ひびめも

日々のメモです

原発性進行性失語における生存、萎縮、言語の神経病理学的相関

Neuropathological fingerprints of survival, atrophy and language in primary progressive aphasia.
Mesulam, M. Marsel, et al.
Brain 145.6 (2022): 2133-2148.

 

剖検データまで組み込んだ大きな研究だけど、キレイにまとめてあってすごい。

 

1. 背景
失語の研究は、初期には脳卒中によって起きた急性の言語障害に関するもので占められていた。失語の中でも異なる型のもの、すなわち急性よりも進行性のものは19世紀終盤から報告され始めたが、そこまで注目されていなかった。こうした症候群に改めて興味が持たれ始めたのは1980年になってからであり、「原発性進行性失語」(primary progressive aphasia, PPA) と呼ばれた。1992年までに、PPAの63症例をまとめたレビューや、13例の剖検症例のレビューも報告された。PPAの2つの中核的特徴として、神経病理の異種性と神経変性の非対称性があるが、これはこうした小さなコホートの中でも同定可能なものであった。これら2つの特徴はその後、大きなPPAの連続剖検の報告で確認された。
Alzheimer病の神経病理学的変化 (Alzheimer's disease neuropathological changes, ADNC) と3リピートタウオパチーであるPick病は、PPAと関連づけられた最初の2つのエンティティであった。さらに、前頭側頭葉変性症 (FTLD) の中で4リピートタウオパチーである大脳皮質基底核変性症 (CBD) と 進行性核上性麻痺 (PSP) もこのリストに加えられた。また、特異的組織病理を欠く認知症、またはFTLD with ubiquitinとも言われた症例たちの背景にTDP-43 (transactive response DNA binding protein-43) の異常があることがわかってから、PPAはFLTD-TDPの異なる3つの型とも関連づけられるようになった (すなわちA-C)。頻度は少ないもののそれ以外にも神経病理学的関連は報告されており、びまん性Lewy小体病、軸索スフェロイドを伴う脳症、FTLD-TDP(B)、globular glial tauopathy (GGT)、嗜銀顆粒病 (AGD) が挙げられる。
この間、臨床的分類方法も発展を遂げた。PPAの初期の分類は、1998年の進行性非流暢性失語と意味性認知症という二分化であったが、これが2011年になってさらに3つの種類に分類されるようになった: 非流暢/失文法型 (non-fluent-agrammatic)、ロゴペニック型 (logopenic)、意味型 (semantic)。そして、2011年のシステムによって分類できない30-40%の症例の一部を説明するために、4つ目のバリアントである混合型PPAも加えられた。臨床病理学的研究によって、logopenic PPAと最も高頻度に関連していたのはAlzheimer病であり、non-fluent-agrammatic PPAは3リピートおよび4リピートタウオパチー (Pick病、CBDおよびPSP)、semantic PPAはFTLD-TDP(C)と関連していることが明らかとなった。
その後、PPA変異型と個々の神経病理学的エンティティの関連性は決定的ではなく確率的なものであるということ、そして高頻度な関連と低頻度な関連の両方を反映しているということが明らかになった。たとえば、logopenic PPAが確実にADNCと関連しているという考え方には疑問が呈された。また、Pick病とGGTはsemantic PPAと関連している神経病理であることが明らかになった。FTLD-TDP(C)が、semantic PPAではなくnon-fluent-agrammatic PPAで報告されたこともあった。また、同一のGRN変異を持つ兄弟症例が2つの異なる失語型を引き起こしたことも報告された。この臨床病理学的な異種性は、失語型が必ずしも背景の神経変性の細胞学的本質と関係しているわけではないこと、そしてその神経変性が好む解剖と、言語ネットワークに固有の生物学、このネットワークの特殊性が、一般的かつ珍しくない形で相互作用した結果を反映していることを示している。
言語に優位な半球 (基本的に左) を好んで標的とすることは、PPAの神経病理におけるただ1つの共通点として浮上した。この非対称性の細胞学的要素は複数の神経病理学的エンティティで定量化された。たとえば、萎縮の生体内非対称性は、ADNCを伴うPPAの神経原線維変化や、FTLD-TDP(A)のミクログリアTDP-43沈着物の非対称的な分布を反映していることが示された。この言語優位半球の選択的な脆弱性の背景にあるメカニズムは未だ謎に包まれている。ある1つの潜在的な候補として、家族性の言語ネットワークの脆弱性が、一部の構成員において言語獲得の発達遅延を招き、他の構成員では独立して生じる神経変性疾患に対する選択的脆弱性を招くといいう考え方が報告されている。
PPAの臨床病理学的相関のスペクトラムは発達途上の研究分野である。こうした相互作用の複雑性、PPA変異型の複数性、背景にある異常蛋白の異種性は、選択的な脆弱性の一般的メカニズムに光を照らし得る包括的かつ比較的な解析の必要性を正当化する。今回の報告では、システマティックに診断されてフォローアップされたPPA患者の118例の連続剖検を用いてこのテーマを取り扱う。このサブセットとして、均一な認知評価と定量的神経画像評価、神経病理学的評価を含む銃弾研究プログラムに組み入れられた症例が含まれた。

 

2. 方法
Northwestern PPA Research Programに登録された118の剖検症例が対象とされた。診断は、神経変性疾患によって引き起こされた進行性の言語障害が孤立して生じたことに基づいて行われた。FTLD-TDP(B)の2症例、GGTの1症例、軸索スフェロイドを伴う白質ジストロフィーの1症例は、意味のあるサイズを持つ群を構成しなかったため、定量解析から除外された。残った114症例は、発症年齢と生存期間の解析のために、主要な神経病理学的診断に基づいて分類された。これらの中で、67人は隔年の認知評価と定量的画像評価の縦断的研究に参加した。GRN変異を有しFTLD-TDP(A)であると考えられる1人の生存患者はこのセットに加えられた。こうしてできた合計68人の患者群は、臨床病理学的分類の基礎を提供した。68人全員がエントリー時点で同一の認知機能評価を受けた。61人の被験者は初回評価時に定量的画像評価を受け、23人は2年後の2回目の評価も受けた。CDRスケールは全体的な機能を評価するために用いられた。すべての被検者は白人の英語話者で、右利きであった。この研究はNorthwestern UniversityのInstitutional Review Boardで承認され、すべての参加者でインフォームドコンセントが取得された。

2-1. 言語評価
全体的な失語の重症度は、改定Western aphasia batternの失語指数 (aphasia quotient) (最大100) によって測定された。さらなる検査によって、文法、単語理解、呼称、復唱、物体認知、文章理解、単語流暢性が評価された。成績は最大スコアに対するパーセンテージとして表現された (これは、コントロールがそれぞれのタスクでほぼ満点をとったからである)。単語流暢性に関しては、コントロール値として132単語/分が用いられた。
① 文法: 文章生成における文法は、Sentence priming production testおよびNorthwestern anagram testで評価された。Sentence priming production testでは、被験者は受動態に変換可能な (5つの) 動作の絵を見て、非正規的文章 (受動態、目的語が除かれたWh質問文、目的格の関係代名詞) を15個 (3つずつ×5個の絵) 生成するように求められた。また、Northwestern anagram testでは、被験者は同様の文章タイプ (n=15) の中で、1単語が書かれた移動式タイルたちを並べ替えて動作の絵にマッチするように求められた。この検査では言語性出力は必要とされないため、発話生成能力の影響は除外される。これら2つの検査セットを平均して、文法の composite Northwestern anagram/Sentence priming score を算出した。

※ Sentence priming production testで言われる非正規的文章とは、以下のa, b, cのようなもの。下の例 (a, b) でいえば、「イヌがネコを追いかけている」絵を見せてカッコ内のプライミング文を読んだうえで、「ネコがイヌを追いかけている」絵を見せて被験者に回答を求める。なおcについては、「Peteくんがイヌに追いかけられているネコを見ている」絵を見せてプライミングしたうえで、「Peteくんがネコに追いかけられているイヌを見ている」絵を見せて被験者に回答を認める。
a. The cat is chased by the dog. (prime: The dog is chased by the cat.)
b. Who is the dog chasing? (prime: Who is the cat chasing?)
c. Pete saw the cat who the dog is chasing. (prime: Pete saw the dog who the cat is chasing).

② 単語理解: Peabody picture vocabulary test-IV の中の36個の中等度の難易度の項目 (157-192) を用いて検査した。それぞれの項目は、物体、動作、概念、または属性を表現した聴覚性単語を、選択肢にある4つの絵のうちどれか1つにマッチさせるように求めるものである。
③ 呼称: 物体の呼称を評価するために、60項目の標準化されたBoston naming testを用いた。それぞれの項目は、高頻度語から低頻度語の順番で提示された。
④ 復唱: 改定Western aphasia batteryの復唱サブテストの中で最も難しい6つの項目を選び、復唱スコア (Rep66) を生成した。
⑤ 物体認知: 非言語的物体知識を評価するために、Pyramids and palm tree test の絵バージョンを用いた。この検査では、被験者に標的オブジェクトと概念的により密接に関連した絵を2つの候補から選ぶように求めた。
⑥ 文章理解: 統語的に複雑な文章の理解を、Sentence comprehension testで評価した。この検査では、2つの受動態に変換可能な動作風景を、検査者が話す刺激文にマッチさせるよう求めた。刺激文として、非正規的な文章理解を測るために、sentence productionで選ばれた15個の文章が用いられた。
⑦ 流暢性: 被験者は、シンデレラ物語の文字のない絵本を見て、そのストーリーを話すように命じられた。話された物語は、Systematic analysis of language transcripts (SALT: 文字起こし機能のあるソフト) に入力され、ここからwords per minuteの流暢性が測定された。

2-2. PPAの分類
2011年のコンセンサスガイドラインは、参照フレームを提供した。このガイドラインでは、行うべき検査やカットオフに関する言及はなく、30-40%の症例が分類不能となり、また同一症例が2つのバリアントの基準を満たすこともあった。このため、改定が行われ、「混合型」(mixed PPA) を追加するなどの変更が加えられた。我々は、標準的検査、正規ベースライン、定量的成績カットオフを用いて、初診時の障害が軽度 (79-60%)、中等度 (59-40%)、重度 (<39%) のどれに該当するかを判定し、患者が4つのバリアントのどれに分類できるかを決定する経験的アルゴリズムを実装した: (i) non-fluent-agrammatic PPA = (grammar <80%) AND (fluency <60%) AND (word comprehension ≥80%)、(ii) logopenic PPA = (grammar ≥80% OR fluency ≥60%) AND (word comprehension ≥80%) AND (naming <80% OR repetition <80%)、(iii) semantic PPA = (word comprehension <60%) OR (word comprehension <80% AND naming ≤40%) AND (grammar ≥60% OR fluency ≥80%)、(iv) mixed PPA = (grammar <80%) AND (fluency <60%) AND (word comprehension <80%)。このアルゴリズムは、このコホートの中ではよく機能したが、初期または重度の疾患段階では適応が難しいかもしれない。絶対的ではなく相対的なカットオフを用いることが分類に役立つのかもしれない。

2-3. イメージング手法
T1強調3D MP-RAGEシーケンス (繰り返し時間=2300ms、エコー時間=2.91ms、 反転時間=900ms、フリップ角=9°、視野=256mm) を用いて、3T Siemens TIM Trioの12チャンネルバードケージヘッドコイルで1.0mm厚の176スライスを取得した。再構成はFreeSurfer画像解析スイート、バージョン5.1で行った。幾何学的な不正確さとトポロジカルな欠陥は、有効なガイドラインによって修正された。PPA参加者の皮質厚マップは、萎縮のピークパターンを同定するために、同程度の年齢と教育を受けた35人の右利きの認知的健常ボランティアと対比された。皮質厚の群間差は、皮質表面に沿ったすべての頂点について一般線形モデルを用いて計算した。多重比較で調整した後、皮質の菲薄化 (すなわち萎縮) がピークに達した領域を検出するために、個々のマップでは0.05、グループマップでは0.001の偽発見率を適用した。

2-4. 神経病理学的評価
両半球の9つの相同皮質領域から組織切片を採取した。Gallyas染色、thioflavin-S、リン酸化タウ (AT8)、βアミロイド (4GR)、TDP-43、p62、αシヌクレイン (p129) の免疫組織染色を行った。ADNC、レビー小体病、FTLD-TDP (A型、B型、C型)、FTLD-tau (Pick、PSP、CBD) の診断にはコンセンサス基準が用いられた。最初にユビキチンを伴うFTLDと診断された症例は再検査され、TDP-43を染色し、現在の命名法に従って分類された。症例は主要な神経病理学的診断によって層別化された。CBD群とPSP群は、どちらも4Rタウオパチーであり、神経病理学的にも臨床的にも重複しているため、統合した。

2-5. 生存分析と統計
発症時期は、患者からの報告、家族または友人の信頼できる情報提供者、医療記録の3つの情報源を調和させて決定した。生存率はKaplan-Meier曲線で示した。比例仮定がチェックされたCox比例ハザードモデルにより、各群の発症年齢をコントロールした。多重比較を考慮するために、Benjamini-Hochberg調整P値を用いた。また、特定のPPA変異型または60%未満の個々の検査スコア (中等度から重度の障害) が、基礎にある神経病理を予測できる感度と特異度を推定した (補足表1および2)。

 

3. 結果
3-1. 臨床病理学的頻度、発症年齢、生存期間
表1と図1の発症年齢と生存データは114の剖検症例から得られた情報を含んでいる (118から4つの稀な神経病理を除いたもの) が、表2および3と図2-5の画像と検査成績のデータは縦断研究に参加した68症例 (67の剖検例とGRN変異を持つ生存患者) から得られたものである。言語検査、初期のMRI、2年後のフォローアップのMRIのデータに貢献した被験者の数は表3および図2-5に示されている。118人のPPA剖検症例のうち、ADNCは42%、CBD/PSPは24%、Pick病は10%、TDP(A)は10%、TDP(C)は11%、稀な診断 [TDP(B)、GGT、軸索スフェロイドを伴う白質ジストロフィー] は残りの3%を構成していた。発症年齢の平均はおよそ60歳の周囲に集結しており、CBD/PSP症例は最高齢の65.2歳、TDP(C)症例は最若年の54.4歳であった (表1)。TDP(A)群は最も短い生存期間 (7.1年) であり、TDP(C)群は最も長い生存期間 (13.2年) であった (図1)。それぞれの群で発症年齢を調整した結果を算出しても、TDP(A)の生存期間は最も短く、また残りの4群の中でCBD/PSPTDP(C)とADNC群のいずれよりも短かった。PPA-ADNC (男性31人、女性18人) と2つのPPA-TDP群 (男性7人、女性18人) では男女比に偏りがあった。表1のすべてのP値は発症年齢で調整を行う前の段階で有意であった。

図1. 生存率のKaplan-Meier曲線.

図2. ADNC、CBD、PSP病理を伴うPPA: 黄色と赤の領域は、偽発見率が0.001の有意な萎縮を示した領域である。(A, B) PPA-ADNCにおける初診時と2年後の萎縮マップ。(C) 初診時のPPA-ADNCにおける認知検査の成績の散布プロット。水平線は、軽度、中等度、および重度の障害の境界線を示している。Y軸のスコアは最大得点に対する割合を示している。(D, E) PPA-CBD/PSPにおける初診時と2年後の萎縮マップ。(F) 初診時のPPA-CBD/PSPにおける認知検査の成績の散布プロット。水平線は、軽度、中等度、および重度の障害の境界線を示している。Y軸のスコアは最大得点に対する割合を示している。AおよびEにおけるアスタリスクは側頭極を示している。

図3. Pick病とTDP(A)病理を伴うPPA: 黄色と赤の領域は、偽発見率が0.001の有意な萎縮を示した領域である。(A, B) PPA-Pick'sにおける初診時と2年後の萎縮マップ。(C) 初診時のPPA-Pick'sにおける認知検査の成績の散布プロット。水平線は、軽度、中等度、および重度の障害の境界線を示している。Y軸のスコアは最大得点に対する割合を示している。(D) PPA-TDP(A)における初診時と2年後の萎縮マップ。(E) 初診時のPPA-TDP(A)における認知検査の成績の散布プロット。水平線は、軽度、中等度、および重度の障害の境界線を示している。Y軸のスコアは最大得点に対する割合を示している。AおよびEにおけるアスタリスクは側頭極を示している。

図4. TDP(C)、TDP(B)、GGT病理を伴うPPA: 黄色と赤の領域は、偽発見率が0.001 (AおよびB) または0.05 (D-G) の有意な萎縮を示した領域である。(A, B) PPA-TDP(C)における初診時と2年後の萎縮マップ。(C) 初診時のPPA-TDP(C)における認知検査の成績の散布プロット。水平線は、軽度、中等度、および重度の障害の境界線を示している。Y軸のスコアは最大得点に対する割合を示している。(D) PPA-TDP(B)における初診時の萎縮マップと検査スコア。(E) PPA-GGTにおける初診時の萎縮マップと検査スコア。(F, G) PPA-TDP(C)における初診時と4年後の萎縮マップと検査スコア。

図5. agrammatic および semantic PPAの個々の症例: 黄色と赤の領域は、偽発見率0.05の有意な萎縮を呈した領域である。

3-2. 縦断研究参加者と変異型-神経病理相関
68人の参加者は全員が右利きで、したがって90%以上の確率で言語が左半球優位であると考えられた。平均発症年齢および生存期間、性別の分布は大規模コホートのそれと比較可能であった (表1および2)。初診時の平均罹病期間は、ADNC、Pick病、TDP(C)では4年程度、それ以外では2-3年であった (幅: 1-10年; 表2)。初診時の平均した失語症重症度は、TDP(A)を除くすべての群に関して失語指数で83.8-75.7であり、TDP(A)では65.9と低かった。言語障害の選択性は、CDRスコアがほぼ0-0.5の間にあり、日常生活動作が保たれていたことに反映されている (表2)。以前報告されているように、logopenic variantはADNC群で最も多く、agrammatic variantは3リピートまたは4リピートタウオパチー (Pick病とCBD/PSP)、semantic variantはTDP(C)で最も多かった (表2)。

3-3. PPA-ADNC
ADNC群は、初診時および2年後の両方で左優位の非対称性の萎縮を示した (図2A-C)。下前頭回 (Broca野)、背外側前頭前皮質 (DFC) 後部、下頭頂小葉と上中側頭回後部の接合部 (側頭頭頂接合部、Wernicke野)、紡錘状回、中側頭回 (MTL) 中部、側頭葉前部 (ATL) を含む、すべての主要な言語ネットワーク構成要素が含まれていたが、側頭極は含まれなかった。程度は劣るものの右半球の萎縮もあり、側頭頭頂接合部やMTLに認められた。2年後になると、萎縮は両側半球で同心円状に広がったが、左半球優位性は保たれていた。失語指数は80から67.3に低下した (表2)。初診時には、文法、流暢性、呼称、復唱の4つのドメインで重度の障害 (成績<40%) が認められた (図2C)。個々の症例をみると、これらのドメインの中でも、正常なものもあれば、重度に障害されていたものもあるなど、成績は幅広く分布していた (表3)。一部の参加者は復唱が正常であり、2011年のlogopenic PPAの基準は満たさなかったほか、他の参加者は流暢性と文法の障害を持ち、agrammatic PPAの特徴を満たしていた (図2C)。初診時の発症年齢と失語の重症度では、agrammatic (失語指数 = 82 ± 7.5) と logopenic (失語指数 = 87.8 ± 8.5) PPAを区別することはできなかった。おそらく、ADNCの合併病理がこの臨床的異種性を説明できるのかもしれないが、このコホートの中でこれを確証することはできなかった。この群の27症例のうち、初診時に単語理解スコアが60%以下の症例は存在しなかった。

3-4. PPA-CBD/PSP
CBD/PSP群は初診時と再診時の両方で神経変性の完全な非対称性を示した (図2D-F)。初診時の皮質の萎縮は、左DFCのごく一部を含むのみであった。2年後になると、萎縮はDFC、下前頭回、上側頭回全体にさらに広がったが、側頭極はスペアされていた。失語指数は85.6から54.5まで低下した。中等度から重度の障害は、流暢性、文法、復唱、文法的に複雑な文章の理解で最も頻繁に認められ、これらは言語の背側処理経路に関連した機能であった。単語理解と物体知識はかなり保たれていた。この障害のパターンと合致して、80%の症例がagrammatic PPAに分類された。CBDとPSPの間で発症年齢に有意な差は認められなった (63.9歳 vs 67.5歳)。

3-5. PPA-Pick's
左半球への萎縮の突出した非対称性は初診時と再診時の両方で認められた。初診時には、左半球のDFC、下前頭回、眼窩前頭皮質、ATL、MTL、紡錘状回と海馬傍回の前部に有意な皮厚の低下があり、側頭極も含まれていた (図3A-C)。再診時には、隣接領域へのわずかな同心円状の萎縮の広がりが認められ、右半球の相同部位の一部、特に前頭葉に限局した萎縮も認められるようになった。失語指数は75.7から57.8に低下した。言語ネットワーク背側と腹側の両方の構成要素が影響を受けており、これは臨床表現型の異種性、すなわち復唱を除くすべてのドメインにおける中等度から重度の障害に反映されていた。4リピートタウオパチーであるPPA-CBD/PSPと同様に、3リピートタウオパチーであるPPA-Pick'sはagrammatic PPAと最もよく関連していた。しかし、この群の1人の患者は文法や流暢性には有意な障害を持たずに重度の単語理解障害を有したsemantic PPAであった。このようにsemanticとagrammatic PPAの両者がみられた神経病理群はPPA-Pick'sのみであった。

3-6. PPA-TDP(A)
TDP(A)群は、左半球の神経変性の最も広範な分布を示した (図3DおよびE)。右半球の萎縮は検出不可能であった。文法、呼称、復唱、流暢性は、個々の参加者で重度の障害を示した。Agrammatic および mixed PPA が最も一般的であった。意味のある進行データを得るための反復スキャンを行えた症例はごくわずかしかいなかった。

3-7. PPA-TDP(C)
この群は最も均一で際立った神経変性パターンと臨床表現型を呈した (図4A-C)。萎縮部位は、側頭極を含むATLおよびMTLから、隣接する眼窩前頭皮質、島、紡錘状回、海馬傍回に広がっていた。非対称性は強調されたが、右半球でもATLの先端に小さな萎縮を認めた。2年をかけた進行によって、隣接領域への萎縮の進行は認めたが、言語ネットワークの背側構成要素への広がりは認められなかった。失語指数は80.4から65.6に低下した。萎縮の均一性は臨床像の均一性に反映されており、10例中8例がsemantic PPAと分類され、1例の例外を除いて、単語理解と物体呼称の重度の障害のみが認められた。

3-8. 変異型と検査による診断の予測
ADNCにおけるlogopenic PPA、CBD/PSPにおけるnon-fluent-agrammatic PPA、TDP(C)におけるsemantic PPAの頻度の高さを考えて、我々は病理を予測するための変異型の能力を計算した。Logopenic PPAは31%の感度と93%の特異度でADNCを予測し、non-fluent-agrammatic PPAは81%の感度と67%の特異度でCBD/PSPを予測し、semantic PPAは80%の感度と98%の特異度でTDP(C)を予測した。単語理解における中等度から重度の障害 (i.e. 60%以下の成績) はTDP(C)を80%の感度と91%の特異度で予測した。その他の言語検査は、特定の神経病理を予測する同程度の感度および特異度を示さなかった (補足表を参照)。

3-9. 個々の症例
個々の症例は、PPAに関連するまれな病理と臨床病理学的相関の詳細を示している。図4DはFTLD-TDP(B)の2例のうちの1例で、左ATLに限局した神経変性を示した。最初の画像検査時には、言語異常は呼称のみであった。また、words per minuteが軽度に低下していたことに反映されるように、発語失行 (speech apraxia) もみられた。図4EはGGT症例の萎縮パターンを示している。単語理解は83%とわずかに低い一方で、呼称は22%と著しく障害されており、semantic PPAと診断された。図4Dの症例とは対照的に、左半球の萎縮はMTL、下前頭回、DFCにも及んでいた。後者2つの萎縮部位は、words per minuteが軽度に低下していた (71%) ことを説明する。図4Dと比較すると、ATLだけでなくMTLにも萎縮が存在することが、図4Eの単語理解障害の存在の背景にあると考えられる。図4FとGは、PPA-TDP(C)の症例で4年後に撮影されたもので、類似した臨床解剖学的経過を示している。当初、萎縮は図4Dと同様であり、実質的な言語障害は呼称のみであったが、logopenic PPAとsemantic PPAの境界に位置していた (単語理解は正常だった)。図4Gは、4年後のMTL、紡錘状回、海馬傍回、島への萎縮の広がりを示している。図4Eと同様に、神経変性の中側頭皮質 (Wernicke野には及ばない) への後方進展は、単語理解障害の発症と関連していた。図5A-Dは、non-fluent-agrammatic PPAの根底にある4つの異なる神経病理における左半球の萎縮パターンを示している。共通点は下前頭回とDFCの萎縮である。この4例のうち、図5Dにのみ物体呼称に異常がみられたが、これはおそらく、他の症例にはみられなかった側頭葉の萎縮を反映していると思われる。図5Eはsemantic PPAのPick病の症例である。同じくPick病の神経病理学的所見を持つ図5Cとは対照的に、図5Eの症例では、ATLとMTLの萎縮がより広範囲に認められ、側頭極にも進展が見られた。図5Eはまた、完全に片側性の側頭葉神経変性によって、言語性意味が著しく損なわれる可能性があることを示している。

 

4. 考察
PPAは比較的まれな症候群であるが、臨床病理学的相互作用の異種性を強調する上で大きな影響を与えてきた。1982年の最初の分類から始まり、PPAは、同じ症候群 (e.g. 進行性失語症など) が複数の神経病理学的エンティティによって引き起こされうること、同じ神経病理学的エンティティ (e.g. ADNC) が複数の症候群 (失認や失語) を引き起こしうること、疾患と症状の関係は確率的であること、臨床症候群は基礎にある細胞病理学の性質よりもむしろ神経変性のネットワークレベルの神経解剖学によって決定されることを示した。今回の報告は、これらの原則を補強するとともに、一様に検査・画像化されたコホートに基づく新しい情報を追加するものである。

4-1. 神経病理の相対的頻度、遺伝子、発症年齢、生存、臨床的予測因子
ADNCが42%、FTLD-tau (CBD/PSPおよびPick病) が34%、FTLD-TDPが21%、希少エンティティが3%であり、これはすべてではないものの多くの先行連続剖検報告と合致した。遺伝子変異はGRNにのみ認められ、118人の大規模コホートでは12人のTDP(A)剖検例のうち4人から検出された。このような変異がPPAの最も一般的な遺伝的原因であるという結論が補強された。GRN家系では、PPAを発症する家系とbvFTDを発症する家系がある。まれに、罹患者全員がPPAを発症することもある。その場合でも、失語のタイプは兄弟間で異なることがあり、GRN変異に関連するPPAのサブタイプにはかなりの異種性がある。先行文献には、PPAとプレセニリン (PSEN1)、MAPT、TARDBPおよびC9orf72遺伝子の変異とのまれな関連も記載されている。細胞神経病理は、GRN変異ではFTLD-TDP(A)であり、C9orf72変異ではほとんどがFTLD-TDP(B)である。顕性遺伝性疾患に関連する最も一般的な臨床型は、non-fluent-agrammatic PPAおよびlogopenic PPAであるが、まれにsemantic PPAの症例も報告されている。
背景疾患の経過にかかわらず、PPAは平均発症年齢が65歳以下の「初老期」認知症である。発症年齢はPPA-TDP(C)で最も低く、PPA-CBD/PSPで最も高かった。生存期間はPPA-TDP(A)が最も短く、FTLD-TDP(C)が最も長かった。Kaplan-Meier曲線によると、罹病7年後に生存している確率は、TDP(A)では50%以下、TDP(C)ではほぼ100%、ADNC、Pick病、CBD/PSPでは75%前後であった。TDP(C)の疾患進行の遅さは、他のコホートで得られた結果と一致していた。細胞モデルにおいて、TDP(A)凝集体はTDP(C)凝集体よりもはるかに強い毒性を示し、この特徴がより悪性の疾患経過を説明するものと考えられる。TDP(A)とTDP(C)の区別は、リボ核タンパク質との結合の違いによってさらに強調される。
背景神経病理を予測するにおける臨床的サブタイピングの有用性は、良く言っても控えめであった。例外は1つのみで、semantic PPAはTDP(C)を感度80%、特異度98%で予測した。しかし、こうした数字は、GGT (図4E) やADNCによるsemantic PPAという稀な関連性を考慮に入れた場合にはより低く見積もられる必要があるかもしれない。Logopenic PPAは93%の特異度でADNCを予測したが、感度は37%で、PET、CSFや血清バイオマーカーによって得られるより高い特異度と感度を考慮すれば、臨床的価値はそこまで高くないと思われた。図2Cが示すように、単語理解スコアが60未満の場合、ADNCは非常に考えにくいという「陰性バイオマーカー」として用いることはできるかもしれない。一方で、このスコアはTDP(C)を80%ほどの感度と特異度で予測することもできた。また、我々はADNCやCBD/PSPを予測する価値があるかもしれない特徴として、音素性錯誤や発語失行を定量化しなかった。有用性のためには、背景神経病理のどのような臨床的「サロゲートバイオマーカー」も、群レベルではなく個々の症例レベルで高い感度と特異度を有している必要があるだろう。

4-2. ADNCの失語症
典型的なADNCでは、健忘型認知症をきたし、加齢とアポリポ蛋白E4の存在が最も重要な危険因子である; 神経原線維変化は海馬からのBraak & Braak病期に従って進行し、辺縁系TDP-43沈着がしばしば併存し、神経変性は左右対称に分布する傾向がある。対照的に、年齢もApoE4もADNCの失語症型 (PPA-ADNC) の危険因子ではなく、TDP-43の併存頻度ははるかに低く、BraakとBraakの病期分類は守られず、神経原線維変化の新皮質/辺縁系比が高くなり、海馬は温存される。機能的結合性の障害は、記憶ネットワークよりもむしろ言語ネットワークに沿って広がる可能性があり、神経変性は常に非対称であり、言語優位半球内でより大きい。さらに、ADNCの典型的な認知症では女性が優位であるのとは対照的に、PPA-ADNC群では明らかに男性が優位であることがわかった。おそらく、PPAと家族性ディスレクシアとの関連と、ディスレクシアに対する男性の感受性の高さを反映しているのだろう。したがって、PPAの原因となるADNCは、典型的なパターンから大きく逸脱しており、真の生物学的変異と言えるかもしれない。
PPAの主要な神経病理学的相関の中で、PPA-ADNC群は、最初の画像診断で最も広範な右半球の萎縮と関連していた。それにもかかわらず、左半球の非対称性は経過を通じて維持された。PPA-ADNCの個々の症例では、初回MRIで検出可能な神経変性はすべて左半球に限られていた。重度の障害が検出された言語ドメイン (文法、呼称、復唱、流暢性) は、側頭頭頂接合部、MTL、下前頭回、DFCに萎縮のピークがあることと一致している。単語理解はほとんど常に保たれており、これはおそらく側頭極に顕著な神経変性がないことを反映している。PPA-ADNCの顕著な特徴は、海馬と嗅内皮質に神経原線維変化が両側性に密に蓄積していても、記憶が保たれていることである。この抵抗性には、典型的な健忘性ADNCに比べてTDP-43の合併が少ないこと、ApoE4の頻度が低いこと、図2Aに示すように、側頭葉内側部の萎縮 (海馬傍回、紡錘状回) が明らかでないことなど、いくつかの要因が考えられる。PPA-ADNCは logopenic および agrammatic PPA に最も多くみられ、それぞれ症例の37%を占めた。68例のコホートでは、logopenic PPAの77%のみがADNCを有していた。この所見は、logopenic PPAとADNCの相関がより高いと報告されているいくつかの報告と一致しているが、他の報告では一致していない。

4-3. PPAにおける3リピートおよび4リピートタウオパチー: PPA-CBD/PSP, PPA-Pick's
PPA-CBD/PSP群は、初期評価時には最も限局した皮質萎縮を有し、DFC後部にほぼ限局していた。言語検査では、文法、流暢性、非正規文章理解に重度の障害を認めたが、言語性および非言語性意味は保たれていた。このパターンは、CBD/PSP群で主にPPAのagrammaticな臨床像が見られたことと合致していた。右半球には萎縮の検出はされなかった。デジタル組織病理研究では、PPA-CBD/PSPで見られたこの萎縮の分布と合致した非対称性の神経変性が証明されている。PPAと関連した他の神経病理学的エンティティと比較して、CBD/PSPでは白質変性がより重要な役割を果たしている可能性があり、これが十分な皮質萎縮がない中での症状の出現を説明しうる。一部の参加者は多音節単語の発音に障害を示し、発語失行の症状を呈した。しかし、PPAの診断に必要とされるように、運動性発話の障害におけるこれらの構成要素は、言語の障害よりも明らかに目立っていなかった。最初の検査時には、外眼筋麻痺、頸部筋強剛、ジストニア、肢節運動失行、皮質性感覚障害といった古典的CBDまたはPSP症候群の徴候を呈した患者はいなかった。こうした非典型的なCBDの表現型は、「認知症状優位」な型とカテゴライズされている。今回のコホートPSPの7症例と、先行文献における追加の症例では、PSPでも「認知症状優位」な型が存在することを示している。
4リピートタウオパチーのastrocytic plaques (CBD) とtufted astrocytes (PSP) と比較して、3リピートタウオパチーであるPick病はround cytoplasmic inclusionsによって特徴づけられる。クライオ電子顕微鏡によって、3リピートタウオパチーと4リピートタウオパチーは異なる線維構造を有していることが示された。PPA-Pick'sの皮質萎縮パターンはPPA-CBD/PSPと比較してより広範囲であった。左優位の非対称性は認められたものの、PPA-CBD/PSPと比較すれば軽度であった。萎縮のピークは、DFC、下前頭回、島、眼窩前頭皮質、MTL、ATL、側頭極を含み、前頭側頭皮質に帯状に存在した。PPA-ADNCとは対照的に、側頭頭頂接合部には萎縮は目立たず、これは復唱が比較的保たれていたことと合致した。またこの群は、臨床像が極めて多様であった唯一の群であり、重度の失文法を呈した患者から重度のsemantic PPAを呈した患者までさまざまであった。この多様性は、一部には萎縮の分布が個々の症例で異なっていたことに帰属可能であった。図5CとEは、PPA-Pick’sの2症例を表しているが、うち1つはnon-fluent-agrammatic PPAで、もう1つはsemantic PPAであった。2つの萎縮マップの比較を行うと、単語理解障害と重度の呼称障害は、側頭極を含みATLとMTLにより広い萎縮を有していた患者で認められた。しかし、両者ともに文法と流暢性に重要な領域である下前頭回とDFCに萎縮を有していたものの、図5Eの患者は比較的流暢性が保たれており、また文法も軽度にしか障害されていなかった。したがって、臨床表現型の決定因子は、神経変性の解剖と個々のレベルでの脳構成の特異性の相互作用を反映している可能性がある。しかし、CBD/PSPと同様に、Pick病の最も一般的な臨床表現型はnon-fluent-agrammatic PPAであった。稀な例では、PPAはAGDやGGTといった他のタウオパチーと関連することもある。

4-4. TDP-43 proteinopathy: PPA-TDP(A)、-TDP(B)、-TDP(C)
PPA-TDP(A)は最も短い生存期間を呈した。中等度から重度の障害があらゆる言語パラメーターで認められ、単一の特徴的な臨床表現型は存在しなかった。GRN変異を有してTDP(A)神経病理が認められた2人の参加者では、1人がnon-fluent-agrammatic PPAを、もう1人は失文法と聴覚性入力に選択的な単語理解障害を有していた。より多くのGRN変異症例を含んだ群における別の研究では、logopenic PPAが最も高頻度な臨床相関であったことが報告された。PPA-TDP(A)の左半球萎縮は最も広範囲であったが、右半球は少なくともMRIで見る限りは完全にスペアされていた。GRN変異症例と孤発症例における定量的顕微鏡研究では、TDP-43封入体、神経脱落、神経短縮、活性化ミクログリアが言語優位半球で突出しており、萎縮パターンを反映していたことが示されている。また、さらなる臨床-解剖学的対応を示すものとして、TDP-43封入体は、失文法を有する患者ではDFCに多く認められ、失名辞を有する患者では側頭頭頂接合部で多く認められたとする報告がある。
定量解析から除外された2症例は、TDP(B)が神経病理学的な主診断であった。両症例ともlogopenic PPAの特徴を示したが、流暢性の軽度低下とさまざまな発話障害も認められた (図4D)。TDP(B)に特徴的な他の運動ニューロン疾患の徴候は認められなかったが、剖検では上部および下部の運動ニューロンに運動ニューロン疾患型のまばらから中等度の変化が認められた。発症年齢は他のTDP型と同じで (59歳、61歳)、発症から死亡までの生存期間は短かった (5年、7年)。神経変性は左側頭葉の先端部に限局しており、単語理解障害を伴わない中等度の失名辞がみられた。これら2例のTDP(B)は、PPA-TDP(A)に類似した生存パターンとTDP(C)に類似した神経変性の解剖学的特徴を有する。
PPA-TDP(C)群は最も際立った臨床病理学的相関を有していた。萎縮ピークは左側頭葉内で最も広く認められ、隣接する島や眼窩前頭皮質にも及んでいた。重度の言語障害は、単語理解と物体呼称でのみ認められた。10人中8人の患者がsemantic PPAであった。1人は重度の単語理解障害を有したが、文法スコアも異常であったため、semantic PPAとは分類できなかった。もう1人は図4FおよびGで示されているが、初診時には萎縮が側頭極を含むATLの先端部に限局しており、単語理解障害を持たない失名辞のみを呈した。その4年後には萎縮が後方に進展し、MTLも含むようになり、単語理解障害が加わってsemantic PPAの臨床像と合致するようになった。PPA-TDP(C)群では、非言語的物体認知障害が認められたのは3人のみで、さらに程度としても軽度から中等度の障害であった。ここからは、semantic PPAは、一般に両側のATLの神経変性によって言語性および非言語性の意味の障害を呈する意味性認知症とは異なるという考え方が支持された。図4によれば、単語理解の障害には左側頭極の変性が重要であるものの、それだけでは十分ではないということ、そしてMTLおよび海馬傍回と紡錘状回の前部への尾側進展が必要かもしれないことが示唆される。図4Eと5Eで示されるように、GGTとPick病もsemantic PPAと関連している可能性がある。しかし、我々の症例群では、これら後者の2エンティティは側頭葉を超えて前頭葉に広がる萎縮パターンを有した。以上からは、重度の失名辞または単語理解障害を持つPPA患者において、萎縮がATLに限局している場合は、かなりの確実性でTDP(C)の病理を予測できると思われる。
Wernicke-Lichtheim-Geschwindの古典的言語ネットワークはATLに言及していなかったが、これはおそらくこの領域が局所的な脳血管障害による損傷に対して脆弱性を持たないからだと思われる。ATLに選択的な神経変性を持つFTLD-TDP(C)患者において突出した意味の障害が認められることは、古典的言語ネットワークの大きな改定を導き、Wernicke野ではなく左のATLが単語理解に重要であることがわかった。FTLD-TDP(C)は、右優位や両側性のATL変性を起こすこともあり、これらはbvFTDや相貌失認、または意味性認知症として定義される単語理解障害と連合型失認の組み合わせを引き起こす。
TDP(C)がATLに親和性を持つことのメカニズムはよくわかっていない。この報告や上で引用した文献で示されたように、TDP(A)およびTDP(C)は進行速度、神経変性の解剖、沈着物の形態、遺伝的関連性、細胞毒性、リボ核蛋白との関連、臨床表現型が大きく異なる。さらに、TDP(A)の神経変性は異常TDP沈着物の密度の上昇と関連しており、TDP(C)とは反対の関係性が見られた。どちらのエンティティも、RNA処理に関与する核内構成要素である同一の蛋白質の変位と切断を含んでいる。神経変性の原因が正常なTDP-43機能の喪失によるものであれば、A型とC型は臨床および神経病理学的表現型に違いをきたさないはずである。この明らかな臨床表現型の違いは、A型およびC型のTDP-43封入体が、同一のプロテオームネットワークに収束する根本的に異なる上流の原因によっておこった下流現象なのかもしれない。

 

5. 結論
PPAの背景にある神経病理学的エンティティには、それぞれが好む解剖学的標的とそれに対応する臨床パターンがある。臨床的特徴と神経病理学的特徴との関連は、絶対的というよりはむしろ確率的となるように、あまり好まれない関連も生じている。CBD/PSPは言語ネットワークの背側要素を標的としており、その結果、文法と流暢性に障害が生じる。TDP(C)はネットワークの腹側要素を標的としており、その結果、単語の理解と呼称に障害が生じる。皮質神経変性の左優位性は、すべてのPPAの基本的かつ特徴的な特徴である。この非対称性は、発症時に偶然に生じたものとは考えられない。なぜなら、この非対称性は死亡するまで維持されることが多く、失語は、記憶や礼儀作法に同等の障害を伴わずに、10-15年もの間、主要な障害のままだからである。驚くべきことに、PPAの原因となる神経病理学的疾患は、変性が両側性または主に右側性の他の症候群を引き起こすことがある。PPAの根底にある非対称性神経変性の生物学的基盤は依然として不明である。PPAの一部の症例では、左半球が神経変性に最も抵抗性の低い部位となるような遺伝的または発達的脆弱性を反映している可能性がある。たとえば、PPA患者では、ディスレクシアを含む学習障害の家族性発症率が高いことが報告されており、PPA発症者を持つ少なくとも1つの血統では、罹患していない9人の兄弟姉妹のうち6人にディスレクシアと言語ネットワークの機能的結合性異常がみられた。その他のケースでは、左半球の脆弱性の差の根底には、構成的あるいは個人的な分子的差異があるのかもしれない。たとえば、片側性のパーキンソン病では、神経細胞のDNAメチル化、トランスクリプトーム、プロテオミクスにおける大脳半球の違いが、症状の側方性に対応していることが示されている。PPAにおいても同様の知見が得られれば、それが神経変性の結果ではなく、むしろ原因と関連づけられると仮定して、選択的脆弱性の生物学とヒトの脳における言語の進化について、極めて重要な洞察を与えることになるだろう。

感想
方法のところが一番勉強になった。失語の評価の方法が自分の中でまだまだ完成されてなくて、ベッドサイド診察では、とりあえず呼称をやらせて、復唱させて、文章理解を見ていたくらいなんだけど、これだと全然足りないなと感じた。Sentence priming production test とか Northwestern anagram test 的なものは自分で作ってやってみようかな。あと、Peabody picture vocabulary test-IV 的なものは日本語版があるのかな・・・(ECASの理解は似てるけどちょっと違う気がする)。Pyramids and Palm Tree testは入力が視覚モダリティだからあんまりやってなかったけど簡単だしスクリーニング目的でやってみよう。流暢性の検査は何を見ているのかイマイチわからないのでもう少し勉強しなきゃいけない。
あとCBD/PSPは皮質下メインなので皮質の萎縮は症状をそこまでよく説明しないというのも、言われてみればその通りだなと思った。MRIだけじゃなく他のモダリティを用いた検討が大事なのかもしれない (PETとか)。