ひびめも

日々のメモです

右脳梁膨大後部の障害による純粋な地誌的失見当識

Pure topographic disorientation due to right retrosplenial lesion.
Takahashi, N., et al.
Neurology 49.2 (1997): 464-469.

 

空間探索界隈の人の中では知らない人はいないくらいの超有名論文を読みました。

 

背景
地誌的失見当識は、見慣れた環境で道に迷うことを言う。多くの場合、この症状は認知症意識障害によって起こり、比較的広範な脳領域の障害によって引き起こされる。しかしながら、局所的脳障害が選択的に地誌的失見当識を引き起こすことがある。局所的大脳損傷によってこのような症状をきたした患者についての研究によって、地誌的失見当識は2つの種類に分類された。地誌的失認と地誌的健忘である。地誌的失認によって起こる地誌的失見当識では、患者は見慣れた場所 (建物や景観) を再認することができない。このメカニズムは、相貌失認とも似ている。一方で、地誌的健忘によって起こる地誌的失見当識は、見慣れた場所の形や位置を意識的に想起することができない。
神経画像の発展によって、局所的脳障害による地誌的失見当識の報告は増加している。我々は以前、詳細な症状の記録と明確な障害領域 (焦点) を持つ症例について研究し、ほとんどの場合は見慣れた場所の再認能力に障害があると確信するに至った。こうした患者は全例で、損傷領域が両側または右側の内側側頭後頭領域にあった。内側側頭後頭領域の障害では、地誌的失見当識は相貌失認と同様に一種の視覚的失認として起こると考えられた。
今回我々は、右半球の脳梁膨大後部から内側頭頂葉領域まで広がる局所的損傷を持ち、選択的な地誌的失見当識を示した3人の患者について報告する。我々は、これらの症例の症状を解析し、内側側頭頭頂領域の損傷を持つ患者で起こった地誌的失見当識と比較した。

 

症例報告
(患者1)
54歳男性、右利き。食品工場勤務。高血圧と痛風の既往がある。1989年3月22日、彼は外出先からの徒歩での帰り道で、急に道に迷った。目の前の建物は彼にとって見慣れたものであり、これらの建物を再認することはすぐに可能であった。しかし、彼はそこからどの方向に自分の家があるのかわからなかった。建物や身の回りの景色、看板などの目印に頼りつつ、何回も間違った向きに曲がることを繰り返し、最終的に彼は自宅の前に辿り着いた。彼は、目の前の家を見て初めて、そこが自宅であることに気付いた。3月24日、彼は車で病院に向かった。自宅から病院までの経路は知っていたはずであったが、その日彼はどの方角に病院があるのかがわからず、結果的に何回も道に迷った。彼は、その場その場の景色や道路標識に頼りながら、大きく迂回する結果となりながらも病院に辿り着いた。病院で脳出血と診断された彼は、その日すぐに入院となったが、入院後も検査室やトイレ、自身の病棟など、病院内の場所を思い出すことができなかった。3月26日、彼は我々のもとに紹介された。
神経学的には意識清明見当識は保たれ、視界や視力に問題はなかった。彼は、神経心理学的に、地誌的失見当識を示していた。日常物品や線画の再認や熟知相貌の再認は保たれており、地誌以外の視覚的失認 (物体失認や相貌失認など) は認められなかった。線分二等分試験や線分末梢試験は正確であり、半側空間無視は否定的であった。線画の模写は正確で、構成失行も否定的であった。Balint症候群は認められず、失語や失行も認められなかった。彼は発症前、発症当時、発症後の出来事を正確に述べることができ、エピソード記憶の障害は否定的であった。しかし、Benton Visual Reproduction testでは5/15点と低下があり、視覚的記憶の中等度の障害が示唆された。WAISではVIQが102、PIQが83、total IQが91であった。
頭部CTでは右脳梁膨大後部の皮質領域を含む皮質下白質に高吸収域を認めた。3月30日に撮像したMRIのT2強調画像では、高信号域が右脳梁膨大後部から楔前部下部にも広がっていた。T1強調画像でも高信号域は同じ範囲で認められた。血管造影では明らかな異常は認めなかった。
本症例の地誌的失見当識は徐々に改善し、発症から3週間後には完全に消失した。

(患者2)
55歳男性、右利き。川崎で6年間タクシー運転手として勤務。高血圧の既往がある。1993年1月12日、同市街をタクシーで運転中、彼は突然目的地への経路がわからなくなった。周囲の建物や景観から、自分の現在位置を再認することは可能であった。しかし、彼はどの方向に進めばよいのかがわからなくなった。彼は乗客を降ろし、本部に戻ろうとしたが、やはりどの方角に進めばいいのかがわからなかった。身の回りの建物や景観、道路標識を利用して、最終的に本部に戻ることができたが、道中で何回も間違った道に入ってしまった。彼は、何度も何度も同じ場所を通ってしまったと話した。翌日、彼は近所の病院で検査を受けようと家を出たが、左に行けばよいのか右に行けばよいのかがわからず、結局タクシーを使って病院を受診した。
同日、彼は脳出血と診断された。入院中も、彼は病院内の部屋の位置を思い出すことができなかった。我々は、1月16日に彼の検査を開始した。
神経学的には意識清明見当識は保たれ、視界や視力に問題はなかった。運動麻痺や感覚障害も認められなかった。彼は、神経心理学的に、地誌的失見当識を示していた。地誌以外の視覚的失認 (物体失認や相貌失認など) は認められず、視空間失認 (Balint症候群や半側空間無視など) も認められなかった。失語や失行も認めなかった。エピソード記憶の障害も認められなかったが、患者1と同様に視覚的記憶の中等度の障害が示唆された。Benton Visual Reproduction testでは7/12点であった。ROCFTは15/36点で、遅延再生は16/36点であった。WAISではVIQが124、PIQが93、total IQが111であった。
頭部CTでは右脳梁膨大後部の皮質領域を含む皮質下白質に高吸収域を認めた。1月16日に撮像したMRIのT1強調画像およびT2強調画像では、高信号域が右脳梁膨大後部から楔前部下部にも広がっていた。この所見は、患者1と同様であった。血管造影では明らかな異常は認めなかった。
本症例の地誌的失見当識は、発症から1カ月後にはほとんど消失した。

(患者3)
61歳男性、右利き。雑貨店勤務。高血圧の既往がある。1987年4月11日、彼は車の運転中に突然目的地の方向がわからなくなった。彼はひとまず同じ方向に進み続けたが、周囲の景色に気をとられ、停車している車に衝突してしまった。その後、家族に連れられて病院を受診し、脳出血と診断され、入院となった。入院中、彼は病棟内の部屋の位置を思い出せず、トイレや検査の帰り位置に自室に戻ることができず、道に迷ってしまった。
神経学的には意識清明見当識は保たれ、視界や視力に問題はなかった。運動麻痺や感覚障害も認められなかった。彼は、神経心理学的に明らかに地誌的失見当識を呈していたが、地誌以外の視覚失認や視空間失認は認められなかった。失語や失行も認めなかった。言語的エピソード記憶の障害も認められなかった。
頭部CT (4月11日) では右脳梁膨大後部から内側頭頂葉の皮質領域を含む皮質下白質に高吸収域を認めた。血管造影では明らかな異常は認めなかった。本症例の地誌的失見当識は、発症2ヶ月後にはほとんど消失した。

 

地誌的検査の結果
1. 建物や景観の再認と同定
すべての患者が、知らない建物の写真を見てその外観を正確に述べることができ、さらに複数の写真を見せた際に建物同士の違いを区別をすることができた。さらに、自宅の近くの建物や景観の写真を見せた際に、正確に同定することができた。

2. 馴染みのある建物の位置の再生
患者1は、自宅近くの地図 (道路構成) を、自宅の正確な位置を含めて詳細に描くことが可能であった。しかし彼は、自宅以外の建物については、「徒歩圏内の距離に郵便局と銀行があったはずなのですが、どこにあるのか思い出せません」と言った。彼は地図上に建物を定位することがほとんどできなかった。さらに、2地点間の経路の再生や、1地点から別地点までの方角の再生も不可能であった。
我々は、患者2に川崎市街の地図 (道路と路線のみが描かれた図) を提示した。検査者は川崎市街の主要な建物の名前 (川崎市民であればほとんどがわかるような建物) を伝え、それを地図上に定位するように命じた。すると、患者2は患者1と同様にほとんど定位ができなかった。しかし、検査者が地図上に1つの地点を描き、その地点の名前 (おそらく交差点名) を教えると、患者はその地点と同一視野内にある建物 (交差点の脇にある郵便局など) の名前と位置を再生することができた。一方、地図を見せていない状態で2地点間の経路を述べるように命じると、彼は困惑し、「まずそこから左と右、どちらの方向に行けばいいのかすらわかりません」と方向感覚の喪失を強く訴えた。
患者3は、自宅から最寄り駅までの地図を描くように命じられると、不完全ながらも地図描画および自宅や最寄り駅周辺の建物の定位ができた。しかし、彼は2地点間の経路を説明することができなかった。
全患者で、定位することができなかった建物は想像上の視野の中で左右両側に存在し、いわゆる経路説明の際の半側空間無視は認められなかった。

3. 入院した病院の内観の再生
我々は、各患者に入院した病院の内観を描くように命じた。この際、入院病室、検査室、エレベーター、浴室の位置をそれぞれ埋めていくように再構成を命じた。全患者で、いくつかの場所の誤りや省略がみられた。同検査を3週間の入院歴がある脳障害のない5人の患者に実施したが、誤りは認められなかった。

4. 空間記憶 (患者1と2で実施)
位置の記憶の検査として、まず検査室内の7個のオブジェクト (本棚、エアコン、テレビなど) をそれぞれ示し、患者にそれらのオブジェクトの名前を言うように命じた。5分後、それぞれのオブジェクトの位置を再生するように命じたところ、両患者ともに良好な成績を示した (患者1は5/7点、患者2は7/7点)。さらに、両患者は病院の窓から見えるオブジェクト (倉庫、電柱など) の名前と位置を正確に再生できた。健常な50代男性の平均成績は、検査室内の物体位置再生検査では6.7/7点、病院外の物体位置再生検査では5/5点であった。患者2に対して空間記憶スパンの検査として行ったCorsi block testでは、正常点 (7点) が得られた。

 

考察
3人の患者全員が明らかな地誌的失見当識を示した。彼らは、以前はよく知っていたはずの目的地の方向がわからなくなり、道に迷ってしまった。地誌的失見当識の原因は、地誌的失認と地誌的健忘の2つに分類される。近年、地誌的失認は2つに分類されるということが報告された。1つは、馴染みのある建物や景観の再認の障害である。そして、もう1つは物体間の空間的関係の再認の障害である。同様に、地誌的健忘は、特定の建物や景観に関する記憶の障害と、物体間の空間的関係似関する記憶の障害に分類された。
我々が報告した3人の患者は、以下のような類似した特性を示した。(1) 建物や景観の知覚は保たれており、馴染みのある建物や景観は正確に同定可能であった。(2) 1つの場所に立っている限り、目に見える範囲のオブジェクト (部屋内の家具や外の建物など) の位置を決定し、再生することができた。(3) 馴染みのあるエリア (住んでいる町や市) 内でも2つの地点間の位置関係 (一方に関する他方の向き) を再生することができなかった。(4) 患者2では、馴染みのあるエリア内のある位置に立っていることを想像した際に、そこから見渡せる範囲にある建物の名前と位置を再生することができた。
上で述べた分類に従うと、これらの患者の地誌的失見当識の原因は、建物や景観の間の空間関係に関する記憶の障害と考えられる。しかし、我々の症例の症状は、2つの離れた場所の間の方向関係の同定障害であり、厳密にいえばこうした分類とは異なっている。さらに、GrusserとLandisは、地誌的失見当識を異なった視点から、知覚型、統覚型、連合型、認知-感情型の4つに分類したが、我々の症例はこれらのどのタイプにも関連した症状を示さなかった。
一方で、異なった視点から見ると、馴染みのある区画内のある地点から別の地点まで迷わずに辿り着くためには、視野内にある身の回りの建物や景観の正確な再認と同定が必要である。また、同時に見渡すことができない広い空間内で、現在位置と目的地の間の位置関係 (目的地の方向) を再生する能力も必要である。後者は、視覚や聴覚といったいわゆる五感とは異なり、方向感覚とも呼ぶべきものかもしれない。この感覚は、長年の人生スパンを通して形成されるものである。我々の症例の地誌的失見当識は、馴染みのあるエリア内の2つの離れた場所の間の方向見当識の障害によって引き起こされており、方向感覚の障害と呼ぶべきものかもしれない。
我々の症例の損傷領域は右半球の脳梁膨大後部から内側頭頂葉に広がる皮質下白質に限局していた。我々が知る限り、同じ領域の損傷を持つ患者の報告は存在しなかったが、近い領域の損傷の報告は2例存在した。Kaseらによって報告された症例は、両側の楔前部と上部頭頂葉脳梗塞によって、一過性のBalint-Holmes症候群と持続する地誌的失見当識を示した。Bottiniらの症例は、脳梁グリオーマによる地誌的失見当識を示し、我々の症例と類似した症状を呈していた。
これら2例を除き、局所的脳障害による地誌的障害は、右半球または両側の内側側頭後頭領域によるものであり、ほとんどの症例が馴染みのある建物や景観を同定することができなかったが、馴染みのあるエリア内の2つの地点間の位置関係 (方向) を意識的に想起することができた。これらの症状は、我々の3症例とは異なる。したがって、地誌的失見当識は以下のように2つに分類できると考えられる。すなわち、(1) 右半球または両側の内側側頭後頭葉の障害による、建物や景観の知覚および記憶の障害、(2) 右半球の脳梁膨大後部から内側頭頂葉に広がる領域の障害による、広いエリア内の地点間の方向見当識の障害、である。
我々の症例で方向見当識の障害が生じたメカニズムとしては、いくつかの仮説が考えられる。頭頂連合野 (特に下頭頂小葉) はオブジェクトの空間的位置の再認や記憶に関与している。ここから、脳梁膨大後部の病変が頭頂連合野および辺縁系との連絡線維を分断したというメカニズムが考えられる。しかし、頭頂連合野の障害は視野内の物体の空間的位置の知覚の障害を引き起こすことが報告されており、我々の患者で生じた広いエリア内での方向見当識の障害とは異なっている。実のところ、頭頂連合野に限局した障害による地誌的失見当識の報告は未だ存在しない (注: 今は存在する)
一方、脳梁膨大後部領域はPapez回路を構成する線維が走行する部位である。Valensteinらは左の脳梁膨大後部の障害がエピソード記憶の前向性・逆向性障害と言語再生の障害を引き起こしたことを報告した。彼らはこの症例に対し、海馬と視床前部を結ぶPapez回路の役割を強調した。この仮説によれば、我々の症例で生じた地誌的失見当識は右半球のPapez回路の障害によって生じた記憶障害と考えられる。しかし、右半球のPapez回路構成部位 (e.g. 海馬や視床) の障害によって我々の症例と同様の症状が現れたとする報告は未だ存在せず、このような記憶回路の障害として説明するのも容易ではない。
脳梁膨大後部から楔前部にかけての領域の機能は未だはっきりとしていない。サルでの研究によれば、BA30と視覚野 (BA19)、BA30と辺縁系、BA23と頭頂葉外側面は互いに明確な関係性を持っていることが示されている。さらに、内側頭頂葉が後帯状皮質と相互結合していることも知られている。
我々は、この領域が馴染みのあるエリア内での方向見当識機能 (つまり方向感覚) に直接的に関与しており、建物や景観の再認や同定に関与する内側頭頂後頭葉と、視野内での建物の位置の知覚に関与する頭頂連合野と密接な関係性を持っていると考えている。

 

感想
本論文では、上述の3症例をまとめ、「右半球の脳梁膨大後部から内側頭頂葉に広がる領域の障害による」「広いエリア内の地点間の方向見当識の障害」「方向感覚の障害」と総括しています。この論文は、脳梁膨大後部によって起こる地誌的失見当識を詳細に検討し、他と関連付けつつも違いを明確にした報告として、非常に重要だと思われます。
Aguirreらは、この論文を引用した上で、ラットの脳梁膨大後皮質で認められたhead-direction cellsと関連付けることで、この集団の示した地誌的失見当識を"heading disorientation"と呼びました (Topographical disorientation: a synthesis and taxonomy | Brain | Oxford Academic)。彼らは同文献内でheading disorientationの病態を、”Unable to represent direction of orientation with respect to external environment.“ と表現しています。これをどう訳すか、どう理解するかは、実はけっこう難しいと思います。特に、"orientation"の訳し方がすごい難しいです。方向と訳すこともできるし、見当識と訳すこともできる。しかし、”orientation”はこの論文ではhead-direction cellsのheadingと同義として用いられています。

Studies in rodents (Chen et al., 1994) have identified a small population of cells within this area that fire only when the rat is maintaining a certain heading, or orientation within the environment.

ここから考えると、上文は「他中心的空間表現に関する自己の頭位方向の表現の障害」と訳すのが良いと思われます。厳密には、他中心的空間表現は自己の存在を含まない概念で、環境内の物体の相互位置関係の集合であることを考えると、「自己の頭位方向と他中心的空間表現の統合の障害」と言うことができると思います。そして、この障害を検出するのがまさに、Card Placing Test (CPT:「道に迷う」を分類する - ひびめも) となるわけですね。
今回紹介した論文は、このheading disorientationを「広いエリア内の地点間の方向見当識の障害」と表現したわけですが、この表現は上で述べた「自己の頭位方向と他中心的空間表現の統合の障害」という表現ともcompatibleだと思います。広いエリア内の探索行動において、現在位置から別の地点の位置を表現する際、我々はいわゆる脳内地図とも言うべき他中心的空間表現を、自身の視界の中のランドマークに基づいて適切に回転させ、目的地の方向感覚を得ています。ですから、この際行っているのはまさに、(自身の視界に基づいた) 自己の頭位方向と他中心的空間表現の統合と言えるでしょう。
1つ気になったのは、本論文で患者2に対して行った検査で、「検査者が地図上に1つの地点を描き、その地点の名前 (おそらく交差点名) を教えると、患者はその地点と同一視野内にある建物 (交差点の脇にある郵便局など) の名前と位置を再生することができた。」という点です。交差点名を与えて、その近くにある建物の名前を再生できるのはいいとして、場所を再生することができたのはちょっと不思議です。交差点周囲の建物の場所を地図上に定位するためには、その交差点周囲を特定の視点 (方向) から見た情景を意識的に想起し、それを別の方向を向いている地図と適切に関連付けるというプロセスが必要です。この際、意識的に想起した情景を地図と適切に関連付けるプロセスは、自己の (想像上の) 頭位方向と他中心的空間表現の統合を必要とするため、この患者では本来「できない」はずなのです。1つの仮説ですが、(この論文の図を貼り付けることができなかったのでわかりにくいのですが) この地図は川崎駅を地図の一番下に、その上に川崎市街を描いた構成となっており、タクシー運転手である患者は川崎駅から川崎市街に乗客を送り届けるルートを何度も通っているため、地図の向きと患者の想像した情景の向きがたまたま合っていて、たまたま正解をすることができたのかもしれません。
にしても、地誌的失見当識についてほとんど確立した考え方がなかったであろうこの時代にここまで明快な考察をしてるのほんとにすごすぎませんか...。読んでて気持ちいいくらいでした。たぶんこの論文読んでる最中は、僕の頭の中のいろんな文脈的つながりが呼び起こされて、デフォルトネットワークがビビビッとフル活動してたと思います。