ひびめも

日々のメモです

伝導失語、感覚運動統合、音韻性短期記憶 - 病巣とfMRIデータの統合解析

Conduction aphasia, sensory-motor integration, and phonological short-term memory–an aggregate analysis of lesion and fMRI data.
Buchsbaum, Bradley R., et al.
Brain and language 119.3 (2011): 119-128.

 

伝導失語と言語性STMの関係について調べる過程で見つけたので読みました。
失語と言語性STMの関係性に興味があります今。
ちなみに昨日、自分の言語性STMを数唱で測ってみたのですが、10桁でした…。

 

1. 背景
伝導失語は、Carl Wernickeによって1874年にはじめて記載された症候群であり、自己修正試行を伴う頻繁な音韻性錯誤 (発話の音の誤り)、逐語的復唱の障害、物品呼称の障害を伴うが、発話の流暢性と文法性は保たれることによって特徴づけられる。伝導失語患者は、発話出力にはこうした障害が認められる一方で、聴覚的理解は比較的保たれる。
伝導失語の音韻産生障害は構音企図負荷と関連しており、多音節単語/文章/句の線画呼称または復唱が特に障害される。聴覚的理解の相対的保存のため、伝導失語患者は自身の発話出力の誤りを正確にモニタすることができ、正しい発話出力になるよう試行を続ける。この自己修正行動はしばしば繰り返され (e.g. "baselaw, lacelaw, bacecall, casecall ..." for baseball)、これはconduite d'approcheと呼ばれることがある。
伝導失語の主要症状は音韻レベルの処理過程の障害によって説明される。伝導失語患者の錯語は極めて多様な音素を伴い、復唱障害は音韻性短期記憶の障害を反映し、呼称障害は舌先まで出かかっていることが多く音素手がかりによる恩恵を受ける。もちろん、伝導失語には症候群的な多様性がある。しかし、今回の研究では、我々は「伝導失語」という診断ラベルを、以下のような類似した言語障害を呈する失語患者に対して用いることにした: 流暢だが錯語の多い発話出力、復唱の強い障害、聴覚的理解の相対的保存。
神経科学の伝統では、伝導失語はWernicke野とBroca野を結ぶ弓状束という白質経路に対する損傷に関連付けられてきた。弓状束の病変は、古典的な言語発話システムの感覚および運動モジュールの間の相互作用を阻害するため、伝導失語はしばしば「切断症候群」とみなされてきた。しかし、より最近のエビデンスによれば、弓状束の損傷は伝導失語の必要条件ではないことが示されている。さらに、てんかん患者に対する左上側頭回 (STG) の電気刺激は音素性錯語と聴覚-言語復唱障害をきたすことが示され、ここから皮質機能障害単独で伝導失語の症候群が生まれ得ることが示唆された。最後に、ほとんどの解剖学的エビデンスは、伝導失語がほとんどの場合左上側頭回かつ/または左縁上回の病変 (シルビウス裂の後方を中心とした領域) によっておこることを示唆している。
ここ15年の機能神経画像研究は、この側頭頭頂領域が音韻性短期記憶タスクおよび発話産生タスクに重要な役割を持つことを示している。上側頭領域後部は、物品呼称、単一単語の復唱、黙読、音節の内的構音 (covert articulation) の際に、聴覚性入力やフィードバックがなくとも活動が上昇することが示されている。さらに、発話産生タスク中の上側頭回後部の活動が、語長や頻度などの音韻変数によって調整されることが複数の研究で示されている。聴覚-言語刺激と比較的長い内的維持時間を用いて音韻性短期記憶を検査した研究では、音韻性記憶課題の知覚 (刺激の符号化) と内的リハーサル部分の両方において、側頭平面の後部領域、すなわち area Spt (Sylvian-parietal-temporal) が一貫して活性化することが示されている。
これらの研究における単一被験者の活動の調査によれば、音韻性リハーサルタスク中の最大活動領域が、ほとんどの場合に左シルビウス裂の後端かつ縁上回の下方にある側頭平面であることが示された。そして、音韻性ワーキングメモリ研究における遅延時間活動を示すピークTalairach座標は、基本的発話産生タスクで報告された座標とほとんど同一であった。まとめると、Sptは伝導失語で障害される行動 (復唱、呼称、言語性短期記憶) の遂行中に活動し、患者において実際に損傷を受けることの多い皮質領域に存在する。
最近提唱されている仮説のひとつは、Sptが、音声や音楽を含む複雑な音列の感覚表現と声道関連運動表現を統合するインターフェース部位として機能しているというものである。この仮説によれば伝導失語は、発話産生と音韻性短期記憶における感覚および運動システムの相互作用を仲介するSptとそれを取り囲む組織の損傷によっておこる障害である。このため、伝導失語を特徴づける音素性錯語と復唱障害は、感覚運動統合回路の障害によっておこるものと言える。これによって、下前頭回と腹側前運動皮質に貯蔵されると考えられている調音表現を制約・誘導するための発話の聴覚的表現の容量に障害が生じる。現在のところ、機能的に定義された領域であるSptと伝導失語に関連した損傷部位の対応は間接的かつ近似的であり、解剖学的に不正確である。しかし、voxel-based lesion mappingのような手法の登場によって、同一の正規化された解剖学的空間に機能神経画像の結果を配置することが可能となり、ついに我々は伝導失語がarea Sptに対する病変に関連するのかを直接的に検証することができるようになった。
刺激の提示と記憶テストの間に空白遅延期間を含む音韻性ワーキングメモリの単純なテストは、被験者に入力刺激列を正確に登録および符号化させ、遅延期間の間その符号の内的表現を維持させることを求める。我々は、area Sptの役割として、音韻性ワーキングメモリや単純な復唱の検査の間などで必ず必要とされる、聴覚的「入力」符号から調音的「出力」符号に変換する操作への寄与を提唱する。しかし、 機能神経画像の文脈では、課題の符号化、維持、反応の各要素が時間的に分離されているため、各段階の脳の活性化を個別に評価することができる。したがって、実際問題として、音韻性ワーキングメモリ課題は、刺激知覚時、短期維持時、あるいはその両方において活性化する部位を分離する有用な方法を提供する。
本研究では、5つの研究、3つの研究室にまたがって収集された、音韻性ワーキングメモリパラダイムに関する105の単一被験者fMRIスキャンを収集し、統計的活性化マップの全セットの集計分析を行った。fMRI音韻性ワーキングメモリ解析における活性化の空間パターンを伝導性失語の病変分布と比較するために、fMRIマップの集計と、慢性伝導性失語症患者14人の定位的に正規化された空間における病変分布の連結解析を行った。我々は、伝導失語症患者において病変確率が最大となる領域は、音韻ワーキングメモリのfMRI研究で定義された領域Sptをその境界内に含むと予測し、確認した。考察では、伝導失語がarea Sptの損傷によって引き起こされる感覚運動統合障害であるという考えを支持する証拠を検討する。

 

2. 方法
2-1. 集計fMRI解析
集計fMRI解析に使用したデータは、著者らが過去5年間に実施した5つの言語性ワーキングメモリ研究から得られたものである。これらの研究が選択された理由は、それぞれの研究が、言語的資料の聴覚的提示に続いて、言語的リハーサルを含む遅延期間を含んでおり、これらの課題の「符号化」段階と「遅延」段階の関連するコントラストが、研究に参加した105人の被験者それぞれについて (正規化されていない「ネイティブ」画像空間で) 利用可能であったからである。我々の研究室からの2つの研究は、データセットが比較的小さかったこと (被験者13人)、データが保存されており容易に入手できなかったことから、含めなかった。これら2件の除外を除けば、われわれの研究室で実施され、われわれの包含基準 (以下に詳述) を満たしたすべての研究を対象とした。
これらの研究のうち2つは過去に発表されており、他の3つは現在未発表である (表1)。どの研究も同様の課題パラダイムを用いており、以下のような特徴がある: 1) 短い刺激符号化期間中に音韻刺激を聴覚的に提示すること、2) 少なくとも8秒の遅延期間があり、その間に被験者は記憶すべき項目に対して内的にリハーサルを行うよう指示されること、3) 反応段階があり、提示された項目の記憶が、連続再生またはYes/No回答を必要とする再認記憶プローブによってテストされること、である。各試験において、音韻性ワーキングメモリ中の刺激関連と維持関連の両方の活性化を、試験の符号化段階と遅延段階を別々にモデル化することで評価することができた (図1参照)。

図1. 音韻性短期記憶パラダイムの一般的な課題構造とfMRIモデル: 聴覚的・言語的刺激が提示されるエンコード段階、提示されたばかりの項目を密かにリハーサルするよう指示される遅延時間、順序通りに項目を再生するか、再認判定を行うよう指示されるテスト段階である。

2-2. Lesion Overlap Mapping
参加者は、左半球 (LH) 中大脳動脈領域の脳卒中により慢性伝導失語を呈した患者14名 (女性4名、男性10名)。患者は、VA Northern California Health Care System (VANCHCS) のCenter for Aphasia and Related Disordersの大規模な患者プールから以下の基準に基づいて選ばれた: 英語を母国語とする脳卒中慢性期 (発症後12か月以上) の患者で、精神疾患認知症、神経疾患の既往歴がない。伝導失語の診断は、Western Aphasia Battery (WAB) の成績パターン、すなわち、復唱障害 (0-69%の正答率)、中等度~正常な流暢性 (50-100%の正答率)、比較的良好な理解 (70-100%の正答率) に基づいて行われた。この群では、自発的な発話と呼称の誤りが主に音素性であった。WABの言語スコアは40~88点 (100点満点) であり、いずれも正常言語能力のカットオフ値以下であった (すなわち、全例失語症)。患者の平均年齢は61.6歳 (SD=9.3、範囲48-77)、平均学歴は13.0 (SD=3.7、範囲5-18)、脳卒中後の月数は56.1 (SD=55.8、範囲13-247) であった。各被験者のWABの下位検査の成績は表2を参照。左利きの患者1人と両利きの患者1人を除き、すべての患者は病前右利きであった。

 

3. 結果
3-1. 集計fMRI解析
図2にあるように、前頭葉、外側側頭葉、頭頂葉皮質は、符号化と遅延段階の両方で両側半球の活動が目立っていた。符号化の間、両側側頭葉上部の聴覚および多感覚皮質のほとんど大部分が活動していた。しかし、リハーサルの間は、上側頭領域の活動は一部の領域に限局し、これは左側頭平面後部 (Area Spt)、左上側頭溝後部 (pSTS)、両側中側頭溝 (mSTS) を含んだ。符号化と遅延の両方における前頭皮質の活動は、左半球でも最も頑強であり、運動前皮質、下前頭回、島前部を含む背側-腹側軸に沿っていた (図2)。両側半球の内側壁の補足運動野と上頭頂皮質もまた、リハーサルの段階で信頼性をもって活動していた。リハーサルに関連した単一の最も一貫した領域は、中心前回の背側部に存在した。

図2. 符号化期と遅延期に信頼できる活性化を示した被験者の割合: 4つの脳表面はそれぞれ、符号化>ベースライン、または遅延>ベースラインの対照で有意な活動 (単一被験者レベルでp<0.01) を示した被験者の割合を示している。これらの画像は、皮質全体のパターンを可視化できるように、閾値を設定していない。多重比較で補正した全脳閾値は、符号化で37%、遅延で28%であった。

3-2. 符号化と遅延の接合部
刺激の符号化と言語性記憶維持の両方で活動している領域を調べるため、我々は遅延と符号化の間のメタコントラストの接合解析を行った。このコントラストの目的は、聴覚-知覚符号化と内的リハーサルの間の両方で活動する領域を、2つのタスク相のどちらかでのみ活動している領域と区別することにあった (e.g. 純粋感覚性または純粋リハーサル関連領域)。我々は、以前このコントラストをarea Sptを同定するために用いて、この領域が聴覚入力と内的リハーサルの両方で一貫して活動を見せることを示した。したがって、Sptが感覚-運動特性を持つのであれば、この領域は聴覚-言語知覚と内的発話または内的リハーサルの両方で頑強な活動を見せるはずである。
図3に示すように、両側前頭前皮質の背側および腹側領域、頭頂間溝、STS、および左側頭平面のarea Sptを含む多くの領域が両方のタスク相で活動した。どちらの半球の聴覚皮質もリハーサルの間で活動を見せず、これは先行研究とも一致していた。さらに、area Sptと後部STSは左半球のみで活動し、中部STSは両側半球で活動していた (図3)。

図3. 符号化と遅延相の接合部で信頼性のある活動を見せた患者の比率: 符号化と遅延期の両方で活動を見せた領域を示す左および右の脳膨張表面。表面は22%の閾値で表示されており、この値は全脳調整のp=0.05閾値の値である。

Sptの重複のピークは33% (105人中35人) と比較的控えめに見えるかもしれない。しかしこの数値は、シルビウス裂の軌跡に個人差があるために被験者間で整列が難しい、側頭平面後部の神経解剖学的なばらつきをある程度反映している。単一被験者の活動を視覚的に観察すると、側頭葉後部に活動のクラスターがあることがわかる。これを説明するために、研究#2の被験者14人全員 (表1の番号通り) の符号化∩遅延活性を示す単一スライスを補足図1に示した。各被験者の活性化は、MNI空間への非線形レジストレーションの後、被験者自身のMRIに重ねて表示されている。14人の被験者全員が側頭葉後面に活性化クラスターを持つが、グループオーバーラップマップのピーク値は50%に過ぎない。このように、グループ内の100%の被験者が側頭平面のすぐ近くに活性化を示したとしても、解剖学的なばらつきは非線形レジストレーションでは十分に補正できないほど大きい。

3-3. 伝導失語との比較
音韻性ワーキングメモリと関連する側頭葉内の活動領域を伝導失語の病変分布と直接的に比較するため、fMRI接合解析 (符号化+遅延) を14人の慢性期伝導失語患者の病変重複マップと比較した。伝導失語患者の群で最も高頻度に障害されていた領域は、左側頭頭頂皮質に位置しており、上側頭皮質後部と縁上回および角回に存在した。最も重複が大きかった領域は、図4の右側に示されており、そのピークが側頭平面の後部に存在することがわかる (area Spt)。

図4. 伝導失語と音韻性ワーキングメモリの比較とその重複: 左パネルは伝導失語患者の病巣重複分布を示した非膨張平面である (最大12/14または85%の重複)。中央パネルは集計fMRI解析における符号化と遅延マップの接合を示した図である。右パネルはこれら2つの最大重複領域である。

 

4. 考察
我々の解析の主要な結果は、伝導失語の病巣分布と音韻性短期記憶のfMRI活動領域の最大の重複が左側頭平面領域のarea Sptにみられるということである。この領域は声道運動の感覚運動統合をサポートする部位であるとされている。この後我々は、Sptが感覚運動統合領域であるとする主張をまとめ、この主張が伝導失語の症状複合体をどのように説明できるのかについて議論する。

4-1. area Sptにおける感覚運動統合
感覚-運動統合とは、感覚情報を使って行動を誘導するメカニズムを意味する。視覚に誘導されたリーチ/把持は典型的な例である。コーヒーカップの位置と形状に関する視覚情報を使って、そのカップに向かって手を伸ばし、カップをつかむことができる。このタスクを達成するためには、視覚システムからの位置と形状の情報を、視覚的表現から行動に情報を与える表現に変換しなければならない。動作の正確さを保証するためには、動作中も感覚フィードバックが重要である。このように、感覚と運動の統合は運動コントロールに不可欠である。音声の領域では、音声生成に感覚が関与しているという明確な証拠がある。たとえば、自分の声の聴覚的フィードバックが遅れると、流暢な発話が妨げられる。話者の聴覚フィードバックのピッチや第1フォルマント (音声の周波数帯域) を変えると、音声出力が急速に代償的に調節される。変化した聴覚フィードバックは、変化していない音声と比較して、側頭葉後面を活性化することが分かっており、Sptがこのような感覚運動統合に関与していることが示唆される。Levelt (1983) もまた、発話におけるフィードバックモニタリングの重要性を報告している。
感覚運動系の機能的特性は、視覚系の文脈で広く研究されている。たとえば、マカクザルの頭頂間溝 (IPS) には、感覚-運動統合をサポートする機能領域があることがわかっている。これらの領域は運動エフェクター系を中心に組織化されている。SptはマカクザルIPSの感覚運動野に特徴的な機能特性を示すことが示されている。Sptは、音声の知覚と発声の両方に反応する感覚運動反応特性を示すだけでなく、ハミングのような非音声性声道動作にも反応する。最近の研究では、このようなタスクの感覚期と運動期でSptのボクセル間の活動パターンが異なることが示されており、感覚に重きを置く細胞と運動に重きを置く細胞という、部分的に異なる細胞集団が存在することが示されている。サルのIPS感覚運動野でも、同様の細胞タイプの分布が見出されている。
Sptの活動は、弁蓋部 (BA 44) などの前頭葉の発話産生関連領域と密に相関しており、2つに領域が機能的に結合している可能性が示唆される。Sptの活動は運動エフェクターに選択的であり、出力課題が手動エフェクターの時と比べて、声道の関与を含むような場合に大きな反応性を示す。最後に、Sptは側頭平面後部の皮質を含んでいる。側頭平面はしばしば聴覚領域と考えられている。しかし、ヒト細胞構築学的研究とサルにおける比較研究によれば、後部のPT領域はユニモーダル聴覚皮質の一部ではないことが示されている。これと一致して、関連する機能的研究は、Sptが視覚性発話認識 (読唇) のような声道活動に関連した視覚入力にも反応することを示した。まとめると、Sptは声道の感覚運動統合領域であるとする強い証拠が存在する。

4-2. 感覚運動統合と伝導失語
伝導失語に典型的な復唱障害と発話障害は、Spt野の障害による感覚運動統合の障害とみなすことができると提唱されている。この仮説は、少なくともある状況下では、音声生成は聴覚ガイダンス (e.g. 聴覚フィードバックコントロール) に依存しているという仮定に基づいて、錯語的音声出力をかなり端的に説明するものである。音声レベルの聴覚フィードバックが変化した場合、聴覚システムが迅速かつ自動的に音声生成を誘導することはすでに立証されている (セルフモニタリングによる聴覚誘導の例)。また、より高度な聴覚情報 (音の並びなど) が音声出力を誘導することも明らかである。たとえば、健常者であれば、無意味な音節 (バ・ダ・ガなど)、あるいは新しいメロディーや連続した音色のような非音声刺激を聞いてオウム返しをすることは簡単である (外部入力による聴覚誘導の例)。無意味な音節や音調は概念的・意味的記憶には表現されないため、このような音列の反復には、一連の音を一連の運動命令に変換できる何らかの聴覚-運動インターフェースが必要である。要するに、少なくともある状況下においては、自己発話と他者発話の両方を含め、音響情報が発話を誘導することは明らかである。
伝導失語の場合、逐語的な発話を繰り返すことが困難であることが多く、この困難さは、語長や親和性減少、かつ/または意味的制約の減少によって悪化する。こうした状況では、復唱を成功させるために、聴覚-音韻的痕跡をより広範囲に頼る必要がある。もしSptが損傷していれば、聴覚-運動変換システムは機能不全に陥り、入力の聴覚的な痕跡への依存度が高くなる状況でより多くの誤りを犯すことになる。実際、最近の研究で、伝導失語者は知覚された発話の聴覚-音韻的痕跡を保持する必要がある状況で失敗することが明らかになった。伝導失語のような症状を持つ患者では、音声知覚が損なわれておらず、音声生成が比較的保たれているにもかかわらず、非単語の復唱が不釣り合いに困難であるという症例研究もいくつか発表されている (伝導失語に典型的なエラーも見られる)。このような障害パターンは、ある報告では音韻入力コードと出力コードの断絶の証拠と解釈されており、伝導失語の説明と一致している。興味深いことに、伝導失語の場合、コントロールに比べて遅延聴覚フィードバックの影響が少ないという証拠もある。これは、もし復唱障害の原因が感覚-運動統合システムの障害にあるとすれば、予想されることである。
これによって復唱障害は説明されるが、維持すべき感覚痕跡がない自発性発話出力における錯語はどのように説明すればよいのだろうか?Wernickeが提唱したように、話者はいざ産生しようとしている単語の聴覚-音韻性記憶にある程度依存して発話すると考えるに足る根拠がある。または、Guentherらが現代的運動制御用語として明確に主張したように、発話運動の標的は本質的に聴覚性であると考えられている。もし発話産生の運動制御が聴覚性発話標的によって駆動されていて、聴覚と運動システムのリンクが中断されてしまった場合、自発性発話における誤りの率は上昇する、すなわち錯語が生まれることは予想される。さらに、伝導失語であるように、処理負荷の関数として誤りの率は上昇すると予想される。これと合致して、機能画像研究は発話産生における聴覚関連領域 (SptやSTSを含む) の語長および語頻度効果を証明している: 呼称タスクにおいて、長いまたは低頻度語は、短いまたは高頻度よりも活動が上昇する。このため、現行のモデルは発話産生における音素性錯語を説明できる。
伝導失語には音韻性短期記憶の障害があり、特に音韻ストア要素に影響があるというのが、文献で広く見られる見解である。この要素は、音声理解における聴覚-音韻処理システムとは異なる、音韻情報の一時的な貯蔵要素であると考えられている。音韻ストアの内容は、調音リハーサルによって活性化される。音韻ストアは調音リハーサル機構とともに音韻ループを構成している (図5A)。このモデルによって、音韻ストアの崩壊による復唱障害だけでなく、聴覚-音韻処理システムの保存による正常理解も説明できる。感覚-運動モデルはこの考え方と相容れないわけではない。

図5. 音韻性ループにおけるSptの役割を示す模式図: (A) 一般的に示されている音韻性ループの構造を示す図。(B) 音韻性ループはSptを介する知覚音声中枢と運動音声中枢の間の感覚運動的相互作用から生じると再解釈したもの。

感覚運動説によれば、音韻性短期記憶は感覚運動回路の創発的特性である (図5B)。この考え方によれば、調音リハーサルのメカニズムは音韻性ループモデルと同じであるが、「音韻ストア」は別個の特殊なバッファではなく、理解するための音声処理に関与する聴覚-音韻システムと同じである。最近の大規模病変研究 (N=210) では、STM機能 (digit span) と左STG/STSを含む病変との関連性が示され、この主張の根拠となっている。さらに、感覚成分と運動成分の間の連関は、感覚-運動インターフェース成分によって媒介される。伝導失語の機能障害には、この感覚-運動インターフェース、すなわちarea Sptの障害が関与していると考えられる。このモデルでは、(i) 調音機構が「音韻性記憶」 (聴覚-音韻処理システム) の内容をリフレッシュできなくなったため、音韻性短期記憶の障害が説明でき、(ii) 聴覚-音韻情報が音声生成をサポートするために正常に使用できなくなったため、音韻性錯語が説明でき、(iii) 聴覚-音韻処理システムが損傷を受けていないため、理解力が保たれていることが説明できる。このように、感覚運動論的説明は、音韻性短期記憶を、音声処理に独立して必要とされるシステムの創発的特性として簡明に説明し、この回路を霊長類の頭頂葉に存在することが知られている一群の感覚運動回路と結びつけるだけでなく、伝導失語における音韻性STM障害と音韻性錯語の併発を説明する。
この考え方の1つの問題点は、復唱障害や言語性STM障害があり伝導失語と銘打たれた患者の報告の一部で、呼称や自発性発話産生にほとんど障害がないケースがあることである。第一に特筆すべき点として、今回の伝導失語患者14例はいずれも「復唱伝導失語」と分類されるような障害は示さなかった。すなわち、全員が呼称障害を有し、言語バッテリーで正常カットオフ成績を大きく下回っていた。これは、文献上は自発性発話が障害されていない「純粋な」言語性STM障害を持つごく少数の患者が存在するという事実と合致する。こうしたSTM症例の希少性からは、彼らが非典型的な機能的構成を反映することが示唆される。1つの可能性は、復唱伝導失語は外側上側頭皮質を含む病変と関連するが、より背側のSptはスペアしており、音響-音声マテリアルに関する記憶の障害は呈するものの、聴覚-運動統合に依存するような発話産生処理は保たれるというものである。しかし、この復唱伝導失語によって提示される機能-解剖的パズルに対処するためには、発話産生やSTMの観点で症状重症度が様々な大規模サンプルを持ち、高解像度MRIfMRI活性化パラダイムを統合した研究が必要である。
他の最近の研究と一致して、伝導失語をもたらす病変は、時に上側頭回 (STG) 後外側と上側頭溝 (STS) 後部を含むことがわかった。これらの領域は、音声生成、音声知覚、聴覚-音声的短期記憶を含む様々なタスクにおける活性化に基づいて、音韻処理にも関与している。これらのSTG/STS領域は、図5Bの「音韻処理」システムに対応することが示唆される。もし左のSTG/STS領域が理解のための音韻処理を支えていて、少なくとも一部の伝導失語患者では同じ領域が損傷しているのであれば、なぜこれらの患者では音声理解が保たれているのだろうか?その答えは、音声認識は両側性に組織化されており、右のSTG/STS音声認識を十分にサポートすることで、良好な理解力が得られるからである。この見解は、STG/STSの障害は音声認識課題における実質的な音素知覚障害とは関連しないことを示す慢性期脳卒中研究、急性期脳卒中研究、および左半球全体の不活性化でさえ、聴覚理解における微妙な音素コントラストを区別する能力を実質的に損なわないことを示す和田研究によって証明されている。したがって、左半球STG/STSの聴覚-音韻システムの障害は、この両側のシステムを部分的に破壊するだけであり、理解力はほとんど障害されない。
伝導失語におけるSTG/STSの関与によってもたらされるもう一つの疑問は、この領域の損傷によって、Sptの損傷とは異なる障害が生じるかどうかということである。機能的な観点からは、伝導失語のような症状は、左半球の聴覚-音韻系か、あるいはこれらの系と調音系とのインターフェースであるネットワーク (Spt) のいずれかが損傷されることによって生じると考えられる (運動系とのインターフェースは主に左半球の聴覚-音韻系ネットワークであると仮定する)。聴覚-音韻系が運動系とインターフェースできないため (Sptの損傷) 、あるいは聴覚-音韻系そのもの、つまり運動系とインターフェースする部分が障害されるため (STG/STSの損傷)、どちらかの構成要素が損傷されると、錯語的誤りや復唱障害、音韻性STMの障害が生じる可能性がある。伝導失語には、これら2つの構成要素の寄与を区別する1つの症状がある。伝導失語では、語想起の障害が一般的であり、この障害は典型的には舌先まで出かかっているような状態として現れる。純粋な感覚運動統合の障害が音韻形態へのアクセスの障害を引き起こす明白な理由はない。つまり、音韻形態は正確に活性化されるはずだが、そのような音韻形態を産出しようとする試みは、錯語的誤りを引き起こす可能性がある。したがって、STG/STSにおける聴覚-音韻ネットワークの障害が、伝導失語における語想起障害の主な原因であると考えられる。この見解には示唆的な証拠がいくつかある。伝導失語の症例をシルビウス裂より上の障害とシルビウス裂より下の障害で比較した研究では、シルビウス裂より下の障害の症例はシルビウス裂より上の障害の症例よりも呼称が困難であった。この同じ研究では、聴覚-音韻系が部分的に損傷している場合に予想されるように、シルビウス裂より下の障害例は理解尺度でも成績が悪かった。感覚運動インターフェースの損傷は、少なくとも音韻処理システムの損傷と同じくらい復唱を障害するはずである。しかし、復唱テストには意味的に意味のある項目が含まれており、それが次のような効果を引き起こした可能性がある。微妙な意味の区別が必要でない限り、復唱は意味的な経路で達成できる。聴覚-音韻ネットワークに (部分的な) 損傷を受け、理解スコアがわずかに低下した下シルビウス群よりも、上シルビウス群の方が、意味ルートをより効果的に利用できたのかもしれない。私たちは、非単語復唱課題では同等の障害が起こるだろうと予測している。全体として、これらの所見は、伝導失語の諸症状への関与という点で、STG/STSとSptの機能的差異を示唆するものであるが、確固とした結論を出すためには、より大きなサンプルサイズとより正確な局在を用いたさらなる研究が必要である。
また、Sptは発話に特異的ではなく、調音刺激が含まれる時にも同等に活動するという点は特記すべきである。これは、調性刺激のための感覚運動タスクがハミングのような声道動作に関連することを考えると、Sptが声道のための感覚運動統合をサポートしているという主張と合致する。この発見は、伝導失語で復唱のみならず新しいメロディーや調音系列の「反復」が障害されることを予測する。この行為はあまり評価されていないが、2つの研究がこのような調性刺激の連続即時再生を含む障害を報告している。このうち1つは、伝導失語患者がバイナリ数列の再生 (e.g. 1-2-2-1-1) よりもバイナリ調列の再生でより悪い成績を呈したことを報告した。

 

5. まとめと結論
我々は、今回の発見を含む様々な根拠に基づいて、伝導失語は声道運動系の感覚運動統合領域であるarea Sptの損傷による「背側経路疾患」であることを主張した。この伝導失語の説明は、音素性錯語や復唱障害の存在を説明するだけでなく、短期記憶容量は専属記憶バッファーを持つシステムというよりも、感覚運動回路の創発的特性であるという仮定に基づいて、音韻性STMの障害をも説明した。左半球の聴覚-音韻処理システムへの部分的ダメージは、一部の症例のこうした症状すべてを説明するし、また喚語困難をも説明できるかもしれない。聴覚理解は伝導失語で比較的保たれているが、これは聴覚-音韻処理システムの両側性構成によるものであるとする説明と、病巣が側頭平面後部/縁上回領域に限局しているからであるとする説明がある。この伝導失語の感覚運動的説明は、この症候群を説明する上で聴覚と運動との間の相互作用の乱れということを訴えたウェルニッケの最初の提案の精神に非常に近いものである。しかし、我々の現代的な説明では、聴覚-運動相互作用は、単なる白質経路ではなく、皮質ネットワークによって媒介されると提唱しており、聴覚-音韻処理システムの両側編成を訴えることで、維持された理解力を説明している。
最後に、音声やその他の声道動作に対する聴覚-運動統合は、他の領域における感覚-運動統合システムと同様に組織化されているという提案により、音声処理ネットワーク (および伝導失語) は、感覚・運動系の皮質組織化に関する研究のより広範な文脈に位置づけられる。感覚処理の流れが2つに大別され、一方は運動系と密接に関連し、もう一方は間接的な、おそらくは行動系と意味によって媒介された関連しか持たないということは、一般に皮質の感覚系の組織的特性であるように思われる。この結果は、伝統的に異なる研究領域間の収束の例として満足のいくものであるだけでなく、分野間の相互肥沃化の扉を開くものでもある。

 

感想
難しいけどおもしれー。要はarea Sptがauditory-guided voice tract-related actionのinterfaceであるということだね!そしてauditory-guidedなので言語だけじゃなくて歌もやられるということらしい。今度このあたりの病変がある人に歌の反復やってもらおう。
チラっと出てきた復唱の意味経路という表現が気になって調べてみたら一応そういうことは言われているみたいで、復唱には (i) 聴覚-音韻依存の経路、(ii) 意味を介した経路、の2つがあるとのこと。Area Sptの障害があると、意味を介しても自発性発話で錯語が出ちゃうからいずれにせよ復唱は障害されると思うけど、意味を介して文字出力させたり再認させたりしたら保たれるのかな。