ひびめも

日々のメモです

喚語困難: 進行性失語症の臨床的分析

Word-finding difficulty: a clinical analysis of the progressive aphasias.
Rohrer, Jonathan D., et al.
Brain 131.1 (2008): 8-38.

 

喚語困難を呈する患者を受け持ったので書きました。喚語困難ってそもそもなんやねんというところから始まった初学者でしたがこれを読んでかなり進歩しました。

 

1. 背景
「喚語困難」は神経内科の現場において一般的である一方で難しい問題である。多くの場合、患者は自ら喚語困難を訴えるか、もしくは神経学的評価の中で神経内科医によって発見されることも少なくない。いずれの状況においても、喚語の問題の背景 (基盤) が確立されなければならないが、これはしばしばそう単純にはいかない。言語的コミュニケーションは一連の認知的処理に依存しており、そのプロセスのどの段階が障害されても、喚語に影響を与える (図1)。さらに、処理は分散した脳内ネットワークによって担われているため、急性もしくは慢性の多様な病的状態によって影響を受けやすい。このため、喚語困難の鑑別診断は幅広い急性/慢性疾患にわたり、せん妄、失語性脳卒中脳炎うつ病、精神病、頭部外傷、側頭葉切除、代謝性・遺伝性疾患などが考えられる。しかしながら、多くの変性疾患における主症状として現れることもあり、こうした変性疾患は進行性失語症とも呼ばれる。変性疾患では、喚語困難と関連した他の多くの病態と異なり、喚語の問題の原因は明確でないこともあるが、一方でそれが主訴となることもある。正確な診断のためには、言語障害の詳細な特徴づけが必要である。そのため、変性疾患の文脈では通常、喚語困難が診断上の最大の課題となるものの、言語の臨床評価に対する古典的なアプローチ (これは主に急性脳卒中における失語症の蓄積に基づくものである) は適切でない可能性もある。これは、変性認知症における発話と言語の障害によってもたらされるやや独特な問題を反映している。

図1: 喚語困難患者における臨床症候群と背景にある機能障害の概説。急性および慢性症候群、一次および二次機能障害との関係を示す。数字は、言語出力経路の動作ステージを示す (点線は、言語出力に関連するが必須ではないプロセスを示す)。I: 言語メッセージの生成、II: 言語メッセージの意味、III: 言語メッセージの構造、IV: 発話の運動プログラム。

ここで我々は「喚語困難」という言葉を、患者や介護者が言語出力の障害について説明する際によく口にする一連の症状を表す略語として用いる。限局した障害と保存された知能を特徴とする進行性の認知症症候群の存在は長年認識されており、様々な認知ドメインを選択的に侵すものであるが、言語症状を主徴とする認知症に対する比較的最近の興味の復活により、神経変性疾患における病態生物学とヒト言語システムの構成の両者に対する我々の考え方が変わってきている。局所性認知症は、病態学的、神経生物学的に非常に難しい疾患である。脳の構造的画像診断で萎縮が認められると、局所性認知症の印象を与えることができるが、診断は基本的に臨床に基づくものである。原発性進行性失語 (PPA: primary progressive aphasia) は進行性の言語障害と、疾患後期に至るまで他の認知機能が比較的保たれていることを特徴とする臨床症候群である。この幅広い定義は、臨床的・解剖学的・病理学的な異種性を包括しており、PPAの臨床的サブタイプのスペクトラムが記述されている。これらのサブタイプは多かれ少なかれ発話と言語の障害において異なったプロファイルを持っているものの、臨床的分類が頑強な領域 (たとえば流暢型と非流暢型のPPA) ですら、その背景にある病態生理学的メカニズムの理解は限定されている。さらに、臨床的サブタイプの重複も大きく、不完全な症候群も多く認められ、特定の解剖や背景病理と対応が示されたものは未だ存在しない。ここから、重度かつ未解決の病態学的な難しさが生じており、臨床医にとっては診断における大きなジレンマを生む。さらに、言語症状に限局的な認知症という概念の台頭によって、アルツハイマー病 (AD: Alzheimer's disease) を含む他の神経変性疾患における発話と言語の障害がより広く認識されるようになり、「進行性失語症」の鑑別診断を幅広く考えなければいけなくなった。したがって、神経変性疾患において、臨床医が患者の喚語困難の訴えを、言語ネットワークの機能障害に関する新しいエビデンスに基づいて解釈できるようにするための概念的フレームワークが必要なのである。
このような背景から我々は、「喚語困難」の臨床的解析に対するフレームワークを提示する。我々は、特に変性認知症に言及しながら、ベッドサイドにおいて障害の本質を分類し、鑑別診断を定式化するための臨床的スキームを提示する (図2)。このスキームは発話に焦点を置いている。なぜならば、自分の話す言語における喚語困難は、一般に進行性失語症における主要な訴えだからである。我々のスキームは、実験的脳科学から生まれたエビデンスと、現代的情報処理の観点から説明される言語処理の考え方に基づいている (図1)。このスキームを適用することで、言語出力経路の異なる動作ステージと、異なる解剖学的基質から生じる、異なる臨床症候群を分類することができる。我々のアプローチは、言語出力における主要なステージ (I-IV) を詳細にした一連のステップに基づいている (図1)。これらのステップは後のセクションおよび表に詳細に記述される (表1-4)。それぞれのステップにおける成績のパターンによって、主に障害を受けている認知処理ステージを特定でき、さらに発話症候群 (speech syndrome) の詳細なプロファイルをつくることができる。認知的操作段階のおおまかな解析によって、障害を局在化することができ (図3)、さらに詳細な症候群的記述によって、背景にある病理学的プロセスの鑑別診断が可能となる (図2)。我々は、進行性失語症に対する神経言語学的な包括的説明を行うことよりむしろ、神経内科医が持つベッドサイドと脳科学的理論の間のジレンマに対する橋渡しをしたいと意図している。しかし同時に我々は、言語機能の理論的モデルと相容れることが難しい臨床的現象の分類によって、こうした疾患の病態生理学的理解が進むのだということを示したい。

図2: 特に変性疾患の文脈における、喚語困難患者を評価するための臨床スキーム。このスキームは「グリッド」として構成されており、各列は臨床評価における重要なステップを表し、各行は発話または言語症候群を表している。グリッドの各項目は、その項目の障害を表している。主要な言語操作に関連する患者の自発的発話の特徴の初期評価 (図1参照) と、主要な発話および言語タスク (中央) に基づき、臨床的な発話症候群または言語症候群が特徴付けられる。臨床症候群を特定することで、認知やその他の神経学的な異常を含む関連する臨床的特徴 (右) に基づいて、鑑別診断を行うことができる。また、これらの関連する特徴から、喚語に対する一次的および二次的な影響を解釈することができる (図1)。詳細は本文を参照。塗りつぶした円: 異常; AOS: apraxia of speech; *: コンセンサス基準で使用されているもの; †: 病態学的状態は確立されていないもの; AD: Alzheimer's disease; bvFTLD: behavioural variant of frontotemporal lobar degeneration; CBD: corticobasal degeneration syndrome; CIRCUMLOC: empty, circumlocutory speech; COG: cognitive features; EPS: extrapyramidal syndrome; LTPS: lateral temporo-parietal syndrome; MND: motor neuron disease; PNFA: progressive nonfluent aphasia; PSP: progressive supranuclear palsy; SD: semantic dementia; SURFACE: surface (regularization) errors; VaD: vascular dementia.

図3: 変性疾患における喚語困難の構造的解剖。数字と矢印は、言語出力経路 (図1および表2) における動作ステージを表している。主要な解剖学的領域が示されている。これらの領域の間の情報の流れは交互である可能性があり、矢印は双方向性となっている。脳MRI画像は、喚語困難を示すいくつかの変性疾患を示している (すべての画像は冠状断で示されており左半球は右側である。(a) 左優位非対称性前頭葉萎縮, 力動性失語 (dynamic aphasia); (b) 限局的左側頭葉前部/下部萎縮, 意味性認知症 (semantic dementia); (c) 両側性内側側頭葉萎縮; アルツハイマー病 (Alzheimer's disease) (失名辞); (d) 左上部側頭葉後部/下部頭頂葉萎縮, 進行性「混合型」ロゴペニックまたはジャーゴン失語 (progressive ‘mixed’, logopenic or jargon aphasia); (e) 限局的左上部側頭葉/島萎縮, 進行性非流暢性失語 (progressive nonfluent aphasia); (f) 限局的左下前頭回/前頭弁蓋部萎縮, 進行性発語失行 (progressive apraxia of speech)。

 

2. 臨床的背景
喚語困難の訴えは、言葉面通り捉えるべきではない。一番初めにやるべきなのは、何を意図しているかを決定することである。発話出力の障害は、「言葉を見つける」「名前を見つける (または思い出す)」「言葉を言う」ことに問題があると言われたり、「誤った」「ごちゃごちゃな」「混同した」言葉を使うと言われたり、様々な表現をされる。患者は、語彙の減少 (特に専門的な内容)、意味の正確な濃淡の伝達不能クロスワードパズルの能力低下などを訴えることがある。介護者は、患者の話し言葉や書き言葉に音や文法の誤りがあることに気づいたり、吃音や声質の変化の出現に気付いたりすることがある。しかし、このような具体的な説明は (貴重ではあるが)、しばしば積極的に引き出す必要がある。
喚語は正常なコミュニケーションの中心であるが、喚語困難を失語症と同列に扱うべきではない。喚語の問題は、他の認知ドメインの問題の結果として生じることがある。したがって、臨床評価の主な目標は、喚語困難が一次的な言語障害を反映しているのか、それとも他の非言語的な認知障害の二次的な問題なのかを判断することである。一次的な喚語困難は、孤立した言語障害として起こることもあれば、より広範な認知または行動症候群の一部として起こることもある。二次的な喚語困難は、他の認知領域の障害が、障害のないはずの言語システムの機能を多かれ少なかれ阻害する場合に起こる。たとえば、ベッドサイドでの検査で家具用品の名前が言えない患者では、その物体を探したり、正しく使ったりすることができない場合、一次的には視知覚の問題を抱えている可能性がある。また、会話にあまり参加しない患者はそもそも耳が聞こえていないかもしれない。逆に、一次的な喚語困難を持つ患者やその介護者は、しばしば記憶障害 (人や物の名前を「忘れる」と言うことがある) や知覚障害 (言語理解障害は、患者の家族によって「聴覚障害」とされることが珍しくない) という言葉で自分の症状を説明する。また、喚語能力には正常な範囲での幅広いスペクトラムがあり、疲労、不安、気分障害の影響があることを認識することも重要である。したがって、喚語能力の評価には、成績の客観的な評価と、問題が発生した広い背景や患者の日常生活への影響についての認識の両方が必要である。
喚語困難の正確な病歴 (表1) を得るには、患者と患者をよく知る情報提供者の両方から話を聞くことが必要である。喚語困難の訴えは、患者の病前の言語能力に照らして解釈する必要がある。バイリンガルであること (英語が第一言語であったか、そうでない場合、どの程度の能力を獲得したか)、学歴と読み書き能力、職業、発症前の障害 (発達性ディスレクシアなど) についての情報は不可欠である。家族歴は、一般的な診断だけでなく、特に喚語の問題の解釈にも関連する場合がある。例として、GRN遺伝子の変異と家族性の進行性非流暢性失語 (PNFA: progressive non-fluent aphasia) との関連性が浮上している。喚語困難の発症様式と時間経過を明らかにすることは、急性障害 (たとえば、脳卒中脳炎、せん妄)、静的または動的な障害を伴う慢性障害 (たとえば、頭部外傷や痙攣)、進行性の障害を伴う慢性障害 (たとえば、変性認知症) を区別するのに役立つ。この情報は、言語障害に至る過程が隠れて進行し、病因を示す他の臨床的手がかりがほとんどない場合 (たとえば、側頭葉てんかんの発作性「仮性認知症」) に、特に重要である。問題が発生した背景が重要である場合もある。急性疾患では、覚醒、知覚、運動機能の障害が顕著である (あるいは臨床症状を支配する) ことが多いが、慢性疾患では、関連する特徴が微妙であることがある。しかし、急性と慢性の区別は必ずしも明確ではない。急性の事象を経験した患者が、その後、継続的な喚語困難を呈することもある。その場合、正確な診断は、初期の回復の程度と、喚語困難が時間の経過とともに進展しているかどうかを確認することによる。逆に、神経変性疾患の症状は、手術などの特定の出来事の後、急性に現れることがある。この場合、急性錯乱状態が重なるか、軽度の喚語困難や認知障害がそれまで気づかれていなかったことが原因である可能性がある。ここでの診断の鍵は、急性症状の前に、より陰性の、あるいは進行性の障害があったという背景を確立することにある。病歴は、しばしば、喚語困難の性質や関連する認知、行動、神経学的特徴を知る手がかりとなり、それを検査によって系統的に調べることができる。


表1: 病歴聴取における重要な点

 

3. 自発的発話の解析
患者の自発的な (命題的な) 発話を系統的に分析するの (表2) は、診察上最も価値のある側面である。自発的な会話がほとんどない場合、写真や絵の中の場面を説明してもらうことができる (図4Aにその例を示す)。このやり方は、エピソード記憶とは無関係に発話を評価でき、異なる臨床状況での発話特性を比較する基準を提供できるため、患者に日常生活の出来事を語ってもらうよりも望ましい。表3に、定型的な言語障害を持つ患者が作成した情景描写の例を示している。患者の一般的な行動や臨床面接への取り組み方を観察することで、しばしば貴重な情報が得られる。ほとんど言葉を発せず、面接中も受動的に座っている前頭葉認知症患者と、明らかに自分の障害に苛立ち、過剰なほどの非言語的ジェスチャーで補おうとするPNFA患者では印象が大きく異なり、迂遠な言葉を次々と発する意味性認知症 (SD: semantic dementia) 患者の話し方とも対照的である。


図4. ベッドサイドで発話を評価する道具。(A) ビーチの風景。会話的な発話を誘導する1つの手段である (表3の例を参照)。(B) 音読用の文章 (本文を参照)。


表2: 自発的発話の解析


表3: 進行性失語と急性失語における自発的発話の例 (図4Aのビーチの絵を見せたもの)

失語を「運動」と「感覚」(expressive/motorとreceptive/sensory) の2つに分類するのは単純化しすぎであり、かつ不正確である。純粋な発話生成の障害または理解の障害のどちらかを呈する患者は少ない。急性期脳障害ではこの分類が成立することもあるが、進行性失語症の分類に関して言えば非常に相対的なものである。同様に、発話の障害を「流暢性」と「非流暢性」に分けるのも、臨床的現象論を単純化しすぎであり、解釈の誤りを生みやすい。流暢性は発話出力の流れを記述しているが、これは多次元的なものである。すなわち、「非流暢性」は、フレーズの長さの減少、失文法、構音の悪さ、発話速度の低下などを含む多くの異なる因子による可能性がある。これらの障害は同時に起こる傾向にあるため、ある1人の患者の発話を信頼性を持って流暢または非流暢と分類することもしばしば可能である。さらに、流暢性が障害されているという印象に比較的大きな寄与をする特定の次元 (速度や構音など特定の運動的側面) も存在する。しかし、各要素処理は分離できる。したがって、軽度の「非流暢性」発話のある患者では、依然として誤りが多いながらも長いフレーズや文章を生成できる可能性がある。より進行した「非流暢性」発話の症例でも、複数の単語から構成されるステレオタイプなフレーズ (e.g. 'Hello, how are you?') であれば発話可能であるかもしれない。こうしたフレーズは、単一の単語と似た機能を持つ表現的「ユニット」と見なせるかもしれない。一方で、「流暢性」失語患者は一般的に、適切な内容を持つ単語を見つけることができないため空疎な発話をするが、同時に適切な単語を見つけようと努力しているがために会話の際にポーズがみられることも一般的である。これらのギャップは、生成される単語の全体的な数を減少させ ('logopenia')、このため発語の全体的な流暢性を減少させる。以上から、「流暢性」とは、臨床的に有用な記述的用語ではあるものの、特徴の組み合わせによって分類される発話症候群および言語症候群の分類基準としては、潜在的に誤りを生みやすい。
全ての命題的発話は、思考や「メッセージ」を言語形態として伝達しようとする試行であると考えることができ、このプロセスに関与する動作ステージ (図1) によって、臨床的障害の幅広い分類が示唆される。すなわち、患者が会話の開始に困難を持つかどうか、メッセージの意味を伝達するのに困難を持つかどうか (思考が理路整然と伝達できないような発話の内容の障害)、そしてメッセージの構造に異常がみられるかどうか (単語の形成や単語の順序の障害) といった点からの分類が行われる。実際的には、個々の患者の喚語困難がこれらのカテゴリうちどれかを優位とする障害であると言うことはできるが、いずれか1つに限定されることはほぼない。さらに、こうした真の喚語カテゴリの障害は、発話の運動プログラミングにおける困難さと重複することがある。明瞭な単語の生成は、形成された発話内容の正しい構音を可能とする運動プログラムに最終的には依存するのである。

表4: 発話・言語タスクと評価事項

3-1. メッセージの生成: 言語的思考
会話的 (命題的) 発話の開始が容易に行われるということは、言語的思考の生成 (思考を単語として表現する能力) に関する重要な情報を提供してくれる。このプロセスは、言語的メッセージの計画立案に関与する (図1)。喚語困難を持つ患者では、言語に関するためらいによる非特異的な結果として会話にあまり参加しなくなるものの、命題的発話の著名な減少は、力動性失語の重要な特徴である。患者は文字通り「何も話すことがない」状態となる。このような患者は、言語的思考の生成の段階に選択的な障害を持つ。発話の量は減少しているものの、生成されたメッセージの意味と構造はほとんどの場合保たれている。文章の生成は文脈に依存しており、たとえば患者は簡単な絵を説明することはできるかもしれないが、日常生活上のトピックについての会話をすることはできないかもしれないし、複雑なシーンの説明を空疎ながら誤りなく行うことができるかもしれない (図4A)。自発的出力の減少と比較して、呼称課題、復唱や音読など特定の文脈では発話は比較的正常である。類似した発話出力の減少は、前頭葉と皮質下障害を持つ患者の多くでみられ、総合的な発動性の低下と思考緩慢がみられることが多い。しかし、純粋な力動性失語では、歌などの新規の非言語的マテリアルを生成する能力は保たれており、力動性失語は真の言語障害であり無為状態によるものではないことが示唆される。
言語的メッセージの生成に障害を持つ一部の患者では、出力に障害がみられる。自発的言語的ステレオタイプがみられたり、反響言語 (他人の発話を復唱すること) がみられたりするが、ここから言語的思考の自己生成能力の喪失が示唆される。こうした現象はしばしば前頭葉または前頭皮質下損傷を持つ患者における環境依存性を示す他のエビデンスに関連する。

3-2. メッセージの意味: 概念的内容と語彙
言語的メッセージの計画が一度生成されると、具体的な内容単語と機能単語によってメッセージが構成される。発話された思考やメッセージの意味はその概念的な内容に依存する。文構造が崩壊していても、メッセージの構成要素の概念を伝達することはでき、その逆もまた然りである。'The bird sat on the branch' という文章を例にとってみる。'Bird sat branch' や 'the birt sit on the brench' (内容は保たれているが構造が崩壊している) を 'the thing pit on the tam' (構造は保たれているが内容が崩壊している) と比較してみよう。発話の内容は、個々の単語のレベルでまず評価され、それらが組み合わさることでより幅広いメッセージが伝達される。
個々の単語のレベルでの内容障害は、語彙の不足として明らかになる。患者は、1つの単語の代わりとなる近似的または不正確な表現 (迂遠な表現) を使用し (e.g. 'the thing', 'the whatchamacallit')、発話 (流暢ではあるが) は曖昧で本質がないように見えるかもしれない。意味の間違いや「意味性錯誤」は、文脈にそぐわない言葉として明らかになることがある (たとえば、「豚」を意味するときに「犬」が使われる)。また、上位語や一般的用語 (「動物」など) が具体的な単語 (「リス」や「ロブスター」など) の代わりに用いられることがあり、語彙の不足を補うために、婉曲的な表現が使われることもある。また、ステレオタイプな表現、ストックフレーズ、決まり文句に頼ることが多くなることもある。このように流暢だが空虚な発話は、言語的知識の貯蔵に障害がある場合に特徴的で、そのパラダイムは左側頭葉の局所変性によるSDである。このような状況では、病歴や特定の言語課題から、単一単語の意味の理解に障害があることがしばしば証明される。より一般的なシナリオは、単語の意味の理解が (少なくとも初期には) 十分に保たれているという証拠があるにもかかわらず、記憶から単語を取り出すのが困難なことである。この状況は、初期のADを含むさまざまな疾患でみられ、実際に、最も純粋な意味での「喚語困難」と考えることができる。このような状況では、自発的な会話と呼称の両方に影響を及ぼす、長めの喚語ポーズが見られることがある。言語障害は、典型的なamnestic ADの約10%の症例で早期から生じ、典型的には言葉の流暢性の障害が顕著であるが、一方、発話の産生は疾患の初期段階では比較的保たれているという特徴がある。進行性失語症の患者の中には、特異な表現や新しい表現 (新語) が音声出力を支配する「ジャーゴン失語」があるが、これは変性疾患ではまれである。
文章レベルでの内容障害は、メッセージを伝達する際の論理的一貫性の欠落として現れる。文章が閉じないまま本筋から逸れたり、脱線して文脈的におかしな単語を用いたり、断片的な要素からなるフレーズが入ってきたりして、患者の思考の流れを追うことが難しくなる。急性脳疾患ではこうした調和のとれない発話がみられることがあり、注意障害や遂行機能障害によって、構成のとれた持続的な言語的表現が不可能となる。これと同様の事象はADの中期~後期でみられることがある。より複雑な物語や談話レベルでの言語出力の不調和は、bvFTLD (※現在正しい表現ではないが本文献の表現を尊重) の特徴であり、遂行機能障害が典型的には際立っている。古典的な言語症候群の中には入らないものの、こうした高次の言語出力の障害は、患者のコミュニケーション能力の障害をきたしうる幅広い現象の一例であり、古典的な「失語」のモデルの限界を示唆している。

3-3. メッセージの構造: 文法と音韻
言語的メッセージの構造は2つのレベルで考えることができる。文法は、「機能単語」(冠詞や前置詞、接続詞) の使用を含む、フレーズや文章のレベルでの単語の順序のことを指す。音韻 (phonology) は、音節や単語のレベルにおいて個々の音を選択し並び替えることを指す。文法構造の障害 (失文法) では、典型的には個々の単語や短いフレーズから成り機能単語や接続詞が省略された、まとまりのない「電文体」発話がみられる (e.g. 'bird sat branch')。単語を誤った順序で配置してしまうこともあり、複数形や時制などの文法的要素の誤った使用や、二進的誤り ('yes - no' や 'him - her' などbinaryな表現における誤り) もみられる。音韻構造の障害は、発話の際の音の誤りとしてみられたり、個々の単語や音節のレベルでの「音素性 (phonemic) 錯語」「字性錯誤」や、代用表現 ('crayon' を 'carbon' と言う)、転置 ('animal' を 'aminal' と言う)、省略 ('elephant' を 'elphant' と言う)、追加 ('hippopotamus' を 'hippopopototamus' と言う) としてみられたりすることがある。このような誤りは、多音節語においてより明らかになることが多い。失文法と音素的誤りはPNFAにおける典型的特徴であり、ADにおける言語出力障害との鑑別点である (表3)。失文法と音韻障害は一般に同時に発生するが、比較的純粋な解離が変性疾患で記述されている。失文法は、文理解のより受動的側面や書字出力の詳細な検査が行われない限り、他の発話生成障害によってマスクされてしまうことがあるかもしれない。

3-4. 発話の運動プログラミング: 音声、構音、プロソディ
発話の運動プログラミングの障害 (図1) は、真の喚語困難とは異なる臨床的重要性を持つ。しかし、これらの障害はしばしば併発し、解剖学的な局在化や診断に役立つ。ここで我々は、これらの障害についてやや長めに記述する。なぜなら、これらの障害は正確に特徴付けることが難しく、また、進行性失語症に関する文献で論争を引き起こし続けているいくつかの概念を含んでいるからである。その一例が、発語失行 (AOS: apraxia of speech) である。この用語は、(他の「失行」との類似性から) 一次的な運動障害に起因しない発話の運動ジェスチャーの障害として操作的に定義できる運動性発話障害を表すために用いられてきた。AOSの認知的基盤はまだ議論の余地があるものの、発話生成において音韻構造を「構音譜」(単語やフレーズを生成するための声道の関連筋肉の運動) に変換する段階、すなわち音声の皮質プログラミングのレベルで発生すると思われる。したがって、AOSはおそらく音声 (phonetic) の崩壊 (breakdown) または分解 (disintegration) と同義である。AOSの特徴として、発話速度が遅く、ためらい (発話を開始するのが難しい) がみられ、努力性であり (調音手探りを伴う: 正しい言葉に辿り着くために何度も試行錯誤し自己修正すること; 長い単語ほど悪化する)、音声的誤り (個々の音節の形成、タイミング、順序における誤り)、プロソディの障害(リズム、ストレス、イントネーションの異常; 一次的なプロソディの崩れというよりは音声の順序付けが悪いことに起因) がみられることが挙げられる。患者はその問題を吃音やどもりと表現し、小児期の吃音の再発としている場合もある。変性疾患におけるAOSの最近のレビューでは、失語症や構音障害とは無関係に孤立して発生した症例はわずか10%であった。AOSは、特にPNFAと関連している。
原則として、音声の誤り (プログラムされた発話音の実行における誤り) は音素の誤り (実行しようとする発話音の選択における誤り) とは異なる。発話音が発話のプログラミングにおいて正しく選択されるものの構音に誤りがみられたり、反対に発話音が誤って選択されるものの構音は正しく行われたりする。しかし、実際にはベッドサイドでこれを見分けるのは難しく、これら2つの種類の誤りは共存することが多い。音声の誤りに対する手がかりには、歪み ('property' と言う際に 'brop-er-ty' と置換してしまうタイプの歪みと、'prop-er-ta-ty' と追加してしまうタイプ歪みのいずれかが一般的) の存在と、AOSの他の特徴 (上述) の共存がある。これは、純粋な音韻または音素の崩れを持つ患者とは対照的であり、真の音素誤りにおいては、歪みはみられず、発話は努力性ではない。
音量、速度、リズム、イントネーションなどの発話における特徴は、主に発話出力の運動プログラミングに関係している。発話出力のこうした非言語的側面は、錐体外路疾患 (たとえば、ハンチントン病における発話タイミングの障害)、小脳および皮質下 (偽性球麻痺または球麻痺) 病変で最もよく影響を受ける。このような発話の障害は、しばしば「構音障害」という用語に包含される。構音障害は、最も一般的には「末梢」の障害に続発するものであるが、時には皮質の損傷によって生じることもある (進行性「皮質性」構音障害または失構音)。構音障害患者は、不明瞭な発話 (slurred speech) (または稀に、変わった「外国人」アクセント)、声量の減少、または他の運動症状を訴える可能性がある。構音障害と音声障害は、一般に区別がつきにくいものである。しかし、音声障害 (AOS) の患者は可変的で一貫性のない音声エラーを起こし、あるタイミングでは単語を正しく発音できても別のタイミングではそうでないことがある。一方で、構音障害の患者は一貫したエラーを起こす傾向にある。進行性AOSと同様に、構音障害のみが進行する病態 (isolated progressive dysarthria) はまれであり、PNFAとも重なる。実際、3つの疾患は文献上しばしば混同されてきたと思われるが、その理由はこれらの重畳と、区別の難しさ、そして未だ解決されていない定義の問題である。このことは、「純粋進行性失語 (pure progressive aphenia)」、「原発性進行性失構音 (primary progressive anarthria)」、「緩徐進行性失語 (slowly progressive anarthria)」または「前方弁蓋部症候群 (anterior opercular syndrome)」(Foix-Chavany-Marie症候群) といった運動性発話障害に関する文献上の多くの用語があることからもうかがえる。
進行性AOSや皮質性構音障害の患者では、古典的には書字は良好に保たれており、ここから発話出力に障害はあるものの言語処理は保たれていることがわかる。対照的に、音韻的構造のレベルでの障害は、発話と書字の両者において音素の誤りとして現れる。よって、患者の発話と書字の比較は、ベッドサイドにおいて原発性の音韻の問題と音声の障害を区別するのに有用な手段である。発話の障害の重症度も手がかりとなり、発話の運動プログラミングの障害を持つ患者では、発話の生成の重度の障害によってしばしば無言となる。しかし、無言は多くの疾患プロセスの終末像であり、PNFAの初期の特徴としても起こりうる。
音声の符号化とは機能的に別の運動プログラムの他の構成要素も、変性疾患によって破壊されることがある。重要な例として、プロソディ、すなわち、発話の「メロディ」を構成する、ピッチ、ストレス、タイミングのイントネーションパターンが挙げられる。発話生成障害のある患者の多くは、会話の正常なリズムを失い、細かいピッチやアクセントの変化を調整する能力を失っている。重度の場合は、発話全体の明瞭度が損なわれ、言語の問題であると誤解される可能性がある。一般に、プロソディの障害は二次的なものだが、まれに原発性の進行性プロソディ障害も報告されている。

 

4. 具体的な発話・言語タスク
患者の喚語困難は、具体的な発話・言語に関するタスク (表4) によってさらに解析することができ、これらはこれまでに得られた情報を裏付けると同時に、新たな障害を発見できる可能性も持つ。これらのタスクの結果、喚語困難を中核的障害 (図1に要約) によって分類することが可能になり、発話症候群もしくは言語症候群をより詳細に特徴付けることができる (図2)。ベッドサイドで行うタスクは、より専門的で詳細な神経心理学的検査によって、より洗練され増幅することができる。これらの検査により、通常ベッドサイドで可能なよりもさらに詳細に言語障害定量化または特徴付けることができる。そして、軽度または潜在的な障害を特定することによって、認知表現型をより完全に定義することができるかもしれない。これは、特に疾患の進行を検出し追跡するのに有用である。しかしながら、神経心理検査で得られる情報が最も有用となるのは、ベッドサイドで神経内科医が問題を特徴づけて鑑別診断を想定した上で、神経心理学者が検査を行った場合である。

4-1. 呼称 (naming)
喚語は、貯蔵された言語的知識から文脈的な適切性のもとで単語を想起する能力に依存している。これを最も簡便に評価する方法は、呼称である。しかし、この能力は単語の想起と単純に関連付けることはできない。これは、図1に示した多くの認知操作に依存した、能動的で多段階的な処理である。呼称の障害、すなわち失名辞は、喚語困難を訴える患者において頻繁に認められる (実際、患者とその介護者は言語障害を名詞の障害と特徴づけることが頻繁である)。そして、多くの異なる疾患の特徴でもある。失名辞に至る臨床状況の多様性を考えると、単一の診断に至るためには他の認知機能を評価することの重要性が強調される。純粋な失名辞は変性疾患では一般的ではないが、一次的な言語貯蔵と語の想起の障害の両方が失名辞として現れる。失名辞は初期ADの言語特徴としてもっとも際立ったものである。この場合、診断は他の認知ドメイン (特にエピソード記憶; 次のセクションを参照) の障害に基づいて行われる。初期からみられる明らかな失名辞はSDを特徴づけるものである。この場合、より洗練された神経心理学的手法を用いないと、一次的な意味障害を見出すのは難しいかもしれない。初期症状としての重要性、臨床的関連性の広さ、言語出力経路における語想起の基本的な役割などから、失名辞という問題とその実際的な評価について詳しく考察を行う。
呼称の評価は、患者の自発的な発話を分析することから始まる (前節、表2、表3を参照)。失名辞は、内容単語 (特に低頻度名詞や固有名詞) の少なさ、迂遠表現の豊富さ、喚語ポーズの頻繁さなどが手がかりとなる。障害の本質は、呼称のさまざまな側面を評価するためにデザインされた構造化された一連の下位テストを使用して確立される。これらの命名課題の成績が悪いと、喚語困難を主訴としない患者でも、喚語困難と判定されることがある。逆に、呼称タスクの成績が特殊なパターンであれば、喚語の障害の原因が言語システム以外にある (あるいは言語システムに限定されない) ことを証明するのに役立つかもしれない。環境中の物体の呼称は、知覚処理が保たれていることと知覚による適切な意味関連付けの活性化に依存しており、これらの操作が正常に行われた場合にのみ、言語処理が行われる。
呼称は、描かれた項目に対する反応 (直面的呼称) と、言語的説明 (e.g. 'a large grey animal with a trunk') に対する反応の、どちらを用いても直接的に評価することができる。視知覚または視覚的知識の一次的な障害においては、絵の呼称よりも言語的説明に対する呼称の方が良い成績を示す。一次的な言語的障害であることがわかったら、次に呼称の成績を高頻度語と低頻度語 (e.g. 'shoe' vs 'moat') の両方に対して評価するべきである。これは、わずかな障害であれば馴染みの深い項目の直面的呼称では障害を検出できないことがあるからである。また、音韻 (語頭) または意味 (関連項目) 手掛かりによって改善がみられるかどうかも検査すべきである。また、異なる項目カテゴリが提示されるべきである (動物、無生物、熟知相貌、色、名詞と動作、など)。明確なカテゴリ効果は、変性疾患よりも急性脳損傷でより一般的にみられる (HSV脳炎など) が、名詞カテゴリの選択的な障害または選択的な保存はSDとADで記述されている。呼称障害は特定の文法クラスに比較的特異的である (たとえば、動詞の呼称は名詞の呼称に比較して、PNFAではより障害が強いが、ADでは選択的に保たれている)。これは一次的な言語的な障害なのか、それとも動作と物体の知識を含むより幅広い障害なのか、依然議論が残るところである。

4-1-1. 呼称の誤り
呼称タスクにおけるどのような誤りも、記録しておくべきである。どのような呼称な誤りであったかによって、その障害の基盤がわかる。視知覚の障害は、直面的呼称タスクでは「視覚的」誤りとして現れる (たとえば、ティーポットの線画を「顔」と呼ぶことがある)。言語的知識貯蔵庫の一次的な障害の場合、典型的な非常に一貫した障害があり、直面的呼称と説明からの呼称の両方に影響を与えるが、一般的 (高頻度) な項目 (e.g. 猫) よりも珍しい (低頻度の) 項目 (e.g. カバ) に影響を与える。呼称の誤りは、意味的錯誤という形で現れる。すなわち、誤った意味分類 (関連するカテゴリーからの分類の場合もある: たとえば、ラクダは馬と呼ばれる)、または一般的なカテゴリーをより具体的なカテゴリーに置き換える (たとえば、カバとロブスターは両方とも動物と呼ばれたり、すべての動物は「犬」になったりする) がみられる。また、迂遠な回答もみられる (たとえば、リスの写真を見て「庭に住んでいる、色は灰色だ」と答える)。このような誤りはSD患者に特徴的であるが、ADや血管性認知症 (VaD: vascular dementia) を含む他の認知症でも同様の誤りは珍しくないので、注意して解釈されるべきである。
語想起そのもののプロセスの障害 (初期ADで一般的) は、比較的純粋な失名辞をきたす。この場合、単語の知識と単語の音韻的符号化は保たれているが、これらの貯蔵にアクセスする手段、または貯蔵された語の情報を適切な音韻的符号と関連付ける手段が障害されている。失名辞に選択的な性質は、呼称と他の発話および言語タスクの成績の全体的パターンから確立させることができる。直面的呼称タスクでは、彼らは全く答えることができないか、迂遠な答え方をするか、目標項目に意味的 (または音韻的) に関連した代替表現を用いるかといった反応を示す。これは、貯蔵された代替となる単語符号の異常な活性化、または呼称困難を代償する試みにおける反応のいずれかを反映したものである。健忘性失語 (nominal aphasia) における婉曲的表現と意味的錯誤の性質は長年にわたって認識されてきたが、これらは一次的な意味的 (言語知識貯蔵の) 障害の証拠として誤って解釈されることが多かった。この障害の真の性質に対する手掛かりは、意味領野における関連した項目の中を自発的に追いかける傾向にあること (「狐ではない...ネズミでもない...ナッツを食べる...リスですこれは」) や、このような追加の意味的関連事項が提供された際に呼称成績が改善する傾向にあること、そして検査者によって選択肢が提示された際に正しい名前を再認する能力が保たれていることである。決定的には、単一単語の理解は保たれていることが重要であり (後述)、一時的な言語意味障害を伴う疾患 (特にSD) では初期段階からその障害がみられるという点とは対照的である。
PNFAのように言語概念の音韻的符号化に一次的な障害がある患者の呼称エラーは、一般に目標項目に近似した字性 (音素性) 錯誤 (e.g. 'hotapitamus' for hippopotamus)の形をとり、他の文脈 (たとえば、復唱) でも通常明らかとなる。語想起と音韻符号化の両方における一次的な障害 (一次的な言語貯蔵の障害とは対照的) は、標的単語の頭文字を手がかりとすることで恩恵を受ける可能性がある。実際、患者は、言うことができない単語のことを「舌の先にまで来ている」と訴えることがある。個人名は特に難しいことがあるが、これはその特定の個人に関する貯蔵された情報にアクセスし、貯蔵庫から情報を想起し、音韻的に符号化するという組み合わさった要求を反映している可能性がある (固有名詞は一般に「非単語」であり、普遍的な語彙の一部ではないため)。その一方で、固有名詞が選択的に保存されていることも珍しいが存在し、個別の脳内貯蔵の可能性を挙げることもできる。直面的呼称タスクにおける新語は変性疾患においては比較的稀だが、jargonの存在は診断的価値もあり重要である (図3)。

4-2. 発話の理解
発話の理解の障害は、急性疾患 (たとえば、左半球脳卒中) と変性疾患の両者において、一般に喚語と言語出力の問題と共存する。発話の理解は、単一単語のレベルでは、保たれた知覚メカニズムと言語的知識貯蔵 (語彙) の両方に依存し、文のレベルでは、言語情報を保持する能力と単語間の文法的関係を処理する能力に依存する。

4-2-1. 単一単語の理解
進行性語聾として現れる単一単語の知覚の障害は、神経変性疾患ではほとんど記述されてこなかった。これらの患者は、話された単語の理解と復唱の両方に障害を持つ一方で、書字された場合は理解は保たれており、発話出力はしばしば大声でかつプロソディの崩れがみられ、音素の入れ替わりがみられることもある。知覚的障害の本質は、聴覚的時間分解能と発話音の弁別にあると考えられ、環境音や音楽の知覚障害を伴うこともしばしばである。すなわち、統覚型聴覚失認と言えよう。この聴覚的障害は、ベッドサイドにおいて音素ペアの区別 (e.g. 'pat - tap', 'gat - cat') をテストすることで証明することができよう。
聴覚的解析が保たれた状況下における単一単語の理解の障害は、言語的知識システムの障害によっておこる。最も際立った単一単語の理解の障害は、SDと関連しているが、意味障害はADにおいてもよく報告されている。言語的知識貯蔵の一次的な障害は、語彙の減少につながり、さらに聴理解と書字理解を単一単語レベルで障害する。名詞の理解は、患者に適当な項目の名前を見せてそれを実際に指さしてもらうことや、特定の単語の定義や関連する情報を説明してもらうこと (e.g. 「リスとは何でしょう?」)、もしくは特定の単語の類義語を選択肢の中から選んでもらうこと (e.g. 'trench' は 'hedge' と 'ditch' のどちらを意味するか) で評価することができる。これは、患者の病前能力のレベルに対する検査者の評価に従って微調整することができる (たとえば、病前能力が高く、言語能力が優れている患者には、「怠惰と無為の違い」を尋ねることができる)。単語知識の欠陥は、指定された基準に従って項目を分類するよう患者に求めることでさらに調査することができる (たとえば、「ライオンは哺乳類か」)。単語知識の低下は、通常、より具体的なカテゴリーから上位のカテゴリーへと進行する (たとえば、犬に関する知識の低下は、「ダックスフンド-犬-動物」という順序で進行する可能性がある)。一般に、より細かい分類が不可能な場合、名詞の大まかなカテゴリーでは意味が保持される。「カバとは何ですか」という質問に対して、「動物です」という回答は、ごく一般的な上位概念の知識を示しているに過ぎない。しかし、言語的知識の貯蔵が保たれていれば、さらに詳しい情報 (「大きい、アフリカに住む、水の中にいる」) を引き出すことができるはずである。動詞の理解も評価することができる。たとえば、検査者がパントマイムで表現した動作 (「押す」と「引く」、「捕える」と「投げる」など) について、患者に適切な説明を選択させたり、試験官が指定した動作を行わせたりすることで、動詞の理解度を評価する。言語出力が非常に低下している患者 (たとえば、PNFAの場合) では、ジェスチャーは単一単語 (名詞) の理解度を評価するツールとして使うこともできる。ただしこれは、容易に操作できるもの (たとえば、「シャベル」や「ティーポット」) が選ばれ、関連する失行や著しい運動障害がない場合に限る。
脳の知識システムの構成、特に異なるモダリティやカテゴリーの知識がどの程度分離可能であるかは、現代の認知神経心理学の中核をなす理論的課題である。変性疾患でも言語知識のカテゴリー特異的な障害が報告されてはいるが、カテゴリー効果はまれであり、急性疾患と比較して発生頻度ははるかに低い。生物や無生物、具体語や抽象語などの理解能力に選択的な障害が生じることはある。逆に、体部位、色、国の理解力が比較的保たれている場合がある。このようなカテゴリー効果の存在は、SDにおいて観察される障害が一貫していることや、SDやADにおいて知識が部分的に保持されるというエビデンスともに、知識貯蔵庫へのアクセスの障害ではなく、保存された概念の崩壊 (すなわち、知識貯蔵庫の直接的関与) を論証するものである。変性疾患におけるカテゴリー効果として確立しているのは、名詞と動詞の知識の解離である。名詞の想起と理解の障害はよく知られており、通常、SDで最も顕著である。逆に、運動ニューロン疾患に伴う前頭側頭型認知症 (FTD-MND: frontotemporal dementia associated with motor neuron disease) を含む前頭葉認知症症候群の患者では、動詞の想起と理解の選択的障害が証明されている。このような患者では、動詞句の処理が特に困難であり、名詞句 (「登る」を「はしごする」など) や「上位」動詞 (「いる」「作る」「持つ」など) に頼ることが多くなりうる。

4-2-2. 文理解
日常生活の多くの場面では、単語は個別に処理されることはなく、文章の中で組み合わさって処理される。文理解の困難は、単一単語の理解が保たれているにも関わらず起こりうる。このパターンは、文法的関係性の処理に障害があることを示唆し、名詞よりも動詞の理解障害と関連している。文レベルの理解の評価は、単一単語 (名詞) の理解が正常であることを証明した上で、異なる統語論的規則に基づいた短い一連の動作を行ってもらうことで評価する (e.g. 「本の上にあるペンの下に、紙を置いてください」「あなたは時計を手に取り、本を私に渡してください」)。代わりに、統語論的説明に基づいた絵を同定するよう指示することもできる (e.g. 「犬に追いかけられている男の子を指さしてください」)。文法の理解には、多くの異なる手順が関与する (時制や数の決定、代名詞や前置詞の解釈、単語順序の解析、主観-客観関係、文節の解析)。これらの手順は、統語論的 (単語どうしの関係性) と形態学的 (文法的文脈に従った単語の修飾) の2つに大別され、これらは異なる神経基盤を有している可能性がある。文法処理のいくつかの側面は文理解と分離できる可能性があり、こうした側面は、患者に対して文章における文法的誤りを見つけるように指示することで評価することができる。
進行性失語症の患者は、文章理解タスクにおいて異なるタイプの障害を示すことがあり、これらは鑑別診断に役立つと考えられる。PNFAでは、文法的関係の理解の選択的な障害がその初期から見られるが、SDでは、語彙の減少による制約はあるものの統語的構造の理解は通常問題ない。また、AD患者では、代名詞の理解障害、文の構造的・意味的一貫性の処理障害など、多因子に由来する、よりわずかな文章理解障害が記録されている。しかし、その他の文法要素 (性別、人称、時制の変化など) は正常に理解できる場合がある。このような患者では、複雑な統語的構造に対する遂行機能障害とワーキングメモリの障害が原因であると考えられ、文章理解の多次元的な性質と様々な異なる疾患プロセスに対する感受性が強調される。

4-3. 復唱
復唱には、入力経路と出力経路、そしてこれらの経路の間で情報をやり取りする能力が必要である。したがって、復唱の障害は、入力された発話シグナルの処理障害 (語聾など) や、発話出力の障害によって起こりうる。発話理解のように、復唱は語のレベルと文章のレベルで評価することができる。語聾のある患者や、一次性の発話生成障害を持つ患者では、単一単語の復唱にすら障害を認めるかもしれない (特に多音節単語)。復唱にためらいがみられ、努力的となり、典型的には多くの音素性エラーがみられる。失文法患者ではフレーズの復唱に選択的な障害がみられ、特に新しい単語の組み合わせを含む場合に顕著である (常套句の方がうまく復唱されることがあるが、それはおそらく個別の言葉の羅列ではなく、一つのユニットとして処理されるからである)。単一単語の復唱はSDでは一般に保存されているものの、文章の復唱は理解のレベルで障害される。個々の単語の理解が失われると、単語間で音素の「移動」が見られうる (e.g. 'the flag was coloured bright red' が 'the blag was fullered with a right breg' となる)。これは、発話が意味のある単位の連続というよりも、むしろ音素の羅列として符号化されてしまっていることを示唆する。臨床の場以外では、表立った復唱が求められることは少ないが、復唱を支える認知操作は、自分の音声出力をモニタリングするなどのプロセスに関与していると考えられ、コミュニケーションの正確性を向上させる可能性がある。また、「内的発話」の編集や心の中でのリハーサルは、音声出力の一貫性を確保する上で重要な役割を果たすと考えられる。音韻性ワーキングメモリの減少や構音リハーサルの障害は、PNFAにおける発話出力の構成や監視の誤りに寄与すると考えられる。

4-4. 読み、書き、綴り
読み、書き、そして綴りの障害は、発話における喚語の問題にしばしば伴い、これらの言語チャネルの評価は喚語困難を特徴づけるのに有用である。読み書き能力は生得的な能力ではなく、学習されたものであり、それを支える神経機構は、より初歩的な機能を支える脳システムが少なくとも部分的に適応されたものであると考えられる。読み書き能力の障害は、言語障害に加えて、視知覚や知識システムの障害を伴うか、これらに引き続く二次的なものであることが多い。逆に、読み書きのテストでは、発達性ディスレクシアのような特定の長年にわたる障害を考慮しなければならない。書字障害のない読字障害 (alexia without agraphia) と書字障害に伴う読字障害 (alexia with agraphia) の古典的な神経学的区別は、後天的な失読症の情報処理モデルに緩やかに対応している。このモデルでは、書かれた単語の視覚的解析の障害は「周辺性」失読症 (しばしば書字出力は保たれる) を生み、書かれた単語を解析して音や意味と関連付けることの障害は「中心性」失読症 (しばしば書字出力障害を伴っている) を生み出すと言われている。「中心性」失読症は、音に対する分析 (書かれた音節の音韻的符号化) と意味に対する分析 (視覚性の語彙) という、機能的に平行した2つの読字ルートのいずれが主に影響を受けるかによって、さらに細かく分類することができる。類似した情報処理モデルを用いて、書字障害を、綴りのプロセスに影響する「中心性」障害と、書字の実行の運動プログラミングに影響する「周辺性」(出力) 障害に分類することができる。これらの分類は、神経解剖学的な意味と臨床的な意味の両方を有している。しかし、変性疾患では書字障害と読字障害の混合型が一般的であり、音と意味に基づく読みと綴りの二元的経路が機能的にどの程度分離しているかは、最終的に解決されていない。
患者に、単語と非単語 (e.g. 固有名詞) の両方が不規則に含まれたパッセージを音読するように伝える (図4Bに一例を示す)。読みの障害の中核に関する情報は、音読した際の誤りの種類によって与えられる。文字ごとの読み (letter-by-letter reading) を行う患者は、単語の視覚的形態の処理に障害を持ち、一次的な言語障害というよりも、むしろ高次の視知覚 (言語的辞書への入力) の症状であると言うべきである。ADでは軽度の周辺性失読は珍しくなく、より劇的な例はposterior cortical atrophyでみられうる。言語的知識の貯蔵に障害のある患者は、変則的な単語をしばしば「整える (正規化する)」 (e.g. 'yacht' を 'yatched' と読む) が、これは「表層性失読症」であり、特定の単語の発音を支配する学習された語彙ではなく、書かれた単語を発話音声に変換する表面的な規則に基づいて読字が行われるものである。正規化エラーは、頻度の低い単語でより顕著に見られる。たとえば、ある日本人のSD患者は、漢字表記 (発音が意味文脈によって制約される) の選択的失読を発症したが、音韻的に規則的な仮名では障害を生じなかった。一方、音韻の符号化のレベルで障害を持つ患者は、「意味のない」単語 (e.g. 'tegwop') や固有名詞 (e.g. 'Gifford') など、非単語を読むことが特に困難である場合がある。これは「音韻性失読症」であり、学習した語彙 (常用語と変則語の両方) は保たれているが、書かれた言葉を音声に変換する規則が失われるため、新しい言葉を正しく発音することができない。PNFAやADでは、音韻性失読が頻繁に観察される。運動プログラム障害のある患者は、多音節の単語を読むのにつまずく傾向がある。
類似した誤りは、変則的単語や非単語の綴りを書く際にもみられる。語彙から綴りを生成することの障害 (「表層性」失書) では、音韻的に考えやすい形で単語を綴る現象がみられる (e.g. 'juice' は 'juse' となる)。語彙の綴りの喪失はSDに特徴的だが、ADにおける書字の障害としてもおそらく最も一般的である。音による綴りの障害 (「音韻性」失書) は、名詞では障害が目立ちにくい一方で、文法的機能単語と非単語の書字において特に障害を呈しやすく、PNFAとADで起こりやすい。書字障害は、発話生成そのものの障害というよりむしろ言語の障害を示唆するため、真の喚語困難と運動性発話障害の鑑別に有用であるかもしれない。しかし、書字表記は一時的な発話生成の障害を持つ患者において、しばしば発話と比較して保たれていることがある (たとえば、PNFAの初期など)。綴りの障害のある患者では、声で綴りを言う能力も同等に侵されていることが多い。しかし、ADでは声による綴りの選択的な障害が報告されていたり、その逆がVaDで報告されていたりする。進行性失書は変性疾患として報告されることはめったにない。綴りが疾患の初期から顕著に障害されている場合は、皮質後方の病変が考えやすい。

4-6. 文生成と完了
言語的思考またはメッセージの生成は言語的出力経路の動作ステージにおいて最も早期の段階である (図1) が、このステージは他の言語機能が保たれていることが一度証明されれば、最も信頼性をもって評価が可能である。理解、復唱、読解が正常 (またはほぼ正常) であるにもかかわらず、命題的発話が非常に貧弱であることから力動性失語が疑われる場合、目標単語 (e.g. 'boat') を含む文章の生成や未完文章の補完など、新しい言語思考の生成を必要とするタスクによってその障害を調べることができる。後者の課題では、一般に文脈から予測可能な補完 (「ボートは...の下を容易に通り過ぎた」) の方が、補完がオープンエンド (「少女は...を買うためにスーパーマーケットに行った」) の場合よりも成績が良い。ここから、この障害が「力動」的な性質を持っており、この課題が能動的言語計画を必要としていることが明らかである。

4-7. 運動評価
厳密には語音困難の評価には含まれないが、ベッドサイドで運動プログラミングの障害を特徴づけることは、言語障害と区別するために、またより広く臨床診断を進めるために有用である。患者には、1つの音節 (たとえば「パ、パ、パ......」) をなるべく早く繰り返すよう指示することができる。構音障害患者では、速度やリズムに変化があり、不正確性がみられるが、AOSでは通常、成績は比較的正常である。しかし、AOS患者は、「ぱ・た・か」のような音節の組み合わせを繰り返すよう速く求められると、非常に困難である。この場合、フレーズの順序が悪く、しばしば歪みや付加がみられる。

 

5. 進行性失語症の分類
自発的発話の解析と特定の発話・言語タスクを組み合わせることで、患者の発話症候群を定義することができる (図2)。通常、個々の症例をこれらの症候群のいずれかに一致させることは可能であるが、症候群は一般的に重複しており、断片的な症候群もよく見られる。さらに、各症候群は単独で起こることがある (頻度は大きく異なるが) 一方で、より広範な障害の一部として起こることもある。PNFAとSDは最も一般的で、最もよく定義された症候群である。これらは進行性失語症の典型的な亜型であり、FTLDの最も臨床的な分類の一部を構成する。しかし、群として考えると、進行性失語症の分類は、臨床神経学が直面する最も困難な問題の1つであることに変わりはない。その中でも、進行性失語症の症候群と疾患との関連性を理解することは、個々の患者の評価や鑑別診断の指針となる。ここでは、図2に示すような各症候群について考えてみる。
力動性失語は、一般に進行性核上性麻痺 (PSP: progressive supranulear palsy) や前頭葉変性症などの遂行機能症候群を背景として起こる。一方で、PNFAは発話と言語出力ドメイン以外の認知的特徴を持たず、他の神経学的所見も伴わない。しかし、これは大脳皮質基底核変性症 (CBD: corticobasal degeneration) 症候群、運動ニューロン病 (MND: motor neuron disease)、PSPなどの他の神経変性症候群と重複している。純粋な進行性構音障害はまれであり、CBDやMNDなど他の疾患の初発症状であったり、PNFAや進行性AOSとの重複症候群の一部として起こることが多い。孤立性進行性AOSもおそらくまれだが、一般にPNFAと重複する。AOSのような構音の問題を伴わない、真の「孤立性」PNFA (電文体発話、失文法、音素性誤り、失名辞から定義されるもの) は、近年ではその存在に疑問が呈されている。文献ごとの分類方法の違いもあるため、現時点でも解決には至っていないが、臨床-病理の関係性を洗練するためには、より正確な分類が必要であろう。
純粋な進行性失名辞はおそらくまれであり、報告はごく少数である。一定の期間のフォローアップが行われた患者は全員典型的なSDの特徴を呈するようになったことから、これらの症例は分離された症候群というよりもむしろ非典型的な緩徐進行性のSDである可能性が示唆された。ロゴペニック型失語は、今まで小数例において孤立した現象として記述されてきた。これにおける言語出力は、「ゆっくりとした、文法的に単純だが正しい、喚語ポーズを頻繁に伴う」ものと説明される。Gorno-Tempiniら (2004) による詳細な研究においてのみ、Muesulamら (2001) によるPPA臨床基準を満たしたもののPNFAやSDとして合致する発話や言語の障害を呈さなかった10人の患者が記述され、彼らはロゴペニック型失語とされた。この群における詳細な神経心理学的評価では、喚語ポーズを伴うゆっくりとした発話出力のほかに、文章理解の障害、復唱障害、失書 (変則的単語と非単語の両方で誤る)、失名辞がみられたが、意味や音韻は比較的保たれていた。言語的記憶にも障害があった。この臨床像は、ADの非典型的なバリアントとして合致し、実際の所、顕著な喚語ポーズはAD症例で一般に観察される。
古典的なSD症候群が、より広範な障害の一部を形成することはまれである。しかし、PNFAとSDの両方の特徴を持つ「混合型」進行性失語症が報告されている。これらの患者は、最初は流暢であっても、疾患の進行に伴って非流暢になる。典型的なPNFA/進行性AOSとは異なり、音声障害や運動障害は顕著な特徴ではなく、また古典的なSDとは異なり、頭頂葉障害を示唆する症候が頻繁に現れる。さらに、ロゴペニック型失語とは対照的に喚語ポーズは顕著ではなく、またprogranulin変異との関連性が示されているところからは病理学的に個別の病態であることが示唆される。この進行性混合型失語症の病態や、他の進行性失語症症候群との関係については、まだ解明されていない。

 

6. 関連する臨床的特徴
変性疾患における発話と言語の症候群はほぼ孤立して現れることはなく、一般に関連する認知および神経学的特徴を考慮することが疾患プロセスの局在化と鑑別診断に有用である (図1、2)。第一に、喚語困難が実際にはこれらの他のドメインの障害による二次的なものでないかを臨床的に判断することが必要である。多くの場合、その手がかりは病歴にあり、詳細で誤解を招く可能性のある喚語能力の分析に着手する前に、病歴次第では他の障害の初期評価を行った方がよいこともある (たとえば、著しい視知覚障害は、絵の呼称タスクに基づく語想起の有意義な評価を妨げることがある)。第二の重要な目的は、患者が言語に基づく局所性の認知症なのか、それとも、より全般的なプロセスのなかで喚語困難が現れているのかを判断することである。

6-1. エピソード記憶
エピソード記憶、すなわち個人の日常生活における出来事やエピソードの記録の障害は、ADの特徴であり、その他の多くの認知症でもみられる。患者は、(エピソード内の) 名前やその他の詳細を再生しようと努力している際に、会話中のポーズを呈し、これは一般に喚語困難と記述される。特に、患者は文章の流れを見失い、そもそもどのように文章を終わらせようとしていたのかを「忘れて」しまう。これは、喚語そのものの問題ではなく、一次的には記憶と注意のプロセスの問題である。患者の喚語困難が進行性失語症の表現型である (この場合エピソード記憶は典型的にはよく保たれている) のか、それともより広範な認知障害を伴う他の診断となる (特にADなど) のかどうかを決定するために、記憶の評価は特に重要である。これに関して、病歴聴取は重要である。進行性失語症の患者では、時事問題などの詳細な知識を持っており、地誌的障害を呈することもほとんどないが、エピソード記憶のこうした側面の障害は典型的にはアルツハイマー病の初期に発生するものである。Nearyら (1998) によるPNFAの臨床的診断のコンセンサス基準では、「重度の健忘」がないことが必要条件となっている。現在のエビデンスによれば、PNFAでは関連する遂行機能障害症候群の文脈においてワーキングメモリが障害されていることはあるが、エピソード記憶は一般に良好に保たれている。SDにおける状況はより複雑である。これらの患者では、エピソードの健忘は一般的に臨床上の大きな問題とはならないが、正式な神経心理学的検査において言語材料を使用すると、エピソード記憶そのものの評価を混乱させることがある。ごく一部の症例では、適切な指標を用いれば、エピソード記憶が健常者と同等であることを示すことができる。臨床的なメッセージとしては、エピソード記憶障害を無批判にADと同一視すべきではないということが言えよう (意味障害をSDと同一視してはならないのと同様)。異なる変性疾患におけるこれら異なる記憶システムの詳細な相互作用の理解が進むまでは、記憶におけるエピソード領域と意味領域の障害の相対的優位性、および臨床病歴のより質的な側面は、鑑別診断にあたってより信頼できるものとなると考えられる。

6-2. 意味記憶
単一単語の理解の検査によって評価される言語的知識とともに、意味記憶の非言語的ドメインは、世の中に関する概念的知識の貯蔵庫を共同して構成するものである。ADでは意味記憶の障害がよく知られているが、SD (または「FTLDの側頭葉型」) が疑われる場合には、これらの非言語的領域を評価することが特に重要であり、ベッドサイドで検査するのに最も簡便なドメインは視覚的知識である。熟知相貌の再認 (視覚的知識の特権的カテゴリー) は、患者に公人の写真を見せてその人に関する情報を提供させた上で、その結果を、言語的説明による再認や、 (意味的ではなく) 知覚的基準に基づいて顔を照合する能力と比較することで評価することができる。視覚的物体の知識のより一般的な側面は、患者に物体を描かせたり色塗りをさせたり、または意味的基準に基づいて絵を分類させたり (例: 家畜と野生動物)、意味的関連性に従って物体の絵をマッチさせたり (例: エジプトのピラミッドと、もみの木ではなくヤシの木) することで評価可能である。
いわゆる流暢性PPAとSDの関係性については、議論が残っている。初期SDの患者における最も顕著な特徴は失名辞、単一単語の理解障害、そして流暢だが空疎で迂遠な発話である。初期から相貌や物体の連合型再認障害を呈する患者に対して「意味性認知症」という言葉を用いることは適当であるものの、非言語的障害は明らかでなく言語的障害が優位である患者は、PPAの流暢型と考えるべきだと言われている。情報処理の観点で言えば、「流暢型PPA」では、貯蔵された意味知識は保たれているものの、貯蔵された意味表現を個々の単語に関連付けることに選択的な障害があるのに対し、「SD」では、より一般的な意味知識の障害があると言える。この区別は理論的に支持されているが、実際には、進行性流暢性失語症で一見孤立した言語障害を持つ患者は、後に顕著な非言語障害 (たとえば、視覚や聴覚領域における連合型失認) を発症する。さらに最近の研究では、より負荷の高い一連の課題をテストすると、流暢型PPAの診断基準に適合する患者は、非言語領域で関連する障害を持つことが示唆されており、「流暢型PPA」は初期のSDと同等であることも示唆される。日本人に見られる進行性の単語の意味の喪失である「語義失語」は、一次的なアモーダルな意味障害に基づいており、このエンティティもSDの表現型であることが示唆されている。

6-3. 遂行機能、言語流暢性、行動
抽象化 (ことわざの解釈、認知的推定、類似性と相違性の説明)、反応抑制 ('Go-No Go' タスクなど)、運動系列 (e.g. 手の交互運動) などで測られる遂行機能の障害は、言語流暢性の障害と関連していることが多く、力動性失語ではその頻度は少ない。前頭葉や前頭-皮質下の障害を持つ患者では、顕著な行動障害 (脱抑制、環境依存性、アパシー) がみられるが、必ずしもみられるというわけではなく、逆に言語にほとんど障害がみられなくてもこうした障害がみられることもある。前頭-皮質下回路の障害 (たとえば、PSPやDLBなどの基底核病変を持つ疾患) は、一般に遂行機能障害と認知処理速度の減少をきたし、「皮質下型認知症」の特徴とされる。
言語流暢性は、言語的知識貯蔵を検索する効率的なメカニズムに依存し、一次的な言語機能というよりむしろ、前頭葉性の遂行機能と考えるのが適切である。これには、検査者が指定したルールや基準に従って、新たに言語出力を作り出すための戦略が必要である。言語流暢性の障害は、特に前頭葉障害のある患者において、遂行機能障害の他の証拠を伴うことが多い。しかし、言語的知識貯蔵庫そのものに障害がある患者 (e.g. SD) でも、言語流暢性が低下することには留意が必要がある。言葉流暢性は、一般的な動物のリスト (「カテゴリー流暢性」) または指定した文字で始まる単語 (「音韻流暢性」または「音素流暢性」) を作成する能力として評価することができる。流暢性の低下は、進行性失語症を他の変性疾患と区別するのに有用であり、特に文字流暢性の低下はPNFAを示唆する。こうしたタスクは、1分間に何個の単語を生成できるかでスコア評価される。ベッドサイドでの経験則として、患者は検査者が書き留めるのと同じ速さで単語を発することができなければならない。わずかな流暢性低下や、変動する流暢性は注意して解釈されるべきである。流暢性タスクは、発話生成に障害のある (出力経路自体が影響を受けている) 患者では解釈が難しく、不安による「ブロッキング」は健常者でもよくあることである。これらの課題での成績の低下がみられた場合には、さらなる検査によって、より正確な本質を特定する必要がある。
PNFAでは、疾患の初期に行動症候群を伴うことはほとんどないが、患者はしばしばフラストレーションを感じ、コミュニケーションがとれないことにより抑うつ状態になることがある。一方、SDはbvFTLDに類似した行動特性を示し、これは疾患の進行に伴い右側頭葉の病変が増加することと関連していると考えられる。症状としては、過敏性、アパシー、脱抑制、食行動の変化などがある。行動学的特徴は、bvFTLDとSDでは質的に異なる場合がある。たとえば、SDではダイエット、bvFTLDでは過食が多く、また強迫はSDでより一般的である。

6-4. 口顔面失行
口顔面失行は、咳、あくび、その他の複雑な口顔面行為が、反射的には可能であるものの意図的には障害されていることを言う。これは、PNFA、CBD、FTD-MNDなどの発話障害やAOSを伴う疾患において頻繫に見られる。口顔面失行は非典型的PSP症候群でもみられることがある ('progressive oculo-orofacial-speech apraxia (POOSA)')。

6-5. 後方皮質機能
視知覚や空間処理、計算、四肢の行為などの後方皮質機能の評価は、喚語の障害が正しく解釈されるように、および認知症候群の完全像を把握するために、行われるべきである。これによって特定の診断 (CBD、ADのposterior variant、DLBなど) が示唆されることがある。早期から後方皮質機能の障害が顕著に見られる場合、PNFA、SD、FTLDスペクトラムは一般に考えにくいが、progranulin遺伝子変異を伴う患者では失行やその他の片側後方皮質機能障害がみられることがしばしばあることが報告されている。

6-6. 一般的神経診察
一般的神経診察は、発話や言語の障害を示す多くの変性疾患においては多くの場合正常である。しかし、関連した神経学的所見があれば、それが診断に役立つ場合もある。発話のコントロールとその他の口顔面運動の間には密接な関係があるため、口顔面失行は特に重要な症候であるが、他の特徴も検索される必要がある。喚語困難の訴えに特に関連するのは、関連する行動異常 (bvFTLDまたはPSP)、嚥下障害 (前頭葉-皮質下処理)、原始反射 (前頭葉障害)、上位運動ニューロン徴候 (VaD)、線維束性収縮および筋萎縮 (MND) または錐体外路症状 (パーキンソン症候群) である。神経学的な異常が特徴的な疾患もある (たとえば、PSPでは注視麻痺や姿勢反射異常、CBD症候群では非対称性の動作緩慢と筋強剛やalien limbなど)。PNFA患者では、左右非対称 (主に右側) の錐体外路症状が珍しくない。片側のパーキンソニズムを伴うPNFA症例のうち、CBD症候群のスペクトルの中に分類されるべき割合は、依然として不明である。

 

7. 進行性失語症の神経解剖学
伝統的な臨床神経学では、発症の病歴が疾患プロセスの種類を示唆し、診察所見が解剖学的局在を示唆する。変性疾患における喚語困難に適用すると、ベッドサイドでの評価 (図2) を行うことによって、患者の喚語困難を、影響を受けた主要な認知過程 (図1) に応じて特徴付けることができ、さらに、喚語過程の異なる構成要素を仲介する脳ネットワーク (図3) 内に概ね位置付けることができる。しかし、神経言語学的側面に選択的な障害がみられる「限局性」認知症であっても、詳細な解剖学的相関には問題がある。これは、言語システムの分散性と、基礎となる疾患プロセスの性質の両方を反映している。いくつかの症候群 (特にSD) では臨床と解剖学的相関が比較的正確であるが、他の症候群では脳萎縮がわずかであったり、初期段階でははっきりしないことが多く、多くの患者は画像検査で見られる構造的異常と単純に相関できない混合型表現型を持ち、喚語困難が顕著な多くの変性疾患 (たとえばCBD) は診断に有用な萎縮プロファイルを持たない。進行性失語症の解剖学的局在の観点から、集団および縦断的コホート研究は特に重要な役割を担っており、一般に個々の患者や詳細な単一症例研究から得られる情報よりも有益である。Voxel-based morphometry (VBM) のような集団データを解析するためのバイアスのない技術は、視覚的な検査だけでは検出が困難な集団レベルでの一貫した神経解剖学的相関を確立できる。こうした技術を用いるにおいては、潜在的に偽の相関関係を誤って解釈することを避けるために、臨床的解釈が極めて重要である。原則として、解剖学的相関の問題は、特定の認知動作の障害のレベルと症候群のレベルで考えることができるが、これらのレベルは実際にはしばしば区別することが困難である。ここでは、変性疾患患者の構造・機能イメージングと病理学的研究に基づいて、これらの解剖学的相関の各レベルに関する利用可能な情報を検討する。

7-1. メッセージの生成
正常被験者における命題的発話の生成には、左上前頭回、左前頭弁蓋部、左吻側側頭皮質が関与する。力動性失語や局所脳損傷患者における脳画像研究では、左前頭葉前部の関与が示唆されている。力動性失語における命題的発話の障害のマクロな解剖学的基盤について、確固とした結論を導くことはできないが、この症候群は左前頭-皮質下の分散型ネットワークを含む領域の障害に引き起こされる可能性がある。

7-2. メッセージの意味
7-2-1. 語想起

PNFA、SD、bvFTLD、CBD、ADにおけるVBMを用いた研究では、分散型の非対称性 (左半球優位) の脳ネットワークの多巣性の障害の関連が示された。全ての疾患群において、左外側側頭皮質が関与しており、この領域の容積が呼称の正確性と相関していた。また、PNFAでは左前頭葉の下部と外側部に、ADでは前帯状回に、CBDでは右前頭葉下部と側頭葉下部に相関がみられた。このエビデンスは、異なる疾患においては、意味記憶や視知覚機能などの異なる呼称障害の基質が存在するという事実と一致する。さらに、特定の物体カテゴリの呼称の解剖学的基質が存在することを示唆するエビデンスが存在する。異なる変性疾患患者の混合群において、動物の絵に対する呼称成績は右側頭極の灰白質容積と相関し、同等の親和性を持つ無生物に対しては、成績は左中側頭回後部の灰白質と相関していることが示されている。健常者における機能的画像解析の結果、語想起 (言語流暢性課題) の際に内側側頭葉が関与していることが示されており、AD初期に見られる失名辞の基質となる可能性を示唆している。

7-2-2. 言語的知識
SDにおける左側頭極、左側頭葉前外側部および下部の、比較的一貫し限局した変性は、側頭葉前外側部および下部の新皮質領域が言語的知識に必須であることを示唆している。VBMによって測定された左側頭葉前外側部の萎縮度は、意味障害の重症度と相関がある。しかし、側頭葉前外側部の新皮質だけが単独で侵されているわけではない。海馬体の萎縮 (非対称かつ前方優位)、扁桃体と嗅内皮質の萎縮も頻繁にみられ、側頭葉後部や前頭葉下部に萎縮が広がる症例もある。側頭葉領域間の結合途絶、および構造的損傷が最大となる部位から離れた後方および下方の領域からの断絶も、意味障害の病因に寄与していると考えられる。変性疾患において単語知識の特定のカテゴリーについて正確な解剖学的相関を確立することは困難であるが、動詞の知識は下部前頭葉領域の病変と特に関連しており、おそらく行動処理に関係する背側運動経路が関与している。

7-3. メッセージの構造
文法理解と文法生成の両方の障害は、下前頭回と島皮質を含む萎縮と関連している。統語的理解の障害は、左側頭葉後部-下頭頂小葉の関与と相関し、文法的符号化と統語的構造のワーキングメモリを媒介する分散型前頭葉ネットワークの活動低下とも相関した。音韻的符号化そのものの基盤に関するエビデンスはほとんどないが、文法的処理に関与する領域とも重なった、前頭葉下部、上部側頭葉の前部および下部を含む分散型左シルビウス裂周囲ネットワークの関与が考えられている。

7-4. 運動プログラミング
PNFAと皮質性失構音/AOSにおける発話生成の障害に関する集団研究や単一症例研究によって、左前頭弁蓋部と島前部を含む部分的に重複した領域が、発話の運動プログラミングに関与することが報告されている。代謝異常の領域は、構造的イメージングで検出された比較的限局された組織破壊を越えて、広く広がっている。島は、文法、音韻、構音ネットワークをつなぐ重要な役割を担っている可能性がある。早期無言症は、弁蓋部とその皮質下結合を含む萎縮と関連している。進行性プロソディ障害の解剖学的基盤は十分に定義されていないが、個々の症例においては、主に右側のシルビウス裂周囲および前頭葉の萎縮が示されている。発話出力経路の構成要素の解剖学的および病態生理学的基盤は、特異的な分離が困難であり、特定の機能や障害に関する詳細な神経解剖学的および神経生理学的基盤 (たとえば、音声障害と音韻障害の区別という難題を解決するのに役立つような) の同定が急務である。

7-5. 症候群
脳の解剖と特定の認知障害の関係性は、症候群や疾患ごとに適切な神経心理学的手法を適用することで確立されるが、症候群の解剖学的基盤を確立するにおいては、まず症候群がどのように定義されるかという点が重要である。進行性失語症スペクトラムの異なる症候群は、詳細で詳細で幅広く受け入れられたコンセンサス基準を持たず、脳画像や病理学的研究における解剖学的データの解釈は難しい。しかし、最近のFTLD患者を対象としたVBMおよび代謝画像データを用いた研究によれば、特定の脳ネットワークの異常が古典的なFTLDの臨床サブタイプごとに認められている。すなわち、bvFTLDでは内側および眼窩前頭ネットワークが、SDでは左優位の側頭葉前部および下部ネットワークが、そしてPNFAでは左側頭葉上部および前頭弁蓋部ネットワークが関与していた。一般に、発話と言語の処理に選択的な障害を引き起こす認知症は、左シルビウス裂周囲皮や左側頭葉前部に非対称性の萎縮を持ち、こうしたパターンは個々の症例研究や集団研究において確立されてきた。しかし、左シルビウス裂周囲の病変は、両側半球における他の皮質および皮質下領域におけるより幅広い病変を背景として起こる。逆に、特定の解剖学的領域が多様な言語表現に関与することもある (たとえば、ロゴペニック型失語や「混合型」失語症、まれな進行性ジャーゴン失語症における上側頭葉後部-下頭頂小葉領域)。
代謝性脳画像技術 (SPECT, PET, fMRI) は、左半球言語ネットワークの機能不全が進行性失語症における脳萎縮に先立って生じることを示唆している。機能障害は組織喪失領域を超えて広がり、古典的な言語領域以外にも異常な (おそらく代償的な) 活性化が見られることがある。機能的な変化は、左半球に限定されることもあれば、両半球に及ぶこともある。「非流暢性」の表現型は、前頭葉のシルビウス裂周囲言語領域の代謝低下および灌流低下と関連し、「流暢性」の表現型は、主に側頭-頭頂部の機能障害と関連する。PNFAに伴う発話生産障害は、左島皮質前部の関与に起因すると考えられる。これらのパターンは、神経心理学的プロファイルや臨床経過と相関がある。PNFA患者では、側頭-頭頂連合皮質後部の両側病変が、non-ADよりもAD病理を予測する。PPAおよびprobable ADでは、言語処理の右半球への相対的なシフトとして、大脳の部分的な再編成が報告されているが、このような「側性シフト」の機能効果はまだ予測困難である。プロトン磁気共鳴分光法は、PPAにおける弓状束の非対称性軸索損傷を記録しており、これは、PPAの言語課題において、前方言語野と後方言語野の間の結合性が低下しているという最近のエビデンスを裏付けるものである。このような証拠は、解剖学的プロファイリングにとどまらず、進行性失語症における分散型言語ネットワーク内の解剖学的結合と機能的関係の変化を評価する研究の必要性を強調するものである。

 

8. 進行性失語症の神経生物学
進行性失語症の臨床的分析によって、これらの疾患の神経生物学について数多くの課題が浮上する。本節では、我々は3つの幅広い神経生物学的問題に基づいてこうした課題について考察する。すなわち、進行性および急性失語症の現象論的違いの基盤、臨床的表現型と組織病理学の関係性、遺伝性の発話および言語症候群の分子遺伝学である。

8-1. 喚語困難をきたす急性および進行性の疾患の比較
急性疾患 (特に、血管性失語症候群) や進行性失語症における喚語の障害にはかなりの重複があるものの、1つの状態ではその他の状態と比較してより典型的な特定の症候がみられるものである。こうした違いは、これらの異なる疾患状態における言語機能障害の臨床的分析に関連しており、言語神経生物学的には病態生理学的洞察のきっかけになるという点で非常に興味深い。喚語の障害を顕著にきたす特定の急性および進行性疾患における言語障害の主要な臨床的特徴は、付録 (表A1およびA2) にまとめてある。


表A1. 喚語困難をきたす急性の臨床症候群の比較


表A2. 喚語困難をきたす進行性の臨床症候群の比較

失名辞は、喚語に影響を与えるあらゆる疾患でみられ、しばしば他の言語領域における障害を伴って現れる。失語性脳卒中では、回復の過程において失名辞のみが唯一の後遺症となることはしばしばである。また、慢性側頭葉てんかん患者や側頭葉切除術後の患者においても明らかな言語障害としては唯一のものであることがある。一方で、変性疾患ではびまん性および進行性の疾患プロセスの性質上、純粋な失名辞は珍しい。
単一単語の理解障害は、言語知識の典型的な障害がみられるSDに特徴的であり、同様に急性病変としては側頭葉前部 (特に単純ヘルペス脳炎) を含むものや、上部側頭葉後部を含むものにおいても一般的である。カテゴリ効果は急性疾患においてより一般的であるが、これは各カテゴリごとに分散した機能的領域の完全な破壊を必要とするからだと思われる。変性疾患ではよりびまん性で部分的な損傷が起こるため、このような効果は起こりにくい。上部側頭葉後部 (いわゆる「ウェルニッケ野」) を含む領域の急性損傷による流暢性失語では、単一単語の理解の障害はそこまで重度ではなく、変性疾患でみられる流暢性失語と比較して、むしろ音韻性の誤りや新語 (「ジャーゴン失語」) が顕著である。変性疾患においてジャーゴン失語が起こるためには、上部側頭葉後部から頭頂接合部にかけての病変が必要だと考えられる。実際、新語はADでよく記載されており、進行性ジャーゴン失語・失書は優位半球の頭頂葉を含む病変を持つFTLDの臨床像として記載されている。近年の神経言語学的モデルと実験的データからは、異なる「流暢性」失語を生じる異なる中核的障害が存在する可能性が示唆されている。側頭葉後部とその接続路を含む領域への損傷 (主に急性期脳卒中) は、現在進行形の発話シグナルと貯蔵された運動パターンへ貯蔵された単語表現を選択・マッピングするプロセス、もしくは意味的処理を支配する神経調節システムに影響を与えるが、一方で側頭葉前部を優位に侵す疾患 (主に限局的神経変性) は、言語貯蔵そのものに影響を与える。
急性血管障害と変性疾患を区別する上でさらに重要な知見は、単一単語の理解が変動し、文脈によって調節される、不応性言語アクセス障害という現象にある。この病態では、貯蔵された単語が一時的に使用できなくなる「不応性」がある。たとえば、単語と絵のマッチング課題では、対象語の提示がゆっくりであれば成績が上昇するが、ディストラクタ項目が対象語と意味的に密接に関連しているような場合、成績が低下する。一方、高頻度語と低頻度語では、同等の成績が得られる。これは、たとえばSDで観察されるパターンとは逆で、実際、不応性言語アクセス障害は非変性疾患 (特に脳血管疾患) に特有であると考えられている。貯蔵された単語知識に関連する感覚的・運動的表現を活性化するためには、それらの表現を意味と関連付けたり、発話出力に変換したりする前に、さらに関連する認知過程が必要であると考えられる。不応性障害を単に言語貯蔵への「アクセス」の障害と同一視するのではなく、不応性障害と貯蔵障害を、貯蔵された単語の意味表現に関わる異なる種類の損傷から生じたものとみなす方が適切かもしれない。
音素性の誤りは、急性 (「ブローカ失語」) および慢性進行性 (PNFA) の状況の両者でみられ、古典的には左下前頭皮質を含む領域への損傷と関連付けられており、同時に非流暢性失語と関連づけられていた。音韻性障害は、しばしば失文法と共存し、PNFAやブローカ失語の患者は典型的には電文体または「失文法的」発話を停止、文章理解のレベルでも同時に障害がみられる。さらに、PNFAが一般に進行性AOSと関連付けられているように、ブローカ失語患者もしばしばAOSを伴う。文章理解の障害と音韻性および文法的誤りは、シルビウス烈周囲言語野を含む他の急性および進行性の疾患プロセスとも関連する (たとえば、ADにおけるウェルニッケ失語)。「混合性失語」は、音韻の障害、失文法、言語性意味記憶の部分的崩壊を伴うが、ジャーゴンや運動プログラミングの障害は認めない。優位半球の外側側頭-頭頂領域の選択的な障害によって、前方言語野と後方言語野が同時に障害され、このような変性疾患特有の失語症候群がみられるのだと思われる。
古典的に、「超皮質性」と「伝導」失語はそれぞれ、発話理解と発話生成の皮質「中枢」、およびこれらの中枢を結ぶ解剖学的接続を含む領域への急性損傷によって発生すると考えられている。「超皮質性」感覚および運動失語はそれぞれ、発話の理解や生成が障害されているものの相対的に発話の復唱が保たれていることとから特徴づけられる。反対に、「伝導失語」の特徴は、フレーズのレベルでの発話の復唱が比較的選択的に障害されていることであり、自発的発話は比較的よく保たれている。ここからは、伝導失語では発話の入力と出力経路の間での情報のやり取りが障害されていることが示唆される。また、この障害では、典型的には短期記憶 (神経心理学的には即時記憶) 障害がみられる。これらの異なるパターンは、一般に急性血管症候群として観察されるが、FTLDスペクトラムの進行性失語症でも近似することができる。超皮質性運動失語は、bvFTLD、PSP、その他の変性疾患の先駆症状として生じうる力動性失語に類似した特徴を持ち、超皮質性感覚性失語はSD症候群の流暢性失語に酷似している。一方、伝導性失語はFTLDの臨床的特徴として稀にしか報告されていない。急性疾患において意味カテゴリー効果が目立つことについての説明と類似しているが、超皮質性失語と伝導失語は、機能ネットワークのノード領域が失われているか、逆に両者が切り離されているか、といったような比較的個別の損傷を必要とすると思われる。このような条件は、多くの皮質領域とその機能的結合に不完全な損傷が生じやすい変性疾患ではなく、急性血管損傷で満たされる可能性が高い。認知操作とそれを担う脳領域 (図1) という点では、頭部外傷や脳腫瘍で認められる力動性失語や、側頭葉脳炎で認められる単一単語の理解障害は、血管障害による古典的な超皮質性失語よりも、変性失語に近い類型であると考えられる。
これらの観察から、急性血管性失語と変性失語の間の非類似性の根拠という基本的な問題が提起される。急性失語症候群と進行性失語症候がともに分散型機能ネットワークの中断の影響を示すという点で、急性失語症と進行性失語症はある種の現象的類似性を持つことが予想される。進行性失語症と急性失語症の間の多くの相違は、機能的に接続された脳領域間に分布する慢性的で進化する損傷の影響と、単一のネットワーク構成要素の急性障害の影響を示している。人間の言語野の血管解剖学的構造を考えると、ある種の症候群が急性に起こりやすい (たとえば、局所的な上部側頭葉後部の損傷によるジャーゴン失語) か、起こりにくい (たとえば、側頭葉前部の損傷による意味障害) ことが理解できよう。さらに、変性失語症は、多くの皮質領域とその接続を同時に含む亜全体的な損傷から生じるため、原則として、急性症候群で厳密に近似できない可能性がある。急性梗塞とは対照的に、変性病態は罹患した脳領域内や脳領域間で「ノイズの多い」情報処理を継続できる可能性を持っている。さらに、言語ネットワークの微細構造は、生存している細胞構成要素に異常なタンパク質が沈着する慢性疾患と、ある領域のすべての構成要素が一様に影響を受ける急性壊死では、異なる影響を受けると思われる。

8-2. 臨床-病理相関
背景病理が生前に確認されることはほとんどないが、その予測は臨床診断の究極的目標である。しかし、進行性失語症の臨床-病理相関は依然として問題が多い。近年、進行性の発話および言語障害を有する患者の数多くの剖検シリーズが報告されている。これらの研究から、多くの症例がFTLDスペクトラム内の1つまたは2つの主要な病理学的グループに属することは明らかであった。すなわち、異常tau陽性細胞内封入体がみられる病理 (Pick病、PSP、CBDを含む) と、ユビキチン陽性 (TDP-43陽性) tau陰性病理 (3つのサブタイプが報告されている) である。PNFAと診断された患者の剖検では、tau陽性 (Pick病、CBD、PSPのいずれか) またはユビキチン陽性 (TDP-43陽性) のいずれかであった。いくつかのケースシリーズでは、大部分がtau病理であったが、他方でユビキチン陽性症例が優位であった研究も存在した。ここから、2つの課題が生じる。まず、これらの症例が孤発性であったのか家族性であったのかという点である (孤発性は基本的にtau病理と関連するし、家族性はprogranulin遺伝子変異によるユビキチン/TDP-43陽性病理と関連する)。2つ目は、言語症候群の現象論と、これがどのように定義されるのかという点である。たとえば、進行性AOSとPNFAを比較した最近の研究では、進行性AOSを呈した7例すべてと混合性PNFA/AOSを呈した3例すべてがtau病理を有していた (PSPが5例、CBDが4例、Pick病が1例)。SDは主にユビキチン陽性 (TDP-43陽性) 病理と関連しており、最も一般的なサブタイプはtype 1病理であった。FTLDスペクトラム内での病理学的発見が強調される一方で、一次性の発話および言語の症状を持つ患者の中には剖検段階で一定の比率でAD病理がみられており、これはある剖検シリーズではPNFAやSDの症例の中でもおよそ30%を占めるものであった。進行性AOSもAD病理によって生じたとする報告がある。ロゴペニック型失語の病理は、いまだ疑問の残る部分である。ApoE4アレルの頻度が上昇しているなどの付随的なエビデンスからは、ADがそれなりの数の症例で存在することが示唆されるが、もしこれが優位半球の下頭頂小葉が関与する領域的症候群なのであれば、CBDを含むさらなる疾患との関連も予測される。

8-3. 臨床遺伝学
最近、FOXP2遺伝子の変異による失文法、音韻障害、口顔面失行を伴う発達性言語発話障害が発見され、言語や他の複雑な認知機能の分子遺伝的基盤に対する関心が高まっている。常染色体優性遺伝の遺伝性FTLDは、ほとんどのシリーズで症例のかなりの割合を占めるが、真の家族性進行性失語症は稀と考えられてきた。最近、FTLDの遺伝学的研究が進み、この図式が洗練されてきている。家族性FTLDは4つの遺伝子 (microtubule-associated protein tau: MAPT, progranulin: GRN, valosin-containing protein: VCP, charged multivesicular body protein 2B: CHMP2B) に変異があることが知られている。現在、GRNの変異に関連した進行性言語症候群の報告は多数存在する。表現型スペクトルの詳細は限られているが、記録されている症例の多くはPNFAまたはPNFA-SD混合症候群である。純粋なSD症候群でGRN変異に関連する症例は今のところ示されておらず、実際、SDが家族性であることは非常にまれである。構音の障害 (AOSまたは構音障害) はまれである。さらに、多くの患者はCBD症候群と一致する非対称性の錐体外路症状を有している。GRN変異は、混合性失語症の「左外側側頭-頭頂症候群」の分子基盤の候補であると思われる(Rohrer et al.) MAPT遺伝子変異に関連した一次性の音声言語症候群はまれであるように思われるが、前頭葉の機能障害に関連して力動性失語が発症することがある。
進行性失語症における他の遺伝的要因の役割は、まだ十分に定義されていない。アミロイド前駆体タンパク質 (APP: amyloid precursor protein)、presenilin 1 (PS1)、presenilin 2 (PS2) 遺伝子の変異は、家族性ADを引き起こすことが知られているが、これは家族性FTLDよりはるかに少ない頻度である。ある種のPS1多型がGRN変異と関連しうるという新たなエビデンスを考慮すると、これらの遺伝子のいずれかの変異が一次性言語症候群を引き起こすかどうかを確立するためにさらなる証拠が必要である。プリオンタンパク質のコドン129のヘテロ接合とPPAとの間に関連があることを示唆する報告が1件あるが、これは特定の進行性失語症のサブタイプに関する別の研究では再現されていない。

 

9. 結語と今後の方向性について
進行性失語症の豊富な現象論によって、重要な臨床的課題が提示され、言語の神経生物学における独特の領域が開かれる。喚語困難を呈する患者の正確な臨床診断は、進行性発話言語症候群の分類と、構造的な病歴聴取および診察の原則に基づいたシステマチックな手法に基づくものである。これは、神経内科の臨床における他の領域のやり方と非常に類似している。今回我々は、喚語困難の臨床的分析に対するアプローチを提示した。これは、診断を支援し、そして言語システムの構成に関与する実験的エビデンスの文脈において臨床症状を位置づけるためのものである。しかし、こうした分析は、進行性失語症のより詳細な病態生物学的理解によってのみ解決される問題を提示するものでもある。
進行性失語症は神経言語学的領域の障害が単に組み合わさって生じた以上のものであり、空間的 (機能的につながった脳領域) にも時間的 (障害の進展) にも分散する神経ネットワークの病気である。臨床的局在を示すために、大まかな相関関係を確立することはできるが (図3)、臨床的な障害が単一の脳領域の機能障害に特異的であることはほとんどなく、特定の脳領域がいくつかの異なる症候群の発症に関与していることも多い。進行性失語症における臨床症状と脳の局所的な萎縮との対応関係の探求は、急性失語症症候群と局所的な病変との関連付けを試みた古典的な試みと類似している。特定の言語機能を司る皮質中枢を重視した古典的神経学の言語モデルは、分散した機能ネットワークを重視する神経言語学的説明に道を譲った。いわゆる断絶症候群に対する長年の関心にもかかわらず、分散型神経ネットワークの科学はまだ広く臨床に応用されていないが、進行性失語症の現象論や血管疾患の急性症候群との相違点を理解する鍵になるかもしれない。現在のところ、神経ネットワークの崩壊がもたらす機能的な結果を先験的に予測することは困難であり、神経ネットワークの崩壊が臨床症状を引き起こすメカニズムも詳細には解明されていない。例えば、SD症候群は、言語における側頭葉前部の基本的な重要性を明確に示しているが、この領域と、より広い言語ネットワーク内のブローカ野およびウェルニッケ野といった「古典的」言語皮質との関係には問題が残っている。急性失語症のネットワーク的説明と同様に、変性言語症候群における今後の研究の包括的な課題は、特定の症候群を 'pathway-opaties' または脳領域間の相関的萎縮の動的プロファイルとして特徴付けることであろう。この視点は、健常な脳機能のモデルに制約され、変性疾患における構造-機能相関の多くの明白な不一致を解決するのに役立つであろう。
進行性失語症の多様性と臨床-病理相関の限界に反して、発話と言語の障害が組織病理のサインとして働きうるとするニヒリズムの基盤はない。この臨床-病理の対応を洗練するためには、領域的神経機能障害の発症機序と分散型神経ネットワークの病態生理学の理解が必要となる。進行性失語症は、変性疾患に対する特定の神経細胞集団の選択的脆弱性 (たとえば、SDにおける左側頭葉前部) が時に顕著であることを示している。「分子神経言語学」はまだ始まったばかりの科学であるが、特定の分子的欠陥が特定の臨床的な失語症候群に対応する可能性があることを示唆するものがある。重要な遺伝子産物の後天的な変化は、神経変性疾患における局所的な神経細胞破壊と特異的な神経言語学的効果の両方のメカニズムとして、もっともらしいものである。こうした病態生理学を実証するためには、マルチモーダルなアプローチが必要である。組織損傷と特定の言語機能との詳細な相関関係に加え、代謝および機能イメージング、障害進行をマッピングする縦断イメージング、皮質言語領域をつなぐ軸索経路の完全性を評価する拡散テンソル画像および磁気共鳴分光法などの補完的技術が必要である。びまん性の病理過程と組織損傷の分布の大きな個人差から、VBMのような偏りのない技術を使用して、集団または人口レベルでの発話処理障害のマクロ解剖学的相関を確立することが望ましい。薬物療法やその他の介入 (経頭蓋磁気刺激などによるネットワーク機能の調節は、さらなる次元である。
進行性失語症の研究において重要なテーマは、これらの疾患の合理的な分類と統一された分類システムの基礎となる、症候群定義の改善の必要性である。臨床的、解剖学的、病理学的なレベルの説明が混同されているため、これらの疾患に関する文献はかなり混乱している。神経言語学、構造的・機能的脳イメージング手法、分子生物学は、臨床症状を支える中核的な障害に対して首尾一貫した情報処理モデルを提供することができれば、重要な役割を果たすことができる。PPAスペクトラムの流暢な表現型と非流暢な表現型を分類する最も適切な方法は喫緊の課題であり、これは「流暢さ」の概念に内在する困難を反映している。我々は、進行性流暢性失語症をSDに分類し、運動プログラミングの障害を一次性の言語障害から分離することを支持する。しかし、これをベッドサイドで実施するのは依然として困難である。進行性失語症の真の包括的な記述は、喚語だけでなく、プロソディや音声コミュニケーションに影響を与えるその他の非言語的現象にも及ぶが、これらは従来のモデルや手法ではうまく捉えられない領域である。
神経内科医にとって、喚語困難を呈する患者の早期かつ正確な診断はますます切迫性のある課題である。なぜならば、認知機能を救済できる可能性のある具体的な治療が利用可能となってきているからである。脳イメージングやその他の手法の発展に反して、臨床的評価が重要であることがますます強調されてきている。これは、背景にある疾患プロセスの幅広い異種性と、既存の診断モダリティの相対的な感度の低さを反映するものである。臨床神経学と神経心理学は、問題や矛盾を特定する上で引き続き重要であり、これらに注意を払うことで基本的な概念の進歩につながる可能性がある。神経生物学者にとって、進行性失語症の臨床現象学は、正常または疾患状態の人間の言語システムの実験的研究に情報を提供し続けるだろう。

 

まとめ
・喚語困難とは、広義には自発的発話における障害すべてを指す。狭義の喚語困難は、word retrievalの障害である。
・自発的発話は、(I) メッセージの生成、(II) メッセージの意味、(III) メッセージの構造、(IV) 発話の運動プログラミング の4段階から成る (図1)。
・変性疾患では、これらの各段階でみられる障害の組み合わせによって、症候群が定義される (図2)。
・各段階と解剖学的部位の組み合わせを高解像度に提示することはできないものの、大まかなネットワークとその情報の流れはわかってきており、図3に示される。
・自発的発話の障害を診る臨床家は、自発的発話 (写真や絵の中の場面を説明してもらうなど) の分析のほかに、様々な言語および発話タスクを組み合わせることで、その障害を特徴づけ、症候群化することができ、そこからある程度は背景病理を想定することができるかもしれない。

 

感想
今までで一番長かった。でもすごい勉強になった。感想は後日書きます。