ひびめも

日々のメモです

DLB (Dementia with Lewy Bodies) and PDD (Parkinson Disease Dementia)

Lewy body dementias: dementia with Lewy bodies and Parkinson disease dementia. 
Gomperts, S. N. (2016).
Continuum: Lifelong Learning in Neurology, 22(2 Dementia), 435.

神経内科専攻医1年目っぽい記事にしてみました。ちょっと古いですが勉強になる。

 

背景

1912年、Frederick LewyがLewy小体という細胞質内封入体をParkinson病 (PD) の黒質で記述した。大脳皮質にもLewy小体が存在しうることが報告されたのは1961年であったが、その頻度は1980年代までは稀であると考えられていた。しかし現在では、Lewy小体は認知症における神経病理学的所見として、アルツハイマー病 (AD) の次に多いものであることが実証されている。Lewy小体に関連した病理は、レビー小体型認知症 (DLB)、PD、多系統萎縮症 (MSA) で観察される。DLBとPD dementia (PDD) はLewy小体認知症という大枠を構成する臨床病型である。DLBとPDDはよく似ており、幻覚、認知機能の変動制、パーキンソニズムを伴う認知機能障害を呈する。DLBとPDDで影響を受ける認知ドメインはオーバーラップしており、遂行機能障害、視空間認知障害、そして症例によってばらつきはあるものの記憶障害もみられる。DLBでは認知症がパーキンソニズムに先行することが多いが、コンセンサスとして認知症の発症はパーキンソニズム発症の1年以内までであればよいことになっている。一方で、PDDは認知症がPD患者に起こった場合に診断される。
運動症状と認知症状の発症の時間的順序の違いはあるが、PDDとDLBは剖検段階では非常によく似た神経病理学的変化を呈する。これらの変化は、辺縁系および皮質における広範なLewy小体と、脳幹や辺縁系・皮質領域におけるα-synycleinの凝集体から構成されるLewy神経突起を含み、レビー小体病とも呼ばれる。さらに、中脳ドパミン細胞や前脳基底部の神経細胞脱落もみられる。アミロイドと神経原線維変化を含む神経突起斑はDLB症例の多数で認められ、PDでも一般的である。現在のDLBの神経病理学的基準では、α-synuclein病理がADの神経原線維変化病理よりも重度であってLewy小体病がその症例の臨床症状を起こしていた可能性が高いと推定できることを重要視している。剖検時のLewy小体病の存在が、生前患者のDLBまたはPDDの存在を必ずしも予測できないというのも特記すべきことである。臨床的、神経心理学的、神経病理学的にオーバーラップした特徴を持つPDDとDLBは、実際には同一の疾患プロセスの異なる表現型なのではないかと考えることもできる。この仮説は、症例的な疾患修飾治療が両方の疾患において有効であることを示唆する。

 

DLBの臨床的特徴と診断的評価

1. 認知症
典型的なDLB患者は、早期に認知症を呈し、幻覚を伴うことがしばしばある。錐体外路運動症状とPDに特徴的な症状は、同時に、または認知症発症後比較的速やかに発症する。進行性の認知機能低下は、典型的には55歳以降の早期に始まる。DLBである可能性を知るためにも、一番最初に障害される認知ドメインを同定するのは有用である。DLBでは、短期記憶が障害されることもあるが、記憶以外の認知ドメインが障害されることが頻繫であり、注意や遂行機能、視空間的機能が代表的である。患者は職場は家庭においてマルチタスクの障害を早期に自覚することがあり、また会話の流れがうまくつかめなくなることなどもある。また、運転中に道に迷ったり、GPS機器への依存度が高くなることがある。また、短期記憶の低下も顕著となり得るため、ADに見られる海馬依存性の記憶の符号化の障害を彷彿とさせるが、多くのDLB患者における短期記憶障害は、記憶された情報の想起の問題を反映しており、記憶の問題は何かしらのキューによって改善することができる。記憶の符号化と想起の問題は、詳細な認知機能検査で区別することができる。時間の経過とともに、患者の認知障害は進行し、他の認知領域を巻き込んで広がっていく。それが社会的・職業的機能を損なうほど重症化すると (手段的・基本的な日常生活動作に影響を及ぼすレベル)、認知症の診断基準に達するのである。

2. 神経精神的症状
反復する複雑な幻覚はDLB患者で一般的であり、その早期からの存在は診断に有用である。これらの幻覚は一般に具体的であり、動くことが多い。また、幻覚は成人や小さい子供、亡くなった家族、小動物であることが多い。疾患の早期では、幻覚はユニモーダルであり、幻聴・幻臭・幻触以外のものである。幻覚は基本的に耐えられるものであり、感情に影響を与えないが、たまに不快であったり恐怖を引き起こすようなものもある。こうした幻覚は視覚的錯角 (コーナーランプが人に見えるなど) とは区別される。視覚的錯角も疾患早期でよくある症状であり、特に夜など薄暗い環境において見られやすいが、疾患特異性はない。
妄想もDLB患者で生じうる症状の1つだが、典型的には疾患経過の後期で起こり、被害妄想的な特性を持つことが多い。不貞妄想や、家庭への侵入者、強盗が一般的であり、特に後者は患者が家の中でものを誤った場所においてしまったことによって生じやすい。認知機能が低下すると、患者は配偶者やその他の介護者のことを侵入者と見なす、カプグラ症候群として知られる現象を呈することがある。この現象に対する仮説の1つとしては、記憶と関連づいた感情的価値の喪失が考えられている。すなわち、親しみのあるはずの顔が、連合した感情を想起させなくなってしまうのである。

3. 注意と覚醒の変動
注意力、覚醒度が変動することによって、一点凝視したり、思考の流れが不安定になったりするエピソードや、日中の眠気の自覚、昼寝が頻繫にみられる。このようなエピソードは定量化するのが難しい上に、薬の副作用や感染症などの有害な代謝性の要因と切り離される必要がある。近年検証された変動性尺度として、以前の尺度を集約した認知症変動性尺度 (Dementia Cognitive Fluctuation Scale) がある。変動性のスクリーニングとして、以下のうち少なくとも3つの項目が陽性であることが必要である。(1) 思考をまとまりよくまとめることができない状態が1日の中で大きく変化しているか、(2) 起きている間に1時間以上眠っているか、(3) 前夜に通常の睡眠時間をとっているにもかかわらず日中に1時間以上眠気やだるさを感じているか、(4) 普段の生活で覚醒しにくいか。このアプローチは、DLBやPDDの臨床症候群とADや血管性認知症の鑑別において、感度80%、特異度76%を示したが、神経病理学的な検証はまだなされていない。

4. 注意や覚醒の変動
パーキンソニズムは、こうした認知の問題と同時に、あるいはそれに続いて発症することが多く、診断上も非常に有用である。これらの運動徴候は左右対称であることが多く、安静時振戦よりも寡動や歩行障害の方が多く見られる。しかし、運動症状のバリエーションは豊富である。PDの古典的な非対称性のpill-rolling tremorを呈する患者もいれば、運動面での懸念はないものの、検査で明らかな錐体外路機能障害を呈する患者もいる。カルビドパ/レボドパなどのPD治療薬に持続的に有効な反応を示すPD患者とは対照的に、DLB患者はこうした治療薬に対する反応が限定的であることが多い。それにもかかわらず、これらの患者は、SPECTやPECTにおいてDAT活性の低下を示す。また、DLB患者の一部では、全身性ミオクローヌスが起こることがある。

5. 抗精神病薬への過敏性
ドーパミン細胞の減少の結果、DLB患者は抗精神病薬に対して特に感受性が高い。抗精神病薬は、PDのようにパーキンソニズムを誘発したり、悪化させたりする可能性があり、これは不可逆的である可能性もある。さらに、抗精神病薬は死亡率の上昇と関連しており、DLB患者では悪性症候群のリスクが高い。また、抗精神病薬は認知に影響を与え、注意や覚醒を低下させることもあります。この抗精神病薬に対する過敏性は臨床的に重要であり、多くの患者は精神症状や混乱のために救急外来においてハロペリドールや他の抗精神病薬を自由に処方されてしまう。そのため、DLB患者はハロペリドールやその他のD2受容体拮抗作用の強い抗精神病薬に対して本質的に「アレルギー性」であることを患者やその介護者に教えることは価値があると思われる。

6. その他の関連する症状
PDと同様にREM睡眠時行動障害 (RBD)、嗅覚障害、便秘は一般的であり、疾患の発症の数年前から存在しうる。疫学データでは、これらの症状はすべてのα-synucleinopathy (PD, DLB, and MSA) のリスク因子であることが示唆されている。さらに、DLB患者の多くは慢性的な薬剤高感受性を呈する。ただし、その明確な原因はわかっていない。

7. RBD
RBDは、REM睡眠の正常な麻痺が損なわれる症候群を指す。結果として、患者が蹴る、殴る、怒鳴るといった行動で夢を演じていることが患者のベッドパートナーによって報告されることがある。RBDの行動のほとんどが暴力的であるという観察から、REM睡眠時麻痺の障害は相対的なものであり、おそらくカテコールアミンや扁桃体の駆動に基づいて、感情的に顕著な夢のみによって克服される閾値の減少がある可能性が示唆されている。

8. 自律神経障害
自律神経障害はDLBでは一般的だがMSAではそこまで重度ではない。便秘は両者で重度であり、積極的治療が必要となる。一部の患者は起立性低血圧やその合併症、特に失神や転倒を起こすことがある。これはDLBの疾患後期でより一般的になり、薬物によって増悪しうる。心臓交感神経核の脱神経が起こることもしられており、MIBG心筋シンチグラフィーによって評価可能である。加えて、一部の患者は神経因性の頻尿や失禁を経験する。

 

DLBの診断基準(現在主に使われている認知症ガイドライン2017の診断基準とはやや異なり注意!)

臨床的なDLB診断基準は、上で述べたDLBの臨床的特徴を反映している。認知症に至る進行性の認知機能低下は必須条件であり、注意や遂行機能、視空間的機能が障害されやすい。中核的特徴として、(1) 具体的で詳細な繰り返す幻視、(2) 注意と覚醒の変動、(3) パーキンソニズムがある。支持的特徴としては、PDでも一般的であるが、RBD、抗精神病薬への過敏性、DAT-SPECTまたはPETの取り込み低下がある。診断として、clinically probable DLBは中核的特徴のうち2つまたは中核的特徴1つと支持的特徴1つが必要である。

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※ なお、現在用いられている認知症ガイドライン2017の診断基準は以下の通り。中核的特徴としてRBDが加えられている上に、支持的特徴ではなく指標的バイオマーカーという項目として線条体取り込み低下、MIBG心筋シンチの取り込み低下、PSGによるREM睡眠時麻痺の喪失が記述されている。

レビー小体型認知症の臨床診断基準(2017)

これらの基準は、DLBの診断に対する特異度は高いが (79%から100%と推定)、感度は低く (12%から88%)、支持的特徴を加えることで改善する。したがって、これらの基準をさらに洗練させる必要がある。
上で述べたように、DLBの臨床的特徴はADのそれと重なることがある。例えば、短期記憶障害は両方の認知症で起こりうる。しかし、ADでは通常、短期記憶の障害が支配的であり、海馬依存性の障害による符号化の誤りを反映した最も早期に現れる特徴である。一方、DLBでは、記憶障害のパターンがより多様であり、一部の患者では想起障害を反映する。認知機能検査では、認知症の重症度を考慮すると、DLB患者はAD患者よりも注意、遂行機能、視空間的機能の検査でより高い障害を示すことが多い。しかし、DLBとADの経過の後半には、認知障害のプロファイルが重複することがある。幻覚とパーキンソニズムはADの後期に起こることがあるが、どちらもADでは決して一般的でなく、早期に存在する場合はDLBを示唆するものである。覚醒または注意の変動は、毒性-代謝性の場合を除き、初期のADでは珍しいが、日中の眠気はしばしば認知症の重症度の上昇とともに増加する。
パーキンソニズムや認知機能障害は、パーキンソニズムを呈するタウオパチー、すなわち進行性核上性麻痺 (PSP)、皮質基底症候群 (CBS) でも起こりうることを念頭に置いておくとよい。認知機能障害と運動障害の特異的な構成が、これらの臨床像をDLBやPDDと区別しうるものとしている (症例1を参照)。これらの疾患については、以下のセクションで簡単に説明する。

(症例1)
進行性の認知機能低下と運動症状に対する評価のために受診した63歳男性。彼はその時すでに、小刻み・前かがみ歩行、姿勢時振戦を呈し、ボタンを留める行為が徐々に難しくなっていた。1年後、彼は小さい自動車自己に巻き込まれた。短期記憶の喪失が認められたのはこの時であり、以降徐々に進行した。彼は、特に夕方になると非脅迫性の子供の幻視を訴えるようになった。もともとコンピュータ技術士の仕事をしていたが、そのパフォーマンスは徐々に減衰し、退職せざるを得なくなった。その後、服薬管理や金銭管理は彼の妻が行うようになった。彼はしばしば傾眠となり、日中に起きていることが難しく、少なくとも2時間ほどは寝てしまっていた。彼はアパシーを呈し、会話にもあまり参加しなくなった。彼は身体的要因というよりも主に認知機能低下のため、ほとんど家事ができなくなったが、馴染みの道をドライブすることだけは楽しめていた。妻曰く、彼はここ数年間でたまに暴力的な夢をみて、それを実際に体で演じていることがあったが、それ以外の日にはよく睡眠をとっていた。MoCAは21点で、5分遅延再生では5/5すべてで誤りがあったが、手掛かり提示によって誤りは3/5に低下した。空間的検査では、図形模写や時計描画で顕著な歪みがみられた。思考緩慢も目立った。失行や失語はみられなかった。垂直性眼球運動は保たれていた。彼は仮面様顔貌であり、頸部と上肢にトーヌスの上昇があった。反復運動は上肢で緩慢であり、上肢には対称性の姿勢時振戦がみられた。歩行は緩徐であり、対称性に腕の振りが低下しており、小歩とen bloc turningを認めた。Pull testではわずかな不安定性を認めた。血液検査は正常であった。MRIでは全脳の軽度の萎縮を認め、FDG-PETでは側頭・頭頂・後頭葉代謝低下を認めた。これらの結果から、彼はDLBと診断された。Donepezilを開始し、軽度の認知機能改善と幻視の軽快を認めた。Carbidopa/levodopa 25/100 tidを開始し、寡動と歩行様式に中等度の改善を認めた。理学療法作業療法、家庭内安全性評価も有用であった。彼のRBDは軽度と考えられ、治療は行わなかった。幻視は半年後には再燃したが、脅迫性はなく、耐えうるものであった。同時期から認知機能低下も再度進行するようになった。

 

PDDの臨床的特徴と診断的評価

1. MCIとPDにおける認知症
Dr James Parkinsonの"An Essay on the Shaking Palsy"の導入に反して、PDでは知能が「障害されない」わけではない。PD患者は安静時振戦、筋強剛、寡動、歩行障害などの運動症状を主訴に医療機関を受診するが、遂行機能、視空間的機能、記憶などの特定の認知機能の障害は一般的であり、40年以上前から知られている。PDではこうした認知機能の経時的悪化が早く、認知障害の発生率と有病率は罹患期間と重症度に相関する。この意味で、PDは認知症の危険因子と考えることができる。PDにおけるMCIについては、正式な基準が発表されている。これらの基準は、機能低下に対する運動障害の寄与を考慮しようとするもので、現在その妥当性が確認されてきている。

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PDにおける認知症は一般的であり、その有病率は78%にのぼるとされ、発生率は1年あたり3-10%と、一般人口のおよそ3倍にのぼる。PDにおける認知症は予後と死亡に関連しており、死亡を平均して4年近く早めるとされている。PDにおける認知障害認知症の発症リスクは年齢、錐体外路運動症状の重症度と罹病期間に関連している。追加のリスク因子として、男性、非典型的運動症状 (特に姿勢不安定歩行障害優位型 (PIGD variant)、体軸型対称性パーキンソニズム、無動優位パーキンソニズム)、幻視の早期発症などが挙げられている。
PDDにおける認知プロファイルはDLBでみられるものと極めて類似している。患者は典型的には遂行機能障害と視空間的障害を呈する。介護者は、患者が服薬レジメンにおいて誤りが増えることに気づき、しばしば外からの介入が必要とされる。金銭管理における誤りも多くみられる。注意はしばしば障害され、変動する。実際、PDの後期では一部の患者で注意障害が薬物血中濃度と同期して周期性に変動する。呼称はしばしば様々な程度で障害されるが、典型的な失語は認められない。DLBと同様に、自由再生はしばしば障害されるが、手掛かり刺激によって改善し、記銘よりも再生の問題であることが示唆される。最後に、思考緩慢も顕著であることがある。
幻視はPDDで一般的である。DLBと同様に、幻視はしばしば動き、ユニモーダルであり、不快や恐怖を与えるものの頻度は少ない。妄想は一般的とは言えないが、みられることもある。幻覚と妄想は、ドパミン補充によって発症・増悪しうるものであり、ドパミンアゴニストは特に有害である。これらの薬物を減量したり、別のクラスの薬剤に変更することによって、しばしば症状が劇的に改善することがある。
PDにおける認知障害の鑑別診断として、代謝性有害事象や、PDに対する薬物の有害事象を挙げる必要がある。過剰なドパミン補充は遂行機能障害や注意障害を悪化させ、幻覚や妄想を発症させることがある。こうした有害事象はすべての薬物で起こり得るが、ドパミンアゴニストは特に有害であることが多く、アマンタジンも一部の患者では問題となる。Carbidopa/levodopaはこの点でもっとも安全な薬剤だが、高用量では認知障害を悪化させ、精神症状を発症させることがある。特記事項として、PDの振戦に対して用いられる中枢性抗コリン薬であるtrihexyphenidylは認知障害を特に悪化させやすい。

 

PDDの診断基準

PDDのコンセンサス基準は2007年に発表された。この基準は他ドメインにわたる認知障害を必須条件としたが、幻覚のような非認知的特徴が一般的であることも強調した。先に述べたように、臨床的・神経心理学的な特徴はDLBとPDDで類似している。実際、DLBとPDDを臨床的に区別するのは、認知症とパーキンソニズムの相対的な発症タイミングである。これらをどのように区別するのか、そしてそもそも区別する必要があるのかという点については依然議論が残っている。

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1. 臨床研究
DLBまたはPDDが疑われる患者は認知障害の標準的評価 (血液検査、脳MRI、認知機能検査) を受けるべきである。MRIはDLBとPDDにおいて診断的な役割は持たないが、全体的で対照的な萎縮がいくらかみられることがある。海馬に強い萎縮がある場合はADが疑われ、局所的な皮質萎縮がある場合はCBSが疑われる。詳細な認知機能検査によって、患者の複数認知ドメインにわたる評価が可能である。認知機能検査は診断的に有用である以外にも、今後の進行時における評価のためのベースラインとしても役立つ。注意や覚醒の変動が大きい患者では、脳波によって発作活動を除外することを考慮してもよい。DLBではしばしば全般的な徐波 (thetaまたはdeltaの範囲) がみられる。
DLB患者の一部では、FDG-PETは脳血流SPECTが有用である。これらの検査では、AD患者でみられる頭頂側頭領域の対称性の代謝低下のみならず、後頭葉の血流低下がみられることがある。しかし、一部の患者では、ADパターンの代謝低下しか呈さないこともある。FDG-PETはSPECTより感度が高く、感度は83-92%、特異度は67-93%とされる。臨床的文脈はFDG PETを解釈するのに重要であり、後頭葉代謝低下は認知機能の低下のあるPDやPDD、そしてPCAでもみられうる。
SPECTやPETでは、DLBとPDDの双方でDATレベルの低下がみられる。この検査はDLBをADと鑑別するのにおいて高い感度 (78-88%) と特異度 (90-100%) を持つため、DATレベルの低下はDLBの診断を支持する重要な1つの因子である。しかし、DATイメージングはCBDやPSPでも異常となることに注意が必要である。
CSF評価は認知症患者のワークアップにおいて重要な役割を持ちつつある。CSF Aβとtauのパターンは高い感度と特異度をもってADの診断に用いることができる。ただし、DLBではAD病理が共存することが頻繫であるため、ADのCSFパターンがあるからといってDLBを除外することはできない。DLBにおけるCSFの評価については、研究レベルでの限られたデータしか存在しないが、α-synucleinのような分子はDLBで低下していることが知られている。

 

Lewy小体病による認知症の鑑別診断

DLBとPDをMSAやPSP・CBDと鑑別するための有用なバイオマーカーは少ししかなく、注意深い病歴聴取と診察が鑑別に重要な残る選択肢である。頻度こそ少ないものの、認知障害認知症はMSAでも記述されているため、認知機能低下の有無が診断に非常に有用とまでは言えない。パーキンソニズムとともに早期に重度の自律神経障害を呈した場合、MSAが支持され、DLBとPDDとの鑑別に役立つ。また、存在する場合に限るが、失調はMSAを支持する強い特徴である。一方で、幻視や変動性はDLBやPDDを支持する。MSAの疾患後期では、小脳の萎縮やhot cross bun pons signMRIでみられるかもしれない。
進行期においては、PDやDLBとRichardson症候群 (PSPの最も頻度の高いバリアント) を鑑別することは容易だが、疾患初期ではその鑑別は困難となりうる。PDに特徴的とされる遂行機能障害錐体外路運動症状はPSPやDLB (もちろんPDDでも) でも一般的である。DLB患者の多くは対称性または体軸優位のパーキンソニズムを呈するが、体軸優位の特徴自体はRichardson症候群の原則でもある。Richardson症候群において診断上有用な特徴としては、垂直性眼球運動障害があり、これはDLBとPDにおいては保たれている。Richardson症候群では、DLBやPDではあまり見られない恐怖や驚きの表情が頻繁に見られ、疾患初期から後ろ向きに転倒する傾向がある。転倒はDLBやPDでも珍しくないが、後方への転倒は珍しい。PSPの後期には、MRIで中脳の萎縮が認められ、脳幹のhummingbird signが出現することがある。
CBSは、パーキンソニズムやジストニアに加え、失行や皮質性感覚障害などの非対称な皮質徴候を伴う古典的な非対称性神経変性症候群を指す。DLBやPDとの鑑別は、CBSの顕著な非対称性と、皮質症状および錐体外路症状の両者の存在に基づいて行われる。本症の背景には複数の神経病理が存在する可能性があり、CBDが約50%を占めている。CBSでは、FDG-PETで中心溝と線条体における低代謝が認められることが多い。経過の後半には、一次運動野と一次感覚野に局所的な皮質萎縮が認められることがある。
また、MSA、PSPCBSでは幻覚はまれであり、注意や覚醒の変動もまれである。これらの問題の存在は、DLBやPDDを疑わせるものである。RBDは、PSPとCBDの両方で報告されているが、synucleinopathy (MSAを含む) ではより一般的である。PDとは対照的に、MSA、PSP、CBDの運動症状は、ドーパミンの補充に反応することはほとんどない (症例2)。

(症例2)
小刻み歩行、左の安静時振戦、手指巧緻運動障害を発症した65歳男性。診察上は仮面様顔貌、小声、左優位の安静時振戦、筋強剛、寡動が目立った。歩行はパーキンソン様であった。ropinirolから加療が開始され、機能改善がみられた。彼はPDと診断され、rasagilineが追加された。彼の病状は進行し、ropinirolは徐々に増量された。理学療法作業療法、言語療法が追加された。軽度の抑うつと不安を呈したため、escitalopramによる治療も行われた。彼はその後RBDを発症し、lorazepamによる加療が行われた。発症後6年の時点で、彼はリビングで見知らぬ人が見えるという幻視を訴えるようになり、複雑な内服レジメン通りに内服を行うことが困難となった。診察上、注意障害とジスキネジアが目立った。ropinirolはcarbidopa/levodopaに置換され、lorazepamの代わりにmelatoninを用い、妻が内服管理を行うようになった。これによって幻覚、混乱、ジスキネジアは顕著に改善した。彼はゴルフを再開したが、以前と比べると成績が悪かった。半年後、幻覚が再発した。注意障害は改善したものの、軽度の遂行機能障害と視空間認知障害が認められた。TSHとビタミンB12を含む代謝パネルは正常であった。脳MRIでは軽度の全体的な萎縮が認められたのみであった。Donepezilの投与を開始すると、認知機能の改善と幻覚の頻度の減少がみられた。その後の3年間で、患者の認知機能は徐々に悪化した。彼は趣味をあきらめ、徐々に妻に日常生活上の計画をゆだねるようになった。彼は認知機能低下のために着替えも介助が必要となった。彼はPDDと診断された。memantineが追加されたがあまり改善はみられず、最終的に中止された。
ある晩、彼は非常に興奮し、家の中に侵入者がいるのではないかと不安を訴えた。救急外来に搬送された際、被害妄想と不安が認められた。精神状態検査では、時間見当識障害、短期記憶の低下、視覚空間障害が顕著であった。代謝性の異常は認めなかった。心電図ではQTcが正常であることが確認され、救急部のスタッフによりhaloperidolが検討されたが、神経内科医はそれを制止した。非定型抗精神病薬開始のリスクとベネフィットについて家族と話し合った後、quetiapineを開始し、ゆっくりと漸増したところ、被害妄想は改善した。妄想が解消され、神経内科のフォローアップを受けながら自宅退院となった。

 

DLBとPDDの症状に対する治療

このセクションでは、DLBとPDDで発生する問題に対する治療ストラテジーについて議論する。以下の表がその包括的リストである。しかしながら、臨床試験で有効性が評価されているのはほんの少数であり、今後のさらなる研究が必要である。An external file that holds a picture, illustration, etc.
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最初のステップとして、薬物リストを合理化し、問題となりそうな薬剤や薬物相互作用を取り除くことが有効である。一般に、単一の変更を系統的かつ連続的に行い、低用量から始めて、最も深刻な問題に最初に取り組むことに価値がある。この単純な戦略は、DLBで観察される薬物に対する頻繁な感受性を説明し、操作効果を簡単に解釈することを可能にする。複数の問題を治療する過程で、患者はポリファーマシーの合併症を引き起こす危険性があり、薬剤は慎重に選択されるべきである。

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1. 認知障害
DLBとPDDではアセチルコリンニューロンが顕著に減少していることが、コリンエステラーゼ阻害剤を用いることの基礎となっている。プラセボコントロール臨床試験では、donepezilとrivastigmineがDLBとPDDにおける認知障害の治療に有効性を示した。一部の患者では、有益性が明らかで、幻覚や妄想にも効果が見られることがある。
アセチルコリンエステラーゼ阻害剤同士で有効性に差があることを示す絵ビンデンスはほとんどない。しかし、一般的な副作用の発生率には差がある。これらのほとんどは用量依存性であり、特に吐き気が一般的である。このような副作用はピーク用量で起こることが多いため、ピーク用量が減少する経皮吸収型製剤 (リバスチグミン経皮吸収システムなど) に移行することで解消することがあります。考慮すべきもう一つの重要な副作用は、徐脈である。パーキンソニズムは通常影響を受けないが、少数ながら振戦が悪化することがある。2010年に行われた大規模な多施設共同臨床試験では、中等度から重度のADにおいて、標準用量 (10mg/日) と比較して高用量のドネペジル (23mg/日) の方が有効であったが、有害反応率は高いことが示唆された。この研究により、DLBおよびPDDにおける高用量投与の道が開かれており、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬のDLBおよびPDDにおける高用量試験が必要である。
小規模な試験において、memantineもDLBおよびPDDにおいて小さいながら効果があることが判明している。これらの結果を確認するための大規模な試験はまだ実施されていない。多くの患者では、この薬剤による主観的な効果はほとんどないと考えているが、ごく一部の患者では、有意な改善を報告する可能性がある。
PDD患者の多くは、中等度から重度の運動障害を持つPD患者向けに調整された複雑な薬物療法の中で、認知障害を発症している。必要に応じて、trihexyphenidylまたはドパミンアゴニストの慎重な休薬、carbidopa/levodopaへの移行、および必要に応じてドパミン代替薬の一般的な減量が、これらの患者の認知機能を改善することがある。レジメンが複雑であることもあり、投薬ミスは、このような環境における認知障害や精神症状の一般的な原因となっている。DLBとPDDの両方において、服薬の監視は有用である。

2. 精神症状
内服の監視は、精神症状の管理においても重要である。たとえば、PDDではドパミン代替薬の慎重な減量や、carbidopa/levodopaへの変更が精神症状を改善する可能性がある。
不快でない幻覚は治療を必要としない。アセチルコリンエステラーゼ阻害剤は緊急性のない幻覚や妄想に対する第一選択薬であり、非常に高い有効性を持つ。この効果の基盤は不明だが、腹側視覚経路のアセチルコリン受容体の活性化の欠如が精神症状に寄与している可能性がある。
非定型抗精神病薬が必要な場合、quetiapineとclozapineは、パーキンソニズムを悪化させる可能性や神経遮断性悪性症候群を引き起こす可能性が最も低いことが判明している。これらの薬剤は、低用量から開始し、必要最小限の量までゆっくりと漸増する必要がある。抗精神病薬による治療を受けた認知症患者の死亡リスクは、主に心停止、うっ血性心不全、肺炎によるものであり、DLBでは自律神経障害が頻繁に見られることから、ベースラインの心電図と、大幅な用量増量ごとの心電図でQTcを監視し、治療の量と期間を最小化する必要があります。さらに、リスクとベネフィットを患者や介護者と率直に話し合う必要がある。Clozapineはquetiapineより鎮静作用が弱いことが多い。しかし、無顆粒球症のリスクは低いが有意であるため、本薬の使用には週1回の完全血球数モニタリングが必要である。

3. パーキンソニズム
DLBでは、carbidopa/levodopa (25mg/100mg bid or tid) が一部の患者において認知症状や精神症状を悪化させることなく運動症状を改善する。しかし、PDと比較してDLBではその有効性は極めて低い傾向にある。もし認知症状や幻覚が悪化した場合は、薬剤を減量するか注視する必要がある。DLBとPDD患者では理学療法が有益であり、歩行や上肢の寡動などに有効であることがある。作業療法も有益であり、食事やその他のADLに寄与する。自宅の安全性評価も介護者にとって有用であり、たとえばラグの除去や手すりの設置などが行われる。

4. RBD
RBDは必ずしも治療を必要としない。もし治療が必要とされる場合は、まずは多くの非薬物療法が存在するため、そちらが有用である可能性がある。たとえば、鋭利な物体を睡眠環境から除く、患者の隣に柔らかい寝具を置く、介護者が別のベッドを使う、などである。いくつかの薬物療法が有用であるとされており、特にベンゾジアゼピンが有効である。しかし、これらは混乱を増強するリスクもある。Melatoninも有効である可能性があり、耐用性も高い。一部の患者では閉塞性無呼吸を併発することがあり、陽圧換気の使用によって閉塞性無呼吸とRBDの両方が解決することもある。

 

トレンド

1. Preclinical Synucleinopathies
DLB、PD、MSAでは、便秘やRBD、嗅覚障害などの複数の特徴的症状が認知、運動、神経精神症状に先行することがある。これらの症状は、synucleinopathyが前臨床段階で同定できることを裏付けるものであるが、各疾患を明確に区別することはできない。これらの障害は、横断的な神経病理学的研究により腸管神経叢、脳幹睡眠中枢、嗅球で確認されたレビー小体にそれぞれ対応するα-synuclein病理に起因すると考えられている。現在、リスクのある患者を特定するためのスクリーニングの改善に向けた取り組みが行われている。将来の神経保護戦略は、これらと関連する前臨床の特徴を利用することになるだろう。

2. DLBに先行するMCI
DLBの臨床的特徴を持つがIADLやADLが保たれた患者は、Lewy小体スペクトラムMCIの基準に該当する。Lewy小体-認知症 (LB-MCI) の診断の感度と特異度は、DLBよりも低いと思われるが、その理由の一つは、中核となる基準の症状がより軽度であるためである。LB-MCIでは、補助的な検査はまだ検証されていない。例えば、後頭葉代謝低下の頻度は、LB-MCIではDLBと比較して少ないと思われる。さらに、錐体外路症状が軽度の場合、DATスキャンの感度が低下する可能性もある。Preclinical DLBと同様に、LB-MCIは治療臨床試験やバイオマーカー研究に有用な病態である。

3. 認知症のメカニズムと疾患修飾治療の試験
DLBとPDDの認知障害や精神症状には、二次的シナプス障害を伴うα-synucleinの沈着、アミロイド沈着、ドパミンアセチルコリン細胞の減少など、複数の病理過程が関連している。DLBとPDDにおける認知障害や運動障害の発生タイミングの差は、これらの病理の時間順序が異なることを反映していると考えられる。一つの可能性は、DLBでは、βアミロイドを中心とする皮質病変が早期に生じ、認知機能障害を引き起こすことである。その後、α-synuclein病変が脳幹から皮質へと上昇する。一方、PDDでは、皮質病変の発生が遅く、α-synyclein病変が上昇し、臨床症状を引き起こす。βアミロイドを標的とする抗体は、ADとMCIを対象とした臨床試験に入っている。結果は不明だが、DLBやおそらくPDDではアミロイドの蓄積が認知機能低下の時期や速度など特定の臨床的特徴に寄与すると考えられるため、これらの疾患にも適用できるだろう。もし成功すれば、この戦略は、認知障害に関係なく、DLBとPDの両方に適用できるであろう。

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結論

DLBとPDDは臨床的および神経病理学的に類似した疾患であり、認知症とパーキンソニズムの相対的なタイミングの違いに基づいて区別される。これらの疾患の中核的特徴は、認知症、パーキンソニズム、幻覚、注意と覚醒の変動性である。α-synucleinの沈着は両疾患の中核である。ドパミンアセチルコリン細胞の減少などの追加の神経病理学的変化は二次的なものであると考えられる。AD関連神経病理学的変化の重畳はDLBとPDDで一般的であり、共同効果を及ぼしていると考えられる。特定の臨床症状に対する治療戦略は、他の障害ドメインの悪化を避けるために慎重に選択しなければならない。今後の疾患修飾治療の開発が期待される。

 

感想

臨床やる上で知っておくべき知識のまとめという感じでとても勉強になりました。ただ、DLBとPDDは病理が同じなのになんで運動症状に対するL-dopaの有効性が違うんだろうという疑問からこの論文を読み始めたのですが、あまりはっきりとした答えは書いていませんでした。誰か知ってたら教えて下さい。