ひびめも

日々のメモです

PPAの文法障害

Grammatical impairments in PPA.
Thompson, Cynthia K., and Jennifer E. Mack.
Aphasiology 28.8-9 (2014): 1018-1037.

 

文法についての理解が甘々なので読んでみた。

 

1. 背景
原発性進行性失語 (PPA) には3つの主要なサブタイプがあり、それぞれが特徴的な神経言語学的および神経病理学的プロファイルと関連している。PPAのサブタイプ分類の現行のコンセンサス基準によれば、PPAバリアントの1つ ("nonfluent/agrammatic PPA") は文法障害かつ/または運動性発話障害と関連しており、典型的には左の前頭葉後部と島の領域の変性と、背側白質経路の損傷と関連している。2つ目のバリアントであるlogopenic PPAは、単語想起と文章想起の障害によって特徴付けられ、典型的には側頭頭頂接合部と背側白質経路に萎縮が認められる。3つ目のバリアントであるsemantic PPAは、物体呼称と単語理解の障害と関連し、側頭葉前部と腹側言語経路に萎縮が認められる。剖検では、"nonfluent/agrammatic PPA"とsemantic PPAは前頭側頭葉変性症 (FTLD) と関連していることが多く、logopenic PPAはアルツハイマー病 (AD) の病理と関連している。このため、PPAの慎重なサブタイピングは臨床的に重要である。
コンセンサス基準で提唱された用語集とは異なり、我々は "nonfluent/agrammatic" (i.e. naPPA) という用語を用いることは避けたい。これは、この用語が文法能力を正確に反映しているわけではないからである。2011年のコンセンサス基準におけるnaPPAら2つの中核的特徴を含んでおり、このどちらでも分類は可能であった: (1) 言語産生における失文法、(2) 一貫しない音の誤りを伴う努力性で中断を伴う発話。しかし、重要なのは、文法障害を持つすべての患者が運動障害を呈するわけではなく、文法障害を持たない「純粋な」運動性発話障害を持つ患者が報告されていることである。また、logopenic PPAの患者の言語産生パターンは流暢性のこともあれば非流暢性のこともあるが、発話出力が非流暢であっても、たかだか軽度の文法障害しか呈さない。たとえば、Thompsonら (1997) によるPPAの自発性発話の縦断的な低下を詳細にまとめた最初の文献では、「非流暢性の原発性進行性失語を呈した4人 (p.297)」に対し、長くて11年にわたって隔年で言語サンプルを収集してそれを解析した。結果として、3人の患者 (患者1, 3, 4) が形態統語論的な障害を示し、経時的な悪化を認めた。しかし、患者2は、非流暢性の言語産生を呈したものの、異なる障害パターンを示した: 名詞と動詞の両方についての有意な単語想起障害を認めたにも関わらず、形態統語論的な障害は比較的目立たなかった。特筆すべきこととして、患者2は運動性発話障害も呈しており、これが経時的に悪化した。Gorno-Tempiniらのサブタイピング基準を用いると、この患者は失文法を一度も呈さなかったにもかかわらず、"nonfluent/agrammatic" PPAと診断されることになる。Wilson、Galantucci、Tartaglia、Gorno-Tempini (2012) は、最近患者2のプロファイルを振り返り、この患者はlogopenic PPAだったのではないかと提案した (ThompsonとMesulamの個人的やり取りで確認) (p. 193)。よって我々は、Mesulam、Thompson、Weintrabuら (e.g., Mesulam et al., 2009, 2012; Thompson et al., 2012a, 2013a) に続いて、文法処理障害を持つ患者に対してPPA-Gという用語を用いる。こうした患者の一部は運動性発話障害が共存することがあるが、naPPAという分類とは異なり、PPA-Gという分類は運動性発話障害を持つが文法障害を持たない患者を含まない。また我々は、Mesulam、Thompson、Weintraub らが Northwestern University で行った先行研究と用語的一貫性を維持するために、logopenic PPA と semantic PPA をそれぞれ PPA-L と PPA-S と呼ぶ。我々の分類は、lvPPAとsvPPAと総合的には同一のものだが、明確な基準と検査成績 (i.e. Northwestern Anagram Test, NAT や Peabody Picture Vocabulary Test-4th editions, PPVT-4) のパターンに基づいて生成されるものである。
今回の研究では、我々はPPAのサブタイプごとの文法処理能力に注目する。PPAの文法処理障害の先行レビューとしては、Wilsonら (2012) のものを参照してほしい。文法障害は一般にPPAの失文法型と関連づけられるが、障害パターンに関しては一貫しない発見も報告されている。実際、こうした非一貫性の一部はPPA-L患者や純粋運動性発話障害の患者をnaPPA群に含めてしまっているために生じている。さらに、PPA-LとPPA-Sの分類基準は文法産生が比較的保たれていることを必要としているが、一部の研究はこうしたサブタイプでもわずかな文法障害の存在を観察している。今回の研究では、我々は文法障害で影響を受ける形態統語論ドメインを定義することから始める: 文法的形態 (grammatical morphology)、機能カテゴリ (functional categories)、動詞 (verbs) と動詞項構造 (verb argument structure)、複雑な統語構造 (complex syntactic structures)。我々は次にPPAの文法障害とその神経相関に関する先行研究を振り返る。最後に、我々は文法障害の評価と臨床管理の選択肢について議論する。

 

2. 文法障害とは何か?
文法障害は、文章の形態統語構造の産生かつ/または理解の障害を含む。形態統語構造には複数の要素がある。文法的形態 (grammatical morphology)とは、呼応 (agreement) (They jump vs He jumps) や時制/相 (tense/aspect) (They jump vs They jumped) における屈折語尾マーカー (inflectional markers) を含む、単語の内的構造を符号化するものである。機能カテゴリ (functional categories) とは、機能的統語フレーズの頭に置かれる閉クラス単語 (closed-class words) であり、限定詞 (the cat)、助動詞 (He is jumping)、補文標識 (Sam thought that he left) などが含まれる。動詞 (verbs) は、一般に形態統語処理の中心的役割を果たしている。呼応や時制/相の形態的マーカーを運ぶのに加え、動詞の語彙表現は動詞項構造 (verb argument structure) を含み、これは動詞とともに符号化されるフレーズ (項) に、統語 (i.e. サブカテゴリ化) と語彙-意味 (i.e. 選択的) 的な制限を加える (e.g. swimは自動詞であり生きた主語を選ぶ)。このため動詞処理は、単純な単節文だけでなく、埋め込まれた節 (embedded clauses) かつ/または非正規的項順序を含む複雑な統語構造 (complex syntactic structures) (e.g. The girl was kissed by the boy という受動態文章では、被動者が動作主に先んじている) の産生と理解に重要である。下で振り返るように、PPA-Gはこれらの形態統語構造の要素のどれかの障害と関連づけられている。
特筆すべきこととして、上で述べたように、文法の障害は必ずしも流暢性の障害とは関連しない。非流暢な発話は、速度の低下、発話の流れの障害 (e.g. 中断、誤った開始)、発話における音の誤りによって特徴づけられる。非流暢な発話の産生はPPA患者の多くで見られるものの、文法性は障害されることもあれば保たれることもある。古典的な脳卒中-失語論では、非流暢な発話の産生はBroca失語と分類するために用いられた主要な特徴であり、Broca失語はしばしば文章産生と理解の両方に影響を与える文法能力の障害を伴うことがある。したがって、非流暢なBroca失語はしばしば失文法性失語と相互変換されて用いられており、文法障害の存在を暗示している。しかし、PPA患者は流暢性と文法能力に解離を持つことを示す研究がある。Thompson、Weintrabu、Mesulamら (2012a) による、PPAにおいて物語の発話産生を検討した研究では、文法能力はPPAのそれぞれのバリアントで異なることが報告された。しかし、一般的な流暢性のマーカーであるwords per minute (WPM) に基づくと、37人のPPA患者中27人が非流暢である (正常コントロールの平均マイナス1SD以下である) ことが報告された。この集団の中には、PPA-Gと分類された11人はすべて含まれていたが、PPA-Lと分類された20人中15人、PPA-Sと分類された6人中1人も含まれた。さらに、発話速度と文法産生の複数の指標の間では有意な関係性は認められなかった (e.g. 正しく語形変化させられた動詞の比率、open:close比、名詞:動詞比、文法的文章の比率)。さらに、PPAにおける流暢性と文法産生の間の神経基質の重複の程度に関しては、以下で議論するようにエビデンスは混合している。

 

3. PPAの文法処理
このセクションはPPAの形態統語論的処理の先行研究をまとめる。以下の言語学ドメインによって構成される: 文法的形態 (grammatical morphology)、機能カテゴリ (functional categories)、動詞 (verbs) と動詞項構造 (verb argument structure)、複雑な統語構造 (complex syntactic structures)。

3-1. 文法的形態 (Grammatical morphology)
文法的形態 (e.g. 動詞の屈折) の産生障害は、PPA-Gで認められる。彼らは、認知的に正常な人々と比較して、連続発話サンプルにおいて、正しい屈折を有する動詞の減少を示した。こうした特徴はPPA-LやPPA-Sでは認められなかった。さらに、屈折動詞の全体的な比率は、コントロールと比較してPPA-Gで (有意ではなかったものの) 低かったとする報告もあり、こうした傾向はPPA-LやPPA-Sでは見られなかった。また、語彙カテゴリ (lexical categories) にわたって、PPA-G患者は正しい文法的屈折語尾 (ending) の産生低下を呈した (e.g. boys, playing, Tom's)。
文法的形態の産生をテストする文章構造完成タスク (Northwestern Assessment of Verb Inflection) では、PPA-G患者はPPA-L患者と比較して正しい定動詞 (時制変化した動詞) の産生数が低下したが、両者は不定動詞 (時制変化していない動詞) の産生精度で差を示さなかった。具体的には、PPA-G患者は定動詞を67% (vs PPA-Lは88%)、不定動詞を94% (vs PPA-Lは99%) の精度で産生した。同様のパターンは、脳卒中による失文法 vs 失名辞失語を有する患者でも認められた: 失文法患者は、失名辞患者と比較して定動詞の産生に障害を示したが、不定動詞については障害はみられなかった。これらの結果からは、PPA-Gが脳卒中による失文法失語と同様に、言語的形態の産生障害を有することが示唆された。
PPA-Gはまた、動詞形態の理解の障害とも関連づけられている。特に、形態的誤りに対する即時感度 (online sensitivity) が障害されている。PPA-G患者は、様々な形態統語論的な呼応の誤り (e.g. 主語-動詞、限定詞-名詞、量化詞-被量化語) に対する感受性の遅れを示したのに対し、PPA-S患者はこうした誤りに対する感受性は保たれており、認知的に健常なコントロールと同じ時間経過で反応することができた。さらに、PPA-G患者は、コントロールと比較して時制の誤りに対する即時感度が障害されていた。PPA-Gでは時制形態の産生も障害されていることを考えると、こうした結果はモダリティにわたって広がる時制形態の表現かつ/または処理の一般的障害を示唆している。

3-2. 機能カテゴリ (Functional categories)
機能カテゴリの産生障害も、PPA-Gの連続発話サンプルで認められている。複数の研究において、開クラス (open cloass, i.e. 内容) と閉クラス (closed class, i.e. 機能) の比率 (O:C class ratio) や、特定の機能カテゴリ (限定詞、助動詞、代名詞) の産生率といった、機能カテゴリの全体的産生率が定量化された。結果として、PPA-GではO:C class ratioの上昇傾向が認められたが、どの研究でも有意差の証明には至っておらず、また別の研究ではPPA-Gとコントロールで差を認めなかった。ここから、閉クラス単語の産生率の著明な低下が認められる脳卒中による失文法失語とPPA-Gの間には、潜在的な差がある可能性が強調された。しかし、この明らかな差は、少なくとも部分的には "nonfluent/agrammatic" の分類に関する現在のコンセンサス基準 (文法障害の有無によらない) を反映している可能性がある。
さらに先行研究では、PPA-Gの閉クラス単語の産生障害は、特定の機能カテゴリに限定される可能性が示唆されている。Wilsonら (2010b) は、PPA-G患者はコントロールと比較して限定詞のある単語の産生比率が低くなる (0.89 vs 1.00) 一方で、PPA-LとPPA-S患者はそうではない (それぞれ0.97と0.99) ことを発見した。またThompsonら (1997) は、"non-fluent" PPAのうち3人が自発話における言語的形態統語産生の障害を有する (i.e. 動詞句における閉クラス単語の産生低下、動詞形態の産生エラー (e.g. 時制や呼応) など) ことを報告したが、Wilsonら (2010b) はどのPPAサブタイプでもコントロールと比較して助動詞の複雑性の尺度が異ならなかったことを発見した。さらに、PPA-Gでは代名詞の産生は保たれているように見え、PPA-G患者はコントロールと比較してほぼ同様の代名詞および形式上主語としての代名詞 (e.g. There is a man here) の産生率を示すことが報告されている。
PPA-Gと比較して、PPA-S患者はコントロールと比較して低いO:C比を呈する。すなわち、閉クラスよりも開クラス単語の産生に障害がある。しかし、PPA-Lではコントロールと比較して開閉クラスの単語産生に統計学的に有意な差を認めなかった。さらに、PPA-LとPPA-Sはコントロールと比較して代名詞の産生比率が高く、内容単語の想起に障害があることを反映していると思われた。こうした発見は、PPA-LとPPA-Sでは閉クラス単語の産生が比較的保たれていることを示している。しかし、PPA-GとPPA-Sの両方において、コントロールと比較して閉クラス単語の代入エラーが多いことも報告されている。
我々の知る限り、PPAにおいて文章理解における機能カテゴリ処理を調べた研究は存在しない。しかし、機能カテゴリと文法的形態の処理は、PPA-Gで顕著に障害される統語的に複雑な構造の理解において重要な役割を果たしている。

3-3. 動詞と動詞項構造 (Verbs and verb argument structure)
PPA-Gにおいて動詞の産生が障害されていることを示すエビデンスは多くある。PPA-Gの連続発話サンプルの定量的解析では、コントロールと比較して名詞:動詞 (noun:verb, N:V) 比によって反映された動詞産生障害傾向が報告されている (この2群の間では差が認められなかったとする研究も1つ存在する)。PPA-G患者では、コントロールと比較して一発話 (utterance) あたりの動詞の産生低下も認められるが、名詞にはその傾向を認めなかった。さらに、PPA-Gは物語発話において、正しい項構造を持つ動詞の産生障害によって反映される動詞項構造の産生障害を呈する。ただし、動詞ごとに産生される項の数に関しては、コントロールとPPA-Gで差を認めなかったとする研究もある。動詞産生の障害は絵の呼称タスクにおいても明らかである。PPA-G患者は、名詞 (物体) の呼称よりも動詞 (動作) の呼称における有意な障害を呈した。さらに、彼らはより単純な項構造を持つ動詞 (i.e. sweepなどの自動詞) を、より複雑な項構造 (i.e carryなどの他動詞) を持つ動詞よりも正確に呼称し、これは脳卒中による失文法失語に特徴的なパターンであった。しかし、動詞の理解は、名詞の理解とともにPPA-Gではほとんど保たれており、動詞の語彙-意味表現は保たれていることが示唆された。
これとは対照的に、PPA-LとPPA-Sは動詞産生または理解において特定の障害を呈さなかった。PPA-L患者は名詞と動詞をほとんど同等の正確性で呼称または理解し、連続発話サンプルでは名詞の産生障害傾向を呈した (i.e. コントロールと比較したN:V比の低下)。たとえば、Thompsonら (2012a) はPPA-Lの20人の群で平均N:V比が0.99であり、認知的に正常な13人のコントロールの平均である1.21よりも低かったことを報告した。同様に、Wilsonら (2010b) はあらゆる開クラス項目 (名詞と動詞) の中での動詞の比率を検討し、コントロール (M=0.37) と比較してPPA-Lの11人 (M=0.46) でこれが高い傾向にあることを報告した。さらに、連続発話における停止 (pause) (i.e. filled pauses (e.g. um, er) とunfilled pauses (300 ms以上のもの)) を検討した最近の研究において、PPA-L患者では動詞の前よりも名詞の前で停止が高頻度になることが発見され、動詞よりも名詞において単語想起障害が大きいことが示唆された。
PPA-Lでは、動詞項構造の産生も比較的保たれている。PPA-L患者は、物語発話において動詞項構造のエラーが少なく、自動詞および他動詞は同様の精度で呼称された。PPA-Sでは、動詞の産生と理解は比較的保たれるが、名詞処理は顕著に障害される。連続発話サンプルでは、N:V比はコントロール (M=1.21) と比較してPPA-S (M=0.74) で有意に低く、これも名詞産生の障害を示している。一方で、動詞項構造の産生障害は認められなかった。
PPAの文章理解における動詞の即時処理を検討した2つの相反する研究がある。Peeleら (2007) は、PPA-G患者は主題の誤り (thematic violations, e.g. ありえない主語) に対する感受性が保たれていることを報告したが、PriceとGrossman (2005) はこれと反対のパターンを報告した。 すなわち、彼らのPPA-G患者は主題の誤りや自他動詞の誤り (e.g. 自動詞が目的語を持つ) に対する即時感受性を持たなかった。さらに、Peeleら (2007) は形態統語的誤り (e.g. 単語クラスの誤り、呼応の誤り) に対する感受性の障害を報告し、PPA-Gで一般的な動詞処理が障害されていることを示唆した。しかし、PriceとGrossman (2005) は、PPA-S患者が主題や自他動詞の誤りの処理障害を持つことを示した。以上から、PPAのサブタイプごとの即時動詞処理の性質とその背景にある潜在的な違いに関しては、さらなる研究が必要である。

3-4. 文章産生と理解 (Sentence Production and Comprehension)
PPA-Gでは、文章の産生と理解が著しく障害され、PPA-Lでも比較的軽度の障害が認められている。発話サンプルの量的分析のほとんどは、PPA-Gではコントロールよりも文法的誤りが多いことを見出しており、ある研究では、筆記言語サンプルにおける文法的誤りの割合が高いことが報告されている。我々は2つの研究において、PPA-GよりもPPA-Lの方が文法的誤りの割合が低く、PPA-L群とコントロールの間に差はないことを発見した。しかし、Wilsonら (2010b) は、PPA-GとPPA-Lの文法エラー率は、いずれも年齢をマッチさせたコントロールよりも高かったと報告している。
さらに、PPA-GとPPA-Lでは、連続音声サンプルで産生される発話の複雑性が低下している。PPA-G患者は、認知的に健常なコントロールに比べて、統語的に複雑な発話の数が少なく、PPA-Lでは埋め込み率 (rate of embedding) が低下することが報告されている。これとは対照的に、PPA-S患者は、連続音声サンプルにおいて比較的文法的誤りが少なく、コントロールよりも埋め込み率が高い。これは、形態統語産生能力が比較的保たれていることと、語彙-意味障害を補うために迂遠な表現を用いる傾向を示している。
PPA-G患者は構造的文章産生タスクにおいても障害を示すが、PPA-LとPPA-Sの発話者は比較的障害が少ない。特に、PPA-Gでは非正規文章が障害されやすい。Primed sentense production taskの結果を見ると、PPA-GとPPA-Lの患者は、正規文 (e.g. 能動態文、主語疑問文、主語関係節) を同程度の精度で産出する一方、非正規文 (e.g. 受動態文、目的語疑問文、目的語関係節) については、PPA-Gの方がPPA-Lよりも精度が低いことが示された。具体的には、PPA-Gの平均産生精度は、能動態文、主語疑問文、主語関係節でそれぞれ100%、88%、80%であった。同様に、PPA-L群の精度は、これらの定型文では97%、93%、87%であった。しかし、非正規分については群間差がみられた: PPA-G患者は、受動態文では54%、目的語疑問文では70%、目的語関係節では32%であったのに対し、PPA-Lの話者では、これらの統語的に複雑な文では、それぞれ92%、96%、68%であった。この課題における非正規文産生の障害は、脳卒中による失文法失語でも観察されている。
複雑な文章の理解障害もPPA-Gの主な特徴であり、PPA-Lでも文章障害パターンこそ異なるものの指摘されている障害である。ある研究は、PPA-LよりもPPA-Gの方が非正規文章理解障害が大きく、正規文章の理解には群間差がなかったことを報告した。同様のパターンが、脳卒中による失文法失語と失名辞失語でもそれぞれ認められている。しかし、別の研究では、PPA-GよりもPPA-Lの方が非正規文章の理解力が数値的に劣っていることが報告されている。このような結果が混在しているのは、両群で非正規文章処理の異なる要素に障害があるためかもしれない。Wilsonら (2012) は、PPA-Gでは非正規文章の理解が一般的に障害されるのに対し、PPA-Lでは長い非正規文章の理解のみが障害されると報告している。このことは、PPA-Gでは文章理解の障害は形態統語障害によるところが大きいが、PPA-Lでは言語性ワーキングメモリーの障害が文章理解障害の根底にある可能性を示唆している。PPA-Sでは、文章理解は比較的保たれるが、疾患が進行すれば複雑な文章の理解に障害をきたすことがある。

 

4. 文法処理障害の神経機構
PPAにおける文法処理障害の背景にある神経機構を理解するにあたって、我々はまず認知的に健常なコントロールにおける文法処理の側面を検討した神経画像研究を振り返る。こうした研究の複数が文法的形態と機能カテゴリの処理の神経相関を検討し、結果として屈折形態 (e.g. 時制や呼応) の処理が左下前頭回、左運動野、左運動前野、後部頭頂葉によって支えられていることを報告した。さらに、あるfMRI研究は、左優位の下前頭回、中側頭回、下頭頂小葉が機能および内容単語の処理を個別にサポートしていることを見出した。
単語クラス処理 (特に名詞 vs 動詞) の神経画像研究は、混ざり合った結果を報告しており、fMRIタスク要求ごとに異なっているように思われる。しかし、複数の研究による収束的なエビデンスからは、動詞-項構造処理にシルビウス裂後部の領域が重要であることがわかってきている。認知的に健常な若年成人および高齢者における語彙決定タスクや異常検出タスクを用いた研究では、中上側頭回と角回・縁上回を含むシルビウス裂後部の領域が、より多い項を持つ動詞によって特に強く活性化された。さらに、動詞を項と統合することは、中上側頭回と関連していた。
認知的に健常な個人における文章理解は、左半球に側性化した中下前頭回、上中側頭回、角回を含むネットワークによって支えられている。認知的に健常な個人における文法産生の神経基盤についてはあまりよくわかっていないが、神経画像研究からは左の前頭-側頭-頭頂言語ネットワーク、特に下前頭領域が文章産生に重要であることを強調した。
脳卒中による失文法における損傷-障害相関研究は、こうした神経活動パターンを支持しているが、こうした研究における解釈の限界は、言語処理の神経機構の理解に関するこれらの研究の寄与を減衰させている。脳卒中による失文法失語の患者は、この前頭-側頭-頭頂ネットワーク内の損傷 (i.e. シルビウス裂周囲の前頭葉領域、そして多くの研究ではそこからより後方に広がる部分も含んだ、中大脳動脈領域の損傷) を有している。上で述べたように、脳卒中による失文法患者の多くは複数の言語ドメインにわたる文法障害を示す (i.e. 文法的形態、機能カテゴリ、動詞項構造)。文章理解の障害も失文法失語の主要な特徴の1つであり、左半球の中下前頭回、側頭葉前部、側頭頭頂接合部の損傷と関連している。文章産生の障害もまた、これらの領域と関連しているが、脳卒中による失語において形態統語論的な産生処理の神経相関を直接的に検討した研究は極めて少ない。
PPAに関しては、PPAバリアントと関連した一般的な萎縮パターンを考えずに皮質の萎縮領域と文法障害の関連性を検討した研究は極めて少ない。PPAでは、こうした障害は最も一般的には左下前頭回と隣接する皮質および皮質下領域と関連付けられた。上で述べられたように、これらの領域はPPA-Gで主に萎縮する部分であり、PPA-LおよびPPA-Sでは比較的保たれる。しかし、我々の知る限り、文法的形態、機能カテゴリ、かつ/または動詞および動詞項構造の特定の障害と関連した萎縮パターンを検討した研究は存在しない。むしろ、PPAにおける特定の文法処理障害と関連した萎縮パターンを調べたごく少数の研究は、文章理解と産生に焦点を当てているものに限られる。
左のIFG後部はPPA-Gおよび混合型における文章理解の障害と関連していた。実際、PPA-GおよびPPA-S患者の文章理解の障害は異なる萎縮パターンと関連しており、PPA-Sでは語彙-意味処理を支持する左外側側頭皮質と関連していた。こうした発見は、文章理解障害がPPA-GとPPA-Sで異なる主要背景機構によって生じていること、すなわちPPA-Gでは左IFGの萎縮による文法処理障害、PPA-Sでは側頭葉前部の萎縮による語彙-意味処理障害にその本態があることを示唆している。さらに、fMRI研究では左IFGがPPA-Gで機能的にも障害されていることが実証されている。すなわち、PPA-G患者はコントロールとは異なり複雑な文章に反応した左IFG後部の有意な活動を呈さない。しかし、彼らの左側頭葉後部の活動は比較的正常である。こうした結果は、左IFG後部の萎縮が、PPAにおける文法による理解の障害の原因になっていることを示唆している。
しかし、特筆すべきこととして、脳卒中による損傷とは異なり、神経変性疾患では特定の細胞群および細胞層のみを侵す可能性があるため、PPAのfMRI実験で認められた神経活動パターンは解釈が難しい。したがって、正常な処理ルーチンが変化している可能性はあるものの、萎縮領域の機能は保たれている可能性がある。たとえば、Wilsonら (2010a) は、nonfluent PPA患者に対して、文章理解タスクにおける皮質萎縮と機能活動の関係性を調査した。この文章理解タスクは統語複雑性 (e.g. 非正規 vs 正規文章) を操作している。年齢マッチしたコントロール群では、非正規文章における活動上昇が、左下前頭皮質 (inferior frontal cortex, IFC) 後部と中側頭回 (middle temporal gyrus, MTG) 中部-後部を含む領域で認められた。そして、nonfluent PPA群では、左IFCは萎縮しており機能的にも異常であった (この領域は文章理解で活動したが統語複雑性による調節は受けなかった) 一方で、左MTG中部-後部は萎縮していたものの機能は正常であった。これらの発見は、PPAにおける皮質萎縮と機能活動が潜在的に解離していることを示しており、そして左IFGがPPAの文法処理を支えるにおいて重要な役割を果たしていることを示唆するさらなるエビデンスにもなっている。さらに、健常コントロールでは活動がみられない左下前頭領域前部にも活動が見られており、タスク遂行のためにさらなる神経組織をリクルートしていること、かつ/または言語処理において通常は抑制される神経活動の抑制不能を示唆している。
PPAの文章産生障害は、左IFGの萎縮と関連づけられている。Northwestern Anagram Test (NAT) を用いて正規および非正規疑問文の産生を検査した研究で、Rogalskiら (2011) はIFGの萎縮が文章構成の障害と関連していたことを発見した。DeLeonら (2012) とWilsonら (2011) は、elicited production taskを用いて形態統語論的に単純な構造から複雑な構造まで幅広い文章産生を検査した。この領域は、流暢な発話産生を支持すると考えられてきたが、文献によって一貫しない発見が報告されてきた。物語発話産生サンプルに基づいて、Wilsonら (2010b) は文章産生の障害 (文章内の単語の比率と統語的エラーの数によって測定された) と文法的複雑性の低下 (埋め込み節の減少) が、IFG後部、上前頭溝、補足運動野を含む左前頭葉領域の皮質容積の低下と関連していたことを発見した。さらに彼らは、流暢性 (発話の最大速度) の低下が、大きく重複しあう領域セットにおける体積の低下と関連していたことを発見した。別の研究では、連続発話サンプルにおける文法的複雑性 (産生された複雑な構造の数) と流暢性の障害 (words per minute)は、左IFG前部と上側頭回前部の萎縮と関連し、さらに流暢性の低下は左運動前野および右下前頭領域の萎縮とも関連していたことが報告された。これとは対照的に、Rogalskiら (2011) は文法性と流暢性の障害に異なる神経相関を発見した: 左IFG後部および前部、補足運動野、縁上回の皮質厚の低下は文法産生の障害 (NATにおける非正規文章産生の低下) と関連しており、左下前頭溝と中前頭回という大きく異なった領域が流暢性の低下 (物語発話サンプルの平均発話長の低下) と関連していた。ただし、平均発話長は流暢性だけでなく文法産生能力も反映している可能性があることには注意しなければならない。

4-1. 文法障害における白質損傷の役割
PPAにおける文法障害には、白質経路に対する損傷も寄与していることが示されている。複数の研究が、PPA-Gは左上縦束 (側頭葉後部と頭頂葉領域を前頭葉および弁蓋部領域と結合する背側経路) の損傷と関連していることを示している。たとえば、ある研究は背側白質の変化がPPAの文法障害と関連していることを発見した。この研究では、左上縦束のfractional anisotropy (白質統合性の指標) の低下が文法産生と理解の尺度における成績低下と相関していたことが報告された。こうした相関は、文法障害と関連していた左IFG後部の灰白質容積をコントロールした後でも持続した。対照的に、腹側経路 (特に最外包線維系と鈎状束) のfractional anisotropyと文法障害の間には関係性が認められなかった。その他の研究は、下縦束と鈎状束を含む腹側経路がPPA-Gで比較的保たれるという点で、後者の発見を支持した。一方で、PPA-Lは上縦束の側頭頭頂枝における比較的限定した白質変化と関連しており、また腹側言語経路はPPA-Sにおいて有意な変化を呈する。とはいえ、形態統語処理と言語処理全般における背側と腹側の経路の役割については、文献上かなりの議論がある。たとえば、Saurら (2008) は、文章理解は前頭前野と中下側頭皮質の間の腹側経路と関連していることを発見した。さらに最近の研究では、Cataniら (2013) が、流暢性、語彙-意味処理、文法処理 (NATにおける主語疑問文と目的語疑問文の作成) の障害と、左鈎状束および前頭斜走路 (frontal aslant tract) の白質変化との関係を調べた。前頭斜走路の変化は流暢性の障害と相関し、一方、鈎状束の損傷は語彙-意味処理の障害と関連していた。どちらの経路も文法処理とは関連していなかった。PPAにおける文法処理への背側および腹側線維路の寄与を十分に理解するためには、さらなる研究が必要である。

 

5. PPAの文法能力の評価と臨床管理
5-1. 文法障害の評価
PPAにおける文法能力の定量化は、PPA患者をサブタイプ別に正確に分類するために重要である。これはひいては、言語能力の低下の軌跡や関連する神経病理を推定するためにも重要である。剖検されたPPA症例の60-70%は前頭側頭葉変性症 (FTLD) に起因しており、失文法の存在はFTLDタウオパチーに関連していると報告されている。したがって、文法障害は、患者の生涯における神経病理学的性質を推測するための重要な臨床的マーカーとして用いられる可能性がある。
PPAの文法産生能力を調べるための一つの方法は、連続音声サンプルの定量分析である。この方法は、PPAの集団研究における産生パターンの評価だけでなく、個々の話者における進行性文法障害のパターンを特定するためにも使用されている。 この方法によって、研究者や臨床医は、文法産生の主要な領域 (文法的形態、機能カテゴリ、動詞と動詞項構造、複雑な文章産生) を単一のタスクで評価することができる。しかし、この方法の重大な欠点は、引き出される構文を実験的にコントロールすることができないため、文法能力の全体像が把握できない可能性があることである。さらに、自発的な談話の言語分析には労力がかかり、関心のある言語形式や構造を識別し、コード化するためには訓練が必要である。
文法的形態の産生を調べる Northwestern Assessment of Verb Inflection (NAVI) など、文法産生を調べるための構造的タスクも開発されている。このテストでは、文章完成タスクを用いて、定動詞 (i.e. 現在単数形 (e.g. he eats)、現在複数形 (e.g. they eat)、過去規則動詞 (e.g. tickled)、過去不規則動詞 (e.g. ate)) と不定動詞 (i.e. 進行形 (e.g. (is) eating)、不定詞 (e.g. to eat)) の両方を評価する。このテストはPPAの動詞屈折障害に敏感であり、PPA-GとPPA-Lでは異なるパターンが見られる。さらに、PPAにおける文法産生障害は、重度の失行や構音障害のある患者でも産生能力が評価できるように明らかな発話での産生を必要としない Northwestern Anagram Test でも評価することができる。また、Goodglassらによって開発されたelicited production taskも、PPAにおける文章障害を調べるために用いられている。
動詞の産生障害を調べる検査には、Verb and Sentence Test (VAST)、Boston Assessment of Severe Aphasia (BASA)、An Object and Action Naming Battery (OANB) などがある。しかし、PPA (およびその他の言語障害) における単語クラスの障害を評価する目的では、これらの検査にはそれぞれ限界がある。BASAとOANBは名詞と動詞の産生を評価するが、理解は評価しないし、VASTは名詞の産生も理解も評価しない。後者は、PPA-Gにおける失文法的言語プロファイルの同定にN:V比が重要であることを考えると、重大な制限である。Northwestern Naming Battery (NNB) は、N:V比を導き出すために、名詞と動詞という単語クラスの産生と理解を、各単語クラスの項目 (頻度やその他の語彙変数をマッチさせたもの) を用いて評価する。さらに、NNBは他動詞と自動詞の両方の理解力と産生力を調べることができる。また、Northwestern Assessment of Verbs and Sentences (NAVS) では、項構造の複雑性 (i.e. 項の数、義務的項と選択的項) に応じて異なる動詞の産生と理解、および文章の文脈の中で項とともに動詞を産生する能力を評価する下位テスト (NAVSのArgument Structure Production Test (ASPT)) がある。
文章の産生と理解能力を定量化するためには、正規構造と非正規構造の両方を調べることが重要である。これは、文章処理能力に影響を及ぼす可能性のある他の障害と文法を区別するためである。Western Aphasia Battery-Revised (WAB-R) や Boston Diagnostic Aphasia Examination (BDAE) などの一般的な失語症検査では、正規文と非正規文の産生と理解は評価されない。したがって、この目的のために明確にデザインされたテストを実施する必要がある。BastiaanseとEdwards (2002) が開発したVerb and Sentence Test (VAST)など、いくつかの選択肢がある。また、Curtiss-Yamada Comprehension Language Evaluation (CYCLE) では、構文の複雑性によって異なる文章の理解度 (産生ではない) を調べることができる。Wilsonら (2010a, 2011) は、語彙処理要求を軽減するためにPPA患者のために特別に開発された、CYCLEに緩く基づいた統語理解タスクを用いた。PPAにおける文章障害を評価するもう1つの尺度は、PPA (および脳卒中失語) 患者を対象に標準化されたNAVSである。NAVSは正規 (能動態、主語疑問文、主語関係節) および非正規 (受動態、目的語疑問文、目的語関係節) 構造の産生と理解の両方を評価する。これらの形態の産生は、Sentence Production Priming Test (SPPT) で評価され、理解は同一の刺激を用いて Sentence Comprehension Test (SCT) で評価される。特筆すべきこととして、SPPTのスコアはPPA患者のNATのスコアと高く相関していた。したがって、重度の運動性発話障害を持たない患者における正規および非正規文章形態の産生と理解のためには、我々はNAVSを用いることを推奨する。

5-2. 文法障害の治療
PPAの治療効果を評価した研究はほとんど発表されておらず、その大半は、呼称や語想起の障害 (通常は物体) の改善に焦点を当てたもので、少数の患者コホートによる症例研究に限られている。我々の知る限り、PPA-Gの形態統語障害に対する治療を扱った研究は3つしかない。Schneider, Thompson, & Luring (1996) は、言語とジェスチャーを組み合わせた治療法を用いて、PPA-Gと一致する障害を呈したPPAの女性において、文の文脈における動詞形態性 (i.e. 時制変化した動詞の産生) の改善を示した。別の研究では、Finocchiaroら (2006) が、左前頭側頭皮質の萎縮を伴う動詞産生の選択的障害を有する60歳のPPA男性において、動詞形態性 (すなわち、時制や人称のために屈折した動詞) に対する反復経頭蓋磁気刺激 (rTMS) の効果を検討した。左前頭前野に高頻度rTMSを行ったところ、文章完成課題において、動詞の産生は改善されたが、名詞の産生は改善されなかった。同様に、Cotelliら (2012) は、PPA-SではなくPPA-Gの患者において、左半球または右半球のどちらかの背外側前頭前皮質に高周波rTMSを適用すると、目的語 (名詞) の呼称に比べて動作 (動詞) の呼称が改善することを発見した。これらの結果は、PPA患者の文法能力が治療によって改善される可能性を示唆している。しかし、前述の効果を再現し、PPA患者における他の文法的障害 (機能カテゴリの障害、文章の産生と理解の障害など) に対する治療効果を評価するためには、さらなる研究が必要である。文法ドメインにわたる、2つの基本的質問について検討する必要がある: (1) 文法処理は治療によって改善されるのか、あるいは治療はPPAにおける文法能力の低下を遅らせるのか、(2) 行動的治療効果は皮質刺激によって増強され、長期にわたって維持されるのか。

 

6. まとめと結論
この文献は、PPA患者でみられる文法障害パターンに関する研究を振り返り、文法的形態、機能カテゴリ、動詞と動詞項構造、複雑な文章処理障害を含む文法障害が、他のPPAサブタイプとPPA-Gを区別するということを示した。重要なのは、流暢性は文法障害とは直接的に関係していないということである。これまでのところ、PPAにおける即時文法処理を取り扱った研究は比較的少ない。脳卒中失語症では、文法障害の性質について、リアルタイムのパフォーマンスを観察することで多くのことが分かっている。したがって、オンライン研究は、PPAにおける文法障害の根本的な原因についての理解を深めるのに役立つ可能性がある。
文法障害と関連した皮質萎縮パターン (i.e. 左前頭葉後部、島、皮質下白質) は、その他の言語ドメインの障害と関連したもの (e.g. 意味障害が側頭葉前部と関連する) とは異なっている。しかし、PPAの文法処理の機能的神経画像研究は少ない。さらに、文法処理 (e.g. 機能カテゴリ、文法的形態、動詞と動詞項構造) の他の側面を標的とした構造的および機能的神経画像研究が必要されている。
PPAの鑑別診断と神経病理学的軌道の同定のために文法障害の同定は重要であり、PPAの評価において文法能力の評価は必要不可欠である。特に、この目的のために最近開発された評価ツールが現在は利用可能であり、我々はこれらの使用を推奨する。最後に我々は、PPAの文法障害の治療に用いることができる研究が不足していることを表明する。PPAにおける文法処理能力が、皮質刺激を用いることでどのように改善し、これを支えるために機能的神経組織がどうリクルートされ、そして文法処理に必要な機能障害組織の領域内神経結合が増強されるのか否か、といった点に関してよりよく理解するための研究が、今後必要である。

 

感想
日本語に屈折語尾や補文標識の概念はないし、英語に助詞の概念はないけれど、文法障害というものを包括的に捉えるにあたってかなりわかりやすい。そして臨床や病巣との相関も議論されていて、とても学びになった!左IFGは形態統語論的処理 (産生と理解の両方) に関連しているんだなあ〜。