ひびめも

日々のメモです

前頭眼野の解剖と機能

Frontal eye field, where art thou? Anatomy, function, and non-invasive manipulation of frontal regions involved in eye movements and associated cognitive operations.
Vernet, Marine, et al.
Frontiers in integrative neuroscience 8 (2014): 66.

 

外科ローテ中&私生活が忙しすぎて更新がとんでもなく遅れてしまいました。
外科ローテだけであればなんとかなるのですが、実は結婚&引っ越ししまして、とんでもなく忙しい12月を過ごしていました。ようやく怒涛の日々が落ち着きつつあり、このようにブログを書いている次第です。お祝いのコメント&プレゼント待ってます。

さて、眼球運動って症候学的にすごい大切なところだと思っています。
意識障害共同偏視があったら片側の大脳皮質~脳幹のdownregulation/upregulationを疑って、片側の器質的異常 (血管障害など) の関与を考える、というのはよくある話だと思います。
大脳皮質において眼球運動を司る領域として、前頭眼野という領域があるというのは聞いたことがありました。聞いた話によれば、前頭眼野の興奮は、上丘、PPRFを介して対側への共同偏視を引き起こす、ということだったと思います。ここから、僕のイメージでは、「前頭眼野は一次運動野の眼球バージョン (対側への運動を引き起こすわけだし)」程度のものでした。でも、ほんとにこんな単純なのだろうか?と思って、前頭眼野のreviewを読んでみました。

 

1. 背景: FEFは眼球運動と視空間認知の交差点である
前頭眼野 (FEF: frontal eye field) は、電気刺激によって眼球運動が誘発される前頭葉皮質領域である。サルの電気生理学的研究では、眼球運動の準備やトリガーに重要な視覚性細胞、運動性細胞、視運動性細胞がみられる領域をFEFと定義している。この部位は、幅広い脳領域を統合するネットワーク内で重要な役割を持つ。ヒトでは、注視制御システムとして、前頭葉内の補足眼野 (SEF: supplementary eye field)、前補足眼野 (pre-SEF)、背外側前頭前皮質 (DLPFC: dorsolateral prefrontal cortex)、前帯状皮質内の帯状眼野 (CEF: cingulate eye field)、背内側前頭皮質、そして頭頂葉内の頭頂眼野 (PEF: parietal eye field)、後頭頂皮質 (PPC: posterior parietal cortex) 内の領域が挙げられる。最後に、中脳の上丘 (SC: superior colliculus) のような皮質下構造も眼球運動のトリガーに重要だと考えられている。これらの領域は一般にすべてが協働して働くが、特定の状況下では一部の領域のみが眼球運動のトリガーに寄与することもある。たとえば、PEFは反射的サッケードに、FEFは自発的サッケードに、そしてSEFは注視を含んだより複雑な運動プログラムの開発に寄与する。CEFやDLPFCなどのその他の領域は、より一般的に、動眼制御の認知的側面 (e.g. 動機、記憶) に関与する。
このネットワーク内ノードの入出力投射の解剖学は特にサルの脳でよく研究されており、そして幅広い相互作用を持つ極めて複雑な構造であることがわかっている。FEFへの主要な入力は、SEFやPEF、上側頭野の中部、主溝領域などを含む、他の皮質眼野から発生する。また、FEFはMT野 (middle temporal area) からも弱い入力を受け取っているが、この領域は線条/外線条皮質、頭頂皮質、FEFとの情報連絡を行っている。FEFは前頭皮質内の多くの領域や、V2/V3/V4のような後頭頭頂皮質、MT野、MST野 (medial superior temporal area)、上側頭視覚野に投射している。最後に、FEFはLIP野 (lateral intraparietal area) を含む頭頂皮質と重要な相互結合を持つことが示されている。また、FEFは皮質下の脳幹 (橋) に直接的に投射している。同様に、皮質下のSCにも直接的、または基底核を介して間接的に出力しており、その他にも視床視床下核、手綱核のような皮質下核にも出力している。逆に、FEFは黒質やSCを含む皮質下領域から入力を受け取ってもいる。最後に、小脳は、FEFに投射する視床領域に投射している。
FEFに関する初期の知識のほとんどは、ヒト以外の霊長類に対する実験に基づいて得られた。FEFの役割としては、サッケードの準備と実行が主に強調されてきた。しかし、FEFはその他の種類の眼球運動の制御にも関わっており、たとえば滑動性追視や視運動性眼振 (OKN: optokinetic nystagmus) が挙げられる。FEF内の複数の下位領域の刺激では、輻輳運動をトリガーすることができる。最近では、アカゲザルの弓状溝の前縁に存在するサッケード関連領域のすぐ吻側にある前弓状皮質内の領域が、輻輳と調節、そしてこれらの運動に必要な感覚運動変換に関与しているということが示された。さらにFerrainaらは、弓状溝の前縁に存在するほとんどのニューロンが、̪低電流刺激でサッケードを誘発できるとともに、視差に感受性を持つことを示した。FEFの尾側部分に存在する滑動性追視ニューロン輻輳運動に関連する視差シグナルを運搬しており、同時にFEFの追視ニューロンの大部分は前方追視および深さの追視の両方に応答する。また、FEFを含む前頭皮質内では、近位空間と遠位空間が別々に符号化されているとするエビデンスも存在する。以上から、FEFは三次元空間におけるあらゆる種類の眼球運動に関与していると考えられる。
動物と同様に、ヒトのFEFもサッケード、固視、活動性追視、OKN、輻輳といったあらゆる眼球運動タイプに関与していると考えられる。しかし、それぞれのタイプにおいて、眼球運動の異なるカテゴリ (e.g. 反射的、随意的) を条件づける特定の実験設定は、FEFの関与を変調させるだろう。実際、眼球運動のカテゴリによって、異なる皮質の眼球運動領域が採用される。このように認知的文脈がFEFの関与を調節しているという事実は、FEFが視覚空間的注意、視覚的アウェアネス、知覚的調節において果たしている他の役割を思い起こさせるものである。
FEFの様々な役割とその調節方法の詳細な解説に入る前に、我々はまずヒトおよびヒト以外の霊長類でこの領域がどのようにして同定されたのかについて記述する。この領域が多くの機能に寄与していることから考えられるように、正確な局在は用いる手法やパラダイムに強く依存する。

 

2. FEFの局在
霊長類のFEFは、低電流皮質刺激で急速眼球運動が誘発できるDLPFC内の領域として、生理学的に定義されている。この侵襲的な手法を用いることで、サルのFEFは前頭葉内の弓状溝の前縁に沿った領域として定位された。この領域は、ヒトのBrodmann area 8、またはarea 8とarea 6に重なる領域に相当する。また、大部分の神経画像研究では、ヒトのFEFは上前頭溝の尾側終端の近くの中心前溝上部 (Brodmann area 6に対応) に存在すると考えられている。しかし、後に述べるように、FEFは眼球運動のみならず他の認知ドメインにも寄与しているため、FEFの正確な局在は用いる測定手法 (e.g. 刺激 vs 神経画像)、タスク (e.g. 眼球運動タイプや制御条件タイプ)、活性化基準 (e.g. 刺激の強度) に強く依存する。したがって、今まで報告されてきた種ごとのFEFの位置の差が、真に解剖学的な種間差に起因するのか、手法上の違いに起因するのか、それとも単に個体間の差を反映しているのか、ということは明らかではない。
次項から我々は、微小電極刺激、頭蓋内記録、fMRI、PET (positron emission tomography)、MEG (magnetoencephalography)、TMS (transcranial magnetic stimulation) を用いてFEFの解剖学的な位置を特定しようと試みてきた多くの研究を振り返る。これらの研究で報告された局在のまとめを表1に提供する。

2-1. ヒト以外の霊長類に対する微小刺激・記録 (原初の定義)
1874年、Ferrierはネコ、イヌ、ウサギを含む複数の動物種で行った刺激研究をまとめ、「上前頭回および中前頭回の内部の、腕の前方運動の中枢の手前にある領域では、刺激によって頭部と眼球の横方向への (交差する) 運動と、瞳孔の散大が誘発される」と記述した。
微小刺激研究による眼球運動の誘発、視覚的刺激または眼球運動中の電気生理学的記録、同一神経集団の刺激中の行動または行動変化による細胞発火パターンの比較研究によって、FEFが前弓状皮質の後部に位置するということが確認されたのは、その100年以上後になってのことである。この領域内には、サッケード、追視、固視/サッケード抑制に関連する視覚性、運動性、視運動性の神経集団が別々に存在し、これらはある程度空間的に分離されているとともに、刺激時のサルの活動状態にも依存するような、異なる刺激閾値を持つ。また、各下位領域は特定の構成を持つ。たとえばサッケードについては、腹外側領域の刺激で小さい振幅のサッケードが誘発されるが、背内側領域の刺激では大きなサッケードが誘発される。さらに、サッケードの方向は、弓状溝内の刺激の深さの関数として変化したとする報告もある。興味深いことに、霊長類のいくつかの種 (e.g. ヨザル) では、FEFの後方に存在する背側運動前野の刺激によってもサッケードが誘発されると報告されており、ヒト以外の霊長類ではこのような後方領域もFEFに属する可能性がある。
微小刺激は、ある部位と脳機能の因果関係を明らかにするためのゴールドスタンダードの手法と考えられているが、潜在的な限界もある。第一に、反応する領域の範囲と数は刺激強度に依存し、伝統的な閾値 (50μ) は任意に設定されたものである。第二に、選択された実験デザインによっては、同じ研究内または複数の研究間で、皮質領域の一部が他の領域よりも系統的にサンプリングされていない。この事実は、結果的なマップ内で特定の場所の役割を過度に強調し、他の場所の貢献を過小評価するようなバイアスをかける可能性がある。第三に、皮質内刺激は、FEFの直接的な活性化だけでなく、FEFと他の領域をつなぐ皮質内白質経路の活性化によっても眼球運動を誘発することができるが、これは皮質表現の境界を容易にぼかし、誤った定位をもたらす可能性がある現象である。

2-2. ヒトに対する微小刺激
微小刺激法は、動物モデルに対してのみ行われてきたわけではない。この手法は、てんかん患者の術中刺激や、手術室外で覚醒下の患者に対する硬膜下留置電極刺激によって、ヒトに対しても行うことができている。前者の手法を用いることで、Foersterは中前頭回の後部の刺激で眼球運動が誘発されることを報告したが、RasmussenとPenfieldはすべての前頭回と中心前回で同様の効果が見られたことを報告している。運動表現部分とその前方領域に留置された硬膜下電極の刺激では、対側への共同眼球運動 (ほとんどがサッケード) が誘発され、眼球共同偏視に引き続いて頭部の回旋が見られることもあったという。Blankeらは、一側への眼球運動を誘発するために必要な電流強度を体系的に調査し、サッケードと滑動性眼球運動を誘発する眼野は、サルの研究と同様に中前頭回の後部とそこに隣接する上前頭回領域に存在するが、下前頭回内や中心前溝内には存在しないことを示した。
以上から、十分に制御された状況下では、ヒト患者に対する微小刺激は、ヒト以外の霊長類で同様の手法を用いて示されたものと同等の結果を導くということが示された。しかし、上で動物に関して述べたように、ヒトの皮質内刺激の強度は、結合性によって直接的または間接的によって活性化され、最終的にFEFと因果関係を持つ皮質クラスターの数や大きさを、任意に決定することが可能である。さらに、このような研究は留置した電極の空間的位置、分布、カバー範囲によって制限を受ける上、実際のところ電極が厳密な臨床的または科学的基準に則って配置されているわけでもない。さらに、実験可能な時間に限りがあることや、統計学エビデンスを提供するための大きなコホートを用意することができないことにも限界がある。加えて、倫理的な問題から、このような手法は先天的または後天的に解剖学的・機能的な脳の異常を持つ患者に対してしか用いることが出来ないため、必ずしも健常脳についても正確な情報を提供しているとは言えない。このような限界から、PET、fMRI、MEGなどの非侵襲的な神経画像技術や、TMSによる非侵襲的神経刺激が、認知神経解剖学の分野で特に注目を集めるようになり、ヒトや動物でFEFを定位するための研究に用いられるようになってきた。

2-3. 神経画像
PETやfMRIのような神経画像技術の普及によって、FEFの局在や機能の評価が、健常ヒト脳を対象に行えるようになった。空間分解能の向上とともに、FEFに対応する領域として、徐々に小さく、はっきりとした輪郭を持つ領域が定義されるようになってきた。特に、fMRIを用いることで、PETで確認された大きなFEF領域の内部に眼球運動に関連する複数の下位領域が明らかになっている。
PET研究では、研究ごとにFEFの局在と機能は様々であったが、これらはPausによってレビューされている。PETを用いた先駆的研究では、サッケードの実行中にヒトの外側前頭皮質が活性化されることが報告された。これらの研究の多くは、FEFを中心前溝の一部分と定義した。一方でこの領域は、時に中心前溝周囲の中心前回前部や、中心溝周囲の中心前回後部として言及されることもあった。過去の研究では、固視、反射的/記憶に基づくサッケード、視覚性手掛かりに基づく/基づかないサッケード、抑制的された/想像上のサッケード、アンチサッケード、推測的サッケード、注視的追視など、眼球運動タイプの大部分がFEFを活性化させることが報告されている。こうした研究のうち、いくつかの研究では、FEFの活動は目標の存在や目印の種類、タスクの複雑性には影響されず、さらにサッケードが自発的であるか過去に学習されたものであるかにも影響されないことが示されているが、他の研究では対照的に、固視状態からサッケードを行う際にそれが反射的であるか意図的であるのかによってFEFの活動性が調節されることを示した。
ヒトに対する高空間分解能のfMRI研究では、FEFが中心前溝に沿って存在することがわかるようになった。また、同時にこの手法は、中心前溝内にはサッケードの活動に関連する異なる機能に寄与する複数の下位領域が存在することを示した。PetitとHaxbyは、FEFが中心前溝と上前頭溝の交点に存在し、中心前回の方向に外側に広がっていることを報告した。彼らは、サッケード関連FEFと、より小さく下外側に存在する注視的追視関連FEFを記述した。Rosanoらは、中心前溝内の吻側縁表層の領域にサッケード関連領域が、溝深部の領域に追視領域が存在することを発見し、ヒト以外の霊長類で考えられていたような表層/深部活動の分類を提案した。Lunaらは、個々の患者において中心前溝に限局した活動を示し、固視と単純な視覚誘導性サッケードを対比した。彼らは中心前溝の上部に一貫した活動を、中心前溝の下部には比較的一貫しない活動を見出した。同様に、他の研究でも中心前溝内の異なる活動クラスターが報告されている。PETとfMRIデータセットを対象に行われたメタ解析では、視覚誘導性および随意的サッケードに対するFEFが上前頭溝と中心前溝の交点の近傍に存在し、中心前回表層の上部領域と下部領域に広がっていることが確認された。しかし、近年のいくつかの研究ではFEF上部が上前頭溝の腹側部、中前頭回の末端/最後部領域に存在することが報告されていることも知っておかねばならない。
サッケードに関与する脳領域を同定するにあたって、神経画像アプローチは、神経刺激手法と比較していくつかの制限を有している。まず、神経画像手法は神経刺激手法と比較して、小さなサッケードに関連する領域の検出感度が低い。次に、神経画像アプローチで統計学的検出力を高めるために用いられるグループ平均化は、脳解剖の個人差の影響を受けて活動領域を不正確にさせてしまうかもしれない。そして、神経刺激では多くの場合対側へのサッケードを誘発するが、fMRI研究は注視固視ベースラインと比較した両側への反復的な眼球運動を対象としているため、領域のサイズの違いや位置のずれが生じる可能性がある。また、Tehovnikら、AmiezとPetridesは、神経画像プロトコルでは瞬目や中心に戻るサッケードに関する指示が特段与えられていないことを指摘した。この考え方は、瞬目運動に関与する運動領域を含めてしまったことで、FEFが誤って後方に定位されてしまう可能性を説明できる。実際、サッケードとコントロールで同頻度の瞬目を指示して行ったPETプロトコルでは、FEFは中前頭回に同定された。
上述した問題はあるものの、神経画像研究は活動ピークの群平均に対応した標準化座標を提供できるため、研究間の比較が可能であり、さらに因果関係検索のための非侵襲的脳刺激アプローチにも利用可能であるというアドバンテージを持つ (図1)。この観点から、8つのPET研究のメタ解析で、FEFのTalairach座標空間内の参照位置が示された (表2)。また、その後のfMRI研究では、サッケード中に活動する主要なFEF領域 (e.g. 上部FEF) が同様の位置に存在することをTalairach座標系を用いて示し、さらに瞬目を避けるとその領域がより前方に移動することを示した (表2)。

図1: 複数の研究で示されたFEFの位置。緑: PausらのPET研究のメタ解析。青: LunaらのfMRI研究。赤: PetitとHaxbyによるfMRI研究。黄: IoannidesらによるMEG研究。紫: Tehovnikらによる、KawashimaらのPET研究に基づいた推定位置。

2-4. 非ヒト霊長類とヒトにおけるFEFの位置
手短に言えば、主に微小刺激研究によって定位された非ヒト霊長類のFEFは、主に神経画像研究で定位されたヒトFEFの位置 (Brodmann area 6) と比較して、より吻側の位置 (Brodmann area 8) に存在する。この解離を和解させる考え方として、ヒトのFEFは、誤って後方に定位されてしまっているという主張がある。この考え方に引き続いて、ある研究は、ヒトの死後脳を用いて、中心前溝の上部と上前頭溝の尾側の細胞構築学的な境界を探索した。この研究では、中心前溝が吻側の顆粒皮質と尾側の無顆粒皮質の移行領域を表現していると示唆した。このため、FEFは (ヒトにおいてやや尾側には存在するものの) 両方の種において同様の細胞構築を持つ領域に存在するということは言えそうである。
他の研究では、FEFの位置に関するサルとヒトの不一致は、種間の真の違いというより、むしろ方法論の違いから生じることが示唆されている。ヒトにおける微小刺激は、霊長類において同様の介入で示されたものと同等の結果をもたらしうることは既に述べた。では、サルのfMRI記録でも、ヒトで示されたものと同様の活性化が示されるのだろうか? Koyamaらはマカクザルを用いてfMRI研究を行い、3つのサッケード関連活性化焦点を明らかにした。1つは弓状溝の辺縁、すなわち古典的な霊長類のFEFに相当するBrodmann area 8の内部に、残りの2つは運動前野、より正確にはBrodmann area 6の内部の中心前溝の上部と下部に位置していた。このように、サルのfMRI研究では、ヒトで見られるものと類似した活性化が実際に見られる。霊長類とヒトの結果の相違が、主に種によって異なる細胞構築学的領域に起因するのか、あるいは異なる方法を用いたことに起因するのか、結論づけるにはさらなる研究が必要である。おそらく、FEFに関連する複数の領域をより深く探求することが、種を超えたその役割と局在を明らかにするのに役立つだろう。
最後に、第三の方法論を用いることで、サルの微小刺激とヒトのfMRI研究から生じる結果の解釈に新たな光を当てることができる。MEGで絶妙な時間分解能と妥当な空間分解能で音源信号を局在化できることを利用して、Ioannidesらは、微小刺激研究で見つかったものと同様の前方位置を示唆した。同グループによるMEGの単一被験者研究によると、FEFに関連する活動は、サッケード準備時間中に、微小刺激研究で同定された吻側部位からfMRI研究で報告された尾側部位まで、吻側-尾側軸に沿ってシフトしうることが示唆された。また、霊長類で通常報告されている吻側部位とヒトで通常報告されている尾側部位が、異なるタイミングで活動することが示唆されたことは、最も重要な点であった。

2-5. TMS: 健常なヒトにおける因果的な機能局在の探索
侵襲的なヒトの微小刺激の限界を克服しつつ、その因果関係検出力の恩恵を受けるために、一部の研究者は因果関係のある脳マッピング技術としてTMSに着目している。TMSは非侵襲的に皮質内に微小電流を流すことで、特定の皮質領域における脳活動を比較的良好な空間分解能で変調させるものである。TMSは、刺激する領域、磁気パルス強度、パルス照射のために選択したイベントの前後の時間窓、短いバーストまたは長い刺激パターンで使用する個々のパルスの時間分布などの変数に応じて、神経生理学的活動に即時的または持続的な、促進的または破壊的影響を与え、結果として標的とした皮質領域とその関連領域のネットワークによって引き起こされるパフォーマンスに影響を与えることができる。これらの特性を利用して、この技術は健常なヒトの行動に関連する皮質領域についての解剖学的システムの因果関係を調べるために使用される。一方、臨床応用では、TMSは活動のパターンを操作して、神経学的または神経精神医学的状態に対する治療的な影響をもたらすために用いられることがある。
TMSは磁場を用いて皮質内に非侵襲的に電流を誘導するため、頭蓋内電気刺激と同様に、磁気刺激も眼球運動を誘発できるはずだという仮説が立てられてきた。しかし、TMSをFEFのある前頭部に系統的に照射しても、意外にも眼球運動を誘発することはできず、中心固視の妨害、サッケードや滑動性眼球運動の動きを修正することもできない。二段階サッケード課題の実施時など、促進的な条件下でのみ、rTMSは少数の被験者において多段階の短潜時眼球運動を誘発することができると報告されている。この結果は、眼球運動に関与するFEF内のシステムの構成が、四肢運動のための一次運動皮質とは異なることを強く示唆している。実際、後者は脊髄運動ニューロンに直接投射しているので、一次運動野をTMSで刺激すると簡単に手の動きを誘発することができる。これに対して、注視運動につながる回路は、中間のシナプス連鎖と構造を含んでいるため、同じ手法で活性化するのはそれほど簡単ではないかもしれない。さらに、このような活性化の違いは、TMSによって誘導された電流が、サッケード運動ニューロンまでのポリシナプス連鎖を効果的に活性化するには、十分に高くないか、焦点化が不十分であった可能性があることにも起因すると論じられてきた。
TMSは健常者において眼球運動を直接誘発することはできないが、視覚的および非視覚的に誘導されるサッケードを効果的に妨害することができる。このような調節現象は、健常者のFEFを局在化するための新しい因果的方法として採用された。この方法では、TMSコイルをFEFのおおよその位置の周囲に移動させる。パルスは安静時運動閾値 (RMT: resting motor threshold)、すなわち一次運動野を刺激したときに試行の半分で明らかな誘発手指筋の活性化を誘発する強度とほぼ同じか、それよりわずかに高い強度で照射される。微小刺激研究と同様に、強度の選択はある意味恣意的である。実際、RMTの100%や120%でシミュレーションすると、異なる結果になる可能性がある。さらに重要なことは、RMTに基づく強度で刺激しても、特定の状況を除いて、被験者間で一貫した結果が保証されないことである。この限界にもかかわらず、TMSは、刺激によってサッケードパラメータ (一般に特定のタイプのサッケードの潜時) を有意に変更する領域としてFEFを同定することを可能にしている。
TMSを用いると、手と顔の筋肉の運動誘発電位を発生させる領域の間にある、耳介間線から2cm前方、頂点から約6cm外側の領域を標的とした場合に、サッケード潜時の最大の遅延が得られた。この報告の著者は、FEFがもっと吻側にも伸びている可能性を排除せず、吻側への刺激は瞬目を引き起こすため、あるいはFEFの前部はサッケードプログラムの他の側面に関与しているため、容易に評価することはできないとしている。他の研究では、FEFは運動野手領域の2cmまたは1.5cm吻側の領域内に局在していることが示されている。この部位は、おそらく中前頭回に属し、中心前溝に近いと思われるが、すべての被検者で局在化できたわけではない。さらに、この局在は、神経画像研究の報告と同様に、ほとんどが冠状断面内または背側-内側面にかけての個人間差異に悩まされている。O'SheaらとSilvantoらによる研究では、中前頭回内の中心前溝と上前頭溝の接合部からちょうど吻側の部分という解剖学的ランドマークに基づいてFEFを同定し、その領域が個々の運動手領域表現から約3-4cm吻側に相当すると報告している。このように吻側であるにもかかわらず、報告された平均Talairach座標は、Pausがメタ解析で報告した座標に非常に近い位置にある。個々の被験者について個別のMRI画像を用いて行うTMSによる因果的なFEF局在の同定や、同一被験者に対するTMSとfMRIを用いたFEF局在の直接的比較は、未だ行われていない。

2-6. FEFの運動特性、視覚特性、認知特性を研究する上での結論
表1は、FEFの局在の探索に関する文献の所見をまとめたものである。FEFに関連する部位の数やその正確な局在が種、方法、半球、個人によって異なることは、眼球運動や認知機能におけるその役割を探る方法について懸念を抱かせるものである。
眼球運動、注意の方向づけ、意識、意思決定などの認知過程におけるFEFの因果関係を探るTMS研究では、その操作の前に、同様のマッピング手法を使って、この領域の正確な位置を特定することが、ゴールドスタンダードになるだろう。この考え方に基づき、例えばOlkらは、TMSが同側サッケードよりも対側サッケードの潜時を長くする解剖学的領域を時間をかけてアプリオリに特定した。一方で他の研究では、実験時間を短くするために、運動野手領域 (TMSで簡単に特定できる) からの距離で表される相対座標を採用し、眼球運動に定量的に有意な効果をもたらす領域を特定することに成功している。同様に別の研究では、運動野手領域の吻側にある一連の前頭葉皮質部位を、誘発された手の運動反応が消失するまでプローブすることによってFEFを局在化した。しかしながら、最もよく使われる戦略は、脳溝/脳回の構成によって解剖学的にMRIで特定された場所をターゲットにすること、神経画像研究またはメタアナリシスからの正規化座標に基づいてターゲットを特定すること、または眼球運動タスク中に行われたfMRI活動に基づいてターゲットを特定することであった。
結論として、FEFの機能に関する研究間の潜在的な矛盾は、様々な要因こそ考え得るものの、FEFの局在化の方法の多様性に関連している可能性もある。この観察は、以下のパートで提示される結果を解釈する際に、心に留めておく必要がある。

 

3. FEFの役割
このセクションでは、眼球運動および視空間注意、視覚的アウェアネス、知覚調節に関連するFEFの役割を取り扱う。

3-1. 眼球運動タスクにおけるFEFの役割
ヒトでは、FEFが複数種類の眼球運動に関する役割を持っている (表3) ことは、主にFEFに損傷を受けた臨床症例、または健常人のFEFにTMSを実施した症例に基づいて導かれている。これらの研究は表4, 5にまとめられており、ここから導かれる結論は以下に示される。

20221230184710 20221230185055

 

3-1-1. 損傷研究
FEFの役割を取り扱うほとんどの損傷研究は、表4に示すように眼球運動障害にフォーカスを当てていた。こうした文献から浮かび上がってくる一般的な像としては、FEFの損傷はほとんどの反射的サッケードをごく軽度にしか障害しないが、固視の開放などの随意的要素が入る眼球運動には遅延が起こる。このため、反射的サッケードの誘発はほとんどPPCが制御している可能性が高いと考えられるが、FEFも特定の認知的状況下では眼球運動制御に寄与していると思われる。ここからFEFは、異なるカテゴリの反射的サッケードに関与する、異なる皮質・皮質下構造に、文脈依存的な影響を与える役割を持つとする仮説が立てられた。FEFが持つ反射的サッケードの抑制に関する役割は議論の残るところではあるが、DLPFCはこのような抑制を制御する領域としてよりもっともらしい候補である。最後に、FEF (とDLPFC、その他の皮質下構造) は、より一般的には予測的サッケード、記憶誘導性サッケード、アンチサッケードなどの随意的なサッケードの制御領域であると考えられている。さらに、FEFはあらゆる眼球運動の振幅の計算にも関与している。
損傷研究の重要性は確固たるものであるが、そこから導かれる結論の強度は、いくつかの側面から制限される。まず、損傷部位がFEFに限局していることはほとんどないため、観察された障害がFEFに特異的に関与しているかどうかを隔離することが難しくなっている。次に、損傷の急性期と慢性期で、異なる障害が観察されうるという点である。障害領域に結合する領域で起こる一過性の低潅流 (ダイアスキシス) や、障害ネットワーク内の複雑な可塑的再構成は、ネットワーク全体が持つ役割からFEFの役割を個別化して抽出することを難しくさせる。また、その他の皮質・皮質下領域や、健側FEFも代償的メカニズムにおいて重要な役割を持つと考えられる。ヒトと比較して正確かつ一過性の不活化/損傷を行うことができるサルの研究では、記憶誘導性サッケードや、点滅するターゲットに対するサッケードといった複雑なタスクを除き、急性期の障害はすみやかに消失した。

3-1-2. TMS研究
FEFに対するTMSの効果として最もよく報告されているのは、サッケードタスクにおいてその潜時の延長が起こるというものである。TMSは、コイルの放電に関連するクリック音とテープの感覚の存在によって、反応時間と眼球運動潜時に非特異的な (i.e., 脳組織に生じる電流の大きさに関連しない) 効果を与えてしまう。このため、短い潜時はクロスモーダルな促通に関連している可能性があり、一方で長い潜時は被験者がTMS放電を「go」シグナルとして待っている時間ととらえることができる。したがって、潜時に対する効果が、偽刺激や、サッケードの制御や実行に関係のない対照脳領域の刺激などの対照条件で得られた効果よりも強いか、あるいは逆の方向であるかを確認することが重要である。このような注意を払いながら、FEFに対するTMSは、さまざまな種類のサッケードの潜時を調節することが示されてきた。
眼球運動に関するFEFの役割を探索するTMS研究は、表5にまとめられている。患者研究と同様に、FEFに対するTMSが突然現れた視覚ターゲットに対する反射的サッケードを遅延させるかどうかは明らかでなく、潜時に対する効果がみられたのはほとんどがいくらかの随意的/意図的要素を含むプロサッケードであった。一方でアンチサッケードについては、FEFに対するTMS刺激で、反射的プロサッケードの抑制/随意的アンチサッケードの準備が阻害できるかどうかについて、はっきりとしたことはわかっていない。一般的に、TMSはサッケードの実行における複数のステージに干渉すると考えられており、ここにはたとえば目印/ターゲットの知覚的解析や、運動の準備 (バーストシグナル) が含まれる。サッケードの潜時に対して時折みられる促通効果は、固視活動の抑制 (FEF、またはFEFからSCに対する投射による) によると考えられている。微小刺激研究と同様に、ほとんどの研究は対側へのサッケードに関する効果を実証しているが、いくらかの研究では同側/両側へのサッケードに関する効果を実証しており、これは固視細胞の調節効果、または脳梁をこえた両側FEFへの調節効果と考えられる。興味深いことに、TMSは三次元空間で行われる複数の眼球運動の潜時を調節できる。最後に、FEFは固視、固視の解放、随意的眼球運動の誘発のみに関与しているわけではなく、眼球運動ダイナミクス (ゲイン、速度) の計算にも関与している。
まとめると、健常なヒトに対するTMSを用いた非侵襲的神経刺激研究によって、患者研究で得られていた所見が、高い空間・時間分解能で確認できたことになる。随意的眼球運動の誘発に関する疑う余地のないFEFの役割や、依然議論の余地が残る反射的な運動抑制/運動開始に関する役割は、反射的眼球運動と随意的眼球運動の曖昧な境界を連想させるものであり、さらに各ノードの機能が認知的文脈によって調節されうる眼球運動ネットワークが全体として持つ眼球運動制御に関する重要性を認識させるものでもある。このセクションの残りの部分では、FEFがどのようにして多様な高次認知機能に関与しうるのかという点について扱う (表6)。

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3-2. FEFにおける視覚的活動とsaliency map
FEFは視覚的シグナルを符号化し、眼球運動の準備のための視運動変換に関与すると考えられている。これは、表4,5で示されるように、損傷研究やTMS研究でFEFへの影響が眼球運動の精度に影響を及ぼすことから示唆される。この役割を超えて、FEFはそれ自体が視覚領域として働くと考えられており、麻酔下の動物で、活動がV2やV4に到達する以前に視覚誘発反応がFEFでピークを作ると報告されている。さらに、FEFからV4への投射はフィードフォワード結合 (i.e., 低次から高次の階層へ向かう結合) と考えられている。WurtzとMohlerは、FEF内の視覚性細胞の一部が、受容野から遠ざかる向きのサッケードが行われたときと比較して、受容野に向かうサッケードが行われたときに、視覚刺激に対する反応が強くなったことを報告した。このような選択的増強は、FEF (SCも同様) が刺激の重要性を評価し、その情報をサッケードの準備に用いていることを実証しているのかもしれない。FEFの視覚特性と運動特性の間には、空間選択という点では明確な関係があるが、ある程度の解離もある。BruceとGoldbergは、FEFに純粋な視覚性細胞と純粋な運動性細胞の間の連続体である視運動性細胞が存在することを記述し、この種の細胞は中間的な特性を示すことを示した。Blankeらは、ヒトで頭蓋内電極による視覚誘発電位記録を行い、対側視覚刺激に対する強い視覚性反応を示した (これは電気的に誘発された眼球運動の向きとも一致していた) が、同側の視覚刺激に対しても低振幅ではあるものの反応が見られたことを報告した。
FEF内の視覚的活動は、主にsaliency mapの計算に関連している。Saliency mapとは、視覚探索タスクにおいて、混乱因子の中に配置された行動に重要なターゲットの位置を示したものである。FEFでは、混乱因子に関連した活動の抑制とターゲットに関連した活動の増強が行われており、サッケードは一般的にsaliency mapの「勝者」に向かって行われる。しかしながら、こうした計算は、サッケードが必要とされないときにも行われ、「勝者」となったターゲットから離れる方向にサッケードを行わなくてはならない場合にも行われる。実際、「go/no go」視覚探索タスクにおいて、FEF内の視覚反応はサッケードが実行されたとき (go trial) にみられるが、ターゲットの識別自体はgo trialでもno go trialでも見られるものである。FEFでは初期 (50ms程度) に非識別的な視覚反応があり、その後 (100-150ms程度) 視覚的特徴に関わらず混乱因子の中から標的を識別的に選択する。また、標的に向かってサッケードを行う場合、サッケード潜時の変動はFEF細胞の識別速度とはあまり相関がなく、むしろ異なる運動準備段階と関係があるようである。
Walkerらは、ヒトにおいてFEFが、次のサッケードの標的を選択するためのsaliency mapの精緻化に関与しているかもしれないという直接的な因果関係を示す証拠をもたらした。実際、競合する視覚的混乱因子がサッケードの目標と同じ方向に、しかし予測できない場所に出現すると、サッケード軌道は混乱因子から離れるようになる。この混乱因子に関連したサッケード軌道の逸脱の大きさは、右FEFに対する単一パルスTMSによって増大した。これは、FEFへの刺激が標的のsaliencyを高めるプロセスを阻害したか、あるいは混乱因子に関連した抑制を高めた可能性があると解釈される。

3-3. FEFは注意と眼球運動の交差地点なのか?
上述したsaliency mapは、視空間注意の配置を反映している。注意の運動前仮説は、空間的注意の定位は、運動と同じメカニズムであるとしている。すなわち注意は、空間内の特定の点への眼球運動プログラムが実行可能になった際に、その点に定位されるというものである。この観点では、FEFの「視覚」活動は、サッケードプログラムの準備に帰属されうるものであり、FEFにおいて視覚的な解析処理が行われているというわけではない。
多くの行動学的・神経心理学的研究がこの仮説を支持しており、これらの研究によれば、眼球運動を伴わない潜在的な注意のシフトは、それ自体のメカニズムを持つ特異的で独特なプロセスと考えられているが、背景に統一的なプロセスを持つものの単なる人為的な分離でしかない可能性もある。注意の運動前仮説に従った多くの行動的証拠の中でも、識別刺激とサッケードの標的が同じ物体に収束すると視覚的識別能力が高まるが、異なる場所にある物体を参照しているとその能力が急激に低下するという研究は、ある場所に視覚的注意を向けながら同時に別の場所に向かってサッケードを準備する能力を否定している。神経画像研究では、眼球運動と注意のシフトにFEFを含む領域の類似した活動がしばしば見られ、これらの動作の基礎となる回路が顕著に重複していることが、PETとfMRI研究のメタ解析でまとめられている。興味深いことに、手による反応を行わなければならない場合や、注意タスクが特に負荷的な場合など、対象に対して明示的に反応しなければならないときの対側への注意のシフトに関連するFEFの関与は、特に顕著であった。
しかしながら、注意の運動前仮説の厳密な解釈に対して、反論となるようなエビデンスもある。たとえば、サッケード準備中のFEFに対するTMSでは、ターゲットの位置の識別成績を調節できる。サッケードの方向と同側の頭頂間溝 (IPS: intraparietal sulcus) に対するTMSは、成績を総合的に向上させたが、サッケードの方向と対側のFEFに対する非侵襲的な刺激は、刺激パラメータによってターゲット位置の識別能力を減弱させたり増強させたりした。このため、FEFは視空間注意と眼球運動のカップリングを仲介する役割を持っており、このようなカップリングはTMSによって調節されうると考える研究もある。サルの微小刺激実験やヒトのTMS実験でも、FEFが注意が向けられている目標位置に向かう運動準備を行うという意見に対抗する論拠を見つけることができる。ある研究では、サルに視覚的探索を行わせ、視覚的ターゲットの向きによって、その方向に向かう (プロサッケード) または離れる (アンチサッケード) サッケードを行うように訓練した。ターゲット出現後の様々なタイミングでFEFを微小刺激すると、アンチサッケード試行では、正しいサッケードの終点に向かって徐々にサッケードを行うが、視覚的ターゲットに対しては決して向かわなかった。Juanらは、ヒトに対して同様のタスクを行い、右FEFに対するdouble-pulse TMSによって、2つの異なる時間窓でサッケード潜時を遅らせることができたと報告している。早期窓 (ターゲット出現から40-80ms後) では、プロサッケードの遅延は視覚刺激の処理の中断と解釈され、また後期窓 (予想されるサッケードの200-160ms前) では、プロサッケードおよびアンチサッケードの遅延は、サッケード準備の中断と解釈された。

3-4. 視覚的探索におけるFEFの文脈依存性
眼球運動の準備が注意の定位と厳密に関連づいているかどうかというのは、FEFが視覚識別に関与していることに疑問を投げかけるものではない。ヒトに対する複数のTMS研究は、潜在的注意定位と視覚識別において左および右のFEFが持つ役割を正確に記述するためにデザインされた。例えば、Muggletonらは、探索配列の提示中に右FEF上で10Hz、500msのrTMSを行うと、視覚探索が阻害されることを示した。彼らは、視覚感度の低下は、偽陽性 (i.e., ターゲットが存在しないときに参加者が報告した誤った検出) の数の増加によって説明され、アイテムを処理する能力の低下に起因していることを示した。興味深いことに、刺激によって損なわれたのは、視覚的探索能力の特定のサブタイプであり、主に結合探索の障害 (i.e., 標的が約半数の混乱因子と同じ色で、残りの混乱因子と同じ向きである場合) とインターリーブ特徴探索の障害 (i.e., 標的および混乱因子の色が各試行でランダムに帰属される場合) だけであった。逆に、rTMSは一定特徴探索 (試行間で標的と混乱因子が常に同じに見える場合) には影響を与えなかった。著者らは、視覚的標的が顕著でも予測可能でもない場合、右FEFが視覚的探索に特に重要であると結論づけた。このような知見は、double-pulse TMSを用いて、探索配列開始後80msまでの早い時間窓、すなわち視覚探索におけるPPCの関与よりもずっと早い時間で確認された。
同様の視覚的探索パラダイムを用いて、視覚的プライミング (最近探索した標的と共通の特徴を持つ標的の検出を容易にする非宣言的記憶) や、逆に切り替え検出におけるFEFの役割も、TMSアプローチで扱われてきた。実際、fMRI実験では、同じ色と位置を反復している間、FEFを含む前頭葉-頭頂葉ネットワークにおけるBOLD反応が抑制されることが報告されている。非侵襲的脳刺激研究では、探索配列の提示中や、または試行間インターバルに、10 Hz rTMSパターンを左FEFに500msかけると、空間プライミングが阻害されることが明らかにされた。この結果から、記憶痕跡はおそらくそれらの行動に典型的に必要な視覚および眼球運動ネットワークを通じて分布し、FEFは表出反応の準備において情報の収束・統合が起こる領域であろうことが示唆された。最後に、試行と試行の間に左FEFに同一のrTMSパターンを適用すると、切り替えに対する反応時間が遅くなることから、左FEFも色の切り替え (または新しいターゲット) を検出する能力に関与していると考えられる。しかし、上で述べた右半球と左半球の非対称性は、他の研究によって疑問が投げかけられた。配列の開始時から10Hzで500msのrTMSを左ではなく右のFEFに行うと、空間プライミングが阻害され、右と左の両方のFEFに同様のrTMSを行うと標的位置がランダムな場合に反応時間が長くなることが示されている。
最後に、FEFがより直接的に空間記憶に、特にトランスサッカディック記憶に関与している可能性もある。実際、Primeらは、サッケード時間中に左または右FEFが阻害されたときに、被験者が記憶できる項目の数が減少したことを示した。しかし、このような効果は、FEFのちょうど吻側に存在する空間的ワーキングメモリ領域の刺激とも関連している可能性がある。

3-5. 視覚領域のトップダウン制御
いくつかの研究では、FEFの識別に対する寄与は視覚野への出力投射によって仲介されていることが示唆されている。実際、動物とヒトの両者における電気生理学的エビデンスが、FEFの活動と後頭葉の興奮性の関係性を実証している。MooreとArmstrongは、サルのFEFの頭蓋内刺激を、サッケードを誘発するのに必要な強度よりも低い電流 (閾値下刺激) を用いて行い、視覚野V4における視覚反応が増強されることを確認した。また、この増強は、レチノトピックに特異的であった。すなわち、FEFに対する閾値上刺激によって誘発されたサッケードの終点がV4細胞の受容野と重なっていたとき、閾値下刺激がV4細胞の視覚反応を増強した。この種の視覚野興奮性のトップダウン調節は、非ヒト霊長類で見られたFEF刺激後の知覚増強 (蛍光変化の検出閾値が下がること) (ただしこの現象は、刺激されたFEF細胞の「運動野」に視覚刺激が提示されているときに限って起こる) を説明可能である。
TMSは、特定の視覚野や運動野を下支えするFEF内の神経集団を対象とするのに必要な空間分解能には達しないが、TMSとEEG、TMSとfMRI、ダブルコイルTMSと心理物理を併用した健康人でのいくつかの研究では、視覚野と視覚パフォーマンスに対するFEFのトップダウン的影響が示された。潜在的注意定位課題のキューイング期間中に右FEFに5パルスの短い10HzのrTMSを行うと、視覚刺激によって誘発される電位と同様に、視覚刺激前の注意に関連した進行中の後頭部電位も調節された。同様に、右FEF上に9Hzの短い5パルスTMSを行うと、視覚野V1-V4内のfMRI BOLD活動が調節され、周辺視野のレチノトピック表現の活動増加と中心視野の活動減少が起こった。さらに、右FEFにTMSを行うと、中心視覚刺激よりも周辺視覚刺激の方が知覚コントラストが高くなることが示され、このような活動調節が行動学的に重要であることが証明された。最後に、ダブルコイルTMS技術は、左右のFEF内の活動を同時に誘導し、MT/V5の興奮性を測定するために使用することができる。MT/V5を刺激する20-40ms前にFEFを刺激すると、眼閃を誘発するのに必要なMT/V5刺激の強度が減少し、FEFがこの運動視覚野の興奮性を直接調節する効果があることが示された。

3-6. 視覚パフォーマンスとアウェアネスの調節
FEF刺激によって視覚野における知覚の増強や活動性の向上が見られるとする動物やヒトに対する研究と一致して、左右のFEFに対するTMSが視覚的アウェアネスを向上させ、識別スピードの向上をもたらすという複数の報告が存在する。GrosbrasとPausは、左と右のFEFに対してTMSパルスをターゲット出現の53ms前に与えることで、強制選択識別タスクの反応時間が減少することを報告した。同著者らは、ターゲット出現の40ms前にTMSパルスを与えると、視覚検知タスクの感度が向上することも示した。同様に、Chanesらは右FEFに対して低コントラストのターゲットの出現80ms前にTMSパルスを与えることで、検出タスクの視知覚感度を向上させることができると報告した。一般的にこれらの研究は、右FEFの刺激では両側の効果がみられるのに対し、左FEFの刺激では成績向上は対側半視野に限ったものであった。さらに、空間的に情報を与える視覚的手がかりによって注意のプロセスを調節する戦略と、特定の皮質領域に送達する非侵襲的神経刺激による戦略を組み合わせた研究において、TMS効果とターゲット提示前の空間における視覚・空間的注意の方向づけの操作の間の相互作用が見いだされた。具体的には、上記の研究で報告された右FEF刺激後の成績向上は、有効な手がかりのある場所、および空間的に中立な手がかりの後に特異的に起こり、無効な手がかりの後の場所では起こらない。
知覚の強化は、バックグラウンドの活動が全体的に増加し、知覚の閾値に近づくことで、入ってくる弱い信号がより届きやすくなることから生じると考えられる。この全体的な活動の注入に加えて、TMSの結果は、対象となる領域とそこに混在するニューロン集団の状態にも大きく依存する。したがって、TMSは、ニューロンの活動レベルに応じて、特定のクラスターを選択的に増強することができる。この文脈では、視覚的パフォーマンスとアウェアネスの向上は、FEFの活動を直接的に変化させるか、FEFと視覚領域の間の接続を介して、入力される視覚信号の入力ゲインを間接的に調節することによって起こるとする先行報告がある。興味深いことに、Chanesらで報告されたTMSによる促進効果の方向と大きさの個人差は、白質トラクトグラフィーを用いて推定したFEFとSC間の解剖学的結合と有意に相関していた。この結果は、視覚パフォーマンスに対するTMS調節効果の強さをネットワークレベルで説明するために、被刺激部位と他の主要な脳構造との間の白質結合が重要な役割を果たすことを示唆している。
また、TMSの効果は、注意のカバーシフトの際に自然に起こるのと同様の方法で、実際に知覚を増強する可能性があることも示唆された。この考え方に沿って、Chanesらは、注意の方向付けのプロセスをシグナル伝達する神経生理学的な時空間パターンを模倣する活動をエミュレートする方法として、TMSを用いる実験を考案した。この研究は、BuschmanとMillerが、ヒト以外の霊長類において、トップダウンおよびボトムアップの注意プロセスをそれぞれ支える高ベータ (~30 Hz) およびガンマ (~50 Hz) の前頭頭頂同期を示した先行報告に基づくものである。Chanesらは、これらと同じ周波数で短い刺激シーケンスを使用することにより、30 Hzの右FEF刺激後の低コントラスト標的検出課題の知覚感度の増加を観察し、これは内因性注意の増加および/または視覚的意識へのアクセスの容易化と一致すると思われた。興味深いことに、TMSによる改善率の個人差は、刺激されたFEFとIPS内およびIPS近傍の後頭頂葉領域を結ぶ上縦束の第一枝の体積と有意に相関し、リズミックTMSによって引き起こされる周波数固有の前頭・頭頂同期が視覚パフォーマンス改善を補助したと考えられた。さらに、右FEFを50Hzで刺激すると、標的が実際に存在するかどうかにかかわらず、標的の存在を支持する感覚的証拠が増加したかのように、反応基準の緩和が誘発された。この結果は、視覚感受性と反応基準という異なる2つのプロセスが、同じ領域内のニューロン資源から出現し、周波数ベースで多重化されていることを支持するものである。rTMSの短いトレインは、より強い行動効果を駆動するために広く使用されているのに対し、Chanesらのようにリズム脳活動を操作する新しい方法として適用することもできる。
FEFに対するTMSで視知覚と視覚的アウェアネスの改善が見られたという結果は、視覚探索タスク中に視覚識別の障害が起きたという結果と矛盾しない。まず、TMSは知覚空間の1つの特定の領域の知覚を選択的に増強させることができるような空間分解能は持っていない。このため、視覚探索パラダイムでは、TMSによる視覚増強によってターゲットと同じくらい混乱因子も恩恵を受け、前者の相対的な恩恵が減少し、増強ではなく知覚障害につながる可能性があるのだ。
FEFへのTMSは、手がかりのある場所での視覚的パフォーマンスを向上させるだけでなく、注目されていない場所での刺激処理の抑制を破壊するはずである。この仮説は、Smithらの研究でも確認されている。この考え方に一致して、視覚的検出課題において、左FEFに20Hz、200msの短いrTMSトレインを、手掛り開始の50ms前 (先に引用した研究のように標的開始のタイミングではない) から行うと、対側標的の前の無効な手掛りへの反応時間コストが減少することが示されたのである。また同様に、Roらは、右FEFにTMSパルスを照射し、手掛かり開始の600ms後と目標出現の150ms前に1回のTMSパルスを照射すると、戻り現象の抑制が減少することを報告した。このよく知られた注意プロセスは、ターゲット開始の一定時間前にキューが出された場所での視覚パフォーマンスの悪化である。これは、おそらく注意の中断によって引き起こされ、すでに精査された空間の領域の再探索を防ぐと考えられている。上記の研究は、FEFが持つ未注意の空間位置を探索抑制するための能動的なメカニズムをTMSによって妨害することで、未注意の空間位置での視覚検出能力の増加がもたらされるという考え方を支持している。
まとめると、FEFは眼球運動の準備とトリガーに重要な領域というだけでなく、注意定位、視覚的アウェアネス、意識的アクセス、知覚パフォーマンス、意思決定などの認知プロセスに貢献する重要な領域として考えられているのである。しかし、前述したように、これらの過程は、大きく分散した皮質-皮質および皮質-皮質下のネットワーク内の活動によって媒介されていると思われる。特に前頭-頭頂システムが重要であり、本稿で検討したFEFと同様の効果が、IPSなどの特定のPPC領域で見出されている。前頭葉背側と頭頂葉後部の領域が、注意や視覚パフォーマンスの調節プロセスにおいて共通かつ同期して働いているという事実については完全に一致しているとしても、この2つの領域の貢献の違いを強調する研究もある。例えば、注意の方向づけ課題における右PPCの優位性はよく知られているが、FEFの寄与に関しては半球間の非対称性はあまり明らかではなく、こうした側面は課題に大きく依存していることが証明されるかもしれない。また、意図的な行動において、表出的な反応を必要とする場合には、IPSよりもFEFの関与が大きい可能性もある。 このように、相互に関連性の高い2つの領域に共通する役割と特徴的な役割をさらに理解するためには、今後の研究が必要であろう。
最後に、FEFは眼球運動と視覚認知の両方に関与しているが、両方のタイプの機能におけるFEFの複合的な役割を同時に明示的に探求した研究はほとんどないことを述べておく。認知的文脈は眼球運動におけるFEFの役割を調節するが、例えば意識的知覚の直接報告は眼球運動の研究では行われない。逆に、認知に関する研究では、眼球運動を調べることはほとんどない。今後、マイクロサッケードや他の固視眼球運動を調査することで、眼球運動と認知の間の実験的解離の関連性について、新しい光を当てることができるかもしれない。

 

4. 視知覚とアウェアネスの改善
このレビューの最終パートとして、我々はFEFの活動性と、眼球運動、視空間的アウェアネスの関係性について手短に取り扱う。これらのエビデンスから、非侵襲的脳刺激と3次元空間での眼球運動トレーニングを視覚・空間障害の治療とリハビリテーションに利用する可能性の根拠を詳しく説明することができる。例として、右半球損傷後の患者がしばしば陥る半側空間視覚無視のケースを取り上げることにする。

4-1. 視空間的アウェアネスの障害: 半側空間無視の例
上でレビューしたように、FEFは眼球運動の計画と実行に寄与する唯一の主要ノードではなく、注意の定位や視覚認知の複数の側面にも関与している。しかし、驚くべきことに、非ヒト霊長類およびヒトにおけるFEFの損傷研究のほとんどが、眼球運動障害にしか注目しておらず、その他の行動学的結果を無視してしまっている。右半球の注意ネットワークの障害では、視空間無視のような、注意定位と視覚的アウェアネスの障害がみられることばしばしばある。この状況は、障害側と対側の空間へ注意を定位することができなくなるため、極めて障害度の高い症候群である。この障害は、特に右半球の皮質と皮質下領域に障害を引き起こす脳卒中においてよく見られるものである。1281人の急性期脳卒中患者の多施設研究では、視空間的無視の症候が見られたのは、右半球の障害患者の43%、左半球の障害患者の20%であった。明らかな自発的回復はしばしばみられるが、すべての症候や障害が消失するわけではない。実際、3ヵ月時点では、右半球障害患者の17%、左半球障害患者の5%で中等度の無視が残存していたという。無視は、運動や感覚など、その他のドメインの障害のリハビリテーションにも影響を及ぼし、長引けば長引くほど、回復に乏しくなり、正常で適応的な日常生活への復帰に影響を与える。行動学的、感覚的、薬物的な治療の大幅な前進にも関わらず、多くの患者がリハビリテーション後も長引く障害に耐え忍んでいる。
視空間無視を理解する上で最も有力な仮説の一つは、各半球が対側半球へ偏って注意を定位しており、片側半球の障害でそのバランスに障害が起こるとしている。ヒトでは、右頭頂葉脳梗塞の数日後に左FEFを含む2回目の脳梗塞を発症し、最初の病変によって引き起こされた重度の無視の臨床症状が完全に代償された例が存在する。

4-2. 視空間的アウェアネスを改善するための非侵襲的脳刺激
半球バランス不均衡の文脈において、rTMSやtDCS (transcranial direct current stimulation) のような非侵襲的な脳刺激手法の使用は、特に有用であることが証明された。実際、両方の技術が一過性に脳領域興奮性を調節可能であった。正常半球に対する抑制性刺激 (主に頭頂葉領域) は、障害半球の生存領域の過度な抑制を軽減させることで、無視症状を改善させる効果をもたらした。
しかし、FEF-TMSが、少なくとも健常者において、視知覚と視覚的アウェアネスを増強させる能力があることから、注意ネットワークのこのノードをリハビリ目的で標的とすることに関心が戻ってきたと考えられる。実際、無視は「ネットワーク」の障害であり、その病巣が無視をもたらす領域には著しい多様性がある。側頭葉、頭頂葉前頭葉の皮質病変、皮質下病変、あるいはこれらの領域の複合病変は、脳卒中後3ヶ月の永続的な無視を引き起こす可能性が最も高い。病巣そのものに起因する障害以外に、前頭-頭頂ネットワーク全体に影響を及ぼすダイアスキシス (i.e., 病巣から遠いが解剖学的にはつながっている領域の神経活動の停止) や結合断絶・低灌流によっても無視症状が生じる可能性がある。最近のfMRI研究では、無視患者において、損傷部位および非損傷の前頭-頭頂注意指向性ネットワークの機能的結合が損なわれていることが示されており、結合断絶説を強く意識して病態を説明すべきである。 最近の視空間無視の説明モデルは、無視は主に右半球優位の非空間的腹側注意ネットワークの損傷から生じると示唆している。この腹側ネットワークは、空間的注意を制御する背側前頭-頭頂ネットワーク (FEFとIPSを包含する) と相互作用しているはずである。したがって、右腹側ネットワークの構造的損傷は、背側ネットワークにおける安静時およびタスク関連の機能的活動の非対称性をもたらし、無視症候群の典型的な側方性注意欠陥につながるであろう。
注意プロセスに関連した特定の周波数での前頭-頭頂同期が存在すること、また視覚的アウェアネスを高めるためにTMSでFEFにそのようなリズムを注入するというアイデアも、治療のための新しい展望を開くものである。さらに、5人の右脳卒中患者を対象としたMEG実験では、標的提示の前に左前頭部で低ベータの活動が蓄積されることと、標的省略が相関していることが明らかになった。このように、無視の発生は異常な振動活動から生じているようであり、リズミックTMSで操作できる可能性がある。従来のrTMSプロトコルは、脳の振動に複雑な影響を与えることが示されていたが、脳波と組み合わせたリズミックTMSまたはtACS (transcranial Alternate Current Stimulation) の使用は、選択した周波数で生理的に適切な振動を発生させる可能性を示した。同様に、ダブルコイル刺激の使用は、離れた脳領域間の同期を調節する有望なツールである。今後、臨床的に長い時間症状が持続する集団において、このような変調を起こす可能性を探る研究が必要である。

4-3. 視空間アウェアネスを向上させるための3次元眼球運動
視覚的アウェアネス障害の治療において、眼球運動と意識的知覚の関連性をさらに追求することも、重要なテーマである。実際、眼球運動のトレーニングは、FEFや他の注意ネットワークの領域を活性化する自然な方法となり得る。その結果、可塑性が生じ、視覚認識が改善されるかもしれない。輻輳は特に脆弱であり、加齢、疲労、神経学的障害の影響を受けやすい。このため、奥行き方向についての眼球運動の再教育は、空間内のより良い視覚探索を促進し、結果的に意識的知覚の改善をもたらすかもしれない。
3次元空間における探索運動と視空間情報の収集との関連は、単純な脳資源の共有にとどまらない。実際、輻輳運動の遠心性コピー、輻輳状態の固有感覚 、あるいは単に輻輳運動がプログラム可能な視差指標はすべて、我々の奥行き評価能力に関与していると考えられる。逆に言えば、3次元空間を理解することで、知覚に応じた運動を引き起こすことができる。しかし、例えば有名なミュラー・リヤー錯視のように、物体の大きさの誤判定と正しい手掴み動作が共存するような、知覚と動作の解離の顕著な例もある。このような体験から、視覚は知覚のために、視覚は行動のためにあるという伝統的な解離が生まれた。しかし、このような解離は議論の余地があり、実験的な人工物である可能性もある。実際、視覚的なフィードバックがない場合、手や目の動き (ひいては「行動のための視覚」) も錯視の影響を受けることがある。同様に、知覚された奥行きが実際の奥行きと異なる錯覚では、輻輳運動は物理世界の奥行き手がかりに従うこともあれば、錯覚に従うこともある。興味深い解釈として、行動に役立つ速い収束と、意識的な知覚の構築を可能にする遅い収束の2種類があるという考えもある。
障害半球の対側の空間におけるアウェアネスの障害に加えて、無視患者は、課題が実行される深さに特有の問題にも悩まされているようである。無視の症状は、時に近位空間もしくは遠位空間でより深刻であるようだ。おそらく、評価パラダイムやタスク、使用するエフェクター、右半球の損傷の位置や程度が、この問題に関して異なる研究によって見出された違いを説明できるだろう。身体周辺の空間と身体外の空間の表現は、前頭-頭頂システムの背側または腹側の領域によってそれぞれ担われているという考え方は、実験的に裏付けられている。したがって、近位空間と遠位空間で行われるタスク間のパフォーマンス分離は、タスクに必要な領域と空間の特定の部分を監視するのに重要な領域間の切断パターンの特異性を明らかにすることができる。いずれにせよ、無視患者は奥行き方向の視覚探索に障害を示す可能性があり、それが特定の奥行きに対する正面-平行空間の探索の困難を悪化させる可能性がある。奥行き方向の輻輳動作に焦点を当てた眼球運動トレーニングは、アウェアネス障害のより効果的なリハビリテーションのために探求すべき、興味深い道かもしれない。

 

5. 結論
本レビューでは、我々はヒトにおけるサッケードおよび視空間認知に関連する分散型ネットワークの一部分であるFEFの役割と局在に焦点を当てた。この領域は、三次元空間内の眼球運動制御や、注意や視覚的認知の複数の側面にも重要な寄与を行っている。特に強調したのは、この領域の因果的機能探索を行うことができるTMS研究であった。我々は、これらの研究が示したFEFの皮質局在は、必ずしもヒトや非ヒト霊長類における他のマッピング技術 (損傷研究、微小刺激、頭蓋内記録、PET、fMRIEEG/MEG) から得られた結果と必ずしも一致しないというエビデンスを提供した。異なる技術、パラダイム、実験モデルによって得られた類似性と解離点を提示・議論した。最後に、我々はFEFの活動性を非侵襲的な神経刺激や眼球運動訓練によって操作し、健常集団および脳卒中患者における三次元空間内での視空間的アウェアネスの向上/回復を促進する可能性のある方法について議論を行った。

 

6. 感想
軽い気持ちで読み始めたら膨大すぎてびっくりしてしまいました...。単なる眼球運動の話かと思いきや、当然ですが注意やら意思決定やら、色んな認知ドメインとの関わりが出てきて大混乱でした。特に、注意やら意思決定やら、前頭葉機能に関する実験手法を全然理解できていないのもあり、内容の3割も理解できていない気がします。
というか、FEFの局在も十分にsettleしていないし、役割についても思っていたよりも全然限定的 (というか他のネットワーク内ノードの寄与が大きい部分が多数) でした。まだまだはっきりとわかってないことが多いんだなあと感じました。
むずかしー。