害や認知症が認められた。これは、事実上すべての研究において驚くべき一貫性がある。これらの障害を認識することの重要性は、ALS患者の大部分において生存に影響を与えるという点にあり、その影響はALSの薬物試験のデザインにまだ組み込まれていない。しかし、遂行機能障害だけでも、症状発現からの生存期間短縮の有意な予測因子である。行動機能障害も生存率に等しく寄与しているように見えるが (p<0.001)、他の変数とは一見無関係である。ALSにおける障害の定義をより厳密にすることで、このことが明らかになり、最終的にはALSの臨床試験のデザインや分析において定義された変数となるはずである。
ALSの運動変性と同時に起こりうる前頭側頭機能障害のスペクトラムについての理解が進んだことで、Strong criteriaの改訂が余儀なくされた。その背景には、ある程度の重複をもつ障害のスペクトラムが存在するという認識があり、それゆえALS-FTSDという用語が採用された。これは、スペクトラムが連続したものであることを意味するものではなく、実際、ALS-FTDがALSci、ALSbi、ALScbiの自然な終点であることはあまり明らかではない。
これらの改訂基準 (表2) は遺伝子検査の問題をより重要視したが、これはALSと因果的に関連する、または疾患プロセスの修飾因子として働く遺伝子変異に関する知識の拡大によって駆動された部分がある。これらの遺伝子変異の多くが、家族性のないALS患者の中で認められうるという発見は、こうした症例を記述する用語として「家族性ALS」ではなく「遺伝性ALS」を用いることの重要性を強調している。これに関連して、我々はすべてのALSが、その遺伝的エチオロジーが知られているかどうかに関して層別化できるということを提唱した。そして、このような症例も「遺伝性ALS」という用語に含めることを推奨する。我々はさらに、ALS-FTSDと診断されたすべての患者に遺伝子検査の機会を提供し、研究プロトコールの場合には遺伝子検査を義務付けることを提言する。理想的には、患者は因果関係があるとされるすべての遺伝子について検査を受けるべきであるが (表1)、これは非現実的であり、多くの診療所や個人のリソースを超えるものである。したがって、遺伝子検査は、患者の出身地域だけでなく、障害の性質に応じて変更されるべきである (たとえば、精神症状の有無にかかわらず、顕著な行動障害を呈する患者は、まずC9orf72の病的ヘキサヌクレオチド伸長を検査すべきである)。
Strong criteriaが導入されて以来、神経心理学的障害は運動ニューロン疾患のスペクトラム全体に広がっているという認識も高まっている。ALSの運動症状においても、臨床的な表現型にかなりの異質性があることが認識されるようになってきた。この観察により、運動ニューロン疾患のすべてを単に総体として単一の疾患と考えるのではなく、この異質性を定義することがどの程度臨床的な目的にかなうのか (すなわち、一括りか分割か) という論争が起こっている。ALSの診断基準を改訂しようとする最近の試みは、後者に傾いている。しかし、今回改訂されたStrong criteriaを開発するにあたり、前頭側頭機能障害の特異的な変異を定義するための基準をより明確かつ一貫性のあるものにすることで、ALSにおける前頭側頭機能障害の明確な病態生理がより明確に理解され、潜在的には選択的な治療反応が得られることが期待される。臨床的に異なる病像が異なる病因によるものであるかどうかは未解決のままであるが、臨床的表現型を注意深く記録し、特定の病像と特異的なバイオマーカーやエチオロジーを関連付ける可能性のある研究を奨励することは賢明である。現在の理解では、このような臨床的に異なる運動ニューロン表現型を認識しないことは、貴重な治療効果や、重要なエチオロジーを浮き彫りにしうる臨床的関連性 (おそらくFTDスペクトラムとの関連性) を曖昧にする可能性がある。したがって、我々は、運動ニューロン疾患を簡潔に定義することに重点を置き、Axis Iを維持することを選択した。
最後に、当初のStrong criteriaと同様に、ALSで起こりうる前頭側頭機能障害についての理解は、今後も急速に発展していくものと考えられる。現在でも、ALSにおける記憶障害や言語障害の位置づけは進行中であり、行動障害や精神神経機能障害の真の広がりを定義することも進行中である。さらに最近の研究では、ALSciやALSbiを含むALSの病態における性別の影響が明らかにされ始めている。しかし、現時点では、この改訂された基準によって、より確実な診断が可能になることを期待している。

 

考察
レビューというより研究フレームワークの提唱って感じだ。神経心理のレビューの要素は2023年のNRNの記事でカバーされていたからあまり新しい情報はなかったけど、まあ診断とか遺伝の部分についても扱ってあったし、頭の中が整理されたからいいとする!