ひびめも

日々のメモです

音楽の神経機構 - 後天性失音楽から考察する

Neural architectures of music – Insights from acquired amusia.
Sihvonen, Aleksi J., et al.
Neuroscience & Biobehavioral Reviews 107 (2019): 104-114.

 

年末年始は音楽の勉強をしようかな。

無知すぎて用語が難しかったので、まずは音楽用語をまとめてみます。
①音に関する用語 (音の三要素)
 1. 音の大きさ: 音波の振幅のこと。
 2. 音の高さ (ピッチ): 音波の周波数のこと。なお音程 (interval) とは異なる二つの音のピッチの違いを表す言葉。
 3. 音色: 音波の波形によって表現される音の特性のこと。同じピッチでも正弦波と矩形波では音色は異なるわけで。
② 音楽に関する用語 (音楽の三要素)
 1. 旋律 (メロディ): 複数の音が時間的に異なって配置された流れのこと。
 2. 和音 (ハーモニー): 複数の音が時間的に同一タイミングで重なった際に形成される音のこと。
 3. 律動 (リズム): 音や休符の長さを組み合わせたパターンの周期的な持続。「タータタ タータタ タータタ」みたいな。

これらの基本的な要素を踏まえて、さらに以下のような用語が出てきます。
・階調 (トーン): 音楽に登場する音のピッチのヒエラルキー構造のこと。ピアノにある合計12個の鍵をイメージするとわかりやすいですが、ド ♯ド レ ♯レ ミ ファ ♯ファ ソ ♯ソ ラ ♯ラ シ ドの中で、出現する音を選びます。たとえばハ長調とは、ハ (ドのこと) を中心音とした長音階 (中心音から2-2-1-2-2-2-1という音程) のことを指します。 
・旋律線 (contour): 旋律の中でのピッチの変化パターンによって特徴づけられる情報のこと。変化パターンなので正確である必要はなく、音が高い低いくらいの大雑把なイメージなよう。↑↑↓↑↓みたいな?
・音楽構文 (syntax): 限られた音から構成されるはずの音楽がこれほどまでに多様性にあふれているというところからは、音を完全に無作為に配置しても音楽が完成すると思ってしまうかもしれませんが、そんなことは決してなく、調性音楽は特定の構文を持つと考えられています。具体的には、和音の構造、voice leading (和音の時間的配置) の規則、コード進行の仕方などです。深入りするのが怖いのでこのくらいざっくりにとどめておきますが、音の配置を音楽たらしめる規則といったところでしょうか。

では読んでみよう。

 

1. 背景
音楽を聴き、楽しみ、創る能力は人類の文明の中核的要素であり、歴史上のあらゆる文化にみられる。音楽を処理する能力の背景にある神経構造を明らかにする試みは過去20年間のブームであり、両側の側頭葉、前頭葉頭頂葉、皮質下領域から構成される大規模な音楽処理ネットワークが明らかにされた。健常被験者において音楽の処理に関与する個別の脳領域が同定されてきている一方で、機能神経画像研究から得られたエビデンスは大部分が相関関係を見ているにすぎない。このため、どの脳領域が音楽の知覚に決定的な役割を果たしているのかは明らかになっていない。神経科学と神経内科学の歴史の中で、脳損傷に基づいた研究は、損傷脳領域と特定の認知または運動機能の関係性を探索するための機会を提供してきた。
失音楽として知られる特定の神経障害 (全般的な認知、知覚、運動の障害によらない音楽の知覚かつ/または創造の重度の障害) は、19世紀終盤に報告された。失音楽には本質的に二つの種類がある: 神経発達障害である先天性失音楽 (congenital amusia, CA) と、神経疾患による脳損傷で引き起こされる後天性失音楽 (acquired amusia, AA) である。CAとAAの両者は失音楽の中核的症状を共有しているものの、その神経メカニズムは異なっている可能性がある。CAは音楽構文 (musical syntax) と階調表現 (tonal representation) を学習することの発達障害であり、音楽処理ネットワークの初期発達を阻害し、音楽に関して生涯にわたる、しばしば多様な障害をきたす。これとは対照的に、AAは以前は正常な音楽処理ができていた状態から、脳損傷 (e.g. 脳卒中) によって音楽処理システムの障害が引き起こされるものである。この状態変化は、音楽の知覚に関して最も重要で、因果的に関連する神経構造を調べ、同定するための唯一の機会を提供する。
CAの神経基盤は、VBM (voxel-based morphometry) やDTI (diffusion tensor imaging) などの現代的な構造神経画像手法や、EEG (electroencephalography) やMEG (magnetoencephalography)、fMRI (functional MRI) などの機能的および神経生理学的神経画像手法を用いて明らかにされてきた。CAに関する研究は、右優位 (左半球も関与する) の下前頭回 (inferior frontal gyrus, IFG) や上側頭回 (superior temporal gyrus, STG) の白質密度の低下や灰白質容積 (grey matter volume, GMV) または皮質厚の異常に関するエビデンスを提起してきた。さらに、CAは前頭側頭構造を相互結合する弓状束 (arcuate fasciculus, AF) とも関連づけられた。しかし、相反するDTI結果も報告されており、CAにおける白質障害のエビデンスは未だ決着がついていない。CAにおける聴覚皮質の機能的役割に関してもいくつかの議論があり、fMRIやMEG研究では右STGにおけるピッチ変化の処理や階調記憶が異常であるとされることがあれば、正常とされることもある。しかし現在のエビデンスによれば、CAではIFGとSTGの機能的結合性の低下によって、右前頭葉領域 (特にIFG) における音楽のピッチ情報への意識的注意と認知的解析に障害が出ることが示唆されている。CAは現在のところ右前頭側頭 (背側) ネットワークの反復処理の障害によって引き起こされる切断症候群と考えられている。
CAとは対照的に、AAの神経基盤の探索は、以前は個々の症例の症候に基づいた記述的研究や、複数症例に対する損傷部位に基づいた研究に限られていた。これらの研究は、サンプルサイズが小さいことや、時間的および空間的な正確性が低いこと、損傷部位が解剖学的におおざっぱなレベル (葉や半球レベル) でしか記述されておらず定量性に欠くことなどから方法論的な限界があった。結果的に、特定の音楽障害をきたす損傷部位や側性については、粗雑で一貫性のない結論しか得られていなかった。Stewartら (2006) によるAAのレビューで示された最新の図式では、図1に示したように、過去の症例や群研究で報告された損傷部位には、両側半球の複数の側頭葉、前頭葉頭頂葉、島、線条体領域が含まれる。音楽のスペクトラル特性 (e.g. ピッチ、音色) と時間特性 (e.g. リズム、テンポ) の障害をきたす損傷領域は大きく重複しているが、特にスペクトラル障害では右側頭葉領域の損傷が主体であった。脳卒中によるAA患者のEEGやMEGを報告した研究は数少ないが、聴覚オッドボールパラダイムを用いて、注意処理の障害を反映して新規音に対する反応性が低下することや、聴覚性感覚記憶の障害を反映してピッチや持続時間の変化に対する反応性が低下することを示した。しかし、これらの反応異常の源を定位できたわけではない。

図1. AAに関する単一症例 A) と群 B) の病変研究: 特定の脳領域の損傷後にAAを報告した単一症例/群研究の数を、スペクトラル障害 (左) と時間的障害 (右) の両方について示した。同じ数が異なるスライスで報告されている (たとえば、3つの症例研究が左前頭葉領域の損傷後にスペクトラル障害を報告しているため、軸位と矢状断の両方の赤色ROIに "3″が示されている)。障害が報告されていない領域には番号をつけていない。異なる脳領域は、よく知られたアトラスを用いて同定した。神経学的な慣例が用いられ、脳領域はMNI空間のカノニカルテンプレート上に示されている。図はStewartら (2006) の報告データに基づき、2006年から2018年までの研究を更新したものである。

VLSM (voxel-based lesion symptom mapping; 単一の症例研究を超えて、病変時に特定の症状を引き起こす脳領域を特定する方法)、VBM、DTIfMRIなどの最新の神経画像手法は、ごく最近発表された研究において、AAの構造的・機能的神経相関をマッピングするために利用されている。本稿では、AAの神経基盤およびその回復に関する現在の知見をレビューし、AAにおける主要な構造的・機能的変化の神経モデルを簡単に概説し、回復過程におけるそれらの役割と、正常な音楽処理に照らして議論する。

 

2. 後天性失音楽の構造および機能的神経相関
2-1. Voxel-based lesion-symptom mapping
損傷-症状関係 (lesion-symptom relationships) は、他の神経画像技術と同様の voxel-based approach を用いたVLSMを用いて調べることができる。2004年以降、VLSMは失語の損傷パターンを明らかにすることに成功してきたが、AAに対して用いられてきたのは最近になってからである。VLSMは、脳卒中患者の2つの研究で失音楽のゴールドスタンダート評価手法である Montreal Battery of Evaluation of Amusia (MBEA) のScale および Rhythm サブテストと組み合わせて用いられており、別の研究では MBEAと類似した音楽 (旋律) 短期記憶タスクと組み合わせて用いられている。Hirelら (2017) による20人の慢性期脳卒中患者を対象とした研究では、音楽タスクの遂行には島や前頭頭頂弁蓋部の損傷が関連していることを発見したが、両側の損傷が組み合わさっていたため損傷の側性は決定できていなかった。Sihvonenらは、より大きなコホート (N=90) を用いて、左 (N=43) と右 (N-=47) の損傷を持つ脳卒中後患者について、急性期から6ヶ月後の慢性期までの追跡を行った。急性期では、島、IFG、海馬の他に、右側頭葉 (STGおよびMTG)、皮質下領域 (線条体および淡蒼球) から成る特定の損傷パターンがAAと関連していた (図2A)。ピッチ失音楽とリズム失音楽の損傷パターンは大きく重複していたが、右背側線条体の損傷はリズム失音楽で最も重要であった。AAの回復を予測するために急性期損傷パターンを比較すると、3ヶ月および6ヶ月時点でのMBEAの成績に基づいて失音楽群はさらに分類可能であった。すなわち、MBEAでカットオフ値を上回る回復を見せた群 (回復した失音楽) と、カットオフ値以下となった群 (回復しなかった失音楽) の2群である。左IFGの損傷は失音楽の良好な回復と関連していたが、右前部STG、島、IFGは回復不良と関連していた (図2B)。これらの結果は、CAにおけるVBMによる発見と類似しており、右STGとIFGが重度かつ持続性のAAの基盤となる中核的領域であることを示唆している。しかし、これらの結果は同時に、左IFG損傷がより軽度かつ一過性のAAを引き起こす可能性を示している可能性もある。

図2. AAにおける急性期変化: A) MBEAの低値と関連していた脳卒中領域 (N=90); B) 回復しなかった失音楽 vs 非失音楽患者 (赤: N=74) および 回復した失音楽 vs 非失音楽患者 (青: N=53) のVLSM解析; C) 回復しなかった失音楽 vs 非失音楽患者を比較したTBSS解析 (N=42); D) 急性期AAに対するDTの結果 (N=42); E) 急性期にインストルメンタル音楽を聴かせた時の非失音楽と失音楽患者のfMRI活動パターン (N=41)、および失音楽の回復の有無で患者を分類した時の右前頭頭頂ネットワークの機能的結合性の比較 (N=24)。CAU = Caudate; DT = Deterministic tractography; GP = Globus pallidus; HIP = Hippocampus; INS = Insula; PUT = Putamen; R = Right。

興味深いことに、AAと失語の損傷パターンの間にはほとんど重複がなく、失語は左STGや島に局在を有していた。これは、初期の症例研究で認められていた、AAと失語の解離を支持する結果であった。それにもかかわらず、失音楽患者の約45%は少なくとも軽度の失語を有しており、この値は過去の研究で報告されていた割合と類似していた。ここから、音楽と言語の障害はしばしば同時に起こることが示唆される。健常な脳では、言語と音楽は、聴覚皮質と前頭領域における神経処理リソースを共有している。しかしながら、これらの障害は独立して起こりうるため、言語と音楽は重複した神経リソースを利用するものの、独立した脳内神経表現も有していると考えられてきた。特に、IFGは音楽と言語の間で構文統合リソースを共有する重要なノードであることが示唆されてきたが、非優位半球の側頭葉領域における処理に関して言えば、言語はより腹外側領域で処理されるのに対し、音楽はより背内側の領域から下頭頂小葉 (IPL) にも広がる部分で処理されるという領域選択性が存在する。上で述べたVLSMの結果も、左IFGの損傷が一過性のAAと関連していたことを示したという点で、共有されたリソースという仮説をいくらか支持するものであった。
しかし、VLSMには方法論的な限界がいくつか存在し、そこから導かれる結論の因果性や信頼性にも限界がある。第一に、大部分のVLSM研究は、評価された機能や技能に関して損傷前のデータを欠いており、自己報告やその他の間接的指標を用いている。第二に、VLSMの結果はダイアスキシスを考慮しておらず、損傷部位より外の領域の機能的変化の潜在的影響を評価できていない。第三に、自然発生した脳卒中の領域は脳の血管支配に一致しているため、局所的損傷や単一脳構造に限局した損傷は典型的ではなく、基本的に大規模で複数領域にまたがる損傷が多い。大規模な損傷は失語の予後不良因子であり、同様の観察は最近のAA研究でも報告されている。すなわち、6ヶ月で回復を見せなかった失音楽患者は、回復したものと比較して損傷体積が大きかった。重要なのは、大きな損傷は局所のみならず遠隔脳領域との結合をも破壊するため、VLSMの結果は白質経路の統合性に関する情報と組み合わせて解釈する必要があるという点である。

2-2. 拡散テンソル画像
DTIを用いたAA研究は2016年まで存在しなかったが、Sihvonenら (2016) はAA患者のサブサンプル (N=42) に対して白質路の障害を検討した。急性期のDTIデータを用いた決定的トラクトグラフィー (経路レベル) とトラクトに基づいた空間統計解析 (tract-based spatial statistics, TBSS) (ボクセルレベル) によれば、回復しない失音楽患者は非失音楽者と比較して、脳梁 (corpus callosum, CC)、右の弓状束 (AF long segment)、下前頭後頭束 (inferior fronto-occipital fasciculus, IFOF)、鉤状束 (uncinate fasciculus, UF) の容積低下または異方性 (fractional anisotropy, FA) 低下を一貫して示していた (図2C-D)。一方で、左のAF (posterior segment) の容積は失音楽の回復と関連していた。重要なのは、これらの効果はすべて、教育歴、損傷の大きさ、言語性記憶成績を含む潜在的な交絡因子を制御した上で判明したものであり、音楽障害への特異性が高いということである。まとめると、AAにおける最近のDTI結果は、CAで観察される右の背側経路の障害と合致しているが、さらに他の (つまり腹側の) 右前頭側頭白質路 (IFOF、UF) や半球間白質路 (CC) は重度かつ持続性のAAに関与していると言える。失音楽におけるこれらの発見は、失語では左の背側 (AF) のみならず腹側 (IFOF, UF) 白質路が、特に言語理解などの言語処理の障害の基盤にあるとする最近の発見と平行している。

2-3. 機能的MRI
Sihvonenらは、fMRI脳卒中患者に用いることで、AA患者が受動的に有名曲のボーカルバージョン (歌唱) とインストルメンタルバージョンを聴いている時の活動パターンと機能的結合性の変化を探索した。音楽の切り抜きをブロックデザインを用いて提示しており、ボーカル音楽を6ブロック、インスト音楽を6ブロック、各音楽ブロックの間に無刺激を12ブロック配置した。それぞれのブロックの長さは15秒であった。脳卒中急性期では、失音楽患者は非失音楽者と比較してインスト音楽に対する右STG/MTGの明瞭な活動低下を示した (図2E)。機能的結合性解析は、右前頭頭頂ネットワークの低結合性が、失音楽の回復不良と関連していることを示し、すでに急性期の段階からインスト音楽への注意の割り当てに障害があることが示唆された。興味深いことに、失音楽患者はボーカル音楽に対する活動低下や機能的結合性低下を示さなかった。実のところ、3ヶ月時点では、非失音楽者と比較して失音楽患者は、ボーカル vs インスト音楽に対して右の前頭 (IFGおよびMFG)、側頭 (Heschl's gyrus, HG)、頭頂 (IPL および post central gyrus, PCG) 領域、左の補足運動野 (supplementary motor area, SMA)、両側の内側頭頂後頭 (楔部、楔前部)、前頭 (帯状回前部) 領域の活動上昇を呈した (図3C)。失語の発症率は、非失音楽群と失音楽群の間や、失音楽患者の回復の有無で有意な違いはなかったことから、AAでボーカル音楽処理が保たれることは、失語で説明できるものではないと考えられた。

図3. AAの縦断的変化: A) 失音楽の回復の有無で比較した灰白質 (赤) および白質 (青) のVBM解析 (N=53); B) 回復しなかった失音楽 vs 非失音楽患者 (N=25) を比較したTBSS解析; C) 3ヶ月時点での、インスト音楽を聴いている際の非失音楽者と失音楽患者のfMRI活動パターンの比較、および、ボーカル音楽>インスト音楽を聴いている時の失音楽 vs 非失音楽患者のfMRI活動パターンの比較; D) 失音楽患者の回復の有無に基づいた左の前頭頭頂ネットワークの機能的結合性 (N=24)。CIN = Cinculate gyrus; CUN = Cuneus; HG = Heschl’s gyrus; HIP = Hippocampus; INS = Insula; IPL = Inferior parietal lobule; L = Left; MFG = Middle frontal gyrus; PCG = Postcentral gyrus; PUT = Putamen; R = Right.

 

3. 後天性失音楽の回復の基盤にある縦断的神経変化
3-1. Voxel-based morphometry
Sihvonenらは、脳卒中患者 (N=90) のVBMを利用して、AAの縦断的 (急性期から脳卒中後6ヵ月) 転帰に関連するGMVおよび白質容積 (WMV) の変化を探索した。学歴と病変の大きさをコントロールすると、失音楽の回復不良 vs 回復は、右STG/MTGとIFGのGMV低下、右MTG、ITG (下側頭回)、線条体、海馬のWMV低下と関連しており (図3A)、失音楽の回復不良は、初期病変部位に隣接する領域の萎縮と関連していることが示された。この萎縮パターンは、失音楽のタイプによって多少異なっていた。回復不良は、ピッチ失音楽では右の後部STG/MTGおよびIPLの萎縮と、リズム失音楽では右の前部MTG/ITGおよび海馬の萎縮と関連していた。リズム失音楽とピッチ失音楽の萎縮パターンが側頭平面に沿って前後方向に分布していることは、動物とヒトの両者で報告されており、側頭葉前方は時間ドメインの変化に高い感度を示し、側頭葉後方はスペクトラルドメインの変化に高い感度を示す。さらに、右の後部STG/MTGと右IPLは旋律知覚において重要な役割を担っており、特に階調のピッチ構造をワーキングメモリに保持している。

3-2. 拡散テンソル画像
縦断的DTIデータは、右IFOF、AF、UF、およびCCにおける平均拡散率または放射状拡散率 (MD/RD) の増加によって示される進行性白質障害と持続性失音楽とを関連づけた (図3B)。この右前頭側頭路 (IFOF、AF、UF) の変性パターンは、リズム失音楽とピッチ失音楽で類似していたが、いくつかの違いも見られた。リズム失音楽では、回復不良は左AFのMD/RD増加にも関連していた。ピッチ失音楽では、左右の側頭葉をつなぐCC後部のMD/RD増加が回復不良と関連していたのに対し、右AFの前部のMD/RD減少は良好な回復と関連していた。ここから、右IFGとIPLをつなぐこの背側路が保たれていることがピッチ失音楽の回復に重要であることが示唆された。興味深いことに、CAの根底にあると考えられる背側路の障害とは対照的に、腹側路 (IFOF) の障害が、2つの回帰分析においてAAの最も強い予測因子であった。

3-3. 機能的MRI
縦断的MRIデータは、インスト音楽条件で失音楽の回復 vs 回復不良が、3ヶ月時点では両側のMFGとIPL、左の上頭頂小葉 (superior parietal lobule, SPL)、右の中心前回 (precentral gyrus, PreCG) の活動上昇と、6ヶ月時点では右のIFGとMFGの活動上昇と関連していたことが示された。また、特に3ヶ月時点での左の前頭頭頂ネットワークの機能的結合性の上昇も回復に関連していた (図3C-D)。損傷サイズは回復の有無に関係しなかった。これらの結果から、失音楽の回復は、初期には両側の前頭頭頂領域の広範なリクルートメントによって、そして後期には右前頭前領域の局所的なリクルートメントによって特徴付けられる、動的なシフトによって支えられていることが示唆される。同様の変化はボーカル音楽条件では観察されず、インスト音楽に特異的であったことから、観察された効果は一般的な注意の定位の障害には帰着できないことが示唆される。ボーカル条件では、回復した失音楽に比べて回復しなかった失音楽では、6ヵ月後の両側小脳の活動が増加しており、これは失音楽の回復が、歌唱の感覚運動処理や潜在的な運動調音における神経努力の減少と関連している可能性を示している。回復した失音楽患者では、亜急性期に両側前頭葉、特にIFGとSMAの活性化がみられ、慢性期には左半球への再シフトを伴って活動が正常化する。

 

4. 後天性失音楽の神経モデルを目指して
健常者を対象とした機能的神経画像研究により、音楽知覚には両側の側頭、前頭、頭頂、皮質下の脳領域からなる広範なネットワークが関与していることが示されている。脳卒中患者を対象とした研究でも、音楽知覚の根底に大脳半球横断的なネットワークがあることを示す同様の証拠が得られている。しかし、Peretz (1990) や Schuppertら(2000) によって最初に示唆されたように、音楽知覚の中で、大局的 (global) 音楽構造の最初の認知は右半球に依存しており、右半球に従属する左半球のサブシステムによって支えられている。たとえばリズム知覚では、聴覚刺激の時間的情報を処理するために、これらの異なるシステムが拍子 (global) を解釈したり、音符の持続時間 (local) を識別したりする。一般に、認知機能を司る空間的に分散した脳領域は、白質路を介して結合しており、情報の処理、保存、操作を最大化するネットワークを形成している。神経ネットワークとその結合が破壊されると、切断症候群や認知・行動障害を引き起こす可能性がある。音楽ドメインでは、音楽構造の分析は様々な認知アーキテクチャを必要とし、これらは選択的に障害されうるため、AAにはきめ細かな形態が存在する。
上述した最近のマルチモーダルMRIの結果は、AAに関する以前の症状主導型および損傷部位主導型の研究を拡張するとともに、AAとその回復を支える構造的・機能的な神経変化について、より正確で空間的に正確かつ包括的な理解を提供する。これに基づけば、健常被験者で観察された両側性の大規模音楽ネットワークとは対照的に、音楽の知覚に必要不可欠な結合は右半球に存在するように思われた。AAを引き起こす病変領域の中心は右の島と線条体であり、そこから側頭葉 (STG/MTG)、前頭葉 (IFG)、大脳辺縁系 (海馬) へと病変が広がっている。この病変領域は、重要な前頭側頭経路、特に腹側経路に影響を及ぼすが、右の側頭葉と前頭葉下部をつなぐ背側経路にも影響を及ぼす。個体発生的および系統発生的観点からすると、右のIFOFと音楽知覚が関係していると考えるのは極めて興味深い。なぜならば、ヒトではIFOFは出生時にすでに存在することが知られているが、サルでは明らかに発達が未熟である。AAにおける主要な神経構造は右側性であったが、失音楽は大脳半球間結合 (すなわちCC) の損傷とも関連しており、リズム失音楽ではより顕著であった。対照的に、左前頭葉領域 (IFG) または左側頭頭頂経路の損傷は、より良好な回復 (すなわち一過性AA) と関連していた。さらに、AAの病変パターンは、音楽を聴く際の右STG/MTGの関与を機能的に阻害する。これらの知見を総合すると、右半球優位ではあるが、音楽の知覚と処理には左半球のサブシステムがさらに必要であるという理論的根拠が支持される。
AAの縦断的回復過程は、構造的および機能的な神経変化の両方が複合的に組み合わさって駆動される。AAの回復の障害は、右の前頭側頭白質路 (IFOF, AF, UF)、左のAF (リズム失音楽に限る)、CC後部 (ピッチ失音楽に限る) の変性や、損傷部に隣接する右の皮質 (STG, MTG, ITG, IFG) および皮質下 (線条体、海馬) 領域の萎縮と関連していた。失音楽の回復不良は損傷サイズの大きさと関連しており、右前頭側頭経路 (主に腹側経路) への障害の程度によって予測された。さらに、6ヶ月かけても回復しなかった失音楽は、回復した失音楽と比較して、急性期の時点で右の前頭頭頂ネットワークの機能的結合性の低下を認めていた。これとは対照的に、AAの良好な回復は半球間経路と両側の背側経路のリクルートメント上昇によって促進されていた。また、失音楽の回復は右AF前部の保存 (ピッチ失音楽に限る) や、両側の前頭 (IFG, MFG, PreCG) および頭頂 (IPL, SPL) 領域や左の前頭頭頂ネットワークの機能的リクルートメントの上昇によっても促進された。
言語の研究では、言語処理の基盤にある2つの処理経路、すなわち背側経路と腹側経路が幅広く受け入れられている。言語の二重経路モデルは概ね左優位だが、たとえばスペクトラル-時間解析や音韻処理は両側性と考えられており、このモデルの全体としても腹側経路は両側性の構成を持つと考えられている。同様の二重経路モデルは、音楽処理においても並行して作用し、重要な音楽の聴覚的情報を右半球の側頭葉、下部頭頂葉、下部前頭葉領域の間に伝達することが提唱されている。2つの経路のうち、背側経路 ("where" or "how") は側頭・下頭頂領域と前頭前野をつなぎ、聴覚-運動動作と空間情報の評価に重要であるという仮説がある一方、頭頂後頭、側頭、下前頭領域をつなぐ腹側経路 ("what") は、音を聴覚対象、ピッチクラス、旋律線に分類することに関与していると考えられている。失語では、背側経路の障害は語産生の障害と関連し、理解の障害は腹側経路 (最外包、さらに言えばIFOF) の損傷と関連する。音楽ドメインにおいても同様に、個々の経路 (背側または腹側) の損傷によって、異なる音楽障害 (生成と知覚) が現れる可能性がある。病変の大きさや場所が大きいために、腹側と背側の両方の経路が損傷を受けた場合、AAが回復する可能性は低い。その代わり、前頭葉頭頂葉、側頭葉の領域を相互接続する右半球の音楽関連経路が少なくとも1つ保たれているAAの場合、言語ドメインのようにこの2つの経路が機能を共有し代償メカニズムを媒介することで、回復に関与する可能性がある。この理論的根拠は、最近の結果から支えられている。
AAの構造的異常は主に右外側に偏っていたが、インスト音楽聴取時の機能的異常は両半球で観察された。先に述べた聴覚情報処理におけるglobal (i.e. 拍子) vs local (i.e. リズム) の解離に加え、さらに音楽処理ネットワークにおける重要なハブ、つまり神経細胞のシグナル伝達とコミュニケーションを可能にするのに重要な脳領域が右半球にあり、これらの神経構造への障害が音楽の知覚における広範な処理障害を引き起こしている可能性がある。これまでに発表された研究を総合すると、これらの重要なハブは右のSTG/MTGとIFGであり、さらにCAと同様に2つの領域を相互接続する白質経路を構成していることが示唆される。しかし、AAで損傷を受けた重要な結合は、背側経路とは対照的に、右腹側経路であった。左半球の損傷後にもAAが生じることがあるため、左半球の音楽処理領域と右半球の重要な音楽関連脳領域 (すなわち重要なハブ) を相互接続している重要な経路に影響を及ぼす病変が、AAを引き起こす可能性がある。さらに、左半球損傷後の音楽知覚障害は無傷の右半球によって補われることが示唆されており、右半球の音楽処理への重要性を強調する。他の説明として考えられるのは、自然体で音楽を聴いているときには、局所的な処理とは対照的に、より大域的な聴覚情報処理が必要になるということである。
さらに、病変の側性と機能異常の間の不一致は、刺激の複雑さから生じる可能性もある。言語ドメインでは、プロソディ情動処理の側性化は言語的複雑性に依存する: 提示される文のプロソディ情報の複雑さが、非音節的な単語から単音節的な単語、そして多音節的な単語へと増加するにつれて、fMRIのパターンは、主に右側性のものから両側性のものへと変化する。同様に、音楽には言語成分と同時に複雑な音響成分が含まれているため、音楽を聴いているときには、単一の音や旋律を聴いているときよりも、両側性に広く脳が活性化すると考えるのが妥当である。これらを総合すると、右半球の病変がAAの原因となり、広範でグローバルな音楽処理障害が現れるのに対し、左半球の損傷は局所的な処理にのみ影響を及ぼし、その結果、小規模な活性化障害が生じる可能性がある。
ボーカル付きの音楽は、言語 (e.g. 言語的構文、意味) と音楽 (e.g. 旋律、和音、リズム) の両方の特徴が組み合わさっている。興味深いことに、右の側頭葉 (HG) と前頭頭頂 (IFG, MFG, IPL, PCG) 皮質領域、左のSMAと内側前頭頭頂 (e.g. 帯状回や楔前部) 領域を含む幅広いネットワークにおいて、失音楽患者はインストと比べてボーカル音楽に対する活動が亢進していた。これは、音楽のボーカル要素がAAで比較的よく保たれており、スペアされた聴覚、音声-運動、注意、記憶に関係した領域によってその処理が行われていることを示唆している。健常被験者におけるfMRI研究で、ボーカルとインスト音楽の処理を比較した報告でも同様の結果が報告されている。さらに、脳卒中後失語の発症に群間有意差がなかったことから、観察された結果は言語処理の違いによって説明できるわけではなさそうである。しかし、この発見は1つの研究に基づくものであって、将来的な更なる詳細な研究が必要である。
総合すると、健常被験者の神経画像研究は、音楽と言語の処理が脳内リソースを共有しているものの、主に異なる皮質ネットワークが関与していることを示した: 音楽を聴くことは言葉を聞くよりも右のIFGおよび両側の島と上側頭領域の活動を高める。同様に、神経ネットワークの中で共有されている部分も独立した部分も、両方が歌唱と発話の基盤となっている。両方の機能に運動感覚領域や下部前頭領域を含む大規模なネットワークが関わっているが、発話と比較すると、歌唱は右前頭領域のみならず右側頭頭頂領域の強い活動を誘導する。最近のAA研究は、脳内で音楽と言語の処理に関わる共有および個別のリソースについてのエビデンスを提供している。脳卒中後の言語および音楽障害はしばしば同時に発症しうるが、これらのドメインは選択的に傷害されることもある。失語と持続性AAを生じる病変パターンは明確な側性化を示しており、それぞれ左および右半球にクラスターを形成している。一方、回復するAAは主に左IFGに局在しており、ここは音楽と言語の共有リソースの重要なノードである。AAでは、右の腹側および背側経路が最も決定的な白質路であり、右の腹側経路への初期ダメージの程度がAAの重症度の最も有意な予測因子であった。右の腹側経路は言語と音楽処理の両方に関わっているため、近年の結果を踏まえると、この重要な経路はこれら2つのドメインの間で共有された神経ネットワークの一部を構成しており、特に音楽や言語の知覚に重要な旋律特徴の符号化と解析に関わっていることが示唆される。一方で、音楽と言語の構文情報の処理は、左のIFGと左の背側および腹側経路を中心とする左半球ネットワークで共有されていることが示されている。興味深いことに、そして構文処理とは対照的に、プロソディの知覚は右半球の背側および腹側経路に依存している。脳卒中後のプロソディ障害は右半球の障害とも関連づけられてきたが、近年のエビデンス脳梁後部を介した半球間クロストークが言語のプロソディと構文情報を組み合わせるのに必要であることを示唆している。これらの脳梁後部線維は特にピッチ失音楽においてAAにも影響しており、言語処理と同様に音楽のピッチ情報はこの経路を通じて左半球に転送されて構文との統合を受ける可能性がある。これは、音楽-構文処理は右優位だが両側のIFGの活動を誘発するという結果に基づく。まとめると、2つの経路は協働しながら、複雑な音響特徴の組み合わせを抽象表現に変形し、これらの表現と統合すべく感覚運動情報を解析している。議論されたデータによれば、正常な音楽の知覚は、特に右半球におけるこの二重経路に依存することが示唆される。特に、最近の結果は損傷に基づく構造変化がどのようにAAを発症させ、構造的および機能的変化がどのようにAAの回復を障害または促進するのかというカスカードについてモデル化を可能にしている (図4)。

図4. 後天性失音楽の二重経路モデル: 右腹側および背側経路は失音楽の回復に重要な役割を果たしており、もし右半球の両経路が損傷を受けてしまうと、後天性失音楽の回復は不可能と考えられる。しかし、もし右半球のどちらかの経路が保たれていれば、両経路の機能共有によって回復は可能である。

 

5. 結論、臨床的考察、将来の方向づけ
AAは中大脳動脈領域の脳卒中後に一般的な障害だが、その頻度は35%から69%と幅広く、臨床現場ではルーチンに評価されているわけでもないため、十分に診断されているわけではないと思われる。このレビューにおける新しい発見は、VLSM研究で報告された失音楽の病変パターン、右半球の腹側経理または背側経路のどちら (もしくは両者) が障害を受けているのか、そしてMBEAなどをスクリーニング手法として患者の音楽能力を継続的に評価することができる点など、様々な点に関する情報を与え、AAの正確な同定に役立つ。ここで引用した結果は、AAのアウトカムを予知するツールを提供してもいる: 損傷部位が小さく背側経路が保たれている患者は、初期に失音楽を呈しても回復する可能性が高い。現在の研究は音楽の認知的側面 (ピッチやリズムの処理) に焦点をあてているが、右半球への損傷を有する患者が音楽の感情的、報酬的、自律的、感傷的な側面の処理に障害を示すことを考えると、音楽の快楽的性質を無視することはできない。健常者では、音楽アンヘドニア側坐核の活動の選択的低下や、同部位と右聴覚皮質の機能的および構造的結合性の低下と主に関連づけられている。後天的音楽アンヘドニアを記述した最初の症例は、25年以上も前のことになる。この患者は右側頭頭頂損傷を持ち、すべての認知ドメインが正常であったにも関わらず、音楽体験の定性的側面を評価する能力を喪失し、特に音楽の感情的側面の処理ができなかった。Belfiら (2017) は局所脳損傷を持つ大規模な患者群に対して Musical Anhedonia Questionnaire と Barcelona Music Reward Questionnaire を用いることで、音楽の楽しさと報酬性を感じる能力が脳損傷の後に障害されるのかを評価した。しかし、音楽アンヘドニアを予測する信頼性のある脳損傷パターンは浮上してこなかった。まとめると、音楽アンヘドニアは稀であり、音楽の報酬性は神経ダメージに対して極めて頑強であるか、もしくは音楽-報酬デコードネットワークの複数部分への損傷が同様の障害を引き起こすのかもしれない。一部の研究者は、AAとともに美的喜びが喪失する症例を報告している。この点では、最近の研究はCAのある被験者が音楽の感情的認知タスクで障害を示した一方で、音楽の感情的体験の強度がコントロールと比較して保たれていたことをを示した。この研究では感情認知と感情的影響の解離の可能性を示しており、失音楽が感情処理に与える影響をさらに研究することの重要性を強調している。
人間の生活における音楽の本質的な役割を考えると、AAを診断することは、音楽家や音楽教師のような職業的に音楽と関わっている患者だけでなく、音楽的な趣味を持つ患者や音楽に基づくリハビリテーションが考慮される患者においても特に重要である。音楽ベースの介入が失音楽患者に考慮される場合、AAに関する最近のfMRI研究に基づけば失音楽脳では歌唱音楽処理が少なくとも部分的に保存されている可能性があるため、ボーカル音楽聴取や歌唱ベースの介入が有望であると思われる。より具体的には、AAが失語を伴う場合、音楽におけるボーカル的側面の処理が保存されていることから、Melodic Intonation Therapy (MIT) が依然として有効な手法であると思われる。しかし、MITを用いた言語回復の経路として提案されているのは右背側経路を利用した右半球の相同な言語および音声-運動領域のリクルートメントであるため、MITによって得られる利益は、右背側経路の保存に依存する可能性が高い。失音楽は、言語的または感情的なプロソディの問題とも関連していることが多く、これらは言語音声の微妙なピッチ、音色、強弱の変化に依存している。これは、日常的なコミュニケーションや社会的相互作用の困難につながる可能性がある。AAに対する介入研究は不足しているが、歌唱介入はCAにおいて有望であることが分かっており、AAにおいてfMRIで観察されたボーカル音楽処理の保存を考えると、AAのリハビリテーションにおいても有用なツールを提供する可能性がある。
全体として、音楽処理は、異なる音楽要素 (階調、旋律的音程、旋律線、リズム、拍子など) の解析から産生的要素 (歌唱、音楽に対する運動など) 知覚解析複数の要素を含んでおり、これらの障害がきめ細かなAAの形態スペクトラムを生みだしている。上で議論した最も最近の研究は音楽能力 (i.e. ピッチやリズム知覚) の検査にMBEAのみを用いているが、これらの結果は音楽ネットワークの中で機能的に重要な神経要素を明らかにした。将来的には、音楽処理構造がネットワークのレベルでどのように機能するのかを深いレベルで決定するために、音楽の知覚的および産生的な要素の両方に関するさらなる研究が必要である。これは、異なる症状、神経基盤、経過を持つ様々な神経疾患においてAAを研究することで促進されるのかもしれない。このレビューでは脳卒中による失音楽を理解するための最近の進歩にフォーカスをあてたが、認知症患者でもピッチ処理単独の障害が報告されていたりするため、認知症おける音楽能力の研究も重要である。さらに、正常であれ異常であれ、異なる音楽文化にわたる音楽処理の研究を行うことは、ヒトに共有された音楽神経構造に関する情報を提供するかもしれない。個人の音楽モジュールの構造的および機能的な結合を正確にモデル化することは必要だが、方法論的には、より良質なMRI手法と患者の音楽能力の包括的検査、および大規模なサンプルサイズが必要である。さらに、AAの回復と関連付けて、損傷サイズの縦断的解析も必要となる。AA患者のVLSMと機能的データに最先端の multivoxel pattern analysis を適用することで、音楽の知覚に関連する重要な神経構造のより正確な知見を提供することができるかもしれない。

 

感想
音楽を要素別にこんなに細かく考えたことがなかったし、脳内でここまで細かに表現されているということにびっくり。ピッチの知覚とかリズムの知覚とか、音楽の知覚が要素化できるのはもちろんわかるんだけど、それぞれが異なる脳領域やネットワークによって表現されているというのはとても面白い。ただ、音楽の構文を解析する領域、って言われてもわかんないですわ・・・。音楽の構文を解析しながら音楽聴いてないからな・・・。理解が不完全すぎるので、もう少しほかの文献も読んでみようと思います。
あと、音楽処理は右半球に側性化しているっていうのをそもそも知らなかったので、右MCA梗塞患者で意識がよかったら音楽知覚の評価もしてみようかと思いました。