ひびめも

日々のメモです

Posterior Cortical Atrophy の神経心理学的プロファイル

The cognitive profile of posterior cortical atrophy.
McMonagle, Paul, et al.
Neurology 66.3 (2006): 331-338.

1. 背景
Posterior cortical atrophy (PCA) という用語は、Bensonらが、記憶、病識、判断能力が比較的保たれつつも、進行性の視空間認知機能障害を呈する5人の患者を記述するために造ったものである。それ以来、多くの更なる症例が記述された。最も一般的な症状は、他の言語障害とは不釣り合いな失読、Balint症候群 (optic ataxia、ocular apraxia、simultanagnosia)、主に統覚型の視覚性失認であった。また、50代や60代の初老期発症が多かった。病理として最も多いのはアルツハイマー病 (Alzheimer disease, AD) であったが、PCAはそれ自体に診断基準を有する別個の臨床症候群として記述されている。高次の視覚処理は基本的に腹側の"what"経路と背側の"where"経路に二分されている。腹側経路は物体、相貌、色、字の認知に関わり、後頭側頭葉の病変によって視覚性失認、相貌失認、大脳性色覚異常、失認、失読が生じる。背側経路は運動に備えるための物体の位置や運動の検知に関わり、後頭頭頂葉の病変によってBalint症候群、失書、失行が生じる。PCAではこれらすべてが生じうるため、この症候群は後方皮質の広範な機能障害を反映しているというのは明らかであり、いくつかの研究ではPCAを背側と腹側のサブタイプに分類することを主張した。この研究における我々の目的は、PCA患者の認知プロファイルを前向きに検討し、primary amnestic AD すなわち アルツハイマー認知症 (dementia of the Alzheimer's type, DAT) の典型的コホートと比較することで、これらを区別する特徴を探索し、それぞれの視覚経路における障害の相対的負荷を確証することである。特に我々は、患者の障害を詳述する検査バッテリーを確立し、背側経路と腹側経路の両方の機能障害を反映した後方皮質機能障害の定量的評価手法を提供したいと考えた。我々は、腹側の"what"経路に注目し、物体、相貌、色彩認知を検査する OFCAS (Object, Face, and Color Agnosia Screen) を開発した。また、背側経路の障害を検出するために、複雑図の叙述と、大域 vs 局所処理の両者をテストする複合刺激を用いた。これらの検査の成績を、上述した2群の患者で比較した。

 

2. 方法
2-1. 被験者
PCAの被験者は、1990年から2004年の間にOntario州Londonの認知症クリニックを受診した患者であった。緩徐な認知機能障害の発症様式を示し、進行性の認知機能障害と顕著な視空間認知機能障害を呈したものの、一次性視知覚は保たれていた患者を対象とした。主要な症候は、Balint症候群またはGerstmann症候群の一部またはすべてが存在すること、不釣り合いな失書、視覚性失認であった。相貌失認、地誌的見当識障害、着衣失行、失語、大脳性色覚異常、無視、幻視、パーキンソニズムを含む特定の症候も同定された。すべての被験者は同一の神経内科医 (A.K.) によって診察され、全員が神経画像検査を施行された。しかし、今回の研究では後方の萎縮がCT、MRI、SPECTで証明されることよりも、むしろ主に臨床所見に基づいた組み入れを行った。
参照群は、同クリニックを受診し、NINCDS-ADRDA criteriaでprobable ADの基準を満たした患者であった。この群は、罹病期間およびMMSEスコアがPCAコホートとマッチしていた。我々のコホートは、病理学的というよりも臨床的なコホートであるため、病理学的エンティティであるAD (そしてこれはPCAのほとんどの背景病理である) と、典型的な健忘型のADの臨床像を区別するために、こうした患者のことをDATと呼ぶことにした。すべてのDAT患者は、脳卒中や頭部外傷、アルコール過剰といった他に説明できる原因がない進行性の記憶障害を呈し、Lewy小体型認知症を示唆するような幻視、パーキンソニズム、認知機能の変動は認めなかった。評価時点での神経学的診察では異常を認めず、脳画像で脳萎縮が存在することと血管障害がないことが確認された。
18人の健常コントロール被験者が、患者の親族から選択された。彼らは全員身体的に健康であり、記憶障害や脳卒中、頭部外傷、アルコール過剰の病歴は有さなかった。ほとんどのコントロールはDAT参照群の配偶者であり、これによって社会民族的因子のコントロールが可能となり、さらにOFCASの要素である熟知相貌への暴露もコントロールすることができると考えられた。彼らは相貌認知と複雑図の叙述の成績の正常対照群となった。

2-2. 認知機能評価
2-2-1. Object, Face and Color Agnosia Screen (OFCAS)
2-2-1-1. 物体認知 (object naming, word picture matching, superordinate categories, odd one out; 最大130点): 検査マテリアルは、40個の日常物品のSnodgrass標準絵刺激から構成された。フルーツ、家具、衣服、動物の4つのカテゴリーをそれぞれ10個含んだ。Object Naming (最大40点) は、それぞれの絵に描かれた項目の名前を答えさせるものである。我々は呼称能力そのものよりも視覚性認知に興味を持っているため、名前を言うことができなくても正しく同定ができていれば半分の得点を与えた。たとえば、「犬」の代わりに「吠えるペット」と答えるなどである。音韻性または意味性の手がかりは用いなかった。Word Picture Matching (最大40点) は、呼称能力に失語の影響がないかをコントロールするためのものであり、10個の絵がグループとしてランダムに配置され、患者に正しい単語を選ぶよう指示した。これは残り3回繰り返され、40個の絵がカバーされた。Superordinate Categories (最大40点) は、言語的応答に頼らない意味知識と認知を検査するものであり、絵をランダムに1つずつ提示し、それらを上位カテゴリ、すなわちフルーツ、家具、衣服、動物のどれかに分類するよう指示するものである。Odd One Out (最大10点) は、非言語的視覚性意味記憶処理を検査するという点でPalms and Pyramids testに類似しているが、真逆の回答を求めるもので、似ている点ではなく異なる点を尋ねている。3つの絵がセットで提示され、被験者に異なるものを1つ除外するように求める。これはもう9回繰り返される。
2-2-1-2. 相貌認知 (naming famous faces, name picture matching, facial expressions; 最大30点): 検査マテリアルは20個の有名人の顔写真から構成されており、うち何人かは存命だが (Queen Elizabeth II, Alan Alda)、残りは既に死去していた (John F. Kennedy、Winston Churchill)。しかし、すべての患者はその年代的に適切であると考えられた。Naming Famous Faces (最大10点): 写真を1つずつ提示し、被験者に名前を答えさせた。軽度の失名辞を許容するために、Margaret Thatcherに「英国の首相」と答えるような答えには半分の点数を与えた。Name Picture Matching (最大10点): 言語的応答への依存を軽減するために、ほかの10個の写真とともに横並びに写真が提示された上で、被験者は提示された名前の有名人を指し示すよう命じられた。表情 (最大10点): このタスクでは、非熟知相貌の感情表現の処理を調べている。このタスクの成績が保たれていることは、相貌特徴の知覚が保たれていることを示唆する。ここでは、幸せ、悲しみ、怒り、無表情、のそれぞれの表情をした俳優の写真を10枚用いた。それぞれの写真を提示し、被験者に4つの感情の選択肢の中から1つを選択するように指示した。正常コントロールとの標準化を行ったのは、OFCASの相貌認知サブテストのみであった。なぜならば、その他のサブテストでは天井効果がみられるはずだからである。
2-2-1-3. 色彩認知 (color naming, color matching, verbal-semantic color associates; 最大30点): この検査は、色彩処理の3つの症候群、すなわち大脳性色覚異常 (achromatopsia)、色彩失認 (color agnosia)、色彩失名辞 (color anomia) を区別するために行われた。この検査マテリアルは、10個の原色 (赤、紫、緑、ピンク、黄、オレンジ、青、黒、茶、白) のカードセットが2つである。Color Naming (最大10点) は、色カードを1つずつ提示し、その名前を提示することで、色の知覚、色の認知、呼称がテストされる。Color Matching (最大10点) は、2セットのカードをそれぞれランダムな順番 で互い違いに提示し、それらのカードをマッチさせるよう命じることで、色彩知覚を非言語的にテストすることができる。Verbal-Semantic Color Associates (最大10点) は、「タンジェリンの色は何か」など、色付き物体の概念的知識をテストするために造られたものであり、10個の質問から構成される。
2-2-2. 複雑図形
役員会議やアイスホッケーの試合などの場面を描いた、複雑さの異なる8枚のカラー写真が、被験者に1枚ずつ提示された。被験者は「この絵の中に何が見えますか?」と質問され、絵の中からできるだけ多くの項目を特定するよう、そしてシーン全体の印象を述べるように誘導される。採点方法は、写真に写っている主な項目ごとに1点、全体的な印象に5点を与えるというもので、各写真の点数は8点から13点、全体的な点数は最高で78点となった。
2-2-3. 大域 vs 局所処理
ナボン文字 (最大30点): テスト教材は、大きな文字が小さな文字の繰り返しで構成された10個の複合図形で構成されている。被験者は各文字を示され、見たものを正確に報告するよう指示される。時間制限はなく、被験者が答えるまで刺激が提示される。回答が不正確または不完全な場合、被験者には「ほかに見えるものは?」という質問が送られる。正しい反応には3点、促しが必要な場合は2点、促しにもかかわらず1つの要素 (大文字または小文字のみ) しか報告されなかった場合は1点とする定量的採点方式が採用された。
Hooper視覚組織検査 (Hooper Visual Organization Test, HVOT) が3つのコホートすべてに実施された (最大30点)。このテストは、多かれ少なかれ認識可能な切り刻まれた物体の写真30枚で構成され、被験者はそれぞれの物体に順番に名前をつける。WAIS-RのObject Assemblyと同じ知覚機能を必要とし、知覚統合/組織化、認識、呼称がテストされるが、失語の影響は受けにくいとされる。

2-3. 統計解析
One-way ANOVAを用いた統計解析を、グループメンバーシップ (PCA vs DAT vs 健常対照) を被験者間因子として行った。ポストホック検定にはTukey HSDを用い、DAT群とPCA群のみを比較する場合は独立標本のt検定を用いた。PCA群とDAT群間の群構成を予測するために、enter法によるロジスティック回帰を用いた。

 

3. 結果
3-1. 被検者


表1. 19人のPCA患者の臨床的特徴: '+' は初期評価時の症状、'++' は後に現れた症状。

19人のPCA患者 (男性9人、女性10人) が対象とされた。平均年齢は59歳 (47-80歳, SD 8.4歳) で、臨床的特徴は表1にまとめられている。13人の患者で、初期症状は後方皮質領域に関連する問題であり、読字、書字の障害、道に迷う、目の前の物体を見たり認識したりすることができない、といったものであった。残りの患者では、初期症状が軽度の記憶障害であったが、そのような症状はすぐに顕著な視空間認知機能障害によって目立たなくなった。5人の患者が一親等に認知症の家族歴を有していた。最初の評価は発症から4.5±1.6年経過した時点のものであり、MMSEのスコアは14.3±6.4 (2-25) 点であった。他の言語能力が保たれた失読と失書は、最も一般的な障害であり、18人で認められた。失算は16人で認められたが、左右失認が明らかであったのは6人で、手指失認は4人で認められ、評価時点でGerstmann症候群が完全に揃っていたのは3人のみであった。Simultanagnosiaは17人で認められ、optic ataxiaは15人、ocular apraxiaは6人であり、完全なBalint症候群が認められたのは5人であった。その他の障害には、着衣失行 (n=12)、地誌的見当識障害 (n=9)、視覚性失認 (n=9)、相貌失認 (n=4)、半盲 (n=1) が含まれた。皮質盲と言えるほど強い視知覚の障害は3例で認められた。我々の症例で認められた視覚性失認はすべて統覚型であった; すなわち、物体の視覚性認知が障害されているものの、言語的または触覚的なモダリティによる知識は保たれており、模写や視覚性マッチングに障害を有するものである。視覚性失認のない患者と比較して、視覚性失認を有する患者は罹病期間が長い傾向にあった (4.2年 vs 5.1年) が、これは有意水準には達しなかった (t検定, p>0.05)。色彩知覚の障害は初期評価段階では明らかでなかった。Capgra妄想、Fregoli妄想や幻の同居人妄想などの妄想は5人で認められ、うち4人は具体的な幻視を有していた。15人では局所的な後方皮質の萎縮が画像検査で認められていたが、その他の患者では全体的な萎縮が認められた。発症早期 (2年以内) からの幻視やパーキンソニズムを呈した患者は存在しなかった。2人の患者でalien limb phenomenonが認められ、別の患者では著名な非対称性の肢節運動失行を呈し、また別の患者では失行様の運動が認められた。3人の患者は1回の診察しか行われなかったが、ほかの16人は平均3.4±2.7年のフォローアップが行われ、Balint症候群 (n=5)、統覚型視覚失認 (n=3)、色彩失認 (n=2)、半側空間無視 (n=2)、皮質盲 (n=2)、大脳性色覚異常 (n=1) を呈するようになった。知られている限り、7人が発症後9.1±3.7 (4-16) 年で死去した。剖検は6人で得られ、それぞれ個別に報告する。
また、我々は典型的な健忘型のDATを11人 (女性7人、男性4人) リクルートした。平均発症年齢は67.4±7.2 (52-75) 歳であり、PCAコホートより高齢であった (t test vs PCA, p=0.01) が、罹病期間は同様であった (4.4±1.4年, t test vs PCA, p=0.9)。被検者の18人の親族 (女性13人、男性5人) が正常コントロールとして参加した。彼らの平均年齢は67.1±7.9歳であり、他の2群とは大きくは異ならなかった (52-79歳, Tukey post hoc vs DAT and PCA, p>0.05)。

3-2. 認知プロファイル
3-2-1. 背景となる神経心理学的プロファイル
PCA患者の背景神経心理学的プロファイルは、Dementia Rating Scale (DRS, n=11)、Western Aphasia Battery (WAB, n=13)、WAIS-III/R (n=8)、Frontal Behavioral Inventory (FBI, n=6) である。平均のDRSスコア (最大144点) は83.5±27.0点で、障害が重かったのは構成 (26.7%)、開始/保続 (48%)、記憶 (51.2%) であった (得点がサブテストの最大得点に対する割合%で示されている)。比較的保たれていたのは、概念化 (65.4%) と注意 (70.5%) であった。DATと比較して、PCA患者は構成で低い得点を示した (図1, PCA 1.6±1.8 vs AD 5.0±1.5, p=0.0001)。さらに記憶に関してはむしろ良い成績を示した (PCA 12.8±6.0 vs DAT 9.5±1.1, p=0.08)。


図1. DRSサブテスト得点の平均値と95%信頼区間を示した棒グラフ: 得点は各サブテストの最大得点に対する割合%として示されている。PCA患者はDAT患者と比較して顕著な構成障害を示し、一方で記憶についてはボーダーラインだが良好な成績を示した。

WABでは、Qphasia Quotient (AQ) が75.4±16.3であった。読字 (3.3±3.1) と書字 (2.0±2.1) で最も顕著な障害が認められ、WABのその他のセクションより低得点であった (one-way ANOVA, Tukey post hoc tests, p<0.001)。個人別の解析では、失名辞失語が8人、Wernicke失語が3人、伝導失語が1人認められた。DAT患者群と比較して、字発話、呼称、理解、復唱、および総合AQでは明らかな差を認めなかった。しかし、読字 (PCA 3.3±3.1 vs DAT 8.2±1.6, p=0.0005) および書字 (PCA 2.0±1.3 vs DAT 5.8±2.2, p=0.001) に関してはPCAコホートで低い成績が認められた (図2)。


図2. PCA患者とDAT患者に施行したWABのサブテスト得点の平均値: 最大得点を10に補正して示しており、エラーバーは95%信頼区間である。PCA患者は読字と書字で低い成績を示した。

WAISのFull-scale IQは77.9±7.8であり、verbal IQ (91.1±9.0) と performance IQ (62.5±7.2, paired t test, p<0.001) に顕著な差が認められた。FBIでは比較的軽度の行動障害が認められ、平均得点は12.8±6.8であった。この点数は、DAT患者でよく認められる得点域内である (<30)。1人の患者は検査の4年後に行動障害を呈し、FBIで36点とDATのカットオフを上回ったが、脱抑制というよりもむしろ負の行動が目立っていた。
HVOTは、PCA患者で最低スコア (6.5±4.9, n=3)、正常コントロールで最高スコア (n=18, 25.8±2.6)、DAT患者で中間スコア (14.6±6.3, n=10) と、段階的な成績を示した。Post-hoc検定により、すべての比較で群間差が認められた (PCA vs DAT, p<0.05; PCA vs controls, p<0.001; DAT vs controls, p<0.001)。DAT患者と、明確な視覚性失認のないPCA患者を対象に、WABの20個の物体を用いて、触覚と視覚の呼称のベースライン検査を行った。PCA群 (n=7) とDAT群 (n=11) では、触覚で提示された物体を呼称する能力において同様の結果が得られた (PCA, 14.7±4.7 vs DAT, 16.6±4.2, p=0.4)。PCA (p=0.7) でもDAT (p=0.8) でも、視覚提示と比較した触覚提示による呼称の相対的能力に差はなかった。

3-2-2. Object, Face and Color Agnosia Screen


表2. PCA、DAT、正常コントロールのOFCASスコアの比較

完全なOFCASデータはPCAコホートの9人とDAT患者11人 (表2) で存在し、罹病期間 (p=0.53) とMMSEスコア (p=0.73) がマッチしていたが、PCA患者のほうが発症時期は若年であった。OFCASの相貌認知セクションは18人のコントロールに実施され、正常値の指標が得られた。その他のOFCASセクションはコントロールでの検査は行っていない。なぜならば、天井効果が期待できるからである。OFCASの総得点 (最高190点) は、典型的なDAT患者に比べてPCA患者で低かった。また、PCA患者はDAT患者と比較して、物体認知と顔認知のサブテストでも低い得点を示した。色認知のテストでは群間差は認められなかった。コントロール群の顔認知は、両患者群より有意に高かった。カットオフスコア120/190は、PCA患者の2/3、DAT患者の100%を正しく割り当てた。発症時年齢と物体、相貌、色彩認知のOFCASサブセットスコアを予測変数としてロジスティック回帰分析を行った。このモデルは、群状態における分散の52.8%から70.6%を説明し、PCA患者の88.9%、DAT患者の100%の予測に成功した。
サブ解析の結果、PCA患者は、生物と非生物の呼称が同様に障害されていた (paired t test, p=0.35) が、DAT患者は、非生物の呼称がより良好であった (paired t test, p=0.007)。相貌認知の検査では、naming famous faces と face picture matching の両方でPCA患者はDAT患者で同様の成績を呈したが、両患者群とも健常コントロール群と比較して障害がみられた (one-way ANOVA, post hoc Tukey HSD, p<0.001)。Facial expressionでは、DAT患者とコントロール群の成績は同程度であったが、PCA患者は参照群 (DAT) およびコントロール群の両方と比較して成績が悪かった (one-way ANOVA, post hoc Tukey HSD, p<0.001)。DAT群の成績を分析すると、成績に段階が見られた (反復測定ANOVA, p<0.001)。Facial expressionはname picture matchingよりも成績良好であり (post hoc Tukey HSD, p<0.05)、これはさらにfamous face namingよりも良好であった (post hoc Tukey HSD, p<0.01)。PCA群とDAT群では、color perception/matching、color naming、verbal-semantic color associationsの検査で差は認められなかった (t test, p>0.05)。

3-2-3. 複雑図

表3. PCA、DAT、健常コントロール群の複雑図叙述における成績の比較

複雑図のデータはPCA患者8人およびDAT患者10人、そして18人の正常対象者で存在していた (表3)。ここでも、PCA患者とDAT患者の罹病期間とMMSEスコアは一致し、このサブグループでは、DAT患者とPCA患者の発症時年齢に差はなかった。37/78のカットオフスコアは、各患者群の80%を正しく割り付けた。各複雑図スコアを予測変数として用いたロジスティック回帰は、分散の62%~83%を説明し、PCA患者の87.5%、DAT患者の90%の分類に成功した。

3-2-4. 大域 vs 局所処理
ナボン字識別の定量分析では、コントロール群 (29.0±2.9, n=18) と比較して、PCA患者 (9.0±1.7, n=4) では最も成績が悪く、DAT患者 (22.2±7.4, n=10) では中間の成績であった。Post hoc検定では、すべての比較で群間差が認められた (PCA vs DAT, p<0.001; PCA vs controls, p<0.001; DAT vs controls, p<0.01)。PCA患者では、局所的にこだわる誤り、すなわち、小さな文字構成要素のみを一貫して同定する誤りも生じていた。これらの患者では促しを行っても成績に変化はなく、大きな文字の存在やそれが何であるかを教えても、一度もそれを理解しなかった。DAT患者では、大きい方の文字を認識できず、局所的にこだわる誤りを犯す傾向があった (n=5)。すべてのDAT症例において、促しを与えることで成績は改善した。コントロールではたった1人 (MMSE 27) が、小さいほうの文字を認識できず (大域優先の誤り)、満点を取ることができなかったが、すべての誤りは促しで修正された。

 

4. 考察
DATでは、視覚性の問題はありふれており、病理が前方の視覚システムで視神経の変性を起こし、さらに高次中枢に広がることで視構成タスクの障害、地誌的見当識障害、物体および相貌失認を引き起こす。詳細な検査を行うことで、色彩識別、立体視能力、濃淡区別、相貌認知、運動知覚などにおける障害を検出することができるが、逆説的なことに、DAT患者は健常高齢者と比較してこうした視覚症状を医師に訴えることは少なく、ここからこれらの症状は比較的軽度であることが疑われる。一方で、PCA患者は視空間症状が突出しており、これによって患者に障害が現れる。Balint症候群のような特徴的な異常はADで認められるが、頻度は低く、Genevaの精神老年病院で60年以上にわたって記録された2500人の剖検例を後方視的に振り返った研究では、病理学的にADと確認された8人でしか、臨床的にBalint症候群は記録されなかった。
本研究では、我々はPCAの臨床症候群を19例同定し、それらの臨床および神経心理学的プロファイルを詳細に検討し、さらに新たな視空間認知機能検査バッテリーを用いることで、その成績を典型的な健忘型DAT患者のコホートと比較するというパイロット研究を行った。男女比はほぼ同一であったが、発症年齢は60歳以前と典型的なDATよりは早期であった。最も一般的な特徴は、他の言語機能が比較的保たれた失読、失書、silultanagnosia、optic ataxiaであった。完全なBalint症候群は5人で検出され、完全なGerstmann症候群は3人で認められた。半側空間無視視野障害は全体で最も頻度が低い症候であった。我々の症例の中では、Lewy小体型認知症を疑うような、早期からの幻視やパーキンソニズムを示唆する症例は認められなかった。しかし、疾患の後期になると、5人の患者がMcKeith criteriaのprobable DLBを満たした。すなわち、パーキンソニズム、認知機能の変動、幻視という3つの中核症状の中で2つが存在した。顕著な非対称性の肢節運動失行やalien limb phenomenaはCBDの可能性を考えさせた。CBDは、PCAを臨床病型として取りうることがすでに知られており、実際にPCA患者における背景病理として確認されている。運動症状の存在はあるものの、DLBまたはCBDの特徴を有したこれらの患者は、その他の点ではPCAの他の患者と同様の認知機能障害を呈していた。これらの症状と一致して、我々のPCAコホートの背景にある神経心理学的プロファイルとして、performance IQと構成能力で重度の障害が認められ、さらにDAT患者と比較して比較的保たれた記憶能力が示された。行動障害は、あったとしても軽度であった。失語は認められたとしても極めて軽度で、流暢性で、シルビウス裂よりも後方の特性を持っていた。全体的な言語能力は、DATコントロールと比較して違いはなく、PCA患者のほとんどが失名辞失語と分類された。しかし、後方の言語能力としての読字および書字には突出した障害が認められた。視覚性失認は、比較的低頻度の所見であり、PCAコホートの半数以下でしか認められず、さらに相貌失認はたった1/5でしか認められなかった。失認のある患者では罹病期間が長い傾向にあったため、PCAの後期症状である可能性が示唆された。さらに、触覚および視覚による呼称に差がないことは、その他のPCA患者においてわずかな視覚性失認が存在していた可能性を否定している。また、失語が顕著な患者は他の患者よりも罹病期間が長く (6.1 vs 3.7 years, t test, p=0.006)、罹病後期まで言語が比較的保たれていたことを示唆していた。失読が最も一般的な異常であり、腹側視覚経路の機能障害を反映している可能性があるが、2例を除くすべての症例では失読にsimultanagnosiaも伴っており、これらの患者では読解能力を著しく低下させることを忘れてはならない。また、失読を伴う失書がほとんど共通して認められたことから、これらの患者では後頭側頭葉ではなく後頭頭頂葉の病理が読字障害の基盤となっていることが示唆された。これらの顕著な後方皮質症状にもかかわらず、我々の症例のうち、CTやMRIで対応する皮質萎縮が明らかであったのは、ほとんどながらすべてではなかった。
OFCASと複雑図は、後方皮質領域の障害を定量的に測定するためにデザインされた新規のバッテリーを構成する。背側機能は複雑図、腹側機能はOFCASによって検査される。単純にそのまま使用すれば、所要時間は60分である。本シリーズでは、我々はこのバッテリーのPCAおよびDATの2群に対する臨床的有用性を調査するパイロット研究を行った。疾患期間、全般的認知機能、言語能力をマッチさせると、OFCASはPCAコホートでDATコホートと比較して、物体および相貌に認知において有意に重度の障害を検出した。我々の当初の仮説にはなかったが、OFCASは生物と非生物の知覚の知覚の成績に差を見出し、これはカテゴリ特異的意味障害の良い例であると思われた。感覚-機能仮説では、それぞれのカテゴリが異なる属性によって同定される。この仮説によれば、生物は、非生物と比較して、その同定に知覚的属性と視覚性知識により依存する一方で、非生物の同定には機能的特性がより重視される。ここから、PCA患者では生物の同定に強い障害が予期されるが、解析によればカテゴリによる成績の違いは認められなかった (paired t test, p=0.35)。コンピュータシミュレーションを用いた別の理論によると、相互に関連する特徴 (エラがある、ヒレがあるなど) は、非生物よりも生物の表現においてより頻繁に活性化することが示されている。また、これらの相互に関連する特徴によって表現される概念は、軽度の損傷に対しては頑健だが、より一般的で重度の損傷に対してはより敏感に反応することが示唆されている。このモデルから、DATの初期では生物に関する知識が保たれ、進行した疾患ではそのパターンが逆転することが予測される。これと一致して、中等度に分類されるDATコホートでは、非生物に比べて生物に関する識別が劣っていた (paired t test, p=0.007)。
PCA患者では相貌認知が障害されたが、DAT群に比べ、namingとmatching (pointing) は同程度のスコアで、facial expressionのみで障害がみられたことから、これらの患者では主に知覚の障害があることが示唆された。これとは対照的に、DAT症例では、namingとmatching (pointing) による認識が障害されているにもかかわらず、facial expressionは比較的保たれていた (正常対照レベルの得点) ことから、前意味的な知覚過程が保たれていることが示唆された。やや難易度の高い検査ではあるが、name picture matchingに比べてface namingの成績が悪いことから、DAT症例では、語彙の活性化を伴う意味的および後意味的過程にも障害があることが示唆された。PCAコホートでは当初、大脳性色覚異常や色彩失認がみられなかったことを反映して、色彩認識と色彩処理のテストは両患者群で同様の結果が得られ、ここでも下部後頭領域と後頭側頭接合部の相対的な温存が示唆された。
同様に、複雑図の叙述は段階的な成績を示し、正常コントロールで最高、DATで中間、PCAコホートで最低であった。この検査における成績は、絵の中の個々の要素を検出する速度の低下と、全体的なシーンの解釈の低下を示しており、simultanagnosiaで典型的である。視覚処理の背側および腹側経路と同様の流れを汲んで、認知プロファイルと損傷部位に基づいたsimultanagnosiaの下位分類が提唱されている。Dorsal simultanagnosiaは、同時に1つ以上の物体を知覚することができず、その間でシフトする速度が低下する。Ventral simultanagnosiaは、他の物体が見えているのにも関わらず、同時に1つの物体しか認識することができない。我々の患者におけるdorsal simultanagnosiaの明らかな特徴は、Navon字の解釈である。PCA患者は、小さい文字を1つしか知覚することができず、大きな文字があることやそれが実際に何なのかを伝えられても、一貫してそれを認識することができなかった。
全体として、臨床所見と検査結果の組み合わせから、PCAにおける症状の最大の障害は背側視覚路で起こっていることが示唆され、DATと比較して後頭-頭頂領域の選択的代謝低下を示す機能画像研究とも一致している。その後、臨床的な障害は腹側皮質や一次視覚野に広がり、進行するにつれてシルビウス周囲に広がり失語を引き起こす。また、臨床像と検査成績から、DATとは異なる症候群であり、熟知相貌認識など、一見似たような障害の根底には異なるメカニズムがあることが示唆された。このことは、PCA患者とDAT患者を確実に識別できるとともに、これらの検査が後方皮質機能の測定として妥当であることを示唆している。また、これらのテストは、成績の定量的な解釈を可能にし、障害の根底にあるメカニズムについての洞察を与える。本研究の限界は、背側経路と腹側経路の機能障害を区別するための検査であるOFCASと複雑図の信頼性を検討するために、背側と腹側の患者群を明確に区別しなかったことである。しかしながら、本研究は、PCAをその臨床的および認知的プロファイルと、若年発症という特徴によって区別される、別個の臨床的エンティティとして捉えるためのさらなる証拠を提供するものである。評価者間および再試験の信頼性を確立し、特に経時的な機能低下の指標としての妥当性を確認するために、他の患者群におけるOFCASと複雑図を用いたさらなる試験が必要である。

 

感想
ん-ーーーー。PCAに興味があってNeurologyだから読んだんだけど、あんまり勉強にはならなかったかも...。まあ、自分の興味が症候と病巣の対応だからなのかなあ。画像要素があまりにもなかったからテンション上がらなかったのかも。