ひびめも

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抗MAGニューロパチー患者におけるリツキシマブの有効性の予測因子

Predictive factors of efficacy of rituximab in patients with anti-MAG neuropathy.
Gazzola, Sébastien, et al.
Journal of the neurological sciences 377 (2017): 144-148.

 

1. 背景
ニューロパチー患者の約10%はモノクローナルガンマグロブリン血症 (monoclonal gammopathy, MG) を有する。一般的人口と比較してMG患者では末梢神経障害がより高頻度にみられる。
末梢神経障害で最も一般的なMGアイソタイプはIgMであり、その次にIgGおよびIgAが続く。IgM型MGと脱髄性ニューロパチーを有する患者の約50%は抗MAG抗体を有している。抗MAGニューロパチーは高齢発症パラプロテイン血症性脱髄性ニューロパチーであり、慢性免疫介在性ニューロパチーのスペクトラムに属する。古典的な臨床像は、緩徐進行性の左右対称性遠位型感覚障害を伴う感覚失調として特徴づけられる。近年、1つの研究において抗MAGニューロパチーの異種性が強調され、CIDP様のフェノタイプが1/3の患者でみられることが報告された。このニューロパチーは極めて強い機能障害をもたらす可能性があるが、特定の免疫療法が抗MAGニューロパチーにおいて有効であると対照試験で証明されたことはない。
リツキシマブ (rituximab, RTX) は、形質細胞を除くB細胞に発現するCD20を標的とするマウス-ヒトキメラモノクローナル抗体である。抗MAGニューロパチーに対するRTXの有効性は、非対照試験と、抗MAGニューロパチー患者の一部がRTXによる治療後に改善すると結論付けたランダム化比較試験 (RCT) の両方によって支持されている。最近の大規模RCTでは、抗MAGニューロパチーにおけるRTXの有効性は示されなかったが、この研究では、RTXの投与後に一部の患者の障害が改善した。
RTXの有効性を予測する臨床的、生物学的、神経生理学的因子を同定する試みとして、我々は、当院の神経筋部門で治療を受けた抗MAGニューロパチー患者33名を対象に、RTXの効果を解析した。

 

2. 方法
2006年から2013年の間に、ALS and Neuromuscular Disease of Marseille (La Timone hospital, France) においてRTXで治療された患者を対象とした。すべての患者は抗MAGニューロパチーのEFNS/PNS criteriaを満たした。ニューロパチーを起こすと考えられる疾患を有する患者 (糖尿病、甲状腺疾患、ビタミン欠乏、肝腎疾患、アルコール依存、自己免疫疾患、薬剤) は除外された。臨床所見に基づき、患者は2つのフェノタイプに分けられた: 古典的および非典型的。「古典的」グループでは、錯感覚、感覚脱失、感覚失調などの感覚大径線維機能障害を呈する緩徐進行性、距離依存性、対称性、遠位型ポリニューロパチーを呈した患者を含めた。非典型的フェノタイプは、急性または亜急性経過、初期症状の非対称性、初期症状が運動障害優位、下肢近位の筋力低下、上肢からの発症、のいずれかを満たすものと定義された。疾患の進行は、ONLS (Overall Neuropathy Limitation Scale) が治療開始前1年間で2点以上上昇した場合に、亜急性であると定義された。
MAGに対するIgM活性は、30人の患者で商用化されたELISAキット (Bühlmann, Basel, Switzerland) で測定され、3人の患者では精製ヒトMAGを用いたウェスタンブロッティングで測定された。
すべての患者で神経伝導検査が施行された。TLI (terminal latency index) は wrist-to-thenar/hypothenar muscle segment と elbow-to-wrist 伝導速度を比較するために用いられた。これは、以下の式によって計算された: D/(MNCV × DML) (Dは手首-電極間距離 [mm]、MNCVは運動神経伝導速度 [m/s]、DMLは遠位運動潜時 [ms] )。TLI ≦ 0.25 は遠位優位の脱髄を示唆する値である。
患者は375mg/m2の点滴を週4回、または1gの点滴を15日の間隔で2回受けた。追跡期間中、全例が定期的に臨床的、免疫学的、電気生理学的評価を受けた。障害はONLSスコアを用いて評価された。このスコアは、観察者間のばらつきをなくすために、同じ観察者によって評価された。神経学的評価は、ベースライン時、6ヵ月時、および治療後の最終フォローアップ時に記録した。RTX治療は、患者のONLSスコアがベースラインと比較して少なくとも1点減少した場合、成功とみなされた。

 

3. 結果
33人の患者がRTXを標準量で投与され、研究に組み入れられた。患者背景は表1 (非掲載) に示した。ニューロパチーの平均期間は8年 (1.5-24年) であった。20人の患者は6カ月以上のフォローアップを受け、平均して42±23ヵ月のフォローを受けた。
23人 (70%) がIgM型MGUS (IgM monoclonal gammopathy of unknown significance) を有しており、7人 (21%) は Waldenström’s macroglobulinemia (WM) を、3人 (9%) はホジキンリンパ腫を有していた。
神経伝導検査は運動感覚ニューロパチーを示していた。上肢のTLIデータは32人の患者で利用可能であった。TLI ≦ 0.25は26人の患者で認められた (79%)。
18人が非典型的フェノタイプを呈した。3人は非対称性の障害を呈し、5人は運動優位の症状を呈した。5人の患者は下肢近位筋を含む筋力低下を呈した。3人は上肢発症であった。13人が亜急性の経過を呈した。非典型的フェノタイプのうち14人 (78%) は抗MAG抗体力価が10,000 BTUを超えており、残りのうち3人はウェスタンブロッティングで陽性であった。残りの1人の患者はELISAの抗MAG抗体力価が6600 BTUと低力価であったが、神経生検で抗MAGニューロパチーに典型的な所見 (widening of myelin lamellae と ミエリン鞘上へのIgM沈着) を認めた。14人 (78%)で上肢のTLIが0.25以下であった。非典型的フェノタイプの患者のうち8人で神経生検が施行され、すべての患者が少なくとも一部でwidening of myelin lamellaeを認めるか、ミエリン鞘上のIgM沈着を認めた。TLI > 0.25の3人の患者は抗MAG抗体力価が10,000 BTUを超えていたか、神経生検で抗MAGニューロパチーに特徴的な所見が認められた。これらのデータは表2にまとめられている (非提示)。
18例 (55%) がRTX (375mg/m2) を週4回投与され、15例 (45%) が2gを2回に分けて投与された。4例 (12%) はRTXに上乗せ療法を受けた: 2例にはクロラミノフェンが投与され、2例にはシクロホスファミドとステロイドが投与された。残りの29例では、他の免疫抑制療法や免疫調節療法を受けた患者はいなかった。
ONLSスコアは治療6ヵ月後に0.8点 (21%) 有意に低下した (p=0.0002) 。ONLSスコアの1.15ポイント (29%) の改善は、最終追跡調査でも有意に維持された (p=0.004)。
平均抗MAG抗体力価は治療6ヵ月後に27%低下した (p=0.02)。血清IgM値の平均値とモノクローナル成分の平均力価は、治療6ヵ月後にそれぞれ17% (p<0.05) と40% (p<0.05) 減少した。
ONLSスコアは、RTX投与6ヵ月後に10/33例 (33%) で少なくとも1点改善し、最終フォローアップ時には6/20例 (30%) で改善した。RTX治療後6カ月時点での改善は、亜急性経過 (p=0.02) および発症時点での下肢近位部筋力低下 (p=0.02) と有意に関連し (表1)、最終追跡調査時点での改善は、発症時点の下肢近位部筋力低下 (p=0.03) とのみ有意に関連した。人口統計学的特徴 (現在の年齢、発症年齢、性別)、罹病期間、治療前のONLS中央値、基礎疾患である血液悪性腫瘍の種類 (MGUS、WM、リンパ腫)、レジメン、抗MAG抗体力価、血清IgM値、血清IgM値のピーク値、プロテインオラキア、治療前のベースライン電気生理学的パラメータに関して、奏効者と非奏効者の間に有意差は認められなかった (p>0.05)。ONLSスコアの改善は抗MAG抗体力価の低下とは相関しなかった。他の化学療法を受けた4例では、治療後に改善がみられた患者はいなかった。

 

4. 考察
我々の後方視研究では、33人中10人 (30%) の抗MAGニューロパチー患者がRTX投与後6カ月時点でONLSに基づいた改善を認めた。20人中6人 (30%) が最終フォローアップ (平均42±23ヵ月) で改善を認めていた。同様の奏効率は2つのRCTでも報告されている。Dalakasら (2009) はRTXで治療を受けた13人中4人 (31%) が治療後に改善を示したと報告した。Légerら (2013) は26人中4人 (20%) がRTXに有意な反応を示したと報告した。Légerらは主要アウトカムを12カ月時点で測定したが、我々は6カ月時点で測定した。これは、Dalakasらがほとんどの患者の改善が治療後3か月頃に始まり6カ月後には明らかとなると報告したからである。最終フォローアップでは、20人中6人 (30%) がRTX治療後に恒常的な改善を示していた。これらの結果は、Légerらによる12カ月時点での報告と一致していた。
抗MAGニューロパチーにおける完璧なアウトカム指標は存在しない。抗MAGニューロパチーは通常、感覚ニューロパチーであるが、RTXの有効性を評価するためには、感覚障害を測定するためにデザインされた尺度ではなく、障害尺度を使用した。臨床試験で利用可能な唯一の明確に定義された感覚スコアは、INCAT sensory scoreである。RIMAG試験の主要評価項目はINCAT sensory scoreであり、この試験では抗MAGニューロパチーにおけるRTXの有効性を証明することはできなかった。最近、このスケールはガンマグロブリン血症に関連したニューロパチーの変化を検出する感度が低いことが示された。我々は最近の研究で、QOLは感覚尺度との相関が低く、障害尺度との相関が高いことを示した。さらに、コクラン・レビューでは、抗MAGニューロパチーのメタアナリシスを評価するために、感覚スコアではなく、障害スコアを選択している。
以前に報告されたように、臨床的改善は、人口統計学的特徴、治療開始までの期間中央値、ベースライン時の電気生理学的パラメータとは関連していなかった。
われわれの研究では、治療6ヵ月後に観察されたRTXの有効性は、亜急性経過と発症時の下肢近位筋力低下と有意に関連していた。長期奏効は、発症時の下肢近位筋力低下とのみ有意に関連していた。これらの特徴は抗MAGニューロパチーの非典型的なものと考えられる。このコホートで報告された非典型的抗MAGニューロパチーの頻度の高さは驚くべきことかもしれない。非典型的抗MAGニューロパチーは、RTX治療を受けた抗MAGニューロパチー全体の54% (18/33) であるが、当科で追跡した抗MAGニューロパチー全体では18% (18/98) に過ぎない。これらの非典型的な患者は筋力低下と亜急性発症を呈していたため、非常に緩徐に進行する感覚性ニューロパチーという古典的な抗MAGニューロパチーの患者よりもRTXによる治療頻度が高かった。さらに、神経筋疾患の紹介センターである当科には、他の神経クリニックよりも多くの非典型的な患者が紹介されてくる。最近の研究で、抗MAG抗体を有する患者の臨床的特徴は不均一であり、これらの患者の1/3までがCIDP様の表現型を有する可能性があることが示された。われわれの非典型的患者は、高い抗MAG抗体価、特徴的な神経生検所見、遠位脱髄を有していたことから (表2)、これらの患者はCIDPではなく抗MAGニューロパチーであると考えられる。1人の患者では抗MAG抗体価が6600 BTUと低値であったが、正中神経のTLIが低く、神経生検でperipheral widening of myelin lamellae と IgM免疫グロブリンのミエリン沈着が認められ、抗MAGニューロパチーを強く示唆した。我々の患者は免疫グロブリンの静脈内投与やステロイドの投与を受けていなかったので、これらの非典型的な抗MAGニューロパチーが免疫調節によって改善したかどうかはわからない。
抗MAG抗体価および血清IgMガンマグロブリン値は、既報と同様に、治療後にそれぞれ27%および17%低下した。ベースライン時の反応性と血清IgM値や抗MAG抗体価との関連は認められなかった。抗MAG抗体価が持つ予測価値は文献上明らかではない。ある研究ではベースライン時の抗MAG抗体価が高い場合にRTXの有効性が高く、別の研究ではベースライン時の抗体価が低い場合にRTXの有効性が低かった。これらの相反する結果から、抗MAG抗体価に基づいた治療戦略を推奨するエビデンスはないことが示唆される。将来の治療戦略立案に役立つ新しいバイオマーカーを発見する必要がある。たとえば、ベースラインのB細胞活性化因子 (BAFF) レベルは、RTXに対する反応性と相関があるようである。
我々の研究では、臨床的改善は抗体価の減少と相関せず、抗体は治療後に完全には除去されなかった。同様の観察は関節リウマチ患者でもみられている。臨床的改善と抗MAG抗体価の減少の関連が認められないことから、一部の患者におけるRTXの効果は厳密な抗体介在性プロセスに関係しているとも言い切れないことが示唆された。我々の研究は後ろ向きであり患者人数も小さいが、RTXが抗MAG抗体ニューロパチー患者の一部でRTXが有効であり、特に亜急性経過や下肢近位筋力低下を持つ患者で有効であることを示した我々の結果は興味深い。この結果を確認し、RTXの有効性を予測するための免疫学的、臨床的、神経生理学的特徴を評価し、非典型的で亜急性の抗MAGニューロパチーの病態生理学的メカニズムを解明するためには、大規模コホートにおけるさらなる研究が必要である。

 

感想
面白い。非典型的MAGニューロパチーのほうが実はRTXに対する反応性がよいという論文。MAGの病態生理メカニズムに興味がわいてきた。今度はそういう論文読もう。