ひびめも

日々のメモです

視空間処理の新しい神経フレームワーク

A new neural framework for visuospatial processing.
Kravitz, Dwight J., et al.
Nature Reviews Neuroscience 12.4 (2011): 217-230.

 

この論文、昔一度読んだことがあったのですが、その時はよくわからんな~程度の雑な理解で終わってしまっていたので、再度読みました。

 

1. 背景
視覚処理の背側経路と腹側経路はもともと、サルの線条皮質から発生する解剖学的および機能的に異なる経路として同定された。当初、腹側経路は後頭側頭皮質を通り側頭葉前部 (area TE) に至る経路、そして背側経路は後頭側頭皮質を通り下頭頂小葉の後方部分 (area PG) に至る経路として記述された (図1a)。これらの経路はすぐに拡張され、area TEから腹外側前頭前皮質 (vlPFC: ventrolateral prefrontal cortex)、area PGから背外側前頭前皮質 (dlPFC: dorsolateral PFC) への経路が加えられた (図1a)。サルでは、腹側経路の障害で物体視の、背側経路の障害で空間視の選択的障害が生じることから、これらの経路はそれぞれ"What"および"Where"経路と呼ばれるようになった。その後、両側後頭側頭皮質の大きな障害と、小さな左側後頭頭頂皮質の障害を有する、失認患者D.F.が報告された (図1b)。この患者では、物体知覚は障害されていたものの、物体に手を伸ばしたり (到達)、その物体を掴む (把握) のに適した手の形 (物体のサイズ、形、方向の全てにおいて) を作ったりする能力は保たれていた。同様に、患者D.F.は、遠くにあるスロットの向きに合わせて手の向きを正確に調整することはできなかったが、同じスロットに向かって手を伸ばすときには手の向きを正確に調整することができた。これらの発見と、後部頭頂葉前頭葉運動前野の密な相互結合性を組み合わせると、背側経路はWhereというよりもむしろ"How"と分類されるべきだと考えられた (図1b)。さらに、患者D.F.が意識的に向きを決定できなかった物体に対して無意識下では正確に手を伸ばすことができたことから、背側経路は空間知覚というよりも、自動的かつ無意識的な視覚誘導性動作に関与しているとする仮説が立てられた。この見方からすれば、意識に到達する表現を生成しているのは腹側経路のみだと言える。しかし、患者D.F.は深さに関する厳密な判断を下す能力を保っていた。この能力は背側経路に依存するものなのかもしれない。

図1: (a) マカクザルの背側経路と腹側経路の原型。腹側経路は、線条皮質 (area OC) から下部側頭葉のarea TEに投射する多シナプス経路であり、area TEからさらに腹側前頭前野 area FDvに投射している。背側経路は、線条皮質から下頭頂小葉のarea PGに投射する多シナプス経路であり、area PGからさらに背外側前頭前野area FDΔに投射している。サルの損傷研究に基づいて、腹側経路は物体視をサポートする"What"経路と呼ばれ、背側経路は空間視をサポートする"Where"経路と呼ばれた。(b) 上図は患者D.F.の病変部位を示している。この患者は物体知覚に障害を生じたが、同物体に向かって手を伸ばすときの向きの精度には障害がなかった。このような結果から、背側経路は、「Where」の知覚の経路というよりも、視覚誘導性の行動を支える、運動に関する「How」の経路と考えるべきではないかと提案された。(c) このレビューで提案する、背側視覚経路の機能に関する新しい神経フレームワーク。少なくとも3つの異なる経路が後頭葉皮質から発せられる。1つは前頭前野を標的とする経路 (緑破線) で、空間的ワーキングメモリをサポートする (頭頂-前頭前野経路)。2つ目の経路は運動前皮質を標的とする経路 (赤破線) で、視覚誘導性の運動をサポートする (頭頂-運動前野経路)。3つ目の経路は、側頭葉内側を直接的に、あるいは後部帯状回脳梁膨大後部を経由して標的とし (青破線)、探索行動をサポートする (頭頂-側頭葉内側経路)。

患者D.F.での発見以降、背側経路の解剖学的結合と機能的特性についての知識は大きく前進し、視空間処理の新しい神経フレームワークの必要性が生じている。我々は、霊長類における解剖学的・機能的エビデンスを振り返り、背側経路は実際には、頭頂-前頭前野経路、頭頂-運動前野経路、頭頂-側頭葉内側経路という3つの異なる経路に分けられるということを示す。それぞれの経路は、空間的ワーキングメモリ、視覚誘導性の運動、空間探索をサポートする。特に、頭頂-側頭葉内側経路は本論文の最大の焦点であるが、今まで霊長類ではそこまで注目されていなかった。この経路は、後帯状皮質 (PCC: posterior cingulate cortex) と脳梁膨大後皮質 (RSC: retrosplenial cortex) を介して、空間的情報を側頭葉内側 (MTL: medial temporal lobe) に提供する経路である。このように複数の経路が複数の異なったクラスの視空間的機能を仲介していることは、背側経路が知覚的なWehereと運動的なHow経路に分けられるとする初期の分類方法が、視空間機能の多様性を十分にとらえられていなかった可能性を示唆する。
今回我々は、主にサルから得られた解剖学的エビデンスを振り返ることで古典的な背側視覚経路の神経回路をアップデートし、さらに頭頂葉皮質を超えたところで3経路への分岐が存在することを示す。次に我々は、頭頂葉皮質が3経路それぞれの基点として働きうる特性を有するという機能的エビデンスを振り返り、最初の2つの経路、すなわち頭頂-前頭前野経路と頭頂-運動前野経路の2つに関して手短に述べる。そして、頭頂-側頭葉内側経路に焦点を当て、この経路の中間地点 (PCCとRSC) が、ヒトとサルの両者において、MTLに空間的情報を中継するための必要条件を有していることを示す。さらに我々は、ヒトで頭頂-側頭葉内側経路に障害が加わると、経路上の障害位置によって様々な形の地誌的失見当識が生じるということを示す。以上から、背側経路はもともと線条皮質と下頭頂小葉後方を結ぶ経路だと考えられていたが、実際には空間知覚と無意識的空間処理の両方に寄与する幅広い視空間処理システムを含み、前頭葉・側頭葉・辺縁系を含む多くの皮質領域から構成されているということが判明する。

 

2. 3つの経路の解剖学
まず我々は、背側経路のもともとの解剖学的定義を更新するところからスタートする。この経路は現在、低次視覚皮質領域から頭頂葉後方領域 (上頭頂小葉の内側部を含む) への複数の投射のセットと、頭頂葉領域間を結ぶ相互結合から成ることが知られている。この後頭-頭頂回路は、以下で述べる頭頂-前頭前野、頭頂-運動前野、頭頂-側頭葉内側経路の共通した解剖学的前駆領域である。

2-1. 後頭-頭頂回路
この回路は図2aに示されている。一次視覚野 (V1) の中で主に視野の辺縁を表現する部分は、レチノトピックに組織化されており機能的に特徴的な視覚領域であるV6 (頭頂後頭領域 area PO; 頭頂後頭溝の前壁に存在) に投射する。また、V6は、V2、V3、V3Aからも強い投射を受けている。近年の解剖学的研究では、V6から頭頂葉に至る2つの主要な投射が報告されている。このうち1つは内側を通り、視覚と体性感覚のバイモーダル領域であるV6A、MIP (medial intraparietal area)、VIP (ventral intraparietal area) に投射し、もう1つは外側を通りLIP (lateral intraparietal area)、MT (middle temporal area)、MST (medial superior temporal area) に投射する (図2a)。また、V1の中で視野の辺縁のみならず中心をも表現する部分は、V2、V3、V4を介して、area MTと強く結合している。これらの頭頂葉領域および上部側頭葉尾側領域 (V6A、MIP、VIP、LIP、MT、MST) は、それぞれと強い相互結合を持ち、さらに下頭頂小葉の尾側 (cIPL) および吻側 (rIPL) とも強く相互結合している。この後頭-頭頂回路は、3つの異なる経路に共通する発生部位となる。

図2: (a) アカゲザルの脳の内側および外側から見た、後頭-頭頂結合の複雑性 (黒矢印)。V1で主に中心視野を担う部分は、V2、V3、V4を介してMTと強く結合している。一方、V1で中心視野と辺縁視野の両方を担う部分は、V2、V3、V3Aを介して、頭頂後頭溝 (pos) の吻側壁にある、レチノトピックに組織化されており機能的に特徴的な視覚領域V6に投射している。V6からの視覚情報は、主に2つの経路を経て頭頂葉に到達する。一つは内側へ投射し、posの吻側壁にあるV6Aと頭頂間溝 (ips) 尾側の内側壁にあるMIPに、もう一つは外側へ投射して、ipsにあるLIPとVIP、上側頭溝 (sts) 尾側にあるMTとMSTに至る。これらの後部頭頂葉はすべて、お互いに、および下頭頂小葉 (IPL) の表層皮質と強く結合している。下位の処理領域から上位の処理領域へのフィードフォワード投射 (片矢印) は通常、上位の領域から下位の領域へのフィードバック投射 (図示せず) によって相互補完される。本図では、同一階層レベルの領域間の結合を両矢印で示す。挿入図はRozziらの研究を示したもので、IPLの下位領域と、PCCおよび腹側運動前野F5との結合を示している。主に視覚を担当するarea Optとarea PG (cIPLの下位領域) は、F5よりもPCCとの相互結合が強い (太線と細線) ことに注意されたい。(b) 後頭-頭頂回路 (背側経路とも呼ばれる) の頭頂成分から生じる3つの経路の発生源と標的を示す。頭頂-前頭前野経路 (緑矢印) は、LIP、VIP、MT/MSTを、眼球運動制御に関与する前弓状領域 (area 8A; 前頭眼野) および、空間的ワーキングメモリに関与する外側前頭前野内の主溝尾側部 (area 46領域) と結んでいる。頭頂-運動前野経路 (赤矢印) は、V6AおよびMIPを背側運動前野 (area F2とF7) と結び、さらにarea VIPを腹側運動前野 (area F4とF5) と結ぶ。これらの標的領域は、視覚誘導性眼球運動、到達および把握に関与している。頭頂-側頭葉内側経路 (青矢印)は、cIPL、すなわちarea Optとarea PG (aの挿入図参照) から発生し、海馬の下位領域 (CA1/prosubiculum、presubiculum/parasubiculum) に直接的に、またはPCC (area 31と23)、RSC (area 29と30)、海馬傍皮質後部 (吻側のarea TFとTH、尾側のarea TFO) を介して間接的に投射している。これらの標的領域は、探索および経路学習を可能にする領域である。

2-2. 頭頂-前頭前野経路
この経路は、LIP、VIP、MT、MSTを強い発生源とし、後頭-頭頂回路を前頭前野内の前弓状領域 (area 8A) と主溝尾側部 (area 46) に結合している (図2b)。前者は眼球運動のトップダウン制御に、後者は空間的ワーキングメモリに関与している。

2-3. 頭頂-運動前野経路
この経路 (図2b) は実際には2つの平行な投射から構成されている。一つはV6AとMIPに主要な発生源を持ち、背側運動前皮質 (area F2とarea F7) を標的としている。もう1つは主にVIPおよび体性感覚に関連するrIPL (area PFGとarea PF) から発生し、腹側運動前皮質 (area F4とarea F5) を標的としている。この頭頂-運動前野経路は、視覚誘導性の行為の中でも、眼球運動や到達、把握に関与している。

2-4. 頭頂-側頭葉内側経路
この3つ目の経路 (図2b) は3つの中で最も複雑である。この経路はcIPL (OptとPGを含む) を、直接的または間接的投射によって、海馬を含むMTLと結合している。cIPLからの直接的な投射として、①海馬支脚とCA1の間の細胞構築学的小領域 (CA1/prosubiculum)、② 前海馬支脚と傍海馬支脚、③ 海馬傍皮質後方 (area TFとarea TH) に投射する線維が存在する。また、間接的な投射として、辺縁系尾側のPCC (area 23とarea 31) と RSC (area 29とarea 30) を介して、同領域への投射が存在する。これらの辺縁系尾側領域からの主要な2つの出力には、前海馬支脚と傍海馬支脚への出力と、海馬傍皮質後方 (area TFとarea THとarea TFO) が存在する。海馬傍皮質後方は、さらにCA1/prosubiculumへの直接的な投射を持つ。この複雑な経路の最終的な標的は、サルおよびヒトの環境探索に必要な複雑な空間的処理に関わっている構造体、すなわち海馬体である。実際、下に記すように、この経路を介した処理は、遠距離空間の知覚や、自己身体運動や頭位方向といった異なる視空間フレーム、経路学習や空間的長期記憶など、探索において重要な情報を扱っている。
頭頂-側頭葉内側経路をサポートするサルのトラクトトレーシング研究のエビデンスは、ヒトにおける類似した経路のエビデンスによって強化される。Marguliesらは頭頂葉内側領域と他の脳領域の機能的結合性および因果的結合性をヒトおよびサルの脳で評価し、この回路の大半を支持する結果を報告した。特に彼らは、fMRIシグナルの時系列変化が後頭-頭頂回路内で強く相関していたことを示し、IPLとarea POのヒトホモログ (すなわち角回・縁上回とV6) の間の結合性を示唆した (図3)。さらに、頭頂-側頭葉内側経路を構成する領域、すなわちIPL、PCCとRSC、そして海馬傍皮質の間でもfMRIシグナルの時系列の強い相関が見られた。ヒトにおけるこうした発見は、後頭-頭頂視空間システムが頭頂-側頭葉内側経路の発生源になるという考え方を支持している。
次のセクションでは、我々はまず後頭頂皮質が3つの経路全てにおいて空間的処理をサポートするという機能的エビデンスを考察する。次に我々は、頭頂-側頭葉内側経路に沿った各領域の機能的エビデンスを振り返り、それぞれの領域が持つ機能的特性が、探索という役割に合致していることを実証する。

図3: この図はresting-state functional MRIによる、楔前部の機能的結合性に基づいている。頭頂葉内側のarea PGm (または7m) とarea V6 (頭頂後頭領域 area POの一部) は、cIPLのヒトホモログである角回と強い機能的結合性を持っている (黒線)。V6は鳥距溝 (cs) 周囲の低次視覚皮質領域とも強い結合性を持っており、サルで観察された後頭-頭頂ネットワークのヒトホモログを反映しているものと考えられた。同様に、PCCとRSCは、cIPLと海馬傍回領域と強い機能的結合性を有しており (青線)、サルで観察された頭頂-側頭葉内側経路のヒトホモログを反映しているものと思われた。

3. 3つの経路の機能
後頭頂皮質は、霊長類の脳では最もよく研究された領域の1つであり、多様な条件下で活動する。このためこのレビューでは、提唱する3つの経路の機能的役割を確立するために必要な特定の下位領域および機能についてのみ取り扱う。

3-1. 後頭-頭頂回路
3つの経路の源となる回路は、十分な大きさの空間を自己中心的フレームにおいて表現するために、情報を中心視野および辺縁視野から等しく統合するものだと思われる (図2a)。視覚情報の初期表現はレチノトピックであるが、この回路はこうした表現を眼球や他の身体部分に関する空間フレームに変換する。サルの頭頂葉ニューロンは、視流や刺激深度など、視界情報の様々な自己中心的側面の情報を提供する。ヒトでは、自己中心的な半側空間無視は一般的にIPLに対する障害で生じ、他中心的な無視 (すなわち物体に関する半側空間無視) は主に腹側皮質領域 (MTLを含む) の障害と関連する。後頭-頭頂回路で形成される自己中心的な空間マップは、提唱された3経路の機能的前駆体となる。後頭-頭頂回路内の強い相互結合性を考えれば、3経路のそれぞれの機能のエビデンスが後部頭頂葉の複数領域に分散していることは驚くにあたらない。

3-2. 頭頂-前頭前野経路
この経路の源となる後頭-頭頂回路の下位領域 (LIP、VIP、MT、MST) は眼球運動の開始および制御に強く関与しており、空間的ワーキングメモリにも重要である。この経路 (図2b) は視空間的処理のトップダウンの実行制御に必要な前頭前皮質に入力を提供する。特にサルでは、頭頂間溝 (IPS) 内の皮質 (area LIPとarea VIP) と後外側前頭前野 (area 8Aとarea 46) は空間的ワーキングメモリ課題において密に関連しており、共活性化、類似した発火特性、不活性化の相互効果を見せる。ヒトでは、これらの領域間の活動性は、空間的ワーキングメモリと関連している。さらに、後頭頂皮質の障害は、ヒトでは空間的ワーキングメモリや、眼球運動のトップダウン制御の障害を引き起こす。

3-3. 頭頂-運動前野経路
この経路に関連する後部頭頂葉領域 (V6A、MIP、VIP) と、頭頂-前頭前野経路の源となる領域 (LIP、VIP、MT、MST) は、身体位置情報を協調させた空間地図を保持している (図2b)。特に、これらの領域はすべて、身体周囲の空間における視覚誘導性動作をとるために必要な、身体パーツの位置に関する視覚的座標の持続的な整列表現を保持している。
サルのLIPニューロンは、視覚刺激の身体に関する位置に基づいて反応性を変える。サルのVIPとヒトの上頭頂小葉 (SPL: superior parietal lobule) は、体性感覚と視覚空間についての頭中心的な地図を保有している。サルの最近の研究では、LIPとMIPの両方が、腕・眼・頭の位置に関する前庭情報を提供する小脳領域から入力を受けていることが報告されており、運動中に視覚マップを身体位置に揃える役割を担っている可能性がある。また、サルのarea 5 (SPL) とヒトのIPS領域は、身体周囲の空間における手および腕中心的な視覚マップを保持していることが発見されている。MTニューロンとMSTニューロンは、自己運動によって起こった視覚情報の変化を統合する役割も有している。さらに、これらの領域の全てがサルおよびヒトで物体に対する到達と把握に直接的に関与しており、頭頂葉前方のいくつかの領域は、把握をガイドするのに適した、物体の三次元的表現を有している (BOX1)。加えて、頭頂葉後部の障害では、視覚誘導性の到達と把握に重度の障害をきたすことが報告されており、背側経路をHow経路に分類する考え方を支持する。
しかし、IPLの中で身体周囲の空間における運動に特化しているのは、rIPL (area 7b; PFG、PFから構成される) のみである。特に、rIPLのニューロンはソマトトピックな視覚的マップを有しており、自身が実行した運動以外に他者が実行した運動を観測することでも応答が認められるほか、観測した運動の特定の構成要素に選択的に反応する。この応答性は、頭頂-運動前野経路が発生する尾側領域ニューロンと同様である。さらに、rIPLは小脳から前庭情報を受け取っており、体性感覚野とも強く結合している。IPLの機能的特性に関する近年の研究では、多くのPFGニューロンはマルチモーダルで、体性感覚と、身体周囲空間内の運動活動および視覚的刺激の両方に感受性を示すことが報告された。

BOX1: 後頭頂皮質のマルチモーダルな空間的処理に対する寄与
本レビューは視空間的処理について限られた項目のみを扱っているため、我々は後頭頂皮質が空間的処理において果たす他モダリティの役割の多くを無視してしまっている。我々は、この領域が体性感覚入力を受けてソマトトピックな視覚的マップを作成する役割を持っていることを記した。しかし頭頂葉皮質には、純粋に視覚的な情報を、複雑な動作をガイドするのに適した表現に変換することに関与する領域が、他にも存在する。特に、サルのAIPには、把握をガイドするのに適した物体の三次元的形状表現が存在し、rIPLには、腕や手に関するマルチモーダルな空間表現が存在する。
後頭頂皮質は聴覚皮質からも入力を受け取っており、聴覚的標的の位置を符号化するニューロンの存在が示されている。後頭頂皮質の両側性の障害では、聴覚および視覚的な空間内位置の把握に重度の障害を示し、半側空間無視の聴覚的ホモログを呈することが報告されている。複数モダリティにわたる空間的座標に関する後頭頂皮質の重要性は、クロスモーダルな機能障害が生じる症例で最も明らかである。片側の頭頂葉の障害では、同側にあるモダリティの刺激が提示された際に、対側の別モダリティの刺激の無視が起きる。
また、後部頭頂葉領域は、様々なモダリティの空間的情報の長期記憶および想起に関与している。ヒトの両側頭頂葉の障害は、出来事の特に空間的側面の再生および想像に障害をきたし、心的回転の障害も引き起こす。また、サルでは後頭頂皮質の活動は、道具の使用方法を学習したかどうかによって調節される。ヒトでは、IPLの前部とIPSが、静的な道具刺激に選択的な表現を有することが示されている。実際、後頭頂皮質の障害によって道具の意識的使用の障害が起こることが報告されている。こうした発見から、後頭頂皮質が、道具に関するマルチモーダルな空間的情報を、道具の意味知識表現を有する分散型ネットワークに提供しているという仮説が導かれている。

3-4. 頭頂-側頭葉内側経路
頭頂-側頭葉内側経路に寄与する投射を持つcIPL (area PG) の下位領域の1つは、rIPLと比べて体性感覚ニューロンや運動ニューロンの数が少ないものの、遠位標的に対する眼位の変化により強く反応することが報告されている。この発見は、cIPLが遠位空間の処理に特化しており、身体動作の誘導にはそこまで関与していないという提案と合致する。実際、最近のある研究では、観測または実行した動作に対して、cIPLの反応が見られなかったことが報告されている。さらに、いくつかのcIPLニューロンは、世界中心的、または物体中心的なフレームで空間を符号化していることが示されており、これらは探索やランドマークの符号化に有用であると考えられる一方で、身体部位の動作を誘導するのには限られた有用性しか持たないと考えられた。これらのニューロンは視流のスピードにも高い感受性を示し、探索中の位置の更新に重要と思われた。また、cIPLニューロンが、二次元迷路の心的探索において方向をコードしていたとする報告も存在する。
ヒトで後頭頂皮質内の領域を区別するのは難しいが、探索行動中に頭頂皮質と海馬の両方でfMRIシグナル変化が観察されており、この活動性によって、選ばれた頭位方向の正確性を予測可能であったと報告されている。最近のある研究では、バーチャル環境内を探索中の後頭頂皮質の活動が、絶対的距離を表現している可能性が示唆された。自己中心的深度の表現は、V3A、後頭頂皮質のV6およびV6A、IPSにおいて行われていると考えられている。IPS内では、深度に関する非常に多くの情報が存在し、この情報は三次元的形状の符号化に寄与している可能性がある。後頭頂皮質の障害は自己中心的地誌的失見当識や、ランドマークに関する記憶の障害を引き起こす。こうした障害を持つ患者は、実際または想像上の環境内で自己を方向付けることができず、このため馴染みのある場所において経路を述べることができない。この種の障害から、後頭頂皮質が探索に必要な自己中心的情報の源となっていることが示唆される。

まとめると、サルとヒトの両者において、後頭頂皮質が意識的および無意識的な異なる種類の視空間的処理に関与していることを示す強い機能的エビデンスが存在する。異なる形態の空間的表現が後頭頂皮質に広く分布していることによって、領域内の機能的オーバーラップを生み、これが空間的ワーキングメモリ、視覚誘導性動作、探索に重要となっていると考えられる。この機能的オーバーラップは、後頭-頭頂回路内の強い相互結合性を考えれば驚くべきことではない。しかし、不幸にも、同一領域内の異なる機能的特性の相対的な重みを直接的に比較した研究はほとんど存在しない。こうした研究は、後頭頂皮質内で機能的バイアスが存在するかどうかを知るうえで必要となるものである。
しかしながら、図2bで示したように、3つの経路は各頭頂葉領域から異なる重み付けで入力を受けており、特に頭頂-側頭葉内側経路はcIPLに最も依存している。次に我々は、この経路に沿った異なる領域の機能的特性を評価していく。

 

4. PCCの機能的特性
PCCは、しばしば細胞構築学的には異なった分類であるRSCと、同列に扱われる。しかし、PCCに特異的に帰属させられる機能的特性はcIPLのそれとも密接に関連しており、これら2つの領域の直接的相互結合性と一致する。ここでは、我々は眼球運動、注意、探索におけるPCCの役割を手短に振り返る。サルでは、PCCは補足眼野 (SEF: supplementary eye field) と強い結合を持っており、PCCニューロンは、行動に重要な標的の発現、その標的に対するサッケードの生成、その標的の動機的価値によって、強い調節を受ける。ヒトでは、PCCは眼球運動タスクの最中に活性化が認められる。さらにDeanらは、サルのPCCニューロンの一部が、サッケードとその標的の座標を他中心的表現で符号化しており、身体全体の回転の後でも、サッケードの前後どちらでも、同一の他中心的位置に応答することを報告した (図4a)。すなわちPCCは、頭頂-側頭葉内側経路内での位置とも合致して、後頭頂皮質内の自己中心的空間表現と、側頭葉内側の他中心的空間表現の変換に寄与していると言える。
ヒトでは、PCCは空間的注意のシフトに関与していることが示されている。この領域は、目印に対する注意のトップダウンのシフトに強い応答を見せる。この領域の活動は、標的検知のスピードとも相関しており、目印に対する応答における視覚的注意の割り当てに関与することも示唆された。この提案と合致して、PCCの活動性は空間的注意の選択の要求と共に増加する。
最後に、PCCはヒトとサルの両者で探索に直接的に関与すると言われている。サルでは、PCCニューロンが特定の場所に応答することが報告されており、PCCニューロンの不活性化は、以前学習した経路を再現することに障害をきたす。ヒトでは、特定の頭位方向に向かって移動しているかのような視流をシミュレートする動点を見ているときに、PCCの活性化がみられる。

図4: (a) DeanとPlattによる研究のデザインと結果。スクリーンの中央を固視しているサルの視界の上半分の10カ所の候補のうち1カ所に標的が現れる (top panel)。一定の遅延の後、中央の固視標的が消失し、サルは標的に視点を移す。あるニューロンが標的位置を他中心的と自己中心的座標のどちらで符号化しているのかを判別するため、サルの頭を回転させ、標的の自己中心的位置を変化させた (middle panel)。その結果、PCCのニューロンは標的位置を他中心的および自己中心的位置の両方で符号化しており、やや他中心的符号化の方が優位であることがわかった (bottom panel)。(b) 橋本らによる研究のデザインと結果。RSCに損傷のある3人の患者が、他中心的および自己中心的座標表現の能力をテストされた。患者は3×3の格子の中央に立ち、3つの物体が周囲に配置された。学習ののち、患者は目を閉じ、その間に物体が除去され、その後患者は物体配置の再生を命じられた。患者が再生タスク前に回転を命じられると、その成績は有意に低下した。

 

5. RSCの機能的特性
RSCは空間的記憶、想像、計画に関与する。これらの機能は、RSCが後頭頂皮質、後部海馬傍皮質、海馬を結ぶ複雑な結合ハブであることと一致する。ここでは、我々はRSCが探索に必要な空間的処理の重要な側面を担っているということに焦点を当てる。
ヒトでは、RSCが自己中心的フレームと他中心的フレームの調整と変換に直接的に関与しており、環境に関して個人を方向付けることを可能としていると考えられている。特に、ヒトにおけるRSCの障害は地誌的失見当識の一型である道順障害を引き起こし、患者は環境内ランドマークに関して自己を方向付けることができなくなる。これらの患者はランドマークを再認することはできるものの、そこから方向情報を抽出することができない。重要なのは、いくつかの症例では、患者は馴染みのある環境の詳細な地図を描く能力は保たれているものの、その地図内の経路を述べることができないことであり、RSCが自己中心的な頭位と環境の多中心的表現の調整を行っていることを示唆している。この提案と合致して、RSCは視流から頭位方向を計算する際に活性化がみられ、学習した頭位方向によって調整される。さらに最近の研究では、RSCの障害によって、身体回転後の自己中心的フレームと他中心的フレームの調整に障害をきたすことが報告された (図4b)。
ヒトの神経画像研究では、オブジェクトよりもシーンに強く反応する領域が、脳梁膨大後複合体 (retrosplenial complex: RSCとPCCの一部に重なる領域) と命名された。脳梁膨大後複合体は視覚的ランドマークや、馴染みのある場所の再生に強く反応する。さらに、脳梁膨大後複合体の活動性は、被験者がシーンの非空間的側面よりも空間的側面に関して判断を下すときに、そして馴染みのないシーンよりも馴染みのあるシーンに曝露されたときに、より強くなることが報告されている (図5b)。また、脳梁膨大後複合体の活動性は、シーンのカテゴリや意味について一般的な判断を下すときよりも、特定のシーンを同定した時に強くなるということも報告されている。さらに、脳梁膨大後複合体はシーン内のオブジェクトの位置の符号化にも関与しており、探索に重要なランドマークの位置の符号化と関連していると思われる。ラットでは、RSCの損傷が視床の頭位方向細胞の発火精度を低下させることが示されており、この領域のランドマークと自己中心的方位の統合に関する重要性を強調している。

図5: (a) 脳梁膨大後複合体の位置を、38人の被験者の間で平均化したもの。(b) 視覚的シーンの異なる側面に対する、脳梁膨大後複合体のfMRI反応強度。脳梁膨大後複合体の反応は、提示された馴染みのあるシーンが参照ポイントよりも東または西にあるかということを問われた際 ('location') や、その写真が東または西を向いて撮られたものかを問われた際 ('orientation') に高かった。また、脳梁膨大後複合体の反応は、シーンの既知性が低い際に低くなった。(c) 海馬傍回場所領域 (PPA) の位置を、38人の被験者の間で平均化したもの。(d) 異なる5つの視覚刺激に対するfMRI反応強度。PPAの反応は、単一の物体や複数の物体と比較して、シーンで非常に高かった。そして、家具がたくさん配置された部屋と空っぽの部屋では同等の反応性を見せた。

ヒト被験者が大きなシーンの一部の写真を提示されたとき、脳梁膨大後複合体は画像の境界を越えて外挿する表現を生成するというエビデンスが示されている。さらに、脳梁膨大後複合体は、ある程度視点非依存的な、部分的に他中心的な表現を持つ可能性があり、実際この領域の活動は、他中心的レイアウトの学習と相関がある。これらの結果を総合すると、RSCの表現は、観察者の現在の視野を、より大きな空間的文脈に位置づけるということを示唆している。

 

6. MTLの機能的特性
頭頂葉皮質と同様に、MTL (特に海馬) は霊長類で非常によく研究された領域のうちの1つであり、すべての研究をカバーすることはできない。ここでは、我々は探索に直接的に関連するデータと、頭頂-側頭葉内側経路の構成要素との相互結合に関連すると思われるデータのみを、手短に扱う。
サルでは、海馬傍皮質後部 (V4腹側部と嗅周皮質、嗅内皮質の間に位置する領域) は尾側領域 (area TFO) と吻側領域 (area TFトarea TH) に分けられる。サルのTFOの機能的特性はほとんどわかっていないが、ヒトホモログである舌状回への障害は、ランドマーク失認として知られる地誌的失見当識の一型を引き起こす。この失認を持つ患者では、環境内で自己を定位することや、地図の描画には障害を来さないものの、際立った、探索に重要なランドマークの再認に障害をきたす。
サルのarea TFとTHを焼灼すると、オブジェクトと場面の連合記憶が障害される。この領域のニューロンの活動は、個々の物体には比較的弱い選択性を示し、また広い視覚受容野を持つ。さらに、海馬との強い結合性と合致して、この領域のヒトホモログと推定される部位の障害では、前向性地誌的失見当識が生じる。この障害では、患者はもはや新しい環境の表現を生成することができない。
海馬傍回場所領域 (PPA: parahippocampal place area) に関するヒト画像研究は非常に多く存在する。この領域は、サルTFOおよびTF/THのヒトホモログであると考えられる。PPAはオブジェクトと比較してシーンに選択的に反応し (図5d)、TFOがランドマークを表現する役割を持つという提案と一致して、PPAはランドマークの記憶の想起中に強いfMRI活動を見せる。最後に、TF/THが複雑な環境の空間的表現を生成するという役割と一致して、PPAは地誌的および空間的学習の最中に強い活動を示し、意味的内容よりも複雑なシーンの空間的レイアウトにより高い感受性を示す。この領域は、多くのオブジェクトを含む部屋と、それらのオブジェクトが全て除かれた空っぽの部屋とで、同等の活動性を示す (図5d)。
提案されている頭頂-側頭葉内側経路から海馬への2つの間接的経路 (図2b) は、それぞれ海馬の探索への貢献の異なる側面を暗示している。第一に、ラットとサルの両方において、cIPLとRSCから前海馬支脚・傍海馬支脚を標的とする投射には、動物が向いている特定の方向によって選択的な反応を示す頭部方向細胞が多く存在する。これらの海馬の下位領域は、視床前核と乳頭体を含むより大きな回路の一部であり、頭位方向を表現し、更新していると考えられている。また、これらの細胞は双方向の接続により、RSCに方位情報を提供し、cIPLから入力される空間情報の影響を受けたりする可能性がある。
第二に、ラットとサルの両方において、cIPLとareas TF/THからCA1・後海馬支脚を標的とする投射には、動物が環境内の特定の部分に位置したり、通過したりするときに活性化する場所細胞が存在する。サルでは、これらの海馬下位領域で、動物が環境内の特定の部分を見ているときに発火する、他中心的な空間視細胞 (allocentric spatial view cells) が認められている。重要なのは、海馬場所細胞の反応は空間境界に関するランドマークの位置の変化によって変調するという点である。この特徴は、これらの細胞が海馬傍皮質から受け取る密な投射を反映している。最後に、ヒト神経画像研究では、海馬が地誌的経路学習や探索において活性化していることを示すエビデンスがある。

 

6. 結論
我々は、もともと背側経路の構成要素として扱われていた頭頂葉が、視空間的機能の神経連結点として機能し、前頭葉、側頭葉、辺縁系を含む複数の皮質領域にわたって担われる空間的知覚・視覚誘導性動作を仲介する、多様な処理経路を発生させているとする、新しい神経フレームワークを提唱した。手短に言えば、このフレームワークは、背側経路という単一目的的なシステムとしての分類を根本的に見直し、多面的システムとして改めて特徴づけた。この最終セクションでは、我々はこの新たなフレームワークから生まれる経験的および理論的な考察を行い、提唱した3つの経路に関する将来的な研究の方向性の提示を行うとともに、視空間的機能の深く総合的な概念的理解を得る。
背側経路から生じる2つの経路は、後頭頂皮質から発生し前頭前野および運動前野に終端する、比較的単純で直接的な投射から成り、それぞれ空間的ワーキングメモリや視覚誘導性動作に関与している。頭頂-前頭前野経路の存在は、背側経路と腹側経路を概念的に定式化した初期の研究の段階から記述されており、そのWhereの知覚的機能、特に空間的ワーキングメモリに関与する部分についてはPatricia Goldman-Rakicらによって精力的に研究が行われていた。一方で、頭頂-運動前野経路は、Howの運動的な機能をサポートしており、物体への到達や把握などの視覚誘導性の動作に関与する。背側経路の視覚誘導性運動への寄与も、初期段階から記述されていたものの、この機能のヒトにおける相対的重要性および、処理の自動的・無意識的な側面は、MilnerとGoodaleによる精力的な研究が行われるまでは十分には評価されてこなかった。
頭頂-側頭葉内側経路は、cIPLから海馬傍皮質後部と海馬への直接的投射と多シナプス投射からなり、3つの経路の中で最も複雑な経路である。後頭頂領域には主に自己中心的な空間表現が、MTLには主に他中心的なシーンの空間表現が含まれている。多シナプス投射はPCCとRSCを経由しており、それぞれの領域が自己中心的および他中心的な空間フレームの調整に寄与していると考えられるが、空間フレーム間の変換がどのように行われるかは未だ不明である。この経路の機能的特性は、神経画像や病変の研究から明らかにされ、探索に重要であることを示しているが、このようなエビデンスは、他の視空間機能への寄与の可能性を排除できていない。
これらの3つの経路は、意識的知覚と非意識的行動という明らかに異なる視空間機能を支えているにもかかわらず、後頭頂皮質内の重複する部分から発生している。これに関して我々は、異なる皮質標的が大きく関係していることを提案する。頭頂-前頭前野および頭頂-側頭葉内側といった「知覚」経路の標的が、顆粒層IVを含む6層皮質で、皮質感覚システムで最も一般的なタイプであるのは偶然の一致ではないだろう。実際、各感覚モダリティの視床-皮質投射の標的は、最も細かい神経細胞顆粒を持つ第IV層のコニオコルテックスを含んでいるのだ。一方、頭頂-運動前野の「運動」投射の標的は5層皮質で、IV層を持たないため無顆粒タイプと呼ばれ、これは一次運動野と同じである。このような皮質の構造の違いが、3つの経路の機能的特性 (知覚と運動) の著しい違いを説明するのに役立つかどうかは、今後の研究課題である。
本レビューでは、我々は頭頂-側頭葉内側経路の各領域の機能的特性について振り返ったが、このようなアプローチは過度に後付け的かもしれない。実際、我々はこららの領域には機能の勾配があると考えている。この考え方の主要な仮定として、特定の機能は特定の結合性パターンから生じるものであり、密な相互結合性を持つ領域は少なからず機能的特性を共有していると考えている。こうした考え方に従えば、後頭頂皮質に一部他中心的空間表現を持つニューロンが存在することや、海馬前海馬支脚や傍海馬支脚に頭位方向細胞が存在することが説明可能である。
また、このフレームワークは頭頂-側頭葉内側経路の中間領域に関する経験的データの不足を強調する。我々は未だサルのPCCとRSCについてごくわずかな知識しか持っていないし、ヒトでもごくわずかな研究しか行われていない。我々は、このレビューがこれらの辺縁系後方領域の機能に関する研究を促進してくれることを期待している。特に、経路内の各領域における自己中心的および他中心的表現の優位性を決定し、さらに各領域における空間フレーム間の変換メカニズムを同定するためには、より多くの研究が必要である。
背側経路の拡張形における3分岐を提唱するにあたって、我々は決して3つの経路だけが存在すると言いたいわけではない。たとえば、area MTと上側頭溝領域を含む処理経路で、モーションと形状の処理が行われているとするエビデンスが既に存在する。また、我々はこれら3つの経路が完全に発散型であるとは考えていない。究極的には全ての視空間的処理の目的は適応的な行動を誘導することである。よって、頭頂-運動前野経路が運動出力に直接的に寄与しているとしても、頭頂-前頭前野および頭頂-側頭葉内側経路で行われる知覚的処理も、間接的ではあるものの運動出力に影響を与えるに違いない。たとえば、「知覚」経路は前頭前皮質と海馬を結ぶ帯状束投射を介して収束しうる。この結合は、空間的ワーキングメモリと、長期記憶に基づいた探索の協調や、一方の想起による他方の想起という形で起こる連合的想起を可能にするのかもしれない。行動を誘導するためには、こうした相互作用が、頭頂-運動前野システムを介するなどして、運動行動セットに変換される必要があるのだろう。
最後に、このレビューは背側経路およびその拡張の視空間的機能を排他的に扱ってきたが、同時に腹側経路の物体-視覚機能についてもある程度関与している。3つの視空間的経路が経路内の特定の点で相互作用したり、特定の終着点で相互作用したりするように、3つの経路の全ては腹側経路とも相互作用しうる。腹側経路と背側経路を最初に提唱した研究では、分離されたシステムで運搬される物体および空間の情報が、どのようにして統合的な視知覚として統一されるのかという疑問を述べて終わっていた。我々のレビューは、1つの可能性として、主要な収束点および知覚的統合点が、腹側経路と頭頂-側頭葉内側経路の両方の投射先である、MTLの内部に存在することを提唱する。2つの経路が海馬で収束することに加え、腹側経路はランドマーク表現に必要な情報を持つ海馬傍皮質を提供し、頭頂-側頭葉内側経路は探索に重要な空間的情報を提供している。より一般的なことを言えば、今後のレビューで腹側経路も中心的な神経連結点から開始する複数の皮質経路を持っていることが示され、What経路という分類に異論が示されるかもしれない。

 

まとめ
・視覚処理の背側経路は、後頭-頭頂経路から、頭頂-前頭前野経路、頭頂-運動前野経路、頭頂-側頭葉内側経路の3経路に分岐し、それぞれ空間的ワーキングメモリ、視覚誘導性動作、探索に関連し、全体として視空間的処理の"How"に関連する。
・頭頂-前頭前野経路は、IPS腹側のarea LIPやVIP、側頭頭頂境界部のMTやMST領域から発生し、前頭前野のarea 8A/46に終端する。
・頭頂-運動前野経路は、頭頂葉後内側部のV6AとMIPから発生し、背側運動前皮質 (area F2とarea F7) に終端する経路と、頭頂葉前外側部のVIPとrIPL (area PFGとarea PF) から発生し、腹側運動前皮質 (area F4とarea F5) に終端する経路の2つから成る。
・頭頂-側頭葉内側経路は、cIPL (area PFGとarea PG) から発生し、RSCやPCCを介して海馬体に終端する。

 

感想
3つの経路の大まかな解剖と大まかな役割はわかりましたが、各論の機能的研究は未だ不足しており箇条書き的な書き方にならざるを得ない状況なんだな〜と思いました。頭頂-側頭葉内側経路について大きな焦点を当ててはいるものの、その機能は未だクリアに記述できてはおらず 、たとえば「cIPLは自己中心的空間表現を担当する」のようにバッサリと機能区画化してしまうことは不可能な印象でした。実際、脳領域を細胞構築学的および解剖学的結合性的に分割することはできても、各領域間の強い相互結合性によって、明確な機能区画化はできないんでしょうね。ただし、明確な機能区画化ができなくても、頭頂葉内や、各経路内で緩徐ながらも機能勾配は存在することは確かみたいです。たとえば、一次体性感覚野に近いrIPLやVIP、LIPには、身体周囲空間を含むソマトトピックな視覚的地図や、身体部位中心的な視覚的地図が存在し、自己中心的空間表現の一種として合致します。こういう機能勾配の知識を持っておくことは、臨床神経心理を考える上でも重要そうです。