ひびめも

日々のメモです

ALSにおける社会的認知

Social cognition in amyotrophic lateral sclerosis.
Abrahams, Sharon.
Neurodegenerative Disease Management 1.5 (2011): 397-405.

 

ALSの認知機能続き。読みたかったシリーズ③。

 

1. 筋萎縮性側索硬化症 (Amyotrophic lateral sclerosis)
筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は運動ニューロン病の中で最も一般的な疾患であり、上位および下位運動ニューロン障害に基づいて診断される、急速進行性かつ致死的な病態である。典型的な発症年齢は58-63歳で、患者は筋萎縮、筋力低下、痙性を呈する。これらの症状は初期にはしばしば局所的であり、四肢または球領域を侵す。典型的には疾患は他領域にわたって広がり、発症の30ヶ月以内に死に至る。発症率は10万人に2.16人と低く、5%に家族性が認められる (家族性ALSの定義には議論が残る)。伝統的にこの疾患は運動システムのみを侵すものと考えられてきたが、近年になってALSにおける認知機能変化の報告はかなり多くなってきており、認知機能障害と行動障害はこの多系統疾患の統合部分として見られつつある。

 

2. 筋萎縮性側索硬化症から前頭側頭型認知症まで: 臨床病理学的スペクトラム
前頭側頭型認知症 (FTD) は65歳未満の認知症の中で2番目に一般的な認知症であり、ALSとの間に重複があることを示すエビデンスは増加しつつある。ここから、臨床-神経病理学的スペクトラムの考え方が提唱されている。ALS患者のうち一部は、前頭葉型の完全な認知症を呈する (ALS-dementia)。FTDは3つの異なる臨床症候群から成る: 行動障害型 (bvFTD)、進行性非流暢性失語、意味性認知症が、ALS-dementiaは最も一般的にbvFTDに類似する。ALSでは、進行性非流暢性失語のスペクトラムに属するような症状として記述される言語機能障害も認められることがある。意味性認知症で見られるような症状を呈するALSは稀である。ALS集団の中での認知症の有病率は3-5%と考えられていたが、この頻度はより最近の行動変化に強く準拠したFTD診断基準を用いることで、15%にまで上昇した。この新しい推定は、認知機能障害を有する患者がより急速に進行することを考えれば保守的と考えられ、発症集団ではなく有病集団をリクルートした研究では、認知機能変化が低頻度になる可能性がある。ALSが認知症に先行することもあれば、同時に発症することも、FTDが初診時の主訴となることもある。ALSはFTDの10%の症例で認められる。ALS-dementiaの病理分布は前頭葉に集中しているように見えるが、これは側頭葉にも病変が広がるbvFTDよりも目立った所見の可能性がある。ALSのほとんどでTDP-43蛋白質の異常が報告されているが、これはALS-FTDの大部分やFTDのおよそ半数で認められるものであり、神経病理学的連続体の概念を支持をより強固にしている。
ALS-FTDの臨床的スペクトラムは、遂行機能障害や対応する前頭前野 (主に背側) の変化が、完全な認知症とは言えない患者のかなりの部分でも見られることからも、さらに支持される。こうした研究は、非認知症ALS患者のおよそ三分の一が検査上の認知機能障害を呈することを一貫して報告している。障害は、tapping rule deduction、認知的柔軟性、注意、スイッチングとモニタリング (e.g. Wisconsin Card Sorting Test、Trail Making Test)、文字およびカテゴリ流暢性などの様々なタスクで認められている。Strongらは、こうした患者は2つの異なる遂行機能検査に基づいて、ALSciと分類できることを提唱した。言語の変化も、失語や呼称障害のエビデンスとともに記述されてきたし、一部の研究は記憶を含む複数のドメインが障害されることも示唆してきた。文字流暢性 (与えられた文字から始まる単語を速く生成すること) は、ALSで最も顕著かつ一貫して障害されることが報告されている。Verbal Fluency Index (それぞれの単語を思いつくのにかかる平均時間) を算出することによって、この障害は身体障害には無関係に認められることが示された。こうした遅い単語生成は、言語 (呼称) 障害やワーキングメモリの音韻性ループまたはストアの問題のない患者でも認められており、迅速な内発的応答生成という遂行機能の障害と関連がみられた。この障害は疾患の初期から認められ、偽性球麻痺のあるALS患者や、一部の家族性ALS症例 (SOD1ではない)、進行性筋萎縮症では特に目立つ。さらに、多くの脳イメージング技術によってこの認知プロファイルには前頭前野が関連するというエビデンスが生まれており、ALS-FTDスペクトラムの考え方を強調している。背外側前頭前皮質や前帯状回の機能障害が機能的脳画像を用いて明らかにされ、下前頭回でFlumazenilの神経受容体結合が低下していることが示され、前頭側頭白質の異常が構造的神経画像で認められているが、最近の研究は脳梁の関与を特に強調している。
遂行機能障害は典型的bvFTD (ALSがないもの) で特徴的だが、診断は行動変化に基づいており、社会的および対人的行動が初期から突出して障害される症例は極めて多く記録されている。患者は感情鈍麻、病識の喪失、共感性の喪失、利己性、脱抑制、アパシーを呈し、こうした変化は遂行機能の古典的検査で障害が認められるようになる前から現れることもある。このように明らかな遂行機能障害がなくても、社会的認知や感情処理、感情的意思決定の検査では障害が示されることがある。効果的な社会的相互作用は、表情、動作、目線の向きなどの具体的な社会的シグナルを解釈してやりとりすることに依存し、こうした処理の変化がbvFTDにおける行動変化の背景にある可能性がある。「心の理論」の傘の下にあるその他の能力として、他者の意図や信条を推察し表現することや、自身とは無関係な精神状態を他者に帰属させることの障害も、bvFTDで見られることがある。これらの機能を評価するタスクは、 bvFTDの初期に影響を受ける前頭前野の内側や眼窩面の変化に鋭敏である可能性がある。ALS-FTDスペクトラムを裏付けるように、ALSでは認知と行動の変化のプロファイルが平行して存在するはずである。

 

3. 筋萎縮性側索硬化症における社会的認知
3-1. 行動変化
ALSでは、認知変化の主要なプロファイルの1つは遂行機能障害であり、対応する変化が背外側および前内側部の前頭前皮質にみられる。行動変化やと社会感情認知の障害のエビデンスと、bvFTDで典型的な眼窩前頭皮質経路の関与は、ALSにおいても近年になり調査の的となっている。Lomen-Hoerthらによる反響を呼んだ文献では、bvFTDでみられるのと類似した行動変化がALSでもありふれていることが強調された。FTDの基準を満たすような新規の性格変化は、文字流暢性障害が存在する全症例で認められた。Neuropsychiatric Inventory (NPI) を用いることで、アパシー、脱抑制、社会的モニタリングの低下が多く報告された。さらに、流暢性の障害のない患者でも、行動変化がみられることがあった。このクリニックへの紹介パターンを考えると、この研究ではALSにおける行動変化の推定有病率がいくらか誇張されている可能性はあるが、しかしながらこの研究はALSとFTDの臨床的オーバーラップという視点を強調した。その他の研究でも、NPIを用いてアパシー、易刺激性、攻撃性、上道行動、脱抑制といった同様の行動変化が報告された。アパシーはALSにおける最も突出した特徴の一つのように思われた。これは、アパシー遂行機能障害、脱抑制という3つのドメインを評価するためにデザインされた Frontal Systems Behavior Scale (FrSBe) を用いることで一般に報告された。さらに、FrSBe と 拡散テンソルMRI を用いることで、アパシー帯状回前部の病変と関連していることが示された。ALS患者の大規模コホート (n = 225) を用いた最近の研究では、39%の症例でFrSBeの少なくとも1つのドメインに変化がみられることが明らかとなった。しかしながら、ALSとFTDの間には病識のレベルに違いがあるように見え、軽度の行動変化を呈するALS患者は、FrSBeの介護者評価と自己評価の間に解離がなく、十分な病識を有していると報告した文献もある。こうした研究に対する批判として、FrBSeは頭部外傷集団のために開発・標準化された質問票であるから、身体障害が目立つALS患者では、「動きが遅い」「活気がない」「動かない」といった運動機能障害の影響を受けうる項目がアパシースケールのスコアを過大評価してしまうのではないかという意見があった。ALSで行動変化を測定することの難しさは他にもあり、身体障害を呈して死に至る病気という事実に対する感情的反応を考えれば、アパシーはFTD様の行動変化と抑うつの混合症状なのではないかと考えることもできる。しかし、より適切な質問票に基づく手法を用いた研究でも、アパシーが一定数認められていることが報告されている。より詳細な症例ごとの介護者への質問が、Gibbonsらによって行われたが、自己中心性/利己性は、16人中11人で最も突出した症状と報告され、興味の喪失/アパシーは16人中6人で認められた。その他の症状として、攻撃性、病識の喪失、社会的脱抑制が、16人中2人で認められた。Cambridge Behavior Inventory を用いて、ALSとbvFTD (ALSを伴わない) の行動障害を直接的に比較した研究は、Lilloらによって行われた。この研究では、合計41%のALS患者が中等度から重度のアパシーを呈した。抑うつは30%の症例で認められたが、回帰分析によって行動症状に有意な寄与を示さないことが明らかとなった。ALS患者の大部分がFTDの基準を満たさないことから、StrongらはALS患者はこうした行動変化を示す患者の中で、Neary または Hodges の基準の重複しない2つの診断的特徴があれば、ALSbiと分類することを提案した。

3-2. 心の理論
FTD研究と平行して、ALS患者のかなりの割合で、心の理論の障害が報告されてきている。Gibbonsらは、登場人物の精神状態 (誤信念や欺瞞を含む) を理解するような漫画や物語の解釈を調査し、16人のALS患者において正常なスコアから異常なスコアまでのスペクトラムの障害があることを明らかにした。その結果、16人のALS患者において、正常から異常までのスコアが認められた。しかし、ALS患者はこの課題の「社会的」要素に困難があるだけでなく、ユーモアが場面の物理的特性に基づくような物理的シナリオを理解する際にも障害が認められた。FTDでも同じプロファイルが示されており、同様にALS患者も具体的な反応の増加を示している。しかし、これらの課題には推論や推察の要素が強いため、遂行機能障害は、この障害の根本ではないにしても一因となっている可能性がある。このことは、ALS群ではWisconsin Card Sorting課題の成績不良がこれらの課題の成績不良と相関しているという知見からも裏付けられた。さらに最近、MeierたちはALSにおける心の理論を調べるためにFaux Pasテストを用いた。このテストでは、特定のシナリオの登場人物が、言うはずのないことを言った際に、それを指摘するものである。このテストはFTDや腹内側前頭前皮質の病変に鋭敏であることが示されている。ALS患者18人中9人は、対照群と比較して、この識別が困難であった。Faux Pasの要素を含まないコントロールシナリオを用いた場合には、群間差は認められなかった。Gibbonsらの研究とは対照的に、文字流暢性の成績が共変しても障害は比較的変わらなかったことから、遂行機能障害からの独立性が明らかになった。
ALSにおけるより選択的な「社会的」障害は、最近Cavalloらによって明らかにされた。ここでは、私的意図 (非社会的意図) と社会的意図を区別して推論する漫画ベースのストーリー課題を用いて、社会的文脈の理解が調査された。私的意図には、その人だけに関係する目標が含まれ、対照的に社会的意図には社会的な目標が含まれる。脳機能イメージングにより、私的意図と比較して社会的意図の処理に前頭前野が大きく関与していることが明らかになった。これと同様に、ALS患者は「社会的」項目が有意に苦手であり、対照的に対照群では社会的項目と非社会的項目の間に有意差は認められなかった。FTD患者においても、これらのプロセスに有意差があることが報告されている。
複数の登場人物、行動、感情、微妙なニュアンスを含む詳細なシナリオの理解を伴うこのような複雑な社会的認知課題とは対照的に、Girardiらは、単純で要求の少ない心の理論テストでの障害を報告した。以前にbvFTDに敏感であることが示された課題では、社会的手がかりとして視線の方向を用いることで、参加者が他者の好みを推測する必要がある。このJudgement of Preference課題の第1段階では、参加者は4枚の絵から自分の好きなものを選ぶよう求められる。第2段階では、対象物の1つを見て微笑んでいる中央の顔が現れ、参加者は「その顔が最も好きな絵」を選択するよう求められる。また、1枚の絵の近くに気が散るような矢印を置くことによって注意負荷が操作された。ALS患者の64%が注意負荷の高い条件 (矢印が存在する条件) で障害を受けた。これは遂行機能に対する要求の結果であると考えられるが、矢印が存在しない条件でも36%が依然として障害を受けた。エラーの分析から、顔が好む物体ではなく、患者自身の好きな物体を選択することが増加することがわかった。したがって、いくつかの試行において、患者は自己中心的な反応を抑制し、単純な社会的手がかり (視線) を用いて課題を効果的に行うことが困難であった。注目すべきことに、ALS患者は、刺激は変えずに表現を「どの絵が一番好きか」から「どの絵を見ているか」に変えた第3の対照段階を行うことに障害は示さなかった。したがって、この障害は基本的な理解や注意の問題から生じているのではないと考えられた。このテストでの障害は、29%の患者にしか障害がなかった従来の遂行機能検査よりも多くみられた。さらにこの群では、課題の成績不良に関連したアパシーの増加という、行動障害の増加との関連もみられた。これとは対照的に、Gibbonsらの研究では、球症状の有無にかかわらず障害が認められた一方で、認知機能障害のある患者群では球と四肢の比率が2:1であった。このことは、以前に報告された、球病変を有する患者は認知機能障害のリスクが高いことを示唆する関連性を支持するものである。

3-3. 感情処理
効果的な感情処理は、心の理論と社会的相互作用に大切である。この障害は、典型的にはbvFTDで報告されるが、ALSでも同様の障害が記述されてきた。一部の研究は、標準的な表情認知パラダイムがALSに鋭敏であることを明らかにしたが、これは一貫性には欠けていた。会話における感情的プロソディの同定障害も記述されてきたが、Zimmermanらはこの障害は表情認知テストと比較すると鋭敏さには欠けることを証明した。Giradiらは、単純 (表情の感情読み取りテスト) および 複雑 (目の感情読み取りテスト) な感情読み取り課題を含む2つの検査における障害を証明した。一部の患者は、これらの検査や先ほど記載した目線の社会的認知テストの両方で悪い成績を示した。しかし、より複雑な目の感情読み取りテストは、ALSにおけるその他の社会的認知尺度の成績不良と一貫した関連を示したわけではなかった。さらなる研究によれば、この感情処理障害は選択的な障害であり、一般的認知機能障害や注意機能障害の表現型ではないことが示された。Pappsらは、コントロールで明らかに認められた感情的単語の認知亢進が、ALS患者では認められなかったことを示した。中立的単語の認知の成績はコントロールと比較してむしろALS患者で優れていたことから、この障害は一般的な記憶機能障害によるものではないことが示唆された。
感情の知覚の社会的意味の観点からは、Schmlokらは、ALS患者がコントロールと比較して人の顔をより近づきやすいものと評価したことを明らかにした。その一方で、Luleらは、ALS患者が感情に訴える社会的状況に対して正の感情を抱く傾向にあることや、静かな写真を楽しいものと評価することを示し、コントロールと比較してバランスの取れた覚醒状態がとれることを明らかにした。ALS患者の感情的処理障害の大脳基質に関するエビデンスとして、3つの連続したの中から最も不快 (または中立) なものを選ぶという感情的決定タスクと、その後感情的マテリアルを認知するというタスクにおけるfMRI研究があった。決定および認知の両方のタスクにおいて、ALS患者では右半球の活動低下と左半球の活動上昇が認められた。この側性のある機能障害は、FTDや軽度の行動障害のあるALS患者では、認知または行動障害のないALS患者と比較して、右半球の灰白質容積が低下していたというMurphyらの研究とも合致した。彼らは、右半球の萎縮がALSの行動異常のバイオマーカーであることを提唱した。
特記すべきこととして、ALS患者のおよそ半数が、感情不安定とも呼ばれる感情表現の制御障害を呈することが示されている。この感情制御の障害と、感情処理の障害の関係性は未だよく調査されていないが、最近の研究では、ALSの感情不安定は認知機能障害とは直接的に関係していないことが明らかにされた。

3-4. 意思決定
ALSの認知機能障害が、眼窩部内側前頭前野の機能に依存する意思決定プロセスにも影響を及ぼすというエビデンスが増えつつある。典型的パラダイムは報酬学習を含むものであり、アイオワギャンブリングタスクの改訂版における障害が明らかにされた。これは、腹内側部の病変やFTDに鋭敏であることが示されているが、腹内側部の病変に同様に鋭敏と報告されている確率的逆転学習タスクでは、障害は報告されていない。アイオワギャンブリングタスクを用いて、Girardiらは、ALS患者が金銭喪失という負の結果に対する調整を行わずにハイリスクデッキからの選択を続けるということを示した。この成績不良は、FrSBeで測定された全体的な行動変化とも関係していた。しかし、ALS患者の行動は、タスクが続くとともにハイリスクデッキからの選択が増えていくというFTD患者の行動とは異なっている。ALS患者は、タスクを通じて同じ行動を続けることから、学習の失敗が示唆されており、これは遂行機能障害からくるものなのかもしれない。これは、成績不良が背外側前頭前皮質の機能障害に影響されるということとも合致する。ALSにおける意思決定の障害に関するさらなるエビデンスは、属性に基づく意思決定タスクを用いた最近の研究からきている。Holiday Apartmentタスクといい、複数の属性の評価に基づいて適切なアパートを選択するというタスクがある。腹内側部の病変のある患者は異なる検索ストラテジーを用いる (アパートごとに考える) が、背外側部の病変を持つ患者は属性に基づいたストラテジーを用いる。そして、ALS患者の44%はアパートごとのストラテジーを用いることが判明した。これは、意思決定における感情やリスクの要素が取り除かれ、日常生活における意思決定に明確な意味を持つため、特に興味深い。

 

4. 結論と将来の展望
ALS患者の一部は、社会的認知における障害を示し、bvFTDで認められるような対応する行動変化を示す。機能障害は、顕著な行動変化を特徴とする本格的な認知症症候群から、より軽度な障害に至るまで、その重症度に幅がある。後者は、かなりの割合の症例における「不顕性」FTDのプロファイルを反映しており、臨床病理学的スペクトラムをさらに裏付けるものである。いくつかの未解決の問題が残されている。最も顕著な問題は、これらの変化が、本疾患に明らかに存在する遂行機能障害とどの程度関連し、あるいは説明できるかということである。遂行機能障害があり、背側前頭前野が関与している場合、これらの実験的認知課題のいくつかで障害が生じることが知られている。さらに、bvFTDの初期の変化に見られるような眼窩内側皮質の変化に関する直接的な証拠はまだない。遂行機能障害と社会的認知機能障害が独立した特徴として現れるとすれば、これらの障害は前頭前野病理の分布が分離可能な異なるサブ表現型を反映しているのかという疑問が生じる。ALSにおける縦断的研究は、障害が進行し、離脱率が高いため、実施するのが難しいことで知られている。しかし、これらの変化の経過を明らかにし、障害の不均一性をさらに明らかにするためには、縦断的研究が必要である。ALSでは予後不良が認知機能の変化と関連している。このことが社会的認知障害のあるALS患者にも当てはまるのであれば、認知症状を伴うALS患者ほど病勢が進行しているのか、認知機能障害のあるALS患者に対して異なる治療戦略が提供されていることによる二次的な結果なのか、あるいは認知機能障害のあるALS患者が治療に従わなかったことが要因なのかという疑問が生じる。
このような変化が日常生活に与える影響についてはまだ調査されておらず、ALS患者の日常管理にとって重要な意味を持つ。社会的な合図を行動の指針として用いる際に、他者の感情や意図を解釈することができず、その結果、社会的な相互作用に問題が生じる可能性がある。ALS患者のなかには、他人の立場を理解できず、自己中心的な態度をとり、パートナーや家族の気持ちへの配慮を失い、その結果、介護者との社会的関係が悪化する人もいる。ALS患者は病気の経過とともに周囲の人への依存を強めていくため、効果的な社会的相互作用の崩壊は家族の日常生活に大きな影響を与える可能性がある。さらに、自分自身の行動の結果を十分に理解した上での意思決定にも問題が生じる。このことは、家計の整理や家族の将来設計といった二次的な問題に加え、治療や終末期ケアといった疾患特有の問題に対する意思決定に特に関連する。社会的認知の機能障害が疑われる場合、臨床家は教育戦略を用いて、患者の直接ケアに関わる人々 (医療従事者、家族や友人を含む) に、潜在的な症状の範囲 (たとえば、他者の視点に立つことができない、アパシーなど) と、これらの変化が周囲の人々との関係や社会的相互作用に及ぼす影響について知らせるべきである。最も重要なことは、介護者が、これらの症状は病気の本質的な部分であり、しばしば人間関係に関連する他の二次的要因の症状ではないことを教育されることである。

 

感想
社会的認知の障害って、定量化しにくいし、検査でみられた障害を日常生活障害に帰着させにくいし、とらえにくいんだよな・・・。目線の検査がまったくできない患者さんはいるけれど、それが理解や注意の問題ではないということが示されているのはいいことですね。ただ、個々の患者さんで本当にそれが理解の問題ではないということは、ちゃんと示さないといけないですね。