ひびめも

日々のメモです

アルコール関連末梢神経障害: システマティックレビューとメタ解析

Alcohol-related peripheral neuropathy: a systematic review and meta-analysis.
Julian, Thomas, et al.
Journal of neurology 266 (2019): 2907-2919.

 

前回の続きです。お酒怖い怖い。

 

1. 背景
アルコール濫用は、小脳失調、錯乱、認知機能障害、末梢神経障害を含む、多くの神経障害の原因となることが知られている。慢性アルコール濫用に関連した末梢神経障害は、大径かつ/または小径 (自律神経を含む) 線維に影響を及ぼすものであり、臨床病理学的にかなりヘテロな一群である。アルコール消費に関連した神経障害症状の記述の中で最も早期のものは、Lettsomによる1787年の記述で、上肢と比較して下肢に顕著な麻痺と感覚低下を呈すると報告されている。現在、慢性アルコール濫用者における末梢神経障害は、その特徴や病因の点で議論が分かれている。現在でも決着がついていないのは、慢性アルコール濫用によっておこる生理学的変化が複雑であることに一因があるのかもしれない。神経障害を引き起こすような、文献的に考察されている因子としては、アルコールの直接的毒性、栄養障害 (特にビタミンB1とB12)、肝硬変、アルコール飲料内の不純物 (鉛など)、耐糖能異常などが挙げられる。これらの因子が相互作用することにより、アルコール濫用における神経障害の最も重要な病理メカニズムが何なのかを考察することが複雑になるのみならず、異なる因子が異なる様式で神経システムを障害するために、疾患の特徴づけが行いにくくなっている。アルコール濫用者における神経障害においては、アルコールの毒性が唯一の病原因子として確立しているわけではないが、このレビューではこうした神経障害を「アルコール関連神経障害」と呼ぶ。
本システマティックレビューの目的は、アルコール関連末梢神経障害の臨床像を特徴づけること、補助的検査の結果の典型例を決定づけること、多様なリスク因子の重要性を確立すること、そして考えられる病因メカニズムを模索することである。本トピックに関連する文献は広きにわたるため、本レビューは末梢神経障害にのみフォーカスし、自律神経障害については議論を行わない。

 

2. 方法
ステマティックレビューなので割愛。

3. 結果
3-1. 研究の特徴
87個の文献を対象とした。29個が症例-対象研究で、52個が前向き/後ろ向きコホート研究で、2個がRCTで、1個が横断研究で、3個が地域住民を対象にした研究である。研究の選択プロセスを図1に示す。

図1. 対象文献の選択プロセス。

3-2. 頻度
3-2-1. 慢性アルコール濫用者における末梢神経障害の頻度: 41個の研究で、臨床診察と病歴、かつ/または電気生理学的検査を用いて、慢性アルコール濫用者における末梢神経障害 (主にlarge fiber neuropathy) の有無が調査されている。図2に示すように、34個の研究が病歴と診察を用いて診断した末梢神経障害の頻度に関するデータを提供しており、そのプールされた頻度は44.2% (CI 35.9-53%, n=2590) であった。図3に示すように、17個の研究ではNCSを用いて診断された末梢神経障害の頻度は、46.3% (CI 35.7-57.3%, n=1596) であった。Small fiber neuropathyの頻度に焦点を置いた研究は1つのみであり、98人中45人がlarge fiber neuropathyを、37人がsmall fiber neuropathyを呈していた。しかし、この研究の欠点として、small fiber neuropathyは、精神物理学的な手法であるQSTを用いてのみ診断しており、バイアスがかかっている可能性がある。Large fiber neuropathyを有していた45人の患者のうち、20人 (44.4%) がsmall fiber neuropathyを有していた。

図2. 慢性アルコール濫用者における、病歴と診察所見のみに基づいて診断した末梢神経障害の頻度のforest plot。

図3. 慢性アルコール濫用者における、NCSを用いて診断した末梢神経障害の頻度のforest plot。

これらの研究に基づけば、慢性アルコール濫用者における末梢神経障害は高頻度であるとわかる。また、NCSを用いることで、アルコール関連ニューロパチーの診断能力が改善する可能性がある。

3-2-2. ポリニューロパチー患者におけるアルコール関連末梢神経障害の頻度: Myglandは、NorwayのVest-Agderの一般集団の中で、アルコール関連ポリニューロパチーの頻度を調査した。1994年6月から199年10月の間に国内で診断されたポリニューロパチーの192例のデータベースに基づき、アルコール関連ニューロパチーの頻度は12.2/100,000であり、同地域内のポリニューロパチーの10%を占めていたことが報告された。Linらによって行われたTaiwanにおける研究では、ポリニューロパチーおよび多発単神経障害といった1つ以上の神経を障害する末梢神経障害の520症例においてその原因を調査した。この集団内では、8.7%がアルコール関連ニューロパチーであることが報告された。Vergheseらは、65歳以上の高齢集団内のポリニューロパチーの原因について研究を行った (n=402)。アルコール関連ニューロパチーは、加齢とともに減少する傾向を呈し、65-75歳のニューロパチーの原因としては6.1%、75-84歳の中では1.4%、85歳以上の中では0%であった。

3-3. 自然歴
3-3-1. 臨床的特徴: アルコール関連末梢神経障害は、月から年にわたる緩徐進行性の経過を示し、ほぼ常に上肢よりも下肢を強く障害し、遠位から始まる症状を示す。一般に、患者は主に感覚障害を主徴とし、異常感覚、しびれ感、振動覚の消失などが多く報告されている。固有感覚 (関節運動覚や関節位置覚) の低下は、先述した症状と比較すると報告数が減る。筋力低下などの運動症状も起こりうるが、頻度は比較的低く、上肢に障害が至ることはほとんどない。深部腱反射の低下または消失は頻度が高い所見である。有痛性ニューロパチーの報告もあるが数としては少数であり、すべての研究で共通した特徴とは言えない。アルコール関連ニューロパチーにおける疼痛の頻度は5つの研究で報告されており、図4に示すように、pooled prevalenceは42% (CI 29-56%, n=325) であった。

図4. アルコール関連末梢神経障害患者における疼痛の頻度を示したforest plot。

3-3-2. 神経伝導検査と筋電図: 30個の研究でNCSが施行されていた。一般に、下肢の神経は上肢と比較してより高度に障害されていた。4つの研究が感覚神経のみの障害を報告していたが、10個の研究は感覚と運動神経の両者の障害を報告した。これは、運動神経は疾患後期の重症段階にならないと障害がみられないということの反映なのかもしれない。異常の主体は振幅の低下であり、軸索障害として合致していた。H波とF波の潜時はルーチンで報告されてはいないものの、報告のあるアルコール関連末梢神経障害に関する文献では、延長がみられていた。橈骨神経SNAP、脛骨神経CMAP、腓腹神経SNAPは、正中神経や尺骨神経、腓骨神経とは異なり、絞扼性ニューロパチーで保たれるため、注目に値する。腓腹神経は最も障害が強いことで報告が多い神経である。次に障害されやすいのは、脛骨神経の運動機能である。橈骨神経のSNAPを検査していたのは1つの研究のみであったが、同研究ではSNAP振幅低下が報告されていた。
アルコール関連末梢神経障害患者における筋電図所見を報告していた研究は9つであった。運動単位の動員パターン減少は、頻繁に報告されている。多くの患者では、脱神経電位 (Fib/PSW) も認められていた。筋電図における脱神経所見の頻度は、筋ごとに異なり、下肢遠位になるほど頻度が高くなったため、距離依存性パターンが示唆された。しかし、ある研究では針筋電図所見は正常であったことが報告されており、感覚神経のNCSの異常が主体であるニューロパチーの初期段階にあることを反映していた可能性がある。

3-4. リスク因子
3-4-1. アルコール摂取: 驚くほどのことでもないが、アルコール摂取量はニューロパチーの頻度と正の相関関係にあることが複数の研究から報告されている。Wetterlingらは、慢性アルコール濫用者 (n=242) における末梢神経障害の頻度を調査し、コホート全体を飲酒パターンに分けて分析した。この飲酒パターンには、episodic drinkers (禁酒期間が5日以上と長い低頻度かつ不規則な飲酒者で暴飲を伴う)、frequent heavy drinkers (週に3回以上のアルコール消費)、frequent intoxication (週に1回以上の酩酊)、continuous drinkers (暴飲はないがほとんど毎日飲酒している) が含まれる。同研究では、末梢神経障害の頻度はcontinuous drinkersとfrequent heavy drinkersで高く (29.6%と29.9%)、episodic drinkers (11.3%) では低いことが示された。同様に、Vittadiniら (n=296) は、主観的症状は比較的短期間の濫用 (1-5年) で現れるが、重度のポリニューロパチーは10年の経過がないと完成しないことを示し、アルコール濫用期間が最も重要なリスク因子であることを報告した。Ammendolaらは、アルコール依存者を末梢神経障害の有無で二分してリスク因子を調査した。同研究では、末梢神経障害を有する者ではアルコール消費期間が長いとともに、TLDE (total lifetime dose of ethanol) も高いことが示された (n=76)。さらに、TLDEと腓腹神経SNAP振幅が逆相関することも示された。TLDEは、他の6つの研究でも共通したリスク因子として同定されており、末梢神経障害の頻度と正の相関を認めた。Angelinkらによる研究では、末梢神経障害とアルコール濫用期間、末梢神経障害と加齢に相関が報告されており (n=35)、またPessioneらはアルコール依存の重症度、TLDE、他のアルコール関連疾患の存在が、末梢神経障害の存在と関連していたことを報告した (n=90)。これらとは反する報告として、2つの研究ではTLDEと神経障害の関連を見いだせていなかったが、これらの研究は少人数を対象とした研究であったことは特筆すべきである (n=17 と n=46)。

3-4-2. 性別: 性差とアルコール関連神経障害のリスクとの間に有意な関係があることを明らかにした著者もいる。Vittadiniらによる大規模な研究を含むいくつかの研究では、男性における有病率の増加が認められている。しかし、Behseらは、小規模な研究 (n=37) に基づくものではあるが、女性は重症の神経障害に罹患しやすく、男性は軽症の症例に多くみられることを明らかにした。これらの研究ではアルコール摂取量を補正していないため、アルコール性ニューロパチーに対する生物学的脆弱性とは対照的に、男性被験者のアルコール摂取量が多いことが原因である可能性がある。

3-4-3. 遺伝子: Roslerらは、HLA分布と多発性神経障害を含むアルコール依存症の身体的影響との関連を調査し、アルコール関連神経障害と特定のHLA型 (n = 63) との間に関連はないことを示した。Masakiたちは、日本のコホートにおいて、アルコール関連多発神経障害におけるアルデヒド脱水素酵素-2 (ALDH2) のGlu-487→Lys変異 (一塩基多型) の役割を調査した。ALDH2*2変異アリルは不活性型であり、毒性があると考えられているアセトアルデヒドの蓄積を引き起こす。この研究では、ALDH2*1/2*1のアルコール依存症患者21人とALDH2*2/2*1のアルコール依存症患者21人を比較した。その結果、腓骨神経と正中神経のSNAP振幅は、ALDH2*2ヘテロ接合体ではALDH2*1ホモ接合体よりも有意に低かった。したがって、これはアルコール関連神経障害の重要な危険因子である可能性があり、また、アセトアルデヒド毒性がアルコール関連神経障害において重要である可能性を示している。しかし、ALDH*2対立遺伝子は東アジア人に多く見られる (よく知られた「アジア型アルコール性紅潮症候群」の原因である) が、ヨーロッパ人には基本的に見られないため、この特定の遺伝的危険因子は集団特異的であることに注意することが重要である。
また、家族歴は、アルコール性神経障害の危険因子として関与している。Ammendolaらは、神経障害を有するアルコール乱用者のうち、神経障害を有しない者よりもアルコール依存症の家族歴を有する者の割合が高いことを明らかにした。同様に、Pessioneらは、親のアルコール依存症歴と神経障害の有無との間に有意な関係があることを明らかにした。家族歴と神経障害との関連は非常に顕著であり、神経障害を有する患者では、そうでない患者と比較して、親にアルコール依存症の既往がある率が4倍高かった。著者らは、神経障害発症の遺伝的リスクや関連する環境因子が存在する可能性を示唆しているが、これが遺伝的リスク因子の結果なのか環境的リスク因子の結果なのかは不明である。

3-4-4. 消費するアルコールの種類: 興味深いことに、Vittadiniらは、アルコールの種類と神経障害との間に関係があることを発見した。特に、この研究では、ワインを飲む人の方が、ビールやスピリッツだけを飲む人よりも、NCSの結果が悪いことが示された。著者らは、これはワイン飲酒者が他のアルコール乱用者よりも多くのエタノールを摂取していることによる異常である可能性を指摘しているが、ワインには他の飲料よりも有毒な不純物が多く含まれている可能性があるという別の説明も提示している。この点については、他の研究では議論されていない。

3-4-5. 低栄養の役割: 低栄養は、アルコール関連神経障害の病態に関与しているということが、複数の著者から指摘されている。しかし、低栄養が果たす役割については、相反するデータがある。低栄養と神経障害の関係を調査した研究の大半は、脚気に関する既存の知識を利用して、病因論的要因としてのチアミン欠乏に焦点を当てている。ほとんどの場合、利用可能な文献では、低栄養がなくてもアルコール関連神経障害が起こる可能性があり、アルコール関連末梢神経障害の有病率および重症度は栄養状態と相関しないことを示している。少数ながらチアミン欠乏を原因と考える研究は存在するが、一般的にこれらの研究は古いか、エビデンスの質が低い。別の説明としては、アルコール関連神経障害に伴う栄養欠乏が神経障害のリスクを増大させるか、またはチアミン欠乏性神経障害がアルコールまたはその代謝物の毒性作用による神経障害にしばしば重畳するということが考えられる。
Koikeらによる興味深い研究では、チアミン欠乏性神経障害、チアミン欠乏を伴わないアルコール性神経障害、チアミン欠乏を伴うアルコール性神経障害の患者の臨床的および病理学的特徴を比較している。この研究では、アルコール関連神経障害とチアミン欠乏性神経障害は臨床的にも病理学的にも異なることが示された。また、アルコール性神経障害の臨床病理学的特徴は極めて均一であるが、チアミン欠乏症の併発によって変動が生じることも示された。具体的には、アルコール性神経障害は緩徐に進行する感覚優位の症状を呈し、一方、チアミン欠乏症は歩行障害を伴う急性進行性 (1ヵ月未満が56%) の主に運動優位の症状を呈したが、より多様性があり、感覚優位の症例も含まれていた。腓腹神経生検では、アルコール性神経障害では主に小線維の減少、不規則な髄鞘形成、分節性脱髄脱髄がみられたが、チアミン欠乏性神経障害では大径線維の減少が多く、神経周膜下浮腫 (subperineural oedema) がみられた。チアミン欠乏とアルコール過剰の両者を有する患者群では、このような臨床病理学的特徴のスペクトルにまたがる特徴が、臨床所見と生検所見に含まれていた。著者らは、アルコール関連神経障害における栄養の役割をめぐる現在の混乱は、あるシリーズではチアミン欠乏が検出されておらず (したがって患者の特徴にばらつきがある)、別のシリーズでは栄養不良の役割が過度に強調された結果であると判断している。彼らはまた、液体クロマトグラフィーによる高感度のチアミンレベル測定が1980年代まで普及していなかったため、栄養状態の評価が不十分であった可能性があると指摘している。

3-4-6. 肝機能障害の役割: 慢性肝機能障害と神経障害との関連は、複数の著者によって指摘されている。このことから、アルコール性末梢神経障害の発症には、肝機能障害、特に肝硬変が重要であると推測する著者もいる。Zambellisらは、アルコール常用者の多発性神経障害は肝機能障害と有意な相関があることを見いだした。Vittadiniらは、慢性アルコール中毒者における肝疾患と多発性神経障害の重症度との間に有意な相関関係があることを見出した。逆に、肝機能障害と神経障害の間に有意な関係を見いだせなかった研究もある (n=383)。
2つの小規模な研究では、アルコール性肝疾患のある人とない人の末梢神経障害の発生率を比較し、それぞれの要素の重要性を明らかにしている。ThuluvathとTrigerは、アルコール性肝疾患患者の45%、非アルコール性肝疾患患者の22%に末梢神経障害があることを明らかにした (n=64)。Kharbandaらは、アルコール性肝硬変患者と非アルコール性肝硬変患者 (n=33) を比較し、神経障害の発生率はアルコール性肝硬変で88%であったのに対し、非アルコール性肝硬変では56%であったことを明らかにした。この差は有意ではなかったため、著者は神経障害の原因として最も重要なのは肝機能障害であると判断した。しかし、この研究は小規模であるため、このような結論を導くだけの力はないように思われる。これらの研究は、肝機能障害がそれ自体神経障害の原因であり、アルコール関連神経障害の一部の症例を説明できる可能性があることを示している。
Knill-Jonesらは、末梢神経障害と肝硬変/肝炎の両方を有する14人の小グループを研究した。このグループのうち4人はアルコール性肝硬変であった 。アルコール性肝疾患と非アルコール性肝疾患の神経生検結果は同様であった。同様に、Behseらは、末梢神経障害を有する慢性アルコール中毒者のコホートにおいて、組織学的異常は肝疾患の有無とは無関係であることを明らかにした (n=37)。
肝機能障害の役割に関する利用可能なデータは、現在のところ結論が出ていない。肝機能障害とアルコール中毒はそれぞれ独立して神経障害を引き起こす可能性があり、両者には重複が多い。また、併存する肝機能障害がアルコール関連末梢神経障害の危険因子である可能性もある。これらの相互作用をより深く理解するためには、さらなる研究が必要である。

3-5. 生検所見
13個の研究が、アルコール関連末梢神経障害患者の腓腹神経または皮膚生検所見を提示していた。これらのデータは、時折互いに相反するものであった。多くの研究では軸索変性が主要な病理変化であると報告されているが、脱髄と再髄鞘化の所見を記述した報告も少数ながら存在した。アルコール関連末梢神経障害は有髄線維の重度の脱落によって特徴づけられる。小径線維の著明な脱落も見られ得るが、報告によるばらつきが大きい。データによれば、アルコール関連神経障害では小径と大径線維はどちらも脱落することが示されているが、小径線維の脱落のほうが一般に高度である。Koikeらは、18人の有痛性アルコール関連多発神経障害患者における腓腹神経生検結果を評価し、罹病期間が短いほど小径有髄線維の脱落が目立ち、5年以上の経過であれば比較的小径線維は豊富に認められ大径線維の脱落が目立ったことを示した。
表皮の神経線維密度は2つの研究で評価されており、その両者で下肢遠位で神経線維密度が低下傾向となることが示されている。この所見は、距離依存パターンが支持するものである。生検所見間で時折みられる相互に矛盾する結果は、アルコール関連末梢神経障害における病原因子の複雑な相互作用を反映するものと思われる。したがって、この領域における更なる研究が必要であることが示唆される。

3-6. 炎症の役割
少数ながら、生検サンプルの細胞免疫組織化学や血液の組織学的分析を通じて病態生理学を調べた研究もある。Michałowska-Wenderらは、アルコール関連神経障害患者 (n=31) と正常対照の血清中の炎症性サイトカインを測定した。具体的には、TNF-α、MCP-1、GRO-αを測定した。TNF-αもMCP-1も患者と対照の血清間で有意差はなかった。しかし、GRO-αはアルコール関連多発性神経障害の患者で有意に高かった。GRO-αの役割は不明であるため、アルコール関連神経障害の病態を明らかにすることはほとんどできない。GRO-αは一次および二次炎症反応に関与し、好中球の走化性因子であり、腫瘍形成に関与することが知られているが、アルコール性神経障害における特異的な関連性は不明である。

3-7. 酸化ストレスの役割
Haslbeckらは、免疫組織化学を用いて、様々な多発神経障害患者 (n=31) の腓腹神経における累積酸化ストレスのマーカーであるNε-カルボキシメチルリジン (CML) の局在を研究した。CMLはアルコール関連多発性神経障害患者 (n=4) の腓腹神経周囲で同定され、これは神経のこの側面における機能障害を示している可能性がある。著者らは、神経周囲にはバリア機能があると考えられているため、これが神経内環境の病理学的変化を引き起こす可能性があると推測している。現在のところ、これらの所見を支持または補足する研究はなく、病態生理学的プロセスに関するさらなる研究の必要性が強調されている。

3-8. 管理
4件の研究がアルコール関連末梢神経障害患者の管理について論じている。これらの研究では、禁酒とビタミンの投与が取り上げられた。

3-8-1. 禁酒: Hawleyらは、禁酒し、通常の食事を摂取し始めたアルコール関連神経障害患者11人を追跡調査した。その結果、数日以内に感覚症状が改善し、数週間から数ヵ月、最も重症の症例では2年以上にわたって筋力が臨床的に改善することが確認された。しかし、左右対称性の神経障害が完全に消失するわけではなく、足の振動覚や痛覚の軽度の障害やアキレス腱反射の消失が持続した。

3-8-2. ビタミン: Petersらは、多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験を実施し、感覚症状/徴候を伴うアルコール関連多発性神経障害の治療薬として、2種類のビタミンB群製剤を比較した (n=253)。この研究では、ビタミンB1、B2、B6、B12を含む製剤と、これらにB9 (葉酸) を加えた新しい製剤が比較された。患者は治療開始後6週と12週で追跡された。12週間の追跡調査では、これらの製剤はいずれもプラセボと比較して有効性を示した。6週後と12週後の両方で、2点識別覚、母趾振動覚、疼痛強度に有意な改善がみられた。また、目と鼻の協調運動、膝蓋腱反射とアキレス腱反射についても、プラセボと比較して両群とも12週で改善がみられた。新旧製剤間に有意差はなかった。この研究は、このような製剤がアルコール性多発性神経障害の管理に有効であることを示したが、葉酸の添加は有意な利益をもたらさなかった。
Woelkらは、アルコール性多発神経障害の治療において、ベンフォチアミン、神経栄養性ビタミンB群とベンフォチアミンの併用、およびプラセボを比較する3群ランダム化二重盲検プラセボ対照試験を行った (n=84)。治療期間は8週間で、2週間間隔で計5回の検査を行った。末梢神経機能は、振動覚閾値、McGills疼痛質問票による痛みの強さ、麻痺の評価、遠位触覚、協調運動、腱反射で評価された。この研究では、ベンフォチアミン+神経刺激性ビタミンB群では、プラセボ群に対して統計学的に有意な効果は認められなかった。ベンフォチアミン単独投与群では、母趾振動感覚、運動機能、神経障害総合スコアが有意に改善し、有害事象も認められなかった。この試験でベンフォチアミンの有効性が示されたが、併用治療群で有意な改善がみられなかった理由は不明であり、この試験結果には疑問が残る。
Fennellyらは、アルコール関連神経障害の患者29人を対象に、ビタミン療法に対する反応を評価した。患者は入院し、チアミンニコチン酸パントテン酸ピリドキシン葉酸ビタミンB12を含む食事療法を受けた。さらに、患者はチアミンの筋肉内注射を受けた。この研究では、治療に対する反応は神経障害の重症度と重度の肝硬変の有無によって異なることがわかった。チアミン補充により、グレードIの神経障害 (痛覚や振動覚は低下しているが反射は正常であるという客観的徴候) の患者7/13人と、グレードII (顕著な感覚障害と反射低下) の神経障害の患者3/8人の神経障害の徴候が、4週間以内に改善した。グレードIII (重度感覚障害、反射消失、drop foot、筋力低下) の神経障害では、4週間以内に臨床的改善を示した患者はいなかったが、4/8は3-6ヵ月にわたって改善を示した。チアミンに反応しなかった患者のうち、グレードIの神経障害患者2人とグレードIIの患者1人は、ニコチン酸の補充に反応した。グレードIの神経障害患者1人は、パントテン酸の補充に反応した。グレードIIIの神経障害患者1人は、ビタミンB6の補充が奏効した。この研究は、チアミン補充と同様に、ニコチン酸パントテン酸、ビタミンB6の低値の補正が、アルコール関連末梢神経障害の改善につながることを示している。
これらの結果から、ビタミンの補充はアルコール関連神経障害にプラスの治療効果を及ぼすと考えられる。この機序は現在のところ不明であるが、考えられる説明のひとつは、アルコール関連神経障害を悪化させるビタミン依存性神経障害を解消することである。

4. 結論
まとめると、本研究はアルコール関連末梢神経障害に関して以下の結論を出した。
・アルコール関連末梢神経障害は一般的であり、慢性アルコール中毒者の44%に徴候・症状がみられ、多発神経障害の10%を占める。アルコール多飲者の不顕性ニューロパチーの同定にNCSを用いると、その割合はより高くなる。
・アルコール性神経障害患者の痛みの有病率は42%である。この数値は少数の研究に基づくものであるため慎重に解釈されるべきであるが、アルコール関連神経障害が痛みの少ない神経障害の1つであることを示唆している。研究および臨床において、神経障害の症状をより注意深くマッピングし、記述する必要がある。
・アルコール関連末梢神経障害は、主に軸索性、長さ依存性、感覚運動性神経障害であり、感覚優位の特徴を有する。
・TLDEは現在、アルコール関連末梢神経障害発症の最も有効な危険因子である。その他の危険因子としては、アルコール摂取のパターン、親のアルコール乱用歴、男性の性別、ALDH2の変異などがある。
・肝機能障害と栄養不良、特にチアミンの欠乏がアルコール関連神経障害の病的プロセスの中心であるとする著者もいる。この総説で示されたエビデンスは、そうではなく、これらがさらなる危険因子であるか、あるいはアルコールの神経毒性作用によって引き起こされる神経障害とは別に、神経障害を引き起こす可能性があることを示唆している。しかし、エタノール中毒と神経障害との関係はまだ証明されておらず、文献ではまだ取り上げられていない他の危険因子の可能性もある。そのような例を挙げると、喫煙とアルコール依存症との関連はよく知られており、喫煙は糖尿病患者など他の集団においても末梢神経障害のリスク増加と関連している。これらの因子間の関係を調査し、エタノール消費と神経障害の関係を翻訳的に検討するためには、さらなる研究が必要である。
・アルコール関連神経障害の患者に対する最適な管理戦略に関する文献は、現在のところほとんどない。現在のところ、ビタミンの補給が最もエビデンスがあるように思われる。
・NCSは末梢神経障害の有無と重症度を判定するのに優れているが、すべての研究で一貫して使用されているわけではない。さらに、使用される神経生理学的パラメータにも一貫性がなかった。PN患者の診断には、下肢と上肢のNCSを定期的に使用することが勧められる。
・アルコール性ニューロパチーにおけるsmall fiber neuropathyの有病率に焦点を当てたデータは、現在のところほとんどない。今後の研究の焦点とすべきである。

 

5. 限界
アルコール濫用の定義や末梢神経障害の診断方法に関しては、研究間で大きな異質性があった。アルコール濫用/中毒の定義は、DSMのような基準を用いることもあれば、恣意的に用いることもあり、さまざまであった。神経障害に関しては、有病率について議論する際に、患者が臨床的特徴に基づいて診断されたのか、神経伝導検査に基づいて診断されたのか、あるいはその両方に基づいて診断されたのかを明確にすることを本研究の目的とした。アルコール濫用の定義にばらつきがあることは解決できなかったが、今回のレビューでは慢性濫用者でない患者を除外し、可能な限り研究間でアルコール摂取期間と濫用期間を区別することを目指した。
本レビューでは、発表日の制限は適用しなかった。これは、問題となっているトピックに関連するすべての文献をレビューするために、意図的に決定されたものである。しかし、収録された文献は1964年までさかのぼるため、最新の研究によって、収録された患者の中にアルコール中毒以外の神経障害の原因が特定されている可能性がある。チアミン欠乏を測定するために使用された手段に異質性があることも、古い文献が含まれていることの結果である。いくつかの研究では、チアミンの状態を判別するために、赤血球トランスケトラーゼ活性測定法という、精度の低い間接的な方法が用いられている。
栄養と肝機能については、すべての研究で扱われているわけではない。したがって、いくつかの研究では、神経機能障害がどの程度までアルコール中毒の結果であるのかを確かめることはできない。

 

感想
明日から新婚旅行に行ってきます。飲みすぎないよう注意しようと思いました。