ひびめも

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神経核内封入体病の臨床特徴と分類

Clinical features and classification of neuronal Intranuclear inclusion disease.
Tai, Hongfei, et al.
Neurology: Genetics 9.2 (2023): e200057.

 

こういう病気にも興味を持って診療したいからサ。

 

1. 背景
神経核内封入体病 (neuronal intranuclear inclusion disease, NIID) は、中枢および末梢神経系と複数の内臓に病理学的に好酸性ヒアリン核内封入体を認めることによって特徴付けられる進行性の神経変性疾患である。診断のために皮膚生検が行われるようになり、原因遺伝子変異としてNOTCH2NLC遺伝子の5'-非翻訳領域 (5'-UTR) のGGCリピート伸長が同定されてから、より多くのNIID症例が報告されるようになってきている。症例数が増加するにつれ、臨床的特徴として認知機能障害、パーキンソニズム、振戦、自律神経障害、末梢神経障害、ミオパチー、脳炎様発作、てんかん発作、脳卒中様発作、意識障害、小脳性運動失調、頭痛、視覚障害など幅広い症状が報告されるようになってきている。さらに、MRIの拡散強調画像 (DWI) における皮髄境界の高信号、局所的皮質浮腫/高信号、小脳虫部辺縁・中小脳脚・脳梁を含む白質病変は、NIIDに特徴的な画像所見として報告されている。しかしながら、これらの臨床特徴はほとんどが症例報告や症例シリーズで記載されているものであり、NIIDの臨床特徴に関する総合的知識は未だ限られている。
NOTCH2NLCのGGCリピート伸長は、アルツハイマー病、パーキンソン病 (PD)、前頭側頭型認知症、ALS、本態性振戦 (ET)、多系統萎縮症 (MSA)、白質脳症、眼咽頭遠位型ミオパチー (OPDM)、Charcot-Marie-Tooth病など、さまざまな神経疾患で同定されている。これらの発見は、NIIDの臨床特徴は極めてヘテロであり、NIIDの診断が難しいことを示している。先行研究では、NIIDは「パーキンソニズム優位型」「認知症優位型」「筋力低下優位型」などに分類された。既存の臨床分類は、疾患で目立つ特徴のすべてを包括できているわけではないのは明らかである。ここで、我々は多施設における223人のNIID患者の横断的観察研究を実施した。我々は臨床的、画像的、遺伝学的特徴をまとめ、NIIDの分類を提唱する。

 

2. 方法
2-1. 研究デザインと参加者
中国NIID連携アライアンスは2017年10月に発足し、NIIDが疑われる患者を全国から募集した。患者は少なくとも2人の経験豊富な脳神経内科医によって診察され、以下の包括基準を満たした場合のみ研究に組み入れられた: (1) 認知機能障害、パーキンソニズム、振戦、自律神経障害、末梢神経障害、ミオパチー、てんかん発作、脳卒中様発作、意識障害、頭痛、脳炎様発作など、NIIDに準じた神経症状を臨床的に呈する、(2) 皮膚生検の病理所見で、脂肪細胞、線維芽細胞、汗腺細胞などのヘマトキシリン・エオジン (H&E) 染色で好酸球ヒアリン核内封入体が認められ、免疫化学染色で抗p62陽性であり、電子顕微鏡で判定すると辺縁膜のない糸状物質で構成されていた、(3) NOTCH2NLC遺伝子の5′-UTRにおけるGGCリピートが60より多い、 (4) 一連の臨床検査の結果、患者の症状を説明しうる代謝性疾患、毒性疾患、炎症性疾患およびその他の疾患が除外されている。家族性NIIDについては、発端者のみが最終解析に含まれた。

2-2. 臨床評価
性別、発症時年齢、罹病期間、臨床症状、特定の症状が出現した時期、家族歴、身体所見、補助的検査結果を含む患者の臨床データの全記録を、標準化された症例報告用紙を用いて収集した。神経学的検査は脳神経内科医によって繰り返し行われた。脳神経、筋力、筋緊張、協調運動、感覚障害、腱反射、自律神経機能が評価された。認知機能と遂行機能の評価には、Mini-Mental State Examination (MMSE) とMontreal Cognitive Assessment (MoCA) が用いられた。筋電図は、北京天壇病院に登録された37人の連続した患者を対象に、標準的なプロトコールに基づいて運動神経伝導検査、感覚神経伝導検査、F波、針筋電図を実施し、すべての結果を当研究室で確立した基準値と比較して評価した。

2-3. 神経画像検査
すべての参加者は、3.0Tまたは1.5TのMRスキャナーを用いてルーチンの脳MRI検査を受け、画像は臨床情報を盲検化した少なくとも2人の神経画像専門医によって別々に評価された。白質病変は、T2WI上の範囲によって等級付けされた: グレード0はT2高信号なし、グレード1は点状または斑状のT2高信号、グレード2は、中等度の変化で、左右対称性の脳室周囲高濃度、グレード3は、重度の変化で、脳室周囲高信号が灰白質と白質の境界まで広がっているものと定義された。脳萎縮は、皮質溝の幅と脳室の大きさの視覚的評価に基づいて等級付けされた: グレード0は萎縮なし、グレード1はくも膜下腔のわずかな拡大、グレード2はくも膜下腔の著しい拡大と脳室の軽度の拡大、グレード3はくも膜下腔と脳室の顕著な拡大を伴う著しい萎縮と定義された (図1)。

2-4. 皮膚生検、筋生検、および組織学的検査
皮膚生検はすべての患者に対して実施された。ある施設の連続16例の患者は、上腕二頭筋から筋生検を受けた。免疫組織化学的染色は、抗p62抗体と抗ユビキチン抗体を用いて行った。148個の皮膚生検における核内封入体の密度は、20倍の倍率で1検体あたり5視野におけるp62免疫反応性封入体の平均数を数えることによって決定した。

 

3. 結果
2017から2022年の間に、中国本土の様々な地理的領域にある104個の臨床センターから合計で223例のNIID連続症例がリクルートされた。

3-1. 臨床特徴
被験者の背景特徴と臨床特徴は表1にまとめた。男女比は1:1.82であった。発症平均年齢 (SD) は 56.7 (10.3) 歳で、疾患罹病期間中央値 (IQR) は4.0 (2.0-9.0) 年であった (1-44年)。NIIDのもっとも一般的な初期症状は認知機能障害 (24.7%)、続いて自立委神経障害 (16.1%)、振戦 (13.9%)、脳炎様発作 (9.0%)、頭痛 (6.7%)、意識障害 (6.3%)、めまい (6.3%) で、さらに稀な症状を初期症状とすることもあった。様々な症状の発症時点は図1Aにまとめた。

図1. NIIDの臨床症状: (A) 様々な症状が出現する時期を表したバイオリンプロット。(B) 発作性神経イベント優位型NIIDの反復症状の形態と分布。

全患者の中で、78.5%は受診前に認知機能障害を発症しており、記憶と見当識の進行性の低下を示した。55.3%はMMSEスコア24をカットオフ値とした認知症の診断基準を満たした。MMSEとMoCAのスコアは、発症年齢を調整した上で罹病期間と逆相関した (multiple linear regression: β1 = −0.243, p1 = 0.01 for MMSE, n = 164; β2 = −0.322, p2 = 0.001 for MoCA, n = 150)。自律神経障害 (70.9%) は2番目の一般的な症状であった。全患者の中で、半数以上 (55.6%) が膀胱直腸障害を呈し、続いて胃腸機能障害としての反復性嘔気嘔吐 (32.3%)、縮瞳 (30.0%)、起立性低血圧/失神 (26.0%) を呈した。発作性神経イベントは51.1%の患者で起こり、これらには意識障害脳炎様発作、脳卒中様発作、てんかん発作、発作性頭痛が含まれた。28.7%は発症時症状として発作性症状を呈した。反復する意識障害は22.4%の患者で認められた。これらの障害の期間は、数時間から数日にわたり、しばしば自然軽快した。脳卒中様発作は16.6%で起こり、画像上の異常がない急性の神経障害 (e.g. 片麻痺、失語、嚥下障害) を呈した。NIID患者の14.3%が脳炎様発作を起こし、発熱 (29/32)、意識障害 (18/32)、精神行動異常 (14/32)、頭痛 (13/32)、全般性発作 (5/32) などの様々な組み合わせを呈した。発作性症状を有する患者における認知機能障害は、発作性症状を呈さない患者と比較して有意に重度であった (MMSE: 19.94 ± 6.85 vs 22.60 ± 5.97, p = 0.009; MoCA: 15.73 ± 6.60 vs 17.83 ± 6.91, p = 0.06)。
振戦は36.8% (82/223) で起こり、ETが 63.4% (52/82)、parkinsonian tremorが36.6% (30/82) であった。行動および精神症状は31.4% (70/223) で認められ、被刺激性の亢進、不可解な発話、幻覚、脱抑制などを呈した。末梢神経障害またはミオパチーによる筋力低下は25.6% (57/223) で認められ、ほとんど (43/57) が軽度の筋力低下を呈するのみで自立歩行はできていた。その他の一般的な臨床特徴は、パーキンソニズム (24.7%)、小脳性運動失調 (17.0%)、視覚障害 (14.3%)、体性感覚障害 (10.8%) などであった。
筋電図は1施設からの37患者で解析された。うち15人は末梢神経障害に関連した筋力低下かつ/または感覚障害を呈した。針筋電図検査では、94.6% (35/37) が末梢神経障害を有し、22人は脱髄性感覚運動ポリニューロパチーを、12人は脱髄と軸索障害の両方を呈した。
筋生検は16人の患者から行われ (図2, E-H)、うち3人は近位筋と遠位筋の両方に筋力低下を、2人は易疲労性を訴える患者のものであった。すべての患者でp62陽性核内封入体を筋細胞内に認めた。15人では小円形かつ/または角形萎縮線維を伴う筋線維の大小不同を、さらに1人は追加で角形線維のクラスタリングと線維グルーピングを呈した。12人が散在性の縁取り空胞を有した。線維タイプ不均等は非常にありふれており、10人がtype I fiber優位、5人がtype II fiber優位であった。16人中1人のみが軽度の血清クレアチニンキナーゼ値の上昇を示したが、針筋電図で筋原性変化を呈したものはいなかった。

図2. NIID患者の組織病理学的および放射線画像所見: 皮膚生検 (A) 皮膚サンプルのH&E染色で汗腺細胞内に1.5-3.0 µm程度の核内封入体を認める (arrows ×20)。(B) 皮膚標本のp62免疫組織化学染色で、線維芽細胞内に抗p62陽性核内封入体を認める (arrow ×20)。(C and D) 電子顕微鏡画像で汗腺核内に限界膜を有さない線維構造から成る円形封入体構造を認める (C, arrow, ×10,000) (D, arrow, ×40,000)。筋生検 (E) 筋標本のp62免疫組織化学染色で、筋細胞内に抗p62陽性核内封入体を認める (arrow, ×20)。(F) 筋標本のH&E染色で筋細胞の縁取り空胞を認める (arrow ×40)。(G and H) 筋標本のATPase染色でtype II–dominantまたはtype I–dominant fibers を認める (pH 4.6 and pH 4.4, respectively, ×10)。脳MRI (I and J) 皮髄境界に沿ったDWI高信号を全脳にわたって認める (I) または前頭頭頂葉にわたって認める (J)。(K and L) 脳梁 (K) および脳幹横走線維 (L) を含むDWI高信号。(M–P) 皮質下白質 (M)、小脳虫部辺縁 (N)、両側中小脳脚 (O)、視床 (P) のT2WI/FLAIR高信号。(Q–T) 発作性神経症状優位型のNIID患者の局所性皮質損傷としての浮腫性病変 (Q)、拡散制限 (R)、ガドリニウム強調 (S)、局所性皮質領域における際立った萎縮 (T) が、主に側頭頭頂および後頭葉にみられる。

3-2. 神経画像所見
209例の画像データが得られた。2人の患者は脳MRIが完全に正常であった。DWIで皮髄境界に沿った高信号強度は患者の96.6% (202/209) に認められ、側頭-後頭葉 (68.8%) よりも前頭葉-頭頂葉 (100%) に多く認められた。ほとんどの患者 (98.1%、205/209) に白質病変が認められ、その内訳はグレード1が34例、グレード2が72例、グレード3が99例で、典型的な病変は両側の傍脳室および皮質下領域のT2WI高強度であり、境界不明瞭であった。脳萎縮は98.6% (206/209) に認められ、その内訳はそれぞれグレード1-3の24例、104例、78例であった。白質病変のグレードと脳萎縮の両方が、MMSEおよびMoCAスコアの認知機能と相関していた 。その他の部位では、脳梁 (83.7%)、虫部辺縁 (55.0%)、脳幹横走線維 (42.1%)、両側視床 (30.6%)、両側中小脳脚 (24.4%) にT2/FLAIRの高信号が認められた (図2、I-P)。
限局した皮質領域にT2WI/FLAIR高強度を示す皮質病変が21例 (10.1%) に認められ (図2、Q-T)、全例に脳炎様発作、意識障害脳卒中様発作、反復性頭痛などの発作性症状がみられた。脳MRIは、最後の発作性の症状発現から中央値13日 (1-130日) の間隔で撮影された。21例中15例 (71.4%) がT2WI/FLAIRで高信号領域に局所的な皮質浮腫を示し、13例がDWIで拡散制限を示した。T1WIで皮質浮腫が認められたのは、ガドリニウム造影MRIを受けた患者7人のうち4人 (57.1%) であった。他の6例 (6/21) では限局性の皮質萎縮が顕著であった。皮質病変は、前頭葉 (8/21) に対して側頭-頭頂葉 (20/21) および後頭葉 (17/21) に優位に分布していた。

3-3. NOTCH2NLC遺伝子におけるGGCリピートの拡大
本研究では、NIID患者におけるNOTCH2NLC遺伝子の5′-UTRのGGCリピート数は70-525であり、99.1% (221/223) の患者は200以下であった。特にリピート数の多い症例が2例あり、そのうちの1例は再発性失神と発汗過多を有する症例で363リピート、もう1例は末梢神経障害と軽度認知障害を有する症例で525リピートであった。GGC反復数が多いほど発症年齢が若く (Pearson correlation analysis, r = −0.329, p < 0.0001, n = 223)、皮膚生検における核内封入体の密度が高い (Pearson correlation analysis, r = 0.207, p = 0.012, n = 148) (図3、A-B) 傾向であったが、MMSEスコアやMoCAスコアとは関連していなかった (multiple linear regression, adjusting for age at onset, disease duration, and education level, MMSE: p = 0.311, MoCA: p = 0.332)。

図3 NOTCH2NLC遺伝子の5′-非翻訳領域のGGCリピート数とNIIDの臨床的特徴との関連: (A) NIID患者におけるGGCリピート数の多さは、発症年齢の若さと関連していた。(B) GGCリピートが多いほど、皮膚生検における核内封入体の密度が高いことと関連していた。(C) 異なるタイプのNIIDを有する患者におけるGGCリピート数。

3-4. 臨床特徴
臨床症状および身体診察の評価後、NIID患者は最も顕著な症状に基づいて5つのタイプに分類された: (1) 認知機能障害優位型 (n=76)、(2) 発作性神経イベント優位型 (n=72)、(3) 運動障害優位型 (n=39)、(4) 自律神経障害優位型 (n=19)、(5) 神経筋疾患優位型 (n=17) (表1)。表2に示すように、NIIDの臨床分類のプロトコールが提案された。

認知機能障害優位型: 全体の34.1% (76/223) を占め、1つ以上の認知ドメインにおける進行性の低下によって特徴づけられる。疾患経過は2カ月から30年 (中央値は3年) であった。半数以上の患者 (45/76) がNIIDの初期症状として認知機能障害を呈し、最も一般的な訴えは記憶障害であった。平均的MMSEおよびMoCAスコアは20.54±5.91点 (n=57) および 15.57 ± 6.23点 (n=56) であった。MMSEとMoCAスコアは、発症年齢と教育歴を調整しても疾患経過と逆相関した (multiple linear regression: β1 = −0.276, p1 = 0.065 for MMSE; β2 = −0.365, p2 = 0.019 for MoCA)。
発作性神経イベント優位型: 全体の32.3% (72/223) を占めた。19人の患者が発作性神経症状のみをNIIDの臨床症状として有していた。全体の再発性発作の数は3以上で、発作頻度は1年に1回以上であった。発作性症状の形態と分布は図1Bに示されており、発作性意識障害が最も一般的 (32/72) で、続いて発作性頭痛 (29/72)、脳炎様発作 (26/72)、脳卒中様発作 (20/72)、てんかん発作 (13/72) であった。このタイプの68.1%の患者が認知機能障害も有していた。
運動障害優位型: 全体の17.5% (39/223) を占め、異なる形態の運動障害によって特徴付けられる。パーキンソニズムを呈した16人の患者に加え、ETを呈した20人の患者、舞踏運動/アテトーゼ/ジストニアを呈した3人の患者が存在した。
自律神経障害優位型: 全体の8.5% (19/223) を占めた。全員が様々な形態の自律神経障害によって発症し、主に膀胱直腸障害 (13/19)、起立性低血圧/失神 (10/19)、嘔吐および消化不良 (10/19)、縮瞳 (6/19)、発汗過多 (4/19)、勃起不全 (4/6男性)、動悸 (2/19) を呈した。12人がNIIDの症状として自律神経障害のみを呈した。
神経筋疾患優位型: 全体の7.6% (17/223) を占めた。発症平均年齢は48.6 (18.6) 歳とその他の型より若かった (p<0.001)。15人の患者が遠位筋と近位筋の両方を侵す筋力低下を、2人の患者がそのどちらかのみを侵す筋力低下を呈した。遠位部の感覚障害は6人で認められた。神経生理学的検査からは、脱髄性および軸索性のポリニューロパチーが示唆された。

3-5. 異なる臨床型における画像と遺伝的特徴の比較
5つの臨床病型の画像的特徴を比較すると、発作性神経イベント優位型NIID患者の32.3% (21/65) は、限局性皮質浮腫および造影増強効果、または著明な限局性皮質萎縮を認めた。神経筋疾患優位型NIID患者の白質病変 (1.75±1.07) および脳萎縮 (1.75±1.12) の平均グレードは、他の4つのタイプよりはるかに低かった。虫部辺縁、中小脳脚、脳幹、脳梁の病変については、タイプ間に有意差はなかった。
5つのタイプの患者間でGGCリピート数に有意差はなかった。中央値は認知機能障害優位型で113 (101-126)、発作性性神経イベント優位型で114 (99-134)、運動障害優位型で120 (105-133)、自律神経障害優位型で113 (101-125)、神経筋疾患優位型で120 (99-152) であった (図3C)。

 

4. 考察
NIIDの臨床症状は非常に多様であり、先行研究ではNIIDを「認知症優位型」「筋力低下優位型」「パーキンソニズム優位型」に分類している。我々は223人のNIID患者の観察に基づき、臨床的、画像的、遺伝的特徴に関してNIIDの全体像を示した。そして、これらの患者の最も顕著な症状に従って、認知機能障害優位型、発作性神経イベント優位型、運動障害優位型、神経筋疾患優位型、自律神経障害優位型の5つのNIID型を含む臨床分類を提案した。本研究では、臨床的特徴をより正確に表現するために、分類の拡張を行った。
認知機能障害優位型はNIIDの中で最も多いタイプである。2つの先行研究では、主症状として認知症を呈し、認知症優位型NIIDに分類された患者の割合は約40% (それぞれ8/19、16/40) であった。認知機能低下が主症状であり、後期には認知症に移行するにもかかわらず、40%近くの患者は診断時に認知症の診断基準に達していないことから、認知機能障害優位型NIIDと呼んでいる。
2番目に多いタイプは、発作性性神経イベント優位型NIIDであり、患者の3分の1を占める。これまでの研究で、脳卒中様発作、脳炎様発作、意識障害てんかん発作、再発性頭痛など、さまざまな形の発作性症状を特徴とするNIID患者が報告されている。NIIDの発作性症状の頻度は50%程度にのぼる。さらに、再発性の発作性症状を呈した患者の3分の1が、側頭-頭頂葉後頭葉に限局性の皮質浮腫と拡散制限という、他のNIID患者とは大きく異なる特徴的な画像所見を有していた。これらの所見は、発作性神経イベントが顕著な患者が、NIIDの大部分を占める個別のタイプであることを示している。
PDは、動作緩慢、安静時振戦、筋強剛、歩行障害を特徴とする一般的な神経変性疾患である。パーキンソニズムを主症状とするNIID患者はいくつかの研究により報告されており、NIIDの別タイプを構成すると考えられてきた。家族性パーキンソニズムのコホートでは、パーキンソニズムに罹患した家系の3/205 (1.5%) がNOTCH2NLCのGGCリピート伸長を保有していることが同定された。姿勢性振戦を特徴とするETもまた特に早期のNIIDと関連しており、これまでの研究で、NOTCH2NLCのリピート伸長がET患者の0.9-5.6%を占めることが判明している。われわれのコホートでは、パーキンソニズムが16例 (7.2%)、ETが20例 (9.0%) にみられた。特に、運動機能亢進症が3例あり、顎関節や下肢のジストニアを伴う同様のNIID症例が報告されている。これらの異なる運動障害は、同様の機械的・構造的基盤を有し、運動障害優位のNIIDを構成している可能性がある。
最近、早期に膀胱機能障害を発症し、永久的な膀胱瘻造設を必要とするNIID患者が報告された。認知障害や運動障害を伴わず、長年にわたって汎自律神経機能障害を呈する患者もいる。われわれの研究では、顕著な自律神経症状を呈する患者が19人 (8.5%) 存在し、罹病期間の中央値は4.0年であった。したがって、このような状況を説明するには、自律神経機能障害優位型のNIIDが必要である。ある研究では、5人のMSA患者でNOTCH2NLCにおけるGGCのリピート伸長が確認され、その全員が最初に重篤な排尿機能障害 (4人が尿閉、1人が尿失禁) を呈したことが報告されている。
これまでの研究で提唱されてきた重要な臨床型は、筋力低下優位型のNIIDである。筋力低下は中枢神経系病変と神経筋疾患の両方によって引き起こされることがわかっている。本研究は、一部のNIID患者が顕著な末梢神経筋障害による筋力低下を示すことを明らかにし、それらを「神経筋疾患優位型」と分類した。最近、Charcot-Marie-Tooth (5.5%) およびOPDM (3.3-16.7%) の患者において、NOTCH2NLCのGGC拡大が一連の研究で相次いで同定されている。NIID患者における末梢運動神経障害と空胞性ミオパチーの併発も報告されている。これらの所見は、末梢神経障害とミオパチーがNIIDの注目すべきタイプであり、疾患の初期には誤診されやすいことを示唆している。我々のコホートでは、患者の7.6%が末梢神経障害および/またはミオパチーを主訴として認めた。上記の4つの病型と比較すると、この病型の患者は発症時の年齢が若く、神経画像の変化も軽い傾向がある。さらに、NIIDでは末梢神経障害やミオパチーの発生率が過小評価されている可能性がある: 末梢神経障害やミオパチーの症状を伴わないNIID患者の最大90%に筋電図異常や筋生検異常がみられたが、これはこれらの障害が軽度または不顕性であるためである。
先行研究と合致して、DWIの皮髄境界高信号と白質病変 (虫部辺縁、MCP脳梁) はNIIDの特徴的画像所見であった。本研究では、皮髄境界病変は3.4%でのみ欠損しており、台湾人 (11.8%) および日本人 (18.2%) コホートよりも低かった。NIIDは成人白質脳症の原因疾患の中で重要なものの1つである。遺伝性白質脳症の成人患者の10%を占めており、これは皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症 (Cerebral Autosomal Dominant Arteriopathy with Subcortical Infarct and Leukoencephalopathy, CADASIL) より多い。成人発症非血管性白質脳症の患者群において、NIIDの割合は約20%である。
NIID患者は脳炎様発作の際に拡散制限とガドリニウム増強を示す局所性皮質浮腫を示すことが示されている。我々の研究では、脳炎様発作のみならず他の形態の発作性症状 (脳卒中様発作、発作性頭痛、発作性意識障害) を呈した患者でも同様の局所性皮質病変が認められた。発作性神経イベント優位型NIIDにおいて局所性皮質病変が認められた割合は32.3%と高く、他のタイプでは全く認められなかった。したがって、局所的皮質病変は発作性神経イベント優位型NIIDの特異的画像マーカーとして用いることができる。NIIDの発作性神経イベント中のMRI特徴と臨床特徴と画像所見のダイナミックな変化はMELAS (mitochondrial encephalomyopathy, lactic acidosis, and stroke-like episodes) の急性発作のそれらと極めて類似していることからMELASとNIID関連発作の間にはエネルギークリーゼや一過性低灌流などの共通した病態生理学的メカニズムが存在する可能性があると考えられる。
先行研究と一致して、ほとんどのNIID症例におけるNOTCH2NLC遺伝子の5′-UTRのGGCリピート数は60から200の間であり、リピート伸長の大きさに臨床型間の有意差はなかった。極端に大きなGGCリピート伸長 (> 300) を有する患者を報告した研究はほとんどない。認知機能障害、脳炎発作、筋力低下を呈した患者1例は376のリピート数を有し、OPDMを呈した患者1例は217と674の2つの長いGGC伸長を有し、筋力低下が優位なもう1例は517のリピート数を有していた。本研究では、300を超えるGGCリピート伸長を有する2人の患者を同定した (自律神経障害優位型のNIID患者1人は363、神経筋疾患優位型のNIID患者1人は525)。これまでの文献や我々の研究で報告されているように、極めて大きなGGCリピート伸長を有する患者は、神経筋疾患および自律神経障害優位のNIIDを呈する傾向があることが立証された。
本観察研究は、NIIDの臨床、画像、遺伝的特徴についての包括的知見を提供した。NIIDの突出した特徴は、5つの型に分類された。これによって、我々はNIIDの臨床分類のプロトコルを提唱した。本研究では、すべての患者は臨床的、病理学的、遺伝学的エビデンスによって診断された。また、発端者のみが含まれ、これによって臨床型の近親者による影響が避けられた。臨床および画像評価による長期間のフォローアップを行った完全な血統に基づくNOTCH2NLC変異キャリアの症候性および無症候性メンバーを対象とした研究は将来的に必要であり、これによって表現型-遺伝型相関がさらに明らかとなるだろう。

 

感想
稀な病気なのにこんだけNがいるのはほんとすごいことだし、こういう多施設研究をリーダーシップもってやる人がいる中国は別格だなー。よくよく勉強になりました。