ひびめも

日々のメモです

葉酸欠乏性ニューロパチーの臨床病理学的特徴

Clinicopathologic features of folate-deficiency neuropathy.
Koike, Haruki, et al.
Neurology 84.10 (2015): 1026-1033.

 

この前、大量飲酒者の葉酸欠乏性ニューロパチー疑いを見ました。葉酸欠乏性ニューロパチーって、末梢神経障害患者で葉酸測って低けりゃ診断できるもんだと思ってたんですが、アルコール性ニューロパチーとの鑑別や、CIDPの重畳の可能性など、議論すべき点が意外に多くある、難しい末梢神経障害だと感じました。なので読みました。

 

1. 背景
葉酸は、水溶性ビタミンBの一種であり、典型的には新鮮な緑色野菜、マメ科植物、柑橘類、レバーなどに含有されている。しかし、葉酸は調理中の熱によって容易に変性してしまう。葉酸欠乏は、摂取量低下、吸収障害、妊娠や授乳中の葉酸需要の増大、抗腫瘍薬、抗てんかん薬、経口避妊薬、慢性アルコール消費などによって引き起こされる。葉酸欠乏は、免疫学的、血液学的、皮膚科学的、心血管的、神経学的問題を含む、数多くの合併症を引き起こす。葉酸欠乏による神経学的障害は多様であり、胎児における二分脊椎、抑うつ認知症、視神経障害、脊髄症、末梢神経障害などが含まれる。これらの中で、脊髄症は亜急性連合脊髄変性症 (subacute combined degeneration) と呼ばれ、後天的な神経学的合併症の中で最も有名である。しかし、葉酸欠乏によって引き起こされるニューロパチーの本質はいまだよくわかっていない。
今回、我々は葉酸欠乏によって引き起こされたニューロパチーの臨床病理学的特徴を評価した。栄養障害患者では、複数のビタミン欠乏が単一患者の中で同時に起こりうるため、個々のビタミン欠乏の特徴をぼかしてしまう可能性がある。さらに、栄養障害の特徴に、エタノールの直接的な毒性が重複してしまう可能性もある。したがって、我々は栄養障害性ニューロパチー患者において3つの主要なビタミンB (チアミンコバラミン葉酸) の値を測定し、葉酸欠乏のみを呈した患者を評価した。さらに、慢性アルコール消費患者は除外された。この研究は、葉酸欠乏性ニューロパチーの包括的な臨床病理学的研究の中で、こうした修飾因子の影響を除外した初めての研究である。

 

2. 方法
2-1. 患者: 2005-2013年の間に診断的腓腹神経生検のために名古屋大学病院を受診した連続症例の中で、次の基準を満たした症例が研究に組み入れられた: (1) ニューロパチーの存在が腓腹神経生検によって病理学的に確認された、(2) 血液中チアミン、血清コバラミン、血清葉酸値が神経生検の前に測定された、(3) これら3つのビタミンB亜大の1つ以上が参考基準範囲よりも低値であった、(4) 欠乏ビタミンの補充または食事療法の実施によってニューロパチーの進行が停止したか改善がみられた。慢性アルコール消費患者では、栄養障害が存在しなくても、疼痛や小径線維優位の軸索脱落を伴う、緩徐進行性の感覚優位のニューロパチーを呈することから、1日に100g以上のエタノールの消費のある患者は除外された。すべての患者は神経学的評価、ルーチン血液検査、神経伝導検査を受けた。糖尿病、甲状腺機能異常、腎不全、傍腫瘍症候群、自己免疫性疾患などはニューロパチーを起こす可能性があるため、これらの並存疾患のある患者は研究には組み入れなかった。

2-2. 標準的プロトコル承認/登録/患者の同意: この研究は名古屋大学病院の倫理委員会で承認され、すべての患者から書面による同意を取得した。

2-3. ビタミン濃度の評価: チアミン濃度は全血液体クロマトグラフィーで測定され、チアミン欠乏は先行研究に基づいて20 ng/mL未満と定義された。コバラミン葉酸の血清濃度はCLEIAで測定され、それぞれ200 pg/mL および 3.0 ng/mL未満が欠乏症と定義された。さらに我々は、日本のニューロパチー以外の神経疾患患者の140サンプル (62.9 ± 17.2 years) を用いてこれらの参考基準値の妥当性を確認した。これらの値は、日本人患者のコバラミンおよび葉酸値の5%パーセンタイルと一致した。

2-4. 電気生理学的評価: 全患者で、腓腹神経生検前に次の標準的手法を用いて神経伝導検査を行った。運動神経伝導検査は、正中神経に関しては短母指外転筋、脛骨神経に関しては短拇趾外転筋での記録を行った。感覚神経伝導検査は逆行法で行い、正中神経に関してはリング電極を用いて第2指から、腓腹神経に関してはバー電極を用いて踵部から記録を行った。CMAPとSNAP振幅はbase to peakで測定した。正常基準値は先行研究に基づいて設定した。

2-5. 病理学的評価: 全患者が腓腹神経生検を受けた。標本は2分割された。一方は、0.125 Mカコジル酸塩バッファー (pH 7.4) 中の2.5%グルタルアルデヒドで固定し、形態的評価のためにエポキシレジンに包埋した。グルタルアルデヒド固定標本の一部は、解きほぐし線維の作成のために用いた。もう一方は、10%ホルマリン溶液で固定し、パラフィン包埋した。セクションを分割し、ヘマトキシリンエオジンとコンゴーレッドで染色した。正常対照値は先行研究に基づいて設定した。

2-6. 統計解析: 定量的データは平均 ± SDの形で表示した。統計解析は、χ2検定またはMann-Whitney U検定を用いて行った。p < 0.05を統計学的有意と考えた。

 

3. 結果
3-1. 葉酸コバラミンチアミン欠乏によるニューロパチーの栄養学的プロファイル
54人の患者がチアミンコバラミン葉酸の単独または混合欠乏の基準を満たした。これらの患者の中で、チアミン単独欠乏は14人、葉酸単独欠乏は22人であった。コバラミン単独結合は1人の患者でのみ認められた。その他の17人は混合型欠乏症であった。
慢性アルコール消費 (i.e. エタノール100g/日以上) は、葉酸欠乏症の22人中4人、コバラミン欠乏症の1人中0人、チアミン欠乏症の14人中2人、混合型欠乏症の17人中1人で有意なビタミン低下に寄与していると考えられた。
18人の患者が、慢性アルコール消費のない葉酸欠乏性ニューロパチーの基準を満たした (表1)。この群は、32-81歳の14人の男性と4人の女性から成る (62.9 ± 15.7 years)。吸収障害を示唆する症状や徴候を呈した患者はいなかった。

3-2. 葉酸欠乏性ニューロパチーの臨床病理学的特徴
3-2-1. 神経学的特徴: 葉酸欠乏のみを呈し、慢性アルコール消費のない18人の患者は、全員が下肢優位の対称性ポリニューロパチーを呈した (表1) 。初期症状は、下肢遠位の感覚低下が13人、歩行の不安定性が4人、下肢筋力低下が1人であった。症状は緩徐に下肢の近位部に上行した。上肢遠位部は、8人 (44%) の患者でその後に症状が現れた。進行様式は基本的に慢性経過であり、月から年の経過であったが、1人の患者 (患者4) では比較的急速進行性の運動感覚ポリニューロパチーを呈し、ほぼベッド上の状態まで悪化した。初期症状から生検までの期間は23.5 ± 29.2か月であった。11人の患者 (61%) は四肢で運動および感覚の両方に障害を呈したが、7人 (39%) は純粋感覚性ニューロパチーを呈した。感覚障害のモダリティとしては、多くの患者 (12人; 67%) で、振動覚や関節覚などの深部感覚が、痛覚や温度覚といった表在覚の障害と比較して目立っていた。Romberg徴候は16人中9人 (65%) で陽性であった。1人の患者 (6%; 患者4) では手の偽性アテトーゼがみられた。自発痛は6人で報告された。上腕二頭筋腱、膝蓋腱、アキレス腱反射は、10人 (56%)、15人 (83%)、18人 (100%) で減弱または消失していた。上腕二頭筋または膝蓋腱反射は、それぞれ4人 (22%) および 1人 (6%) で亢進していた。しかし、すべての患者で足底屈曲反射が正常にみられた。

3-2-2. 血液データと電気生理学的特徴: 貧血 (Hb 10g/dL未満) は3人 (17%) でのみ認められたが、大球化 (MCV 100fL以上) は7人 (41%) で認められた (表1)。血清ホモシステイン値は7人 (患者2, 3, 6, 9, 14, 16, 18) で測定された。ホモシステイン値は正常値 (13.5 nmol/mL) と比較して異常に高値であり、これらの患者では機能的にも葉酸が欠乏していることが示唆された。銅は15人 (患者1-3, 6-15, 17, 18) で測定されており、正常範囲内であった。脊椎MRIは11人 (患者2-4, 6, 7, 10-15) で撮像されており脊髄内の異常信号は認められなかった (表2)。


神経伝導検査では下肢優位の軸索性ニューロパチーが示唆された (表3)。CMAP振幅は軽度から中等度に低下しており、SNAP振幅は重度に低下していた。しかし、運動および感覚神経伝導速度と遠位潜時は、CMAP振幅とSNAP振幅の低下と比して、比較的保たれていた。

体性感覚誘発電位は患者3, 11, 14, 15で評価されており、中枢運動伝導時間 (CMCT: central motor conduction time) は患者3, 11, 14で測定された。これらの電気生理学的評価では中枢伝導の異常は示唆されなかった。

3-2-3. 腓腹神経の病理: 腓腹神経生検標本も、軸索性ニューロパチーを呈していた (表3)。クロスセクションの光学顕微鏡による観察では、神経内膜浮腫はほとんどみられないかあっても軽度であった (図A)。長期経過のニューロパチー患者では、有髄線維密度の低下に比してミエリンオボイドはほとんど観察されず、患者3と12では1つも認められなかった。大径有髄線維密度は736 ± 815 fibers/mm2 (正常対照値の24%) であり、小径有髄線維密度は1836 ± 1601 fibers/mm2 (正常対照値の36%) であった。軸索再生を反映する有髄線維の軸索芽は、長期経過のニューロパチー患者において観察された (患者3, 10, 12)。電子顕微鏡では、軸索萎縮を反映するニューロフィラメント密度増加有髄軸索が多く認められた。さらに、頻度は低いものの、突出した現在進行形の軸索変性を認めた患者では、有髄軸索内でのミトコンドリアなどのオルガネラの蓄積が認められた。Büngner bandsも有髄線維の脱落と関連して認められた。無髄線維の密度も減少していたが、有髄線維の脱落と比較すると全体的に軽度であった (19715 ± 9578 fibers/mm2, 正常対照値の64%) (図B)。全体として、病理学的には大径線維優位の脱落を特徴としていた。解きほぐし線維の観察では、軸索変性が突出しており、まばらに脱髄や再髄鞘化がみられた。長期経過のニューロパチー患者では、急性変性を示唆する大きなミエリンオボイドの連続体よりも、陳旧性の軸索変性を示唆するまばらな小さいミエリンオボイドを有する線維のほうがよくみられた。

図. 腓腹神経生検の代表図 (患者3)。(A) 光学顕微鏡所見。大径有髄線維の高度の脱落が観察されたが、小径有髄線維の脱落は中等度であった。トルイジンブルー染色。(B) 電子顕微鏡所見。無髄線維は有髄線維の脱落と比較して軽度であった。アセチル酸ウランおよびクエン酸鉛。スケールバー: A=20um; B=1um。

3-2-4. 予後: 葉酸の補充は12人で行われた。他の6人の患者では、食生活のアンバランス、特に新鮮な緑色野菜の摂取不足の改善を行い、血清葉酸値の正常化を確認した。18人中、入院期間3か月の間での機能的状態 (mRS) の改善は5人で報告された (患者1, 3, 6, 15, 18)。これらの5人は、歩行中の安定性の改善を報告した。2人の患者は、下肢の感覚低下に改善を報告した。他の13人では、mRSにおける変化は最終評価の時点で認められなかったが、患者7では疼痛の改善が認められた。初診時のmRSは3.0 ± 1.0であった (n=18) が、3か月時点では2.7 ± 1.1 (n = 18)、6か月時点では2.6 ± 1.2 (n=14)、1年時点では2.6 ± 1.4 (n=11) となった。フォローアップ期間は1.6 ±1.8年であり、最終フォローアップ時点でのmRSは2.7 ± 1.1であった。

3-2-5. 葉酸単独欠乏性ニューロパチー/チアミン単独欠乏性ニューロパチー/コバラミン単独欠乏性ニューロパチーの臨床病理学的特徴の比較
葉酸コバラミンが正常だが血中チアミン値が低値であった12人の患者のうち、慢性アルコール消費のなかった12人について評価を行った。チアミン単独欠乏性ニューロパチーの群 (n=12) と比較して、葉酸単独欠乏性ニューロパチーの群 (n=18) は、有意に緩徐な進行 (p<0.01)、運動感覚性ではなく純粋感覚性ニューロパチーを呈する有意な傾向 (p<0.05)、表在感覚より深部感覚障害が優位である有意な傾向 (p<0.01)、上腕二頭筋反射が保たれている有意な傾向 (p<0.05) が認められた (表4)。神経伝導検査では、両群で下肢優位の軸索ニューロパチーが示唆された (表e-3)。病理学的特徴は類似しており、両群で大径線維優位の軸索脱落が認められた。

コバラミン単独欠乏を呈した患者はたった1人であった。この54歳男性患者は、5年の経過の緩徐進行性のストッキングタイプの純粋感覚性ニューロパチーを呈した。この患者は歩行の不安定性を訴えて、高度の下肢深部感覚障害との関連が疑われた。電気生理学的検査および腓腹神経は、軸索性ニューロパチーを示していた。

 

4. 考察
葉酸欠乏性ニューロパチーのケースシリーズは1970年代後半に複数報告されている。現在までで、葉酸欠乏性ニューロパチーの最も包括的な記述はBotezらによるものである。この報告では、吸収障害を有していた5人の患者における臨床的および電気生理学的な特徴が記述されている。このニューロパチーは運動感覚タイプの軸索性ニューロパチーであり、下肢に優位で、葉酸の補充によって改善が認められいた。同時期に葉酸欠乏に関連したニューロパチーを記述したほかの報告では、ニューロパチーは症候学的な観点でのみ評価され、臨床的に示唆されていただけであった。これらの研究では、葉酸コバラミンの値が評価されていたが、チアミンの値は評価されていなかった。したがって、本研究は電気生理学的および病理学的手法を用いて、純粋な葉酸欠乏性ニューロパチーを特徴づけた初めての研究であった。
医師は、ビタミンB群の血清または血中濃度が必ずしも生化学的な栄養状態を反映していないことに注意すべきである。たとえば、チアミン必要量を推定するための以前の代謝研究では、赤血球トランスケトラーゼ活性やチアミンピロリン酸効果などの機能的評価が用いられていた。しかし、液体クロマトグラフィーによる血中チアミンの直接評価は、その有用性と簡便性から日常臨床で広く用いられている。本研究では、全血チアミン濃度に加え、チアミン補充や食事改善後の臨床経過も考慮してチアミン欠乏を判定した。葉酸欠乏症に関しては、ホモシステイン高値は葉酸欠乏症の感度は高いが特異的な指標ではない。高ホモシステイン血症の他の原因としては、遺伝子異常 (メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素変異など)、喫煙、甲状腺機能低下症、腎不全、ピリドキシン欠乏症、コバラミン欠乏症などがある。
1998年、米国とカナダでは、神経管欠損症を予防するために、穀物製品中の葉酸含有強化が開始された。このアプローチは他の多くの国でも踏襲されたが、最近の研究では、強制的な強化を行っても、人口のサブグループでは葉酸摂取量が推奨レベルを下回っていることが示唆された。さらに、東アジアやヨーロッパ諸国を含め、強制含有が実施されていない国もまだ多い。さらに、先進国では、高齢者人口の増加に伴い、葉酸欠乏症が頻発する可能性がある。これらの問題は、葉酸欠乏症が依然として世界中で公衆衛生上の大きな問題であることを示唆している。
本研究における葉酸単独欠乏患者の特徴は、緩徐進行性であること、運動性ニューロパチーよりもむしろ感覚性ニューロパチーが現れやすいこと、表在覚障害よりもむしろ深部感覚障害が優位であることなど、比較的均一かつ特徴的であった。一部の患者では上腕二頭筋と膝蓋腱反射の亢進がみられ、中枢神経系の病変の併発が示唆された。しかし、本研究に含まれるすべての患者で、ニューロパチーは病理学的に確認されている。したがって、これらの患者ではニューロパチーを示唆する臨床的特徴が顕著な特徴であると考えられた。さらに、脊髄MRIでは異常は認められなかった。さらに、体性感覚誘発電位とCMCTの結果も正常範囲内であった。これらの所見から、本症例では中枢神経系への病変は軽微であるか、あるいは存在しないことが示された。
葉酸欠乏性ニューロパチーの重要な鑑別診断はコバラミン欠乏症である。コバラミン欠乏症では、脊髄症が古典的な特徴であるが、葉酸欠乏と同様に、ニューロパチーの存在も示唆されてきた。その他の重要な鑑別診断は、銅欠乏に伴う脊髄神経障害 (myeloneuropathy) だが、これは15人の患者で除外されている。その他の鑑別診断は、傍腫瘍症候群やシェーグレン症候群である。これらの疾患を持つ患者は、我々の患者と類似した、亜急性から緩徐進行性の深部感覚優位のニューロパチーを呈する。しかし、これらの疾患は、後根神経節障害 (dorsal root ganglionopathy) によって、下肢よりも上肢、顔面、頭蓋、体幹を侵すことが多い。また、本研究のほとんどの患者は、神経障害はあるものの貧血や大球化といった血液学的異常を呈することはなかった。これらの所見はコバラミン欠乏による神経障害で報告されてきているものである。
葉酸欠乏性ニューロパチーの機序は明らかではない。葉酸欠乏による神経学的表現型は、コバラミン欠乏によるそれと類似している可能性がある。なぜならば、両者では脊髄症とニューロパチーが併発する傾向にあるからである。葉酸およびコバラミンはホモシステインの再メチル化によってメチオニンを合成する過程に関与している。メチオニンはS-アデノシルメチオニンに変換される。S-アデノシルメチオニンは、蛋白質神経伝達物質、リン脂質、DNAのメチル化処理に必要とされる。中枢神経系では、葉酸代謝の異常がS-アデノシルメチオニンの減少による脱髄を引き起こす。これに反して、我々の研究の電気生理学的所見は、末梢神経系における軸索性ニューロパチーを示唆している。
葉酸欠乏による神経障害の予後に関しては、初期から葉酸補充が開始されていれば、補充に対する反応は良好であると考えられてきた。しかし、本研究の患者では、いくらかの後遺症を残した。したがって、不可逆な神経障害を予防するためにも、早期診断と早期介入が重要である。しかし、葉酸の高用量補充が有益であるかどうかに関しては、議論が残っている。たとえば、過剰な葉酸は既存の腫瘍性病変の増大を招くかもしれない。したがって、医師は葉酸補充のリスクとベネフィットを考えるべきであり、正しく診断された患者にのみ葉酸補充を開始すべきである。

 

感想
典型的な葉酸欠乏性ニューロパチーは、年の経過で進行する、左右対称性の下肢優位 & 深部感覚優位のニューロパチーを呈し、上肢の症状は軽度であり上肢腱反射は保たれていることも多いということですね。そして、電気生理学的、および病理学的に大径有髄線維が優位に侵される軸索性ニューロパチーだということです。
僕がこの前経験した症例は、最初から葉酸が低いとわかっていたものの、葉酸欠乏性ニューロパチーにしては障害範囲がかなり広かったため精査入院となり、sensory-predominant CIDPと誤診してしまっていた症例でした。MCSで病的な時間的分散の増大があったわけでもないですし、そこまでNCVが遅れていたわけでもないのですが、上下肢ともにF波潜時がかなり遅れていて、近位部での脱髄の可能性があるのではと考えてCIDP疑いと考えていました。ですが、まあ大径有髄線維が高度に脱落していればNCVもF波も遅れるのはわかりますし、軸索性ニューロパチーで全然いいんですよね。実際に、生検したら軸索性ニューロパチーでした。その症例も上肢腱反射は保たれていましたね。多量飲酒者だったのでアルコール性ニューロパチーが重畳していた可能性もありますが。
次はアルコール性ニューロパチーの論文を読んでみます。