ひびめも

日々のメモです

アルツハイマー病に関する包括的レビュー:原因と治療

Comprehensive review on Alzheimer’s disease: Causes and treatment.
Breijyeh, Zeinab, and Rafik Karaman.
Molecules 25.24 (2020): 5789.

 

ADの勉強したくて読んでみました。
でも、臨床の人にはおすすめできないです・・・。ちゃんと著者の専門分野見てから読むべきだった・・・。


1. 背景
アルツハイマー病 (AD: Alzheimer's disease) は、最もありふれた認知症の一型であり、内側側頭葉と大脳新皮質へのアミロイドβペプチド (Aβ) の蓄積によって出現する、老人斑 (neuritic plaques) と神経原線維変化 (neurofibrillary tangles) (図1) によって特徴づけられる緩徐進行性の神経変性疾患である。Alois Alzheimerは、記憶障害と人格変化を呈した彼の第一の患者の剖検脳を検査している際に、アミロイドプラークと大量のニューロンの脱落に気づき、これを大脳皮質の深刻な病気であると記載した。Emil Kraepelinは、彼の精神医学の教科書の第8版になってようやく、この医学的状態をアルツハイマー病と初めて記載した。認知機能の進行性の低下は、ADのような大脳病変や、毒素、感染、脳への酸素供給を低下させる呼吸循環系の異常、栄養失調、ビタミンB12欠乏、腫瘍などの多様な因子によっても引き起こされる。

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図1. (a) 健常脳 および (b) AD脳 における、脳とニューロンの構造。

現在、世界では5000万のAD患者が存在し、この数字は5年ごとに倍増し、2050年には1億5200万に達すると考えられている。ADは患者個人、その家族、経済に対する負荷となり、推定全世界負担は年に1兆ドルである。現時点では、ADに対する治療は存在せず、症状を改善する治療が存在するのみである。本レビューの目的は、ADの診断、病理、原因、現在の治療法について手短に説明した上で、Aβやtauの凝集、ミスフォールディング、炎症、酸化ダメージなどのいくつかの病原性メカニズムをターゲットとしたADの新規治療法の開発に注目する。

 

2. アルツハイマー病の診断基準
ADが疑われた患者は、神経診察、脳MRIビタミンB12を含む血液検査、既往歴や家族歴の聴取を含むベッドサイド診察などの、いくつかの検査を受けるべきである。ビタミンB12欠乏は神経障害との関連性が長く語られてきており、ADのリスクともなることがいくつかの研究から知られている。ビタミンB12欠乏のマーカーとしてホモシステイン値の上昇があるが、これ自体が酸化ストレス、カルシウム流入の増加、アポトーシスによって脳損傷を引き起こしうると考えられている。
1984年、NINCDS (the National Institute of Neurological and Communicative Disorders and Stroke) と ADRDA (the Alzheimer's Disease and Related Disorders Association) はワーキンググループを形成し (NINCDS-ADRDA)、ADの臨床的診断基準を作成した。この基準では、(1) probable AD は、神経心理学的検査によって確認される記憶障害や失語・失行・失認といった症状があり、それが進行性の経過をたどり、それがADLを障害する、ということによって確認される認知症であり、こうした症状は40-90歳の間に始まり、他の全身性疾患や脳疾患が存在しない、という条件下での診断である。また、(2) possible AD は、他の全身性疾患や脳疾患の存在があってもいいが、それが認知症の主要な原因でないこと、そして他の神経精神疾患がないという条件下での診断、(3) definite AD は、生検や剖検によって組織病理学的確認が取れている場合の診断、と分けられた。
2011年、NIA/AA (the National Institute on Aging - Alzheimer's Association) はこの1984年のNINCDS-ADRDA基準を更新しいくつかの変更を加え、AD診断に対する感度と特異度の向上を図った。新しい基準では、臨床的バイオマーカーの使用に加え、臨床的場面では probable / possible AD dementia という用語を用い、研究目的では probable / possible AD dementia with pathophysiological evidence という用語を用いることとした。ADバイオマーカーには2つのカテゴリが存在し、(a) PETやCSFを用いた脳アミロイドマーカー、(b) CSF tau、FDG、脳MRIを用いた神経損傷マーカーに分けられる。

 

3. アルツハイマー病の神経病理
ADでは、疾患進行と症状に関する証拠を提供する2種類の神経病理学的変化が存在する。すなわち、(1) positive lesions (蓄積による): neurofibrillary tangles, amyloid plaques, dystrophic neurites, neuropil threads など、(2) negative lesions (損傷による): 神経細胞、ニューロピル、シナプスの脱落による脳萎縮、である。さらに、神経炎症、酸化ストレス、コリン作動性神経の損傷といった他の因子も神経変性を引き起こし得る。

3-1. 老人斑 (SP: Senile Plaques)
老人斑はβアミロイド蛋白 (Aβ) の細胞外沈着であり、neuritic、diffuse、dense-cored、compact type plaque などの異なる形態を持つタイプが存在する。β-secretaseやγ-secretaseといった蛋白分解酵素が、膜貫通蛋白であるアミロイド前駆蛋白 (APP: amyloid precursor protein) からAβ沈着物を生成するために必要である。これらの酵素は、APPを複数のアミノ酸フラグメントに分解する: 43、45、46、48、49、51アミノ酸のものがあり、これらが最終的にAβ40とAβ42となる。Aβモノマーには異なるいくつかの種類があり、アミロイドプラークを形成する高分子量で不溶性のアミロイドフィブリルもあれば、脳内で伝播しうる可溶性のオリゴマーもある。Aβは神経毒性と神経機能に大きな影響を与えるため、海馬、扁桃、大脳皮質への高密度プラークの蓄積は、アストロサイドやミクログリアへの刺激となる他、軸索や樹状突起へのダメージ、シナプスの脱落といった影響もみられる。

3-2. 神経原線維変化 (NFTs: Neurofibrillary Tangles)
NFTsは過剰にリン酸化されたtau蛋白から成る異常フィラメントであり、あるステージからは互いに巻きつきあうことで paired helical filament (PHF) を形成し、神経細胞核周囲の細胞質、軸索、樹状突起に蓄積し、細胞骨格の微小管や微小管関連蛋白質の喪失につながる。過剰にリン酸化されたtau蛋白は、AD患者の脳内のNFTsの主要な構成要素であり、その形態学的な進展段階は以下のように区分されている。(1) pre-tangle phaseでは、PHFを形成していないリン酸化tau蛋白がNFTとして細胞体樹状突起コンパートメントに蓄積する。(2) mature NFTsとなると、tau蛋白のフィラメントの凝集によって核が細胞体の周辺部に移動する。(3) ghost NFTs stageでは、蛋白分解しきれないほどの大量のtauフィラメントによって神経細胞死が起こり、細胞外にtangleが見られるようになる。

3-3. シナプスの脱落
新皮質と辺縁系におけるシナプスの損傷は、ADの初期から一般に観察される記憶障害を引き起こす。シナプス脱落は、軸索輸送の障害、ミトコンドリアの障害、酸化ストレス、シナプス部位へのAβやtauの蓄積といった、多様なメカニズムによって起こる。こうしたプロセスは、最終的に樹状突起スパインシナプス前終末の脱落、軸索ジストロフィーにつながる。neurograninのようなシナプス後部神経蛋白質、visinin-like protein-1 (VILIP-1)、synaptotagmin-1のようなシナプス蛋白は、シナプス脱落の検出やその重症度のバイオマーカーとなる。

 

4. アルツハイマー病のステージ
ADの臨床病期は、次のように分けられる。(1) pre-clinical または pre-symptomatic stage は、数年以上続く期間である。このステージは、軽度の記憶障害と、大脳皮質および海馬の初期の病理学的変化によって特徴づけられ、日常生活への機能的障害は認められず、またADの臨床徴候や症状も認められない。(2) mild または early stage は、記憶障害や注意障害、時間や場所の見当識障害、気分変調、うつといった症状が現れてそれが日常生活に支障をきたすようになった段階である。(3) moderate stage は、疾患が大脳皮質領域に広がることによって記憶障害が増悪し、家族や友人を認知することができなくなったり、衝動制御障害、書字障害、読字障害、会話への障害をきたすようになった段階である。(4) severe または late stage は、大脳皮質全体への neuritic plaques と NFTs の沈着によって、進行性の機能障害および認知障害をきたし、家族のこともまったく認知することができず、寝たきりとなり、嚥下障害や排尿障害を起こし、こうした合併症によって患者を死に至らせる段階である。

 

5. アルツハイマー病の原因とリスク因子
ADは、年齢、遺伝因子、頭部外傷、血管障害、感染、環境因子 (重金属、微量元素など) といった複数のリスク因子 (図2) と関連する多因子疾患である。ADの病理学的変化 (Aβ、NFTs、シナプス脱落) の原因は未だよくわかっていない。ADの原因として複数の仮説が立てられているが、うち2つが主要な原因であると考えられている。一部の研究者は、コリン作動性機能の障害がADの重要なリスク因子であると考えており、他の研究者はアミロイドβ蛋白の産生と処理の変調が主な疾患進行因子であると考えている。しかし、現時点ではADの病態機序を説明する受け入れられた仮説は存在しない。

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図2. アルツハイマー病のリスク因子

5-1. アルツハイマー病の仮説
5-1-1. コリン作動性仮説: 1970年、新皮質のシナプス前コリン作動性線維の障害が、アセチルコリン (ACh: acethylcholine) の生成に関与するコリンアセチルトランスフェラーゼ (ChAT: choline acethyltransferase) という酵素と関連していると報告された。認知機能におけるAChの重要な役割によって、ADのコリン作動性仮説が提唱された。AChは、コリン作動性ニューロンの細胞質でChATによってコリンとアセチル補酵素Aから合成され、シナプス小胞にVAChT (vesicular acetylcholine transporter) を通って運搬される (図3)。脳内では、AChは記憶、注意、感覚情報、学習、他の重要な機能を含む複数の生理学的プロセスに関与している。ADではコリン作動性ニューロンの変性が起こり、認知機能の変化と記憶障害を引き起こすと考えられている。βアミロイドは、コリンの取り込みとAChの放出を減少させ、コリン作動性の神経伝達に影響を及ぼすと考えられている。いくつかの研究では、コリン作動性シナプスの脱落とアミロイドフィブリルの形成は、Aβオリゴマーの神経毒性と、AChEとAβペプチドの相互作用に関連していることが示されている。また、コリン作動性シナプス前のニコチン受容体やムスカリン受容体 (M2) の減少や、グルタミン酸濃度やD-アスパラギン酸の取り込みがAD脳で顕著に減少していることから示唆される興奮性アミノ酸 (EAA: axcitatory amino acid) による神経伝達の障害も、ADの進行に寄与していると考えられている。また、スコポラミンなどのコリン受容体拮抗薬の使用によって健忘が引き起こされることも知られている。この効果は、アセチルコリンの生成を促進する化合物の使用によって阻害することもできる。

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図3. シナプス前終末と後終末におけるアセチルコリンの生成と輸送。

結果として、コリン作動性仮説は3つの事実に基づいている。すなわち、大脳皮質のシナプス前コリン作動性マーカーの減少、皮質コリン作動性線維の源である前脳基底部のMeynert基底核 (NBM: nucleus basalis of Meynert) の重度の神経変性、コリン拮抗薬が記憶障害に関連しコリン作動薬が逆の効果を示すことである。

5-1-2. アミロイド仮説: 数十年にわたり、中枢神経系におけるβシートの異常な沈着が認知症と強い関連を持っていることが認識されており、これがアミロイド仮説の考え方につながった。しかし、アミロイドプラーク (AP: amyloid plaques) は加齢に伴い健常脳でも沈着することが発見され、AP沈着がADの発症原因になるのかどうかについて疑問が呈されるようになった。従って、最近では孤発性AD (NIAD: non-inherited form of AD) については代替仮説が提唱されているが、家族性AD (inherited AD) に関しては現時点でもアミロイド仮説が最もよく受け入れられた病理学的メカニズムである。アミロイド仮説は、加齢や病的変化によって、β/γ-secretazeによってAPPから生成されるAβの分解が障害されることで、Aβペプチド (Aβ40 および Aβ42) の蓄積が起こるという考え方である。Aβ42/Aβ40比の増加はAβアミロイドフィブリルの形成を引き起こし、神経毒性やtau病理を誘導し、結果的に神経細胞死や神経変性を引き起こす。ADリスク因子や、APP、PSEN1、PSEN2といったいくつかの遺伝子の変異は、Aβの異化と同化に影響を及ぼし、これがAβの急速な蓄積と急速な神経変性の進行を引き起こすと考えられている。

5-2. アルツハイマー病のリスク因子
5-2-1. 加齢: ADの最も重要なリスク因子は加齢である。若年者はほとんどこの疾患を発症せず、ほとんどのAD症例は65歳以上で発症する高齢発症型である。加齢は、脳の容積と重量の減少、シナプスの脱落、SP沈着やNFTを伴う特定部位の脳室拡大など、複数の臓器や細胞系を通じて起こる複雑かつ不可逆的なプロセスである。さらに、グルコース代謝低下、コレステロールホメオスタシス異常、ミトコンドリア機能障害、うつ病、認知機能低下など、加齢に伴いいくつかの病態が出現する可能性がある。これらの変化は正常な加齢にも現れるため、AD初期の症例と区別することは困難である。ADは、発症年齢によって分類され、そのうちの1つはEOAD (early-onset AD) と分けられる。EOADは、症例の約1~6%を占めるまれな病型で、そのほとんどが、複数世代にAD患者が1人以上いることを特徴とする家族性ADであり、30-65歳で発症するものである。2つ目のタイプはLOAD (late-onset AD)で、発症年齢が65歳以上である。どちらのタイプも、ADの病歴が陽性である家系を持つ人や、LOADを持つ家系に発症する可能性がある。

5-2-2. 遺伝: 遺伝的因子が長年にわたって見出されてきており、ADの発症に大きな役割を果たしていることがわかった。EOADのほとんどの症例は常染色体優性遺伝であり、Amyloid precursor protein (APP)、Presenilin-1 (PSEN-1)、Presenilin-2 (PSEN-2)、apolipoprotein E (ApoE) などの優性遺伝子の変異がADと関連している。
ここで、我々はADにおける強い遺伝的リスク因子について議論する。

5-2-2-(1): APP (Amyloid Precursor Protein)
APPは、type I 膜貫通蛋白質であり、α-、β-、γ-secretaseによって分解されてAβや他の蛋白質を生成する、21番染色体上のAPP遺伝子によってコードされる蛋白質である。APP遺伝子には30個の変異が発見されており、うち25はADと関連し、Aβの蓄積を引き起こすことが知られている。一方で、A673TはAβ、Aβ40、Aβ42の分泌を減少させることで保護的に働く変異である。全ての変異はsecretaseによる切断部位の周囲に存在し、たとえばKM670/671NL変異は、マウスモデルで海馬および皮質のNFTsを伴わないアミロイドプラークの増加に関連することが示されている。A673V、D678H、D678N、E682K、K687N変異は皮質の萎縮と関連し、E682Kは海馬の萎縮と関連する。神経病理学的研究では、細胞内Aβに変化をきたさない他の変異と異なり、A673V変異では、NFTsとAβの出現、ミクログリアとアストロサイトの活性化、神経細胞脱落が見られることが報告されている。T714I、V715A、V715M、V717I、V717L、L723P、K724N、I716Vといった変異では、γ-secretaseの切断部位に影響が及びAβ42/Aβ40比が増加するが、E693G、E693K、D694N、A692G変異ではα-secretaseの切断部位に影響が及ぶため、膜統合性を崩す力を持つ多型凝集体が発生する。また、E693Δはシナプス毒性のあるAβを形成するdeletion変異である。

5-2-2-(2): Presenilin-1 (PSEN-1) と Presenilin-2 (PSEN-2)
PSEN1とPSEN2遺伝子はEOADの常染色体優性遺伝の原因となる遺伝子で、それぞれ14番染色体および1番染色体に存在する。PSEN1とPSEN2は相同体であり、67%の相同性があるが、N末端と親水性領域に違いがある。PSEN1遺伝子の変異がより一般的であり、200以上の変異が発見されているが、PSEN2遺伝子変異は40以下と稀である。
PSEN1はγ-secretase複合体を活性化させる主要な蛋白質であり、APPからAβを産生させるにあたり重要な役割を持つ。PSEN1のノックアウトマウスではシナプス機能障害と記憶障害が認められており、記憶とニューロンの維持に不可欠な役割を持つと考えられる。PSEN1変異は単一アミノ酸置換を含む単純なものであり、2つのアミノ酸の置換では重症となる。PSEN1遺伝子変異はAβ40を減少させることでAβ42/Aβ40比を増加させる。
Sunらの研究では、C410YまたはL435F変異はAβ40の顕著な減少によるAβ42/Aβ40比の増大を引き起こしたことが報告された。
一方で、PSEN2変異は稀であり、Aβの産生に果たす役割は少ない。しかし、正常なPSEN1アレルを持つ家族性AD患者でもPSEN2の変異がAβ42/40の増大をきたすことが報告されている。N141I、T122P、M239V、M239IといったPSEN2変異のいくつかはγ-secretase活性の上昇と関連し、Aβ42およびAβ42/40比の増大を起こす。一方、他の変異は稀な多型であり、Aβ42、40、42/40比には影響しないため、病原性変異ではないと考えられている。

5-2-2-(3): Apolipoprotein E (ApoE)
ApoE蛋白は、肝臓や脳のアストロサイトおよびミクログリアの一部で高発現する糖蛋白質であり、ミエリン生成や正常な脳機能に不可欠であるコレステロールなどを含むリポ蛋白粒子の、受容体を介したエンドサイトーシスリガンドとして働く。ApoE遺伝子は19番染色体に存在し、コーディング領域のSNPによって、ApoE2、ApoE3、ApoE4の3つのアイソフォームを持つ。ApoEε4アレルはApoEε2とApoEε3アレルと比較してEOADやLOADの両者の強いリスク因子となる一方で、後者2つは保護的効果により発症リスクを低減させる。ApoEε4はAβのSPとしての蓄積に重要な役割を持ち、また脳アミロイド血管症 (CAA: cerebral amyloid angiopathy) を引き起こす。ApoEε4は脳内での血管へのダメージにも関連しており、これがADの発症の一因となることも知られている。

5-2-2-(4): ATP Binding Cassette Transporter A1 (ABCA1)
ATP-binding cassette transporter A1 (ABCA1) はABCトランスポーターファミリーの一種であり、ApoAI (apolipoprotein AI) や ApoE のように、全身循環や脳へのコレステロール流出を制御する。さらに、ABCA1はApoEの脂質化の安定性を維持し、HDLの生成のメディエーターとして機能することで、動脈硬化や心血管疾患の発症に関与する。ADマウスモデルにおける研究によって、ABCA1の欠損はアミロイドプラークの増加とApoEの脂質化の低下を引き起こすことがわかった。ヒトでは、ABCA1変異はTangier病と言って、血清HDLおよびApoAIの低下と全身組織へのコレステロールの蓄積および、ADの発症を特徴とする疾患を引き起こす。

5-2-2-(5): Clusterin (CLU) と Bridging Integrator 1 (BIN1)
家族性ADあるいはEOADをもたらすPSEN1、PSEN2、APP変異とは対照的に、clusterin (CLU) とBridging Integrator 1 (BIN1) 遺伝子はLOADの新規危険因子である。2009年、ゲノムワイド関連研究 (GWAS) により、8番染色体上に位置するCLU遺伝子が同定された。CLU遺伝子は、ADの脳脊髄液と血漿に加えて、AD脳の大脳皮質と海馬でも発現が上昇しており、ADのバイオマーカーとして有望である。CLUは、Aβと相互作用してそのクリアランスを促進することにより保護的な役割を果たすか、あるいはAβのクリアランスを低下させることにより神経毒性的な役割を果たす可能性がある。Aβ比の値は、CLUの役割が神経保護的か神経毒性かを決定する。
BIN1 は Bin-Amphiphysin-Rvs (BAR) アダプター蛋白質であり、膜湾曲の維持や他のエンドサイトーシス細胞機能に関与している。BIN1にはいくつかのアイソフォームがあり、 clathrin、synaptojanin、amphiphysin 1などの異なる蛋白質と相互作用する脳内のものや、シナプス小胞のエンドサイトーシスを制御するものもある。最近、BIN1はApoEに次ぐLOADの危険因子として認識され、Aβ産生に関与し、タウやNFTの病理学的調節因子としての役割を担っている。

5-2-2-(6): Evolutionarily Conserved Signaling Intermediate in Toll pathway (ECSIT)
AD脳におけるAβの著しい蓄積は蛋白質の酸化を増加させるが、これはAβの細胞毒性とAD発症におけるミトコンドリアの重要な役割を反映している。ECSIT遺伝子は19番染色体上に位置し、ADのリスクを増加させる。ECSITは、細胞質およびシグナル伝達蛋白質として機能し、ミトコンドリア呼吸複合体を安定化させる役割を担うアダプター蛋白質をコードしている。さらに、このアダプター蛋白質は、NF-κB、IRF (Interferon Regulatory Factor)、activating protein-1の活性化に関与している。TLR (Toll-like receptor)、BMP (bone morphogenetic pathway)、TGF-β (transforming growth factor-beta) 経路にも関与している。
ECSITは、Lon protease homolog (LONP1) や glutaryl-CoA dehydrogenase (GCDH) などのミトコンドリア蛋白質と相互作用し、それぞれミトコンドリア内の蛋白質質分解や酸化還元シグナル伝達に関与し、次いでAD seed nitric oxide synthase (NOS3)と相互作用する。さらに、ECSITとAD遺伝子のApoE、PSEN-1、PSEN-2との相互作用も示されている。これらの相互作用は、ECSITがADにおける酸化ストレス、炎症、ミトコンドリア機能障害における分子的リンクとしての役割を担っていることを裏付けている。

5-2-2-(7): Estrogen Receptor Gene (ESR)
ADは女性も男性も罹患するが、AD患者の3分の2近くは女性である。いくつかの研究で、ADの女性は男性よりも精神症状の悪化が重度であることが示されている。さらに、遺伝子レベルでは、ApoE4アレルのようないくつかの遺伝子の変異が、男性に比べて女性のADリスクを有意に増加させる。エストロゲンは、神経伝達、神経発達、生存、酸化ストレスからの保護、Aβペプチドレベルの低下、タウの過リン酸化の抑制など、脳におけるいくつかの活動を制御している。エストロゲン活性は、エストロゲン受容体 (ER: estrogen receptor) (細胞内、膜貫通型、膜結合型ER) を介して媒介される。これらの受容体の2つの主要なサブタイプはERαとERβであり、それぞれ2つの異なる遺伝子によってコードされ、第6染色体と第14染色体に存在する。ERα受容体は視床下部扁桃体に、ERβ受容体は海馬と大脳皮質に存在する。ERβおよびERα遺伝子のSNPは、高齢女性における外因性エストロゲンに影響を与え、認知加齢に影響を及ぼす可能性がある。PvuII (rs9340799) とXbal (rs223493) はERαにみられるSNPの一例であり、ADや認知障害と関連している。また、ERβのいくつかのSNPは、女性のADリスクを増加させることが証明されている。

5-2-3. 環境因子: 加齢や遺伝的危険因子でADの全症例を説明することはできない。大気汚染、食事、金属、感染症、その他多くの環境リスク因子は、酸化ストレスや炎症を誘発し、AD発症リスクを高める可能性がある。ここでは、最も重要な環境因子とADとの関係を報告する。

5-2-3-(1): 大気汚染
大気汚染は、化学的、物理的、生物学的汚染物質の導入によって大気の性質を変化させることを特徴とする。大気汚染は呼吸器疾患や循環器疾患と関連しており、最近ではADとの関連も報告されている。米国では、オゾン (O3)、窒素酸化物 (NOx)、一酸化炭素 (CO)、粒子状物質 (PM)、二酸化硫黄 (SO2)、鉛 の6つの大気汚染物質が、人の健康を脅かすものとして、国家大気質基準で定義されている。動物や細胞モデルの研究では、高レベルの大気汚染にさらされると、前頭皮質領域に加えて嗅粘膜や嗅球にも、ADで観察されるのと同様の損傷が生じることが示されている。大気汚染物質に暴露された患者では、酸化ストレス、神経炎症、神経変性の間に関連があり、前頭葉皮質には過リン酸化タウとAβプラークが存在する。大気汚染は、Aβ42の形成や蓄積の増加、認知機能の低下を引き起こす可能性がある。

5-2-3-(2): 食事
近年、ADにおける栄養の役割に関する研究が増加している。抗酸化物質、ビタミン、ポリフェノール、魚などのいくつかの栄養補助食品がADリスクを低下させることが報告された一方で、飽和脂肪酸および高カロリー摂取はADリスクを増加させることが報告された。食品加工は、熱に弱い微量栄養素 (ビタミンCや葉酸など) の分解、大量の水分の喪失、蛋白質、脂質、核酸中の遊離アミノ基の非酵素的糖化による有毒な二次生成物 (AGEs: advanced glycation end products) の形成を引き起こす。AGEsの毒性は、細胞表面の受容体や細胞内蛋白質の構造や機能を変化させることにより、酸化ストレスや炎症を誘発することである。様々な研究により、血清中のAGEs濃度の上昇が認知機能の低下やADの進行と関連することが示されている。AGE受容体 (RAGE: AGE receptor) は、ミクログリアやアストロサイトを含む体内の様々な場所に存在し、AD患者の脳で過剰発現し、Aβのトランスポーターおよび細胞表面受容体として機能することが証明されている。栄養不良はADのもう一つの危険因子である。葉酸ビタミンB12ビタミンDなどの栄養素の欠乏は、認知機能の低下を引き起こす可能性があり、さらに、AD患者は摂食嚥下に関連した問題を有しがちであるため、栄養不良のリスクが高まる可能性がある。

5-2-3-(3): 金属
金属は自然界や生体系に存在し、生体内で生理的機能を持つ生体金属 (e.g. 銅、亜鉛、鉄) と、生体機能を持たない毒性金属 (e.g. アルミニウム、鉛) に分けられる。アルミニウムは、加工食品、化粧品、医療用製剤、医薬品などの産業で多く使用されている。体内では、アルミニウムは血漿トランスフェリンやクエン酸分子に結合し、これらがアルミニウムの脳への移行を媒介する。アルミニウムは、大脳皮質、海馬、小脳の領域に蓄積し、そこで蛋白質と相互作用して、ミスフォールディング、凝集、ADに特徴的なタウ蛋白質のような高度にリン酸化された蛋白質のリン酸化を引き起こすことが証明された。鉛はカルシウムのような生体金属と拮抗し、血液脳関門を速やかに通過することができ、そこで神経分化とシナプス形成を変化させ、深刻な損傷を引き起こす可能性がある。また、鉛への急性暴露がADと関連し、β-セクレターゼ発現の増加とAβ蓄積を引き起こすことが明らかになった。カドミウムは発がん性のある水溶性金属であり、BBBを通過してADのような神経疾患を引き起こす可能性がある。実際、カドミウムイオンがAD脳におけるAβプラークの凝集とタウの自己凝集に関与していることが示された。金属に関して蓄積されたデータは、金属がADの発症に関与する危険因子の一つであるという考えを支持している。

5-2-3-(4): 感染
中枢神経系への慢性感染は、AβプラークやNFTの蓄積を引き起こす可能性があるため、ADの危険因子に含まれている。Itshakiの研究によると、単純ヘルペスウイルス (HSV-1) のDNAがApoEε4アレルのキャリアから検出された。HSV-1は脳内で複製され、その結果炎症反応が活性化され、Aβ沈着が増加し、神経細胞が損傷され、ADの発症に関与する可能性がある。一方、MiklossyとBalinの研究結果は、ADにおける慢性細菌感染の役割を明らかにした。たとえば、大脳皮質に蓄積したスピロヘータ菌 (Treponema pallidum) による神経梅毒は、NFTsに似た病変を生じ、壊滅的な神経変性障害を引き起こした。そのほか、Chlamydia pneumoniaeは、アストロサイトや細胞傷害性ミクログリアの活性化、カルシウム調節の障害、アポトーシスによってAD発症の引き金となり、認知機能の悪化をもたらし、ADのリスクを高める可能性がある。

5-2-4. 医学的因子: アルツハイマー病の発症にはいくつかの危険因子が関係している。このリストに加え、高齢のAD患者は通常、脳血管障害 (CVD)、肥満、糖尿病などの内科的疾患を有している。これらの病態はすべてADのリスク増加と関連している。

5-2-4-(1): 脳血管障害 (CVD: cerebrovascular diseases)
CVDはADの重要な危険因子として認識されており、例えば、脳卒中は神経組織の喪失による認知症リスクの上昇と関連し、変性作用を増強し、アミロイドやタウ病理に影響を及ぼす。心房細動も塞栓症の原因となり、脳卒中や記憶・認知機能の低下につながる。さらに、心不全は心臓のポンプ機能に影響を及ぼし、身体への血液供給不足と脳の低灌流をもたらし、低酸素症と神経損傷を引き起こす。冠動脈性心疾患の仮説では、アテローム動脈硬化、末梢動脈疾患、低灌流、塞栓はすべてADのリスク上昇に関係している。高血圧は血管壁の肥厚や血管内腔の狭窄を伴い、脳血流を低下させ、慢性化すると脳浮腫を引き起こすが、これらはすべてADやCVDの危険因子である。CVDは修正可能な危険因子であり、ADとの関係に注目することで、疾患を予防し遅らせる道筋を得ることができる。

5-2-4-(2): 肥満と糖尿病
肥満とは、摂取カロリーが消費カロリーを上回ったために体脂肪が増えすぎた状態を指し、BMIを用いて算出することができる。体脂肪の増加は、脳虚血、記憶障害、血管性認知症を促進する、脳血液供給の減少と関連している。肥満、不健康な食事、その他の要因は、耐糖能異常や糖尿病を引き起こす可能性があり、これは末梢組織や血管に影響を及ぼす高血糖を特徴とする。慢性的な高血糖は、アミロイドβの蓄積、酸化ストレス、ミトコンドリア機能障害、神経炎症の増加の結果として、認知機能障害を誘発する可能性がある。肥満は、脂肪組織からの炎症性サイトカイン分泌の増加を特徴とし、これがマクロファージやリンパ球を刺激し、最終的には局所的、全身的な炎症を引き起こす。この炎症はインスリン抵抗性、高インスリン血症を促進し、結果として高血糖を引き起こす。肥満は2型糖尿病、CVD、癌の危険因子としてよく知られており、これらは認知症やADの危険因子として同定されている。脳の炎症はミクログリアの増加を引き起こし、シナプス可塑性の低下と神経新生の障害をもたらす。ミクログリアはIRS-1 (insulin receptor substrate 1) に影響を及ぼし、神経細胞の生存に重要な役割を持つ細胞内インスリンシグナル伝達をブロックする。したがって、インスリンの作用が変化すると、Aβが蓄積し、タウ蛋白質の分解が低下する可能性がある。

 

6. 治療
現在、世界のアルツハイマー病患者数は約2400万人と報告されており、2050年には認知症患者の総数は4倍になると推定されている。ADは公衆衛生上の問題であるにもかかわらず、現在のところ、ADの治療薬として承認されているのは、コリンエステラーゼ阻害薬 (天然物、合成、ハイブリッド類似体) とNMDA拮抗薬の2種類のみである。ADではいくつかの生理的過程でACh産生細胞が破壊され、脳内コリン作動性伝達が低下する。アセチルコリンエステラーゼ阻害薬 (AChEI) は、可逆性、非可逆性、擬似可逆性に分類され、コリンエステラーゼ酵素 (AChEとブチリルコリンエステラーゼ (BChE)) がAChを分解するのを阻害することで作用し、その結果、シナプス間隙のAChレベルが上昇する。一方、NMDARの過剰活性化は、流入するCa2+のレベルを上昇させ、細胞死とシナプス機能障害を促進する。NMDAR拮抗薬は、NMDARグルタミン酸受容体の過剰活性化、ひいてはCa2+流入を防ぎ、その正常な活性を回復させる。これら2つのクラスの治療効果にもかかわらず、これらはADの症状を改善するのに有効なだけで、疾患そのものを治したり予防したりすることはできない 。残念ながら、ADに関する臨床試験は過去10年間に数件しか行われておらず、その結果は大きな失敗に終わっている。ADの病態を理解し、その経路を修正し、成功する治療法を開発するために、いくつかのメカニズムが提案されている。そのメカニズムには、タウ蛋白質代謝異常、βアミロイド、炎症反応、コリン作動性障害、フリーラジカル障害などが含まれる。一方、心血管疾患や生活習慣など、ADの修正可能な危険因子のほとんどは、医学的介入なしに予防することができる。身体活動は、脳の血管新生、可塑性、神経新生を活性化し、Aβ産生を減少させることで炎症を抑えることにより、脳の健康を改善し、ADを軽減することが研究で示されており、これらはすべて高齢者の認知機能の改善につながる。さらに、地中海食、知的活動、高学歴はすべて、ADと記憶障害の進行を抑え、脳の能力と認知機能を高める可能性がある。いくつかの研究から、生活習慣 (食事、運動、認知トレーニング)、AD症状の抑うつ、血管危険因子のコントロールを含む多領域介入は、高齢者の認知機能を増進または維持し、ADの発症を予防できることが明らかにされている。ここでは、現在利用可能な薬剤とADの新しい治療法開発のための理論を要約する。

6-1. ADの症状治療
6-1-1. コリンエステラーゼ阻害剤: コリン作動性仮説によれば、ADはアセチルコリンの生合成の減少によって起こる。アセチルコリンエステラーゼ (AChE) を阻害することでコリン作動レベルを増加させることは、認知機能と神経細胞機能を向上させる1つの治療的戦略であると考えられる。AChEIはシナプスにおけるアセチルコリンの分解を阻害し、持続的なAChの蓄積とコリン受容体の活性化を引き起こす。Tacrine (tetrahydroaminoacridine) (1, 図4) は、AD治療のために最も最初にFDA (Food and Drug Administration) に承認されたコリンエステラーゼ阻害薬であり、ムスカリンニューロンにおけるAChを増加させることで効果を示すが、肝障害などの副作用の発現率の高さからすぐに市場からその姿を消した。その後、donepezil (2, 図4)、rivastigmine (3, 図4), galantamine (4, 図4) といったいくつかのAChEIが登場し、ADの症状治療目的に用いられている。ADの治療の別の戦略としては、コリンの再取り込みを上昇させることで、シナプス前週末におけるアセチルコリンの合成を亢進させるというものが考えられる。これは、CHT1 (choline transporter) をターゲットとすることで達成できる。CHT1の膜状発現を増加せる薬剤の開発は、将来的なADの治療となるかもしれない。

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図4. ADの症状治療のために承認された薬剤の化学構造 (tacrine 1, donepezil 2, rivastigmine 3, galantamine 4, and memantine 5) と、臨床試験段階にある疾患修飾化合物 (semagacestat 6, avagacestat 7, tarenflurbil 8, lanabecestat 9, verubecestat 10, atabecestat 11, umibecestat 12, methylene blue 13, tideglusib 14, and saracatinibin 15)。

6-1-1-(1). Donepezil
Donepezil (2, 図4) はインダノンベンジルピペリジン誘導体であり、第二世代のAChEIであり、AD治療の代表的な薬剤と考えられている。Donepezilはアセチルコリンエステラーゼに可逆的に結合し、アセチルコリン加水分解を阻害する。この薬剤は忍容性が高く、一過性の軽度のコリン作動性副作用があるが、これは胃腸系および神経系に関連するものである。ドネペジルは、ADの進行を変えることなく、認知や行動の改善などADの症状を治療するために使用されることに留意すべきである。

6-1-1-(2). Rivastigmine
Rivastigmine (3, 図4) は、AChEおよびブチリルコリンエステラーゼ (BuChE) の擬似不可逆的阻害剤であり、AChEの2つの活性部位 (陰イオン部位とエステアリン部位) に結合することにより作用し、結果としてACh代謝を阻害する。BuChEは主にグリア細胞に存在し、正常脳ではAChE活性のわずか10%であるのに対し、AD脳ではその活性が40~90%に上昇し、同時にACh活性が低下することから、BuChEの作用が中等度から重度の認知症を起こす可能性が示唆されている。Rivastigmineは解離が遅いため、擬似不可逆的阻害剤と呼ばれ、シナプスでAChEとBuChEによる代謝を受ける。この薬剤は軽度から中等度のAD症例に使用され、認知機能や日常生活活動を改善する。経口投与は吐き気、嘔吐、消化不良、無力症、食欲不振、体重減少などの副作用を伴う。多くの場合、これらの副作用が服用を中止する主な理由となるが、時間の経過とともに落ち着き、その結果、薬剤の忍容性が高まる。リバスチグミンは、経皮吸収パッチによって投与することが可能であり、皮膚から薬剤を制御して持続的に投与することで、忍容性と介護者の満足度を高めることができる。また、パッチは錠剤に比べて投与量が少ないため、副作用が軽減される。AD患者の多くは記憶障害や嚥下障害を患っており、定期的な経口薬投与のコンプライアンスに影響を及ぼしている。したがって、経皮パッチの使用は、AD患者に薬剤を投与するための最も適切な方法である。

6-1-1-(3). Galantamine (GAL)
Galantamine (4, 図4) は、軽度から中等度のAD症例に対する標準的な第一選択薬と考えられている。GALは選択的な三級イソキノリンアルカロイドであり、AChEの競合的阻害剤として作用するとともに、ニコチン性アセチルコリン受容体のαサブユニットにアロステリックに結合し、受容体を活性化するという二重の作用機序を有する。GALは、他のAChE阻害剤と同様に、良好な有効性と忍容性をもって、行動症状、日常生活活動、認知能力を改善することができる。脳への薬物送達を改善するために、いくつかの送達システムが開発された。Wahbaらは、GALをセリア含有ハイドロキシアパタイト粒子に結合させ、脳の患部に選択的に薬物を送達することを試みた。Misraらは固体脂質ナノ粒子を、Fornagueraらはナノ乳化法を用いて、GAL臭化水素酸塩を送達した。これらの研究結果は、薬剤を安全に送達するための有望な戦略であることを示した。Hanafyらは、良好な薬理学的有効性を示した臭化水素酸GAL/キトサン複合体ナノ粒子を開発し、Wooらは、薬剤の放出制御剤形のキャリアとしてパッチシステムを利用した。

6-1-2. N-methyl d-aspartate (NMDA) 拮抗薬: NMDARはADの病態生理において非常に重要な役割を担っていると考えられている。NMDAR刺激はCa2+の流入をもたらし、シグナル伝達を活性化し、その結果、シナプス神経伝達、可塑性、記憶形成に重要な長期増強 (LTP: long-term potentiation) の形成に不可欠な遺伝子転写を誘発する。NMDARが過剰に活性化されると、Ca2+シグナルのレベルが異常に上昇し、中枢神経系における主要な興奮性アミノ酸であるグルタミン酸が過剰に刺激され、その結果、興奮毒性、シナプス機能障害、神経細胞死、認知機能の低下を引き起こす。いくつかのNMDAR非競合的拮抗薬が開発され、臨床試験に入っているが、そのほとんどは有効性が低く、副作用のために失敗している。Memantine(5, 図4) は、中等度から重度のADを治療するためにこのカテゴリーで承認された唯一の薬物である。さらに、他のNMDAR非競合的拮抗薬も開発されており、例えば、加齢に伴う認知障害やADにおいて有望な治療効果を有する可能性のある多環式アミン化合物であるRL-208 (3,4,8,9-tetramethyltetracyclo [4.4.0.03,9.04,8]dec-1-yl)methylamine hydrochloride) がある。

6-1-2-(1). Memantine
Memantine (5、図4) は、グルタミン酸受容体のサブタイプであるNMDARの低親和性非競合的拮抗薬であり、AD症例の神経毒性に関与するグルタミン酸作動性システムの過剰活性化を防ぐ。メマンチンは、中等度から重度のADの治療に単独またはAChEIとの併用で使用される。この薬剤は安全で忍容性が高く、メマンチンの低親和性により正常なシナプス伝達を妨げることなく興奮性受容体を遮断し、高濃度のグルタミン酸によってNMDARから速やかに置換されるため、遮断が長期化することはない。後者は副作用が大きく、特に学習と記憶に影響を及ぼす。

6-2. 期待されている将来的治療法
6-2-1. 疾患修飾治療 (DMT: Disease-Modifying Therapeutics): 疾患修飾療法 (DMT) は、いくつかの病態生理学的メカニズムに働きかけることによって、ADの進行を変化させるものである。これは、認知機能を改善し、抑うつや妄想などの症状を軽減する対症療法とは対照的である。DMTは、免疫製剤または低分子のいずれかを経口投与するもので、ADの予防や進行抑制を目的として開発されている。いくつかのDMTが開発され、臨床試験に入っている。たとえば、AN-1792は合成Aβペプチド (免疫アジュバントQS-21付きのヒトAβ1-42ペプチド) で、ADに対する最初の積極的免疫療法であるが、第II相臨床試験に入り、患者の6%に髄膜脳炎の副作用が出たため中止された。その他、抗Aβ抗体 (solanezumab、bapineuzumab)、γ-セクレターゼ阻害薬 (semagacestat 6、avagacestat 7、tarenflurbil 8) (図4)、β-セクレターゼ阻害薬 (BACE) (Lanabecestat 9、verubecestat 10、atabecestat 11) (図4) なども開発されたが、臨床試験で失敗した。DMTの失敗は、治療の開始が遅すぎたこと、誤った主要標的に対する治療を行ったこと、不適切な薬物用量を使用したこと、ADの病態生理を誤解していたことなど、いくつかの要因によるものである。免疫療法は、数十年にわたって開発されてきた:  動物モデルでAβ抗体を誘導し、ウイルス様粒子であるQβコート蛋白に結合したAβ1-6ペプチドの多重コピーからなる活性型Aβ免疫療法であるCAD106は、現在も臨床試験中であり、CNP520 (umibecestat 12) (図4) は、β-secretase-1 (BACE-1) を阻害してAβ産生を阻害する低分子化合物である。CNP520は、ラット、イヌ、60歳以上の健康な成人において、Aβプラークの沈着と脳および髄液中のAβレベルを減少させることが見出され、現在も臨床試験中である。さらに、aducanumab、gantenerumab、crenezumabはいずれも凝集したAβに高親和性で結合するヒトAβモノクローナル抗体であり、他のDMTとともに現在も臨床段階にある。
α-secretaseを標的とする別のクラスが開発され、治療薬として検討されてきた。αセクレターゼ調節薬や活性化薬はAPPの切断を刺激する。活性化経路に関する知識はほとんどないが、PI3K/Akt経路、あるいはGABA受容体シグナルによって促進されると想定される研究がある。これらの経路を標的とすることで、ADの治療薬が得られる可能性があるる。
抗アミロイド剤に加えて、タウ凝集阻害剤も有望なDMTである。タウはADにおける神経原線維変化 (NFT) のバイオマーカーであり、微小管の安定性、シグナル伝達経路、軸索輸送を自然に調節する。タウのコンフォメーションが変化すると、有害な凝集が生じる。したがって、タウの凝集を防ぐことは、ADの進行を抑える創薬の興味深いアプローチとなる。マウスを用いた研究では、タウオリゴマーがミトコンドリア障害、神経細胞シグナル伝達の障害、シナプス消失、記憶障害を引き起こすことが示されている。低分子のようなDMTは、タウ凝集の初期段階を阻害し、それによってタウの蓄積を抑えるために使用できる。メチレンブルー (13、図4) はタウ凝集を阻害する青色色素であり、軽度から中等度のADを治療するために第II相臨床試験に入った。この薬剤を投与すると尿の色が青くなるが、これは結合がないことを示すもので、そのためこの研究は非常に批判された。他のアプローチでは、GSK3βのような特定のキナーゼを阻害することで、タウの過剰リン酸化を抑制し、タウの沈着をブロックできることが示唆されている。これらの実体の例としては、チアゾリジンジオン由来の化合物である tideglusib (14, NP-031112 (NP-12), 図4)、lithium、pyrazolopyridines、pyrazolopyrazines、sodium valproate などがある。もう一つのプロテインキナーゼ阻害剤はsaracatinib (AZD0530) (15, 図4) であり、チロシンキナーゼを阻害することにより作用し、トランスジェニックマウスにおける記憶力の改善において良好な結果を示しており、現在第Ⅱ相試験中である。Davidowitzらは、タウオパチーのhatuマウスモデルを用いて、タウの蓄積を防ぐリード低分子の有効性を研究した。この研究結果は、タウレベルとそのリン酸化型レベルの有意な減少を示し、最適化されたリード化合物を用いることで、タウ凝集の経路全体を阻害できることを示している。

6-2-2. シャペロン: 突然変異や環境要因によって引き起こされる蛋白質のミスフォールディングは、毒性を持つ凝集を引き起こし、その蓄積はADのような神経変性疾患の原因となる。本来、細胞は蛋白質の品質管理 (PQC: Protein Quality Control) システムを発達させ、毒性を発揮する前に蛋白質のミスフォールディングを抑制する。加齢に伴い、このバランスは変化し、ミスフォールディングした形がPQCシステムを圧倒し、その結果、蛋白質合成を停止させ、シャペロン産生を増加させる UPR (Unfolded Protein Response) が活性化される。一般に、ヒトの細胞には、他の蛋白質が細胞内で機能し、目的地に到着するための役割を担う蛋白質が存在する。これらの蛋白質は「シャペロン」と呼ばれる。シャペロンは蛋白質のフォールディングやPQCシステムの効率向上に関与している。そのため、神経変性疾患の治療薬として有望視されている。シャペロンは3つのグループに分類できる: (1)分子シャペロンは、神経保護剤として機能する Hsp (Heat Shock Protein) の過剰発現のように、他の非ネイティブ蛋白質のフォールディングやアンフォールディングを補助する蛋白質であり、 (2) 薬理学的シャペロンは、低分子化合物 (酵素、受容体リガンド、選択的結合分子) であり、蛋白質のリフォールディングを誘導し、構造を安定化させ、機能を回復させるものであり、(3) 化学的シャペロンも低分子化合物であるが、オスモライトと親和性化合物の2種類に分類されるものであり、これら2つのグループは特別な作用メカニズムを持たず、治療的効果を発揮するためには高濃度が必要である。

6-2-2-(1). Heat Shock Proteins (Hsps)
神経変性疾患の多くの原因は、蛋白質のミスフォールディングと凝集であり、これが神経細胞死を招く。分子シャペロンは、heat shock proteins (e.g. Hsp40、Hsp60、Hsp70、Hsp90、Hsp100、Hsp110) のように細胞内蛋白のこともあるが、clusteringやalpha-macroglobulinのように細胞外蛋白のこともある。Hspsは蛋白質のフォールディングにおいて必要不可欠であり。細胞を有害なストレス関連事象から保護する。Hspsには2つのファミリーがあり、(a) 60kD以上でATP結合部位を持つ古典的Hsps (Hsp100、Hsp90、Hsp70、Hsp60 など)、(b) 40kD以下でATP結合部位を持たない低分子量Hsps (αB-crystalline、Hsp27、Hsp20、HspB8、HspB2/B3 など) に分けられる。これらの蛋白質は、他のHspsがフォールディング機能を果たす際にそれを補助する役割も持つ。こうしたメカニズムが失敗すれば、酸化ストレス、ミトコンドリア機能障害、神経細胞死をきたし、これが神経変性疾患を進行させる。他のHspsは、アミロイド原性蛋白質 (Aβやタウ) を含むミスフォールディングされた蛋白質の凝集過程をブロックし、その分解を補助する。

6-2-2-(1)-1. Hsp60
Hsp60はミトコンドリア蛋白質のフォールディングに重要な役割を果たす。ADにおける役割ははっきりしていないが、この蛋白質が保護的な役割を果たすと考える者もいれば、この蛋白質が活性化ミクログリアによって過剰発現されると、TLR-4のような神経細胞死を刺激する炎症性因子を増加させることで有害に働くと考える者もいる。したがって、活性化ミクログリアとHsp60の発現を阻害することは、神経変性疾患を予防するための有望な戦略である。Hsp60を阻害する化合物の例としては、mizoribine (免疫抑制剤) (16、図5) とpyrazolopyrimidine EC3016 (17、図5) がある。両化合物はHsp60のATPase活性を阻害し、タンパク質のフォールディングを阻害することで作用する。一方、真菌の代謝産物であるavrainvillamide (18、図5) と細菌の代謝産物であるepolactaene (19、図5) は、Hsp60のシステイン残基に結合することで作用し、そのフォールディング活性を阻害する。しかしながら、ADにおけるHsp60の役割についてはまだ議論の余地があり、その役割を理解するためにさらなる研究が必要である。

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図5. シャペロン分子の化学構造: Mizoribine 16, EC3016 17, Avrainvillamide 18, Epolaztaene 19, MKT-077 20, YM-01 21, JG-98 22, Radicicol 23, Geldanamycin 24, 17-AAG 25, Pochoxime C (OS47720) 26, R55 27, and OT1001 28。

6-2-2-(1)-2. Hsp70
Hsp70は、Aβ42に結合し、自己凝集を防ぐことが示されている。Martín-Peñaらは、ショウジョウバエのADモデルにおいて、Hsp70の2つのアイソフォーム (細胞質内と細胞外) を研究し、Aβ42凝集に起因する記憶低下に対する保護的役割を評価した。動物実験の結果、Hsp70は細胞内と細胞外という二重の機能を持ち、Aβ42の神経毒性とシナプス消失から守っていることが示された。タウとそのリン酸化過剰型に結合し、その形成を阻止する能力に加え、凝集を減少させ、タウの微小管への結合を促進する。Hsp70はミクログリアインスリン分解酵素、TGF-β1を活性化することで作用し、βアミロイドを分解して記憶障害を防ぐ。いくつかの研究では、ADの脳組織におけるHsp70の過剰発現と、活性化グリアおよびストレスを受けたニューロンの存在との相関が示された。また、ADではHsp70が細胞外沈着と関連していることも判明した。Hsp70を標的とする薬物療法は、主にHsp70のATP結合部位を標的として阻害するこれまでの抗がん剤を参考にしているが、in vitroおよびex vivoでタウ濃度を低下させる能力があることから、AD治療の候補と考えられている。MKT-077(1-ethyl-2-((Z)-((E)-3-ethyl-5-(3-methylbenzo [d]thiazol-2(3H)-ylidene)-4-oxothiazolidin-2-ylidene)methyl)pyridin-1-ium chloride) (20、図5)は、ミトコンドリアのHsp70部位であるモルタリンに結合する抗がん性ロダシアニン化合物であり、抗Hsp70薬として作用する。

6-2-2-(1)-3. Hsp90
Hsp90もタウのリン酸化と脱リン酸化を制御するHSPの一種である。Hsp90を阻害すると、タウキナーゼの減少によりタウのリン酸化が低下し、タウキナーゼが亢進するとタウの病態に関与すると考えられている。Hsp90阻害剤はがん治療に用いられているが、最近ではADに対する有望な治療法として考えられている。ラジシコール (RDC) (23、図5) とゲルダナマイシン (GA) (24、図5) はHsp90阻害剤である。GAは天然の抗真菌化合物で、最初に発見されたHsp90阻害剤である。この阻害剤の研究は、その毒性のために中止された。一方、17-AAG (25、図5) は、毒性が低く、薬物動態プロファイルが良好なGA誘導体であり、タウのリン酸化経路を間接的に遮断することにより、トランスジェニックマウスモデルにおけるNFTを減少させることに加えて、Hsp70のような他のHSPを誘導することにより、認知機能の良好な改善を示した。ポコキシムC (OS47720) (26、図5) もまた、中枢神経系透過性のHsp90阻害剤であり、ADマウスモデルで試験したところ、良好な安全性と有効性プロファイルを示した。研究により、OS47720は熱ショック因子 (HSF-1) の活性化とそれに依存する転写事象を介してシナプス機能を強化することにより作用することが明らかになった。
これらの研究は、HSPを標的とすることが、病原性タウレベルを低下させ、正常なタウホメオスタシスを回復させる新たな作用機序を持つ薬剤を開発する有望な戦略であることを示している。
6-2-2-(1)-4. Vacuolar sorting protein 35 (VPS35)
神経細胞グリア細胞にタンパク質が蓄積すると、細胞内の蛋白質ホメオスタシスが乱れる。エンドソーム・ライソソソームシステムは、蛋白質をリサイクル・分解するために輸送する役割を担っている。このシステムに異常が生じると、アルツハイマー病などいくつかの病気につながる。Retromerは、sorting nexin (SNX1, 2, 5, 6) とvacuolar sorting proteins (VPS 26, 29, 35) からなる制御タンパク質の複合体で、エンドソームからトランスゴルジ網へのカーゴ分子の輸送を担っている。VPS35のダウンレギュレーションによるRetromerの機能喪失は、Aβ形成を増加させ、認知障害を誘発し、AD患者で報告されているシナプス機能障害を引き起こす可能性がある。VPS35の過剰発現が記憶機能に及ぼす影響を評価するために、3xTgマウスの脳を用いた研究が行われた。この研究では、神経炎症の軽減とシナプス機能障害の改善に加えて、Aβペプチドとタウ神経病理 (可溶性、不溶性、リン酸化タウ) の有意な減少がVPS35の過剰発現と関連していることが示された。したがって、VPS35はAD治療のための重要な有望な治療標的である。チオフェンチオ尿素誘導体であるR55 (27, 図5) と呼ばれる小さな薬理学的シャペロン分子は、Retromer蛋白質を増加させ、AOOをエンドソームから移行させ、AOOを減少させることによって、Retromerの安定性と機能を高めることができる。
6-2-2-(1)-5. OT1001
神経変性疾患では、ガングリオシドの蓄積が蛋白質のミスフォールディングや凝集と関連していることが研究により明らかにされている。ADの脳では、モノシアロガングリオシド (GM1、GM2、GM3) の異常レベルが報告されている。オランダ変異型APPE693Qのような変異型Aβは、GM2およびGM3の凝集促進特性を受けやすく、その結果、Aβペプチドとガングリオシドとの複合体 (ガングリオシド結合Aβペプチド) が形成され、その後、Aβペプチドの凝集と蓄積が加速される。
β-ヘキソサミニダーゼ (β-hex) は、GM2ガングリオシドを異化することにより作用するリソソーム酵素であり、その活性を高めることにより、GM2レベルを低下させ、Aβの凝集・蓄積を抑制することができる。薬理学的シャペロンのような低分子は、野生型タンパク質に選択的に結合して安定化させ、正常なフォールディングを回復させることができる。OT1001 (28、図5) は、β-hexを標的とするイミノ糖薬理学的シャペロンであり、脳内のそのレベルを増加させ、ガングリオシド結合型Aβ病理を減少させる。オランダのAPPE693Qトランスジェニックマウスを用いた研究から、OT1001は薬物動態、脳への浸透能力、忍容性に優れ、副作用が少ないことが示された。これらのことから、この化合物はβ-hex活性を増加させるための良い薬剤候補となる。

6-2-3. 天然抽出物: 長い間、天然化合物はいくつかの病的疾患に対する治療薬として使用されてきたが、最近の研究では、天然化合物が神経保護作用を有することが示された。In vitroおよびin vivoの研究により、天然化合物がADに対する治療効果を有することが証明され、その一部は臨床試験の段階に入ることができた。ニコチンは、ADの臨床試験段階に入った最初の天然化合物であったが、その後、ビタミンC、E、Dなどの他の化合物が、神経炎症と酸化的損傷に対する保護的役割のために、より注目され、関心を集めるようになった。最近では、ブリオゾアンBugula neritinaからのマクロライドラクトン抽出物であるブリオスタチンが評価され、ADマウスモデルにおいてαセクレターゼ活性を誘導し、Aβ産生を減少させ、学習と記憶を増強する能力を示した。民間療法で使用されるその他の天然化合物は、いくつかのメカニズムに作用することにより、ADの治療に大きな可能性を示した。

 

7. まとめ
アルツハイマー病は、現在、世界的な健康問題と考えられている。その結果、NIA-AAは、より高い特異性、感度、AD発症リスクのある患者の早期同定のために、1984年のNINCDS-ADRDA基準を再分類し、更新した。ADのより正確な診断のために、臨床的バイオマーカー、体液、画像検査などいくつかの基準が提案されている。にもかかわらず、ADの治療は対症療法にとどまっており、疾患の予後には変化がない。Galantamine、Donepezil、Rivastigmineなどのコリンエステラーゼ酵素阻害薬や、MemantineなどのNMDA拮抗薬は、記憶力や注意力を改善するが、進行を防ぐことはできない。いくつかの研究により、食事や運動などの生活習慣の改善が、医学的介入なしに脳の健康を改善しADを軽減することが示されており、すべてのAD患者に対する第一選択的介入と考えられている。最近では、Aβやp-tauといったADの病理学的特徴を標的とした研究が注目されている。疾患修飾治療のような将来の治療法は、Aβ経路を標的とすることによってADの進行を変えることができ、AN-1792、solanezumab、bapineuzumab、semagacestat、avagacestat、tarenflurbilのような多くの薬剤が臨床試験に入ったが、最終臨床段階では有効性を示すことができなかった。Aβやタウの病態を標的とするaducanumab、gantenerumab、crenezumab、tideglusib、lithiumなど、他のDMTsもまだ研究中である。また、Heat shock proteinsやVacuoar sorting protein 35 (VPS35) のようなシャペロンと呼ばれる有望な化合物は、他のタンパク質が正常に機能し、細胞内の目的地に安全に到着するのを補助することによって機能するため、神経変性疾患の治療薬として使用することができる。さらに、民間漢方で使用されている天然抽出物は、いくつかのメカニズムの経路に作用することにより、ADの治療に大きな可能性を示した。結論として、AD治療の成功は、早期投与とバイオマーカー診断による疾患進行の患者モニタリングにかかっている。今後、タウ病態を標的とした治療や併用療法が、AD病態の進行を遅らせる可能性がある。AD患者およびAD発症リスクのある患者を治療するためには、強力で選択的かつ効果的な薬剤の設計が急務である。

 

感想
長かった・・・。包括的レビューって書いてあるから臨床的なこともたくさん書いてあると思い込んで読んだんですが、まったく基礎的なことだらけで、しかも基礎の中でも薬理学的なことばっかりだったのであんまり勉強にはなりませんでした・・・(専門分野が違いすぎる)。著者も薬理学の人なので、そりゃ当たり前ですよね。でもタイトル詐欺じゃん!
次は臨床的なことを書いてあるレビューを読みます。