ひびめも

日々のメモです

認知症を脳ネットワークの観点から理解する:前頭側頭葉変性症(FTLD)の病理・画像・臨床症状とその関連性の解析

Clinical and neuroanatomical signatures of tissue pathology in frontotemporal lobar degeneration.

Rohrer, Jonathan D., et al.

Brain 134.9 (2011): 2565-2581.

 

今日は1歳児と戯れてました。2人でアンパンマンのお話をしたり、ベビーカーで院内を冒険したりして。短い時間でしたが、仲良くなれた気がします。

でも、読んだのは認知症の論文です。

しかも、あんまりかわいくないタイプの...。

 

前頭側頭葉変性症 (FTLD: frontotemporal lobar degeneration) って、学生時代はなんとなーく「脱抑制」「常同行動」みたいなキーワードで捉えていましたが、いろいろ脳について勉強していくと、極めて多彩な症状を呈しうる症候群なんじゃないかと思えてきます。実際その通りで、その萎縮部位局在によっていろんな神経学的症候を呈することが知られていますし、さらに言うとその背景病理も多彩であることがわかっています。

今回の読んだのは、そんなFTLDを背景病理・画像所見・臨床症状という3つの観点から整理し、それぞれの関係性について解析を行うとともに、脳ネットワークの観点から病態の説明を試みる論文です。

 

背景

神経変性疾患において、その表現型と顕微鏡的病理の関係性を検討するのは、重要だが困難を伴う試みである。この試みは疾患の背景病態の理解および臨床診断への有用性につながり、最終的には疾患修飾治療の開発に寄与しうる。この考え方は前頭側頭葉変性症 (FTLD: frontotemporal lobar degeneration) にも通用する。FTLDは遺伝学的・病理学的にヘテロな疾患群の総称であり、比較的若年層での認知症の原因として一般的である。FTLDはマクロ解剖学的特徴を示す用語であり、前頭葉と側頭葉に比較的限局した萎縮を示すものを指す。この萎縮は多様な病理学的プロセスを背景としており、細胞内封入体の主要構成成分によって分類されている。具体的には、tau、TAR DNA-binding protein 43 (TDP-43)、fused-in-sarcoma (FUS) であり、それぞれFTLD-tau、FTLD-TDP、FTLD-FUSと呼ばれる。原因となる遺伝子異常も多く同定されており、microtubule-associated protein tau (MAPT) と progranulin (GRN) がその頻度的に特に重要である。FTLDの標準的な臨床症候群として、 行動障害型前頭側頭型認知症 (bvFTD: behavioral variant frontotemporal dementia)、意味性認知症 (SD: semantid dementia)、進行性非流暢性失語 (PNFA: progressive non-fluent aphasia) の3つの分類がある。これらの症候群は、運動ニューロン疾患型前頭側頭型認知症 (FTD-MND: frontotemporal dementia with motoneuron disease)、大脳皮質基底核症候群 (CBS: corticobasal syndrome)、進行性核上性麻痺症候群 (PSPS: progressive supranuclear palsy syndrome) と臨床的にオーバーラップがある。FTLDの3つの標準症候群分類には対応する脳萎縮部位があり、bvFTDは前頭葉・島・前部帯状回・側頭葉前部の萎縮を主体としており、SDは側頭葉前部・下部の限局性萎縮、PNFAは優位半球シルビウス裂周囲皮質の限局性萎縮を示す。

FTLDスペクトラムがこういった異なる解剖学的・臨床的局所性を持つ疾患群によって構成されるという概念はかなり以前から存在しており、19世紀末のArnold Pickのマクロ解剖・臨床における精力的記述や、後にPick小体と呼ばれる嗜銀性細胞内封入体の発見の時代において特に顕著であった。こういった概念が再び注目されるようになったのは、Mesulamらが1982年に原発性進行性失語症について報告したのがきっかけであった。近年、FTLDスペクトラムの各症候群は複数の大規模な脳ネットワークに帰属できるという、新たなパラダイムが提唱された。このパラダイムに従えば、FTLDの臨床症状は特定の分布を持つマクロなネットワークの崩壊として捉えることができる。しかしながら、その背景病理組織を予測できる臨床・解剖学的な定式は依然として存在せず、この疾患は限局的かつ収束的な表現型レパトアの集合が互いにオーバーラップしながら構成する複合体として捉えるべきなのではないかと考えられている。また、より根本的な問題は、他の認知症と同様に、FTLDにおける表現型の選択性と神経細胞の局所的脆弱性がどのようにして成り立っているのかというものである。孤発性および遺伝性のFTLDにおける最近の研究により、FTLDスペクトル内の特徴的な表現型にはミクロ解剖学的、分子生物学的な基盤が存在する可能性が示唆されている。さらに、近年のイムノフェノタイピングの進歩により、FTLDの病理組織的概念が変化・拡大を遂げている。

ヒト正常脳では、6つのtauアイソフォームが存在し、微小管結合ドメインの数によって3R-tauと4R-tauに分類される。MAPT遺伝子変異は、tau蓄積異常の2つのパターンに関連しており、exon 10のコーディング領域の変異 (またはexon 10のスプライシング増多) によって4R-tau神経細胞とグリアの双方に蓄積することが、そしてexon 10とは異なる部位のコーディング領域の変異によって3R-tauと4R-tauの両方が神経細胞に限局して蓄積することが、それぞれ知られている。孤発性のタウオパチー (CBDやPSPを含む) は4R-tau優位の病理を示すが、Pick小体は3R-tau優位の病理である。Non-tau FTLD病理の分類は洗練を遂げている。FTLD-TDPには、免疫組織化学染色または形態学的な根拠に基づいた2つの命名体系があり、これら2つを融合させるような病理分類体系が近年提唱された。この分類は、FTLD-TDPを4つに分類し、GRN遺伝子変異を伴う症例の一部に関連するTDP-A、FTD-MNDに関連するTDP-B、SDに関連するTDP-C、valosin-containing protein (VCP) 遺伝子変異に関連するTDP-Dを提唱している。Non-tau FTLDの中でもTDP-43病理を伴わないものは、そのほとんどがFLTD-FUSであることが判明しているが、TDPでもFUSでも説明がつかないものの中には、charged multivesicular body protein 2B (CHMP2B) 変異を伴うもの (FTLD-UPS: ubiquitin-positive, TDP-43- and FUS-negative inclusions) や、細胞内封入体を欠くものがある。この免疫組織化学・分子生物学に基づいたFTLDの広範な分類方法は、FTLDスペクトラムの表現型との関連性を評価する上で前例のない機会を提供してくれている。

今回我々は、病理学的に確定診断のついたFTLD症例の臨床的、神経心理学的、神経画像的特徴を後ろ向きに検討した。近年の免疫組織化学診断および遺伝子診断の進歩を生かした単一の神経病理学的分類プロトコルを用いて症例を分類し、MRIの統計画像解析技術を用いて神経解剖学と病理・遺伝学的疾患分類との関係性を評価した。我々の今回の目的は、ネットワークを介した神経変性という新興パラダイムの観点から、各FTLD病理の臨床的・神経解剖学的特徴を特定することである。これに関連し、FTLDの特定の分子病理は特定の脳ネットワーク障害プロファイルを示すという仮説を立て、これを検証する。

 

方法・結果

1. FTLDコホートの臨床・病理・遺伝子診断

診断フローチャートは主に下記を参考とした。

c.f.) Cairns, Nigel J., et al. "Neuropathologic diagnostic and nosologic criteria for frontotemporal lobar degeneration: consensus of the Consortium for Frontotemporal Lobar Degeneration." Acta neuropathologica 114.1 (2007): 5-22.

FTLDコホートの臨床的・神経病理学的データは下表にまとめられた通りであった。95症例のうち、90例が死後病理解剖、5例が脳生検で病理検体を採取された。95症例中42例 (44%) がtau病理を有しており、内訳はPick病 (n=13)と、MAPT mutation (n=14)、CBD (n=9)、PSP (n=6) となった (実際の遺伝子変異ではなく病理学的特徴に基づいた分類であることに注意)。48例 (48%) がTDP-43病理を有しており、TDP-A (n=25)、TDP-B (n=3)、TDP-C (n=19)、TDP-D (n=1) の内訳となった。残る5例 (5%)はFUS病理であり、内訳は非定型的FTLD-U (n=4) と神経細胞中間径フィラメント封入体病 (NIFID: neuronal intermediate filament inclusion disease) (n=1) であった。遺伝子解析ではMAPTまたはGRN遺伝子変異が22例に認められた。MAPT遺伝子変異に合致する病理学的特徴を有していた14症例 (上記) のうち、13例が病原性変異を有しており、残り1症例ではDNAサンプルが存在しなかったため解析不能であった。TDP-A症例25例のうち、DNAサンプルが存在した21症例で遺伝子解析を行い、うち9例でGRN遺伝子変異が確認された。GRN遺伝子変異陰性であった12例のTDP-A症例のうち半数は濃厚な家族歴を有していた。臨床症候群に基づいた分類では、bvFTDが47例 (49%)、SDが23例 (24%)、PFNAが10例 (11%)、PSPSが6例 (6%)、CBSが5例 (5%)、FTD-MNDが4例 (4%) であった。

アルツハイマー病 (AD: Alzheimer's disease) や脳血管疾患 (CVD: cerebrovascular disease) の共存についての定量的解析の結果、ほとんどの症例 (死後病理解剖90症例中の78例) で共存病理は確認されなかった。Braak NFT (neurofibrillary tangle) staging V以上の症例 (臨床的ADと関連) は存在せず、stage III-IV (MCIと関連) は3例であった。この3例中2例は老人斑の頻度がfrequentで、血管壁への有意なアミロイド沈着を認めた。CVD病理は4例でmoderate、3例でsevereのグレードとなった。

 

2. FTLDの臨床病型ごとに見た背景組織病理

まず、bvFTDはTDP-CおよびTDP-B (FTD-MNDと関連) を除くすべての病理で構成されていた。SD症例23例中、19例 (83%) がTDP-C病理であり、残る4例はPick病理であった。現在のSD診断基準には組み込まれていないが、失算はPick病理と関連しているように思われた (Pick病理4例中3例で失算が存在)。PNFA10例中、7例 (70%) がtau病理であり、3例がPick病理、4例がCBDであった。口腔顔面失行はtau病理のある症例でのみ認められた。CBSは5例中4例でtau病理 (CBD、PSP、MAPT mutation) がみられたが、残る1例はGRN遺伝子関連TDP-A病理であった。PSPSは6例中6例でtau病理がみられ、PSPが5例、CBDが1例であった。FTD-MNDは4例中4例でTDP-43病理であり、TDP-Bが3例、TDP-Aが1例であった。

特定の臨床症状は、FTLDスペクトラムの標準臨床病型 (bvFTD/SD/PNFA) にまたがって存在した。たとえば、行動症状は失語症候群 (SD/PNFA) の経過中にも発現し、背景病理への特異性も認められなかった。その他の共通症状として、エピソード記憶障害、遂行機能障害、失名辞 (anomia) があった。視空間認知機能障害や肢節運動失行はMAPT mutation、TDP-C、FUS病理では認められなかった。

 

3. FTLDの背景組織病理ごとに見た画像所見

病理組織分類ごとのMRI volumetryを用いた脳容積データを示す。画像データが存在したのは、Pick病 (n=9)、MAPT mutation (n=6)、CBD (n=5)、TDP-A (n=7)、TDP-C (n=12)、FUS (n=3) のみであった。

単変量ロジスティック回帰分析では、Pick病が被殻前頭葉容積低下と、左右非対称性と関連性を示した。MAPT mutationは左右対称性と、CBDは海馬・扁桃体・側頭葉容積の保存および左右対称性と関連性が認められた。TDP-C病理は被殻帯状回前頭葉容積の比較的保存と側頭葉容積の低下と関連していた。TDP-A病理は帯状回容積の低下と関連していた。

多変量解析では、Pick病が被殻容積の低下と左右非対称性、MAPT mutationが左右対称性、CBDが海馬容積の比較的保存と左右対称性、TDP-Cが側頭葉容積の低下と前頭葉容積の比較的保存と、それぞれ関連していた。

 

4. FTLDの背景組織病理ごとに見た臨床病型

4-1. Pick病

Pcik病の13例の初期臨床診断は、bvFTDが6例、SDが4例、PNFAが3例であった。Pick病病理を持つSDはTDP-C病理を持つSDと比較して失算の頻度が高かった。bvFTDとしてフォローしていた1例およびPNFAとしてフォローしていた1例のあわせて2例で、CBSと合致する非対称性の肢節運動失行がみられるようになった。パーキンソニズムは2例で見られた。Pick病では、疾患経過の後期において、特定の症状が目立つようになった。自発性発語の進行性現象 (最終的には無言に至る) は13例全員でみられ、単語理解障害もその大多数で見られた。

4-2. MAPT mutation

MAPT mutationの14例中、12例の臨床診断はbvFTDで、残り2例はCBSであった。すべてのbvFTD症例は著名な脱抑制を示し、疾患経過とともに失名辞およびエピソード記憶障害を伴う意味記憶障害を呈した。パーキンソニズムは5例で見られた。

4-3. CBD

CBDの9例は、初期には多様な臨床症候群を示した。3例はbvFTD、4例はPNFA、1例はCBS、1例はPSPSであった。しかしながら、9例中4例 (初期診断がbvFTDの1例、PNFAの2例、PSPSの1例) は、その経過中にCBSを発症した。疾患経過中、ほとんどの患者で行動障害と喚語困難がみられた。パーキンソニズムは5例でみられた。

4-4. PSP

PSPの6例中、5例がPSPS、1例がCBSであった。

4-5. TDP-A

TDP-Aの25例中、20例がbvFTD、3例がPNFA、1例がCBS、1例がFTD-MNDであった。DNAサンプルが存在した症例について、GRN変異が認められた9例と認められなかった12例を比較した。疾患経過の早期では、遂行機能障害エピソード記憶障害は両群で高頻度に認められたが、頭頂葉機能障害 (肢節運動失行、失算、視空間認知機能障害) はGRN変異群でより高頻度に認められた。類似した範囲の行動症状は両群で見られ、アパシーが最も高頻度に見られた症状であった。その他、幻覚や妄想も各群で見られた。

4-6. TDP-B

TDP-Bの3例中、3例すべてがFTD-MNDであり、疾患経過の後半にMNDの特徴が重なる行動症候群であった。すべての患者は脱抑制、アパシー、共感性の喪失、執着、強迫行動、食欲変化を示し、1人の患者は顕著な妄想を有していた。この群は、FTLDコホート全体の中で最短の予後を示した (5.2±1.0 年)。

4-7. TDP-C

TDP-Cの19例中、19例すべてがSDを示した。この群は、FTLDコホート全体の中で最長の予後を示した (12.9±2.7 年)。

4-8. TDP-D

TDP-Dは1例のみであり、DNAサンプルが存在しなかったためVCP遺伝子変異の有無はわからなかった。この患者は進行性の筋力低下を示し、49歳の時点で脊髄性筋萎縮症 (SMA: spinal muscular atrophy) と診断された。3年後には進行性の行動障害および認知障害がみられるようになった。この患者の弟も50代でSMAと診断され、妹は50代で認知症と診断されていた。母は55歳で"認知症"で死亡したという。発症6年後のフォローで行った認知機能検査では、失名辞、失読、失書、失算が認められたが、エピソード記憶や右半球機能は比較的保たれていた。この際、両側顔面筋力低下や近位筋筋力低下も認められていた。CTでは左半球に強い非対称性の脳萎縮がみられた。

4-9. FUS

FUSの5例中、5例すべてがbvFTDであった。NIFIDの病理診断となった1例は構音障害と肢節運動失行を認め、残るaFTLD-Uの4例は神経学的所見に異常を認めなかった。この群はFTLDコホートの中で最も早い発症年齢であった (45.5±4.7歳)。

 

5. FTLDの背景組織病理ごとに見た画像所見 (詳細検討)

特定の脳萎縮領域プロファイルは特定の病理と関連がみられた。前述したように、Pick病は左右非対称性で前頭側頭葉優位の萎縮と帯状回被殻の萎縮を特徴としていた。MAPT mutationは左右対称性の側頭葉優位の萎縮を示した。CBDは左右対称性のやや前頭葉優位のびまん性萎縮を示したが、個人差が大きかった。TDP-Cは左右非対称性で側頭葉に強い萎縮を示した。TDP-Aは左右非対称性で前頭葉にやや強いものの頭頂葉帯状回にまで及ぶ萎縮パターンを示し、左右非対称性はGRN変異群で強かった。FUS群のaFTLD-Uでは左右対称性で前頭葉優位だが側頭葉まで広く及ぶ萎縮がみられ、尾状核も強く萎縮していた。

FTLDにおいて画像所見が臨床所見や背景組織病理をどの程度反映しているのかを検討するため、各臨床病型分類ごとに背景病理と萎縮プロファイルの関係性を検討した。2つ以上の臨床病型で共通していた病理 (Pick病、TDP-A、CBD) について検討すると、臨床病型に関わらず一貫した特徴として、Pick病は左右非対称性の前頭側頭葉優位の萎縮と帯状回被殻の萎縮がみられ、TDP-Aは左右非対称性の前頭頭頂葉優位の萎縮と帯状回の萎縮がみられ、CBDは左右対称性でびまん性の萎縮がみられた。しかしながら、臨床病型が萎縮パターンを反映している部分も見られ、Pick病のサブグループでは側頭葉萎縮はSDで特に目立った。逆に、SDではPick病とTDP-Cの側頭葉内萎縮プロファイルは極めて類似していたが、Pick病ではより側頭葉萎縮の非対称性が強く、頭頂葉萎縮の非対称性も強かった。

さらに、病理組織ごとの萎縮プロファイルを統計学的に検討した。まず、全脳容積はTDP-Cと比較してCBDで有意に小さかった。また、左右非対称性はMAPT mutation、CBD、FUS-aFTLD-Uと比較してPick病、TDP-A、TDP-Cで有意に大きかった。前頭葉容積はMAPT mutation、TDP-Cと比較してPick病、TDP-A、FUS-aFTLD-Uで有意に小さかった。側頭葉容積はCBD、FUS-aFTLD-Uと比較してTDP-Cで有意に小さかった。海馬と扁桃体の容積はCBDと比較してPick病、MAPT mutation、TDP-Cで有意に小さかった。頭頂葉容積はTDP-Cと比較してTDP-Cで有意に小さかった。帯状回容積はTDP-Cと比較してPick病で、MAPT mutation、CBD、TDP-Cと比較してTDP-Aで有意に小さかった。尾状核容積はTDP-Cと比較してPick病、FUS-aFTLD-Uで有意に小さかった。被殻容積はMAPT mutation、CBD、TDP-A、TDP-Cと比較してPick病で有意に小さかった。

これらをまとめると、FLTDスペクトラム内で病理ごとに神経解剖学的萎縮プロファイルが異なることが示唆される。Pick病、TDP-A、TDP-Cは左右非対称性が強い。TDP-CとMAPT mutationは比較的側頭葉に限局した萎縮を示す一方で、その他の病理はより広い大脳皮質と皮質下神経核の関与を示す。

さらに詳細な検討を行うために、VBM解析 (voxel-based morphometry) を行った。画像は上が灰白質解析、下が白質解析。

健常対照と比較して、MAPT mutation、TDP-C、FUSは比較的限局した灰白質・白質萎縮プロファイルを示した。MAPT mutationでは、灰白質萎縮は左右対称性に側頭葉内側と側頭葉前下部に優位 (眼窩前頭皮質や島皮質の萎縮は軽度) で、白質の萎縮は下縦束前方と脳弓に目立った。TDP-Cでは、灰白質萎縮は左右非対称性に側頭極や側頭葉前下部に優位 (眼窩前頭皮質、島皮質や前帯状皮質の萎縮は軽度) で、白質の萎縮は下縦束、鉤状束、脳弓に目立った。FUSでは、灰白質萎縮は眼窩前頭皮質、島皮質、尾状核に目立ち、有意な白質萎縮は見られなかった。

Pick病、CBD、TDP-Aではより広範な萎縮が明らかであった。Pick病では、灰白質萎縮は左右非対称性に背外側前頭前皮質眼窩前頭皮質、島皮質、側頭葉前部、前帯状皮質被殻視床に優位 (側頭葉後部や楔前部、頭頂葉前部、尾状核の萎縮は軽度) で、白質の萎縮は下縦束前部、上縦束、脳梁に優位であった。CBDでは、灰白質萎縮は比較的左右対称に背外側前頭前皮質、島皮質、上側頭皮質、前帯状皮質尾状核に優位で、白質の萎縮は上縦束と下縦束に目立った。TDP-Aでは、灰白質萎縮は左右非対称性ながらも広範囲に認められ、背外側前頭前皮質眼窩前頭皮質、島皮質、側頭葉前部・中部・下部、前帯状皮質視床尾状核に優位 (楔前部や下頭頂皮質の萎縮は軽度) で、白質の萎縮は上縦束、下縦束、脳梁、脳幹を経由する投射経路に目立って認められた。

上記VBM解析は背景病理ごとの特徴を抽出することができたが、個々の症例のバリエーションは検討できていない。このため、FTLDコホートの個々の神経解剖学的プロファイル (萎縮プロファイル) に対して階層的クラスター解析を行うことで背景病理による分類を再現できるかどうかを確認した。個々の症例に対して、VBMを用いて (1) 前頭葉・側頭葉萎縮の不均一性 (萎縮の限局性)、(2) 側頭葉萎縮の左右非対称性、(3) 前頭葉萎縮の左右対称性、を表す3つの指標を作成した。これら3つの指標に基づく各クラスター解析で、FTLDが2つのサブグループに分割可能であった。

この各クラスター解析の結果をまとめると、下図のように、FTLDを少なくとも4つ (Pick病、MAPT、TDP-C、CBD/FUS) に分類することが可能であり、この結果はVBM解析の結果とも合致していた。Pick病は左右非対称かつ側頭葉外に広がる萎縮を、MAPTは左右対称かつ側頭葉に限局した萎縮を、TDP-Cは左右非対称かつ側頭葉に限局した萎縮を、CBD/FUSは左右対称かつ側頭葉外に広がる萎縮を持つことがわかった。TDP-Aは個人差が大きく、側頭葉外に広がる萎縮がほとんどであったが、非対称性の程度は個々の症例によってさまざまであった。今回用いた3つの指標に基づく分類は、背景病理を見分けるのには有用であったが、臨床病型を見分けるための有用性はやや劣っていた。側頭葉萎縮の非対称性はSDとbvFTD/PNFAを見分けるのに有用であったが、PNFAとbvFTDを見分けるのに有用な基準は存在しなかった。

 

考察

今回我々は、FTLDスペクトラムの大部分の病理を有する大規模コホートを用いて、臨床的および神経解剖学的特徴についてまとめた。その中で、FTLDの臨床症状・神経解剖学的特性・病理の多様性が強調されたとともに、神経解剖学的萎縮プロファイルに基づいたFTLD病理の分類フレームワークが提案された。局所解剖的または臨床症候学的な分類とは異なり、このフレームワークは病理学的に決定されたネットワークの崩壊という観点から説明される。

1. FTLDの背景病理と臨床症状の関連

臨床病型の観点から見ると、一部では特徴的な臨床症状-病理の関連性が確認された。SDとTDP-C、FTD-MNDとTDP-B、若年発症bvFTDとFUS、PSPSとPSP、といった具合である。PNFAはtau病理との関連性が最も強く、これは先行研究とも合致した。しかしながら、bvFTDの背景病理はよりヘテロであった。

同様に、特定の背景病理を持つ群の中での臨床病型の多様性が観察された。Pick病の背景病理はヘテロであり、これは先行研究と一致した。また、CBDの臨床的多様性も確認された。TDP-A病理の臨床症状は、GRN変異の有無に関わらず類似していた。

2. FTLDの背景病理と神経解剖学的特性の関連

今回、特定の背景病理を反映する単一の皮質/皮質下領域というものは存在しなかったが、萎縮部位の分布プロファイルは背景病理間で極めて異なっていた。この多様性は、VBMを用いた定量的/定性的解析、およびクラスター解析で確認された。特に重要なのは、萎縮半球の左右対称性の観点と、側頭葉限局性の観点を持ち込むことで、背景病理を分類可能であるということが示されたことである。

まず左右対称性の観点から見ていくと、MAPT mutation、CBD、FUS病理は比較的左右対称な萎縮と関連しており、Pick病、TDP-A、TDP-C病理は左右非対称な萎縮と関連していた。さらに、半球内萎縮の側頭葉限局性の観点を持ち込むと、MAPT mutationとTDP-Cは側頭葉に比較的限局した萎縮を示した。MAPT mutationは側頭葉前内側部の萎縮と関連が強かった。一方で、Pick病、TDP-A、CBDは、側頭葉外に広がるより広範囲の皮質/皮質下領域とそれらを連結する白質の関与を示した。これらの研究はすべて、先行研究と一致した。TDP-Aは症例ごとのばらつきが大きかったが、これはGRN変異の有無をはじめとした他の因子が神経解剖学的特性を修飾しているのかもしれない。CBDは臨床的・神経心理学的に左右差のある疾患と考えられているが、病理学的に証明されたCBDのみを対象とした今回の解析では明らかな左右非対称性は見られなかった。これについては、同様の結果を示した先行研究も存在する。

以上に基づき、今回我々は、「FTLD病理は萎縮プロファイルに基づき分類できる」ことを提案する。分類フレームワークは以下の通りである。

(1) 左右非対称性かつ側頭葉に限局した萎縮 → TDP-C

(2) 比較的左右対称的であるが側頭葉に限局した萎縮 → MAPT mutation

(3) 極めて左右非対称性が強く側頭葉外にも萎縮が広く分布する → Pick病・TDP-A

(4) 比較的左右対称で側頭葉外にも萎縮が広く分布する → CBD・FUS

3. FTLD病理のネットワーク特性

FTLDスペクトラムの組織病理が神経解剖学的に本当に分類可能であるならば、FTLDにおける臨床的・神経解剖学的なオーバーラップはどのようにして説明できるのだろうか?現在、少なくとも2つの相補的な考え方が存在する。1つは、bvFTDとPNFAという古典的なFTLDの臨床病型の臨床的類似性は、異なる病態生理学的・神経解剖学的メカニズムを基盤として発生した、多要素にわたりオーバーラップし合う認知機能領域の障害を反映しているという考え方である。実際、今回のFTLDコホートではbvFTDもPNFAも極めて多様な臨床的・神経解剖学的特性を示していた。2つ目は、これらの臨床病型における病理は、極めて広い灰白質領域とそれらを結ぶ白質領域を舞台として進行するためだという考え方である。とある単一領域から始まる病理プロセスと、他の領域から始まった病理プロセスは、本質的な背景病理を共通としていても、異なった臨床症候群のように見えるであろう。たとえば、右前頭葉から始まった病理はbvFTDのように見えるだろうし、左前頭葉から始まった病理はPNFAのように見えるだろう。また、より後方の皮質から始まった病理はCBSのように見えるだろう。しかしながら、もし病理プロセスが神経解剖学的に限定された領域にしか起こらないのであれば、臨床症候群はいずれ収束すると考えられる。このような臨床-解剖学的収束の考え方は、既存のエビデンスとも合致する (CBDやPick病がそのよい例であろう)。この解釈方法に基づけば、幅広い臨床症候群 (たとえばSDというヘテロな臨床症候群) の中でも、背景病理プロセスに基づいて、臨床的・解剖学的にきめ細かな分類が可能である。

神経変性疾患は大規模な神経ネットワークを舞台に起こるということが、近年ますます認知されてきている。たとえば、AD病理とnon-AD病理は異なる皮質ネットワークをターゲットとするということが知られている。しかしながら、FTLDをネットワークの視点から記述した既存の研究は、臨床症候に基づいた分類を中心としており、背景病理に基づいた分類をあまり行ってこなかった。このため、bvFTDは目的志向の社会的行動を支える前部前頭葉-皮質下ネットワーク (anterior fronto-subcortical network) の障害であるとか、PNFAはそれぞれ言語表出を支える優位半球の背側前頭葉-島-頭頂葉ネットワーク (dorsal fronto-insulo-parietal network) 、SDは言語理解を支える前部側頭葉-腹側前頭葉ネットワーク (anterior temporo-ventrofrontal network) の障害であるということが言われてきていた。これらのネットワークの障害プロファイルは、FTLD病理に基づいてもある程度の分類ができそうである。たとえば、Pick病、CBD、TDP-A、FUSではanterior fronto-subcortical networkの関与が、Pick病、CBD、TDP-Aではdorsal fronto-insulo-parietal networkの関与が、TDP-C、Pick病、MAPT mutation、TDP-Aではanterior temporo ventrofrontal networkの関与が示唆される。

最後に我々は、FTLDスペクトラムの病理が侵す脳ネットワークはある程度予測可能であるということを提案したい。これは、FTLDにおけるネットワークの崩壊パターンが病理に基づいて (少なくとも左右非対称性と半球内限局性という2つの要素によって) 分類可能であるという観察に基づいた推論である。神経変性疾患における病理の進行のメカニズムはいまだ大部分がわかっていないが、その候補となるメカニズムとして、シナプスやグリアに働く調節因子の喪失と、毒性物質の伝播、ネットワーク恒常性などが挙げられている。神経ネットワークのミクロな特性は、このようなメカニズムに対して相対的な脆弱性または抵抗性を与える可能性がある。そして、病的プロセスのマクロな発現は、原因病理とミクロなネットワーク特性との相互作用に依存すると考えられる。たとえば、bvFTDにおける局所ネットワーク崩壊に寄与するVon Economoニューロンは、tauTDP-43病理に脆弱である一方で、AD病理には抵抗性を持つ。また、GRN変異に関連したTDP-43陽性封入体は、優位半球の言語ネットワークをターゲットとすることが知られている。このような、原因病理の持つ特定の分子生物学的特性と、ミクロなネットワーク特性の相互作用によって、上記のような二分法的分割が生まれている可能性があるのだ。

 

結論

・FTLDスペクトラムでは、背景病理ごとに特定の神経ネットワーク崩壊プロファイルを有し、これが神経解剖学的、臨床的にオーバーラップした疾患群を形成している可能性が考えられた。

 

感想

面白かった!!!というかすごい勉強になった!!

考察の最後の方は部分的に意味不明だったけど、基本的な考え方は結論に書いた通りだと思うし、何よりネットワーク仮説をここまで強く支持してくれると、以降の勉強の方向付けがしやすくてすごい頼もしい!特定の病理で予測されるネットワーク崩壊プロファイルも考察で書いてくれているので、以降はこれらのネットワークの機能について勉強していけばもっと深い疾患理解ができるぞ~とうれしくなりました。明日以降はまたネットワークの勉強を頑張っていくぞ~!

ただ、この人たち、抽象的なものの書き方が大好きですね。これが神経内科ってやつなのか...。