ひびめも

日々のメモです

構造生物学ってどう役に立つんだろうという記事

初投稿です

 

皆さん構造生物学という分野をご存知でしょうか。

とりあえず下の画像をご覧ください。

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これ実はβ-galactosidaseというタンパク質なんです。

高校で生物を選択した方や大学の教養で生命科学等を履修した方ならご存知だと思いますが, β-galactosidaseというタンパク質, ありましたね。大腸菌のLactose operonの話は有名ですが, そこで出てくるlacZ遺伝子にコードされるタンパク質(β-galactosidase)はLactoseをGalactoseとGlucoseに分解します。このタンパク質の働きはLactose operonの機能に非常に重要でした。

構造生物学ではこのように生体内の分子複合体(ここで複合体と言っているのは, 相手にするのはタンパク質1分子であるとは限らないからです。 実際にβ-galも4つのサブユニットからできています。), 特にタンパク質複合体の構造を解析することを通して生命現象を解明することを目的としています。β-galactosidaseの他にも, 2009年にノーベル化学賞を受賞したribosomeの構造など, 多くの分子構造が解き明かされています。

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構造生物学で分子の構造を解明しようとする際に用いられるアプローチは大きく分けて3つ存在します。一つは有名なX線結晶構造解析で, あとの二つはNMR(核磁気共鳴)とクライオ電子顕微鏡法(Cryo-EM)です。

X線結晶構造解析はその名の通り結晶化したサンプル(すなわち, タンパク質を結晶化する)にX線を当てて散乱されたX線を観測することで, サンプル中の三次元的な電子密度を解析する方法です。NMRはサンプルを磁場の中に入れて核スピンの共鳴現象を観測することで分子構造解析を行う方法です。

そしてクライオ電子顕微鏡です。クライオ電子顕微鏡法は最近になって一気に盛り上がってきた方法です。この方法では, 高分解能透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope; TEM)を用いて液体エタンで急速凍結した生物試料を観察します。電子顕微鏡の分解能は最近では1Å程度にも達しており, 一つ一つの原子を区別して観察できる道具として生物分野ではもちろん物性物理の分野など幅広い領域で用いられています。電子顕微鏡を生物分野に応用しようとしたとき, 電子顕微鏡は鏡筒内が真空に保たれている必要がある(分子が存在するころに電子線を当てたらはちゃめちゃなことになります)ので, 生の状態の生物試料をそのままサンプルとして設置してしまってはすぐに水分が蒸発してしまって使い物になりません(しかも鏡筒内が汚染されるので最悪です)。しかし, 当然ながら生物試料は新鮮なもの, すなわち生に近い状態のものを観察しなければ意味のあるデータをとれたと胸を張って言うことはできませんから, できる限り生に近いサンプルを用意する必要があります。この二つのポイントをクリアしながら電子顕微鏡で生物試料を観察する方法として, 試料を急速凍結するという方法が考えだされました。凍結してあれば鏡筒内で水分が蒸発するなんてことはありませんし, しかも急速に凍結すれば水分子に結晶化する暇も与えず生の状態のまま分子の運動を止めることが出来ます。分子にとっての時間を止めてしまうといったイメージです。水分子が結晶化してしまってはせっかくの分子の構造が壊れてしまう可能性がありますから, やはり凍結は急速でなければなりません。とにかく、こうして作られた試料を電子顕微鏡で撮影し, 電顕画像を集めてこれを解析することでタンパク質の三次元構造を解析しようという試みが幅広く行われるようになってきました。

なんでこんなにクライオ電子顕微鏡法の説明だけ長くなったのかというと僕が通っている研究室でやっているのがクライオ電子顕微鏡法だからです。

 

まあ方法論はとにかくとして, このように生体高分子の構造を解き明かせたとして何になるんだろう?もっと言ってしまえば, 役に立つのか?と, 思いますよね。僕もそう思ってました。ですが, いろいろとやっていくにつれだんだんとわかってきたこともあるので, ちょっとそれをまとめてみたいと思います。

 

① 構造ベースのタンパク質同定が可能になる

たとえばある条件下で発現・細胞内局在するタンパク質があったとして, それがなんというタンパク質なのかを同定したいというケースを考えます。たぶん普通だったら精製したら質量分析にかけたりするんだと思いますが, 多種多様なタンパク質の構造が解明されてデータベース化されてきた最近では, 「タンパク質の構造→タンパク質の名前」という, 今までではちょっとできなかったような同定法が可能になってきました。よくわからないタンパク質でもとりあえず精製して(別にそんなきれいに精製しなくてもいいです)構造を決めて, それをデータベースの中に突っ込んでコンピュータに検索させれば, 「このタンパク質もしかしてこれじゃない?」と候補を表示してくれるのです。これは本当に画期的な方法で, まだまだ実用性には欠くところもありますが(まだ構造データの絶対数が足りないという点が一番大きいのかな), もう少ししたらこの方法も少しずつ使われ始めるんじゃないかな(?)と思ってたりもします。

創薬に役立つ

たぶんこれが一番大きいんじゃないかなあと思います。SBDD(Structure-Based Drug Design)って言葉, ご存知でしょうか。薬剤の作用機序は多種多様ですが, たとえばある酵素の阻害剤を考えてみると, その酵素の働きを止めるためには分子中の活性部位を働かせなくしてしまえばいいということは想像がつきますね。このアイデアに基づけば, その活性部位に特異的に結合するような低分子化合物を投与すれば容易にその酵素の働きを阻害することができるということが言えます。このようにタンパク質分子中の特定の部位に特異的に結合する化合物を開発したい・発見したいとなると, どうしても必要となってくる情報がそのタンパク質の構造データです。構造がわかっていれば「ここの部位にはこういうアミノ酸があるからこういった電荷分布をもった分子はこの部位に結合するんじゃないか?」みたいな感じでいけそうですよね。実際, SBDDを利用して作られた薬剤として, 抗がん剤としても用いられるADA(adenosine deaminase)阻害薬や, 抗インフルエンザウイルス薬として有名なリレンザタミフルなどもあります。こういった例を考えると, SBDDってとても有用な方法なんじゃないかって思えますよね。

 

こんな感じで, 構造生物学がどんなふうに役に立つのかということについて少し考えてみました。僕自身ひよっこなのでまだまだ全然知らないことも多いと思うのですが, メモ程度にまとめた感じです。まあ, また気が向いたら更新します。では。