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成人の重症筋無力症: 発症年齢に基づく臨床および治療特徴

Clinical and therapeutic features of myasthenia gravis in adults based on age at onset.
Cortés-Vicente, Elena, et al.
Neurology 94.11 (2020): e1171-e1180.

 

重症筋無力症続き。

 

1. 背景
重症筋無力症 (myasthenia gravis, MG) は、神経筋接合部のシナプス後膜抗原に対する抗体によって引き起こされる自己免疫疾患である。この疾患は異種混合である。免疫学的観点からすると、MG患者の80%がAChRに対する抗体を有し、5%がMUSKに対する抗体を持つ。また、15%はAChRとMUSKのどちらに対する抗体も持たず、血清反応陰性 (seronegative, SN) MGとして知られる。近年、新たな抗体として抗LRP4や抗Cortactin抗体がSNMGで記述されている。臨床的観点からすると、MGは筋力低下の分布の観点から異なり、眼筋型または全身型MGとして現れ、重症度の観点からは軽症から重症/致死性のものまでさまざまである。胸腺病理に関しても正常から過形成または胸腺腫に至るまでさまざまであり、免疫抑制および免疫調節治療に対する反応に関しても、一部の患者は従来治療に対しては難治である。患者をその臨床的および免疫学的特徴に基づいて分類することは、疾患をよりよく理解し最も最適な治療を選択するために役立つ。
MGは当初、40歳以下の女性に発症する疾患と考えられていたが、ここ数十年の間に65歳以上の男女における発症率も増加した。現在、患者は発症年齢に基づき2つのサブグループに分類されている: 50歳未満で発症する若年発症 (early-onset) MGと、50歳以上で発症する後期発症 (late-onset) MG。しかし、一部の研究では他の年齢カットオフが用いられており、結果の比較が難しくなっている。
複数の研究が、年齢群による臨床特徴の違いを示唆している。若年発症MGは女性でより多く、胸腺過形成と抗AChR抗体の高い力価と関連している一方で、後期発症MGは胸腺腫と高い重症度と関連している。また、抗AChR抗体陽性と眼筋型は後期発症群でより頻度が高く、合併症の頻度の高さと薬物副作用からこの群の治療管理は複雑性が高いとされる。しかし、系統的な研究は未だ存在しない。
本研究の目的は、65歳以上の発症として定義される超後期発症 (very-late-onset) MG患者の臨床、免疫学的、治療的特徴を記述し、これらを若年発症および後期発症MGと比較することである。この目的のために、我々はSpanish Registry of Neuromuscular Diseases (NMD-ES) のデータを用いた。

 

2. 方法
2-1. データソース: NMD-ESプロジェクト
MGレジストリは、NMD-ESの一部として2010年に設立され、生物医学研究およびデータ保護に関するスペインの現行法に従って設計された。スペインの大学病院にある30の神経筋病棟の神経内科医が、MGに特化したデータの収集に参加している。レジストリには、人口統計学的データ、臨床データ、免疫学的データ、 治療データに関する60の項目が含まれている。フォローアップ情報は年1回更新され、重大な臨床事象が発生するたびに更新される。レジストリは、収集されたデータの質を保証するために、少なくとも年に1回見直される。本レジストリのデータは過去に出版された論文で使用されている。

2-2. 患者と臨床評価 
この観察的横断多施設研究では、2000年1月1日から2016年12月31日の間にMGを発症したMGレジストリの全患者を選択した。18歳未満で発症した患者は、若年性自己免疫性MGと考えられるため対象外とした。また、追跡不能となった患者および関連情報が欠落している患者も除外した。患者を3つの年齢サブグループに分類した: 若年発症のMG (発症時50歳未満)、後期発症のMG (発症時50-64歳)、超後期発症のMG (発症時65歳以上)。この第3群は、この患者群でMGの発症率が増加していることを示す我々のメディアの疫学的データに基づいて設定された。追跡調査は2018年12月31日に終了した。

2-3. 分析
我々は以下の変数を分析した: 人口統計学的特徴 (性別、発症時年齢、診断日)、発症時のAChRおよびMuSK抗体陽性および抗体価、発症時および最大悪化時の米国重症筋無力症財団 (MGFA) 臨床分類による筋力低下の重症度および分布。発症時の MGFA IVB および V と定義される生命を脅かす事象の頻度、筋無力症クリーゼの頻度および人工呼吸からの離脱を達成するための集中治療室 (ICU) 滞在日数、発症時は局所的な眼筋型 (MGFA I) であるがその後全身化 (MGFA II 以上) したことで定義される全身化の有無、死亡率および死因、胸腺切除術を受けた患者の病理学的検査およびその他の患者の胸部 CT による胸腺腫の定義、必要な治療および薬剤の副作用の頻度、介入後の MGFA 状態 (MGFA-PIS) による臨床転帰、難治性MGの頻度 (前回の定義によれば、ステロイドおよび少なくとも2種類の他の免疫抑制療法後、MGFA-PISが不変または悪化したものと定義)、診断の遅れ (診断日と発症日の差と定義)、および追跡期間 (追跡期限または死亡日と診断日の差と定義)。

 

3. 結果
研究の時点で、MGレジストリは1510人の患者を含んでいた。これらの中で、1178人が2000年1月1日から2016年12月31日の間にMGと診断されていた。22人の患者は発症が18歳未満であるため除外され、、217人の患者は関連情報が欠けていたため除外された。よって、15病院から合計939人の患者が含まれた (図1)。平均年齢は57.9歳 (SD 18.2) で、52.8%が男性だった。799人 (85.1%) が抗AChR抗体陽性で、25人 (2.7%) が抗MuSK抗体陽性、113人 (12%) がSNMG、2人 (0.2%) は抗AChRおよび抗MuSK抗体の両方が陽性だった。123人 (13.4%) が胸腺腫を持ち、113人 (12%) は薬剤抵抗性だった。288人 (30.7%) が若年発症MG、227人 (24.2%) が後期発症MG、424人 (45.2%) が超後期発症MG (図1) と分類された。図2は診断時点の性別および年齢による患者の分布を示している。

表1は、3つのサブグループの患者の臨床データを示している。後期発症MGおよび超後期発症MGでは、若年発症MGと比較して男性の頻度が有意に高かった (p < 0.0001)。抗AChR抗体陽性 (p < 0.0001) と胸腺腫が存在しないこと (p < 0.0001) は超後期発症MG群で有意に多かった。超後期発症MG患者は発症時点での致死的イベント (IVBまたはV) が多かった (p = 0.002) (図3A)。後期発症MGと超後期発症MGは、発症時点 (p < 0.0001) および最大増悪時 (p = 0.001) の両方で眼筋型MGが高頻度であった。全身化の頻度 (p = 0.177) と平均診断遅延 (p = 0.057) については、3群で差を認めなかった。有意差には達しなかったものの、筋無力症クリーゼを呈した超後期発症MG患者はウィーニングに至るまでのICU滞在期間が他の2群と比較して短かった (p = 0.128)。また、超後期発症MG患者は疾患コントロールのための併用薬剤数がより少なく (p < 0.0001)、薬剤抵抗性の頻度も低かった (p < 0.0001)。超後期発症MGでは、ミコフェノール酸による薬剤副作用の頻度が高かった (p = 0.031) が、その他の薬剤については差は認められなかった (表2)。ミコフェノール酸の副作用は6人で記録された: 1人が若年発症患者で、5人が超後期発症患者であった。この若年発症患者は、ミコフェノール酸モフェチル使用時に重度の腹痛を訴えた。また、超後期発症例の1人はミコフェノール酸塩で治療中に肺塞栓症を発症した。その他の超後期発症例4人はミコフェノール酸モフェチルで治療中に不眠と筋肉痛、皮疹、蜂窩織炎帯状疱疹をそれぞれ発症した。最終更新時のMGFA-PISに群間差は認められなかった (p = 0.165) (図3B)。各性別サブグループ内で統計学的に有意な差を呈した変数は存在しなかった (表3)。

患者は平均9.1年 (SD 4.3) のフォローアップを受けた。この間、114人が死亡した。脂肪は超後期発症MG群で有意に多かった (p < 0.0001) が、死因については群間差を認めなかった (p = 0.357)。3人 (2.6%) がMGクリーゼによって死亡した: うち2人が超後期発症MGで、1人は後期発症MGだった。リビングウィルとして、超後期発症MGの1人は挿管管理を希望していなかったのと、もう1人は合併症として多臓器不全を有していた。後期発症MG患者の死亡例は、耳下腺癌の肺転移に対するニボルマブ治療で誘発された重度のMGクリーゼを発症した。他の死因として、胸腺腫に関連した合併症が3人 (2.6%)、感染症が24人 (21.1%)、癌が21人 (18.4)、その他の死因 (心疾患、脳卒中、外傷など) が38人 (33.3%) であった。25人 (21.9%) では死因の記録がなかった。

 

4. 考察
我々の症例では、超後期発症MGの方が他の年齢群と比較して高頻度であった。さらに、ほとんどの超後期発症MG症例が、胸腺腫を持たない抗AChR抗体陽性の男性であった。このサブグループの患者は、発症時に致死的なイベントを呈する割合が高かったものの、維持療法として併用薬剤数が少なく済み、かつ薬剤抵抗性は軽度であった。興味深いことに、これらの患者は筋無力症クリーゼの後でウィーニングに要した時間が短かった。この発見は統計学的に有意ではなかったが、これはクリーゼに陥った患者が少なかったためと考えられる。ほかに特記すべきこととして、超後期発症MGの患者はミコフェノール酸モフェチルで治療された際に、後期発症MGと若年発症MGと比較して副作用が多かった。この違いはその他の薬では観察されなかった。
MG登録患者の中で最も多いのは65歳以上の患者であった。これは、平均寿命が延び、以前はあまり診断されていなかったこの年齢層におけるMGの発見が改善されたためかもしれないが、高齢者では自己免疫に対する感受性が高くなることとも関連している可能性がある。免疫系は加齢に伴い、免疫老化または免疫異常と呼ばれる一連の変化を起こす。基本的に、このプロセスには3つの事象が含まれる: (1) 免疫反応の低下、(2) 炎症背景の増加、(3) 自己抗体の産生増加である。これは自然免疫系と適応免疫系の両方が関与する全身的なプロセスであり、より自己反応性の高いレパートリーが選択されたり、自己反応性のナイーブT細胞が記憶様細胞に変化したりする。我々の結果は、超後期発症MGのほとんどの患者が、若年発症や後期MGの年齢群とは明らかに異なる共通の表現型を共有していることを示している。このことは、発症過程における群間の相違を示唆している。
加齢に伴う自己免疫の亢進の徴候にもかかわらず、自己免疫疾患は通常高齢者では軽度であり、適切な治療によりコントロール可能である。われわれの研究では、超後期発症MGの患者は、発症時に生命を脅かすような出来事がかなりの割合で起こっていたにもかかわらず、筋無力クリーゼを呈したときの薬剤要求量、薬剤不応性、離床達成までの平均時間の点で、若年発症の患者や後期発症MGの患者よりも予後が良好であることが観察された。この理由として、高齢者では末梢の制御性T細胞の産生が多いなど、多くの防御的調節機構が拡大していることが考えられる。
若年患者よりも早いウィーニング到達と、従来治療に対する良好な反応性が示されたことから、発症前のQOLが高い患者であれば、たとえ高齢者であっても筋無力症クリーゼや致死的イベントを呈した場合でも治療を継続することを推奨する。
先行研究では、50歳以上の発症として定義される後期発症MGの患者が男性に多く、AChRに対する抗体を有し、眼筋型を呈しやすいことが示唆されていた。他の研究では、後期発症MGは胸腺腫を持つことが多く、かつ重症度や治療抵抗性が高いことも示されていた。我々の発見は、後期発症のMGに関する現在の知識を修正するものである。我々は、超後期発症群では胸腺腫の頻度は高くなく、かつ発症時の重症度が高くても治療反応性が良いことを示した。さらに、若年発症のMGと超後期発症のMGは明らかに異なる表現型を示し、 後期発症のMG群は両者の中間的な表現型を示すことから、患者を3つの年齢群に分類することが支持される。さらに、本研究のサンプルサイズは、過去に発表された研究よりもかなり大きく、登録に基づく多施設デザインにより、国内の多くの地域の患者から多くの変数を検討することができた。
本研究の主な限界は、MGレジストリで収集されたデータは主に3次の大学病院で記録されたものであるため、重症度の点でサンプルに偏りがある可能性があることである。三次病院に患者を紹介する際の年齢に基づく基準も、サンプリングバイアスにつながる可能性がある。例えば、超高齢の患者は、専門病棟での更なる治療のために3次病院に紹介されない可能性がある。しかし、神経筋疾患を専門とする神経科医によって体系的に記録された、多数のMG患者からの標準化された最新情報の使用は、体系的で構造化された研究を可能にする。
超後期発症のMG患者は、主に男性で、AChRに対する抗体を有し、胸腺腫を認めない。たとえ発症が重篤で、躯幹徴候や筋無力症クリーゼを示したとしても、適切に診断・治療されれば、通常、良好な転帰を得ることができるため、示唆的な症状を有する高齢者においては、MGの診断を考慮すべきである。

 

感想
80歳や90歳の動眼神経麻痺患者って、調べても理由がよくわからず特発性動眼神経麻痺として扱われることが多いと思うのですが、MGは除外しなきゃいけないなと思わされました。AChR抗体陽性例が多いので、AChR抗体は測定しないといけないですね。