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片側脚橋被蓋核刺激がパーキンソン病の易転倒性を改善する / パーキンソン病の姿勢反射障害の局在

Unilateral pedunculopontine stimulation improves falls in Parkinson's disease.
Moro, Elena, et al.
Brain 133.1 (2010): 215-224.

 

部長が「PDの姿勢反射障害は橋核だから」と言っていたので調べました。

 

1. 背景
歩行と姿勢の異常は、進行期パーキンソン病患者の疾患負荷因子として振戦や筋強剛、動作緩慢に取って代わるものである。これらの問題の重要性とは反対に、現行の内服治療や手術治療はほとんど無効である。我々はパーキンソン病の歩行とバランスの障害を理解することと、この満たされない需要に対処する新しい治療方法を開発することに興味を持っている。
歩行と姿勢の制御に重要な領域として、非ヒト霊長類における研究によって脚橋被蓋核 (pedunculopontine nucleus, PPN) と関連する脳幹領域の重要な役割が示唆されている。パーキンソン病の最近の予備的研究では、PPNの deep-brain stimulation (DBS) が有効である可能性が示唆されている。しかし、これらの研究は様々な参加基準が設けられており、また非盲検の研究であった。さらに、複数の標的を同時に刺激していたため、解釈に混乱が生まれた。また、どの脳幹領域が標的とされているかには大きな多様性と議論があり、術中生理学的または術後構造画像的な検証もほとんど行われていなかった。
これらの欠点に対処するため、我々は今回、手術標的を術中神経生理学的および術後画像的に評価した6人の患者に対するPPN DBSの二重盲検評価を報告する。この前向き研究の目的は、進行期パーキンソン病患者に対する片側PPN DBSの安全性と運動症状 (特に転倒、すくみ足、姿勢反射障害) に対する効果を調査することである。

 

2. 方法
2-1. 参加者
2006年4月から2008年6月にかけて、進行期パーキンソン病患者6人を片側PPN DBSで治療した。組み入れ基準は以下の通りである: (i) 特発性パーキンソン病、(ii) 年齢70歳未満、(iii) 認知症または主要な精神疾患を合併していないこと、 (v) 手術の妨げとなる脳構造異常がないこと、(vi) 手術や十分な経過観察を妨げる重篤な内科的合併疾患がないこと。この研究はToronto Western Hospital Ethics Boardにより承認され、患者は文書による同意を得た。

2-2. 外科的処置
電極植え込みは、抗パーキンソン病薬を一晩休薬した後、局所麻酔下で行われた。最も重篤な罹患側 (筋強剛と動作緩慢の観点から) の反対側のPPNが植え込みに選択された。3次元MRIのinversion recoveryイメージングとT2強調axialシーケンスを用いてPPN領域をターゲットとし、最近発表されたようにPPN座標を算出した。電気生理学的マッピング中に、神経細胞の自発発火活動、随意運動および受動運動に対する誘発反応、局所電位を、独立に駆動された2つの微小電極から同時に記録し、選択した標的の生理学的属性を明らかにした。術後1-2日後に脳MRIを行い、電極の配置を確認した。定位手術の3-5日後に、全身麻酔下で電極の同側の鎖骨下に植え込み型パルス発生器を植え込んだ。以前に脳動静脈奇形を修復した際に金属クリップを留置していた患者1名には、MRIの代わりにCT画像を使用した。

2-3. MRIによる脚橋被蓋核電極接触位置の特定
DBS電極の接触位置を評価する方法については、以前に詳述されている。簡単に説明すると、術後のAxial 3D inversion recovery画像とT2強調画像をニューロナビゲーションシステムに転送し、統合した。前交連と後交連を登録した後、(i) 電極の先端、(ii) リードの進入点、(ii) 各電極の接触位置、(iv) 第4脳室内部のランドマーク、特にZrinzoら (2008) が評価したベース(B) 点の位置を確定した。B点は、正中溝に沿って第4脳室床に接する線と、fastigiumを通るその垂直線との交点と定義される。

2-4. 脚橋被蓋核DBSプログラミング
最初のプログラミングは術後2-3ヵ月以内に予定された。異なる電極接点における電気的パラメータ変数 (振幅、周波数、パルス幅) の急性および慢性的影響を、オフ薬 (OFF) 状態で検討した。
急性刺激段階では、まず、電圧を徐々に増加させ、パルス幅を60マイクロで一定に保ち、周波数を2、5、10、20、50、70、100Hzから130、185Hzに増加させ、電極の4つの接点それぞれで刺激することで副作用を試験した (単極刺激)。その後、副作用の閾値より0.1V低い電圧を維持したまま、臨床的効果を求めた。この段階では、5分間の連続刺激後に、動作緩慢、振戦、発話、歩行、姿勢安定に対する効果を評価した。
慢性刺激段階では、5、20、50、70、130Hz (最初は60マイクロ、後に90マイクロと120マイクロも) の異なる設定で、電圧を副作用の閾値ギリギリに保ち、これらの設定が急性刺激時に有益であったかどうかにかかわらず、3-5日間の連続刺激後に評価した。モノポーラ刺激が常に最初に検討されたが、モノポーラ刺激における副作用の閾値が1.0V未満であった場合にはバイポーラ刺激が用いられた。一旦選択されると、最も効果的な設定 (主に最良の客観的運動スコアに基づいて選択され、主観的報告や副作用がないことも考慮された) は、その後3ヵ月間変更されなかった。その後の刺激パラメータの微調整は、3ヵ月から12ヵ月の間に必要に応じて行われた。

2-5. 臨床評価
UPDRS Part IIIを、ハーフポイントを用いて個々の項目を評価できるように修正したもの、タッピングテストおよび歩行テストを用いて、OFFおよびONの薬物投与状態における手術前、ならびにPPN刺激の急性および慢性プログラム期間中の全体的な運動効果を評価した。転倒とすくみ足の測定にはUPDRSパートII (日常生活動作) のスコアを用い、慢性期の治療合併症 (特にジスキネジアとOFF/ON期間) の評価にはUPDRSパートIVのスコアを用いた。副作用は詳細に記録された。
二重盲検下での運動評価は、連続的な慢性刺激の開始から3ヵ月後と12ヵ月後 (術後約6ヵ月後と15ヵ月後) に行われた。これらの時点で、患者は刺激がオンかオフのいずれかにランダムに割り当てられた1週間の期間の後、OFF/ON投薬状態で評価された。この評価は1週間後、刺激をもう一方の条件に割り当てて繰り返された。患者は、一晩の休薬後 (OFF)、および手術前のチャレンジと同量のレボドパを用いた急性レボドパチャレンジ後 (ON) の状態で評価された。これらの評価にはUPDRS、タッピングテスト、歩行テストが用いられた。すべての運動評価はビデオ撮影された。

2-6. 統計解析
主要評価項目は、手術前および術後3ヵ月と12ヵ月の臨床エンドポイントにおけるUPDRSパートIIとパートIIIの総得点、および関連するサブ項目13 (転倒)、14 (すくみ足)、29 (歩行)、30 (姿勢安定性) のサブスコアであった。
副次的評価項目は、ベースライン時、術後3ヵ月後、12ヵ月後におけるUPDRSパートIIIのサブスコア (対側の筋強剛、振戦、動作緩慢)、UPDRSパートIVのサブスコア (ジスキネジアの持続時間、オフ期間)、対側のタッピングテスト、歩行テスト、ドパミン作動薬投与量であった。
主要アウトカムと副次的アウトカムの解析にはWilcoxon符号順位検定を用いた。

 

3. 結果
術前 (ベースライン) の患者の臨床特性は表1に示されている。全員がOFF時のすくみ足、OFF時のバランス障害、ONおよびOFF時のすくみ足によらない転倒の歴を有していた。4人がON時のすくみ足を有していた。1人 (患者4) を除いて全員がレボドパに対する良好な反応性 (平均52.5%の運動UPDRS改善) を示した。3人が右PPN、3人が左PPNに電極植え込みを受けた。慢性刺激に用いた接触部位は橋中脳接合部の前外側被蓋部に位置した (図1)。術中または術後の手術関連有害事象は認められなかった。患者2は、刺激誘発性錯感覚が非常に低閾値で生じてしまったのに加え運動症状の改善が全く認められなかったため、初期電極の位置調整を4か月後に行った。

図1. 本研究で植え込んだPPN DBS電極の位置を示した axial (左)、coronal (中)、sagittal (右) MRIセクション: 赤いドットは陰極として用いた接触電極の中心位置を示している。左に示した数値は、表1で示した患者の番号と対応している。患者4はCTを用いて評価したため含めていない。

3-1. 急性脚橋被蓋核刺激
急性刺激の効果は、2日以上 (平均して植え込み後20日まで) にわたって調査された。刺激パラメータの変更後の5分以内の急性評価の間には、運動UPDRS (特に対側の動作緩慢、振戦、発話、歩行、姿勢安定性) には大きな変化がなかった。急性刺激に関連した可逆性の強度および頻度依存性の有害事象として、すべての患者で対側の錯感覚、5人の患者で片側への眼球運動 (動揺視)、3人の患者で対側の温かい感覚が生じ、それぞれ内側毛帯、眼球運動系、脊髄視床路に関連するものと考えられた。

3-2. 慢性橋被蓋核刺激
2カ月以上にわたり、異なる刺激設定での3日間刺激から5日間刺激までの効果を調査した。平均として、14個の設定 (9-25個) が評価された。基本的に、50 Hz と 70 Hzの周波数設定、60マイクロのパルス幅、1.9 (0.7-3.8) の電圧がよい運動スコアを産生した。単極設定よりも双極設定のほうがよい運動を実現した。どの設定と接触を慢性刺激に用いるかは、電圧上昇に伴う副作用 (主に錯感覚) の閾値、運動UPDRSスコアの改善、患者の主観的意見に応じて決定した。慢性刺激時に新しい副作用は観察されなかった。

3-3. 3か月時点での二重盲検評価
連続刺激3か月後の時点での二重盲検評価では、ONおよびOFF状態における刺激の有無の間でUPDRS-IIまたはIIIの総スコア、および転倒、すくみ足、歩行、バランスのサブスコアは統計学的有意差を示さなかった (表2)。二重盲検評価で認められた唯一の有意な変化は、ON時の対側のfinger tappingの悪化のみであった。

一方で、非盲検下の評価では、刺激状態下でOFF状態のUPDRS-IIスコア (33.9%) の総点に有意な改善がみられた。この改善は、主に転倒 (68%) および すくみ足 (66.7%) のサブスコアの改善によって駆動されたものであった (表3)。対側のタッピングテストと歩行時間も有意な改善を示した (P=0.04) (表4)。運動UPDRSの総点 (15.1%)、歩行 (36.4%) および姿勢安定性 (40.0%) サブスコアは、改善したものの統計学的有意差は示さなかった (表5)。対側の振戦、筋強剛、歩行テスト中の歩数は術後に改善の傾向を示したが、こちらも統計学的有意差はしめさなかった (表4)。

ON条件の刺激では、転倒サブスコアも術後に有意に改善した (P=0.04; 75%) (表6)。また、UPDRS-II総スコア (30%) とすくみサブスコア (30%) にも改善傾向がみられたが、ベースラインと比較すると有意ではなかった。運動UPDRS総スコアと歩行・姿勢安定性サブスコアには有意差はなかった (表7)。レボドパ等価1日投与量は12.5%減少したが、有意ではなかった。UPDRS-IVの総得点とサブスコア32 (ジスキネジア持続時間) と39 (オフ持続時間) はベースラインと差がなかった。

3-4. 12か月時点での二重盲検評価
PPN DNSの3か月時点評価で認められたように、二重盲検評価では (ONおよびOFF状態での) 刺激の有無によって運動アウトカムの有意な差は認められなかった (表2)。さらに、OFF状態ではベースラインと比較して総点、振戦、筋強剛、動作緩慢サブスコアの変化は認められなかった (表5)。
しかし、UPDRSパートIIを用いた評価では、3か月目にみられた転倒に対する効果は12か月目でも持続した。ベースライン時と比較すると、12か月後の転倒はOFF群で71%、ON群で75%改善し、3か月時と同程度であった (表3、7)。運動スコアは3か月から12か月にかけて低下する傾向がみられた (表4、5、6、7)。UPDRS IIの転倒の項目は、PPN刺激3か月後よりも12か月後の方が悪化が少なく、むしろわずかに良好であった (表3)。
刺激のパラメータは、持続刺激開始後3か月から12か月まで、ほとんどの場合安定していた (表8)。刺激に関連した有害事象/合併症は、12か月後には報告されなかった。

3-5. 電極位置
慢性刺激に用いたDBS接触電極は橋中脳接合部の前外側被蓋に置かれた (図)。活性電極 (表9) の位置は以前報告されたPPN領域の位置と合致していた。

 

4. 考察
我々は、進行期パーキンソン病患者における片側PPN DBSの術後効果を二重盲検で評価した初めての報告を提示した。
3か月および12か月の時点で、ONおよびOFF状態のどちらでも、刺激の有無で大きな客観的または主観的運動症状の改善は認められなかった。しかし、最も目立った結果は、ONおよびOFF状態における (UPDRS part IIを用いた) 患者の転倒の有意な改善の報告であった。この効果は3か月時点でも見られ、12か月時点まで持続した。
主観的UPDRS-IIスコア (総点および転倒とすくみ足サブスコア) の著明な改善は、3か月時点では対側のtappingやその他の歩行パラメータ (歩行時間) などの特定の客観的評価の改善を伴っていた。しかし、12か月時点では転倒のみが有意に改善した点であった。
すくみ足の定量的評価は、その予測不可能性と偶然性からして困難であるが、主に自宅における人目につかない行動下で起こり、また特定の環境トリガに反応して起こるものであり、歩行研究室ではしばしばあまり起こらないことが報告されている。さらに、UPDRS part II および UPDRS part IIIは歩行とすくみ足を評価する最良のツールではおそらくない。これらの問題を意識して、我々は片側PPN DBS患者の一部を歩行ダイナミクスと静的姿勢動揺検査を用いて研究している。これらの評価のデータ解析は進行中である。
また、DBSの新しいターゲットを用いたこの種の研究において重要なことは、1年間の追跡調査において、PPN領域への慢性刺激によって誘発された重大な永続的有害事象がなかったことである。さらに、REM睡眠などの非運動機能も片側PPN DBSによって改善することが観察された。これらの観察は、雄弁な脳領域における外科的介入のリスクとベネフィットの可能性を評価する上で、特に重要である。しかし、われわれの小規模ケースシリーズやこれまでに報告された他のPPN DBS患者に有害事象がなかったからといって、DBS手術で観察される外科的合併症のリスクが減少したり、なくなったりするわけではない。また、PPN DBSが新たな有害事象を誘発する可能性もあるが、この手術を受けた患者数は少なく、長期追跡調査も行われていないため、現在のところ把握されていない。
PPN連続刺激3か月後または12か月後に、刺激オンとオフのスコアに有意差がないことについては不可解であり、その理由はわからない。これは、標本数が少ないこと、使用した測定方法の感度が低いこと、神経破壊に関連した機能変化を伴う挿入、プラセボ成分、慢性刺激中止後の効果の長期維持など、多くの要因によるものと考えられる。患者の1人は、刺激開始前の挿入で明らかな効果があった。これは、少なくとも部分的には、PPNへの抑制性下行性淡蒼球出力の切断 -「淡蒼球切除様」効果- に関連している可能性があると推測される。このようなさまざまな要素やメカニズムが、われわれが観察した効果にどのように寄与しているのかを理解するには、さらなる研究が必要である。現時点でのわれわれの有力な仮説は、刺激の停止後にも長期持続する効果は、長時間のウォッシュアウト効果、すなわち、長時間の連続刺激の結果として、姿勢と歩行の回路に長期間持続する可塑的変化に関係するというものである。この考え方に一致するように、てんかんうつ病ジストニアに対するDBS患者において、刺激による遅発性かつ進行性の臨床効果と、刺激中止後数週間持続する同様の長期にわたるウォッシュアウト効果が観察されている。
慢性設定として使用する刺激の最適なパラメーターの選択は困難であった。というのも、多くの場合、刺激プログラミング中に急性期の運動機能の悪化や改善は見られなかったからである。特に、以前に報告されたように、比較的高い刺激周波数を用いても、動作緩慢の悪化はみられなかった。さらに、刺激周波数は20Hzから175Hzまで、さまざまなグループによってかなり異なっている。このことは、最適な周波数の問題はまだ解決されておらず、さらなる調査が必要であることを示している。
今回我々が示した結果は、転倒に重要な神経要素を制御するというPPN領域の重要な役割を支持しており、またPPN DBSが進行期パーキンソン病患者のレボドパ抵抗性体軸症状、特に転倒に対する重要な治療標的となりうることを示唆している。これらの患者が視床下核淡蒼球内節のDBSでそこまで好ましい結果を出さなかった可能性があることを考えると、この結果は興味深い。PPN領域のDBSの作用機序は、おそらく多岐にわたり、上行性投射および下行性投射の両方の制御を含み、さらに睡眠や覚醒などの運動外システムにも作用すると思われる。興味深いことに、最近の齧歯類の脊髄刺激を含む実験的研究では、毛帯系の調整が抗パーキンソン効果を持つことが示唆された。PPN電極と内側毛帯の近接性と、錯感覚を生じるために必要な閾値の比較的低さを考えると、PPN領域の刺激による有益性が毛帯系の刺激によって生じている可能性を考えなければならないかもしれない。
結論として、転倒によって日常生活障害をきたしているパーキンソン病患者の歩行と姿勢反射障害に対するPPN DBSの効果を、より大きな群で評価する必要がある。

 

考察
なんかあんまメカニズムのこと書いてなかったけど、橋が姿勢反射に大事なんだなというザックリエビデンスとしては有意義かなと思った。6例でBrainに載っちゃうのすごいな。