ひびめも

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認知症のないALSにおいて遂行機能・言語・流暢性の障害は大脳TDP-43病理局在のマーカーである

Executive, language and fluency dysfunction are markers of localised TDP-43 cerebral pathology in non-demented ALS.
Gregory, Jenna M., et al.
Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry (2019).

 

時間的余裕ができたので、読みたかったシリーズ行きます。

 

1. 背景
筋萎縮性側索硬化症 (ALS) はヘテロな臨床像を持ち、35%が認知かつ/または行動障害を、さらに15%は主に行動障害型の前頭側頭型認知症 (FTD) を呈する。患者は、行動異常、特にアパシーのほかに、遂行機能障害、社会的認知障害言語障害、文字流暢性障害を示す。こうした運動外症状は生存の低下と関連する。しかし、その正確な病理はいまだわかっていない。
43 kDa の Tar-DNA binding protein (TDP-43) は、SOD1変異を除いたALS患者の脳と脊髄でその病原性ミスフォールディングと蓄積が認められており、共通した背景プロセスであることが示唆されている。TDP-43は主に核内蛋白質であり、転写制御に関与する。ALSでは、TDP-43は病原性のリン酸化を受け、C末端が切断されて細胞質に凝集体を形成する。その毒性は、一部は機能喪失によるものであり、一部は機能獲得によるものである。すなわち、非可溶性凝集体はTDP-43の転写制御機能を阻害するが、一方で細胞内凝集体はプロテオスタシスの機能障害を招き、他の易凝集性蛋白を隔離し、さらなる細胞毒性を引き起こし、細胞死に寄与する。
ALS脳のTDP-43病理は、ALS関連FTD症例では広範位に認められ、一部の研究者は連続的な広がりを示唆している。認知症スクリーニングツールであるMMSEによって測定された認知機能障害の存在 (yes/no) と中等度から重度のTDP-43病理の間には、非特異的な関連性が認められた。Prudloらは、より詳細な神経心理評価を用いることで、ALSを臨床的に3つの群に分類した。すなわち、認知機能障害を伴わないALS、認知機能障害を伴うALS、そしてALS-FTDである。すると、病原性のあるミスフォールドされたTDP-43封入体の重症度に関して、ALS-FTDと非認知症臨床群 (認知機能障害を伴うまたは伴わないALS) の間には有意な違いが認められた。しかし、非認知症の2群の間には違いは認められなかった。また、非認知症の認知機能障害を伴うALS患者の認知機能プロファイルとTDP-43病理の間の関連性は未だ示されていない。さらに、生前の具体的な認知機能 (遂行機能、言語、流暢性) と死後のTDP-43病理の広がりの関連性も、未だかつて示されたことはない。ALS患者や身体的機能障害がある患者に適した認知機能検査が行われていないことが多いため、多くの研究は限界があった。この点で、Edinburgh Cognitive and Behavioural ALS Screen (ECAS) は、統一的なアプローチを可能とした。この標準化されたツールはALS関連認知機能障害 (言語流暢性、遂行機能、言語機能) を評価でき、より軽度の認知機能障害にも感度が高い。我々は、ECASを用いることで、ALSにおける認知機能障害の存在と前頭前皮質におけるシナプス脱落の関係性を証明することができた。今回我々は、非認知症ALSにおいてECASで検出された認知機能障害のプロファイルと、TDP-43の局在分布の関係性について、第一に報告する。
目的は、非認知症ALS患者の認知機能障害と関連する病理を決定することであった。我々の仮説は、(1) 非認知症ALS患者の特定の認知機能障害プロファイル (遂行機能、流暢性、言語) は、事前に同定された対応する脳領域のTDP-43病理と関連する、(2) 生前に評価されたECASは、死後のTDP-43病理の良い予測因子となる、であった。

 

2. 方法
2-1. 症例選択
我々は、Medical Research Council (MRC) Edinburgh Brain Bank から生前にECASを用いて神経心理検査を受けたALS症例を抽出した。さらに、すべての症例は全ゲノムシークエンスを個別に受けていた。ECASを含むすべての臨床データは、Scottish Motor Neuron Disease Register (SMNDR) および Care Audit Research and Evaluation for Motor Neuron Disease (CARE-MND) プラットフォームの一部として収集され、すべての患者は生前にその情報の利用について同意していた。

2-2. 認知機能評価
認知機能障害は、ECASを用いて評価され、すべての評価は標準化された手法に基づいて行われた。ECASはALSの認知機能障害プロファイルを評価するために具体的にデザインされており、身体機能障害を有する患者にも適応可能である。この検査は5つの認知ドメインにわたる16個のサブテストから構成されており、ALS特異的スコアを構成する遂行機能、言語、流暢性と、ALS非特異的スコアを構成する記憶と視空間認知の機能を評価できる。また、ECASは行動障害型FTDを診断するための基準に基づいた介護者への行動インタビューも含んでいる。
ECASは、標準化されたゴールドスタンダードの神経心理評価手法と比較して、ALSにおける軽度認知障害を検出するにあたり高い感度と特異度を持っている。また、様々な人口集団におけるALS患者の評価において妥当性が幅広く検証されている。
最終的なECASスコア (136点満点) は、ALS特異的 (100点満点) および ALS非特異的 (36点満点) スコアから成る。ECASの総得点またはALS特異的スコアで基準以下の場合、ALSci (ALS with cognitive impariemtn) と判断される。カットオフは、総得点で105/136点以下、もしくはALS特異的スコアで77/100点以下である。認知サブドメインごとの異常のカットオフは、遂行機能は33/48点、流暢性は14/24点、言語は26/28点である。ALSbi (ALS with behavioural impairment) は、アパシーまたは2つの異なる他の行動的特徴がある場合に定義される。

2-3. 組織学的および神経病理学的評価
脳組織は死後、標準化されたBrodmann areas (BA) から採取し、10%ホルマリンで最低24時間固定した。組織をアルコール系列 (70%~100%) で脱水した後、キシレンで4時間洗浄を3回繰り返した。5時間のパラフィンワックス包埋を3回行い、その後冷却し、Leicaミクロトームでホルマリン固定パラフィン包埋 (formalin-fixed paraffin embedded, FFPE) 組織を4μm切片にして、superfrost顕微鏡スライドに切り出した。切片は40℃で一晩乾燥させ、標準操作手順に従い、1000分の1希釈のProteintechの抗リン酸化(409-410)-TDP-43抗体と3,3′-ジアミノベンジジンクロモゲンを用い、Novolink Polymer検出システムで免疫染色を行い、ヘマトキシリンでカウンター染色した。
後の解析のために、脳の領域は、機能イメージングや病理学的研究に基づいて、(1) 遂行機能、(2) 言語機能、(3) 文字流暢性との関連に従ってグループ分けされた。先行研究で遂行機能との関連が報告された脳領域は、眼窩前頭皮質 (BA11/12)、腹側前部帯状回 (BA24)、背外側前頭前皮質 (BA46およびBA9)、内側前頭前皮質 (BA6) であった。言語機能と関連づけられた脳領域は、下前頭回 (Broca野; BA44/45)、横側頭回 (Heschl回; BA41/42)、中下側頭回 (BA20/21)、角回 (BA39) であった。流暢性と関連づけられた領域は、前頭前皮質 (BA9)、下前頭回 (Broca野; BA44/45)、腹側前部帯状回 (BA24)、横側頭回 (Heschl回; BA41/42) など、流暢性に関与する認知プロセスを反映して、遂行機能と言語機能に関連する領域との間で重複していた。これらの領域の概要については、表1を参照のこと。TDP-43病理は、2人の独立した病理医によって評定され、0=TDP-43病理なし、1=軽度 (1切片で少なくとも1つの20x視野に5個までの罹患細胞)、2=中等度 (1切片で少なくとも1つの20x視野に5-15個の罹患細胞)、3=重度 (1切片で少なくとも1つの20x視野に15個以上の罹患細胞) (図1A) (試験前のレビュアーの一致許容度は>0.66であったため、不一致はディスカッションによって解決され、最終的に100%の一致に至った)。病理学的所見がないと定義された症例は0点、病理学的所見がある症例は部位ごとに1点から3点までの点数をつけた。このスコアリングは神経細胞グリア細胞の集団に適用された (ヘマトキシリンカウンター染色を用いた細胞形態に関する確立された神経病理学的知見に基づく)。神経細胞は、細胞の大きさ (大量の細胞質に囲まれた核、樹状突起の存在、皮質層の位置) によって決定された。グリア細胞は、コンパクトなクロマチンを持つ楕円形から円形の核、小さな細胞質の縁を持つ小さな細胞サイズに基づいて指定された。評価者は、すべての人口統計学的情報と臨床情報を盲検化した。機能的重要性によってグループ化された領域は、TDP-43病理が存在する領域が4つ中3つ (または流暢性の場合は3つ中2つ) なければ病理陽性と分類されず、病変はこれらの領域で少なくとも1つで以上なければならなかった。

図1. ECASで決定されたサブドメイン認知機能障害は、TDP-43病理の特定の分布と関連する: (A) 病原性TDP-43染色が、TDP-43が特徴的な細胞内封入体を形成し核には存在していないことを示している。画像は20xの倍率で撮影されており、それぞれ病理の軽度、中等度、重度のスコアリングを示している。(B) ECASのサブドメインが対応する脳領域のTDP-43病理を予測できるかについて解析したところ、高い陽性的中率を示した。

表1. 解析前に決定された脳領域とその機能的/臨床的関連性

2-4. 統計手法
感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率は百分率で表した。感度と特異度のCIは正確なClopper-Pearson CIである。尤度比のCIはLog法で算出した。予測値のCIは標準ロジットCIである。(1) 生存期間中央値のノンパラメトリック解析はMann-Whitney U検定で、(2) ECASから死亡までの期間は両側フィッシャーの正確検定で行った。データが正規分布していることを確認するためにShapiro-Wilk検定を行った。一元配置分散分析 (ANOVA) を用いて、認知機能障害例と非認知機能障害例を、TDP-43の細胞種特異的分布の違いと比較した (図2D)。

図2. 細胞腫特異的TDP-43病理は、個々の症例で異なる: 病原性TDP-43染色は、(A) 主にグリア細胞における封入体、(B) グリアおよび神経細胞の混ざった封入体、(C) 主に神経細胞における封入体 の3パターンを証明した。画像は20xの倍率で撮影されており、赤矢印は神経細胞、青矢印はグリア細胞を示している。(D) これらの特徴的な細胞種特異的封入体のそれぞれの症例数を示した頻度分布。それぞれのカラムは赤 (認知機能障害あり) および青 (認知機能障害なし) で色付けされており、TDP-43の蓄積細胞種と認知機能障害の間には明らかな関連性はないことを示している。

 

3. 結果
3-1. コホートの背景
Edinburgh Brain Bank の ALS患者 (El Escorial criteriaで臨床的に診断) の中でECASを用いて神経心理検査が生前に行われていた27人を選択した (表2)。認知症と診断された患者はいなかった。すべての患者は全ゲノムシーケンシングを行われており、9人でALS関連遺伝子変異が認められた。うち5人は C9orf72、2人は SOD1 (I114T) Scottish founder変異、2人はNEK1遺伝子の意義が確立されていない変異を有していた。72%の症例が四肢麻痺発症で、23%が球麻痺発症、1人は四肢と球麻痺の組み合わさった発症形式であった。7人 (26%) はALSci と診断された (表3)。行動データは9人で利用可能であり、3人はALSbiとされ、うち1名はI114T SOD1変異を有していた。ALScbiの患者はいなかったが、これは行動学的データが利用可能な患者が少なかったことを反映していると思われた。11人は特定のサブドメインにおける認知機能障害を示しており、遂行機能障害のみが1人、流暢性障害のみが2人、言語障害のみが6人で、3つのドメインにわたる混合性の障害を示した患者が2人いた (表3)。言語障害を示した患者のうち1人だけが記憶サブテストでも障害を示していたが、視空間検査で障害を認めた患者はいなかった。

表2. ECASコホートの背景

表3. ALSコホートの認知スコア

3-2. ECASで検出された認知機能障害は病原性TDP-43蓄積と関連する
ECASで検出された認知機能障害がALSの運動外病理の良い予測因子となるかを決定するため、我々はまずECASで障害を示した患者の剖検組織においてTDP-43凝集が運動外領域に存在するかを評価した。
27人中3人がALSbiの基準を満たした。うち1人がNEK1変異を有し、1人はSOD1変異を有し、1人は孤発性であった。行動障害に関連すると考えられた脳領域は、(1) 眼窩前頭皮質 (BA11/12)、(2) 腹側前部帯状回 (BA24)、(3) 内側前頭前皮質 (BA6) であった。SOD1変異患者ではTDP-43の蓄積はみられず、これは先行研究とも合致していたが、残る2症例では2つ以上の脳領域にTDP-43封入体を有していた (表4)。我々のコホート27人中7人はALSciの基準を満たした。7人はすべてTDP-43病理を運動外脳領域に有していた (表4)。したがって、ALSciを示したすべての症例で、運動外TDP-43病理が認められたことになる。運動外TDP-43病理があるにも関わらずECASで障害が認められなかった偽陰性症例は6人いた。これらのデータを総合すると、ECASが運動外TDP-43病理を予測する診断精度として、診断精度 66.67% (95%CI 46.04 to 83.48)、感度 43.75% (95% CI 19.75 to 70.12)、特異度 100% (95% CI 71.51 to 100) となった。

表4. 剖検病理スコアリング

3-3. ECASサブドメインの認知機能障害は特定の脳領域への病理の広がりと関係する
27人中3人は軽度の遂行機能障害を示し (1人は純粋な遂行機能障害のみで、2人は言語障害および流暢性障害と組み合わさっていた)、3人は全員が遂行機能障害と関連した脳領域のTDP-43病理を有していた (BA6, BA11, BA24, BA46, BA9)。さらに、27人中8人はECASで軽度の言語障害を示し (6人は純粋な言語障害で、2人は遂行機能障害および流暢性障害と組み合わさっていた)、全員が対応する脳領域のTDP-43病理を有していた (BA44, BA41, BA20, BA39)。27人中4人は軽度の流暢性障害を示し (2人は純粋な流暢性障害で、2人は遂行機能障害および言語障害と組み合わさっていた)、全員が対応する脳領域のTDP-43病理を有していた。TDP-43病理がないにも関わらず認知機能障害が認められた症例はなかったが、TDP-43病理があるのに認知機能障害がない6人の小グループが認められた (偽陰性)。これらの結果から、ECASは陽性的中率100%、特異度100%で、遂行機能、言語、流暢性ドメインTDP-43病理を予測することができることが示された (図1B)。

3-4. 遺伝子、認知機能障害、病理
同定された27症例のうち6症例がC9orf72 repeat拡大の遺伝子診断を受けていた。全例の剖検で、認知機能障害とは無関係な運動外TDP-43病理が認められた。これは、SOD1 (I114T) 変異 (Scottish founder変異) を持つコホート内の2人の患者が、先行研究における病理学的および神経心理学的評価と一致して、TDP-43病理や認知機能障害を有さなかった (さらに1人のSOD1患者はALSbiと分類されたが、TDP-43病理学的所見はなかった) のとは対照的である。また、NEK1遺伝子変異を有する2人の患者も同定されたが、このうち1人はTDP-43病理を伴うALSbiを発症しており、もう1人は認知機能障害を認めず、死後においても運動外のTDP-43病理を認めなかった。

3-5. TDP-43の分布は細胞種特異的であり、個人差がある
TDP-43病理の細胞種特異的分布の解析が行われ、3つのパターンが示された: (1)グリア細胞優位 (症例の22.2%)、(2) グリア細胞神経細胞の混合 (症例の59.3%)、(3) 神経細胞優位 (症例の7.4%) (図2)。ANOVAを行い、TDP-43病理の細胞種別分布が、評価した領域における認知機能と関連しているかどうかを評価した (図2D)。実際、性別、発症部位、発症時または死亡時の年齢の中央値、罹病期間、遺伝学的特徴など、その他の人口統計学的および臨床的特徴についても、群間に統計学的有意差は認められなかった。これは、評価したサンプルサイズが小さいためと思われ、これらの表現型がALSやFTDの臨床的特徴に影響を与えるかどうかを決定的に評価するためには、より大規模なコホートでのさらなる調査や既存データのメタ解析が必要であることは明らかである。

 

4. 考察
我々はECASで認知機能評価を受けた非認知症ALS患者27人の詳細な神経病理学的解析を行い、ALSci患者は運動外脳領域にTDP-43病理を有することを証明した。さらに、認知機能障害の種類 (遂行機能/言語/流暢性) のより詳細な解析により、TDP-43病理と特定の対応する前頭側頭領域の間の直接的関連性を明らかにした。具体的には、我々は (1) 遂行機能障害眼窩前頭皮質 (BA11/12)、腹側前部帯状回 (BA24)、背外側前頭前皮質 (BA46/9)、内側前頭前皮質 (BA6) のTDP-43病理と関連すること、(2) 言語障害は下前頭回 (Broca野; BA44/45)、横側頭回 (Heschl回; BA41/42)、中下側頭回 (BA20/21)、角回 (BA39) のTDP-43病理と関連すること、(3) 流暢性障害は前頭前皮質 (BA9)、下前頭回 (Broca野; BA44/45)、腹側前部帯状回 (BA24)、横側頭回 (Heschl回; BA41/42) のTDP-43病理と関連すること、(4) 行動障害は眼窩前頭皮質 (BA11/12)、腹側前部帯状回 (BA24)、内側前頭前皮質 (BA6) のTDP-43病理と関連すること、を証明した。これらのデータの潜在的な限界は、生前のECASと死亡との間の時間の差であるということは認識している。しかし、ECASから死亡までの時間によるデータへの影響はなかった。したがって我々は、これらのデータから得られた結論は確実で意味のあるものであると確信している。
死後におけるTDP-43病理の病期分類は以前にも報告されており、今回の知見と合わせると、TDP-43の病理学的蓄積はALSの臨床症状と明らかに関連しており、有望なバイオマーカーとなりうることが示された。我々は、運動領域や行動障害型FTDに焦点を当てたBrettschneiderらによって以前に発表されたスコアリングシステムではなく、非運動脳領域を評価する半定量的スコアリングシステムを用いてTDP-43病理を評価することにした。我々のシステムを用いることで、ECASのサブドメインに関連する特定の脳領域におけるTDP-43病理の豊富さを評価することができ、またTDP-43病理の細胞種特異的パターンを同定することができたため、認知機能検査に関連する特定のデータセットを作成することができた。今回我々は、ECASを用いることで、死後の特定の非運動脳領域におけるTDP-43病理の存在を正確に予測できることを示唆する最初の証拠を提示した。実際、ECASは現在世界中のALSクリニックで使用されており、この知見の潜在的な影響力と臨床的有用性を強調している。ALSの約半数の症例で認知機能の変化が認められ、これらの臨床症状がTDP-43の蓄積と関連している可能性が高いことを考えると、ミスフォールドしたTDP-43負荷を軽減することを目的とした認知機能改善標的治療の可能性がある。これらの知見は、リスクのある人の認知症状を軽減することを目的とした臨床試験において、ECASを層別化ツールとして使用する可能性を提起するものである。偽陽性が同定されないことを考えると、層別化ツールとしてECASを使用しても、そのような臨床試験に誤って組み入れられることはないだろう。
BA19 (5例) や 海馬 (4例) の病理を認めた症例も一部あったが、関連した機能障害 (記憶や視空間認知) は認めなかった。記憶障害を呈し、軽度のBA19病理を有した症例は1例あった。この症例では海馬の病理は認めなかったため、物語再生テストの成績不良は記憶以外の他の認知機能の問題である (e.g. 言語) と考えられた。
TDP-43病理の細胞種特異的パターンは3つ認められた: (1)グリア細胞優位 (症例の22.2%)、(2) グリア細胞神経細胞の混合 (症例の59.3%)、(3) 神経細胞優位 (症例の7.4%)。この所見は先行研究における病理データセットでも明らかである。しかし、我々の知る限り、正式には報告されていなかった。我々のデータは認知機能との統計学的に優位な関連性は示さなかったが、具体的にこの結果がALSの病態生理にどう寄与しているのかについてコメントできるほどの適切なサンプルサイズを有していない。しかし、このようにTDP-43病理の細胞種特異的な分布があることを考えると、将来的な実験パラダイムでは、動物および細胞モデルがこれらの異なる神経細胞およびグリア細胞病理を正確にモデル化できるようになることが重要だと考えられる。ALSの神経細胞モデルにはフォーカスがあてられているが、これうしたモデルでは我々のデータのように22.2%がTDP-43病理のグリア細胞優位パターンを示したことを正確には再現できていない。
さらに、これまでのALS患者の神経病理学的研究と同様に、すべてのC9orf72 repeat伸長患者でTDP-43病理が認められた一方で、SOD1変異患者にはTDP-43病理はみられず、またTDP-43病理の重症度や細胞タイプの分布は疾患の進行とは関連していなかった。したがって、我々のデータは、死後のTDP-43病理の予測因子が2つあることを示している: (1) ECASによって評価された認知機能障害と、(2) C9orf72/SOD1の状態である。認知機能が患者と介護者のQOLに与える影響を考えると、生存や運動機能に対する影響とは別に、蛋白質のミスフォールディングを標的とした治療がALS患者の認知機能に及ぼす影響を調べる今後の研究が必要であることは明らかである。われわれのデータは、死後組織における運動ニューロン以外の脳領域におけるTDP-43病態の予測におけるECASの有用性を示している。特異度が100%であることの第一の利点は、TDP-43負荷の軽減を目的とした臨床試験に誤って組み入れられる個体がないことである。しかし、ECASによる病理学的負荷の予測は感度が低いため、そのような臨床試験から利益を得られる可能性のある患者でも、特定されないことがある。したがって、ECASで見逃される可能性のある患者をさらに特定するために、感度を向上させるバイオマーカーが開発される可能性は十分にある。従って、ECASの有用性は、(1) 対象患者の同定、(2) TDP-43の病的蓄積を減少させることを目的とした臨床試験における治療に対する患者の反応のモニタリングにおいて、ますます向上する可能性がある。

 

感想
海馬のTDP-43病理が記憶と関連していないの、意外かも。だって、他の認知ドメインでは関連していたんだから。。。