ひびめも

日々のメモです

Posterior Cortical Atrophy のコンセンサス分類

Consensus classification of posterior cortical atrophy.
Crutch, Sebastian J., et al.
Alzheimer's & Dementia 13.8 (2017): 870-884.

 

PCA続き。前回の文献の著者の続編といったところ。

 

1. 背景
PCA (posterior cortical atrophy) という用語は、後方皮質領域の神経変性によって、初期から視覚機能障害を呈する一連の患者を記述するために、D. Frank Benson らによって作られた (図1)。PCA症候群は、似たような進行性の高次視覚機能の喪失を示す患者についての他のいくつかの報告とも合致していた。PCAは典型的には50代中盤から60代前半で発症し、多様で稀な視知覚症状を呈する。これには、視覚誘導下での物体の同定、定位、到達などが含まれる。また、計算、文字、行為に関する障害も現れることがある。エピソード記憶や内観は初期にはよく保たれているが、PCAの進行に伴って、よりびまん性の認知機能障害を呈することとなる。

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図1. 正常対照とPCA患者の脳血流 (ALS)、糖代謝 (FDG-PET)、萎縮 (構造的MRI)、アミロイド沈着 (florbetapir-PET). 臨床的目的に際しては、18F-florbetapir画像はグレースケールで読影されるべきである。

複数の単一施設研究グループによって、この症候群の診断基準が提唱された、もしくは個々の研究レベルで詳細な組み入れ基準が用いられた。PCAは典型的および非典型的アルツハイマー病 (Alzheimer's disease, AD) のコンセンサス基準においても認知・記述されている。これらの既存の基準は、十分な一貫性を有しており、多くの臨床および研究の文脈で有用性が証明されている。
しかし、PCAに関する既存の詳細な記述は、単一施設における臨床的経験に基づいており、より幅広い形で考察や検証が行われているわけではない。また、現在用いられているPCAの基準は、ADの病態生理学的バイオマーカーの発展の前に提案されたものであり、さらに最近のAD基準がPCAを含んでいるとは言えど、臨床的表現型は詳細に記述されておらず、こうした基準はAD病態生理学バイオマーカーが陰性のPCA症候群患者とは当然相いれないことになる。また、記述された中核的特徴の中にも矛盾が存在する。たとえば、Tang-Waiは初期からのパーキンソニズムや幻視を除外基準としたが、Mendezはそうしなかった。また、Mendezは言語流暢性が比較的保たれるとしたが、Tang-Waiはそうしなかった。こうした矛盾は、用語の適応において明示的または暗黙的に反映されており、PCAという用語が時に臨床的記述用語 (症候群レベル) として、時に診断的ラベル (疾患レベル) として用いられている。たとえば、一部の研究者はPCAを主に非典型的AD ("visual variant of AD") と考えたが、その他の研究者は神経病理学的エビデンスを引用しながらPCA症候群の背景に複数の背景病理が存在することに言及した。用語の非一貫性は、興味の違いや、研究者ごとの研究背景の違いに起因するものかもしれない。たとえば、症候群分類は、行動学的介入研究には適切だが、疾患特異的薬物の臨床試験には背景となる分子病態の考慮が必要である。用語の使用の潜在的多様性を明確に反映した基準が存在しない現在、PCA患者がADの臨床試験に組み入れられるべきなのかそうでないのかは未だ明らかでない (e.g. 介入、バイオマーカー、結果測定が不適切となりうるため)。したがって、PCA患者は、潜在的に有用な介入の恩恵を受けることができないリスクがある。これに反して、もし基準がAD病理のエビデンスを必要とすれば、他の原因によるPCA患者は、恩恵を受けられるかもしれない行動的介入研究の対象となれないかもしれない。最後に、既存の基準では、臨床的表現型と背景病理を結びつけるようなエビデンスを得ることができないため、表現型の多様性と疾患の進行に影響を与える因子を探索する将来の研究を進めるための基盤としては不適切である。

 

2-3. 目的・方法
細々としたことが書いてあったので省略。

 

4. 分類フレームワーク
図3に、PCAの3段階分類フレームワークを示した。レベル1は、PCA症候群を定義する中核的な臨床的および認知的特徴、および可能であれば支持的な神経画像エビデンスに基づいて、患者が神経変性疾患を有し、それが後方皮質に焦点を持つことを確立するものである。さらなる中核的特徴には、緩徐な発症および進行様式が含まれる。除外基準には、脳腫瘍などの占拠性病変、影響を与えうる脳血管障害、一次的な眼科的疾患、認知機能障害を引き起こす他の同定可能な原因などが含まれるが、あくまで患者の臨床および認知症候群を独立して十分に説明可能な場合に限る。レベル2では、臨床像が純粋なPCAなのか、それともPCA症候群とその他の神経変性症候群の両方の中核的基準を満たすのかを分ける (バイオマーカーは用いない)。レベル3は、PCA症候群の背景病理をより正式に決定する。これは、病態生理学的バイオマーカーに基づいて行う。レベル1および2は症候群レベルの記述であり、レベル3は疾患レベルの記述である。レベル1-3は、以下により詳細な説明を行う。

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図3. PCAの分類プロセス. それぞれのレベルにおける主要な診断的疑問がボックス内に示されている。症候群レベルの記述 (分類レベル1および2) は薄色で示されており、疾患レベルの記述 (分類レベル3) は濃色で示されている。疾患レベルの分類では、PCA-ADおよびPCA-prion (実線) がPCA-LBDおよびPCA-CBD (点線) と区別されている。これは、病態生理学的バイオマーカーの利用可能性に基づいた分類である。その他の疾患レベル分類も適切かもしれない (e.g. PCA+幻視はADのLBD-variantであろう) し、今後現れるかもしれない (e.g. GRN変異によるPCA)。レベル2および3を結ぶ線の太さは、ADがPCAの最も一般的な原因であることを反映させることを意図したものである。

4-1 分類レベル1: PCA症候群の中核的特徴
第1回コンセンサス会議後の展望記事で定義されているように、「PCAは、初期段階では記憶と言語は比較的保たれつつも、視覚処理および他の後方認知機能が進行性に低下し、後方脳領域が萎縮することを特徴とする、臨床-放射線画像的症候群」である。PCAの中核となる臨床的特徴、認知的特徴、および (オプションの支持的) 神経画像的特徴と除外基準を表1に示す。これらの初期特徴または臨床的特徴は、オンライン調査参加者から提供された定量的評価に合わせて、初回評価時の頻度の順 (降順) に列挙されている (図2)。認知的特徴のリストは、MendezらおよびTang-Waiらに記載されているすべての特徴を要約したものである。

表1. 臨床-放射線画像的症候群としてのPCAの中核的特徴.
臨床的、認知的、神経画像的特徴は、オンライン調査参加者によって初回評価時に評価されたものの降順で列挙されている (図2)。
・臨床的特徴
 緩徐な発症様式
 緩徐な進行
 初期から視覚性±他の後方認知機能が突出して障害される
・認知的特徴: 以下のうち少なくとも3つが初期または受診時に存在しておりそれがADLに影響をきたしている
 空間知覚障害
 同時失認 (simultanagnosia)
 物体知覚障害
 構成失行
 環境失認
 眼球運動失行
 着衣失行
 視覚性失行 (optic ataxia)
 失読
 左右失認
 失算
 肢節失行
 統覚型相貌失認
 失書
 同名半盲
 手指失認
・以下のすべてが明らかである
 前向性記憶が比較的保たれている
 発話と非視覚性言語機能が比較的保たれている
 遂行機能が比較的保たれている
 行動および性格が比較的保たれている
・神経画像
 後頭頭頂または後頭側頭部の萎縮/低代謝/低血流がMRI/FDG-PET/SPECTで目立つ
・除外基準
 症状を十分に説明しうる脳腫瘍などの占拠性病変の証拠
 症状を十分に説明しうる脳血管障害の証拠
 遠心性の視覚関連構造が障害されている証拠 (e.g. 視神経、視交叉、視索)
 認知機能障害のその他の原因の証拠 (e.g. 腎不全)

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図2. PCAの臨床像、症状、徴候の頻度.

臨床的基準および除外基準は、PCAの定義を神経変性疾患に制限する。認知的特徴が3つ以上必要というのは半恣意的なものだが、これは後方認知機能障害のクラスターが存在する証拠を確認するためにデザインされており、単一の訴えや検査成績異常を過剰に解釈してしまい誤分類が起こることを避けるためののものである。この条件の厳しさは、基本的視覚機能、視知覚機能、視空間機能、識字機能、計算機能、運動機能、高次感覚機能などの領域に広く分類される潜在的な特徴の広範なリストによって緩和されている。これらの後天的な認知機能障害の多くは、日常生活動作に顕著な影響を及ぼす可能性がある。
PCAの認知プロファイルの重要な要素は、後方皮質機能障害と他の認知領域の相対的な保存との対比である。これは、PCAを典型的な (amnestic) AD (エピソード記憶)、logopenic-variant primary progressive aphasia (lvPPA; 言語)、前頭側頭型認知症、およびfrontal variant AD、behavioral variant AD、またはdysexecutive AD (主に遂行機能、行動、および人格の障害として現れる) と呼ばれるAD表現型と区別することを目的としている。「相対的保存」の概念は、異なる評価設定や評価ツールに対応できるよう、意図的に柔軟性を持たせている。推奨される短時間および詳細な認知課題セットを用いてこれらの基準を運用することは、ワーキンググループの将来の目的であるが、主な原則は、これらの機能の評価における中核的な障害の影響を軽減することである。たとえば、PCA患者における前向性記憶の正確な検査には、明示的な視覚的要求 (e.g. ROCFT) だけでなく、心的イメージのような視覚が介在する処理におけるより暗黙的な視覚的要求 (e.g. 言語的対連合学習) も回避する検査が必要である。
PCAの神経画像的特徴は、"posterior cortical atrophy" というあいまいな解剖学的説明を反映して、意図的に幅広いものとしている。すなわち、後頭葉頭頂葉、かつ/または後頭-側頭-頭頂皮質の局所的な構造的 (e.g. MRIにおける萎縮) または機能的 (e.g. FDG PETやSPECT) 異常を、臨床-放射線画像的症候群を支持するエビデンスと考えた。後方皮質の萎縮や機能障害の神経画像的エビデンスを必須項目とするのではなく支持的特徴と考えたのは、過去の基準と一貫している。この問題はかなりの議論を生んだが、オプションとしての位置づけは、臨床的 (e.g. 萎縮の広がりは初診時にはさまざまである) および実務的 (e.g. 神経画像を撮ることができる施設は限られている) な事情を汲んでのものである。研究の場においては、実務的事情による神経画像エビデンスを得ることができない場合には、PCAの分類を支持するエビデンスを明確にすべきである。別の問題として、Creutzfeldt-Jakob病のvisual variantの患者は明らかな局所的萎縮が証明できないほど急速に進行する。我々はこのような患者をPCAフレームワークに基づいて分類することの有用性を議論したが、緩徐な進行を示すプリオン病においてのみ適切であろうと結論づけた。また、より最近確立された分子イメージング技術によって提供されるエビデンスは、その他のin vivo バイオマーカーとともに、疾患レベルの記述に組み入れられるべきである (分類レベル3を参照)。
臨床的、認知的、および除外基準は、既存の単一施設基準とおおむね合致している。ワーキンググループの議論は、PCAを構成する具体的な特徴に関する広い合致を得ており、症候群としての既存の記述を根本的に変更するのには決して乗り気でなかった。しかし、初期の基準では視覚障害が特に優位性を持っていたのは特筆すべきことである (Mendezら: 一次性視覚機能が保たれつつも視覚的訴えがある; Tang-Waiら: 症状を説明しうる一次的眼科的疾患がない中で視覚的訴えが存在する)。今回のコンセンサス提言では、こうした基準は「初期から視覚性±他の後方認知機能が突出して障害される」として、より幅広いものになっている。これは、「非視覚性の認知機能の進行性の局所的障害は、一部の研究の文脈ではPCAと分類されてもよい」という文言に関して、オンライン調査グループで65%の同意 (15%が反対、20%が同意ても反対でもない) を得られたことを反映している。ワーキンググループは、「初期から視覚性かつ/または他の後方認知機能が突出して障害されている」という記述の拡張には拒否を示した。これは、(1) 視覚的基準を除くとPCAとCBS、lvPPAや他の症候群の間で診断的混乱が生じかねない、(2) 後方の非視覚的訴えで受診した患者に対する詳細な神経心理学的検査を行えば視覚的認知にわずかな障害が明らかになることが多い (図4)、(3) 「非視覚」訴えの一部は視覚機能障害に根ざしている可能性がある (e.g. 書字障害は文字の心像の障害に部分的に帰属可能である)。

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図4. 「非視覚的」症状で受診したPCA患者の症例提示. 2年間の経過の読字障害 (「単語を理解できない」)、数字の誤り、軽度の喚語困難を主訴に受診した63歳男性。彼および彼の妻はどちらも視覚症状を訴えなかった。神経心理学的評価では、頭頂/後頭側頭機能障害が目立ち、計算、綴字、読字の障害と、軽度の失名辞が認められた (黄色でハイライトしている部分)。基本的な視覚および視知覚タスクの成績は正常範囲内であったが、1つの視知覚タスクでボーダーラインの障害が認められた (views object perception test)。診察上は、観念運動失行が認められた。MRIでは両側の頭頂葉萎縮が認められた。CSFはADとして合致していた (Aβ 164、tau 431)。

4-2.分類レベル2: Pure PCA と PCA-plus
分類レベル2では、PCAの基準のみを満たす患者 (PCA-pure) と、その他の神経変性症候群にも合致する追加の特徴を示す患者 (PCA-plus) の線引を行う。すべての患者は、中核的な臨床-放射線画像的症候群の基準 (レベル1) を満たさなければならない。その上で、PCA-pure/PCA-plusの区別は、lvPPAやCBS、その他の神経変性症候群の中核的臨床基準を追加で満たすかどうかに応じて決定される (表2)。引用されたものは、DLBとCBSの臨床症候群診断基準に基づいている。

表2. PCA-pure と PCA-plusの分類 (分類レベル2)
・PCA-pure
中核的な臨床-放射線画像的なPCA症候群の基準 (レベル1) を満たさなければならない。その上で、その他の神経変性症候群の中核的臨床基準を満たさないものを言う。
・PCA-plus
中核的な臨床-放射線画像的なPCA症候群の基準 (レベル1) を満たさなければならない。その上で、その他の神経変性症候群の中核的臨床基準を満たすものを言う。
例1) DLB
DLB consortiumによって提唱された診断基準 (McKeith et al., 2005) に従い、患者はDLBの中核的特徴 (list A) のうち2つ以上、または中核的特徴 (list A) のうち1つ以上と支持的特徴 (list B) のうち1つ以上を満たしている必要がある:
 A. 中核的特徴
 変動する認知機能 (特に注意と覚醒)
 繰り返す具体的で詳細な幻視
 パーキンソニズム
 B. 支持的特徴
 REM睡眠時行動障害
 重度の抗精神病薬に対する感受性
 SPECTまたはPECTによって証明される基底核ドパミン輸送体の取り込み低下
例2) CBS
Armstrong et al (2013) による改訂版CBS基準では、probable CBSの診断には以下の2つが非対称性に存在する必要がある:
 a) 四肢の筋強剛または無動、b) 四肢のジストニア、c) 四肢のミオクローヌス
 加えて、以下の2つも存在している必要がある:
 d) 口顔面失行または肢節失行、e) 皮質性感覚障害、f) alien limb phenomena。
Possble CBSの診断には、a-cのうち1つ以上、加えてd-fのうち1つ以上が、対称性または非対照性に存在する必要がある。

分類レベル2は、純粋に症候学的なPCAの定義 (レベル1) の幅広さと、異なる臨床-生物学的エンティティに属する疾患レベルの記述 (レベル3) の間のバッファーゾーンである。この中間的分類ステージは、in vivo バイオマーカーと剖検脳の病理学的データ、臨床的意見、研究上の実用性の組み合わせに動機付けられたものである。既存のケースシリーズにおけるin vivo バイオマーカーと剖検脳の病理学的データは、PCAの報告例のほとんどがADによるものであることを示している。このようなデータを反映して、臨床的意見は、PCAは主に、または単一に、ADの非典型的表現型と考える方向に向かっており、多くの臨床医はPCAを"visual posterior variant of AD"と考えている。したがって、ワーキンググループの一部のメンバーは、非AD病理を示唆する特徴、たとえば幻視や認知機能の変動などは、PCAの中核的定義の中の除外基準に組み込まれるべきなのではないかとすら考えていた。PCA-pure/PCA-plusの区別は、臨床家と研究者を、背景病理にADを有する可能性が高いサブ集団に限定して研究に組み入れることを許容する一方で、同時に症候群と病理の一対一対応が欠けてしまうことを容認している (e.g. PCAとCBSの両方の基準を満たす患者がAD病理を有している)。PCA-plusの分類は、混合病理や中等度から高度の皮質下血管性病変によって、さらなる特徴を示す患者を捕捉できるかもしれない。このような議論は、in vivo バイオマーカーが利用可能な状況下では非実際的かもしれないが、PCA表現型と背景病理の関係性を完全に調査するためには、PCAやその他の症候群の中核的基準を満たすかどうかを記録しておく必要もある。さらに、バイオマーカーは研究室ごとに多様であるというところにも反映されているように、方法論的な限界も存在する。また、分子イメージングやCSF解析はすべての施設で可能なわけではないし、病態生理学的バイオマーカーは限られた疾患でのみ利用可能であり、実際にADとFTDの診断基準にしか取り入れられていない。究極的には、あらゆる研究文脈においても利用可能なコンセンサスガイドラインを作成することが、ワーキングパーティーの目的である。このため、PCA-pure と PCA-plus を概念化することは、研究の組み入れ基準に一貫性を持たせ、さらにバイオマーカーデータが利用できない状況下でPCAサンプルを精緻化するための、単純かつ実際的な手法である。また、IWG2はバイオマーカーが利用可能でない患者において、PCAに合致する臨床像を呈する患者の正式な分類を提供していない。PCA-pure/PCA-plusの中間的な分類は、背景となる病態生理学的プロセスの直接的な証拠がない場合であっても、研究参加者の研究への組み入れを容易にすることを目的としている。この定式化の実際的な意味合いは、バイオマーカーエビデンスが利用可能な場合、PCA-pureまたは-plus (レベル2) の概念はほとんど冗長である可能性があるということである。

4-3. 分類レベル3: PCAを起こす疾患
分類レベル3は、利用可能な背景病理エビデンスを反映して、PCAの疾患レベルの記述を提供する。ADに帰属可能なPCA (PCA-AD)、Lewy小体病に帰属可能なPCA (PCA-LBD)、CBDに帰属可能なPCA (PCA-CBD)、プリオン病に帰属可能なPCA (PCA-prion) に関する診断基準が表3に示されている。PCA-ADの定義はIWG2と合致しており、適切な臨床表現型と病態生理学的バイオマーカーの両方の存在を必要とする。しかし、病態生理学的バイオマーカーは、現状ADとプリオン病でしか利用できない。よって、表3の疾患レベルの記述は不公平であり、PCA-LBD および PCA-CBD の in vivo 診断は、適切なバイオマーカーの開発が待たれる。このような場合、probable PCA-LBDやprobable PCA-CBDという用語の使用は、関連する中核的臨床基準を満たす症例がADバイオマーカー陰性であることが判明した場合に適切であろう。図3で述べたように、他の疾患レベルの分類も、混合または複数の病理を有する患者 (e.g. PCAと幻視を有する患者はADのLBD-variantである可能性があるため、PCA-AD/LBDと表示するほうがより適切であるし、ADとPSPの併発もある) に適切であるか、将来必要とされるかもしれない (e.g. たとえば、GRN変異に起因するPCA)。同様に、既存の分類や新しい分類をサポートするマーカーが追加される可能性もある。PCAコンセンサスステートメントの今後の改訂では、これらの問題を考慮し、バイオマーカーの開発や新たな臨床報告に従って分類を改訂しなければならない。

表3. 疾患レベルの記述のための診断基準 (分類レベル3)
・PCA-AD
IWG2に習い、PCA-ADの分類はPCA症候群 (分類レベル1) とAD病理のin vivoエビデンス (以下のうち1つ以上) を必要とする。
 CSF Aβ1–42の低下とT-tau and/or P-tauの上昇
 amyloid PETにおける集積
 ADの常染色体優性遺伝子変異が存在する (PSEN1, PSEN2, APP)
ADが剖検で確定した場合、definite PCA-ADと表現してもよい。
・PCA-LBD
現在のところ、LBDの分子バイオマーカーは得られていないため、PCA-LBDとin vivoで診断することはできない。DLBの臨床基準を満たすことによりPCA-plusと分類され、ADバイオマーカー陰性であることが示された患者については、probable PCA-LBDという表現が適切であろう。剖検でLBDの確証が得られた場合は、definite PCA-LBDとするのが適切であろう。また、複数の病態が混在している場合には、PCA-AD/LBDのような疾患レベルの分類も可能である。
・PCA-CBD
現在のところ、CBD の分子バイオマーカーは得られていないため、PCA-CBD とin vivoで診断することはできない。CBS基準を満たすことによりPCA-plusと分類され、ADバイオマーカー陰性であることが示された個体については、probable PCA-CBDという用語が適切であろう。CBDの剖検による確認が可能であれば、definite PCA-CBDとするのが適切であろう。
・PCA-prion
プリオン病には有望なバイオマーカーが多数存在するが、これらはまだ診断基準に組み込まれていない。このプロセスを経るまでは、PCA-prionのin vivo診断は可能かもしれない。プリオン病の剖検による確認が可能であるか、プリオン病の既知の遺伝形式が決定されている場合は、definite PCA-prionという用語が適切であろう。

研究基準は臨床症候群 (PCA) と関連疾患 (e.g. PCA-AD、PCA-LBD) を区別すべきである。コンセンサス会議での症候群/疾患に関する議論は、多様な研究応用 (たとえば、疾患特異的臨床試験と認知、行動、機能を対象とした非薬理学的介入) を可能にする柔軟な表示システムの開発と、PCAサブグループ (たとえば、PCAとCBSの基準を満たす者) がPCAの記述を歪めてしまうことによる混乱の回避との間で模索されたバランスを反映している。また、提案されている4つの疾患レベルの記述は同じ頻度ではないことに注意することも重要である。発表されたデータによると、PCAの基礎原因としてはADが圧倒的に多いことが示唆されている。したがって、他の診断を示唆する特徴がない場合、ADが先験的に最も可能性の高い基礎原因である。図3の分類レベル2と3を結ぶ線の太さは、PCAの最も一般的な原因がADであることを反映することを意図している。また、すべての場合において、基礎となる病態の病理学的確認が「ゴールドスタンダード」とみなされ、definiteという接頭辞が付けられていることに留意されたい。
PCA症候群に関連する最も可能性の高い背景病理を同定することが重要な研究背景は数多くある。提案されているPCAの疾患レベルの記述は、疾患特異的な臨床試験 (ADの臨床試験にPCAの被験者を組み入れる根拠を提供する)、ADおよびnon-ADの認知症における表現型の不均一性の遺伝的およびその他の決定因子を調査する記述疫学研究、および疾患進行研究において有用であろう。

 

5. さまざまな研究文脈におけるPCAのさらなる定義
先に述べた分類システムは、様々な研究場面で使用できるPCAの症候群レベルおよび疾患レベルの定義を提供するものである。しかし、さらなるコンセンサス記述が価値を持つ可能性のある、過去および将来の状況が数多く存在する。特に重要なシナリオは2つあり、すなわち症候群の重症度分類とPCAにおける表現型の多様性の記述である。以下では、PCAに関連する現在のラベルとその使用法とともに、この必要性について議論する。PCAに関する語彙を拡張することに関しては、あくまで提案レベルにはとどめるが、今後の研究がどのように用語の正式な提案を促し、導くかについての説明は行う。以下のシナリオはすべて、過去、現在、未来のある時点で、先に述べたPCAの中核的な基準を満たした、あるいは満たす可能性のある、あるいは満たす可能性のある個人のケースを想定している。

 

6. PCAのステージ
PCAに関する用語の拡張の動機となりうる問題の一つは、研究者がPCAを進行の異なる段階でどのように表現するかということである。この問題を説明するために、健康な研究参加者として注目されたが、その後PCAを発症した患者に関する11年間の縦断的データを示す (図5)。この患者の疾患経過に沿った様々な時点での記述について、仮の用語の考察と並行して以下に考察する。
Prodromal/suspected/possible PCA: この用語 (以下の選択肢を参照) は、(状況によっては、他の鑑別診断と並行して)、先に述べたPCAの中核的基準を満たすには軽度または少数 (<3) の後方皮質機能の軽微な障害を示す患者に用いられることがある。Prodromal PCAと確実に分類できるのはPCAの診断に至った患者のみであり、PCAの進展におけるこの段階は、縦断的研究において遡及的に同定される可能性が高い (図5)。その他の状況においては、suspected PCA や possible PCA といった別のラベルが好まれるかもしれない。Prodromal PCAという概念は、prodromal AD (IWG基準; 臨床症状は認められるが、日常生活動作に影響を及ぼすには不十分なもの) の一部が、PCAの初期臨床段階にあるという仮定によって動機づけられている。定義によれば、臨床-放射線画像的症候群であるPCAは、認知機能障害が存在しないADのpreclinial asymptomatic at-risk state (IWG) または stage 1 or 2 preclinical AD (NIA-AA) では定義できない。また、PCA患者は、軽微な後方皮質機能障害でさえも日常的な機能タスクに対する影響が及びうるため、NIA-AAによる軽度認知障害 (MCI) の定義を満たさない場合があることもここで注目すべき点である。MCI基準では、「これらの認知機能の変化は、社会的または職業的機能における重大な障害の証拠がないほど軽度であるべきである」とされており、「ADのvisual variant (PCAを含む) や language variant (logopenic aphasiaと呼ばれることもある) のように、ADには非典型的な臨床像が生じることがあり、これらの臨床像もADによるMCIと一致することを認識しなければならない」(p.272) とされている。しかし、軽度の後方皮質機能障害は、ある種の日常生活機能 (e.g. 運転) に重大な影響を及ぼすことがある。異なる認知領域間で「重症度」のレベルを比較することは困難であるが、日常機能に対する軽度の認知機能障害の相対的な影響は、定型的なADと非定型的なADの表現型間で異なる可能性がある。
PCA: 進行の第2段階は単にPCAと呼ばれ、先に分類レベルIで示したPCAの定義 (すなわち、表1に示した臨床的、認知的、神経画像的、および除外基準を満たすこと) と完全に一致すると思われる。唯一の拡張点は、前駆期PCAが必ずしもMCIと一致しないように、PCAが必ずしも認知症と一致しないことである。多くのPCA患者は、McKhannらに記載された5つの領域のうちの1つに障害を示すだけである。この段階では、このような症例は、認知症として正式に分類するための様々な規則を満たさない可能性がある。したがって、認知症が前提条件となる診断、すなわち、probable AD dementia、possible AD dementia、またはpossible AD dementia with evidence of the AD pathophysiological process といった診断名には至らない可能性がある。
Advanced PCA: この3番目の暫定的な病期分類用語は、PCAの基準を満たしている、または以前は満たしていたであろうが、疾患の進行により認知機能の他の側面 (すなわち、エピソード記憶、言語、遂行機能、行動、および人格) に障害が生じた患者を表すために使用される。Advanced PCAは、(1) 視覚±非視覚の後方機能障害があり、他の認知機能は比較的保たれているが、記憶、言語、遂行機能、および/または行動/人格の障害が進行し、著しく障害されている患者、または (2) 視覚±非視覚の後方機能障害および他の認知機能の1つ以上の障害が来院時に明らかであったが、病歴および/または他の証拠から、皮質後部の障害が主訴であった (すなわち、 患者は、PCAと診断される可能性のある早期の 段階に来院しなかった/評価されなかった)。Advanced PCAという用語は、既存の文献に記載されている多くのPCA患者に当てはまるかもしれない。たとえば、PCAの基本的視覚機能に関する研究では、21人の患者全員がMendezらとTang-Waiらの基準を満たし、正式な神経心理学的評価において、少なくとも1つのエピソード記憶のテストにおいて比較的保たれた (正常範囲) スコアで、視覚機能が損なわれているという現在または過去のエビデンスを有していた。しかし、研究の時点では、5/21人 (24%) がエピソード記憶のテスト得点が正常範囲を下回るところまで進行しており、12/21人 (57%) が説明からの呼称に障害を示していた (遂行機能、行動、性格は正式には評価されなかった)。Advanced PCAの概念は、研究参加者の特徴づけ、予後予測や縦断的研究、臨床管理やケアプラン、患者やその介護者への教育に特に関連する。

 

7. PCAスペクトラムの多様性
PCAの用語体系を拡張するもう1つの動機は、PCAスペクトラムの中のかなりの多様性を記述することの困難さにある。際立った像を呈した患者や少数の患者シリーズに基づいて、数多くのサブタイプが記載されている。しかし、その他の研究では、PCAの多様性は異なるサブタイプの集合というよりもむしろ多次元の表現型空間として概念化するのがよいと提唱している。ワーキングパーティーは、異なるPCAサブタイプの存在を支持する認知的または神経画像的エビデンスは現時点で乏しいと考え、認知機能障害、萎縮、疾患の進行パターンが異なるサブタイプが認められるかどうかを今後の研究によって決定することが望ましいと考えている。それにもかかわらず、この推定表現型空間内のさまざまな位置に関する定性的な記述の暫定的なセットを以下に示すのは、研究およびセンター間での一貫したラベリングに関する議論を促し、個々の症例をこれらの原型の1つまたは複数に近いという観点から記述または定量化することを可能にするためである。
Biparietal (dorsal) variant: この亜型は、「視空間機能障害、Gerstmann症候群の特徴、Balint症候群の特徴、肢節失行、または無視が、早期から、突出して、進行性に存在することによって定義される」と記述されている。このIWG2の定義は、biparietal atrophy syndromeの他の定義とほぼ一致している。
Occipitotemporal (ventral) variant: この亜型は、biparietal variantと対照的な位置づけにあり、視知覚機能または物体、記号、単語、相貌の視覚的識別が、早期から、突出して、進行性に存在することによって定義される。このようなカテゴリーには、進行性の統覚型相貌失認の患者に関する記述が含まれるかもしれない。
Primary visual (caudal) variant: Biparietal または Occipitotemporal variant よりも稀であるのは間違いないが、一次的な視覚症状、基本的知覚能力障害、両側後頭葉萎縮によって特徴づけられる primary visual syndrome が存在する。一次視覚野の初期からの障害によって、biparietal や occipitotemporal variant よりも明らかに、臨床的および表現型的に典型的なADとは異なっている。Primary visual variant の報告例は少なく、IWG2にも明示的な記述はないが、エビデンスの欠如こそが、高次物体空間処理障害と比較した基本的視覚機能の検査をおろそかにさせている可能性もある。基本的視覚機能 (形態検知、形態区別、形態干渉、運動干渉、色識別、単一点定位) は、21人のPCA患者において少なくとも1つが障害されていたという報告もあり、認識されているよりも高頻度に、PCA患者の高次の物体空間処理障害の原因となっている可能性もある。
Dominant parietal variant: 視覚的訴えは、提案されたコンセンサスと既存の単一施設の診断基準の両方の中核をなす特徴である。しかし、すべてのPCA患者が、主訴の中で視覚の問題を明確に言及しているわけではなく、計算、綴字、行為などの他の後方皮質機能の障害が優位に現れることがある。このような症例では、両頭頂の萎縮が最も一般的であり、優位半球の関与が比較的大きい (図4)。我々の調査では、PCAワーキングパーティーメンバーの67%が、このような患者はPCAスペクトラムに含まれると考えている。この位置づけと、「視覚±他の後方皮質機能の顕著な早期障害」と、「非視覚的」と思われる3つ以上の認知障害(例えば、失算、失書、失行) のクラスターの存在を必要とする現在の基準の二重性は、一見矛盾しているように見えるかもしれない。しかし、認知検査とその根底にある認知過程は一対一に対応するものではないことを心に留めておくことが重要である。一見「非視覚的」に見える多くの課題 (計算など) は、視覚的イメージや空間処理能力を要求している。さらに、前述したように、局所的な後方非視覚的症状を呈する患者に対する非常に詳細な神経心理学的検査では、通常、視覚的認知におけるわずかな障害の証拠が発見される (図4)。
当然ながら、PCAスペクトラム内の臨床的多様性を分類する方法は複数ある。サブフェノタイプと思われるものを区別する別の方法として、視覚システムの構成 (たとえば、腹側視覚路と背側視覚路) のみに言及することもできる。ある種の病像は、異なるタイプの記述的用語を組み合わせる (e.g. prodromal occipito-temporal variant PCA) ことに値するかもしれない。PCA variantの記述は、脳行動学的研究、表現型の特徴づけ (e.g. PCAスペクトル内の同質性/異質性の程度を明らかにすること)、表現型の進行の検討 (e.g. 皮質視覚処理の異なる側面の障害の順序を確立すること) に関連すると予想される。PCAの亜型に関する記述は、非薬理学的介入、補助、およびPCA患者が認知機能の特定の側面に関連した問題に対処または改善することを目的とした戦略の設計と使用にも有用であろう。しかし、これらの記述は、連続的な変化のスペクトルにおける位置の予備的な特徴付けであることを再度強調しておく必要がある。

 

8. 結論
我々は、様々な研究文脈において利用可能な、PCAの分類フレームワークを症候群および疾患レベルの記述とともに提唱した。中核的な臨床-放射線画像的症候群 (分類レベル1) を構成する特徴に強固な同意が得られたことは、PCAという単語の具体的な用途と適応を洗練および提唱するというワーキングパーティーのもともとの目的を改めて支持した。そして、ワーキングパーティーは、PCAの概念を様々な研究現場で具体的に使いやすくすることを目的として、分類レベル2 (PCA-pure/PCA-plus) および 3 (PCA-AD、PCA-LBD、PCA-CBD、PCA-Prion) を考案した。
この3段階の分類システムは、臨床医、研究者、査読者、編集者が、過去の発表や今後の研究において、研究集団や包含・除外基準を評価・比較するための基準を提供するものである。提案された中核的特徴は、蓄積された臨床経験と一致し、症候群内の異質性を許容するものであるが、用語や診断基準の不一致に起因する施設間や研究間のばらつきを減らすことは、今後の様々な研究に有益であろう。より厳密な診断基準とin vivoバイオマーカーの両方を通して、研究集団を精緻化し、臨床病理学的な「ノイズ」を最小化することは、サンプルサイズが制限されがちなPCAのような比較的まれな疾患においては特に重要である。
PCAの研究には、数多くの課題が残っている。主な困難は、課題した背景病理を持つ患者内の表現型の異種性がなぜ生まれるのかを理解することである。たとえば、非典型的AD PIAのメンバーは、PCAの遺伝的リスク因子の最大規模の解析に貢献しており、既知のADリスクプロファイルとの違いと、視覚システムの発達に関連した遺伝子の関与の可能性を見致している。現在提案されているPCAのコンセンサス基準は、典型的なamnestic ADや他の非典型的AD症候群 (e.g. lvPPA) に対する同等のコンセンサス診断基準を補完するものであり、疾患の進行と伝播の基本的なメカニズムに光を当てる可能性のある将来の異質性研究の頑健性と再現性を向上させるものである。
第二に、症候群と病理の間の関係性は、前頭側頭型認知症などと比較して明らかに単純だが、PCAや関連する症候群 (e.g. CBS) の境界線を引くためには定量的研究によるさらなる明瞭化が必要である。たとえば、運動障害 (非対称性の左上肢の筋強剛) は既存のPCAの臨床基準を満たした44人中30%でみられたという。CBS患者における視空間的および視知覚的機能障害は、AD病理を予測することも示されている。
第三に、さらなる実際的な目的として、PCA患者を含む臨床試験において、認知スクリーニング、神経心理検査、認知機能測定手法の選択に関して、共通フレームワークを確立することが挙げられる。PCAにおけるエピソード記憶の評価は、特に需要のある部分である。先述したように、明らかな視覚的負荷を伴う記憶検査 (e.g. ROCFT) は不適切である。言語対連合学習のような、視覚的負荷がないように思える検査でも、心的イメージを用いることがある。単語の二択再認記憶検査は、PCAにおけるエピソード記憶を評価するのに適切である。代替指標を評価することは、PCAと典型的なamnestic ADの間のこの重要な区別を確立し定量化する技術を最適化するのに役立つであろう。
提案された分類フレームワークは、これらの問題を直接解決するものではないが、研究結果を横断的に解釈する能力を向上させ、ADの臨床試験の質を高め、将来の共同研究の基盤となるであろう。提案された基準の信頼性、感度、特異性を検証する必要があり、特に異なるレベルの分類間の定量的関係を確立する必要がある。また、この分類システムは、特に新しいバイオマーカーの出現や、AD以外の病態や混合病態に起因するPCAの臨床的エビデンスに基づいて、更新や改訂が必要になると思われる。

 

感想
Biparietal variant PCAって割と多いよなー。