ひびめも

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抗MAG抗体ニューロパチー: 生物学から臨床管理まで

Anti-MAG neuropathy: From biology to clinical management.
Steck, Andreas J.
Journal of Neuroimmunology 361 (2021): 577725.

 

MAG続き。

 

1. ミエリンの構造と機能
ミエリンの機能は、ランビエ絞輪から次の絞輪まで神経インパルスを跳躍伝導させることにある。このメカニズムの発見時から普及している見方として、ミエリンの役割は最大の伝導速度を実現させて軸索エネルギーの消費を低減させることにあると考えられてきている。したがって、ミエリンは受動膜とみなされており、その構成が極めて単純 (大部分が脂質から成り、残りは蛋白質と水である) であることはそれ自体の絶縁体としての役割と合致していた。しかしながら、ミエリンの精製が可能となってから、ミエリンの蛋白構成は以前考えられていたほど単純ではないことが明らかとなった。ミエリン生物学の時代が始まってから、ミエリン構成要素のマッピングが可能となった。中枢神経系 (CNS) と末梢神経系 (PNS) の全体的な形態学的構造は似ているものの、オリゴデンドロサイトとシュワン細胞などの異なる細胞タイプによって形成されている。一方で、PNSとCNSのミエリンの蛋白構成の違いは、ミエリンの遺伝的または後天的異常をきたす様々な病態を決定するために特に重要である。1つの重要な例は多発性硬化症であり、ミエリンとオリゴデンドロサイトに対する免疫学的機序が想定されているが、末梢神経はスペアされる。ミエリンは様々な糖蛋白を含んでおり、Quarlesは myelin associated glycoprotein (MAG) というミエリン糖蛋白を記述し特徴づけた。この糖蛋白は、ガンマグロブリン血症と関連した脱髄性ニューロパチー患者みられるIgMモノクローナル抗体の標的となる炭水化物エピトープを含んでいる。
何十年にもわたる理論的および実験的研究によって、ミエリンの現代的微細構造および分子アーキテクチャが定義されてきた。ミエリンの微細構造に関して我々が知っていることのほとんどは電子顕微鏡研究に基づいており、電子密度の高い層 (the major dense line) と低い層 (the intraperiod line) が交互に重なった多層構造からなることが明らかとなっている。Major dense line は密に圧縮された細胞質面を表しており、一方で intraperiod line は密に配置された外膜から成っている (図1)。絞輪間領域ではミエリンは密であり、活動電位の伝播を促す絶縁体として機能するが、ランビエ絞輪に接する端の部分ではミエリンが疎となりパラノード領域を構成するloopを形作っている。末梢神経系のノードとパラノードの分子解剖は極めて詳細に記述されており、これによってノドパチーやパラノドパチーと呼ばれるような抗体介在性の末梢神経障害の病態機序の解明が進んだ。ミエリン鞘は神経インパルスの伝導速度を向上させるのみならず、軸索の保護と栄養という役割も持つ。軸索は代謝の観点でもシュワン細胞に依存しており、研究によれば複数のシグナリング分子がシュワン細胞と軸索の相互作用に関わっていることが示されている。ミエリンは、特にCNSではグリアと軸索の相互作用によって、活動に依存したメカニズムで制御される可塑構造と考えるべきである。

図1. ミエリンの電子顕微鏡写真: 高密部 (矢印) と二重中間部 (矢頭) から成っている。A: 正常ミエリン、B: 抗MAGニューロパチーでみられるwidely-spaced myelin。

 

2. Myelin associated glycoprotein (MAG)
2-1. 生化学、局在、機能
MAGはミエリンのごく一部を構成する糖蛋白であり、CNSおよびPNSにおけるすべてのミエリン蛋白の1%に満たない。これが一番最初に検出されたのは、ラットのCNSミエリンにおける放射線活性フコースを用いた代謝ラベル実験であった。ミエリンおよびミエリン関連膜の細分画を見ると、MAGは複層コンパクトミエリンの脂質リッチフラグメントよりも重い膜性空胞に豊富であり、MAGはコンパクトミエリンとは異なる部位に局在していることが示されている。Quarlesがこの糖蛋白を "myelin-associated" と記述したのはこのためである。
MAGは100kDaの膜貫通糖蛋白質である (図2)。MAGの詳細な構造はラットMAGのクローニングによって明らかにされ、その後ヒトMAGの構造も明らかとなった。この蛋白は5つの細胞外免疫グロブリン(Ig)様ドメイン、膜貫通ドメイン、細胞質ドメインから成る。細胞質ドメインには、mRNAスプライシングによる2つのアイソフォームがある。Ig様ドメインの存在は、MAGがIgスーパーファミリーのメンバーであることを定義している。MAGの大きな細胞外ドメイン構造は、異なるリガンドや受容体と相互作用するにあたって理想的である。MAGはその重量の30%を炭水化物が占めており、これは8つの細胞外部位に結合した異種のN-linkedオリゴサッカライドから成る。

図2. MAGの構造: 5つの細胞外Ig様ドメイン (円)、8つのN-linkedオリゴサッカライド (三角)、1つの膜貫通ドメイン、細胞質ドメインから成る。細胞外ドメインは、未だ詳細にはわかっていない分子 (緑: おそらくは神経細胞糖脂質) と結合することで軸索-グリア相互作用を仲介している。MAGはcdk5を活性化することで、細胞外ERK1/2 protein kinase経路を通じてニューロフィラメントのリン酸化に関与しており、これによってリン酸化ニューロフィラメントの発現が亢進し軸索径の増大につながる。

MAGの髄鞘における離散的局在に関して、多くの研究が説得力のあるエビデンスを示した。MAGはコンパクトミエリンには見られないが、髄鞘化細胞と軸索の間にある軸索周囲空間 (periaxonal space) で認められる。すなわち、MAGは最内層のミエリン膜で発現していて軸索表面に向かい合って配置されているため、この糖蛋白はシュワン細胞と軸索のシグナリングに関与し、長期的な軸索-ミエリン安定性と接着の向上に重要であることが示唆される。
MAGの重要な翻訳後修飾は、異なるキナーゼによるリン酸化である。MAGは軸索にシグナルを送り、その直下の軸索ニューロフィラメントの局所的リン酸化を行う。MAGはランビエ絞輪における軸索分子の配置を決定することにも関与しており、MAG-/-マウスではこれらの分子の適切な配置が遅延し、パラノードと傍パラノード領域がオーバーラップしてしまう。この点で、MAGは軸索保護効果を持つことがin vitroおよびin vivoの両方で示されている。MAG-/-マウスはCNSとPNSの両方で軸索脱落を起こすため、MAGが軸索の維持に重要であることが示唆されている。MAG欠損マウスで髄鞘のみならず軸索にも変性が起こることは興味深い点である。同様の発見は、MAGの機能喪失型変異のある患者でも報告されている。一方、MAGが再生過程での軸索伸長を阻害する可能性も示されている。MAGはシアル酸結合性のIg様レクチンファミリーのメンバーである。MAGによる軸索成長の阻害は、一部のニューロンではシアリダーゼ(シアル酸加水分解酵素: MAG-シアログリカン結合を除去する) による処理で逆行させることができる。MAGの軸索再生阻害効果のエビデンスはほとんどがin vitro研究に限られている一方で、ヒトにおける脱髄性疾患の研究ではMAGの軸索保護効果が示唆されている。
免疫介在性ニューロパチーを理解する上で特に興味深い進展は、HNK-1エピトープを含むMAG分子上にある複雑な炭水化物が特徴付けられたことであった。抗原性のHNK-1エピトープは、図3に示すように硫酸化三糖類である。この炭水化物エピトープは神経系の他の糖蛋白や糖脂質にも発現しており、これにはSGPGやSGLPGの他に、P0やPMP22も含まれる。HNK-1エピトープはNK細胞などのヒトリンパ球サブセットにも発現しているため、免疫系と神経系の間で共有される抗原を定義している。MAGの複数のグリコシル化部位にHNK-1炭水化物エピトープが発現していることは、その高い免疫反応性を説明している。MAGはSchmidt-Lanterman切痕やパラノードloopにも局在しているため、細胞外空間に暴露されやすく、自己抗体に晒されやすい。実際、脱髄性ニューロパチーとガンマグロブリン血症を有する患者におけるモノクローナIgMの標的として一番最初に同定されたのはMAGなのである。

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図3. MAGとHNK-1炭水化物エピトープ: HNK-1炭水化物エピトープはMAGの複数のグリコシル化部位に発現しており、その高い免疫反応性を説明している。HNK-1グリコエピトープは三糖類であり、ヒト抗MAG抗体による抗原認識に必要不可欠な残基である特徴的な硫酸化グルクロン酸を持つ。

 

3. ノード、パラノード、ニューロパチー
ランビエ絞輪は3つの異なる領域から成り、それぞれが微細構造および分子レベルで特徴づけられている (図4)。ノードそのものにはナトリウムチャネルが蓄積しており、隣にあるパラノードはミエリンループの存在が特徴的であり、そして傍パラノードはカリウムチャネルによって特徴づけられている。接着分子であるneurofascin 186 (NF186)、contactin1 (Cntn1)、NO155、contactin-associated protein 1 (Caspr1)、Cntn2、Caspr2、およびMAGは軸索-グリア接着を仲介している。Connexin (Cx) のようなギャップジャンクション蛋白や、claudinのようなタイトジャンクション蛋白はミエリンループを維持しており、一方でgliomedinのような細胞外マトリックスはノード領域の構造を安定化させている。以上から、これらの蛋白質の変異がノード構築の変化を生み、機能的障害によるポリニューロパチーフェノタイプを引き起こすことは想像に難くない。CMTX1はCx 32遺伝子のミスセンス変異によって生じる。Cx 32はパラノーダルループの非コンパクトミエリンに局在し、ギャップジャンクション蛋白として機能する。CMTX患者は後天性脱髄性ニューロパチーに似た臨床徴候を示す。一方で、ノードまたはパラノードの抗原に対する抗体は慢性後天性脱髄性ニューロパチーで認められる。NF186やNF155、CNTN1、CASPR1に対する抗体など、多くの抗体がCIDPに似た臨床フェノタイプを呈することがわかっている。後に考察されるように、抗MAG抗体はパラノード領域に結合し、跳躍伝導を阻害し、ノーダル及びパラノーダル分子の変化を引き起こし、抗MAG抗体ニューロパチーで見られるような脱髄に関連した形態的変化を起こす可能性がある。

Fig. 4

図4. 末梢髄鞘化線維のノード、パラノード、傍パラノードの図式: 本文で説明された免疫介在性ニューロパチーで自己抗体の標的となる分子を含んでいる。イオンチャネルは活動電位の伝播を仲介する。グリア接着分子は、接着を形成する軸索分子と結合している。Gliomedinは髄鞘化しているシュワン細胞に発現しており、ランビエ絞輪におけるNaチャネルの長期的維持に重要である。KV, voltage gated K+ channel; NAV, voltage gated Na + channel; CNTN, contactin; CASPR, contactin associated protein; MAG, myelin associated glycoprotein; NF, neurofascin; GM1, monosialotetrahexosylganglioside.

 

4. パラプロテイン血症性ニューロパチー
末梢神経障害とモノクローナルガンマグロブリン血症の関連はよく知られており、成人の後天性ポリニューロパチーで最も頻繁な原因の1つである。パラプロテイン血症性ニューロパチーは血清中の同種免疫グロブリン、すなわちM蛋白の特徴によって特徴づけられる。Bリンパ球または形質細胞の異常なクローン性増殖 (血液腫瘍を背景とすることもある) によって、過剰なモノクローナ免疫グロブリンが産生される。歴史的には、骨髄腫や Waldenström Macroglobulinemia (WM) に関連したニューロパチーはVictor (1958) らと Garcin (1962) らによって一番最初に記述された。興味深いのは、しばしばニューロパチーが血液疾患の発見に数年先行するという事実である。悪性腫瘍を伴わないモノクローナルタンパク質に関連したニューロパチーの有病率が高いことから、良性モノクローナルガンマグロブリン血症という用語が作られたものの、最終的にKyle ( 1978) は、多発性骨髄腫 (MM) または他の関連する血液悪性腫瘍に進行するリスクが年間0.5-1.5%ある前悪性腫瘍性疾患であることから、意義不明のモノクローナルガンマグロブリン血症またはMGUSという用語がより適切であると提案した。MGUS患者におけるニューロパチーの有病率は、患者の選択方法と診断手順により、文献上約5-17%とかなり幅がある。モノクローナルガンマグロブリン血症患者におけるニューロパチーの関連はアイソタイプによって異なり、IgMアイソタイプで最も高く、患者の3分の1にニューロパチーが認められる。MGUSに関連したニューロパチーは、臨床症状およびその基礎にある病態生理に関して不均一である。パラプロテイン血症における神経障害の3つの主要な形態は、軸索型感覚運動ニューロパチー、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー (CIDP)、および遠位型後天性脱髄性対称性多発ニューロパチー (DADS) である。IgGおよびIgAのMGUSでは、血清パラプロテインと軸索障害との関連はいまだ不明であるが、脱髄性疾患であるCIDPおよびDADSでは、モノクローナルガンマグロブリン血症との因果関係が確立されている。興味深いことに、IgM MGUSと脱髄性ニューロパチー、伝導速度の低下、神経へのIgMの沈着、血清中の抗末梢神経ミエリン抗体を有する患者のサブグループが報告されている。やがてLatovら (1982) と Steck (1982) は、脱髄性ニューロパチー患者の血清IgM型M蛋白が、MAGとして特徴づけられる神経抗原と反応することを証明した。これらの研究により、抗MAGニューロパチーが最も一般的なパラプロテイン血症性ニューロパチーであることが確認された。抗MAG IgMパラプロテイン血症性脱髄性末梢神経障害 (paraproteinemic demyelinating peripheral neuropathy, PDPN) という用語が使われることもある。

 

5. 抗MAGニューロパチー
5-1. 臨床像と経過
患者の大部分は、下肢遠位から始まる慢性で緩徐進行性の大径線維優位の感覚運動ポリニューロパチーとして特徴づけられる一様なフェノタイプを呈する。歩行障害を伴う感覚失調が頻繁に認められ、一部の患者では運動で増強する手指の振戦を発症する。これらの患者はいくつかの際立った特徴を持つ。疾患は高齢男性優位に生じ、ニューロパチーとして発症する。神経症状は緩徐に発症し、脳神経領域をスペアし、10-20年かけて緩徐に悪化する。進行例では手足の筋の完全な脱神経所見が認められ、筋力低下、筋委縮とともに、重度の失調が認められる。典型的には企図振戦が認められる。疼痛が目立つこともあり、筋攣縮のほかに錯感覚や異常感覚を認めることがある。
202例の抗MAGニューロパチー患者を検討した最大の研究では、83%が古典的DADSフェノタイプを呈した。これらの患者のうち、30%が感覚失調型遠位型ニューロパチーを、18%が振戦を伴う感覚失調型遠位型ニューロパチーを、31%が進行性の遠位筋力低下を伴う感覚失調型遠位型ニューロパチーを、19%が非失調型感覚/感覚運動ニューロパチーを呈した。また、非典型的臨床フェノタイプは17%で認められた。これらのうち、65%はCIDPフェノタイプ、29%は急性または非対称性CIDPフェノタイプを呈した。同様の所見はMagyによっても報告されており、60%の患者がDADS様フェノタイプを呈した。
一部の症例では疾患の進行は緩徐だが、大部分の患者は経時的に重大な障害を認めるようになる。Notermansらは、5-10年時点での障害率は22%であるとし、Nobile-Orazioらは5年時点での障害率は16%で、10年時点で24%、15年時点で50%であると報告した。発症が高齢であることは障害リスクをさらに高めているが、障害が加齢そのものによるものなのかニューロパチーによるものなのかを見分けるのも難しい。

5-2. 抗MAG抗体検査
抗MAGニューロパチーの診断は、抗MAG抗体の検出に基づいている。MAGの抗原エピトープは分子の糖鎖成分に存在すると考えられているが、これはMAGが脱グリコシル化されるとIgM反応性が失われるからである。前述のように (図3)、反応性決定残基は硫化三糖類であり、マウスモノクローナル抗体HNK-1と反応することから、HNK-1エピトープとも呼ばれる。
抗MAG抗体は、様々なタイプのアッセイを用いて患者の血清から容易に検出することができるが、主にヒト脳精製MAGを用いたELISAが最も効果的であることが示されている。当初、血清抗MAG抗体は、精製ミエリンまたは精製MAGを抗原として用いたウェスタンブロット法により測定された。この手法により、抗体が精製ミエリン画分中の汚染物質ではなく、典型的な100kDのMAG蛋白質に向けられていることを確認することができる。抗MAG反応血清はSGPG糖脂質も認識するため、精製ヒトMAGの代わりにSGPGを抗原とするアッセイ法も用いられている。しかし、IgM型モノクローナル抗MAG抗体は、SGPG抗原よりも10-100倍強くMAGに結合するため、SGPGを抗原としてアッセイを行った場合、親和性の低い抗MAG抗体を見逃す可能性があるため、SGPGではなくMAGを標的抗原として用いることが望ましい。多数の検体を対象とした研究により、MAG のELISA検査はウェスタンブロット法よりも感度が高く (ウェスタンブロット法では陰性であった血清が ELISA 検査では陽性であったものもある)、最も簡便で好ましい検査法であることが示されている。
ほとんどの研究で、ELISAは抗MAG抗体を判定するための高感度で信頼性の高いスクリーニング法として使用できることが示されているが、Buhlmann Diagnostics社の抗MAG自己抗体ELISAの陽性の理想的なカットオフ値に関する議論がある。結果はBuhlmann力価単位 (BTU) で表され、メーカーが設定した陽性のカットオフは1000 BTUである。この値は感度の最適なカットオフ値であるが、低力価の範囲では偽陽性を示すグレーゾーンが存在する。したがって、CIDPと抗MAGニューロパチーを鑑別するためには、低力価の患者では電気生理学的評価だけでなく、臨床的評価も慎重に行うことが重要である。
この合成炭水化物を用いた新しいELISAアッセイが開発されたのは、抗MAG抗体陽性の血清はHNK-1硫化三糖類エピトープを認識するためである。この検査の診断精度は他のニューロパチー患者を含んだ抗MAGニューロパチーの大規模コホートで評価されている。この研究では、抗HNK1 ELISAアッセイが抗MAGニューロパチーの診断に高い感度 (98%) と特異度 (99%) を有することを示した。さらに、抗HNK1力価は疾患の重症度と関連し、この検査が病勢モニタリングや臨床試験における二次アウトカムとして用いられ得ることを示唆した。
抗MAG抗体は典型的なIgM型モノクローナルガンマグロブリン血症関連脱髄性ポリニューロパチー患者の70%で検出される。抗MAG抗体はIgM型モノクローナルガンマグロブリン血症と関連して認められるが、臨床現場ではIgM型モノクローナルガンマグロブリン血症が検出された患者に対して抗MAG抗体検査が行われているのが実際である。IgM型モノクローナルガンマグロブリン血症を認めない抗MAGニューロパチーも少数ながら記述されている。この点では、Gabrielらの報告が興味深い。この報告は、血清ガンマグロブリン血症が現れる前に慢性進行性の感覚運動脱髄性ニューロパチーを呈した患者で、抗MAG抗体が陽性かつ神経生検で髄鞘化線維におけるモノクローナル抗MAG IgM抗体の蓄積が認められた症例に関するものであった。最終的には2年後のフォローアップでIgM型モノクローナル蛋白が出現した。これらの結果は、モノクローナル抗MAG IgM抗体は、ガンマグロブリン血症の発症前に神経組織に蓄積しはじめることを支持している。こうした観察を踏まえると、遠位型の慢性感覚運動脱髄性ニューロパチー患者では、IgM型モノクローナルガンマグロブリン血症が検出されなくても抗MAG抗体を検査することが妥当であることが示唆される。抗MAGニューロパチー患者を正確に診断するための最良の手法に関する議論は、新しい治療法が利用可能になるとともにこの疾患に関する興味が集まってきている以上、今後も続いていくだろう。

5-3. 電気生理
抗MAGニューロパチーのパターンは、距離依存性プロセスを反映した不均等な遠位優位の伝導遅延を呈する脱髄性ニューロパチーであり、すなわちDADSフェノタイプである。典型的には、電気生理研究は遠位の伝導遅延と軸索障害を示し、長距離軸索でより顕著であり、さらに近位から遠位に至るにつれて伝導遅延の勾配がみられる。これは、長距離神経の遠位潜時の延長として反映される。これらの電気生理学的所見を反映した病理所見として、抗MAG抗体陽性患者の剖検では遠位優位の神経障害が認められている。
MAGニューロパチーをCIDPやCharcot Marie-Tooth (CMT1a) 病患者と比較すると、terminal latency index が抗MAGニューロパチー群で優位に低値であることが報告されている。そのほかにも、modified F-ratio や residual latency は、CIDPと抗MAGニューロパチーの鑑別に有用であることが示されている。電気生理学的検査は、CIDPと抗MAGニューロパチーの区別を行うための臨床検査として、1st lineの検査である。

5-4. 神経障害のメカニズム
腓腹神経生検標本の形態学的研究では、有髄線維の減少がみられ、超微細構造観察では、髄鞘の菲薄化と widely spaced myelin lamellae を持つ線維を数多く認める。これは、intermediate (minor) dense line の2枚 (すなわち隣り合った細胞膜) が電子密度の低い物質によって分離された結果である。ある研究では、抗MAG活性を有するWMを有した末梢神経障害患者の8例すべてで、widening of myeling lamellae が認められた。この拡がりは通常、ミエリン層の一番外側で起こるが、コンパクトミエリンの深層で見られることもある。この widely spaced myelin (intermediate lineの間の距離が増加する所見) は、抗MAGニューロパチーにほぼ特異的な所見である。ミエリンの広がりの頻度は、解きほぐし標本における脱髄の頻度と相関していた。
抗MAGニューロパチー患者では、神経生検と皮膚生検の両方で、神経線維に関連した抗MAG抗体またはモノクローナIgMの沈着が認められる。IgM抗体の沈着は有髄線維の末梢にみられ、共焦点顕微鏡ではSchmidt-Lanterman切痕やパラノーダルループの 非コンパクトミエリン部位に認められる。患者のIgMがパラノードやミエリンラメラが分裂している領域でMAGと共局在しているという説得力のある証拠を考えると、抗MAG抗体がミエリンの剥離と破壊に直接関与している可能性が高いと思われる。ある研究では、終末補体複合体 (terminal complement complex, TCC) が抗MAGニューロパチーに関与している可能性が示唆されているが、ほとんどの研究では、髄鞘TCCは存在せず、C3dやC5などの補体成分が存在することが確認されているため、これらの補体成分がミエリン変化のエフェクターとなり、最終的にランビエ絞輪で軸索鞘から terminal loop が剥離し、絞輪間の widening of myelin lamellae へと進行する可能性が示唆される (図5)。この剥離過程は、長年にわたって進行する抗MAG神経障害における緩徐な進行と一致している。一方、TCCの関与は、ギラン・バレー症候群のような急性炎症性ニューロパチーで確立している。パラノード軸索鞘からはじまる terminal loop の剥離による脱髄が、抗MAG神経障害における軸索萎縮とそれに続く軸索損傷の主な原因であると考えられる。抗MAGニューロパチー患者から採取した腓腹神経生検の研究から、脱髄した線維では軸索の直径が減少し、ニューロフィラメントの間隔が狭くなっていることが示された。これらの観察から、軸索の萎縮は、抗体がMAGに結合することによって軸索へのシグナル伝達が阻害され、その結果、ニューロフィラメントのリン酸化が低下することによってもたらされるという仮説が立てられた。

Fig. 5

図5. 抗MAGニューロパチーにおける脱髄の図式: パラノードの terminal myelin loop が剥離し myelin widening が起こる (A) とともに、 絞輪間のコンパクトミエリンの外層が幅広化する (B)。これと対応する電子顕微鏡写真として、terminal loop の髄鞘間空隙の幅広化 (矢印) と髄鞘再外層の幅広化 (矢頭) がみられ (A)、絞輪間のコンパクトミエリンの外層の幅広化も観察される (B)。

 

6. 動物モデル
実験的研究では、抗MAG抗体が脱髄を引き起こす能力があることが示されている。当初、モルモット、ウサギ、マーモセットで抗MAGパラプロテインを用いた全身性の急性および慢性受動移入は陰性であり、脱髄を誘導することはできず、ミエリンに結合する抗体は認められなかった。しかしながら、血液-神経関門を迂回して神経に直接注射するという戦略を用いて、これらのパラプロテイン脱髄能を証明する試みは成功した。実験的な脱髄は、これらのパラプロテインをネコの神経に直接注入することで証明された。これらのパラプロテインはネコの末梢神経に広範な炎症性、マクロファージ媒介性の脱髄を引き起こした。これは補体を追加補充した新鮮な血清でのみ起こった。健常人の血清を注射しても脱髄は起こらなかった。これらの観察結果は、これらの抗体が脱髄を起こす可能性があることを示す良い証拠となったが、こうした急性坐骨神経病変はヒトの慢性パラプロテイン血症性脱髄性疾患と似ている点がほとんどなく、さらに外因性補体に依存していた。
最終的には、抗MAG抗体ニューロパチー患者から分離したモノクローナIgM抗体をニワトリに慢性的に全身輸血したモデルで、ヒトでみられる疾患に非常に特徴的な末梢性脱髄が示された。実験病変は、炎症性変化がほとんどなく、widely spaced myelinを認め、髄鞘に結合した特異的抗体を伴う、分節的な脱髄と再髄鞘化から構成されていた。ヒトの抗MAG抗体が in vivo脱髄を引き起こすというこの証明は、このタイプのヒト脱髄性ニューロパチーが抗体を介することを最終的に証明するものであった。
齧歯類における抗MAG抗体ニューロパチーの動物モデルを確立する試みがうまくいかなかったのは、HNK1オリゴ糖部分が種に制限されているという事実によって説明できる。MAGのグリコシル化には種差がある。特にHNK-1糖鎖エピトープの硫酸基は抗MAG抗体の結合に必須の役割を果たし、ヒトMAGでは強く発現しているが、齧歯類のMAGでは発現していない。しかし、ニワトリやウシのMAGには存在する。
抗MAG自己抗体の標的は、主にMAG上に発現するHNK-1硫化三糖類エピトープである。HNK1エピトープの分子特性と抗MAG抗体の結合特性を利用して、HerrendorffらはHNK1エピトープの誘導体および模倣体を合成した。硫酸化HNK-1三糖の模倣体を複数コピー提示した生分解性ポリリジン骨格からなる糖ポリマー (poly (phenyl disodium 3-O-sulfo-β-d-glucopyranuronate)-(1→3)-β-d-galactopyranoside, PPSGG) は、抗MAG抗体との結合およびブロックに特に有効であることが見出された。免疫学的マウスモデルにおいて、PPSGGが抗MAG抗体を消去できることが示され、抗MAG IgM自己抗体を高度に選択的に除去できる可能性が開かれた。

 

7. 抗MAG B細胞クローンの起源
ヒトの抗MAG抗体は典型的にはIgMであり、モノクローナルガンマグロブリン血症を背景として生じる。抗MAG抗体は自然発生的な低親和性自己抗体を分泌するCD5+B細胞に由来するが、これは正常な生理的自己免疫レパトアには低レベルしか存在しない。抗MAGニューロパチー患者では、MAG抗原を認識する血中IgMモリーB細胞のクローン性増殖が顕著である。クローン性B細胞増殖の発生は、自己抗原または細菌抗原との反応性と協調した発癌性事象によって説明できる。細菌ポリペプチドは、抗MAG抗体の標的であるグルクロニル硫酸決定基を発現しているため、感受性の高い個体では細菌誘発性自己抗体の産生につながることが提唱されている。分子模倣は、ギラン・バレー症候群のような自己免疫性神経疾患における可能性のあるメカニズムとして認識されており、それが間接的に抗原主導型B細胞クローンの発達の引き金になると推測される。末梢神経障害患者から得られたモノクローナル抗MAG IgMは、免疫グロブリン鎖可変領域の多様なレパトアを特徴としており、抗原主導型プロセスを示唆する多くの体細胞変異を示す。その結果、2段階のプロセスが提唱されており、最初のプロセスは抗原駆動性であり、2番目のプロセスは発癌性突然変異に依存している。ロイシンからプロリンへのアミノ酸変化 (L265P) をもたらすMYD88遺伝子の再発性体細胞点突然変異は、WM患者の大部分 (90%以上) および抗MAGポリニューロパチー症例の60%で報告されている。MYD88変異は、ブルトンチロシンキナーゼ (BTK) を介した細胞増殖と生存の亢進をもたらす機能獲得型変異である。このキナーゼは、WMの治療に用いられ、抗MAGニューロパチーの治療薬としても注目される新規薬剤であるイブルチニブによって阻害される。
抗MAG抗体の分泌は、T細胞とサイトカインによる制御を受けている。抗MAGニューロパチーの患者は、血清中のIL-6およびIL-10濃度の中央値がコントロールよりも高い。IL-6は形質細胞前駆体の生存因子としての役割を果たすため、形質細胞の単クローン性拡大をもたらす抗MAGニューロパチーの病態に関連する可能性があると推測されている。IL-10はB細胞を活性化し、自己抗体産生を促進することもできる。活性化T細胞に見られるCD70と、抗MAG産生B細胞が由来するメモリーB細胞の細胞表面に発現するCD27との相互作用からなる興味深いループが、WMで実証されたように、疾患の進行に重要な役割を果たしている可能性がある。
これらのサイトカインの役割と、抗MAG抗体を産生するB細胞と活性化T細胞との相互作用は、PNSにおける自己反応性抗体のアクセスも制御している可能性があり、さらにBAFFなどのその他のバイオマーカーは新規治療戦略の潜在的標的として注目を受けている。ミエリン、特にMAGがNK細胞と抗原決定基を共有しているという事実は興味深い。このような交差反応性は、抗MAGニューロパチーだけでなく、他の免疫介在性脱髄疾患の発症にも関与している可能性がある。

 

8. 治療
抗MAGニューロパチーのはパラプロテイン血症性ニューロパチーとして機能障害を引き起こすものの中で最も高頻度であり、抗MAG抗体はミエリン構造と機能に直接的な病原性効果を与えることから、B細胞除去療法は主要な治療戦略である。当初はクロラムブシル、シクロフォスファミド、フルダラビンを用いた化学療法レジメンが用いられてきたが、毒性や二次血液腫瘍の発声によって抗CD20抗体に置き換えられた。我々は、新たな治療モダリティについて特に注目を置きながら、現在のおよび将来的な治療方法について振り返る (表1)。

8-1. 抗CD20抗体
B細胞クローンを抑制するが骨髄抑制や二次血液癌を引き起こさないモノクローナル抗体であるリツキシマブが利用可能となってから、早期からの標的型介入が可能となった。リツキシマブは形質細胞を除いてpre-B cell期からB細胞ライフサイクル全体にわたってB細胞表面抗原として発現するCD20に対するキメラ型マウス-ヒトモノクローナル抗体である。効果は限定的ではあるが、この治療法は現在幅広く積極的に用いられている。異なる規模とエンドポイントの2つの制御研究によってポジティブな効果が証明されたが、規模の小ささや研究デザインへの懸念点からエビデンスの質は低いものと考えられた。
リツキシマブは抗MAG抗体産生形質細胞に対する効果を持たないため、神経所見の改善は典型的には治療開始後3カ月ほどしてから認められるようになり、6か月ほどたつと明らかになる。この時期になると抗MAG抗体もゆっくりと減少しはじめる。複数の研究において蓄積されたデータによれば、リツキシマブは30-50%の患者で有効である。抗MAG IgM抗体レベルと抗MAGニューロパチーの重症度または進行速度に直接的関連性は示されていないが、50個の抗MAGニューロパチーの臨床試験の後方視的解析によれば、抗MAG IgMレベルの相対的低下がレスポンダー群における臨床的改善と関連していたことが示された。この群では、治療前と比較して抗MAG IgM力価は57.5%、パラプロテインレベルは57.5%、総IgMは52.3%減少した。一方で、非レスポンダー群では抗MAG IgMレベルの変化はほとんど見られなかった。平均して、急性増悪を呈した患者は抗MAG抗体力価の高度の上昇と関連していた。リツキシマブによるニューロパチーの増悪はIgMフレアに帰属されており、複数の症例が報告されている。このフレア現象の提唱されたメカニズムには、細胞内パラプロテインの放出を伴うBリンパ球の融解、イディオタイプ-抗イディオタイプネットワークの崩壊、サイトカイン過剰産生などが提案されている。IgMフレア現象は、リツキシマブで加療されたWM患者の最大54%ほどで観察されているが、この発生率はMGUSではずっと低いことが報告されている。急性の神経障害と抗MAG抗体の上昇を呈した患者が、血漿交換によって劇的で速やかな改善を示したことが報告されている。
リツキシマブが50%以下の患者にしか有効でない理由は明らかでなく、いくつかの研究では奏効を予測する臨床的特徴やバイオマーカーが検討されている。脱髄パターンと高齢は、障害悪化の有意なリスク因子であった。 主に運動障害と亜急性の進行が奏功と関連していた。性別、運動失調、振戦、IgM抗MAG抗体価は転帰に影響しなかった。治療前の症状持続期間の短さとリツキシマブに対する反応性の間には傾向があり、軸索変性による永続的な障害が起こる前に早期に治療を行うべきであることが示唆されている。より十分なB細胞除去や持続的なB細胞除去を引き起こす新世代のヒト化抗CD20モノクローナル抗体が利用可能であり、臨床試験の開発が正当化されている。

8-2. 新しい治療法
MYD88遺伝子の体細胞変異は、WM患者の最大90%で、IgM MGUS患者でも見つかっている。この変異はBTKの活性化を通じて腫瘍細胞に生存刺激を与える。腫瘍細胞を死滅させるイブルチニブなどのBTK阻害剤が利用できるようになり、WMにおける新たな治療法の道が開かれた。イブルチニブは、WM患者の血液学的パラメーターを改善するだけでなく、深く持続的なIgM反応を誘導する優れた有効性を示している。抗MAG抗体ニューロパチーに対するイブルチニブの有効性を示唆する2件の予備的データがある。抗MAG抗体ニューロパチーの治療におけるイブルチニブの役割を評価するためには、さらなる研究が必要であることは明らかである。
現在、多発性骨髄腫や骨髄異形成症候群の治療に用いられるレナリドミドを用いた臨床試験が、抗MAGニューロパチーで評価されている。他の潜在的な治療法も異なる病態で臨床使用されているが、抗MAGニューロパチーに興味を示す可能性がある。抗CD70モノクローナル抗体であるCusatuzumabは、幹細胞を排除するための新薬であり、急性骨髄性白血病における予備的データが報告されている。IL-6炎症経路を標的とするTocilizumabとSarilumabは、関節リウマチにおいて研究されている。
これまでのところ、抗MAG IgM抗体を減少させるために使用されているすべての戦略は非特異的である。それらには、リツキシマブによるすべてのCD20 B細胞の標的化、イブルチニブやレナリドミドによるB細胞増殖の阻害、血漿交換療法の場合の循環からの自己抗体の除去が含まれる。最近、抗原特異的分子、HNK1抗原の複数のエピトープを模倣した生分解性糖鎖ポリマーの開発に基づく新しいアプローチが、動物モデルでの試験に成功した。PPSGGは、抗MAG自己抗体の糖鎖デコイとして機能し、体内から隔離され、速やかに排出される。PPSGGは、患者由来の抗MAG IgMと非ヒト霊長類の坐骨神経ミエリンとの結合を阻害することが示されている。研究の結果、実用的な用量のPPSGGは、MAGに結合するIgMを有意に減少させることができることが明らかになった。10μgのPPSGGを投与することで、マウスモデルの血液から60μgおよび120μgの循環マウス抗MAG IgMを90%以上除去するのに十分であった。抗体の減少は、PPSGG投与後24時間および96時間の測定で示されるように持続的であり、この治療アプローチの薬理学的実現可能性を実証した。このような治療を抗原特異的免疫療法と呼ぶことができる。
これらの実験は、臨床試験において、in vivoまたはex vivoのいずれかで、抗MAG抗体を除去するためにこの標的療法を使用する根拠となる。この治療法は、抗MAGニューロパチーにおいて、単独療法として、あるいは抗B細胞療法と併用することで、抗MAG IgM自己抗体の迅速な除去と長期的な産生抑制の両方の恩恵を患者に与えることができる。合成HNK-1三糖でコーティングした選択的免疫吸着カラムは、同様の体外アプローチがギラン・バレー症候群、CIDP、重症筋無力症など様々な疾患の治療に用いられているように、抗MAG抗体を迅速に減少させるための有望な選択肢となるだろう。

 

感想
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